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- 2024/11/16
周波数実験
今回は、“電源周波数の違いによってギターの音はどう変わるのか?”という実験です。東日本と西日本では周波数が違う、というのは皆さんもよくご存知ですよね? それでは同じ演奏環境を作った場合、両者で音も違うのでしょうか? そんな疑問も湧きますね。というわけで、実験してみました。
■周波数にまつわる噂
東日本と西日本では周波数が違うので、同じ機材を使っても音が違う
えー、我々が普段コンセントからとっている電力は電力会社から購入しているわけですが、この電気は交流といってプラスとマイナスが1秒間に何十回も入れ変わっております。それが周波数と呼ばれるもので、50回入れ替わる場合は50Hz、60回の場合は60Hzとなります。ちなみに電池の場合はこの入れ替わりがなく、直流と言います。……と、いかにも何かを見ながら書いているような地下実験室っぽくない書き出しですが、最初にそこ、はっきりしとこうと思いまして。へへ、へへへ(卑屈笑い)。
で、こっからが問題なのですが、日本は東と西で、この周波数が違うというF●ckin'な事実があります。もっと言うと糸魚川静岡構造線というところを境に周波数が違うそうです。なんでかは、私に聞かないでください。オーディオ・マニアの間では、この周波数の違いによって、つまり“糸魚川静岡構造線のあっちゃとこっちゃで音が違う!”というのは、ある種の常識だそうです。
ほー。なら、ギターとデラリバを担いで行って大阪と東京で弾き比べはどうだろう、とデジマート・マガジン編集長W氏に相談したところ、「いっすね室長、自費で!」といつも通りの明快なお答え。しかし、この企画もボツかとうなだれている私に、W氏が「出張せずとも周波数を変える実験はできますよ」と言うではありませんか!
よくよく聞けば、人気コラム「Dr.Dの機材ラビリンス」でお馴染みの今井靖氏が、電源レギュレーター(アイソレーション・レギュレーター)CSE FX-1200という周波数を変えられる機器をお持ちで、それを貸してくださるとか。いや〜、いつも「Dr.Dの機材ラビリンス」での機材に対する知識の深さに驚いているわけですが(あと、あの強烈な文章にも)、そんなもんまで個人で持ってるんですか? 恐るべし、Dr.D……。というわけで、ご厚意に甘えてCSE FX-1200をお借りし、擬似・糸魚川静岡構造線越え実験、スタートです!
■使用機材
◎フェンダーUSA アメリカン・スタンダード・ストラトキャスター(ギター)
◎フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
◎マーシャル JVM410H(アンプ)
◎マーシャル 1960A(キャビネット)
◎プロビデンス S101(ケーブル)
◎t.c.electronic Ditto X2(ルーパー)
◎ヴァンデンハル(ケーブル)
◎ダダリオ EXL110(弦)
◎ギブソン THIN(ピック)
◎YAMAHA YTC5(クリップチューナー)
◎CSE FX-1200(アイソレーション・レギュレーター)
※セッティングについて
■音色の違いがわかりやすそうなシンプルなフレーズをルーパーに入れ、同じ音源、同じセッティングで、周波数だけを変えて音の違いを確認します。
■アンプの状態は、フェンダー(クリーン)、マーシャル(クリーン)、マーシャル(歪み)の3種類です。
■周波数は、壁直(50Hzのはず)、CSE FX-1200を使った50Hz、CSE FX-1200を使った60Hz、そして、おまけとしてCSE FX-1200で変えられる周波数の限界である400Hzです。アンプ本体に加えて、ルーパーも同じ周波数の電源を使用しています。
■動画の最後に、「まとめて聴き比べ」を収録しています。できればモニター用のヘッドフォン/イヤフォンを着用の上、聴き比べてください。
画面中央にある巨大な黒い物体、これがCSE FX-1200です。でかいだけでなく、メチャクチャ重くて、テーブルの上に乗せるのに難儀しました。改めて言いますが、これを個人で所有しているDr.D、恐るべし……。まずはこれをあえて使わずに、壁直の音からチェックしていきます。この地下実験室は都内某所にありますので、東日本50Hzの普通の音をまず聴いてください。フレーズは、ストラトの巻弦のニュアンスが聴きとりやすいよう低音弦でゴニョゴニョやって、それから低音弦〜高音弦までのんびり上っていき、頂上でよっこらしょっという感じで伸ばしています。
壁直50Hzフェンダー・アンプ、クリーン。普通だ。あまりにも普通ですね。次はCSE FX-1200を通した50Hzです。CSE FX-1200には“電源を安定化させる”力があるそうなので(それがどんなものかは私に聞かないでください)、試してみましょう。あれ? これ……音がパワフルになっていますね。冒頭の巻弦のフレーズで比べてもらうと違いがわかるかと思います。これはCSE FX-1200がすごいのか、東京●力がク●なのかはわかりませんが、音は明らかに違います。続いて周波数60Hzでチェック! 疑似環境ですが、これが西日本の人が聴いているフェンダー・サウンドということになるかと思います。
「ここは関西弁で紹介を!」というカンペに応えきれないダメな私……。西日本の皆様、すみません……そもそも私、東北出身なもので西の言葉がよくわかっていません。生涯の夢のひとつが西日本の女性に「堪忍しておくんなはれ」と言っていただくことなんですが、まったくどうでもいいですね。
で、サウンドですが、ん? うーん、私には、CSE FX-1200/50Hzに比べるとわずかにパワフルになったように感じます。違いはうっすらですが、わかりました。ちなみにフェンダーの故郷、アメリカは60Hzですから、西日本にて120Vに昇圧した音が、純正フェンダー・サウンドということになるかと思います。では、次にマーシャルで試してみましょう。
続いて、マーシャルで試してみます。これ以上、東●電力に毒づいても仕方がないので、ここでは壁直は省き、CSE FX-1200/50Hzから始めます。今回は巨大な箱の向こうで、ルーパーのスイッチをポチッとするだけなので、いつも以上に絵ヅラが間抜けですがご容赦ください。では、ポチッ! はい、ストラト+マーシャルのクリーンですね。それしか言いようがありません。続いて西日本仕様、60Hzでチェックします。うわぁ……、紹介部分が恥ずかし過ぎて、音聴き逃しちゃったよ。もう1回、ちゃんと聴こう。ふむふむ、私には60Hzの方が“アタックが尖って”聴こえます。
マーシャルで歪ませて、同じように試してみましょう。まずは歪みの50Hz。普通のストラト+マーシャルのクランチですね。続いて、60Hzでは“押し出しが強い”感じがします。ここまで、総じて私は60Hzの方がパワフルに聴こえました。60Hzの方が好みです。いいなぁ、西日本の人。ちなみにマーシャルの故郷、イギリスは50Hzですから、本来の音に近いのは50Hzのはずです。
最後におまけ。このCSE FX-1200はなんと周波数を400Hzにまで上げられるそうです。せっかくだから、それもやっちゃいましょう。ちなみに400Hzというのは、航空機なんかで使われるそうです。へえ(詳しいことは私には聞かないでください)。それでは400Hzの歪みサウンドをチェックしてみましょう。なんか、ルーパーの音を入力する前から、高域のノイズが出てますね……。で、そのサウンドは……うわ、こりゃダメだ。歪みの粒が荒く、音が奥に引っ込んでいます。使えねーな。皆さんも飛行機の中でエレキギターは弾かないように!
結論 電源周波数の違いによってギターの音は変わるが、周波数は上げりゃいいってもんでもない
実は今回、実験室助手にデータを分析してもらっています(おまえがやれよと言わないで♡)。ここまでは、私が実際に弾いた感覚(プラス動画で見直した、私個人の感想)を述べていますが、なにせ電気のことがよくわかっていないで電気ギターを弾いている馬鹿者の言うことですので、あてになりません(言っちゃった♡)。そこで5弦Aのハーモニックスを各アンプ/各周波数で録音した音声データからFFT(ピークホールド)を起こし、私よりはるかに詳しい助手、もといライターの長谷鉄弘さんに分析・解説していただきました。
ピュア(アナログ)オーディオの世界では、“電源周波数が50Hz(静岡県富士川より東側の地域)と60Hz(西側の地域)では同じ機器でも再生音が違ってくる”といったことがよく語られます。科学的にも、ある電気製品が内蔵する電源トランスがまったく同じであれば、駆動電源の周波数が高いほど変圧効率が高くなることがわかっており、(インバータを内蔵しない)冷蔵庫や扇風機を60Hz地域から50Hz地域に持ち込むと出力が下がるのは、これがおもな原因と考えられています。
しかし、現代の技術で作られた50/60Hz両対応型オーディオ機器であっても、人の耳にそれとわかるような音の違いが生じるでしょうか? さらに、それがもともと大容量の電源トランスを搭載する高級ギター・アンプであったなら? このような疑問を検証するのが今回の実験であることはすでに室長が述べましたが、ここではスペクトラム・アナライザという“機械の耳”を借り、結果を詳細に解析してみましょう。
まず、フェンダー・アンプを壁面コンセント50Hz(1-a)、安定化電源を介した50Hz(1-b)、安定化電源を介した60Hz(1-c)で動かした時のデータを比べると、(1-a)より(1-b)の方がほぼ全域における音圧レベルが上がっており、電源品質が上がった結果、アンプの増幅効率が高まったことがわかります。
さらに(1-b)と(1-c)を比べると、100〜200Hz辺りの“谷間”が平らに均され、3kHz以上の音圧レベルがわずかに上がりました。ひとまずは、これを電源周波数の変化が本アンプに与える影響と受け取って良さそうです。
次に、マーシャル・アンプで安定化電源の周波数を変化させた(2-a)〜(2-d)を見てみましょう。このケースでは、電源周波数=50Hzに比べて60Hzの方が600Hz〜1.6kHz辺りの音圧レベルが上がったのに対し、140Hz付近の落ち込みがより大きくなるという面白い結果が出ました。電源周波数を高くすればするほど全域で音圧レベルが上がるかというと、話はそう簡単ではなく、アンプによってはむしろ下がる帯域も出てくるようです。
最後に、航空機で用いられる400Hz電源でマーシャル・アンプを動かした(3)と(2-c)(2-d)を比べたところ、なんと全域で音圧レベルが下がってしまいました。ギター・アンプにおいては、やはりエンジニアが設計時に想定した周波数に近い電源を用いるのが良さそうですね。
うおー! ちゃんとしてる! ちゃんとしているよ、地下実験室が! ありがたや、ありがたや。今回はDr.Dにオンブ、長谷さんにダッコという感じですが、おかげさまで“周波数によって音が変わる”ということは検証できたかと思います。ただし、これはあくまでも実験であり、音楽そのものと直接関係するものではありません(それを構成する要素の、ごくごく、ごく一部です)。できる限り細かいところまで目配りしつつ、全体を見た時に「ストラップの長さはどのくらいがかっこいいか?」の方が大事なことだってありますから、早まって引っ越しなどしないでくださいね!
それでは次回、地下21階でお会いしましょう!
井戸沼 尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
◎井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』