AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
カテゴライズの難しいエフェクター
オーバードライブやディストーションなどの歪み系、ディレイやコーラスなど空間系、そしてワウやオクターバーなど、さまざまなカテゴリーに分類されるエフェクター。しかし、とりあえず「ブースター」とか「プリアンプ」などに分類されてはいるが、どうにも既存のカテゴリーに収まりきらないジャンル不明の無所属エフェクターがある。どの括りに入れてもしっくりこないが、音質の根幹に最も近い部分をかすめる素養を持ったエフェクト……Dr.Dはそれを“ニュアンス”エフェクターと定義した。サウンド作りにあとひと息の詰めが欲しい人に最適なエフェクター、18モデルをじっくり吟味してほしい。
ギターの世界には、“ニュアンス”というエッセンスが存在する。これはとても難しくて、やっかいな話だ。──しかし、どこか楽観的で、さらに何かを“諦めて”しまっている感じさえある言葉にも聞こえるから不思議だ。
弾き手が人間である限り、楽器と向き合えば相性があるのは当然だし、それがプレイに影響しないかと言えば、きっとするのだろう。しかし、多くの人がそれをただ「気持ち良い」か「気持ち良くない」でしか語れないのも事実である。もともと、言葉で表現する事自体がナンセンスなのだろうが、それでも実際に耳に届くサウンド以外に何かプラスαの表現としてついてまわるのが、この正体のわからないフィーリングという場合が多いはずだ。音楽にとって本当に必要なものなのかどうかさえ、誰も言及しようとしない。ギタリストは、いつでもそれを「まあ、聴いてみればわかるよ」と言って笑うだけだ。
よく楽器の音の話をする時に、『音の速さ』という言葉が出てくる。それは、聴覚的レスポンスやタッチ、音の密度からなるフィールが、求めるプレイの水準に達しているかの例えだが、いざそいつをレコーディングしてみると、モニターからのソースだけではよくわからないというのが実際のところだ。しかし、ひとたび防音室の扉に挟まっているケーブルを跨いで録音ブースにあるスピーカーの前に立つと、その『音の速さ』をイヤというほど感じる事がある。それが“ニュアンス”を解析するヒントになるかどうかはさておき、オシロスコープの波形には現れないもっと別の力学に基づいた話だという事だけは確かなようだ。
では、こういうのはどうだろうか。「ブルースのリードをクリーン・トーンで弾けるか?」という問いにギタリストならどう答えるのか。まあ、本来の音楽的な観点から言えば、質問にもなっていないような質問だが、ほぼ100%の否定があった後、「そんなのカッコ良くない」くらいが答えの落ち着く先か。では、なぜカッコ良くない、と感じるのか。クリーンで弾いてはいけないというルールなど無いはずだが、そこには、ギタリストの手先のテクニックだけでは補え切れない何かが存在しているようだ。“歪み”は音だが、“ブルース”は音楽だ。伝えきれないものがあってはならない。しかし、条件が揃わなければこぼれていく。自分のプレイからすり抜けていってしまう……その「失われていく感覚」の中に、伝えなければならないものの本質的な何かが含まれてしまう恐怖。それはプレイヤーとしてのアイデンティティを揺るがしかねない大問題のはずだ。
そこに生じた伝えたいものの差を量る単位が“ニュアンス”だとしたら──!
ブルースが歪んだのも、音が速い事に歓喜するのも、実は同じ話なのではなかろうか。それは、伝えたい“ニュアンス”を取りこぼさないための音楽的な進化が、プレイヤーに還元されるための止揚として生まれてはならない、という事を意味する。もっと簡単に言えば、「失ってしまうからこそ、それは“ニュアンス”と呼ばれる」という事だ。そして、ギタリストは、それが過去にあったものであるにもかかわらず、まるで今あるもののように話す……それだけの事だ。
数値にはできないそういった“ニュアンス”を何とか取り戻すためにエンジニアは苦労するだろうが、後から“ニュアンス”ばかりを積み重ねても、それが音楽にはならない事くらいはわかる。何故って? 決まっているじゃないか。それは、“ニュアンス”が「音」ではなく「エフェクト」だからだ。人が音楽と共存するための接着剤のようなものだ。音が止み、音楽とプレイヤーがまた別々の道を行く時に剥がれ落ちてなくなってしまう。それは、自然な事なのだ。音が刹那であるという事を知るギタリストの挟持にそれが適うのは、ブルースが歪む前からわかりきっていた事なのである。
だから、人は“ニュアンス”を尊ぶ。決して目には見えないそいつが、音楽のためにある喜びのエフェクトであると信じて──。
今回は、自分のサウンドにあとひと息の詰めが欲しい人に最適なエフェクター達を特集する。中にはすでにブースターやプリアンプといった既存のカテゴリーに分類されてしまっているものもないわけではないが、そのほとんどは実はジャンル不明の無所属エフェクターである。エンハンサーやフィルターでもない、あまりにもコントロールが干渉する特性が個性的すぎて、どの括りに入れても何かしっくりこない部分がある──そんなはみ出しもののエフェクターの中から、音質の根幹に最も近い部分をかすめる素養を持った“ニュアンス”を操る事のできるエフェクトを集めてみた。製品の選抜には、いつも通りデジマートの在庫にあるものを優先している。探したのはそのコントロールや帯域設定が、ピッキングのタッチやレスポンス、音そのものの密度や質感といった『感度』を司るデバイス。使い込めば使い込むほど括られたジャンルからイメージが遠ざかるのは、その使い方が本来“意図されたもの”とはズレているからだ。今回のリサーチでは、音像の構成から製作者が残した符号を解明し、その機材が存在する真の意義を暴きに行く。ひとつ足せば無限の可能性が広がる隠し味、“ニュアンス”エフェクターの世界。プレイの個性を引き立たせ、音作りの最終段階で狙った印象の音を作り出すための新たなアプローチとして役立ててもらえたら幸いである。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫がなくなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!
奇抜な発想と多角的な音質アプローチで、常にエフェクターの新しい可能性に挑戦し続けるエレハモ。一見その無謀とも思えるネーミング・センスと効果を一致させるために彼らがとり得る製造パターンには、実はきちんとした法則が存在する。“Analogizer”もその法則通り、“かつてあるエフェクトを組み合わせる”という、エフェクター使いの間ではむしろ伝統的ともいえる技法をひとつの箱に納め、効果として体現したオーガニック・フィルターの一種だ。
デジタル機器にありがちなソリッドな音質に対し、音の厚みと温かさを人工的に付加するのが目的のエフェクトで、構成としては、ゲイン・ブースター、ショート・ディレイ(3.5ms〜65ms)、ミキサーを組み合わせただけのものだ。だが、単純な合体エフェクターなどではなく、どんな設定でも目的のエフェクトがポイントを外さないようにそれぞれの帯域がわかりやすく制限され、フォーカスされたコントロールは詳細に音を作り込めるようになっているのが嬉しい。ひとえに「温かさ」と言っても当然それは擬似的なものだが、その響きにはそれだけではない、どこかルーズと言うか、音が“溶け合う”ような……何とも言えない不思議なアンビエンスが発生するのがこのエフェクトの素晴らしい点だ。レンジが広がったような錯覚と、ピッキング・レスポンスのなだらかな膨らみ、そしてわずかに付加されるデチューンを思わせるようなピッチ効果。それはただ単体機を組み合わせただけでは決して起こりえない化学反応だろう。
加えて、エレハモ独特の潰れた音質のバッファー、そして複数のエフェクトをひとつのシャシーにノック・ダウンした際味わうあの得体の知れないダイレクトなフィールが平衡的にサステインへ干渉し、歪みの中でもクリーンの中でも適度にダーティかつ奥行きのある音質を構築してくれる。個人的には、既存のデジタル音質対策よりも、むしろ、“SPREAD”の設定を10時前後にして、近年の高域再生ばかりで倍音が飽和してしまっているスピーカーのニュアンスを適度にほぐしてやるのに実に効果的だと感じた。また、歪みの中では、ノイズ・ゲート等で失われがちなダイナミクスを改善する役割も果たしてくれる。現代的な“速さ”だけを追い求める風潮に一石を投じる、揺れ戻しのワイドな解放感をぜひ味わってみて欲しい。
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エフェクター・メーカーとしては老舗の域に達するRocktron。その中でも局地的なニーズを網羅すべくラインナップされた「ブティック・シリーズ」にあって、ひときわ地味ながら、突き詰められたセンスで一部から絶大な支持を受けているのがこの“Texas Recoiler”だ。テキサス、と名の付く通り、きらびやかで繊細なシングルコイルのサウンドを、熱風のようなブルース・トーンに変化させる事を目的に作られたエフェクトだ。
基本は乾いたサウンドながら、絡み付くような独特の粘りを生むアタックが癖になる。音作りの胆になっているのは、1バンド・ミッドEQである“WINDINGS”が「レベル」ではなく、「ゲイン」のコントロールである点だ。歪みというよりはフェイズ的な“濁り”が裾を広げていく感じで、“FREQENCY”が高域に行くに従ってロールはタイトになっていく。ストラトのハーフ・トーンのニュアンスにも近いが、ジャストではなく、ピークは力強いが後を引くような厚みがあり、体積を保ったまま芯だけが増強されていくイメージだ。音の弾力とシャギーさがうまくバランスされており、あまりお目にかかった事の無いコントロール域を持つ。ハムバッカー的サウンドと言えない事は無いが、シングルコイル・ピックアップの巻き数を変えるのと、“P-90”スタイルの発色を増減する作業を同時に行なえる感覚だ。一方、低域の量を調整できる“HP FILTER”はシェルビングに近い効き方をし、強くかければビンテージ感が増す。面白いのは、この幅を大きく取ると、ロー・ミッドに中域のゲインと干渉する帯域が出てきて、味のあるうねるような勾配を呼び起こすところか。パラレルなシングル・トーンに、ハムバッカーのフロントをミックスしたような柔らかさが、レトロで地に足の着いたグルーヴ感を演出するのに向いている。
全体的に、アッシュ・ボディのギターの方が効果が顕著なので、テレキャスとハイファイ・アンプの橋渡しとして使ってみるのも面白いだろう。ちなみに、ハムバッカーで使うとかなりロー・ゲインでも中域が割れ気味になってしまうが、ピークが飛び出すギリギリの帯域にリリース・タイミングを調整できる上質なコンプを入れてやる事で、ワウ半止めよりももっと根のデリケートな甘いリードを生み出す事もできた。機材連携の経験値とアイディアが試されるものの、このデバイスを使いこなす事ができれば、ピックアップとエフェクターの新たな関係性を生み出せるに違いない。
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サウスカロライナ州コロンビアを拠点に、他とはひと味違うペダルを創造し続けるCaroline Guitar Company。“ICARUS”は、その中でも比較的シンプルにまとめられたダイナミクス系エフェクトだが、ひと括りに“ブースター”と言ってしまうにはかなり語弊がある。
確かに音量にも作用するのは間違いなのだが、その効きは一定の帯域を強調するレンジ・ブースターでもなければ、ダイレクトなゲイン・アップを狙ったものでもない。これをオンにした瞬間、まるで、よく光を反射するざらついた布を広げたような摩擦力のあるトーンが生まれ、乾いた褐色の風が吹き抜けるのだ。「クリーン」と「プレーン」の中間と評される通り、人工的なものと自然なものの両方の特性が見事に融和した“リアル”の飽和としか言い様のない、圧倒的な存在感を追加できる。特に真空管のようなオプティマイズされ切っていないローファイなドライブと組み合わせると、ゲインを稼ぐために取りこぼしたもう一段階深い位置にある静かな光沢を簡単に復活できる。これは目立たないが、本当にスゴイ事だ。中を開けてみると当然のようにオペアンプが採用されており、回路的にも歪みペダル並に吟味されているのがよくわかる。
さらに、「太陽」のマークでサウンドに付加される明度をかなり大胆にコントロールできるので、ひとつのトランジスタのみで構成されるようなシンプルなブースターでは到底カバーしきれない直接的なキャラクター変化を引き起こす事ができる。これは、通常のトーン回路のように絞ると反応までぼんやりと鈍くなってしまうタイプではなく、まるで部屋に差す光の前でドアを開け閉めするかのように、浮かび上がるサウンドの情報域を限定していくだけなので、ピッキング・レスポンスにはほとんど影響がない。よって、トータルのサウンドが完結してしまった後にも、ギター直後に置ける音質コントローラーとして重宝するはずだ。ラック機器の段積みでやせ細った音質に、現場で喝を入れるのにも最適だろう。出音は整っていて抜けも良いが、どこか奥行きがない、メリハリが利いていない……そういったシチュエーションで、通常のブースターでは届かない領域に作用する、新機軸の「質感補正」ユニットとしてシステムに加えてみると良いだろう。
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米国コロラド州などに工房を置くRockett Pedalsが作る、直感的操作の3モード複合ブースター“LEMON Aid”。その名の通り、酸味の強い音色を付加できるのが最大の特徴で、ギターの最もリリカルな部分のタッチを全面に引き出してくれるという、非常に情緒溢れる音質を持っているペダルである。
音を出してみるとすぐわかるのだが、プリアンプ要素も強い。ミドルやローは常にタイトなのにもかかわらず、高域にのみ鮮やかなピークの色づけがなされており、その差がパーティクルな爽やかさを演出するのに適しているのだろう。ただやみくもに倍音感が強いだけでなく、アタックの強弱だけで歪みの粗さを操るようなピーク・エッジの有機的な可変が、つん、とした鼻に抜けるようなディテールを強調する所に、このブランドのセンスの良さが伺える。“Boosts”スイッチが上のトレブル・ブースト時と、下のフル・ブースト時には右下の“Cut”スイッチが特に効果的で、高域の音像アシストがどの帯域を視点に谷を作るかを設定できる。これは“Tone”回路とも連動しており、双方の干渉周波数が近ければ近いほど過激な音になり、離せば間延びした音色になる設定のようだ。それを“Voice”スイッチでどれだけ高低差を持たせるかを選択できるので、自分のピッキングの強さやアンプのディレクションを見極めた上で最適なボイシング容量を送り込んでやる事をお勧めする。基本的には、ビンテージ・テイストなコンボ・アンプほど薄めにかけてやるのが鮮やかな音色を保つ秘訣だ。
そして、さらに面白いのが“Boosts”がセンター位置のクリーン・ブースト・モード──だがそれは、正確にはボリューム・ブーストと呼ぶにはあまりにも個性が過ぎている。確かに高域のブースト量は抑えてあるが、逆にロー・ミッドあたりに広く”Voice“スイッチが干渉するようになり、歪みと言えないまでも、粘りのあるサチり感が注入されるようになる。チクチクとしたハイ側のささくれ具合いと相まってこちらも実に苦みばしったクリーンだ。むしろ、果汁を垂らしたような「すっぱさ」の色彩はこちらが一番強い。こういう音色は、むしろ大人な味付けで複数のクリーンを操るジャズ・プレイヤー等に調理して欲しい。すでに自分の音を確立しているプレイヤーの隠し味的に使うのに適した、非常に玄人好みな逸品である。
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もともとは信号ルーティング・デバイスを専門で製造していたVOODOO LABらしさ全開の、システム全体の音質改善を目的とした高品位トーン・ドライバー“GIGGITY”。実際には、プリアンプというよりはマスターEQに近い構造で、ドラスティックにサウンドの芯に作用する帯域制御を目的に作られており、システムのどこに置かれるかによってもその表情を巧みに変化させられる小器用な資質を持ち合わせている。
基本の音質はややハイ上がりながら落ち着いており、余計な飽和感や作為的な押し出しも一切無く、前方に繋がれた機器の総合的な特性を上品に引き出してくれる印象だ。通常のエフェクターのように単体での鮮やかな効果は望めないが、繋ぐだけで音に整合感が増し、低域が引き締まって力強くロー・エンドが張り詰めるのがわかる。流れるようにクールなサステインと相まってどこか無機質な表情にも見えなくもないが、それだけにどんな音が入力されても邪魔になる事が無い。まるで、高級なコンソールの入力部のような密度のある再現能力こそが、その信条なのだろう。“BODY”はロー・ミッドの感度、“AIR”はハイ側のトーンというよりはむしろアンプのプレゼンス・コントロールに近い倍音の解放を操れる。このふたつは常に入力のピークに合わせて聴覚的なダイナミック・レンジを整合させるように働くので、ある程度荒っぽいピッキングでもそれを艶やかで音楽的に聴かせてしまうから凄い。
一方、全体の色調は、キャラクター・ノブ(“SUN-MOON”)で4段階に設定できる。こちらは主にゲイン・ストラクチャーがどの帯域に強く反応するかを設定できるもので、太陽側だとハイ寄り、月側だとロー寄りに感度が増し、“AIR”、“BODY”の効き具合もその設定に追従する。難しく考えず、エッジの効いた鮮やかなピークを強調したいならSUN側で“AIR”を、甘くたゆたうような音質にスポットを当てたい場合にはMOON側で“BODY”を、というように意識しておきさえすれば、後は好みの音質に中心が落ち着くまで“AIR”と“BODY”を回していくだけだ。ただ、気をつけたいのは“LOUDNESS”の効果で、これはプリアンプ自体のゲインではなく、EQの前段にかかるプリ・ゲインだという事だ。これを後からいじってしまうとせっかく整えた音質も台無しになってしまう。この部分はむしろ直前のデバイスのゲイン・ステージを補佐するくらいのイメージで、この“GIGGITY”のトーン・スタックとは分けて考えて音作りをしたい。それさえ守れば、このエフェクターは音楽そのものの優雅な広がりを育てるのにきっと貢献する事だろう。
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来年で創立10周年を迎えるPenny Pedalsは、コネチカット州ミルフォードを拠点とし、フィルター・ライクな歪みを作る事で知られるアバンギャルド・ブランド。“Radio Deluxe Lo-Fi Filter”は、チープな空洞サウンドを生み出すローファイな余韻をギターに追加できるフィルターだ。こういったタイプの機材は、過去にいくつものメーカーがチャレンジし実績を残してきた分野なので、馴染みのある人も多いだろう。
現代で言えばZ.Vex“Instant Lo-Fi Junky”等にあるように、踏めば劇的に“その音”になる強烈な効果を予想しがちだが、なんとこのメーカーのそれは、歪ませていないとセッティングによってはいったい何のフィルターなのか判別ができないほど穏やかなかかりが特徴というから驚きだ。しかし逆に、ギター特有のアタックがかなり立体的に残る中でその効果が薄く乗ってくる事により、他に無い絶妙にかすれたマッシュ・トーンをピッキング・ニュアンスに組み入れる手段として重宝されるようになったというわけだ。
そしてさらに、搭載されたコントロールを見ていくにつれ、その繊細な効きが、このメーカーの計算の元に綿密に組み上げられたサウンドである事に気付かされる。基本はローファイな輪郭に作用する“RES(レゾナンス)”を、中央のキャラクター・セレクト・スイッチ(「上」=カポカポとしたメガホンのような口腔サウンド/「中」=色づけ無し/「下」=潰れて高域と低域が極端に落ち込んだ、ベークライト・ラジオのようなサウンド)と、そのミックス深度を調節する“FILTER”をすり合わせていくだけなのだが、問題は左上の“TONE”の効き方だ。
これは普通の1バンド・トーンではなく、実はマルチ・ファンクションによるアクティブ・コントロールなのである。中央付近は非常にフラットなバンド・ワイズを備えた幅広のバンド・パス・フィルターになるように設定され、右へ回していくと次第に山がふたつに割れてハイ・パスとロー・パスがそれぞれゆっくり近付きながら、ハイは勾配がきつく、ローがなだらかになっていく。右へ回し切る付近でふたつの山が重なって発振し、ラジオの高周波音(ピーという音)に近い音を発するようになる。そして、ノブを左へ回すと、それとは全く逆の作用が起こった。これが“REZ”の効きに非常にうまく絡むようにできており、さらに、ギターのややロー寄りのミッド・フィールにも敏感に干渉してくるようになるのである。そうなってくると、当然歪みの質は変化し、ニュアンス自体が間延びしたり、奇妙に頭を抑えられたりする感覚が付加されるようになってくるはずだ。この効果は本当に面白い。これまでのガツンとかかるタイプのローファイ・フィルターではわからなかった、新たな境地と言って良いだろう。この効果は当然、セレクト・スイッチが「中」の時ほどわかりやすい。ノスタルジックなフィルターとしてサウンドの変化そのものを楽しむだけでなく、全く新しい解釈のニュアンス・エフェクトとしての顔を持ち合わせたこのデバイスに、ギター・サウンドの新しい可能性を見る事ができると言っても過言ではないはずだ。
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2013年に創業したばかりの、香港の新興エフェクト・ブランドMC Systems。デザイナーはオーストラリアの元ミュージシャン兼エンジニアで、アナログ回路上で達成した画期的なスイッチング・ギミック“V-SWITCH”──オフからオンに切り替わる時、踏む強さによってモードの切り替えを選択できる機構(内部トリムでセンサー感度を調節可能。センサーをオフにして、ノーマル・チャンネル(上)のみ有効のシンプルなオン/オフ・スイッチにする事もできる)が話題を呼んでいるメーカーだ。
“SYD String Reviver”は、ラインナップの中でもひときわ異彩を放つ個体で、弦の反応に特化したエンハンス効果を謳ったペダルだ。サウンド的には、エンハンサーというよりは、コンプレッサーに近い歪みの倍音と柔らかめのEQブースターの中間くらいの効きだろうか。少し出音にクセがあり、アタックのエッジが垂直に立つ感じが、自然にモダンな空気感をサウンドに加える素養があるようだ。“Definition”は弦の分離と単音時の倍音の量をコントロールでき、右へ回すと派手で抜けの良いサウンドになり、左だとまとまり感のある柔らかい音になる。目立ったのは、巻き弦とスチール弦の低域レスポンスが一律に揃ってきて、ハーモニックスに耳障りなピークがあまり生まれなくなった事。音がやや硬いかな、という印象がないわけではないが、総じてエフェクトがオンの時はピッキングからの強弱は付けやすく、1音以上下げてもコード・ストロークが実に軽妙に響くようになったのは収穫だった。ピークの出方が鋭いと感じたならば、“SLOPE”コントロールで、ロールを緩やかに仕込んでやると太さとエッジのバランスを調整できる。
“Definition”の効果はもちろんナイロン弦にも有効だったが、“V-SWITCH”による切り替えでは、ギター自体の持ち替えよりも、むしろ指とピックを混在して使うようなシーンにこそ効果がありそうだった。もちろん、ニュー弦を張ったばかりのギラギラした出音を抑えるのにも使えるし、もし持ち替えを行なうのであれば、弦の違いよりも、むしろホロウとソリッドによるボディ自体の響きの仕様でニュアンスの出方を組み替えたい場合に使うともっと面白い効果が得られるだろう。マニュアル通りに弦に拘らずとも、ギターである以上、「倍音」「感度」「分離」をシチュエーションに応じてピンポイントで投入したいシーンはいくらでもある。ピックアップや歪みのニュアンス操作に応用していく事で、さらなる可能性が広がりそうなエフェクターである。
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北欧の天才デザイナー、ビヨン・ユール(BJF)による新機軸のベダル“Evolution Orange Underdrive”。なんと、これを前段に繋げるだけで、アンプの歪みを軽減しクリーン・トーンを作り出せるのだと言う。構造的にはシンプルな3バンドEQと解釈して良いのだが、EQの干渉する帯域に特徴がある。特に中心の“MIDRANGE”は、やや高域側にゆるやかなロール特性を持つピーキング・タイプの400Hzを頂点に設定されている。これはギター・アンプの再生域からするとややロー・ミッド寄りの部分で、キャビネットを含めた箱鳴りの歪み特性を抑制する時に、単体のパライコの操作などでも基準となる周波数だ。ここを落ち着かせてやる事によって、確かにフェンダー・タイプのアンプならば、かなりクリーンに近い音質を、アタックの“張り”を保ったままの状態で導く事ができるようになるだろう。1チャンネル仕様のビンテージ・スタイルのアンプで、歪みを消すためにギターのボリュームを絞ると、どうしても音が暗くなって引っ込んでしまう……そういった悩みを解決するにはまさにうってつけだ。
逆に、“JMP”マーシャルのようなモダン・ドライブを持つアンプでは“TREBLE”もややカットしてやらなければならない。こちらはシェルビングに近い効きで、しかも7kHzとかなり高域ギリギリのラインに設定されているため、あまり一気にノブを回すとギターの美味しい倍音をごっそりと削り取ってしまいかねないので注意が必要だ。しかし、ギターのトーンを硬く設定し切っていなければ、逆に“MIDRANGE”を上げていけば十分にレスポンスを保ったまま丸いクランチを出力できるだろう。その音はマーシャル単体ではあまり作り得ないキャラクターで、特にレス・ポール・タイプのギターでは顕著にその特性が現れる。
こういった強い高域の歪みを持つハイ・ゲイン・アンプでは、新たなキャラクターを引き出しつつ、クリーン(半クランチ程度にしか下がらない)内でのギターの反応を殺さないサウンドの出し方ができるようになる。つまり、「クリーンを作る」以上に、このデバイスを利用する事は、ギターのタッチを鈍らせない予防線としてアンプの音色変化に何も犠牲にする事のないディレクションを提供する “帯域を均(なら)す”効果に寄与するのである。
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最も謎多きペダルのひとつとされ、使った人それぞれで効果がまるで違うというBJFE“Purple Humper”。当時わずかしか作られなかったこのペダルがOne Controlからリバイバルされた時には正直驚かされた。もともとアナウンスされていたのは、「ストラトを“ES-335”のサウンドにする」というもの。“Purple Humper”の基本は、かなり極端なAカーブ設定を持たされたミッド・ブーストと、ナチュラルなハイ・カットの組み合わせでトーンが構成されている事がすでに知られているので、確かにギターのトーンを極端に下げてフロントで弾けばシングルコイルでもそれなりに雰囲気は出るものの、さすがにこの説明では誤解を生むのも仕方が無い。むしろ、そんな使い方ではこのペダルの真に美味しい要素を隠してしまう事になりかねない。
“Purple Humper”の効果を考えるとき、まず、このひとつしかないノブに何故“BOOST”ではなく、“BLEND”という言葉をBJFが選んだかを考えなければならないだろう。12時を越えるまでのプレキシ・ライクなロー・ゲインと、330kΩ入力というエフェクターとしては意図的とも思える低めのインピーダンス入力設定が重なる事によって生まれる、聴覚的に“太い”プレーン・クランチ。そして、2時近くから急激に立ち上がってくるピーク・ステージと、それに反比例するように頭を抑えられていく中心付近のレスポンス。確かに前半はプリアンプ的に歪みの後段でブリティッシュ・テイストを付加するのに役立つのはわかるのだが、それでも、後半は積極的にドライブ・ブースターとして使用するのにはレンジ感が今ひとつなのだ。
そこで、考え方を原点に戻すとその解が見えてくる。ギターのボリュームとトーンを絞って、その分をこの12時以降のゲインで代用するように入れ替えていくと……なんと、ピックアップの反応を支える出力ピーク帯域にピタリと一致するブーストが得られる場所があるではないか! それはシングルでもハムバッカーでも同じで、パッシブの個体ならばほとんど例外無くそのクロッシング地点にさしかかると中低域のブーミーさがスッと軽減してピッキングにコシが出るようになり、「ドライブ域がペダルからアンプ側に移動したような感覚」が訪れるのである。これは、恐ろしいペダルだ。クオリティの高いチューブ・アンプで使用するという条件付きではあるが、もし、“BLEND”の正体が、ここでの解釈通り『ギターのボリュームやトーンに混ぜるように使ってみろ』という意味を持つのだとしたら、このペダルの真価は世間で風潮されているものとは次元の違う素養を持つ事になる。その検証には時間が必要だが、実際にこのペダルを買った諸兄には、それを試すだけの価値があるという事だけは伝えておこう。
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名古屋にあるJ.M.B社が主宰する、ダイナミクス系専門のハンドメイド・エフェクター・ブランドBadkey Dynamic Effector。音のニュアンスとセンシティビティをコントロールする事に執念を燃やす同社の真骨頂とも言うべきこの“Saturator”シリーズは、その名の通り、サウンドに真空管ライクな極太の飽和感を付加するエフェクターだ。“Satu”コントロールは通常のゲイン設定とは全く働きが異なり、底から沸き上がるようなハーモニックスと密度のあるコンプレッションを追加できるノブで、音そのものというよりはピッキングのダイナミクス自体にリアルなチューブ・フィールを演出できる。ある程度歪みはするが、レンジ感はむしろ拡大し、ゴツゴツとしたコシが弦のタッチにはね返ってくるようになるあたりに、完全に通常のディストーションやオーバードライブとは駆動の原理が異なっている事を伺わせる。
特筆すべきはユニティ状態でもその感覚が十二分に味わえる事。“Satu”がゼロであっても、オンにした瞬間、ピーキーな唸りとともにサステインは鞭のように跳ね、それとは対照的に音の中心はどっしりと座すようになり、むしろ丸くて暖かみのあるフィールが増すのがはっきりとわかる。そして目盛りを上げていくほどに、空間自体が震えてスピーカーにいばらのように尖った圧力が叩き付けられるようになり、歪みがピーク付近に張り付くようになってくる。今までスタック・アンプのフル・アップでしか得られなかったこの感触を、このノブひとつで、しかも小音量で味わえるのは驚異。このペダル主体で音作りをするというわけではないが、それでも今までの「アンプ・ライク」と言われるドライブ・ペダルに絶対的に足りなかったものをこの1台で確実に補えるのは大きい。エレキ・ギターの音楽的なタッチ・センスを向上させるため、絶対的に必要なエッセンスの全てがこのペダルには備わっている。もう少し値段が安ければ、ピッキングがおぼつかない初心者全てに配って歩きたいくらい、このサウンドから学ぶ所は大きいはずだ。プリアンプ、歪みユニットの後段、もしくは空間系エフェクトの前に置く事で、今まで歪みだと信じていたものがいかに「片手落ちの簡易的な暴音」だったのかがよくわかる事だろう。
ちなみに、“Saturator”には進化系の“Saturator II/BS-2”もあり、そちらは内部で原音のスルー・ミックスを行なう事でよりロー・ゲインな飽和を可能にし、さらにバッファー・スルー固定となったでプリアンプ要素の強い仕様となっている。常に踏みっぱなしで使いたいプレイヤーはこちらを使うのも良いだろう。いずれにせよ、アンプを持ち込めない小屋用の最終兵器的追加ユニットとして、ボードの片隅に常に備えておきたいペダルなのは間違いない。
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今や国内でも指折りのブティック・ペダル・ブランドに成長したShigemori。その製品群でも、ちょっと変わった使い勝手ながら、玄人好みの効果で音にうるさいユーザーから圧倒的な支持を受ける“PRE TONE”。ギター・サウンドにおいて最も重要なミッド・レンジを独自の帯域理論で2分割したEQシフターでコントロールし、レスポンスと音楽的な“鳴り”そのものにダイレクトに干渉できる優れものだ。
基本の操作は、ボリューム以外では、ハイ・ミッドに柔らかく作用する“High range”と、硬めのロー・ミッドにアジャストする“Low range”のみ。アンプをクリーンにセッティングし、ノブを全てセンターにしただけで、上品なサチュレーションにくっきりとした分離感が顔を出すようになり、さらに、コンコンする耳障りな擦過音を上手く減退させた粘りのある手応えを感じる事ができた。わざとらしいブースト感は皆無で、デフォルトでややハイ寄りな重心は自然にモダンな抜けだけが強調され、ピックアップの薄皮を剥がしたかのごとく表情が前に出てくるのが実に清々しい。これはレス・ポール等には特に相性の良いサウンドだ。そのまま“High range”を上げればかなり収まりの良いブラウン・サウンドに育っていくイメージだ。逆に削っていっても音が痩せた印象はなく、むしろ高域の倍音が自然に強調されて弦のきらびやかな特性が抜けてくる印象だった。
一方、ロー・ミッドは最初からかなり狙った帯域が意図的に削り取られており、“Low range”をフル・アップにしてもバイパス時の状態くらいにしか回復してこない。つまり、下側の設定は、Shigemori的解釈の「ギター・サウンドの感度を高めるにあたって障壁となる帯域」を制御するために働くようになっているのだろう。こちらはあまり前後の帯域に干渉しないので、大胆に動かしてもモコモコしたりする事もなく、むしろ輪郭を濃く浮かび上がらせるように動作してくれる。これらふたつのミッド・シフターは、どのような設定になっていようともアンプのキャラクターを損なう事がない上、ギターの個性をうまくシステムに馴染ませる感触を実感できるコントロールとして本当に良く考えられている。これを通せば、よく上質な歪みの条件として言われる“生で聴くとそれほど歪んではいないのに、録ってみるとしっかりとドライブしている”というあの音に、簡単に手が届くようになるだろう。ギター・サウンドの原理を追い求める者の感性に応える、真にハイエンドなペダルである。
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大阪南船場の「えふぇくたぁ工房」が運営するブランドのひとつHaTeNa?。その代名詞とも言うべき名機「Active Spice」「Spice Land」の直系機に当たるのがこの“THE SPICE”だ。元来はベース用のプリアンプ+コンプとしてのキャラクターが強かったこのシリーズだが、“THE SPICE”では、ギターやキーボードの他、あらゆるオーディオ・ラインの音像調整をも可能にするフレキシブルなスタイルへと進化を遂げている。
コントロールも相変わらず個性的で、ボリューム以外は全て複合的なマルチ・バンド構造となっており、初見では全く一筋縄ではいかない。まず、胴回りの太さと倍音に干渉しながら音の輪郭を補う“Gain”は、どちらかと言えば直接的な歪みではなく、コンプレッションによって生じる飽和を足していく感覚に近い。“Sencitivity”はそのままの「感度」であり、上げていく事で音量はそれほど変わらないのに、ハイ・ミッドが軽く持ち上がり、アタックやサステインにパンチが出てくる。小屋の音の回り方によってはかなり有効に働く事だろう。“Tight”はベースやバスドラとかぶるような低域をカットする事により、250Hz前後に瘤のように厚みを生じさせるキャラクター変更スイッチ。
そして、やはりこのモデル最大の鍵になるのは、あまりにも独創的なその“Color”コントロールに尽きるだろう。これは「コンプレッサーをはずしていく」と説明されている通り、圧縮された帯域をほぐし、広いレンジ感を蘇らせる働きをするコントローラーである。これを回しすぎると巻き弦のきらびやかなフィールが失われたり、歪みが間延びしてしまったりするが、上手く落としどころを探る事によって、生々しく音楽的な“縦”の抑揚を呼び覚ます事が可能になる。まさに音抜けのバランスを司っているセクションと言って良いだろう。こういう効きのノブは今まであまり前例がないので、お気に入りの歪みを持つアンプで、いまひとつコンプ感があざとい場合などには恐ろしいほど効果がある。特に、80年代や90年代の高級アンプをお持ちの方は、センド/リターンに繋いでみると、あの野太いドライブをモダン風なタイトかつ高速なフィールで使用する事が可能になるので、ぜひ試してみて欲しい。ただし、スラップ・スタイルのベーシストの場合だけは、“Color”に触ると一気にペシャッとした音になってしまうので、そこは操作を自制した方が無難。クラシックな機材環境で、もう一段階、機材のポテンシャルを呼び覚ますようなカンフルを注入したい場合に福音となる機材である。
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同じく、えふぇくたぁ工房の職人いっぺい氏によるプライベート・ブランド、Neotenic Soundから、“Magical Force”を紹介。「Buff」シリーズでおなじみ、ギター信号の強化に強い関心を持つこのブランドにとって、“Magical Force”は最もビルダーのこだわりが詰まったエフェクターと言える。とにかく難しい事は考えずに、“Punch(音圧)”、“Edge(輪郭)”、“Density(密度)”といった文言通りの効果を既存のサウンドに後出しで足していけるのである(“Edge”は、緩める事もできる)。特に、アンプの音量を上げていった時や、複数の空間系でアンビエントの情報が溢れてしまっている環境下で、音色のディテールが混ざりあって曖昧になる感じをピンポイントで立て直せるのは大きい。
成分的には、“Punch”と“Edge”が加算されると高域の倍音にもプレゼンス的にゲインが加わって来るので、ピークに距離ができた分、そこから生まれるザラザラとした耳障りな隙間を“Density”で底上げしてやるイメージで使うと良いだろう。優れているのはどのノブを触っても、ピッキング・ニュアンスが大きく崩れない点だ。特に、パワー・チューブの飽和感が手元に跳ね返ってくる感覚を全く妨げない所が、帯域を強制的に確保してしまう囲い込み系のダイナミクス・フィルターとはひと味違うといった印象だ。ただ、やはり“Density”を上げるとどうしてもコンプ感が付いてきてしまう印象は拭えない。サステインが生まれたり音がセンターに集まって来る感触は良いのだが、音楽的な“鳴り”を維持するためのダイナミック・レンジと、アタックに追従する歪みのロード量、タイトな低域の維持、そしてレゾナンス……“Density”の加算には、それらとの駆け引きに折り合いをつけるセンスが必要になってくる。いくら抜けの良い音が作れても、情報量の多さで音が“ズブく”なってしまっては元も子もないからだ。
圧倒的に器用な音質補正エフェクターなだけに、システムの方がその細部をフォローできないパターンは悲しすぎるので、せめてギター側のトーンやボリュームを回し切っていない状態で始めるか、 “MID”ツマミのある歪みかEQと共に使う事をお勧めしたい。
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こちらもまた、大阪南船場にあるEVA電子楽器サービス。インピーダンス・マッチングや位相のトラブルといった現代プレイヤーの悩みを、ミュージシャンによくありがちな迷信レベルでなく、本当の意味で解決する多数の個性的なデバイスを発売し、近年ではアンプの入出力部にモディファイを行なう事で何かと話題のメーカーだ。
今回取り上げる“Backing Stabilizer”は、一言で言うと「入力音量を下げた時、アンプの音質変化を最低限に抑える」ためのデバイスだ。一瞬、「?」と思う人もいるかと思う。確かに、アンプの入力音量は、例えばギターの音量を絞ってクリーンを作ったり、あるときはボリューム・ブーストをかけてリードに必要なドライブを生み出したり、というのが一般的だ。当然そこには、入力が変化する事でアンプの音色を変えられる利点を積極的に生かし、『音質変化』そのものをシステムの一部に取り入れようという意図が働いている。だが、もし、1チャンネルしかないアンプで最高の歪みが作れたとして、その音をそのまま音量だけを替えてリードでもバッキングでも使いたい場合はどうだろうか。例に漏れず、入力のレベルが変化する事により、どうしても音質の変化は避けられないのだとしたら……。そこで、入力の音量が下がったとしてもアンプのインプット・センシティビティが一定の音質を保てるようにエフェクター側で信号に補正をかけてやるのがこの“Backing Stabilizer”の役目というわけだ。
バイパス音量をリード用に設定し、バッキング時にこいつを作動させれば、見事に音量だけを下げた、リード時と全く変わらないと言って良いサウンドが飛び出してくる。これは、特に真空管アンプに言える事だが、「大きな音の方が良い音になる」という基本構造に則した音作りにきちんと適う方法なのである。一見、地味に見えるかもしれないが、この手法は非常に画期的かつシステム上で様々な応用が利く補正機能である。もちろん、本格的なアンプ・アッテネーターではないので、大容量アンプをベッド・ルームで使うような音量(もう少し大規模にアンプ音量を下げるための、センド/リターン用“Final Trimer”などもラインナップされている)にしても大丈夫かと言えばそんな事は無いが、バッキングとソロの間ぐらいの音量差による音質変化を確実に抑える場合には最適に働くように設計されている。
ちなみに、この“Backing Stabilizer”は、同程度のボリューム・アップ時にも、あらゆるブーステッド・サウンドを排した“そのままの”音量アップが可能だ。ギター信号管理のプロフェッショナルが作ったフロント・ボリューム・ソリューションによる奇跡のサウンドを、ぜひ多くの人に体感して欲しい。もし、この機能がペダル・タイプで駆動可能になったりすれば、世の中のボリューム・ペダル市場はひっくり返るに違いない。
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ハンドメイドが信条の質の高いペダルを作り続ける国産ブランド、Boot-Leg。“Deep Box”は、その彼らの音作りにかける信念と気骨が乗り移ったかのような、革新的な補正効果を持たされた傑作ペダルだ。基本構造はシンプルそのもので、裾野の広い中高域のピークEQである“HIGH MID”と、可聴域ギリギリの恐ろしく低い帯域に干渉する“SUPER LOW”という、ふたつのコントロールを搭載した2バンド・イコライザーだ。
“HIGH MID”の方は、支点となる帯域密度が濃く、上にも下にも引っ張る特性がありリニア風に効くので、実に明瞭なキャラクター変化を味わえる。しかも、耳に痛い倍音の出る範囲を上手く外してあるためか、かなりの大音量内で動かしてもレスポンスが減衰する事はなかった。通常のミッドEQは特にシングルコイルのギターとの適性が難しいところだが、このモデルはストラトなどでも十分に実用レベルで使っていける。ピッキングに独特の粘りを生むカーブ構成といい、かなり使い勝手に優れている仕様だ。そしてこの機種最大の特徴とも言うべき“SUPER LOW”は、その名の通り、地の底を這い回るような超低域をブースト/カットできるという代物だ。よくこれを使っているギタリストが「この“SUPER LOW”はアクティブ臭くて使えない」とか「あまりはっきり効かない」などと言う事を耳にする事があるが、冗談ではない。このEQは凄まじく効く。どちらもまず間違いなく再生機器側に“下”が足りていないのだ。このEQが干渉してくる底辺の20Hz前後の帯域というものを再生するには、現代のギター・サウンド用に適性を持つスピーカーでは全く役不足なのである。現代の、特にハイ・ゲイン用に開発されたギター・スピーカーは、フル・レンジという触れ込みではあっても、オーディオ・レベルではツイーターに近い構造で、低域再生には基本的に向かない。実際にギター用として低音再生に定評のあるMesa/Boogieの“Black Shadow”や、Basson等にも多く採用されたEMINENCEの“The Tonker”でも役不足感は否めないのだから、その再生域がいかに凄まじいものなのかは理解していただけるはずだ。
もちろん相性はあるのだろうが、色々試したあげく、結局、このリサーチ中では、70年代のPeaveyか、ISPのアクティブ・サブ・ウーファーくらいしかこの音を美しく再生できるギター用スピーカーに出会えなかった。ただ、Matchlessなどではレンジ感こそ届いてはいないが、確かに低域の底に芯が一本通る感じは十分に感じる事ができたのは収穫だった。もちろんベース・アンプではその限りではないが、機材を選ぶとはいえ、こういう選択肢がある事は、音作りをする上では間違いなくプラスになるはずだ。重低音に拘りのあるユーザーならば、新たな境地を切り広けるかもしれないこのデバイスを見過ごす手は無い。[この商品をデジマートで探す]
今やすっかり一流メーカーの仲間入りを果たした新進気鋭のエフェクター・ブランドChocolate Electronics。音作りというジャンルにおいて常に実践的なアイディアを発表してきたビルダーの堀野氏が考えた次なる仕様は、コントロール・システムを一切持たない斬新な拡張ユニット“Heavy Bottom”である。潔いというのか、それともその音質によほど自信があるのか……無骨な黒い箱のトップにあるのはインジケーターとフット・スイッチがひとつのみ。
低域の潤沢さを補うそのユニットは、オンにした瞬間、音量の余りの変化のなさに一瞬戸惑うが、実際にはかなり大胆にその音の構成を入れ替えてしまうのがすぐにわかった。強化されたのは低域だけでなく、輪郭、タッチ、サチュレーションがいずれもバランス良く引き上げられ、全体が引き締まりつつ質量を増す感じだ。特にブリッジ・ミュートで巻き弦を強くピッキングしたときの、“弦離れ”が抜群で、エッジの立ち方といい、70年代、80年代あたりのロックにはなくてはならない音質と言える。サステインのロールが思いのほか滑らかなので、オーバードライブよりはむしろアッパー・サウンドのファズと相性が良く、太い弦でブルース系のリードをロング・トーンで奏でるには申し分のない剛性だろう。もちろん、厚めのピックで粒の揃ったヘビー・リフをゾンゾン言わせたいユーザーにも満足のいくパワーを得られる事だろう。
大音量で弾いてみて気が付いたのだが、このエフェクトの最も素晴らしい所は、音の重心が低域にシフトしているにもかかわらずレスポンスのコアはきちんとハイ・ミッドに落ち着いていて、しかも、アンプのプレゼンス・コントロールに、高域だけではなく、普段あまり“立ち”の良くない低音の倍音が実によく反応するようになる点にあるように思う。高域の飽和が音のきらびやかさならば、低域の倍音感は歪みの感度に直結する。これがこのエフェクターの本来の狙いだったかはさておき、意識的に作る事の難しいこの目の詰まった質感をあっさりと達成してしまうあたり、さすが注目の実力派メーカーの作品だけの事はある。EQやレンジ・ブースターとはまるで違う、繋いだだけで音楽的な整合性をさりげなく格上げできるアルケミー・エフェクトの決定版として今後も重宝される事だろう。
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萌えイラストと硬派な音質とのギャップで、いつもユーザーの度肝を抜く製品をプロデュースするm.o.e. fxp。“Power Enchanter”は「音の厚み」や「体幹」を直感的にコントロールする事を目的に作られた新しいタイプの増幅系エフェクターである。ブースターに間違えられがちだが、クリッピング・ドライブに対して溶け込むようには作られておらず、むしろギターの原音に対してダイレクトに科学反応を起こすように構成されている音質は、ちょっとダーティな味付けのエンハンサーのようでもあり実に特徴的だ。
たったひとつ付けられたノブ──“MANA”は、広いダイナミック・レンジを武器に、ピッキングの特性に対して、歪み効率の下地となる倍音の量とその反応帯域を同時に増やす事のできる画期的なコントロールだ。ユニティ・ゲインはおおらかできめ細やかな圧力があり、ゆっくりとノブを回すとハイ・ミッドの密度が飽和してチリチリとしたサチュレーションを発生させる。それがやがて、12時を越えるあたりから熱っぽいロード感が追加されるようになっていき、アタックに寄り添うように音の動き出しを加速させていく様は圧巻だ。最終的には、フィードバックにも左右されない柱のような褐色の音色が視界いっぱいに覆いかぶさるように広がり、動かし難い「量感」に固定されていくのである。一方、低音は常にすっきりとしていて人工的な直進性があり、力強い押し出しに一役買っているのがわかる。
この“MANA”から生み出された音圧は、とても爽快に歪みの芯をあぶり出してくれるので、モダンでハイファイな高級アンプに音楽的なピッキングの「ノリ」を追加するのにも、古いくたびれたコンボ・アンプで、中域の雑味をデトックスするのにも役立ってくれる事だろう。水門の中に絵の具を満たすようなその分厚い音質変化は、一例を挙げれば、ディレイ等と組み合わせて使う事で残響に美しい“澱み”を追加する効果もあったりする。こんな楽しい効果で音作りをし始めたら、可能性が溢れてキリがない。ペダル・ジャンキー達にとっては、使い込みすぎると危険な中毒性をもたらしかねないので十分に注意したい。アイディア次第でまだまだ使い勝手が進化する、そんな予感がするエフェクターだ。
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宮地楽器の店員が社の全面バックアップを受けてプロデュースしたドメスティック・ブランド、FREQUENCY FREAK。もともとレコーディング・フロアにいたその店員の理想を実現したこの“2520 PRE”こそ、スタジオ定番のアウトボード・ブランド「Api」の象徴とも言うべきソリッド・ステートH.A(ヘッド・アンプ)に備わるインプット音質を、そのままストンプ・ボックスのスタイルに落とし込んだ画期的な製品だ。中には、Api製品のほとんどに採用され、そのアメリカンなサウンドの根幹を支える“2520”プリアンプ(しかもビンテージ)と同等の回路が組み込まれており、それを9VDCという低電圧環境下でもスタジオ・クラスに匹敵する音質を出せるようにするという果てしない試行錯誤の末に生み出された驚異のデバイスなのである。
その音は、硬質なヘッドルームを備えた透明感のあるサウンドで、一見色づけが少ないように見えて、ゲインが上がると鼓膜を直接圧迫するように張りつめた空気感が突き抜けてくる。狙ったのはApi特有の明度の高い“疾走感”だと言う。低域は引き締まってタイトだが、基音の抑揚は鮮やかで倍音のドライブがどんどん伸びていく“あの感じ”だ。根本的にギター・サウンドとは異なるドライで高品位なサチュレーションが直列で得られるため、ギターのフィーリングは激変する。それが伝統的なギターの音質として正しいのかは別として、そこには間違いなく、ハイ・インピーダンスとアンバランス信号によってのみ構成されてきた伝統的なローファイ歪みでは決して達成し得なかった一線を軽々と飛び越える感触があった。タッチ、フィール、レスポンス──そのどれとも違う、もっと冷淡で、圧倒的に鮮烈な“空間の光沢”に満ちあふれた音質が、スピーカーから発せられるのがはっきりとわかるのである。ハイファイというのとも何かが決定的に違う、峻厳なパワーに満ちあふれたサウンドなのだ。
この音質を楽曲上で使いこなすには、まだギターという楽器があまりにもクラシックすぎるとしか言い様が無い。だが、これは本当の意味で、新しいギター・サウンドへの挑戦である。この音質を乗りこなすギター・システムを構築すべく、21世紀のギタリストに託された課題は多い。まずはこのデバイスをペダルボードの末端に組み込んで、超クールな音質のライン・ドライバー兼D.I.(XLR端子を装備しているので、バランス出力が可能)としてこの高次元なサウンドを乗りこなす所から始めてみると良いだろう。
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音楽的な『匂い』、そしてプレイの『感度』にまつわる“ニュアンス”エフェクター特集、いかがだっただろうか? 初心者の方にとってはやや抽象的で難しかったかもしれないが、これがこのコンテンツ、「Dr.Dの機材ラビリンス」の醍醐味でもある。言葉で表現できる限りエフェクターの能力を深く解析してみたので、いつかこういった「最後の一押し」的なニュアンスが欲しくなった時に、この特集を思い出してくれたら嬉しく思う。
“ニュアンス”に訴えかけるエフェクターの歴史は意外に古い。有名な所では、その正体が知られない時代には様々な都市伝説を生んだBOSSの1バンドEQ“Spectrum(SP-1)”や、エンハンス・アウトボードの本家とも言うべきBBE“Sonic Maximizer”などがよく知られている。このジャンルのエフェクターには均一のベクトルからサウンドを組み立てようという縛りのようなものは存在せず、どれも他の効果を狙っているうちに偶然“ニュアンス”に触れる部分にコントロールが干渉してしまったパターンが多い。だが、中にはHonda sound worksの“SPICE”(なんと、箱の中はワイヤーでまっすぐ結線されているだけという、斬新極まる伝説的“エフェクター”!!)の様にビンテージ・ワイヤー特有の音質変化そのものを「エフェクター」として意図的にサウンド・コントロールに組み入れようとした例もある。それだけ、この繊細な音そのものの『感度』にまつわるコントロールについては、セオリーが存在しないのである。
ただ、現代では、“作っていてそうなった”といったスタイルは減り、どちらかと言えばそういった“ニュアンス”の発生源について、真剣にエフェクトとして向き合いたい、制御したい、製品に意図的に盛り込みたい、といった風潮が強くなってきた気がする。これは、新たなエフェクターの役割を生み出す可能性すらある、業界の未来を見据えた素晴らしい取り組みだ。まだまだ謎の部分も多いが、音の“ニュアンス”にエフェクターとして関わる王道が確立された時、ギター・サウンドは全く新しい段階に入るに違いない。そんな日がいつ訪れるのか、これからもせいぜいギターの練習をしながら楽しみに待つ事にしようと思う。
今年の『Dr.Dの機材ラビリンス』はここまで。次回は、来年1/13(水)からとなります。お楽しみに。
それでは、ちょっと気が早いですが……良いお年を!
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。