AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
EDEN / World Tour Pro Series
1976年の設立以来、ハイエンド・アンプ・ブランドとして確固たる地位を築き上げているエデン。同社のアンプは、クリアかつワイド・レンジなトーン、そしてパワフルな響きがロック系ベーシストから支持を集め、愛用者も多い。エデンの新看板となるモデルが、このたび新たにリリースされたWTPシリーズだ。本項ではベース・マガジン2015年11月号と連動し、先代のWTシリーズから大幅にリニューアルした本機の実力を、CrossfaithのHiroki Ikegawaによる試奏を交えて明らかにしていく。
エデンのフラッグシップ・アンプとして、1992年にリリースされたWTシリーズ。同シリーズは、“World Tour”の名を冠しているように、プロのツアリング・ミュージシャンが望む性能と耐久性を備えたモデルで、エイブラハム・ラボリエルやフィル・レッシュ(元グレイトフル・デッド)、ロス・バロリー(ジャーニー)、アストン“ファミリーマン”バレット(ザ・ウェイラーズ)などの大御所から、アーチ・エネミー、ディム・ボガー、ストーン・サワーといったヘヴィ系バンドのベーシストにまで幅広く愛用された。その看板シリーズであるWTシリーズを見直し、さらなるプロ仕様を実現したのが、World Tour ProことWTPシリーズだ。
同シリーズのフラッグシップであるWTP900は、チューブ・プリ&ソリッドステート・パワーという構成の900Wモデル。基本的なコントロールはWTシリーズを受け継いでおり、BASSとTREBLEという2EQに、LOW:30-300Hz/MID:200-2kHz/HIGH:1.2k-12kHzという3セミ・パラメトリックEQ(それぞれ±15dBでブースト&カット)を備えている。また、同社の特徴である、ローとハイをブーストし、ミドルをカットするENHANCEコントロールも搭載。幅広い音作りに対応してくれる。さらにWTP900では、プリ部に真空管による増幅段をもうひとつ増設し、ウォームな味付けから過激なオーバードライブまでを付加するTUBE MIX機能も採用している。TUBE MIXとENHANCEは専用のフット・スイッチ(オプション)でオン/オフすることもできるので、より楽曲や奏法に合わせたパフォーマンスが可能だ。さらに、WTシリーズではオートでの作動だった内蔵コンプレッサーも、AMOUNTとRATIOツマミの新設でかかり具合や圧縮率を任意に調整可能。PROを冠するだけあり、かゆいところにも手が届くコントロール構成に生まれ変わった。
帯域を分けるクロスオーバーとバランス・コントロールを備えた、バイアンプへの対応もエデンの特徴だが、WTPシリーズではそれら緊急性の低いコントロールは背面に集約。スピーカー・アウトはモノ/ステレオのモードごとに赤・緑・橙の3色でLED表示されるので、間違った接続を防止しやすいように配慮されている。まさに、プロの現場を見据えた新シリーズだ。
Specifications
●出力:ステレオ/バイアンプ・モード時=450W×2(4Ω)、ブリッジ・モード時=900W(8Ω) ●プリアンプ:12AX7×2 ●パワー・アンプ:ソリッドステート ●コントロール:インプット・ゲイン、コンプレッサー・アマウント、コンプレッサー・レシオ、チューブ・ミックス、エンハンス、ベース、ロー、ミッド、ハイ、トレブル、マスター、30~300Hz、200~2kHz、1.2~12kHz、ミュート・スイッチ、コンプレッサー・オン/オフ・スイッチ、チューブ・オン/オフ・スイッチ、エンハンス・スイッチ ●リア・パネル:バランス、DI出力ヴォリューム、XOVERコントロール、ブリッジ/ステレオ・モード切り替えスイッチ、サイクル、グラウンド・リフト・スイッチ、XOVER(バイアンプ)オン/オフ・スイッチ、プリ/ポスト切り替えスイッチ ●入出力:スピーカー・アウト(L)×2、スピーカー・アウト(R)×2、AUXイン、ヘッドフォン・アウト、アウトプット(LR)、ステレオ・センド/リターン(L)、ステレオ・センド/リターン(R)、プリ・センド/リターン、チューナー・アウト、フット・スイッチ入力DIアウト ●本体寸法:430(W)×400(D)×88(H)mm ●重量:15.5kg
●価格:245,000円(税別)
ここからプロ・ベーシストによる試奏コメントをお届けしたい。全世界を舞台に戦うバンド、CrossfaithのベーシストであるHiroki Ikegawaが評する、WTP900の実力とは?
ライブハウスはもちろん、2万人の前でもガンガン戦えるアンプ
──WTP900の第一印象をお願いします。
エデンのアンプは、UKツアーのときに現地で用意したWT800を使ったことがあるんですが、それとの比較で言うと、まずトーンをフラットにしたときの印象はWT800のほうがパリッとした感じで、このWTP900はもっとドシッと来る感じですね。そのうえで細かい音作りができるっていうのが、どちらにも共通したエデンのアンプの印象です。
──EQはセミ・パラメトリック式の部分もあり、一見複雑ですが、操作性についてはいかがですか?
普段はパライコ・タイプのアンプはあまり使わないんですけど、音作りはそれほど苦労しませんでしたね。欲しいところや削りたいところを下のツマミ(LOW/MID/HIGH)で少しいじり、上のツマミ(それらに対応する周波数帯域選択)でちょうど良い帯域を探していくっていう感じがわかりやすいんじゃないかな。これにプラスして、BASSとTREBLEというコントロールもあるんですけど、バンドで必要なサウンドや自分が欲しいトーンをLOW/MID/HIGHの3つのツマミで細かく作り込んで、それをBASSでなじませたりTREBLEで押し出したりするっていうイメージですかね。それぞれ設定してある周波数帯域が違うし、その役割もハッキリしている。使いやすいトーンですよ。ビギナーでも、こういうトーン構成のアンプを使っていれば、どこをどういじればトーンが変わるかもわかってくるし、自分のベース・サウンドがより明確にわかってくると思います。
──それに加えて、ローとハイを持ち上げ、ミドルをカットするENHANCEコントロールもエデンの特徴です。
ENHANCEはかなり効果が強いトーンですね。ドンシャリ的に効くトーンなんですけど、上げればかなりロックな音になるし、Crossfaithみたいなラウドロックだとこういうトーンはすごく重要だったりします。ほかのトーンとのバランスはもちろん必要ですけど、ベースの存在感を出すにはすごく便利ですね。
──WTP900の新機能、TUBE MIXについてはいかがですか?
TUBE MIXコントロールは歪みが増すツマミなんですけど、聴いた印象ではきらびやかな部分が増えるというか、音が派手になっていくというイメージです。僕はだいたい12時ぐらいの設定が気に入りましたけど、もっと上げれば“ベースを聴いてくれ!”っていうぐらい目立たせることもできますね。もちろん、控えめの設定にしてもベースらしい太さがあってカッコイイですし、音が前に出てくる印象があります。このTUBE MIXやENHANCEはフット・スイッチでオン/オフできるのもいいですね。音の出方がかなり変わるので、僕だったらベースを目立たせたい部分などでブースター的にTUBE MIXのサウンドをオンにする、みたいな使い方をすると思います。ロックだけじゃなく、意外といろいろな音楽で使える機能だと思います。それと、個人的に良いなと思ったのは、コンプレッサーですね。コンプ自体はWT800でもオートのものが搭載されていたんですけど、このWTP900はコンプのかかり具合を決めるAMOUNTと、圧縮率を決めるRATIOというふたつで設定できるようになっているのは大きいです。普段はコンパクト・エフェクターでコンプをかけているんですけど、このコンプもすごくナチュラルで気に入りました。ベース1本だけでOKっていうのはいいですよね。
──そのほか、WT800との違いで気になった部分などはありますか?
バイアンプのクロスオーバー・コントロールは背面に移りましたけど、実際あのツマミをリアルタイムで触ることはないので全然問題ないですし、そのぶん欲しかったコンプのコントロールとかが充実しているのは、ありがたいです。あとは、スピーカー・ケーブルのアウトプットが緑や赤で光るっていうのもおもしろいアイディアです。このぐらいのワット数のアンプを使うとなると、それなりに大きな会場になると思うんですけど、そのときの暗いバックステージでも接続のミスがないようにっていう配慮は、すごく考えられていると思います。
──Hirokiさんは5弦ベースの5~2弦部分(ローB~D)を4弦ベースに張って使っていますが、音作りでのこだわりは何ですか?
昔は、わかりやすいぐらいドンシャリっていうセッティングだったんですけど、最近はローBの低音はもちろん、そのうえでいかにサウンドを揺らすことができるかっていうのを大事にしています。そのためには、やっぱりベースのラインがしっかり見えるっていうのは大事で、ミドルの設定にはこだわっていますね。それと、フェスのメイン・ステージとかの大きな会場だと、中音(ステージ上の音)はそれほど外音(PAスピーカーから会場に流れる音)に影響しないんですけど、ライブハウスぐらいの規模になると、アンプでの音作りっていうのが外音にも通ずるところがある。そういう、外音との兼ね合いの面でもミドルへの意識っていうのが変わってきましたね。そういう意味で、このWTP900はミドルの音作りもしやすかったですし、パワーもあるからライブハウスとかで使ってもうまく外音と馴染んでくれそうなイメージがありますね。
──最後に、WTP900はどんなベーシストにオススメですか?
エデンのアンプは、とにかく音の立ち上がりが速くて、パキッと出てくる印象があります。ワイド・レンジでローもよく出るんですけど、それだけじゃなくてタッチもしっかり出るっていうのが、フュージョン系のベーシストとかにも人気なんだと思います。それに加えてパワー感もあるし、自分の音を作り込めるので、骨太なロックでも使っている人が多いんでしょうね。使う人やジャンルを選ばないアンプですよ。ライブハウスでももちろん使えるアンプですけど、例えば2万人の前でベースをバーンと鳴らすんなら、このぐらいの出力は欲しいって、ベーシストなら誰でも思うはずですし、そういうステージでもガンガン戦っていけるアンプという意味で、プロっていう名前がついたのはよくわかりますね。
汎用性に優れた600W出力モデル
600W出力モデル。コントロール/入出力系統はWTP900と共通で、5バンドEQやチューブ・ミックス、かかり具合(アマウント)と圧縮率(レシオ)を調整可能なコンプレッサーなどはもちろん搭載。ステレオ・パワー・アンプのWTP900と違い、モノラル・パワー・アンプ仕様となっているため、バイアンプ機能はライン出力にのみ対応している。
価格:170,000円(税別)
宅録にオススメのプリアンプのみのWTP
WTPシリーズのプリアンプ部のみを抜き出したのが本機。コントロールや入出力はWTP900、WTP600と同じで、WTPならではの機能を手軽に楽しむことができる。お気に入りのパワー・アンプを持っているこだわり派や、宅録でWTPシリーズを活用したい人などにはオススメの1台だ。AUXインやヘッドフォン・アウトは、自宅練習などの際に重宝するだろう。
価格:130,000円(税別)
本記事はリットーミュージック刊『ベース・マガジン2015年11月号』の中でより詳しく紹介されています。EDENブランド・ディレクターのルーク・グリーンへのインタビュー記事など、ここではお見せできなかった情報もありますので、興味のある人は是非チェックしてみて下さい。
Hiroki Ikegawa
ヒロキイケガワ●1990年生まれ、兵庫県宝塚市出身。高校生のときにベースを手にし、ザ・ユーズドのジェフ・ハワードなどに影響を受ける。Crossfaithは2006年に大阪にて結成され、2009年にデビュー。エレクトロの要素を導入したメタルコア・サウンドが大きな話題を呼ぶ。これまでにヴァンズ・ワープド・ツアーUS、同UK、SOUNDWAVE FESTIVAL、レディング&リーズ・フェスティバルへの参加など、海外での活動も精力的に行なっている。今年9月、メジャー・レーベル移籍後初となるフル・アルバム『XENO』を発表。同作はアメリカ、カナダ、EU、オーストラリアなどでもリリースされた。