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- 2024/11/16
アナログ・レコード・プレーヤー/オーディオ・インターフェース
最近若手アーティストを中心にアナログ・レコードによるリリースを耳にする機会も多く、いろいろとアナログ・レコード復権のニュースが目立つ昨今。部屋で針を落としながらレコード・ジャケットを愛でるのも一興ですが、やはり音源をデジタル化して外に持ち出して聴きたい。でも折角デジタル化するのであれば、高音質ハイレゾ化してしまおう!ということで、今回はアナログ・レコードのハイレゾ化方法を紹介しましょう。
CDの需要が伸び悩む中、再び人気が高まっているのがアナログ・レコードです。80年代に入りCDが浸透すると、レコードの需要は落ち込みましたが、音質にこだわりを持つオーディオマニアを中心に根強い人気がありました。それが近年、現役のミュージシャンがレコードで新たな音源を発売することも増え、中古レコードの需要も伸びているようです。それを反映するように昨年、渋谷のHMVも“record shop渋谷”として復活しましたね。
ではなぜ、再びレコードに注目が集まるのでしょうか? ひとつはデジタル配信が多くなり、改めてパッケージの良さが見直されているからだと思います。さらに大きな理由は、その音質にあるのではないでしょうか。アナログならではの温かみのある音は、やはりライブで奏でられる生の音質にも近く、人の耳が心地よく感じるからだと思います。そのサウンドからもパッケージからも、
レコードをデジタル化すると、レコードの良さが失われると思われる方もいると思います。ですが実際に試すとわかりますが、デジタル化してもレコード特有の質感を感じることができます。また、マニアックに録音の音質を追求する要素も満載で、楽しみながら自分だけのオリジナル・ハイレゾ音源を作ることができるのです。
レコードをデジタル化するためには、いくつかの機器を用意する必要がありますが、ここではスタンダードな方法に絞って紹介していきましょう。まず必要となるのが、レコードを再生するためのアナログ・レコード・プレーヤーです。基本的には、ほとんどのタイプのレコード・プレーヤーを使うことができますが、選ぶポイントがいくつかあります。まず、“RCA出力端子”の付いたプレーヤーを選んで下さい。また、カートリッジ(レコード針)をヘッドシェル(カートリッジをプレーヤーのトーンアームに接続する部分)に付けるだけで、手軽に交換できるタイプのプレーヤーをお薦めします。レコード針によって音質に変化を付けられますし、針にトラブルがあった際にも手早く対応することができます。
ここで紹介する『TEAC TN-350』は、ベルトドライブという駆動方式でターンテーブルを回しています。これは求めやすい価格から、ハイエンドなレコード・プレーヤーまで広く使われる方式です。これ以外にも、ダイレクトドライブと呼ばれる駆動方式のプレーヤーもありますが、これはどちらでも構いません。ですが、ベルトドライブ方式の多くには消耗部品であるゴム製のベルトが使用されているため、すぐに壊れることはありませんが、いずれ交換しなければなりません。
さらにTN-350は“フォノイコライザー”も内蔵しています。フォノイコライザーは、レコードに刻まれた微弱な信号をライン出力レベルまで増幅する効果と、RIAAカーブと呼ばれる、低域が小さく、高域が大きく溝が刻まれているレコード特有の音を、録音時のサウンドに近づける効果があります。したがってフォノイコライザーを使わないと、レコードの音を正しく再生することができません。TN-350に内蔵されているフォノイコライザーは、“MM型”(VM型含む)と呼ばれるカートリッジに対応しています。MM型のカートリッジは、もうひとつの“MC型”と呼ばれるカートリッジよりも出力電圧が高く、求めやすい価格で売られているのも特徴です。MM型のカートリッジは、再生レンジが狭いですが、力強いサウンドのものが多く、ロックやブルース、ジャズなどを聴く人に好まれる傾向があります。名カートリッジのひとつ、Shure M44もMM型ですね。
対して、MC型のカートリッジは、出力電圧こそ低いですが、再生レンジが広く、繊細なサウンドを表現することができます。ただし価格が高価で、中には何十万円もするものもあります。このMC型のカートリッジを使うためには、対応するフォノイコライザーを別途用意する必要があります。下記写真のフォノイコライザー『audio-technica AT-PEQ20』は、MM/MC両型に対応したフォノイコライザーの中では、エントリークラスと呼べるものですが、TN-350のようにMC型フォノイコライザーを内蔵していないレコード・プレーヤーを使う際に必要になります。ちなみに、TN-350にはaudio-technica製のMM(VM)型カートリッジが付属していますので、最初はこのカートリッジで十分楽しめる再生音が得られると思います。
次に必要になってくるのが、レコードからのアナログ信号をデジタルに変換するオーディオ・インターフェースです。今回は、24bit/192kHzのハイビット/ハイサンプリングに対応した『TASCAM US-366』を使いました。この機種を選んだ最大の理由は、ハイレゾ対応と、RCA入力端子が付いている点です。一般的に、レコーディングなどに用いられるオーディオ・インターフェースは、XLR(フォーン)端子のみの機種も多く、RCAで入力するためには、変換プラグを使う必要があります。レコード・プレーヤーの出力の多くはRCAなので、直接RCAを入力できるUS-366は、レコードのデジタル化には便利なインターフェースと言えます。ただし、レコーディングと同様、オーディオ・インターフェースでも音質に違いが表れるため、お気に入りのインターフェースを使って録音するのも楽しいと思います。
最後に、デジタルに変換された音声信号を録音するためのPCとDAWソフトが必要になります。最近はオーディオ・インターフェースを購入すると、DAWソフトが付属していることが多いので、新たに購入しなくても十分にレコードのデジタル化に使用することができます。US-366は、Cakewalkの『SONAR X3 LE』(Windows7以降に対応)、Ableton『Live 9 Lite』(Windows XP以降/Mac OS X 10.5以降)がダウンロード可能なので、新たにDAWソフトを購入する必要がありません。ただし、デジタル化したレコードの音を、さらに自分好みにマスタリングしたいと考えている方は、好みのDAWソフトや波形編集ソフトを使うと、一段上の音質を目指すことができます。ぜひいろいろと試してみて下さい。
アナログ・レコードの音を取り込む際に、より高音質で録音するためには、レコード・プレーヤーのセッティング、レコードの状態に気を配る必要があります。もちろん高性能な機器を使うということも、音質を向上させるためには必要ですが、高価な機器もセッティングがアバウトだと、良い音質でレコードを再生することができません。この辺りが、アナログ再生の趣味性を高めている要因でもあります。
ここでは音質アップが見込めるポイントを簡単にご紹介したいと思います。まずレコード・プレーヤーの設置についてですが、水平かつ安定した場所に設置することが望まれます。こだわる方は、水準器を使ってプレーヤーの水平を整えます。プレーヤーが水平に設置されていないと、レコードを正しく再生することが難しくなります。また、多くのモデルは箱から出して設置すれば、すぐにレコードを再生できる状態ではありません。ターンテーブルを設置し、トーンアーム(レコード針の付いたカートリッジを取り付けるアーム)、カートリッジの針圧(レコード針にかかる圧力)を調整することで、初めて適正なレコード再生が可能になります。
次に針圧の調整ですが、下記写真のようにトーンアーム後方に付ける、ウェイトを前後に調整することで行ないます。TN-350に付属のカートリッジは、適正針圧が1.4gなので、写真のようにメモリを1.4に合わせます。ただしアームが正しく調整されていないと、目盛りを合わせても針圧が合わないこともあります。より緻密に行ないたい場合は、針圧計と呼ばれる機器を使い、針圧を調整します。また針圧は、適正に合わせるのが基本ですが、ここを好みに合わせることでも、音質を調整することもできます。こういったところが、楽器の音作りにも似ていて、マニア心をくすぐります。よりレコード・プレーヤーの調整等を知りたい方は、様々な書籍が出ていますので、それを参考に挑戦してみて下さい。
最後に、録音するレコードは盤にソリがあるもの、ホコリまみれや深い傷が入っているものは、再生時のノイズや針飛びの原因となるため、あまり適しません。できる限り状態の良いレコードを使い、録音する前には市販のクリーナーなどを使って磨くことも必要になります。レコード・プレーヤーの調整、デジタル化するレコードの状態がしっかりと整ってこそ、ハイビット/ハイサンプリングで録音する良さも出ると思います。ぜひレコード・プレーヤーを購入したら、セッティングにこだわってみて下さい。
レコード・プレーヤーを適切にセッティングし終えたら、オーディオ・インターフェースと接続します。今回使用するUS-366には、フォノイコライザーが付いていないため、TN-350内蔵のものを使います。よって、背面に付けられたフォノイコライザーはオンにします。もし外部のフォノイコライザーを使う場合には、これをオフにして使用します。次に、レコード・プレーヤーのRCA出力端子にRCAケーブルを接続し、オーディオ・インターフェースのRCA入力端子へと繋ぎます。最後に、USBケーブルを用いて、PCとオーディオ・インターフェースを接続して準備完了。レコードの再生音をモニターするには、オーディオ・インターフェースのヘッドフォン出力やライン出力にそれぞれ機器を接続してモニターします。
今回、録音に挑戦したレコードは、ギターでも有名なレス・ポール(&メリー・フォード)の名盤、『THE HIT MAKERS!』です。録音技術が成熟していない時期に、実験的な方法で録音された名曲が数多く収録されています。CDも発売されていますが、レコードは味わい深いサウンドを奏でてくれます。
上記写真のようにセッティングが完了してしまえば、レコーディングは難しくありません。ただし、入力レベルは0dbを振り切らないように調整する必要があります。ポイントとしては、はじめから音が割れてしまうギリギリの音量で録音せず、録り終えた後に、DAWソフトに内蔵されている “ノーマライズ”機能等で音量を稼ぐ(整える)のがお勧めです。録音手順ですが、まずDAWソフトを立ち上げ、オーディオ・インターフェースが認識されているかを確認して下さい。次に、レコードを再生し、DAWソフトへ音声信号が伝わっているかを、ソフトの画面上にあるフェーダーなどでチェックします。しっかりと信号がDAWソフト上に反映されていることが確認できたら、入力信号の大きさもチェックし、過大入力になっている場合は、オーディオ・インターフェースの入力レベルを調整しましょう。
次に、任意のビット/サンプリングレートを設定しますが、使用するオーディオ・インターフェースによって上限が異なってきます。高いレートにすれば、それだけファイル・サイズが大きくなりますので、PCのハードディスク容量に気を付けながら設定しましょう。ここまでくれば後は録音するだけですが、注意したいのは“DAWソフトの録音ボタンを押してから、レコードを再生する”ことです。レコードの針を落としてからだと、DAWソフトの録音ボタンを押すタイミングによっては、最初の音が途切れてしまったりすることもあるからです。レコードを録音している途中は、レコード・プレーヤーには触れずモニタリングしながら楽しんで下さい。レコード・プレーヤーを揺らしてしまうと、正しく再生されず、録音した音にノイズが入ったりします。
レコードから送られた信号がDAWの波形として反映されたら、先述したノーマライズ等の機能を使って音量を整えます。音量を整えないと、CDからリッピングした音源等と一緒に聴く際に、音量が著しく異なったりします。何度かトライすると録音レベル調整のコツが掴めると思いますので、手持ちのレコードを何枚か試してみて下さい。
最後に、不要な部分をカットしたり、ヒスノイズ等を除去(DAWソフトによっては便利なノイズ除去プラグインが入っていることがあります)したり、好みの音質に近づけることもできます。後は、好きなファイル形式に書き出すだけですが、ハイレゾでレコーディングした音源は、できればWAVやAIFFといった非圧縮、もしくはFLACやALACといったロスレス・ファイルでの書き出しをお薦めします。
最後にアナログ・レコードのデジタル化などにお薦めしたい、オーディオ・インターフェースをご紹介します。もちろん手持ちのものでも、楽しめると思いますが、24bit/48kHz以上のクオリティで録音したい方は、ぜひそれに対応したオーディオ・インターフェースを使って、レコードをハイレゾ化してみて下さい。
PC用のサウンドカード、“Sound Blaster”シリーズなど、コストパフォーマンスの高いPC周辺機器を数多く発売するクリエイティブ。同社より発売されているUSBオーディオ・インターフェースは、フォノイコライザー(MM型)を内蔵し、RCA入力端子を備えているため、レコードのデジタル化では使いやすいモデルです。求めやすい価格ながら、24bit/96kHzでのAD/DAが可能で、ハイレゾ音源を楽しむことも可能です。マイク入力は、ミニ・ジャックのみとなるため、本格的な楽器録音には向きませんが、レコードやカセットテープのデジタル化にはお薦めです。付属ソフト“Creative Media Toolbox”を使えば、すぐに録音できますが、Windows(XP SP2以降)のみの対応となります。
ギター/ベース用などのコンパクト・エフェクターから、オーディオ・インターフェース、ハンディ・レコーダーまで、高品位で使いやすい製品を展開するズーム。同社から発売されているUAC-2は、USB3.0に対応した2in/2outのオーディオ・インターフェースです。筐体デザインも美しく、ノートPCとの親和性も高そうです。フロントに装備されたXLR/TRSフォーン・コンボジャックは、マイク/楽器/ライン入力に対応可能で、高性能なマイク・プリも内蔵されているため、レコードのデジタル化だけではなく、宅録などにも重宝します。また本体はバス・パワーで動くため、AC電源を持ち運ぶ必要がなく、外出先などでも手軽に使用できます。AD/DAは、24bit/192kHzまで対応し、録音のみならず、ハイレゾ音源を聴くDACとしても重宝しそうです。DAWソフトとして『Cubase LE』のダウンロード版も無償提供されます。尚、フォーン・ジャックにRCA端子を入力するには、RCAピン-フォーン変換プラグが必要になります。
楽器ブランドの老舗、ローランドから登場したDSDの再生にも対応した2in/6outのUSBオーディオ・インターフェースが、UA-S10 Super UAです。かなり気合いを入れて産み出されたことが伺われるような、デザイン性の高い筐体がその性能を物語っているように思えます。独自に開発されたDSPエンジン「S1LKi」によって、高品位なサウンドが得られるように設計されています。録音はPCMのみで、24bit/192kHzまでの対応となります。再生は、DSDが5.6MHzまで、PCMは32bit/352.8kHzまで可能ですが、352.8kHは176.4kHzにダウン・サンプリングされて出力されるようです。またDSDの再生に関しては2chまでの出力となっています。本体の入力端子はTSRフォーン・ジャックですが、付属のブレークアウト・ボックスにはXLR端子が装備され、さらに小型軽量のため、ライブ・レコーディングなどにも重宝しそうです。レコードをデジタル化する場合には、ZOOM UAC-2と同様に変換プラグを使い、フォーン・ジャックから信号を入力します。
ADL(Alpha Design Labs)は、ハイ・グレードなコネクターやケーブルなどを手掛けるFURUTECHのブランドです。このUSB DAC以外にも、小型のヘッドフォン・アンプなどが、同ブランドから発売されています。この製品は、USB DACとして販売されていますが、DAだけでなくADも可能です。予めレコードのデジタル化を想定しているかのように、MM/MC型両対応のフォノイコライザーも内蔵。AD/DAは24bit/192kHzまで対応可能で、レコードをハイレゾ化することができます。レコードとハイレゾ音源、両方楽しみたいユーザーにもお薦めです。入力端子はRCAのみなので、楽器のレコーディングには向きませんが、レコード/カセットテープなどをデジタル化するには、特にお薦めしたい機種ですね。入出力やUSB端子に金メッキのものを使うなど、細かな所も音質に配慮した工夫が凝らされています。ワンランク上の音質を狙う方は、ぜひチェックしてみて下さい。
今回のアナログ・レコードのハイレゾ化は如何でしたか? レコードだけではなく、テープデッキがあれば懐かしのカセットテープをデジタル音源化することもできます。あのテープ特有の雰囲気もしっかりと感じられると思いますので、ぜひ色々と試してみて下さい。デジタル化すれば、レコードやカセットと違い、音源の劣化を防ぐこともできますからね。ではまた次回! 好きな音楽に囲まれて梅雨を乗り切りましょう!
※次回ハイレゾ入門は7/15(水)公開予定です。
菊池 真平(きくち・しんぺい)
音楽雑誌「Player」、オーディオ誌を発行するステレオサウンド社で「Beat Sound」、「Digi Fi」の編集に携わった後に独立。現在はフリーランスで、ヴィンテージ・ギター関連書籍/ギターに関する雑誌等に、編集/ライターとして携わる。国内外のミュージシャンへのインタビュー等も多数行っている。