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ゲルマニウム・ファズの音は温度によってどう変わるのか?

ゲルマニウム・ファズ実験

  • 文:井戸沼 尚也

今回はトランジスタにゲルマニウムを使ったファズに関する実験です(以下、ゲルマ・ファズ)。「気温によって音色が変わる!」と言われているデリケートなゲルマ・ファズですが、実際にどう変化するのかわからないという人も多いはず。そこで(夏ですのでキャンプ気分で)ゲルマ・ファズを冷やしたり、温めたりして、サウンドの違いを確かめてみました。

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【実験テーマ】ゲルマ・ファズの音は温度によってどう変わるのか

■ゲルマ・ファズにまつわる噂
ジミ・ヘンドリックスもゲルマ・ファズには悩まされていた

 ジミ・ヘンドリックスは、当時ファズ・フェイスについて“ラジオの音を拾うし、気温によって音が変わる”というのが悩みで、伝説のペダル・ビルダー=ロジャー・メイヤーに相談していたそうです。初期のファズ・フェイスがゲルマニウム・トランジスタを搭載していたことは有名ですが、このゲルマがクセ者で、「気温によって音が変わって困る〜」という情報はネット上にも溢れていますね。まぁ、自宅使用が中心であればそれほど問題ではないかもしれませんが、野外での演奏機会も多いプロのミュージシャンは、夏と冬で気温差が30度以上あるなんて状況でも、とにかく弾かなければならないわけです。そうなると、デリケート過ぎるゲルマ・ファズは当然「使いにくい」となるわけなんですね。

 “気温によって音が変わる”。では、いったいどう変わるのか? それがきちんと記録されているものは見たことがありません。見たことがないものは、実験したくなるサガなんですが、どうやってゲルマ・ファズの温度を調整すればいいものか? 地下実験室内で思いっきり冷房を強くし、その後、暖房に切り替える? でも、大して差が出ないよなぁ。思い悩んで、いつものデジマート編集部W氏に相談しました。すると一言……。

 「鍋にぶっこんで、茹でりゃあいいんじゃないですか? 室長のファズを」

 ……こ、この人は天才なのか、バカなのか……。そこのところはわかりませんが、温度調整はできそうだということはわかりました。では、今回もムチャな実験ですが、やってみましょう!

【実験環境】

■使用機材
フェンダーUSAアメリカン・スタンダード・ストラトキャスター(ギター)
フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
プロビデンスS101(ケーブル)
tcエレクトロニック Ditto X2 Looper(ルーパー)
ジム・ダンロップ FFM2(ゲルマ・ファズ)
フルトーン・ソウルベンダー(旧型/ゲルマ・ファズ)
ジム・ダンロップ JHF1(比較用 シリコン・ファズ)
ダダリオ EXL110(弦)
フェンダー ティアドロップ・ミディアム(ピック)
tcエレクトロニック polytune(チューナー)
クーラーボックス
◎鍋
T-fal
ジップロック
◎表面温度計
デジハンド
◎ドライヤー
◎氷&ビール&つまみ

※セッティングについて
■今回の実験では、まずストラト/リア・ピックアップのクリーンな音をルーパーに入れ、そこからファズにつないで音質をチェックしています。
■すべてのファズは、実験開始直前に新品の電池に入れ替えています。
■アンプのセッティングはクリーンでイコラザーはフラット、ルーパーのセッティングも変えていません。
■今回の実験も、なるべくヘッドフォン/イヤフォンを着用の上、聴き比べてください。

実験1 ゲルマ・ファズ/ジム・ダンロップFFM2

 かわいいと評判の、ファズ・フェイス・ミニ。中でもこのFFM2にはゲルマニウム・トランジスタが搭載されています。こちらは今、最も入手しやすいゲルマ・ファズということで実験の基準に使うのに良いかと思い、私物の中から選びました。早速、常温(室温24℃)でチェックしてみます。

常温───24℃

 えー、まぁ、いわゆるファズの音ですね。まずはこれを基準とします。今回も波形もつけましたので、チラリと見ておいてください。次にこれをグレイトフル・デッドのジップロックに入れて(こんなのあるんですね!)、それをクーラーボックスに入れて冷やしました。取り出してみると、おおっ、キンキンに冷えてます! ルービ、まいうー!

極冷───10℃

 ……味だけではなくサウンドもチェックしてみましょう。ペダルの表面温度は10℃です。あら? なんだか音が、ガサガサ……。サステインも短いですね。これは、プレイヤーが“弾きにくい”と感じるはずです。ちなみに私が経験した一番寒かったステージは屋外で気温2℃でしたから、その時のエフェクターはこれよりずっと冷えていたはずです。やっぱり、温度によって音、変わるんですね。波形で見ると5kHzのあたりが落ちていますが、他はそれほど大きく変わっていません。

冷────20℃

 次に、常温で放置し、20℃まで戻しましてサウンド・チェックしました。あ、やっぱり、10℃と24℃の中間くらいのニュアンスだ。実際には室温の24℃とはわずかな温度差ですが、きっとエフェクター内部はまだ20℃まで上がっていなかったんでしょうね。

熱────46℃

 今度は、ゲルマ・ファズを高温の状態にしてみます。表面温度40℃以上を目安に、ドライヤーで温めます。あっという間に46℃になりました。では、音は? おおっ、ぶっ太い! ごっつい! これは凄い! ゲルマ・ファズは夏に弾くに限りますな! 暑っ苦しいけど。ただ、波形で見るとどこが違うのか、さっぱりわからないんですよね……。とにかく音は、ここまでで最高です。さらに温めてみましょう!

激熱───51.8℃

 ここでは、ティファールで沸かした湯を鍋に張って、そこにファズを突っ込むという荒技で温度を上げていきます(地下実験室は裸火厳禁)。えー、表面温度は……51.8℃! よしっ! で、そのサウンドは……あら? あらら? またガサガサ? サステインも、はっきりわかるくらい、短いです。むううぅ、温度が上がれば良いってもんでもないのか? なんて気難しいやつだ、ゲルマ・ファズ。これが、このモデルの特性なのか、個体の特性なのかは定かではありませんので、違うタイプのゲルマ・ファズでも試してみましょう。

実験2 ゲルマ・ファズ/フルトーン・ソウルベンダー(旧型)

 こちらも「ゲルマ使っています」とメーカーが謳っている製品ですね。実験で使用したのは旧型ですが、小型の現行品は皆さんも手に入れやすいかと思います。これは名前からもわかるように、トーンベンダー系のファズです。ブーミーなファズ・フェイス系に比べ、トレブリーなトーンが特徴です。これもFFM2と同じように温度を変えて、音質やサステインがどうなるか、試してみたいと思います。

常温───24℃

 まずは常温の音を、覚えておいてください。波形を見ると、FFM2と違って高域に寄っていることが一目でわかります。

極冷───5.7℃

 次に、クーラーボックスで冷やし、頃合いを見て取り出します。どれどれ、冷えたかな? パキッ。んぐんぐ。プハー。……大丈夫、よく冷えておりますよ。それでは、サウンド・チェックをば。えー、表面温度5.7℃のサウンドは、なるほど、FFM2ほど顕著ではないものの、やはり痩せて、サステインも短めです。ちょっと、電池切れかけ的なニュアンスですね。波形で見ると……うーん、ほとんど同じですねえ。今回、音の違いが「どの帯域が出る・出ない」という変わり方ではなく、「サステインがある・ない」、「歪みの粒が粗い・細かい」という変わり方なので、波形に表れにくいのでしょうか。波形はあくまで参考程度に。ぜひ自分の耳でチェックしてみてください。

冷────15℃

 続いて、常温に戻す途中、15℃でも音を確かめてみましょう。ポチッ。ああ、これもFFM2と同じパターン、極冷と常温の中間のサウンドで、ペダル内部の温度が上がりきっていないのか、冷え寄りな感じです。やはり常温の音が一番いいですね。波形は例によって、違いを見つけられません。しかしこのくらいの温度には、真冬であればすぐに下がるでしょうから、やはりゲルマ・ファズは冬場は厳しいということになりそうです。

熱────42℃

 では、温めてみましょう。先ほどと同じく、まずはドライヤーで温めます。目標は40℃以上。42℃になったところで、サウンドをチェック。なるほど、常温よりも少し押し出しが強い音になっています。気持ちアタマが潰れていますが、ここまででは最もパワフルな音と言っていいかと思います。

激熱───55.2℃

 では最後に、鍋で温めてみましょう。ジップロックを二重にし、ペダルを湯に浸けます。待つこと、約5分。引き上げて表面温度を測ったところ、55.2℃! よし、サウンド・チェ〜ック! お? これはFFM2のように、サステインが極端に短くなるようなことはないですね。粒は粗めでコンプレッションも強いですが、今回の実験の中では一番パワフルな音です。まぁ、一口にゲルマニウム・トランジスタと言ってもいろいろな種類がありますし、回路も筐体も違うのだから、熱の影響の受け方が違っても不思議ではありません。でも、どちらも明らかに温度の影響を受けたことだけは、確かです。

 では、比較実験としてシリコン・ファズも試してみましょう。

実験3 シリコン・ファズ/ジム・ダンロップ JHF1

常温───24℃

 では、シリコンのJHF1を常温で試してみます。ポチ。むう、ノイズが多いなぁ(と言ってもビンテージのオリジナルより全然少ないですが)。そしてこの段階から熱を加えたゲルマのようなパワフルさと飽和感があります。今回の実験では試していませんが、このJHF1はファズ・フェイス・シリーズの中でもギター側のボリュームを落とした時の鈴鳴り感が素晴らしいモデルなので、ぜひ一度試していただきたい機種です。波形もソウルベンダー系ではなく、完全にFFM2と同タイプですね。低域がガバーッと持ち上がっています。でも200Hzの辺りが大きく削れているのがJHF1の特徴です。これを踏まえて、実験を進めていきましょう。

極冷───8℃

 まずはクーラーボックスで冷やします。嗚呼、ほらまた飲んじゃった。バカだなぁ、この人(自分)。で、表面温度は8℃。そのサウンドは、常温とまったく同じ……ではないですね。これも、冷やすとニュアンスが変わりました。ピッキングのノイズなんかが、こっちの方が出てますね。ニュアンスは違うんですが、ゲルマのようにサステインが落ちていないので、たぶん“弾きにくい感”がないんでしょう。この辺が、「ゲルマは冷えるとダメ、シリコンは大丈夫」という差になるんでしょう。ちなみに波形では違いがわかりません。

冷────18℃

 次に、常温に戻しつつ、少し冷えている状態、18℃でチェックしました。音については、ほぼ常温に近いですね。

熱────41℃

 ここから温めてみます。まずは、ドライヤーで、ブオーッ!

 “ボッ!”

 ああ! ドライヤー使い過ぎたもんで、ブレーカー落ちちゃいました……。「ドライヤー使ったくらいでブレーカーが落ちるスタジオなんて、あるんかい!?」とお思いでしょうが、あるんですよ。ふっふっふ(自嘲)。我々、日々限られた予算と時間、そして電力で、精一杯頑張っとるわけです。さて、再開。同じ過ちをくり返さないよう省エネ作戦で照明を消したので、画面が薄暗いです、侘しい……。なんとかファズの表面温度を41℃にまで上げ、サウンドをチェックしました。うわー。ムチムチですよ、音が。常温のほうが音の輪郭ははっきりしていますが、このムチムチ感も捨てがたいですね。皆さんはどちらがお好みでしょうか?

激熱───61℃

 さらに温度を上げてみたいと思います。JHF1を鍋に入れて……なんか、鍋の大きさとJHF1の形がマッチしていて、う、嬉しい!! まぁ今となっては何が嬉しかったのかよくわかりませんが、この時は「うっすら酔っていた」ということでしょう。しかし「あきらかに酔っ払っていた」というほど正体をなくしていたわけではありません。その証拠に、途中で編集部W氏の局部の表面温度を測ろうとして、踏みとどまった自分がいます。えらいぞ、私! 危ないぞ、私。すんでのところで職を失うところでした。

 で、おでん……ではなくJHF1を引き上げ、温度を測ったところ、本日最高の61℃! 果たしてそのサウンドやいかに? 音は、ますますムチムチ感が増し、ミドルに寄っている感じです。簡単に言えば、「篠崎愛」です。まぁ音の輪郭ははっきりしなくなっているので、好き嫌いはあるでしょうが、FFM2のように“明らかにダメな音”ではないですね。

実験結果

結論 ゲルマ・ファズは常温〜40℃程度で使うべし!

 やっぱり、温度によって音が変わるんですねぇ。発見だったのは、ゲルマだけでなく、シリコンも温度によって音が変わるということです。ゲルマのように明らかにダメになったりしないだけで、ニュアンスは結構変わりましたね。うーん、ディレイやワウワウなんかも湯煎してみたくなったのは、私だけでしょうか? 

 それでは今回の実験はこれにておしまい。次回、地下18階(8月1日更新予定)でお会いしましょう!

【注意】
当コーナーの実験内容を自ら行う際は、個人の責任において、細心の注意を払って行ってください。火気の使用による怪我や火災、冷やす、温める等の行為によるエフェクター機器のダメージを含む万が一の事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承ください。

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製品情報

ゲルマニウム・ファズ

※下の検索ウィジェットはゲルマニウム・トランジスタを搭載したファズを保証するものではありません。詳しくは個々のページでお確かめください。
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プロフィール

井戸沼 尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』

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