AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
ピックアップ取り付け実験
ピックアップは、その種類による違い(ハムかシングルか、どのブランドのどのモデルか)だけではなく、どうやら取り付け方によっても音が変わるらしいです。本当かどうか、試してみましょう。
■ピックアップ取り付けに関する噂
◎エドワード・ヴァン・ヘイレンは、音の好みからピックアップは直付けにこだわっている。
◎ジョー・サトリアーニは、ハウリング防止のためにピックアップの底やまわりをスポンジで埋めている。
MXRからついにシグネチャー・ドライブ・ペダルが出たことで、改めて盛り上がっているヴァン・ヘイレン。この人、よほど耳がいい人なんでしょうね(そしてきっと好奇心が旺盛なんだと思います)、デビュー当時の1978年頃、すでにピックガードが付いている改造ストラトに、ハムバッカーをわざわざダイレクト・マウントしています。取り付けも、高さ調整もピックガードから吊り下げた方が楽そうなんですが、そうしなかったんですね。以降、エディのプレイに対する注目度が高まるにつれその機材も注目され、ピックアップのダイレクト・マウントも、“音が締まりタイトになる、サステインが増す”などと、当然のように言われるようになりました。
でもさ、でもさぁ、試したことある人はいますか? 同じ条件で、マウント方法だけを変えてですよ? 恐らく、一部のメーカーやリペアマン以外では、ほとんどいないのではないでしょうか? ダイレクト・マウントのギターと吊り下げ式のギターを弾き比べても意味はないわけですよ、別の個体では。これは、地下実験室の出番だ! というわけで関係各所に「ダイレクト・マウントに変えてもいい、実験用のギター」の貸し出しを募ったのですが、一向に手が上がりません。やはり、キャビティ内とはいえ木部にネジ穴が残ってしまう、素人(私)が実験を行なって万が一途中でネジが折れたら取り返しがつかないことになる、といった様々なことが頭をよぎったのでしょう。まぁ、当然ですね。当然ですけど、しょんぼり。ここはまた、身を削るしかないというわけで私物のレス・ポール・タイプを、エスカッション・マウントからダイレクト・マウントに変えることにしました。やっちゃうぜ、俺のギターだから誰にも文句は言わせねえ、室長かっこいい(誰も言ってくれませんから、とりあえず自分で付け足しておきました)。
それと、ついでと言ってはなんですが、同じピックアップ周りの問題としてハウリング防止についても実験してみました。ジョー・サトリアーニがキャビティにスポンジを詰めてハウリングを防止しており、ポール・ギルバートもサトリアーニから教わって同じようにしているのだそうです。これが本当なら、割と誰でもすぐに実行できそうですよね? 良いネタだなぁ。こちらも試してみることにします。
■使用機材
◎ナビゲーター LS(ギター)
◎セイモア・ダンカン JB(ピックアップ)
◎ウィザード・レザー(ピックガード)
◎マーシャル JVM410H(アンプ)
◎マーシャル 1960A(キャビネット)
◎ヴァンデンハル(ケーブル)
◎アーニーボール レギュラースリンキー(弦)
◎ギブソン THIN(ピック)
◎スポンジ
※実験について
■サウンド実験については、エスカッション・マウント、ダイレクト・マウントの2種類で比較します。
■ハウリング防止実験については、エスカッション・マウント(ノーマル)、エスカッション・マウント(スポンジ詰め)、ダイレクト・マウント(ノーマル)、ダイレクト・マウント(スポンジ詰め)の4種で試してみます。
■今回はルーパーを使うわけにはいかないので、手弾きです。同じような感じで弾いてはいますが、若干のニュアンスの違いが出るのはご容赦ください。
■実験動画の最後に「まとめて聴き比べ」を用意しています。面倒な人はそこだけ見てもいいですが、できればひと通り見ていただいた方がいろいろと気付くこともあるかと思います。
まずは、エスカッション・マウントのレス・ポール・タイプの音を聴いていただきます。弾いているのは、巻き弦の質感を確かめるリフ、開放弦を含むロー・ポジションの音、中域から中高域くらいまでカバーしたフレーズ、3種です。音作りに関しては、どクリーンでも歪み過ぎても違いがわかりにくそうなので、マーシャル直で、オーバードライブ程度の歪みにしています。ま、聴いてみても特になんということもない音とフレーズですが、これを基準として次に進んでみましょう。
次に、ダイレクト・マウントの音を聴いてみましょう。サウンド・チェックの前にエスカッションを外し、ピックアップをボディに固定、事前・事後で正確に比較するためにピックアップの高さをエスカッション・マウントの時と同じに揃えます。
ダイレクト・マウントの場合、ピックアップの底面をボディに完全に密着させる方法もあるようなのですが、その方法ではピックアップの高さ調節はできません。ここではピックアップとキャビティの間にクッション代わりの硬質なスポンジ(※ホームセンターなどで購入可能)を入れ、その弾力でピックアップの高さを変えます。ピックアップ自体は、木ネジでダイレクトにボディに固定します。動画では、まるでワカメのようにグニャグニャに緩めた弦をかき分けて作業を行なっていますが、弦を外した方が作業しやすいのは言うまでもありません。横着な性格と、わずかな弦代を惜しむ心がこのような見苦しい作業を行なわせているのであり、これが動画として残るかと思うと家族が不憫ですが、仕方がないので身内には観念してもらいましょう。
で、サウンドはというと……ああ、音圧があって、ゴツゴツした感じですね。少し歪みの粒が粗いようにも思えます。サステインも長いですね。最後のチョーキングの感じを比べてみてください。この音質を「タイトで締まりがある」と表現するかは個人の感じ方次第だと思いますが、少なくとも音質が変わった、サステインが伸びたとは言えると思います。音質の変化については、私としてはラフになった、ロックっぺー感じになったと思っています。当時のロック・ギタリスト達よりさらにハードな音を望んだ若きエディが好んだのも、なんとなく納得です。
私は個人的に、このダイレクト・マウントのルックス面の不細工さがツボです。映像を見て、「やはりレス・ポール・タイプはエスカッション・マウントでなければ」と思った人がほとんどだと思いますが、私はこの不細工さにドキドキしっ放しです。た、たまらん。ええ、私の嗜好については置いておいて、次にハウリング防止実験に移りたいと思います。
ここで一度、アンプのセッティングを変えます。ハウリングの有無を確かめやすいように、より高いゲインにして、トレブルも上げてみました。レス・ポール・タイプの通常の状態、つまりエスカッション・マウントで、スポンジ類は詰めずにコードを弾いてみます。休符のたびに、ブーブー言ってますな。……いや、ちょっと待って、実はこのギター、随分前に某リペア・ショップでハウリング防止の鑞付け(ポッティング)をしてもらったはず。なんでこんなにブーブー言うんじゃ、金返せ、ブーブー!
同じくエスカッション・マウントで、ピックアップの下と周囲にスポンジを詰めてみます。ふたつのネジで吊り下げられただけの、物理的に振動しやすいピックアップを、周囲を埋めて固定するわけです。さあ、弾いてみますよ。よっ、ガウーン! おおっ、ゲインがかなり高い&アンプのすぐ横にいるためにノイズはひどいですが、先ほどのブーブー言うハウリングはなくなりました! 凄い! 簡単! これはオススメです!
ただし、動画のように不用意にマイナス・ドライバーでスポンジを詰めると、ピックアップのコイルを傷つける可能性がありますから、皆さんはもっと慎重にやってくださいね。では次に行きましょう!
続いては、ダイレクト・マウントでスポンジなしです。ただし、ピックアップの高さ調整用の、底面の細いスポンジだけは入れてあります。問題のハウリングは……これも実験3の「エスカッション・マウント&スポンジなし」で発生したような、ブーブー言う音は入りません。ボディにしっかりと直付けされている分だけ、スポンジがなくてもピックアップが無駄な振動をしないということでしょうか? ただ、もう少し高い帯域で、“ウーン”という音が少し入ります。次にコイツを消せれば良いのですが……。
最後は、ダイレクト・マウントのピックアップとキャビティの間にぎゅうぎゅうにスポンジを詰めて試してみます。指でピックアップを触ってみても、全然動きません。ハウリングは……ああ、これもブーブー言いません。ウーンもなしです。ノイズは、まぁピックアップというよりは立ち位置やアンプの問題なので仕方ないですね。
おまけとして、この状態のリアと何も処理していないフロントで切り替えてみましょう。……うわぁ、フロントは“キーキー”言ってます。スポンジ詰め、効果アリですね!
結論 ピックアップは取り付け方で音が変わる!
スポンジ詰めはハウリング防止に効果あり!
いかがでしたか、今回の実験。私としては、エスカッション・マウントとダイレクト・マウントの音の違いについてがメインの実験で、ハウリング対策はおまけ程度に考えていたのですが、意外とスポンジ作戦が使えることに驚きました。ダイレクト・マウントのルックスはあまりに無骨ですが、よりロック的なサウンド/より長いサステインが欲しい方には向きそうです。
個人的にはハイゲインで弾く機会はほとんどないので、今回の実験によってサウンド面で得ることは少ないのですが、これによって自分のギターがブサくなったことにホクホクです。あー、いいわ、これ。せっかくの素敵な革のピックガード(DIGIMARTって彫ってあるんですよ。ゴールドトップとかに超似合いそう!)も、ギターがダメなばかりに全体のバランスを崩す形になっています。でも、私的にはホクホクですわ。これをアテに、酒が飲めます。いやー、良かった。良かったですよ、今回の実験!!
それでは、次回地下23回でお会いしましょう!
【注意】
ピックアップまわりの改造や実験は、コイルを断線する危険が伴います。また本企画はダイレクト・マウントを推奨するものではございません。自ら行う際は、個人の責任において、細心の注意を払って行ってください。楽器側のダメージを含む万が一の事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承ください。
井戸沼 尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
◎井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』
◎井戸沼尚也 室長Twitter