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- 2024/11/16
RME Babyface Pro オーディオ・インターフェース&ダイナミック/コンデンサー・マイク
第17回のコラム『アコギのハイレゾ録音にもおすすめ! RME Babyface Pro&コンデンサー・マイク』で、話題のオーディオ・インターフェース、RME Babyface Proと、いくつかのコンデンサー・マイクの魅力を紹介させて頂きました。今回は、Babyface Proのオーディオ・インターフェースとしての実力に迫るべく、実機をお借りしていくつかのマイクを使って、実際にアコギの音をハイレゾ・レコーディングしてみました。ぜひ、音源をダウンロードして、そのサウンドを体験してみて下さい。
以前のコラムでも、簡単にご紹介させて頂きましたが、RME Babyface Proは、小型/軽量のオーディオ・インターフェースで、24bit/192kHzまでAD/DAすることが可能です。背面にはXLR端子の入出力が2ch分、側面にはライン/インストゥルメント端子(ミニ・ジャック)が付き、4ch分のアナログ入力端子が設けられています。またオプティカル端子にADATコンバーターを接続すれば、最大12イン/12アウトまで拡張でき、これ1台で様々なレコーディングに対応することが可能です。XLR入力のch1/ch2には、高性能なマイクプリも備わり、ファンタム電源の供給も可能です。ch3/ch4は、エレキギターやベースなどのハイ・インピーダンスの楽器や、シンセサイザーなどのライン・レベルの機器をそのまま接続することもできます。さらにMIDIの入出力にも対応しています。何より可搬性に優れるので、宅録やライブ・レコーディングなどにはとても重宝すると思います。
音質にも非常にこだわって開発されています。RMEの業務用インターフェース同様のAD/DAチップを使い、デジタル/アナログ部問わず新たにデザインすることで、以前のBabyface以上の音質を実現しています。同社の独自技術であるジッターを抑制する技術“SteadyClock”も使われ、より音質に気を配った設計になっています。今回の録音でも、その実力を遺憾なく発揮してくれました。
録音する際のレベルのコントロールも、本体の大きなエンコーダーを使って直感的に操作でき、一度やり方を覚えてしまえば、手軽に操作することができます。もちろん便利な付属のソフト『TotalMix FX』とも連動します。『TotalMix FX』は、デジタル・コンソールにも匹敵するほどの充実した機能が盛り込まれ、3-bandのパラメトリックEQ、ローカット、オートレベル、MS処理、位相反転などをch毎に設定することもできます。さらにすべてのサンプリングレートで使用可能なリバーブ/エコーも付属しています。今回も、このソフトを使ってレベルの調整などを行ないましたが、フェーダーも見やすく、初心者からプロまで使いやすいソフトウェア・ミキサーです。
Babyface Proへの給電は、音質に配慮されたUSBバスパワーで行なうことができるため、野外での使用などにも重宝します。今回の録音でもこのUSBバスパワーを使用しています。ただし外部電源での使用も考慮され、12VのDCアダプターでも動作可能です。
今回はレコーディングで使用しましたが、その高音質な設計はハイレゾを聴くDACとしても高く評価されています。出力がXLR端子になるため、一般的なアンプに接続する場合はRCA端子へと変換する必要がありますが、録音もリスニングも楽しみたいユーザーには、コストパフォーマンスも含め、お薦めしたい製品です。
今回の企画は、恵比寿にあるプロ・ユースのレコーディング・スタジオ“ABSレコーディング”で行ないました。またアコギ好きにはお馴染みの石川鷹彦氏のレコーディングなども手掛けている、プロのレコーディング・エンジニア、深尾浩太郎氏にもご協力を頂き、合計5本のマイクを使って録音しています。マイクのセッティングは深尾氏にお願いしましたが、マイクごとに大きな変更はせず、すべて基本的な立て方で録音しています。
オーディオ・インターフェースには、もちろんRMEのBabyface Proを使い、各マイクと直結してモノラル録音を行なっています。マイクプリ、ファンタム電源の供給もBabyface Proのみの使用です。DAWには今回『Logic Pro』を使用しています。ビット/サンプリングレートは、24bit/96kHzに設定して録音しました。先述したように、Babyface Proは24bit/192kHzまでレコーディングできますが、今回はより幅広いUSB DACでも楽しめるように96kHzを選択しています。
ギターの演奏は、ボディをパーカッシブに叩く奏法でも注目される、ソロ・ギタリストの松井祐貴氏にお願いしました。彼が手にしているギターは、長野県に工房を構えるベテラン・ルシアーの横山正氏が製作する、Yokoyama Guitars(ヨコヤマギターズ)のカスタム・モデル(松井祐貴カスタム・モデル/通称:Aqua)です。トップには上質なシトカ・スプルース、サイド/バックにはアクアティンバー・マホガニーが使われています。アコースティック・ギターの木材については、デジマート・マガジンの連載コラム『木材〜トーンウッドの知られざる世界』を参考にしてみて下さい。独特のピックガードも印象的ですね。さらにサンライズのピックアップがマウントされていますが、今回はマイクでの生音のみを録音しています。
試奏で弾いて頂いたフレーズは、短いですが勢いのあるアコースティック・ギターのカッティングが心地良く響き、ボディ・ヒッティングもあるため、かなり広いレンジが奏でられています。そのサウンドが、それぞれのマイクによってどのように集音されているかも聴き所です。録音は、マイク毎にクリックを使わずに一発録りしているため、各音源には多少のバラツキがありますが、ほぼ同じ秒数かつアタック感もバラツキが少ないように演奏して頂けました。録音もスムーズで、その辺りは「さすがプロ!」と思わず唸ってしまいました。そんな松井氏は来年1月6日に最新アルバム『Passage of Time』を発売予定です。興味を持った方は、
録音した音源は音量を整えたのみで、エフェクト処理も行なっていないピュアな状態です。それ故、レンジも広く集音され、CDなどの音質を聴き慣れていると、やや特定の帯域がキツく聴こえる場合もあるかもしれませんが、それだけしっかりと録音できているということでもあります。今回の録音後、各音源を聴き比べましたが、ハッキリとわかるほど、各マイクで音質に違いが表れました。それだけ、RMEのBabyface Proがしっかりと録音できているということだと思います。エンジニアの深尾氏からも、現場で使えるという評価を頂きました。それが10万円を切る値段で購入できるということが、一昔前のレコーディング機器を知っていると、ただただ驚くばかりです。アコギのようなチャンネル数が少なくても済む録音には、とてもコストパフォーマンスの高いオーディオ・インターフェースだと思います。
今回はシンプルなセッティングでアコギを録音しましたが、より詳しいアコギのレコーディングについては、11月にシンコーミュージックから発売される予定の『アコースティック・ギター・ブック』の別冊で書かせて頂きました。マルチ・マイクでのアコギのレコーディングや異なるビットレート/サンプリングレートでは、どのように音質が異なるかなどを検証しています。
ソロ・ギターのようなアコギ1本での録音では、あまり使われることのないダイナミック・マイクによる録音を試みてみました。使ったマイクは、定番マイクのひとつシュアのBeta 57A、さらに最近エンジニアの方にも評判のテレフンケンのM81です。どちらも、使いどころが多いマイクなので、宅録ユーザーは持っていれば、何かと使いどころのあるモデルです。ちなみにダイナミック・マイクがアコギの録音にあまり使われないのは、コンデンサー・マイクに比べ、レンジが狭いことが大きな理由に挙げられます。しかし、バンドの中で弾くアコギなどの集音では、後のミックス時にその方が役立つこともあります。頭ごなしにアコギの録音=コンデンサー・マイクと決めつけることなく、この音源を参考にぜひ試してみて下さい。
シュアのBeta 57は、楽器録音のド定番マイクであるSM57をベースに生み出されたマイクです。SM57よりも高域特性に優れ、ゲインも高いため、女性ボーカルが使うこともライブなどでは目にします。今回録音した音を試聴すると、コンデンサーに比べレンジは狭いですが、まとまりのあるサウンドが集音されていました。 ただし、倍音感やレンジなどはコンデンサー・マイクに比べるとやや劣り、ギターそのものの音を目立たせたい録音では、コンデンサーを使うのがお薦めです。バンドものの録音などで使う際には、押し出しの強いサウンドが効果を発揮しそうです。ちなみに現在は、Beta 57Aという型番で売られ、若干の仕様変更が行なわれているようです。
「今回使ったマイクの中では、一番レンジ感は狭いように感じます。ただ同じダイナミックのM81よりもハイ寄りのサウンドで、アコギの生音に近いような音の印象も受けました。これは好みの問題もあるかもしれないですね。パームとかの音もしっかりと拾えているので、アコースティック・ギターの音を耳で聴いている自然な音にも近い感じだと思います。ただシュアのサウンドは、聴き慣れているせいもあるかもしれないですね」
ドイツの老舗ブランド、テレフンケンの商標を2001年に取得し設立された、テレフンケン・エレクトロアコースティックが手掛けるダイナミック・マイクです。シュアのようにボーカルやドラムに向いたM80、そしてエレキギターやパーカッションの録音に適したM81等のダイナミック・マイクほか、ハイエンドのコンデンサー・マイクまで発売しています。このM81は、ダイナミック・マイクながら、コンデンサー・マイクに肉薄するような自然なレンジ感で録音できました。音がまとまるダイナミックさもありながら、コンデンサーのようなレンジの広さも備えるバランス感があります。マイクを複数使えるならば、ぜひ1本加えて使ってみたくなるようなマイクに仕上がっています。
「コンデンサーとは違って、少し暖かみの感じられる音の印象だと思います。ハイも抑え気味ではあると思います。それにローも、あまり出てはいないんだけど、しっかりとした芯がある音に聴こえますね。コンデンサーよりも、演奏に勢いを感じる、まさに“ダイナミック”というような、まとまり感みたいなものがあると思います。使いどころ次第で、すごく威力を発揮しそうです。同じダイナミックですが、シュアよりもレンジが広い印象を受けました」
コンデンサー・マイクはダイナミック・マイクと比べ、広いレンジが録音できるため、アコギや生楽器の集音に向いていると言われます。またコンデンサー・マイクは、ファンタム電源を使うのも特徴です。多くのレコーディング現場で使われているノイマンをはじめ、求めやすいモデルから100万円以上もするようなハイエンドなマイクまで、数多く販売されています。それだけ選択肢が広いので、初めて購入する方は何を買えば良いか迷ってしまいますね。そういった場合は、マイク等を幅広く扱う専門店に足を運び、予算とどんな音を集音したいかを伝え、アドバイスをもらうのがお薦めです。ギターのように試奏するというわけにもいかないので、1本を選ぶのが難しい機器でもあります。今回は、アコギの録音には定番のコストパフォーマンスに優れたAKG C451Bをはじめ、3本のコンデンサー・マイクを試してみました。特にMiktekのCV4は、専用電源+チューブ内蔵のマイクということもあり、5本の中ではとりわけ異色の音質で録音できています。
アコギやハイハット、ドラムのトップなどに立てるマイクの定番として使われているのが、AKGのC451Bです。小型/軽量のペン・タイプのコンデンサー・マイクで耐久性も高いため、コンデンサー・マイクの中では、扱いやすさも大きな魅力です。最大音圧レベルは135dBあり、3段切り替え式のローカット・フィルターも付いています。音質はとても自然な印象で、やや中高域に特徴があり、ソロギターのような音楽には相性が良さそうな感触を受けました。コンデンサー・マイクの中では求めやすく、最初の1本にもお薦めです。
「最新作もこれを使って録音しているんですが、このマイクは僕が聴いた感じ、生音に近い印象があります。それと、一般的なマイクでパーカッシブな演奏を録ると、ボディ内の共鳴音が“ボワァン”と入ってくる印象があるんですね。それがほとんどなく、タイトな音で集音できるので気に入っています。弦の鳴りもしっかりと再現してくれていますしね。ただ少しだけ低域が弱いのかなって思いますけど、それも低域が出過ぎることなく、パーカッシブな演奏を拾うのには適しているのかなって思います」
アメリカのテネシー州ナッシュビルで、ハンドメイドで製作されているラージ・ダイアフラムを採用したコンデンサー・マイクがMiktekのCV4です。内部には真空管が内蔵され、専用電源で動作します。真空管には、NOSのテレフンケンEF800が使われています。また9つの指向性が選べるのも大きな特徴と言えます。真空管が使われているためノイズは乗りますが、ミッド・レンジがふくよかな個性的な音で集音できます。原音に忠実という傾向ではなく、暖かみのあるサウンドを得たい時には効果を発揮します。
「これはかなりハイ寄りなのが意外でした。レンジ感には、若干の偏りがあるように感じます。ただ何よりも、空間で弾いている感じがすごく伝わってくるサウンドが印象的です。弾き語りの方が、スタジオで一発録りとかをする時には、その空気感が出やすいマイクだと思います。明らかに他のマイクとは違っていて、使ったことのないタイプですね。このサウンドはすごく面白いと思ったので、この雰囲気を生かした曲を作ってみたいですね」
イヤフォン/ヘッドフォン・メーカーとしても人気の高いオーディオテクニカは、マイクにも力を入れています。AT5045は、同社のフラッグシップ・シリーズのモデルで、大型の長方形ユニットが搭載された単一指向性のバックエレクトレット・コンデンサー・マイクです。弦楽器など、倍音成分を多く含んだ楽器の録音にも最適で、空気感や奥行きも感じられる音質が魅力です。今回録音したサウンドでは、5本の中でもトップ・クラスにレンジが広く感じられ、ギターの倍音成分が豊かに再現されていました。特に高域は、その傾向が顕著に感じられると思います。
「集音できるレンジはすごく凄く広いと思いました。特に中音域の膨らみが豊かに感じますね。C451Bに比べると、音の分離も良いように感じます。だから音が見えやすいというか、どのように弾いているかを感じとりやすい繊細な音で録れているように感じます。生音と比べると、少しハイの部分が抑えられているような印象は受けましたが、他のマイクに比べると音が繊細な分だけ、レンジが広く録れているように感じられるのかもしれないですね。倍音感もすごく感じられるサウンドだと思いました」
「今回、様々なマイクで同じ録音をしてみて、マイクを替えるだけでこれだけ音質が変わるんだということを改めて感じました。マイクで音を作るような個性的なマイクもありましたし。僕の演奏スタイルには、C451Bが合っていると思いますが、他の方のスタイルには違ったマイクの方が合う場合もあると思います。あとは音の好みも大きいと思うので、マイク選びはすごく重要ですね。それを感じるほどの録音が手軽にできるRMEのオーディオ・インターフェースは、家でレコーディングする時にも使ってみたいですね。
今回ハイレゾで録音しましたが、いつもレコーディングでは24bit/96kHzで録っているんですね。やはりCDになると、特に倍音感が変わったように感じるので、ハイレゾをリリースはしていないですが、チャレンジしてみたいなとは思います。よりアコギのリアルな音が伝わってほしいですね」
「今回、何も特別なことをせずにマイクの違いをハッキリと感じられる音で録音できていたので、RME Babyface Proは、すごく高い水準で作られているオーディオ・インターフェースだと思います。これだけハッキリと違いがわかるということは、ヘッドアンプやAD/DAが優れている証明になっていると思います。マイクをただ繋いで録っただけの音ですが、すごく使えるレベルの音で録音できていて、それにびっくりしました。業務機と比べても、近いレベルにあり、プロ用途にも使えると思います。ソロギターとか、少ないチャンネルで生音を録音するのには向いていますし、持ち運びにも便利なのでライブのレコーディングにも最適ではないでしょうか。
それと今回録音したマイクの中では、テレフンケンのダイナミック・マイクM81が、個人的にすごく気になりました。これはコンデンサー・マイクと併用して、音に芯を出したい時にとても効果的なダイナミック・マイクだと思いますよ」
今回は、RMEの小型オーディオ・インターフェースであるBabyface Proを使い、5本のマイクでアコギの音をハイレゾ録音しましたが、その魅力を感じて頂けましたでしょうか? 音源を聴き直した限り、各マイクの特徴がハッキリと感じられ、Babyface Proのクオリティの高さを実感することができると思います。ぜひハイレゾで聴いてその音質を体験し、そのクオリティを実感して頂きつつ、オーディオ・インターフェースやマイク選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。ビット/サンプリングレートが上がれば、演奏者の繊細なテクニックはもちろん、録音に使う機器の特徴も表れやすくなるのかもしれません。逆に言えばハイレゾ音源こそ、ミュージシャンやエンジニアの録音へのこだわりが、よりリスナーに伝わりやすい音源と言えると思います。それではまた次回!
価格:オープン
松井祐貴(まつい・ゆうき)
ギターをパーカッションのように叩き、リズムを繰り出しながら同時にコードとメロディを奏でる奏法を得意とし、その演奏動画が『YouTube』で話題になり、一躍注目を浴びる。そのテクニックもさることながら、洗練された作曲能力やオープン・チューニングを駆使した、独自のカバー・アレンジ曲などにより、世界中から絶賛。現在動画再生数は、1,000万回を超える。中国、香港、台湾、韓国などの海外ツアーを成功させるなど、今後も世界での活躍が期待されている。
◎松井祐貴オフィシャルサイト
3rd Album『Passage of Time』
2016年1月6日 発売予定
ABSOLUTE RECORDS/YZAB-10803
菊池真平(きくち・しんぺい)
音楽雑誌「Player」、オーディオ誌を発行するステレオサウンド社で「Beat Sound」、「Digi Fi」の編集に携わった後に独立。現在はフリーランスで、ヴィンテージ・ギター関連書籍/ギターに関する雑誌等に、編集/ライターとして携わる。国内外のミュージシャンへのインタビュー等も多数行っている。