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- 2024/11/16
バール材楽器
世にも不思議な景色が見られるバール(Burl)材。古今東西、さまざまな樹種からその杢は得られます。希少で高価取引される部位ゆえ、海外では公園や街路樹のその部分のみを狙った窃盗団も現れる始末。今回は楽器に使われることが多い樹種を中心に、その神秘かつ珍妙な杢世界をたっぷりご紹介します。どうぞバール(Bar)で熱いエスプレッソでも飲みながらご覧下さい。
バール(Burl)=木の根元などに出来た心材組織とは異なる瘤(こぶ)部分を指します。それが発生する要因についてはまだまだ解明されていない点が多いのが実情です。幹についた傷を癒すためのかさぶたのようなものだという説もあれば、バクテリアの仕業という説もあります。またそれらが複雑に絡み合った要因もあるそうです。ひと言で言うと生育異常なわけですが、“異常”と思うのは人間だけであって、木にとってみれば普通のことかもしれません。知らない方には「自然の驚異ですわ」とご紹介するのが最も適切なのではないかと思っております。発生部分については、資料写真などで見る限り、幹に対して同心円状に広がったり、片側だけにくっついたり、クロッチ部(枝分かれの付け根)を覆ったり、まったく法則性がないようにも見えます。同じ樹種だからといっても発生する部位や材をカットする角度によって、杢の見え方が大きく異なるのも特徴です。
その強インパクトな見た目から、薄くスライスされて化粧板となったり、大きいものは和室の座卓や衝立などに用いられることもあります。田舎の親戚やお蕎麦屋さんの座敷などでお馴染みのアレです。最近では朝ドラのセット中央にも鎮座していました。専門の工芸品屋さんや近所のリサイクルショップなどでもよく見かけます。ちなみに右下のモノクロ写真は昭和40年頃、タイ山中奥深い場所で撮影されたもので、現地に仕入れに行かれた銘木商によって残された貴重な記録です。木は花梨でしょうか、とてつもなく巨大なバールが幹を取り巻いています。今、山に入ってもまずこんな光景には出会えないでしょう。
代表的なバール材を集めてみました。良く知られたものから、筆者も初めて見る種まで、一挙ご紹介します。
バール材の中では、おそらくこの材の流通量がダントツに多いでしょう。何しろ上の写真でもご覧いただいたとおり、ブツがカイデー。細かく分けると本カリンとカリンがあり、“アンボイナ”という呼び方まであり、その区別は大変難しい作業です。しかしその道のプロは香りで見分けがつくそうです。こだわるならば、ある程度の出費を覚悟し、しかるべきショップに赴き、現物確認した上で納得してから購入することをオススメします。ちなみに、のど飴用のカリンはまったく別種の木なのでご注意を。
この材も大きなバールがとれます。もっとも、樹高自体が100m近い個体もあるわけですから、それに比べたらHNくそのようなものかも知れません。この材のバールはカリンのそれとよく似ており、塗装されてしまうと写真では判別がつかないものがあります。しかし、見分け方は簡単、比重が半分以下なので持つとすぐにわかります。
トチ(ホースチェスナッツ)の仲間でその実がバック(Buck=オス鹿)のアイ(Eye=眼)に似ているからこう呼ばれていると聞きました。バール材に現れる杢粒自体も眼に似ているような気がします。読み方を間違えて「バッキー」という人や、発音が良過ぎて「バッカイ」と呼ぶ人もいます。ブルーブラックのインクをこぼしてしまい、慌てて雑巾で拭いたものの、拭き取りきれなかったような色合いが特徴です。この色は自然に発色した場合だけでなく、製材後に薬品(バクテリアの類か?)で人工的に発色させることもあるようです。
世界三大銘木なれど、楽器用としてはほとんど縁がありません。バール材も同じです。どうしてなのでしょうか? はい、流通していなかったからです。ちなみにこのチーク・バールはごく最近、インドネシアの山奥で日本人バールハンターが伐り出してきたものです。バールとしては堅く、よく締まった質感で杢のバリエーションも豊富です。物量は限られますが、これからはダンスに誘われることが多くなりそうです。
ローズの中では唯一バールらしい部位が存在する種です。ただし、カリンやレッドウッドに比べたら、その量は微々たるもの、杢やサイズによっては凄まじい高金額で取引されています。杢はカリンに似ていますが、色が濃く紫がかっているのですぐに見分けがつきます。
カーリーやキルト、そしてバーズアイなど、杢のデパートのような木ですから、メイプル・バールはあまり注目されていないように感じます。バール粒がプチプチ際立ったものは珍重されますが、スライス角度によってはバーズアイの断面のようにしか見えないものもあり、木取りの難しさを実感させられます。
写真はターキッシュ・ウォルナットのバール材。クラロやブラック種でもバールは存在しますが、やはり三大銘木にあげられるヨーロッパ種の奥深さにはかないません。こちらもローズと並んで市場にはほとんど出てきません。あってもみんなコンマ数mmの突き板にされています。限られた資源を有効に使うのは仕方ないこととわかっていても、焼海苔のように薄いシート状になってしまうと木フェチとしては複雑です。
この種のバールは瘤粒が小さいことが特徴です。滑らかな木肌の縞が急に揉めはじめ、そこに突然ブツブツが溢れ出すといった感じでしょうか。表現は汚いですが、これが製品に仕上ると見事な宇宙感を有する唯一無二の存在となります。
今回セレクトの中で唯一の和材、しかも東京都産。とはいえ都心から約200km離れた御蔵島からやってきました。島桑自体が希少なのにそのバールが存在しているとはついぞ知りませんでした。下手なゴタクを並べずに、ゆっくり写真をご堪能下さい。
まとめてご紹介するのが惜しいくらいの和材レア・バールばかりを集めてみました。このクラスのバール材は工芸の世界でも大変珍重され、楽器業界にはまずまわってきませんので悪しからず。
ここからは今すぐデジマートで買えるバール楽器をご紹介します。いずれも個性の塊のような逸品・強者ぞろいです。木フェチの極み、バール楽器をご堪能ください。
Zonのショー・モデルです。トップだけでなくバックにもポプラのバール材が用いられています。粒立ち鮮やかなバール杢はまるで小動物の足跡のように見えると思ったら、しっかり "Cat’s Paw"と銘打たれていました。なんて愛らしいベースなんでしょう。価格のつき抜け具合は許してニャン♥
ベースだけにバール材を使わせるのはいかんぜよ、と言わんばかりのチョー木フェチな1本。メイプル・バールに独特のカラーリングを施すことによって、杢の陰影がMAX際立っています。この宇宙空間的なルックス、まるでバールで殴られた時のような衝撃を感じます。おまけに、ボディ・バックやネック、ヘッドのブラックリンバのワビサビ感、これもたまらんとです。
続いてはブラック・ウォルナットのバール材を用いたWarwickのスルーネック5弦ベース。オーダーツアー時に店長自ら指定されたオイル・フィニッシュ! イイデスハンソン!!! 大正解の仕上がりです。一体どんなオイルが使われているのでしょうか? くるみオイルなら完璧ですね。いやそれは冗談ですが、バール材にこってりした塗装がのると、杢の見え方が屈折してキレイに見えない場合があります。ぜひこの路線でツアー継続していただきたいものです。
こちらは池部楽器店40周年記念モデルとしてT's Guitarsが渾身プロデュースした逸品。特筆すべきはこのメイプル・バール材、見事なバランスと広がりが見てとれます。ハニーバーストの色合いも杢を最大限に活かした立体的な仕上がり。材のチョイスから始まり、製品化まで相当なエネルギーが使われたたことをヒシヒシと感じるギターです。
こちらはSago New Material Guitarsの5弦ベース。トップにはシックなカリン・バールが使われています。サーモ・アルダー・バックの色合いにとてもマッチしています。ブランド・ネームのとおり、さまざまな新しい素材、加工を探求されていて、木フェチとしても目が離せないブランドですね。
ショップオーダーによって実現したコレクターピース的ベースです。レッドウッド・バールは写真でもその立体感が激しく伝わり、実物には凹凸があるのではないかと思えるほどの出で立ちです。ピックアップ・カバーやツマミの類もバールでコーディネート。素材をいかしたナチュラルな仕上げ感も実に美しいです。
この木フェチ・セレクトコーナーには欠かせないPRS。PRSにはあまりバール材のイメージがなかったのですが、しっかりこんなモンスターを放っていました。バールとスポルティッドの共演、否、そんな生やさしいものではなく酒池肉林というか玉石混交というか、いわば全部入りなメイプル・トップ材です。ボディ・バックのフィギャード・マホガニーも反則技ですね。木フェチ・セレクション大金賞に認定させていただきます。
ドメスティック・ブランドでバール使い手No.1と言えば、間違いなくこのブランドでしょう。本数的に限られた流通の中で、こなれた価格のUSEDを見つけてしまいました。ポプラ・バールを使用した5弦ベース。アッシュ・ボディのナチュラル・カラーに合わせてキレイなアンバー・カラーに仕上げられています。36回まで分割手数料無料なのも嬉しい限り、ということは月1万ちょいでSugiのベースが買えるということですよ、お客さん! どうか早めに黄色いボタンを押してください。
今回のバール材特集に合わせたように強力な6弦ベースが入荷しています。オリーブ・アッシュ・バール、初めて見ました。アッシュにはホワイト、ブラック、ブルー、グリーン、インディゴ、パンプキンなど50種類以上のバリエーションがありますが、中には名前が確認されていないものもあるとか。バックのオバンコールも美しいです。
【メイン画像楽器提供】Y.O.Sギター工房
昨年5月に独立開業されたギター工房です。ギター製作学校で長年講師として勤務された実績と経験を活かし、カスタム・ギターの製作、高難易度のリペア、そして地域密着エンターテイメント型楽器店の運営にも協力されています。バールや変態杢大好きな吉田“先生”友樹さん主宰による、新しい形の楽器工房です。
【バール材撮影協力】島桑根杢倶楽部
東京・世田谷で家具やペン、お箸などを製作されている木工房です。レア材のストックには目を見張るものがあります。いつも頼りにしております。
【立ち木資料写真提供】株式会社山政銘木
大阪の銘木町(!)で長年銘木商を営んでおられます。社長の知識や経験はまさに木フェチの歴史そのものでもあります。自らが筆で記される銘木への名入れは、もはやアートの世界です。
静岡は菊川市で11月28・29日に開催される、その名も「菊川ハンドメイドギターショーVol.1」。きくがわ? どこよ、とおっしゃる方、菊川は東名高速で言いますと静岡と浜松の間に存在します。このイベントをきっかけに、業界不毛の地が熱いミュージックランドに変貌します。会場では新進気鋭ギター・ビルダーの新作楽器や、エフェクターなど関連機材も見て、触って、試すことができ、おまけに木まで買えます。もちろん入場無料。トップに掲載したY.O.Sギター工房カスタマイズのバックアイバール・ベースも展示予定! そして、不肖筆者が運営するFINEWOODも参戦決定。ご来ショー、お待ち申し上げております。
2015年11月28日(土)、29日(日)
会場:きくがわ楽器 〒439-0026 静岡県菊川市西横地681-1
入場:無料
オフィシャルHP:http://kikunowa-kikugawa.com/event/
今回、色々なバール材をじっくり見ることによって、改めてバールは木の神からの贈り物だなと思いました。同じものが2つとないという点において、バール材、これ以上のものはないでしょう。どういう理由でこんな杢になるのかなんて、“どうでもいいですよ”(だいたひかる風に)っていう気分です。次回は11月30日(月)更新予定。木になる情報をお届けします。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。