AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
オーバードライブ/ディストーション/ファズ
「歪み」はギタリストにとってゴールのない永遠のテーマのようなものだ。名機と呼ばれる歪み系ペダルはいくつも存在するが、それらをすべて揃えたとしても決して完結してはくれない。それはプレイヤーだけでなく、エフェクター・ビルダーにとっても同じことなのだ。理想の歪みを求めて、あらゆる角度からペダルを検証し、構築することをやめないビルダー達……Dr.Dは、そんな高い志を持った海外の“ブティック・ペダル・メーカー”にスポットを当てた。21世紀以降に立ち上げられた新興ブティック・メーカーが生み出したオーバードライブ/ディストーション/ファズ、21機種をじっくりと検証して欲しい。
音楽が薄まってはいないか?
一つの機材への愛着が薄れている──そんなとりとめもない不安が脳裏を過るようになったのは何時からだろう。そう、少なくとも昔ほど、今の自分の機材を使い込んではいないような気がする。
愛着は練度である。関わった時間である。その時間が音を向上させ、どんな現場においても揺るぎない信頼と対処を与えてくれることを我々は骨身に沁みて知っているはずだ。この動きの後で音が出なかった時は、きっといつものあそこがはずれている……あのスイッチは力いっぱい押さなきゃダメだ……ノイズが入るのは大丈夫だけど、この横のところが熱くなったらアウト……このジャックは捻るように挿すのがコツなんだよな……。長年苦楽を共にしてきた“アイツ等”のことなら何でも知っていた。
他の奴らじゃ使いこなせない。自分だけだ。こんなに“アイツ等”を使ってやれるのは誰あろう自分だけ。それが信頼だった。生きてもいない機材と確かに交わした絆だった。壊れたディストーションの、たった1個のノブを買うためだけに電車に乗ったあの日。確かに自分にはその小さな箱と繋がっている自覚があった。友達には「全然使ってねーよ、あんな古いの! 音、悪すぎだから! ゴミだ、ゴミ」なんて言いながら、実は夜中の2時を回っても、あーでもない、こーでもないと、何とか良い歪みを生み出そうと頑張ってみる。気がつけば、電池スナップはもう断線3回を越えていた日々。
今、そんな使い方をしている機材があるだろうか? 正直に言えば、無い。そんな扱い方をしなくても、その機材の耐久性はメーカーが保証してくれる。壊れたら新しいものを買えば良いのだ。高価なものは、お金さえ払えばプロの修理屋が上手に直してくれる。自分はただ、使うだけだ。説明書に書いてある通りに……それで望んだ音が出るし、それ以上の何かを期待して買ったわけでもない。なのに、何故こんなに空しいのか。そして、この焦りにも似た危機感は何だ? あの日、一日中歩き回って、路端のジャンク屋で見つけた10年も前にディスコンになったエフェクターのノブを見つけた時の、あの爆発するような喜びは確かに胸の奥にくすぶっているというのに。
今、巷には星の数ほどの楽器や機材があふれ、欲しいものを選んで買える時代がやって来た。ネットには情報があり、欲しい機材はわざわざ店に行かなくてもおおよその善し悪しが分かるし、機材が与えてくれる音そのものも、昔より遥かに向上した。だが、結局、機材と自分を結びつけるものは、値段でも、プレミアでもない。一つの機材にのめり込んだあのアツい時間……本気で悩み、怒り、関わり続けた先に、一人の人間ともの言わぬ機械が培い、勝ち得る、言葉ではない理解という名の確かな交流があった。
機材が語るのはただの音である。それが人を介して音楽になる時にのみ、人は、自分の中にある「自分自身の音楽」を命に刻む事ができる。だからこそ、音楽を真剣に演ろうと思う分だけ、人は機材と出会い、寄り添って生きねばならない。長い時間をかけてその間に生まれる音楽を育まなければならない。借り物の機材と、借り物の魂で出した音は、ただ通り過ぎて行くだけだ。心に留まるのもほんの一瞬でしかない。それは所詮、研いでいない刃物のように、“切れ味が悪く”て“毀(こぼ)れやすい”ものなのだから。
音を出した時間が、そのままその音楽の濃度を高める──それは、機材で音を出す人の営みに課せられた魂の約束である。機材は、流行でもファッションでもない。だから、いつだって問いかけて欲しい。自分の中の音楽が薄まっていないか、と。
今回は海外の新興ブティック・エフェクター・ブランド特集である。新鋭のエフェクター・メーカーは星の数ほどあるが、今回はその中でも、2001年以降の創業で、国内ではまだ知名度が低いにも関わらず確かな実力と個性を兼ね備え、比較的様々なエフェクター新興派閥の指針となっているようなブランドを集めてみた。いつも通り、機種の選抜には、知名度は関係なく、デジマートで実際に取り扱った実績のあるものを優先的に紹介する形を取らせていただいている。もっと近年のものばかりでも良かったのだが、バラエティに富んだ方が面白いと思い、今世紀創立のブランドで括ってみた。すでに日本に入ってきて長いものもあり、皆さんもよくご存知の機種もあるかと思うが、メーカーの設立についてや、それぞれのエフェクターに対する考え方などにも簡単に触れておいたので、改めてブランドの持つ哲学に触れてみてはいかがだろうか。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫がなくなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!
2012年創設の、米国ワシントン州リッチランドからスタートした新鋭エフェクト・メーカー。主宰のRick Matthews(リック・マシューズ)は、アンプやエフェクターの製作キットを世界規模で展開しているBYOC(Build Your Own Clone)で働きながら、全くの独学でオリジナルの回路をいくつも発案した奇才。“The Scoundrel”は、ブランドの名を一気に知らしめた“Klone”と、同社のオリジナル・ペダル“Pocket Drive”の回路を直列に組み合わせたダブル・ドライブで、密度のある複雑なドライブ・ゲインを直感的に得られることで人気を博している。
“Klone”とはその名を見てわかる通り、あの有名なドライブ/ブースターKlon“Centaur”のクローンで、クリップにオリジナルと同じ1N34Aゲルマニウム・ダイオードを用い、トーン構成以外はかなり本物に近い音色とレスポンスを再現している有名なモデルで、このハイミッドのきらびやかさを微細なささくれを含んだクリーンの倍音で押し上げる感じに、“Pocket Drive”のレンジ感のあるロー・ミッドを備えるワイルドなフィールは非常に相性が良いと感じた。この二つの歪みパートは中央のトグル・スイッチで順番を入れ替え可能なため、セオリー通り“Klone”をブースターにして“Pocket Drive”のざくざくとしたダイナミクスに独特の粘りと奥行きを与えるのも良いが、逆に、“Pocket Drive”の独特のコンプ感を前衛として活かし、後方の“Klone”の毛羽立ったアタックをプッシュしながらレゾナンス周波の極端に広い張りつめたトーンを呼び出すのも面白い。確かにこういった構成ならば、単体の歪みとしては使いどころの難しい“Centaur”サウンドを全く別の歪みでブースト・アップするという試みに簡単に手を出せるのも嬉しい限りだ。
ちなみに、両ドライブは片方をオフにして単体ドライバーとしても使えるが、不思議と別個に発売しているものよりも、その回路がそれぞれピーキーというか、ややフィードバックのタイミングが早くなっているような気がした。これはおそらく作者が意図したものではなく、回路を直結したりケースを変更するノックダウン処理を行なった場合にグラウンドが変化する効果の一端なのだろうが、それはこの“The Scoundrel”というデバイス独自の音としてあまり気にせず使うと良いだろう。このペダルの存在意義からしても、それぞれ単体の音より、それらを混ぜて使うために適した音を維持しているかの方が重要だからである。そういった意味で言えば、この作用は、よりこのペダルを唯一無二の音色へと導く際に、深いセッティングの中でもそれぞれの原色のカラーを維持し易くする要素として、プラスに捉えたいものだ。
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2008年にドイツのハノーヴァーで創業するなり、高品質なアンプ系モデリング・ペダルでいきなり頭角を現したヨーロッパ最右翼の注目ブランド。元々、ドイツという国はKoch、Diezel、Hughes&Kettnerなどというハイゲインなドライブ・サウンドを持つモダンな真空管アンプの生産拠点としても知られており、近年のペダル市場でもOKKOのような硬派なアンプ・ライク・ペダルを輩出するなど、耳の良い職人が育つ土壌として、ヨーロッパでも一歩抜きん出たビルダー環境の底上げを達成する土地柄である。そういった地域にWEEHBO Effekteのようなメーカーが出現したのは、まさに必然と言えるであろう。
“DUMBLEDORE”は、ミドルのフリーケンシーをハイ/ローから選択できる実質4バンドのEQ構造と二段階のドライブ・ゲインが特徴的なダンブル・クローンだ。Dumble(ダンブル)アンプというのは、70年代からプロ・ミュージシャンの受注生産のみで作られたとされる知る人ぞ知る最上級ブティック・アンプのことで、その高速なレスポンスに支えられたブライトなアタックと分離の良い歪みは、至極のチューブ・ドライブと後世に伝えられる伝説的名機である。その音を研究し、追求するのは、長年Two-RockやCallahamといった高級なブティック・アンプ・メーカーの独壇場であったが、今世紀に入ってからは、ようやくエフェクター市場でもethosを始め、かなりそのサウンドに肉薄するメーカーが出て来つつある状況だ。しかし、その多くはアンプのトーン・スタックをそのまま再現しただけのものに過ぎず、複雑なパラメーターを持つなど、決して操作性に優れるものではなかった。だが、この“DUMBLEDORE”は音の再現にアンプ的な回路構成を用いず、あくまで「エフェクターらしい歪み」の組み合わせでその王道サウンドに近づく事に成功した、珍しいタイプのアンプ・クローンであると言って良い。サウンドへのアプローチがアンプのそれとは根底から異なるので、通常のアンプ・ライク・ペダルのように“何処から切り出しても何となく似ている音”を理詰めなEQで寄せていくといった方式は通用せず、あくまでも特性の違う2つのチャンネルのゲインをブレンドしてダンブル本来の歪みを生むポイントを模索するという非常に直感的な……別の言い方をすれば『エフェクター的』な操作感が良い。あくまでダンブル的な歪みを目指すなら、どんなに軽いクランチでも必ず“MORE”ノブが効く2チャンネル構成で音作りをすることをお勧めする。
本物のダンブルの歪みを読み解くコツは、ストレートに耳に入ってくるサウンドにもかかわらず、全帯域に渡って実に複雑な倍音と歪み成分が絡み合って構成されていることを肌で感じる事にある。このエフェクターでダンブル・サウンドに迫るには、直に聴くとやや歪みが足りないのでは? と感じる程度のドライブ・ゲインの時に、録音すると思ったより歪んでいた……そういったセッティングをまず探し出す事から始めてみると良い。上手くハマればEQのセッティングに関わりなく、ピッキングを押し返してくるような硬質な手応えとちょっとざらつくようなアタックが均衡するポイントが現れるはずだ。そこで、高域の成分をすっきりさせるようにすべてのパラメーターを微調整して、一番張りの出る場所が「その音」に最も近い場所となる。あくまで「エフェクターとして」ダンブルに迫る“DUMBLEDORE”。この手法を生み出したWEEHBO Effekteのセンスに、今後も期待したい所だ。
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2013年、ミネソタ州で発足したばかりの新興メーカーながら、その圧倒的な独創性と高品質により、すでに世界規模で注目を集めるまでに急成長を果たした若手実力派工房。“Marvel Drive”は、一言で言えば、4つ穴マーシャルのリンク・トップ(チャンネル・リンク)接続から得られるプリ・ドライブの駆動を徹底的にシミュレートした新感覚の歪みペダルである。
「リンク・トップ」というのは、2つのチャンネル(ノーマルとブライト)にそれぞれHi/Lowのインプットが割り振られていた頃の初期のマーシャルを使用する時に、繋いだインプットとは逆側の(Hiに入れた場合はLowの)インプット・ジャックから信号が漏れる事を利用して、パッチ・ケーブルでその漏れた信号を別の側の(最初にノーマル側に入れていたら、もう一方のブライト側の)チャンネルのインプットに流してやる事で並列接続を作り出し、簡易的に増幅段(真空管)を増やしたようなゲイン・アップを狙うという、この頃のマーシャル使いの間で流行した公然の裏技である。有名な使い手ではやはりジミ・ヘンドリックスが挙げられる。ランディ・ローズなどは内部配線を改造し直列(カスケード接続)チャンネルにした個体を使用していた事でも知られる。この、直列とも並列とも呼べないような信号の流れが呼び起こす独特のレスポンスとダイナミクスにより、マーシャルは他のアンプとは別格のハイゲイン・ステージを手に入れたわけである。
この「リンク・トップ」のサウンドを再現することは、プレキシ時代のマーシャルのマーシャルたる価値を生む事から、今までもそういったニュアンスを取り入れたペダルは確かに存在していた。だが、この“Marvel Drive”に関して言えば、その効果は巷にあふれるような『安易な解釈による擬似プレキシ・トーン』のペダルとは一線を画す。なぜなら、この機体は、あくまで多段増幅回路を持たないオールド・マーシャルのプリ段、しかもそういったモデルのチャンネル・リンク・シミュレート時の『機能性』からサウンドを構築しようとしているからである。このエフェクターに付属するトーン回路と言えば、ピックアップの出力に合わせるためのトレブル・コントロールである“PRESENCE”が簡易的に付いているだけで、メインのノブは、2つのチャンネルを意味するそれぞれ独立した “VOLUME”と、トータルのレベル・コントロールである“MASTER”のみ。2つの“VOLUME”はそれぞれのゲイン・カーブがまさにあの「リンク・トップ」を思わせる特殊な波形で交差するように作られており、ギターが4つ穴のどのインプットを利用して、パッチ・ケーブルがどのジャックに渡されているのか、そして、その時にそれぞれのチャンネルの音量はどの程度なのか……そのすべてのパターンを、たった二つのノブで有機的に、そしてシームレスに再現できる使い勝手はかつて無かった代物である。音質全体のイコライジングは、アンプかギターのコントロールでやってくれというのであろう。あくまでこれが、「リンク・トップ」によって呼び起こされるインプット・ゲインとダイナミクスを追求するためだけのフロント・デバイスであることに終始している所に、このペダルの並外れた専門性に支えられた凄みを感じる事ができる。ビンテージ、モダンを問わず、特に1ボリューム系アンプであれば、このドライブによりそのアンプに全く新しい存在意義が生まれる事だろう。万人に試して欲しい逸品だ。
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アメリカはインディアナ州コロンバス発、2014年創設の新進ブランドだが、創設2年目にして、ラインナップが全く構造の違うオーバードライブとリバーブだけという変わった組み合わせなのも、独特の感性を感じさせる。“Raven Overdrive”はその名の通りワタリガラスのイラストが目につく、完成度の高いシンプルなドライブだ。いわゆるTS系に近いサウンドだが、温かくダークなトーンの中に、実にバランスよくクリアなアタックが浮き上がるようにチューニングされているので、かなり使い勝手は良い。太く、真っ直ぐに飛んでくるトーンは、最近のハイファイなオーバードライブとは一線を画し、ひたすら音楽的に鳴ってくれる。“TONE”があまりハイカット気味には効かず、絶妙に音の輪郭を操るようにミッド・レンジを動かしてくる感覚も新しい。特に奇を衒っているような機能はないのに、不思議といつまでも弾いていたくなるような独特の存在感を持ち合わせたドライブであり、この膨張し切ったペダル市場の中で、ポッカリと中心に空いたずいぶん昔に忘れ去っていた大切な何かを埋めてくれるような……そんな歪み亡者達の琴線に触れる正道の響きがここにはある。
ハイ上がりなブライトさこそないものの、単純に音がでかく、力強く、はっきりとしていることが、歪みにとって小手先の高機能よりもどれほど音楽的に必要な事かを伝えられるこのデバイスは、このメーカーが抱く偽らざる現代サウンドへの苦悶を表しているようにさえ思える。とにかく、弾いて1時間後には誰もがこのペダルの印象について最初とは全く違った印象を受けている事だろう。それだけ音的に気付かされるものが多く、またそれでいながら使いどころに悩むことが少ないのがこのペダルの良い所だ。ただ、ハムバッカーだと多少中域がダブつくので、ストラトの方がその本領を発揮しやすいように感じた点については申し述べておきたい。特に、シングルコイルのリアで太めのパワーが欲しい人には、ピックアップの選択以外にもこういったドライブの存在でその音質を補う方法があるという事も考慮して使うと、より柔軟なシステム・オペレーションを構築できる事だろう。最近バージョンアップ(V2)したが、相変わらず電池オペレーションに対応していない点だけは、今後の展開に期待したいところだ。
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テネシー州ナッシュビルに拠点を置くエフェクター・ブランドXact Tone Solutions。ブランドの立ち上げ自体は2001年と意外に早いのだが、当時はまだ、創業者Greg Walton(グレッグ・ウォールトン)はテキサス州ヒューストンでボードやラックといったギター・システムを組むエンジニア稼業の傍ら、IbanezやBOSSのペダルのモディファイをすることでようやく生計を立てていた状況で、とてもメーカーと呼べるような規模の仕事量はこなせてはいなかった。だが彼は、2009年にKingdom AmplificationのBarry O’Neal(バリー・オニール)と知り合った事をきっかけに、設計以外の生産拠点をナッシュビルに移し、一気にXact Tone Solutionsを世界に通用するエフェクター工房として再出発させる事に成功する。
“Precision Overdrive”はまだWaltonがヒューストンでくすぶっていた2006年に彼が初めて作ったオリジナル・ペダルで、ブランドの原点とも言うべきエッセンスが色濃く注入された作品である。それは、システム上で歪みがどのように効果を得るかをよく研究された回路によって組まれており、クリーンで目の詰まったドライブが絶妙なコンプ感とともにゲインを原音の背後からプッシュしてくる感じが実にアンプ・ライクな反応を見せる。その一方でどんなアンサンブルの中でも、また、どんなエフェクターと組み合わせても、決して個性を失わない独自の『抜け感』を保ったサウンドに見事に昇華されていた。どうしてもモディファイでは到達できなかったこのサウンドを得るため、結局イチから回路を組まざるを得なかった結果、Waltonは現行のTube Screamerクローン達の中でも密かに最高峰と噂されるまでの評価を得るに至るこのドライブと、「システムを透過する視線からペダルの存在価値を追う」という一風変わったアプローチを得意とする希有なメーカー哲学を手に入れたのだった。ミドルが膨らむ割りには音色自体は淡白な現行のTS系ドライバー達のまさに盲点をつくこの絶妙な透過度を有した艶感……TSサウンドの土煙るような突出がバンド内で制御し切れていないと感じる人に、是非一度試して欲しい近代の傑作歪みだ。
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2013年よりケンタッキー州ルイビルの拠点で活動を開始したブランドBONDI EFFECTS。宣教師の父に育てられた主宰のJon Ashley(ジョン・アシュリー)は、清貧故にハイスクール時代には新しいエフェクターを買えず、それがきっかけで既存のエフェクターをモディファイする事を憶えたという苦労人。“Sick As Overdrive”は、そんな彼が休暇でネブラスカ州に行なった時に思いついたアイデアを具現化したペダルで、それを気に入った知人がたまたまWEBにアップしたデモがたちまち話題になったことで製品化したという、いくつもの数奇な偶然が重なって生まれたモデルだという。それは、最初、Jon自身も影響を受けた事を認めているKlonの“Centaur”と比較されるサウンドを持っていた事で話題となったが、熟練の手で使われれば使われるほど、その評価は“Centaur”と同等かそれを上回るハイエンド・ペダルとして扱われるようになりつつあるようだ。
確かに“Sick As Overdrive”の回路構造を見てみると、チャージ・ポンプによる内部18V昇圧、そしてクリーンとドライブをミックスするという“Centaur”クローンとしては極めてオーソドックスなスタイルを持っているのも事実なのだが、実際に音を出すと、本家以上にミドルまわりの解像度があり、トーンの効き幅も多い。どうやらゲイン量に追随して中域に干渉する2連ポッド用のCR回路の定数に秘密がありそうだ。特にトグル・スイッチが下(原音重視モード)の場合は、クリーン側のブースト比が本家よりもややセンシティブに反応する分、スイートスポットの設定がシビアで、ピッキングで綺麗に音が出せる領域が極端に狭く感じた。
かなり手強いオーバードライブといった印象だが、しっかりとピッキングできた場合の音の奔(はし)り具合は確実に本家を上回ってくる。このペダルの本領はやはりこの原音重視モードを完璧に使いこなすことによって引き出せるのだろうが、安全でコンプ感の心地良いトレブル・ブースターとして機能するスイッチ上モード(低域のロールオフ)でもきちんとゲインに応じて音の芯が乗っかってくる感じがあり、気軽に使いたいのならばそちらをメインに使っていくだけでもかなり色濃く音を「歌わせる」ことができるはずだ。“Centaur”が極めたはずのその領域の更に先に行くためのオーバードライブ“Sick As Overdrive”(現在は量産化のためのマイナー・チェンジを受けて“MkII”となっている)。その、真に歪みを極めようとする者にのみ恩恵を与える研ぎすまされた実力を、ぜひ皆さん自身の手でも引き出してやって欲しい。
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台湾のSONIC SYSTEM APPLICATION社が土台となり2007年に半導体のICデザインのスペシャリストScooter Hsieh(スクーター・シェ)が立ち上げたブランド。そのチーム全員がミュージシャンであり、さらにオーディオ分野でそれぞれが独自の商標登録を持つほどの精鋭技術者であるという。そうやって、選び抜かれた音のスペシャリスト達の手で運営されるプロジェクトから生まれる製品が、最高の品質を保証しないはずもない。“OVERDRIVE GIG(戟)”の外観を一見しただけでも、ヘアライン加工されたニッケル塗装によるアルミ筐体の高級感は、国内の某高級エフェクターにも引けを取らない落ち着いた華やかさがあり、その音の良さを予感させるのに十分なオーラを放っている。
実際に弾いてみると、出音も当然のようにその期待を裏切る事はなかった。基本にTSライクなミッド・ブースト特性を持っていながら、ストラトで弾いてもうるさ過ぎない程度に高域の抜け感も十分で、むっちりとしたロー・エンドにわずかにテキサス風のざらつきが乗っかってくるのが実に良いバランスに感じた。こういったドライブは、テクニック重視の上品なコード・ワークよりも、むしろフレーズを印象的に引き立たせてくれる。実際に、空間系との溶け具合もばっちりで、レキシコンのような濃密なリバーブと組ませても歪みの存在感が埋もれず、それでいてハイファイすぎることもない。ゲインを低くすればするほど、程良い暖かみが常にアタックの余韻として追っかけてくる上に、タイトに低空を支える糸を引くようなコンプレッションがむしろ清々しい印象さえ与える。そういった希有なバランスをどんなトーン・セッティングでも外さないところに、この歪みを作ったメーカーの恐るべきポテンシャルを見た気がする。ドライブを平衡にするために意図的に押さえられた立ち上がりの無機質なフィールを除けば、音の個性、総合的なレスポンス共に、相当に使いどころのある歪みペダルであると評価できる。しかも、それを、1万円を切る価格で提供できる生産力もまた驚異である。値段は同等でも、安易な大陸産とは「格」が違う。台湾製新興ペダル、恐るべしだ。
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“Kam”とは神風(Kamikaze)からつけた名のようだが、実はこれは、地球の裏側アルゼンチンにあるDEDALOというメーカーで作られたエフェクターの名である。同社のオーバードライブ“Rvo”は、ギター・マガジンなど各種メディアに紹介されたこともあり国内でも知名度を上げつつあるので知っている人もいるかと思うが、今回はそのDEDALO社が誇る南米系歪みの真骨頂とも言うべきハイゲインなディストーション・ペダル“Kam”にスポットを当てたい。
DEDALOはアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに拠点を置くエフェクター工房で、2003年に主宰のMiguel Canel(ミゲル・キャネル)とSantiago(サンティアゴ)という兄弟によって自宅の裏庭に設けられた小さなラボからスタートした生粋のラテン・ブランドである。「U-Control」……サーキット上で完全なアナログ信号を保ちながらコントロールをデジタルで制御するという手法を当初から研究しエフェクターに取り入れ続けてきた彼らの製品は、有機的な反応性能とデリケートなトーン・ロケートの両立において、世界でもトップクラスの精度を持っているとされる。まず使ってみて驚かされるのは、その音の速さだ。とにかくスコーンと良く通る。White-LED/FETによるクリップにも関わらず、かなり攻撃的に歪ませても芯が潰れず、するっと軽快に立ち上がってくる。モダン・ディストーションの醍醐味である鋭角で立体的なエッジを保ったままにもかかわらず、なんという歪みの滑らかさか。それでいてサステインが終わるまでしっかりと倍音の端々まで歪み切っている。音も反応も違うのに、どこかIlitch(クリップ機関を持たないMAMP回路を搭載した歪みで有名な、米国カリフォルニアのエフェクト・メーカー)にも似たクオリティの高さがそのレスポンスからしっかりと伝わってくる気がした。しかも、それよりこちらの方が遥かによく歪む上、トーンの効きも広い。さすがにゾンゾンするまで歪ませると、リードなどではその滑らかさが逆効果になって歯切れが悪く感じる部分もあるが、それでも、現代的なバッキング・ツールとしては活用する範囲は広いだろう。
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米国ワシントンで2010年に創業されたブランド。代表のPeter Rutter(ピーター・ラター)はもと数学教師という変わった経歴を持つ。それを証明するかのように、彼の作るすべての回路は理路整然としており、非常に合理的に設計されていて無駄がない。それでも、数値理論のみに傾倒せずあくまで予備計算では読み切れなかったサウンドをしっかりと自分の耳で解析し、そのデータを再び数値として算出する事でノウハウを蓄積していったところにこのブランドの凄さがある。
“Distortion3”は、往年のアメリカン・ドライブの名機であるMXR“Distortion+”と“Micro Amp”、そしてDOD“250 Overdrive”の3つのトーンをこの筐体に封印し、しかも現代的で直感的なアプローチで「本当に使える音質」を見つけ易くするコントローラーを各所に配置した、単なるビンテージの焼き直しに留まらないハイ・クオリティなバランスに組み直した逸品である。現行のものは初期のものから大幅にモデル・チェンジされているので、2011年頃までに手に入れた人はその違いを比べてみるのも面白いだろう。現行品の“Distortion3”は、3つのコントロール・ノブと3つのトリム、そして、内部の二つの切替スイッチで音を作っていく。“DRIVE”ノブはこの筐体のコアになっているLM741オペアンプのゲインを設定するもので、2時を越えたあたりから少しずつハイカット気味なコンプ感がついてくる印象だ。現行品はLM741の単独オペレーションによって音を作っているが、初代機ではよりハイファイなオペアンプOPA134PAもスイッチで選択できる機構になっていたようだ。だが、現行品では“Distortion+”や“250 Overdrive”のキモでもあったこのLM741オペアンプに固定する事で、よりこのドライブの本来のキャラクター内でのオペレーションに集中し易くなっているので、どちらが良いかは一概には言えない。
“LEVEL”はボリューム、“MODE”はクリッピング・ダイオードの選択をシミュレートすることでディストーション・ステージのキャラクター(“Distortion+”、“Micro Amp”、“250 Overdrive”)の区別をはっきりさせるコントロールで、「G」側がゲルマの“Distortion+”、センター位置(ロットによっては表記の無いものもあるが、リフト・スタイルの意味で「L」モードと呼ばれる)がクリップしない“Micro Amp”、「S」側がシリコンの“250 Overdrive”の音になる。ダイオード自体はオールド・スタイルのものではないので互換性はあるもののビンテージのものとは多少音が異なり、ややハイファイな分、多少線が細く感じるかもしれないが、そこは左下のトリム“FAT”により低域レスポンスの反応帯域を調整する事で補える。これは初代には無かった機能だ。あとは、ソフト・クリップのタイプを「A」(非対称)-「OD」(クリップせず)-「M」(MOSFET)から選択し、音をすっきりさせたいのか、こんもりと存在感のあるサウンドに仕上げたいのかを決めるだけ。内部スイッチは、“MODEがセンターの場合(「L」モード時)に、LEDクリップを追加し、ジャリジャリした激しい歪みを呼び起こすためのものと、入力部のゲイン設定で低域をあらかじめ強調するかどうかの選択のみ。一見スイッチが多そうでも、実に計算された使いやすい配置になっており、基本を外さないマイルドな歪みをどうすれば好みの歪みに近づける事ができるかが体系的にわかる仕組みになっているので、それを活用しながら幅広く音作りを楽しんでいきたいモデルである。
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6 Degrees FXは、カナダのバンクーバーで活動するミュージシャンが始めた一介のガレージ・メーカーながら、2012年あたりからWEB等で試作機のデモを発表する事で話題となり、そのごく限られた生産数にもかかわらずたちまち世界規模のシェアを獲得したという新進気鋭のブランドである。ペダル業界がそのあまりにも実績の少ないメーカーに与える評価について不思議に思う方もいるかもしれないが、その活動と、何よりも作ったペダルを見れば、その高すぎるかにも思える世間の認識が決してフロックなどではないという事がわかる。
彼らの作る“R3 Distortion”は、Proco“RAT”オマージュの究極形態と呼ばれるほどそのサウンドを追求されているとされるが、その実はそんな甘っちょろい表現で収まる程度の代物ではない。それは、まさに怪物。ディストーションという概念の中で辿り着ける現代最高峰の完成体の一つと言って良いほど突き詰められた芸術品だろう。確かに“RAT”に似た内臓を鷲掴みにしてくるようなシャギーに切れ込む剛性はあるものの、それが細部に至るまで明瞭で、そして、瑞々しく、サステインの終わりまできちんと「響く」。また、音の中心から常にストレートな重力が発散されており、それが外へ向かうに従って絶妙な乾き具合をみせるので、ピッキングのニュアンス一つで、水面に張った透過度の高い薄膜の下からL.A.ライクなウォッシュ・トーンを呼び出せたりもする。それでいて、まろやかすぎる事も無く、リードではこれもピッキング一つで飴のような粘りから鋭角な刃のような押上げを楽々と操れる上に、常に熱を帯びた太いミドルがアタックの輪郭を辿るように追い越して行き音を支える感じが気持ち良すぎる。固めに歪ませてミュートでバッキングすれば、ガサつきの一切無い背骨を揺さぶる轟音のマッシュが地を這うようにぶっ飛んでいく。しかも、クリッピング・タイプを「G」(ゲルマ)/「A」(アシンメトリカル=非対称)/「S」(シリコン)で切り替える3wayスイッチをどのポジションにしても、トップ・エンドは常に明瞭なままで、バランスされた音の厚みとダイナミクスが豊かな表情を失うことがない。さらに、内部のトリムでミッド・レンジの解放ポイントを細かく設定できるため、どんなアンプと組み合わせても常に一定の音質を保てるのも素晴らしい。
それほどの音をどうやってこの箱が絞り出しているのか……裏蓋を開けてみれば、その驚きは確信に変わる事だろう。グラスファイバー製のタレットボードは自社製で、真鍮と錫からできているターミナルやアイレットを丁寧に配した基板に、ポイント・トゥ・ポイントで美しく設置されたマロリーキャパシタは、まるでビンテージ・アンプと見紛うばかりの堅牢さだ。中心にあるのはこの歪みの心臓部となる、メタルカン・タイプのLME 49710NAオペアンプ。抵抗一つから裏蓋内部のポリシー・ロールまで、何一つ手を抜く事無く仕上げられたその惚れ惚れするような美しいサーキットについて、彼らは「必要な事を必要なだけやっただけ。我々は他のあらゆる手段を否定しないし、それをする人々へのリスペクトを欠かさない」と明確に告げ、その回路の中身からパーツまで何一つ隠そうとせず公開している。質実剛健にして、単純明快。それが本当の正道を行く者の豪儀なのだろう。その音にも、哲学にも、触れた者にとってそこには純粋な敬意しか残らない、そんなペダルである。……ただの個人的な意見ではあるが、このペダルは、筆者が今世紀に出会ったペダルの中でも、確実にベスト3に入るくらいの素晴らしい完成度の作品であったという事だけは、ここに申し述べさせていただく事にしよう。
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2010年、サウスカロライナ州のコロンビアにある技術者コミュニティからスタートしたブランドで、世界でも先んじて「キックスターター(Kickstarter)」と呼ばれるクラウド・ファンディングによって開業資金を調達して立ち上げられたエフェクター・プロジェクトであることでも知られる。“WAVE CANNON MKII”は同社を一躍トップ・ブランドヘと押し上げた名機“WAVE CANNON”の直系に当たる、全世界が待ち望んだ最強の二代目だ。なにしろ、初代の“WAVE CANNON”は、あの米国Guitar World誌の『Platinum Award for Excellence』に選出されたモデルであり、それによって当時のCaroline Guitar Companyがあまりに小規模な会社であることを知った人々が「この小さな会社がハンドメイドでペダルを作っているのを手伝ってあげないと!」と様々なメディアで声を上げたのは有名な話だ。最初、50台しか作る予定の無かった“WAVE CANNON”がとてつもないアメリカン・ドリームを呼び起こした事で、彼らは一気に名の知られたメーカーへ転身を果たしたわけだが、その何事においても「オリジナル」を追求する姿勢は、今でも全く変わっていない。
“WAVE CANNON MKII”は奇想天外な彼らの発想からすれば恐ろしく正統派なディストーションで、輪郭の立ったエッジ・ワークに最適なごつい歪みを素直に引き出してくれる超ご機嫌なデバイスだ。パンチがあり、刻めばタイトに圧縮され、オープンに使えばかなりハイの出方が美しい音楽的な鳴りを放つ、と言った具合に実に使い勝手が良い上に、音の変調に敏感で、弾く人によって中域のカラーに全く違う個性が顔を出すのも面白い。しかも、なんだか70年代風の泥臭さまで備わっている。コントロール・マークはお得意の象形デザインで、「スピーカー」がボリューム、「コルナ(手のマーク)」がゲイン、「ターゲット(四角い角枠のマーク)」がミッド・レンジの定位とブースト量を変えられるフォーカス、そして、「リバース・カラー(白黒反転)」が歪みの明度に立体的に効くトーンとなっている。また、左下のモーメンタリー・スイッチは、これこそこのメーカーのペダルの醍醐味ともいうべき“HAVOC”と呼ばれるスイッチで、“MKII”になってようやくこの代表ペダルのシリーズにも登場した必殺兵器だ。踏んでいる間はフィードバックが発信するので、その時のプレイ、音量、ピックアップ・セレクターの位置によって全く予測のつかない爆発的な飛び道具効果を生み出す事ができるという楽しさ溢れる機構だ。こういったものをただでさえ素晴らしい完成度の“WAVE CANNON”にも何気なく載せてしまうところに、このメーカーの面白さがあるのだろう。
ちなみに、この“WAVE CANNON MKII”には、回路設計にSkreddy PedalsのMarc Ahlfs(マーク・アルス)、基板レイアウトにGreenhouse EffectsのRoy Zirchi(ロイ・ジルチ)、さらにアドバイザーとしてColdcraft EffectsのAustin Ziltz(オースティン・ジルツ)が関わっていることから、主宰Philippe Herndon(フィリップ・ハーンドン)が新興の実力派ペダル・メーカー達の間でいかに顔が広いかがよくわかる。今後も、何かとてつもない事をやってくれそうなペダル・メーカーである。
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イタリアの高名なミュージシャンでもあるFrancesco Sondelli(フランチェスコ・ソンデーリ)が、2014年のNAMMで正式に披露したプロダクト・ブランド。拠点はカリフォルニアL.A.。2007年に彼のアルバムを往年の名プロデューサーEddie Kramer(エディ・クレイマー)に担当してもらった縁がきっかけとなって構想を広げ、Eddieの全面監修のもと完成したのが彼自身の名を冠されたこのシグネチャー・シリーズである。“Edstortion”は、同シグネチャー・ラインの第一弾として2013年頃からテストされてきた2モード仕様の歪みペダル“EK Distorsion”の小さな筐体サイズと小洒落たチェック・フィニッシュを受け継いだ、正規リリース版3モード式ディストーション・ユニットである。
基本のサウンドは、丸みのある豊かな鳴りの歪みで、ちょっと上がカットされ気味な箱鳴り感が特徴的。ピッキングに対する立ち上がりも良好で、速いパッセージにも流されない地に足の着いたサウンドを得られる。モード・セレクトについてだが、まず「1」は、中域が少し潰れ気味になるハイ上がりなシリコン風のドライブで、コンプ感がある音になるのでリードに最適か。「2」はLEDクリップのファットな押し出しのあるブルース・トーン。「3」が柔らかく呻くゲルマ・サウンドでオールド・ロックの再生にはピッタリのサウンド。……と、棲み分けもバッチリ。小型で軽量な割には音も大きく、1台持っていて損の無い歪みというわけだ。気になるこの“Lite”という単語だが、これは何か音質的にその上位機種が存在するわけではないので安心してほしい。
実は、F-Pedalsには、他ではまだ見られない画期的なシステム上の機構が存在する。それが『F-Power』と呼ばれるワイヤレス充電機能だ。つまり、その機能があれば、わざわざ裏蓋を外して電池を入れ替えたり、DCケーブルで電源を引っ張ってこなくても、エフェクターに電源を供給したり充電したりできる(実際にNAMMではこのシステムを搭載した“Edstortion ”が披露され、現地ではすでに販売が開始されている)。最近、スマホなどにも普及し出したワイヤレス・チャージに似た仕組みだが、ペダルボードに貼付けて使うエフェクターの利便性を考えると、その恩恵はスマホの比では無い。日本にはまだPSE法等の関係で『F-Power』を搭載した“Lite”の付かない“Edstortion”は入ってきていないが、やがてこのシステムが普及すれば、ペダルボードやエフェクターの利便性は遥かに向上するに違いない。1日でも早く、『F-Power』ありの“Edstortion”が輸入解禁される日が来るのを期待しないわけにはいかない。ただ、他にも“Edstortion Lite”と“Edstortion”の違いは細かい点でいくつかあり、“Lite”の方が、付属の木箱無し、ジャックのクローム・フィニッシュ無しとなっていたりする。あと、重要な報告として、“Lite”には後に『F-Power』ユニットを追加するアップグレード・システムも導入される予定があるので、今“Edstortion Lite”を買っても『F-Power』が導入されたおりにわざわざ買い直す必要は無いので安心だ。
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新興というにはすでに貫禄十分な、シンガポール生まれのエキセントリックな重低音歪みユニット“Kult”。goosoniqueworx創立者のRavi Goose(ラヴィ・グース)はすでに90年代からテックとしてミュージシャンのツアーに参加しながら経験を積むと同時に、航空業界でも10年以上飯を食っていたという変わった経歴の持ち主で、2002年に同社を立ち上げると瞬く間にその知名度を国内外に広めた凄腕のエンジニアだ。その彼が、創業以来取り組んできたカスタム・アンプ事業の中からヒントを得つつ、2012年以降に新たな挑戦として打ち出したハイゲイン分野のペダル製作がここに結実。“Kult”は近年流行りのハイファイなディストーションとは一線を画した、力強いアグレッシブ・ドライブを極めた攻撃性重視のサウンドが魅力の逸品だ。
倍音をかき分けて響く割れ鐘のような不吉な重低音を放つにも関わらず、和音がしっかりと分離しミッド・レンジの反応も十分にあるという、古さと新しさをしっかりと融合させ実用レベルまで昇華したエンジニアの耳の良さが光る作品だ。現代的にミドルの質感に拘った音作りをすると、どうしてもハイファイにならざるを得ないところだが、そこをこの“Kult”は絶妙に粗野で乱暴な気配を残しつつ、クリアなサステインとは対照的に、亜熱帯のジャングルを思わせる底の知れない深みを漂わせているのが実に新鮮だ。コンプレッションは、アタックにはゆるめで、フィードバックのハイ側の先端に張り付くように硬質にかかる感じが往年のオプト・コンプ的な効きで、これもまた独特なフィールだ。3バンド・イコライザーは幅広く効くうえ、2段階のチャンネル・モード(Green/Red)を搭載している事でジャンルを問わず使えるだろう。二つのトグル・スイッチは、説明によるとそれぞれアンプやピックアップといったハードをシミュレートするようだが、要はニュアンスをエフェクター側から制御できるという事だ。私的には、逆に、スピーカーの石やピックアップのキャラクターに合わせてセッティングを変える事で、いつものタッチを蘇らせるように使うのが正しいと感じた。特に“preEQ”の方は、ゲインの前にフィルターがかかるので、ピッキングの感覚ががらりと変わる。パーティクルなディレイなどがシステムの後段にある場合には、これでかなりアンビエント効果が変化してくるので、常にフィールが最速の位置にセットするのが基本になってくるだろう。
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2010年創設のフランスの高級ハンドメイド・エフェクト・ブランド。設立当初はギターやアンプのリペアを専門にする工房であったが、2012年にKlon“Centaur”のクローン(後の“LUCY’S DRIVE”)を作った事がきっかけで、オリジナル・ペダルの製作に着手し始める。近年力を付けつつあるフランスを拠点にする若手ビルダー達の旗手として、ヨーロッパを中心にプロからも注目を集めているハイエンド・プロダクトである。
”Stortion“は、彼らが手がけるディストーションの一つで、何というか、実に面白い音である。分離が良くて瑞々しく、まるでオーバードライブのように温かい音質なのだが、どこか冷めているというか、とにかく「揺さぶられない」歪みなのである。構成も少し独特で、オペアンプに高級オーディオ用としてよく使われるOPA2604を採用している。なるほど、あまり際立った透明感が無く、底に溜まった感じのする音質は、これが根本にあるかららしい。この歪まない、ぬるぬるとした音質のオペアンプをよくもまああそこまで歪ませたなぁ、というのが最初の正直な感想だった……が、もう一度実際の音をよく聴くと、なるほど、軽快さや歯切れの良さによるパンチこそ少ないが、確かにボディ・ブローのように内臓を擦り上げるような低い歪みが唸りを上げている。ミッド・レンジも広くとられており原音感が強く出るので気がつかなかったが、歪みの質自体は細かくスパイシーだ。重厚で、滑らかで、落ち着いている。一見ディストーションらしくない表現かもしれないが、これはこれで「あり」だ。高域は連なる感じのコンプ感なので、アメリカ的なバリバリした感じを求める人には好き嫌いがあるかもしれないが、実によくサステインの倍音に絡んでくるし、アタックの粒立ちもピッキング次第でちゃんと立ち上がってくる。
もしかすると、これはかなり上級者向けのモデルなのかもしれない。しかも、思いつきでやや太めの弦を張ったギターで試すと、また、さらにその鉛のようなドライブの個性が際立つとともに、歪みの定位が合ってくるような気がした。そして、Mesa/Boogieのような粘っこいロー・ミッドの歪みとともに使っても、帯域が重なって割れるどころか、むしろそのダークで艶やかな歪みのカラーが増幅されるようにさえ感じるほどだった。かなり癖になる音質だが、これは良い意味で、頭打ち感のあるディストーション業界に現れた一つの救済なのかもしれない。初心者には向かないが、新しい歪みへの接し方を模索する上級者には、面白い効果をもたらすペダルとなるだろう。
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2012年創業のギリシャの新鋭メーカー。工房はアテネ。徹底してアナログ方式に拘った回路とシンセ理論を直感的に操れるシンプルなコントロールを融合させ、全く新しい使い勝手のギター用ペダルを世に広めたブランドとしても知られる。特に、EG(エンベロープ・ジェネレーター)を複合フィルター内で効果的に扱える操作感は格別で、その大胆かつ精緻な理論に裏打ちされた試みは、現代的なシンセ・モジュールの可能性を広げつつあるとさえ言われるほどだ。
そんな彼らが作ったファズ・ペダルがこの“DISORDER”だ。エーゲ海発、世界も注目する俊英が作ったアナログ・ファズ。さぞやオリーブの香りも華やかな、高尚なサウンドが飛び出すかと思いきや、その期待は一瞬で裏切られた。何というか……まるで煮詰めた泥を捏ねるような、ブーミーでゴロゴロと唸るタイプの歪みで、高貴な響きとはほど遠い恐ろしく怒りに満ちたスローヴを有していたからだ。ただ、間違いなく太い。そして、とんでもなくアンサンブルの中で際立つ音を持っている。通常のファズでは、どんなに音量を上げてもいったんミドルが潰れてしまう歪み帯域に入ってしまうとそこから先はただペラペラになるだけなのに対して、このファズは強く歪ませたまま低音弦で弾いても見事に歪みの一粒一粒まで聴き取れるのだ。
そんな特徴のある音色に対して、コントローラーもさすがは売り出し中のシンセ・メーカーだけの事はある。“VOLUME”と“FUZZ”はわかるにしても、残りの二つが“RES(レゾナンス)”と“FILTER”とは恐れ入る。レゾナンス・コントロールはシンセ経験者ならよくご存知かと思うが、フィルターでカットする直前の周波数を強調する働きを持っている。つまり、この“FILTER”はローパス系なので、レゾナンスを上げれば、それだけミドルが極端に突出したワウ半止めのような効果を強調できるのだ。しかもそれはワウでQを動かすよりも遥かに立体的に、そして大胆に効くので、歪みの質そのものを変えてしまうほどの効果を持っている。さらに“FILTER”のハイカット率も極悪な設定なので、やりすぎるとただのブツブツした振幅ノイズや、吐瀉物を叩き付けるような水っぽい歪みになってしまう。しかも、ご丁寧に同社お得意のCV入力端子も装備されているので、EXPペダルでそれらを絶望的な悲鳴へとランク・アップさせる事も可能だ。もっと徹底するなら、同社のLFO(ロー・フリーケンシー・オシレーター)+8ステップ・シーケンサーである“Kappa”ペダルなどを入力して思う存分発振させてみよう。極太ファズと暴れるパルスの逆流が生み出す破滅のサウンドに、不思議と清々しい笑みがこぼれてしまうはずだ。
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アメリカはオハイオ州シンシナティ発のブランドでありながら、漂う中南米臭。そして、呪詛的でミステリアスなデザインのヒスパニック・オーナメントの数々。ミュージシャン兼エンジニアであった主宰のJimmy Nielsen(ジミー・ニールセン)は、2010年代から次第に知り合いや恋人も巻き込んでエフェクター作りに熱中するうちにいつの間にかそれが会社になってしまったという、何とも人好きのする人物。その彼の手がけるエフェクターも、どこかシャレが利いていて大胆にも関わらず、サウンドでも外観でも、一瞬で人の目をハッと惹きつけるようなアーティスティックな奔放さに満ちあふれた仕上がりをみせる。
“Lucha Fuzz”は、大きく前面に描かれた覆面レスラーが表す通り、ルチャ・リブレ(Lucha Libre)……つまりメキシコ式プロレスの世界感で統一されたファズ・ペダルだ。ノブの表記は“GRAPPLE”(ゲイン)、“HEADLOCK”(トーン)、“PILE DRIVER”(ボリューム)となっているのは当然として、公式のデモ・ムービーさえも覆面レスラーが解説してくれるという徹底ぶり。音はかなり伸びのあるエッジの効いた歪みで、アタックこそ潰れるものの、倍音はディストーションのようにギラついている。全体的に光沢があり、あまりハイファイ過ぎず、まさに1枚マスクを被せたような適度に奥まった溶け感が良い感じだ。伸びがゆっくりで、トップのロールオフは急降下ぎみというメリハリの効いた音の立ち上がりにも個性があり、サステインはまるでスリー・カウントのギリギリのところで起き上がるレスラーのように、音が消え切る寸前に倍音が一瞬だけ強調されるポイントがあるのも面白い。音量を上げればかなりジューシーなフィールに変わり、次第にピッキングに絡み付くようなサウンドに変化する事も含め、かなり『汗っかき』な歪みといった印象だ。オーセンティックなワウと組ませてバランスの良いタッグを組ませるもよし、四角いジャングルよろしくこのファズ単独でアンプのドライブにシングル・マッチを挑むもよし、飛び道具と絡ませて場外乱闘要員にするもよし、だ。とにもかくにもセメント(真剣勝負)でやりたい人には、弾き込めば弾き込むほどきっちりと派手な大技をキメてくれるファズなので、ギター的“虎の穴”に行く時以外にも、是非メイン・イベンターとして使ってやって欲しい逸品だ。
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Jack Deville Electronicsとは、新進気鋭のエフェクト工房が軒を連ねるオレゴン州ポートランドで、2008年に立ち上げられたブティック・ブランドである。創業者のJack Deville(ジャック・デヴィル)は、2006年にシアトルからポートランドに拠点を移したCatalinbreadでキャリアを積み、その在籍時からコントロール・システムなどの開発で抜きん出た才覚を発揮した実力派ビルダーで、独立後すぐさま全米でその動向に注目が集まったほどの天才だ。創業後は、モディファイやオリジナル・ペダル製作を通じてめきめきと知名度を上げ、今では彼自身がプロデュースするスペシャル・ブランドMr.Blackの銘とともに、その実力で一気に米国の若手エンジニア達の筆頭格に名を連ねるまでになり、彼の作るエフェクターの存在は欧米中に知れ渡っている。
“Buzzmaster”とは、その彼の原点とも言えるJack Deville Electronics名義時代のオリジナル・ファズで、Mr.Black名義でも未だ一度として復刻されていない近代ファズの名機だ。構造的にはディスクリートで組まれたゲルマニウム・ファズというくくりで、予想通りのビンテージ・ライクな温かい歪みながら、全体的にブライト目なチューニングが施してあり、明瞭でスマート。“VIG”(Vigro=ゲイン)が低いうちはオーバードライブ的に立ち上がり、地に足の着いたアタックが程良いコンプ感とともに滑らかな高域の倍音を押し出してくる。そして、ゲイン量が上がってくると正統派な潰れ方でダークな倍音が出てきて、瑞々しい歪みに変化していく。この感じ……確かにノイズが少なく、分離の良い歪みなのだが、ハイファイと言い切ってしまうのはややためらわれる。なぜなら、決して「美し過ぎない」ファズだからだ。色彩は淡く、それでいて、歪みの頂点はやや不揃いで開放感があり、なんというかとても自然なのだ。無理をしていない。かといって、ワイルドでないかと言えばそうではなく、ちゃんと歪んだ音の芯がジンジンと届いてくる。もの凄いポテンシャルのエンジンをアイドリングさせている感じというのだろうか。得体の知れない不穏さと、そのバランスの良さから生まれる全方向に対しての“余裕”みたいなものがきちんと音の瀬戸際で両立しているのだ。そして、いざピッキングでニュアンスをつければ、あっという間にハイ・ステージまで駆け上がる疾走感を得る事ができる。なるほど、これが名機と言われるファズの実力か……。
それにしても、なんという達観したファズだろうか。確かに他にもクリック・ノイズの出ない独自のリレー・スイッチなど細部にも気を遣っている点など、注目が集まるのはわかるが、それが無くても、まずちゃんと音の本筋を押さえている故にその評価を受けているのがはっきりとわかる。隙がなく慇懃。だが豊潤……。これだけ完成度が高いのに、内部のバイアス調整トリムで、さらに音の輪郭を変化させる事ができる。これが積み上げた人間だけが達し得る、本当の「大人のファズ」というやつなのだろう。……そう言えば、このJack Devilleは、上記で紹介したCaroline Guitar Companyに対して、賭けに負けた事を理由に、同社の“Kilobyte”ディレイに載せるための“TACOS”コントローラーの設計にも手を貸しているはずだ。その彼のすべての生活を音で楽しむ姿勢こそが、こういった名機を生む糧になっているのかもしれない。
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2004年に起業したドイツ発の職人気質なエフェクト・ブランド、ORION Effekte。オーナーのJan Van Triest(ヤン・ファン・トリエステ)は、常にユーザー本意な仕様を提供することをモットーに誠実な姿勢でエフェクター製作に取り組むことで知られるビルダーである。彼が信用に値する耐久性や性能に見合うならば、例えば「ハート形のケースで作ってくれ」と言われても彼は喜んでそうするし、また、同社エフェクター同士による複合機能のカスタム化にも積極的だ。その一方で、環境への配慮も欠かさず、プラ塗装を一切用いない等、徹底した管理体制で工房を運営しているとされる。
“Ramlon Fuzz”は、ヨーロッパを中心に人気のあるBig Muff第2期の「Ram’s Head」のクローン・ペダルで、70年代のマフ・サウンドを、ただのオマージュに留まらず、マニアも納得の実践的で使いやすい仕様にバランスしているとして有名なモデルだ。これは、内部に4つの2N5088シリコン・トランジスタを採用していることから、基本の構成が「Ram’s Head」の後期モデルにあたる2N5087トランジスタ採用のレッド・プリント・バージョンを狙ったモデルである事は明らかである。3モードのうち「C」(Classic)モード(初期には「M」(Muff)表記のものも存在するが、音は同じ)がまさにそれで、現行品とはまた違った金属質でピーキーな、あの有名な「ラムズ・トーン」にドンピシャな音がきっちりと鳴る様は、なかなか心地良いものだ。モードを「S」(Supa)モードにすると、低域に重心が移動し、やや太くてダークなサウンドに変化する。ただし、高域の伸びは「C」モードほどうるさ過ぎず、多少の金属感は残したまま纏まって力強く放逐されるといった印象だ。このモードで“VERZERRUNG”(ゲイン)をやや絞り目にして、“KLANG”(トーン)を上げ目にしてやると、ちょっと「Ram’s Head」の前期モデルであるFS36999トランジスタを載せたモデルにかなり近くなるのが、なかなかマニア心をくすぐってくれる。ただ、これよりローゲインにしても音像が散らばるだけで第1期の「Triangle Knob」のようにはならないので、あしからず。残りの「B」(Boost)モードは、かなりトップ・ブーストがかかり、ジャリジャリとした荒れ狂うファズ・サウンドが楽しめる。現行のモデルにそれほど近いモードが無いのは、これはこれでまた面白い仕様である。とにかく、1台で、シリコン・ファズの王道のサウンドと、他にも有用なピーク・ファズを心行くまで堪能したいならば、この選択は実に有用だろう。
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2005年に設立されたブランドで、名前だけは聞いた事があるという人もいるかもしれない。拠点はニューヨークのブルックリン。DEATH BY AUDIOとは、元々、SKYWAVEというノイズ系のバンドで活動していた仲間内でエフェクター作りを始めたことをきっかけに、レコーディングやライブの主宰などでも、東海岸のアート・シンボル的な立ち位置として認知される若い異端児達のチームとしてスタートした。“FUZZ WAR”はそんな彼らの名を世間に知らしめた、ダーティーなサウンドを持つオリジナル・アメリカン・ファズである。
このファズ回路は、ピーキーな高域を支えながら、ディストーション的なアタックが強く出るニュアンスを維持する不思議な歪みを持つ。トーン回路も独特で、滑らかな上昇と低域のみのトップ・ブーストに対して、ハイカットが入り交じったような複雑な交差を見せるカーブが上手くこの個性の強いドライブにマッチするように設計されている。アナーキーな印象とは裏腹に、実にツボをついた回路構成と理にかなった操作性を両立するインテリジェンスな素養を孕んだペダルなのだ。おかげでどんな設定にしてもまったく中域が潰れることがなく、ほどほどの分離感と巌のようなエッジが実に頼もしいサウンドを奏でてくれる。グランジ系ロックなどには最高にカッコイイ歪みなのではなかろうか。初期の頃の“FUZZ WAR”はゲインが内部のトリマーでしか操作できなかった事で使うのに難があったが、今はその点も改良され、安定の3ノブ・スタイルとなっていることもプラス要素だろう。そして、何よりも「音がデカイ」のが最高だ。ファズだというのに、引っ込んだ印象が全くなく、シンプルに歪みの圧力で空間が押される感覚を久しぶりに味わうことができた。何かが足りないわけではないのに、使っているうちにゲインをフルにしたくてたまらなくなる……轟音ファズは、本来こうあるべきだということをとことん教えてくれるような、そんな機体である。ただし、実物を見るとわかるが、想像以上にケースが大きいので、ペダルボードに入れる時には配置スペースに余裕を持って臨みたいところだ。
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ブルックリン繋がりでもう一つ。2015年創設のできたてほやほやのブランドながら、そのハイセンスな仕様はすでに海を渡って知られるほどの超実力派。主宰のTom Kogut(トム・コート)はタトゥー職人でありながら現役のドラマーという少々変わった経歴を持つ人物でありながら、最新のサーキット・テクノロジーに通じ、さらにはビンテージ・エフェクターの知識も豊富という鬼才の若手ビルダー。
“RIPPER OCTAVE FUZZ”は、知る人ぞ知るジャパニーズ・ファズの名機、Ibanez“STANDARD FUZZ”をモデルに作られた謹製オマージュだ。音はといえば、皆さんご存知の通りの天下無敵のジャージャー系。アタックがほとんど割れて意味をなさないぐらいに広がってしまうところに、ミドルのビッチリと潰れた荒っぽいシャギーがへばりついてくる。ただ、歪み自体は当時のローランドのそれよりはまだ粒があり、低域もこんもりと存在感を放っている感じだ。機能面では、メイン・コントロールこそフェーダーではないものの、その効き方はよく研究されており、“LEVEL”(原体の表記は“BALANCE”)、“FUZZ”(FUZZ DEPTH)ともに、それぞれパラメーターの上が実機よりもう少し出ているくらいで、余計な味付けもされておらず、かなり原体に忠実に作られている印象だ。そして、やはりこの個体の最大の醍醐味は“TONE”フット・スイッチに集約されるであろう。本物もそうだったように、元のドンシャリ・サウンドを、ピーキーなアッパー系に変化させるものなのだが、変わった後の音も何だか“OCTAVIA”というにはミドルのコシが全く足らないし、ACE TONEのような突き抜ける昇天サウンドにもならないという、なんとも微妙なもの。現代からいえば何処をどうしても使いにくいサウンドのオンパレードに違いないが、そこには、何とも言えないフワフワとした味付けがあって、それはそれで楽しめるというものだ。むしろワウなんかとの組み合わせでは、下手に整ったモダン・ファズなんかより、かなり面白い手応えのサウンドになるはずだ。
ただ、ここまでの説明ではさすがに使うのを躊躇う人も多いと思うが、ご安心いただきたい。この実力派メーカーのファズは、ただのビンテージ・コピーでは終わらず、ちゃんと現代でも使える新たなステージ・セレクトを用意しておいてくれている。それが、“CLIP”トグルである。要は、これで“STANDARD FUZZ”シミュレートに用いるオールド・スタイルのゲルマ・モードから、この機種独自の1N914シリコン・ダイオードでクリップさせるモードに切り替えて使えという事らしい。試しにこれをUP側(1N914クリップ)に入れてみると……その効果はてきめん。一気にミドルに艶が生まれ、高域もスマートに伸びるようになり、力強いアタック感が歪みに乗るのがわかった。しかも、コントロールがそれに綺麗に追従してくる。“TONE”スイッチを踏むと、アッパーオクターブではないものの、しっかりとハイ・ポジションのリードがヒステリックな咆哮を上げるようになった。しかも、ちゃんと元のIbanezらしい浮遊感は失っていない。二つの音域に渡るチューニングの見事さもそうだが、1N419というごく平凡なクリップで、こんなに上手く使える音を捻出するとは、さすがのセンスと言わざるを得ない。今後はいったいどんな魔術を見せてくれるのか、本当に楽しみなメーカーである。
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正式な表記ではfunction f(x)と書くこのブランドは、まだ2014年に立ち上げられたばかりという期待の新星ブランド。年齢も居住地も異なる俊英達が、主宰の一人であるBrian A(ブライアン・エー)の運営するDIYフォーラム「Madbeapedals」で知り合った事をきっかけに、妥協無きペダルの追求を目的に集ったこのプロジェクトの目指す先には、常に高い理想がある。それは、あらゆる既成概念の向こう側にある「誰もが認めるサウンドと信頼性」を、彼らが作るすべてのペダルに封入すること。“Clusterfuzz”は、シリコン、FET、ダイオード、LEDのすべてを使った真にバーサタイルな古今例のない傑作ファズである。
「万能」……そう言うだけならば簡単なのだが、実際に、ファズという最もセオリーが乏しいジャンルでそれを達成しようとする試みは、かつて誰も成功した事の無い難業である。名機はあっても、正解は無い。それがファズ。ギタリストにとっては最も古典的なそれは、イメージする音色が人それぞれであまりにも違いすぎる。それでも、この“NONE”(クリップ無し)-“LED”-“FET”(MOSFET 2N7000ペア+シリコン)-“SI1”(一般的なシリコン系スイッチング・ダイオードのペア)-“SI2”(高周波シリコン系ショットキー・ダイオード)の5つのモードに加え、ボリュームと干渉しながら出力系にかかる“TONE”と入力側で外部デバイスとの相性を図る“FILTER”の二つのハイカット、そして、2段階のトランジスタ・ゲインを有機的にコントロールできる“8-BIT”ノブを駆使して音を作っていくほどに、そのセットできる音色のあまりの多さと、どのセッティングでも必ずコントロールが有効に働くようにセッティングされている緻密なチューニングに驚かされる。その音像の中にはもはや原型を成さない圧縮されたノイズや、ほとんどクリーンに近い高域の倍音のみで構成されるアコギのようなフィールを含んだモジュレーション歪み、そして、ビーコンのように長い波形を持つモービッドなエレメントまで……確かに現れる瞬間がある。それをほとんどシームレスでコントロールできる上、シンセサイザーほどのコントロールが無い分、あくまで「歪み」の──しかも「ファズ」という領域を絶対にはみ出さないで保っているこの感覚は、混乱よりも先に、ただ、ひたすらに見事としか言いようが無い。
通り過ぎる瞬間の音に、自分の理想の音が無かったかと言われれば自信は無い。戻れば戻るほど深みにはまる……こんな事は、初めてである。これほど多彩な音域を操れるにもかかわらずプリセットを装備していないのがどういう意図を持っての事かはわからないが、少なくとも、彼らはこの用意されたファズという宇宙の『整合性』の上で勝負しろと言ってきているのである。この茫漠とした可能性によるリスクが、自分の力量不足から来るものなのかさえもわからない。趣向や年齢、環境、知識を越えて、あらゆるニーズに幸福を運ぶ夢のペダル……もしかしたら、このファズは、少なくとものそんな理想が、決して口先だけのものでない事を我々に教えてくれるために生まれた「極上の皮肉」、あるいは「奇跡の第一歩」なのかもしれない。
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新興ブティック・ドライバー(海外編)、いかがだったろうか? エレキギターをやっていれば、ほとんどの人が持っているはずの歪み系。マニアックなメーカーも入れたので、詳しい人もそれなりにそういった新興ブランドの個性を楽しんでくれていれば幸いである。
久々に、エフェクターを弾き倒した観のあるリサーチだった。仕事柄ある程度知っていると思っていたのに、まだまだ近年のエフェクター・メーカーの実力には驚かされる取材であった。いやはや、世の中にはスゴイ技術者達がたくさんいるものだ。そして、皆さんとても耳が良くていらっしゃる。良いエフェクターを作るには、まず良い音を知っていなければいけない。そして、自分の耳で捉える音に関してもシビアでなければならない。今回集めたメーカー達は、確実にその条件を二つとも十二分に満たした人達であろう事は疑う余地もない。よほど若い時分から音楽的に良い環境に育った人達なのだろう(もちろん、天性のものもあるのだろうが)。そして、そういう時間をとても大切にしてきたに違いない。
月並みだが、エフェクターって本当に凄い。特に、今回挙げたようなブティック・ペダルの場合、そのビルダーの音の好み、耳の良さから、こだわり、そして人となりまでもくっきりと透けて見えるようだった。そのエフェクターを弾くだけで、作った本人と何日も語り合ったかのような情報量がその小さな箱には詰まっているのである。ブティック・エフェクターに触れる……それは有名レストランで食事をしたり、高名な絵画を鑑賞したりするのに引けを取らない濃厚な時間だったように思える。そういった素晴らしい機会を与えてくれたデジマートに感謝したい。
そういえば、エフェクターと言えば、(株)シンコーミュージック・エンタテイメントの『THE EFFECTOR BOOK』というムックとのコラボが、デジマートとの間でつい先日実現したのをご存知だろうか? 出版業界の枠を超えてのなかなか大胆な試みだと思うが、こういった素晴らしいエフェクター達をもっと世に広めるためにも、この試みはとても大きな意味を持つはずだ。私もよく『THE EFFECTOR BOOK』では記事を書かせていただいているので、今度はデジマート内で、何かこの本がらみのコアな企画をやってみたいものである。乞うご期待……!!(宣伝、宣伝、っと……)
それでは、次回9/9(水)公開の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。