楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 連載
  • デジマート地下実験室〜地下16階

弦の種類によってギターの音と演奏性はどう変わるのか?

〜弦実験〜

  • 文:井戸沼 尚也(室長)

第16回は弦実験です。基本的に同じ太さ(.010〜.046)のギター弦を、ブランドや素材違いで16種集め、そのサウンドや弾き心地をチェックしてみました。けっこうガチな企画ですので、皆様の弦選考の一助となれば幸いです。

このエントリーをはてなブックマークに追加

【実験テーマ】

弦の種類によってギターの音と演奏性はどう変わるのか?

 弦選びの基準は、人それぞれのようです。スタジオ仕事の多い職人系のギタリストはピッチの良さ、安定感、各弦のバランスなどでシビアに選ぶ人が多いようですし、一方、アーティスト・タイプの方の中には「弦? 知らね。とりあえず、テックが張ってるのを使っている」という無頓着さでありながら、素晴らしいプレイ、素晴らしい音を聴かせる人もいます。面倒くさいのが、ケーブルはどこそこのがいいとか、ペダルは○○で電池は△△がいいだとか言いながら、弦に関しては「買いやすいの」を使っているとかいうタイプです。まぁはっきり言って私のことなんですが、私はなぜ、振動の大本である弦のことをきちんと考えないのか──それは、弦の張替えとかチェックとか、いろいろ面倒だから──と自問自答しているところに、デジマート・マガジン編集部Wさんから電話がかかってきました。

W「室長、今度の実験は“弦”でいきましょう! 数を揃えて、片っぱしからサウンド・チェックをしましょう!」
「え、げ……弦ですか(訳:私は、買いやすいものでいいので気が進みません)」
W「そうですよ! 16回目ですから、16種は揃えましょうね!」
「あ、結構、たくさん比べるんですね(訳:いろいろ面倒なので気が進みません)」
W「そうしましょう! では、弦の用意をしておきますね!」

 ということになりました。なってしまいました。こうなっては仕方がありません。全国の面倒臭がり屋でO型のギタリストのために、私、頑張ります!

【実験環境】

■使用機材
フェンダーUSAアメリカン・スタンダード・ストラトキャスター(ギター)
フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
ヴェムラム・ジャンレイ(オーバードライブ)
ヴァンデンハル(ケーブル)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
弦各種

※セッティングについて
■アンプ、エフェクター(音色の違いがわかりやすいように、オーバードライブのツマミは2くらいで、ごく軽くクランチさせています)のセッティングはすべて同じ、ピックアップもフロントのみで弾いています。
■弦は基本的に.010〜.046のセットを集めました。
■すべての弦は“ペグ2個分”の長さの余裕を持たせて、同様に巻いています。
■ストラトのブリッジはフローティングさせずベタ付けにしています。
■今回はルーパーが使えないので、手弾きです。若干のニュアンスの違いについては、ご容赦ください。
■試奏フレーズが非常に短いですが、弦の種類が多いためフレーズが長くなると聴き比べが困難になること、動画のトータルタイムが長くなってしまうことなどから、ごく簡単にまとめていることをご了承ください。
■本編の「素材」は、特記を除いて基本的に巻き線の素材を表記しています。

【実験動画】

実験 Part1・D'Addario素材別編

1. D'Addario EXL110

素材:ニッケル

 定番中の定番、ダダリオのニッケル・ワウンド弦、EXL110です。私も、ソリッド・ギターにはこれを張っています。「買いやすいからこれにしている」等と失礼なことを申し上げましたが、実は買いやすいということは、「流通量が多い」「売れている弦」ということで、店での回転も速いのでしょう、買って開けてみたら錆びていたということはほとんどなく、安心して購入できる良い弦と言えます。
 張りたての音はややブライトで“劣化しないのであればダダリオが一番いい”という著名なギター・ビルダーがいるほど人気がある弦です。2013年8月号のギター・マガジン「弦特集」によれば、プロのギタリストでも石原愼一郎さん、斎藤誠さん、佐橋佳幸さん他、多くの方がこの弦を使用しているとのことです(現在も使用しているかは不明)。今回は、この音を基準としますので、できればヘッドフォンを付けて聴いてみてください。また、今回は手弾きなので参考資料という感じですが、波形も付けて、本モデルを基準としていきます。

2. D'Addario EPS510

素材:プロ・スティール合金

 これは、ダダリオの同じゲージで素材違いの弦です。プロ・スティール合金を使用しており、ダダリオではこれを「スーパーブライト」な弦と称しています。サウンドは、1と比べてもらうとわかるとおり、確かにブライトで、低域に締まりがあり、2を聴いてから1を聴くと若干膜がかかったような感じに聴こえます。波形で見ても2kHzから3kHzのところ、3kHzから4kHzのところが1に比べて飛び出しているので、ブライトな弦だと言っていいと思います。弾き心地については、巻き弦の手触りが独特で、1に比べると独特の“ざらつき感”があり、好き嫌いが分かれるところでしょう。実は私はこの感覚が苦手なのですが、高域が弱いビザール系のギターにはこの弦を張ってバランスを取ったりして、1と使い分けています。

3. D'Addario EPN110

素材:ピュア・ニッケル

 この弦はピュア・ニッケルを使用しており、メーカーによれば「温かみのあるビンテージ・サウンド」ということです。どれどれ。ああ、サウンドについては、1よりほんの少し歪みの成分が多く、なんというか“音に弾力がある”感じですね。波形で見ると、1と比べて400Hzから500Hzのあたりと、3kHz前後のあたりがよく出ています。弾き心地についても、2のような違和感はありません。ちょっとパワー感には欠ける気もしますが、合わせるギターによってはいい味になりそうです。私はこの弦、好きです。

4. D'Addario NYXL1046

素材:ニッケル(巻き線)/高炭素スティール(芯線&プレーン弦)

 これは芯線とプレーン弦に高炭素スティールを使用したものです。「チョーキング強度(何を指しているのかもう一つわかりませんが)が安定し、はっきりとしたサウンドと、チューニングの安定性に優れた」弦ということです。いちばーん最後のEコードを弾くところで1と比べてください、1はスパっと、こちらはパラパラと弾いてしまっているのでわかりにくいかもしれませんが、こちらの方が和音がキレイに響いているのがわかるでしょうか? 音も、確かにくっきりしています。波形はこれまでのもののどれより1に近いですが、それでも2kHzから6kHzあたりまでの感じが異なります。このあたりがくっきり感に影響しているのでしょうか。全体にパワー感もあって、これもいい弦ですね!

 さて、ここでダダリオの素材違いシリーズは終了です。私はここまでで、3のピュア・ニッケルと4の高炭素スティールが好みでした。これまで個人的に使っていたのは12ですので、それより好きな弦が早くも登場してしまいました。
 と同時に、すでにここまでで、今回の実験の過酷さが身にしみてきました……。まず弦を外して、新しい弦を張り、各弦を伸ばしてチューニングを安定させるまで、私の場合15〜20分はかかります。それを16セット分やるとなると、単純計算でも弦の交換だけで4〜5時間はかかるわけです。実際には演奏シーンもありますし、休憩やトラブルも想定する必要があります。撮影までの準備でも時間がかかっていますから、一体トータルでどれだけ時間がかかるのか……。本当は異なる弦を張った同じギターを16本用意して弾いていけば楽ですし、インターバルを挟まない分個々の弦の印象が鮮明になるのですが(正直、30秒ギターを弾いて15分張り替え作業をしての繰り返しだと、30秒の弦の印象がどうしても薄れてしまいます)、それをやってしまうとギターの“個体差”の問題が出てきて、音の違いが弦によるものなのか、個体差によるものなのか判断できません。ここはキツイですが、弦以外の条件は極力同じにするために、イバラの道を歩んでいるというわけです。

 ……こりゃ誰もこんな実験やりたがらないわけですよ。改めて、Dr.D、尊敬します。皆さん、こちらも見てください! 凄いよ! 「Dr.Dの機材ラビリンス 第5回 装填の音質〜エレクトリック・ギター用ストリングス

実験 Part2・ERNIE BALL素材別編

5. ERNIE BALL REGULAR SLINKY(#2221)

素材:ニッケル

 ダダリオの1と並んでエレクトリック・ギター弦の代表格と言える、アーニーボールのレギュラー・スリンキーです。「ギタマガ弦特集」によれば、アキマツネオさん、大渡亮さん、土屋公平さんなど多くのギタリストが使用しています。私ももちろん弾いたことはありますが、こうして同条件でダダリオなどと弾き比べるのは初めてです!
 そのサウンドは……、ちょっと芯の部分が細いような気もしますが、ブライトで、パワー感も適度にあって、ジャキッとした良いトーンですね。イメージとしては“フェンダーのギター”という感じです。波形をダダリオの1と比べると、600Hzあたりは大人しいですが、1〜1.5kHz、2.5kHzあたりは随分と出ているようです。ここ数年ダダリオ派でしたが、こうして弾いてみるとやっぱりアーニーもいいですねぇ。

6. ERNIE BALL COBALT REGULAR SLINKY(#2721)

素材:コバルト合金(巻き線)/スティール(芯線&プレーン弦)

 これは、アーニーボールのコバルトを使用した弦です。メーカーによると「ニッケル合金よりも高い磁性体が特徴で、より優れた磁力反応を獲得、パワフル・サウンドが身上」とのこと。どれどれ? ここはアーニーボールの5と比べてみましょう。んー? 私には、パワフルというよりちょっとすっきりして聴こえますが……どうなんでしょう……。波形を5と比べると、450Hz、600Hzあたりは出っ張っていますが、その間の520Hzあたりは大きな谷ができています。どうもパワフルな感じがしないのですが、もしかしたら、ハイゲイン系のセッティングに強いとか、そういうことなのかもしれませんね。次にいってみましょう。

7. ERNIE BALL M-STEEL REGULAR SLINKY(#2921)

素材:スーパー・コバルト(巻き線)/マルエージング・スティール(芯線)/高硬度スティール(プレーン弦)

 この弦は、「ワウンド弦の芯線には業界初となる強靭なマルエージング・スティール・ヘックス・コア採用し、巻き線にはコバルト含有率を60%まで高めたスーパー・コバルト・ワイアーを使用。また、プレーン弦には、最大の強度を実現させた特別仕様の高硬度スティールを採用。さらにスティール・レインフォースド機能を装備することで、より安定したチューニングと弦切れを最小限に抑える設計となる、サウンド/耐久性/強度の向上」だそうです。なんだか凄そう。
 そのサウンドですが……うわあ、これはジャッキジャキだ。波形で見ると、同じアーニーでも5より6に近いようですが、こちらの方がパワフル、そしてジャキジャキです。この音の感じはちょっと他では得難いですが、お値段もそれなりのようです。しかしこの音が欲しいなら、買うしかないでしょう。

実験 Part3・ブランド別編

8. Dean Markley 2503 REG

素材:ニッケル

 ここからは、ダダリオ、アーニーボール以外のブランドをチェックしていきます。いずれも楽器店で入手しやすいモデルが中心ですので、気に入ったものがあればぜひ実際に試してみてください!
 まずはディーン・マークレーのスタンダードなニッケル・ワウンド弦です。ここからは1ブランド1製品ですので、比較対象を1のダダリオEXL110に戻したいと思います。サウンドですが、ダダリオに比べると芯があるというか、パンチがある感じです。波形を1と比べると、400Hzから500Hzのところ、それから900Hzから1kHzのところが突出しています。また、5kHz以降の超高域の部分が、1はスパッと落ちていますが、このディーンマークレイはしぶとく残っている感じですね。弾き心地については“テンション緩め”という意見を聴いたことがありますが、正直よくわかりませんでした。悪い印象はまったくありませんので、何も気にせず弾けたという感じです。

9. DR MT10

素材:ニッケル

 ハイエンド弦として知られるブランドで、このMT10は巻き弦の芯線に“丸線”を使っているのが特徴だそうです。そのせいかどうなのか、理由はわかりませんが、確かに巻き弦の音が1のダダリオと比べると、強烈に太く、前に出てきます。最後のコード部分の分離感もいいですね。これは良い弦だと思います!! 波形を見ると、ちょっと8のディーン・マークレーに似ていて、1と比較するとディーン・マークレー同様に400Hzから500Hz、そして900Hzから1kHzがぐんと持ち上がっています。ちなみに、この弦は長さがダダリオあたりに比べると、かなり短かったです。フェンダーのストラトに問題なく使えたので、ほとんどのギターはもちろん大丈夫だと思うのですが、念のため。

10. Elixir NANOWEB 12052

素材:コーテッド・ニッケル

 コーティング弦のトップ・ブランド、エリクサーのナノウェブです。これ、プロの愛用者も多いんですよね。小倉博和さん、カトウタロウさん、滝善充さんなどが使用しているようです。プロの過酷なステージ(演奏時間が非常に長い、照明がメチャメチャ熱い他)を乗り切るためには、「必需品だ」と言い切る人もいます。エリクサー以前にもコーティング弦はいろいろあったようですが、結局コーティングが剥がれないということ(そのため手汗の影響を長い間受けにくい)、手触りやサウンドが比較的自然だということなどから、“コーティングと言えばエリクサー”という地位を確立したのだと思います。そのサウンドをこうして改めて聴いてみると、特にコーティング臭というのは感じませんね(私は実際に弾いたので、若干感じるような気もしますが、ブラインド・テストをやったらわかりませんから、たぶん気のせいです)。また、1のダダリオよりかなりパワフルな音でもあります。波形では、400Hzから500Hzは盛り上がっており、2kHzから3kHzのところもかなり強烈に出ています!
 個人的にはこの手触りはやっぱり苦手で、このエリクサーと2のダダリオのプロ・スティール合金だけは、違和感が拭えません(と言いつつ2は時々使っていますが)。エリクサーの名誉のために言っておくと、この弦の真価はこんな実験で発揮できるはずもなく、16種類の弦すべてを1週間弾き狂って、そのあとに再度同じ実験をするとこれがダントツに良い音であろうことは容易に想像できます。

11. Everly Rockers #9010

素材:ニッケル

 このエバリーの弦は、気になっていました。だってこれだけの種類の弦があって、パッケージに女性が書いてあるの、これだけですよ。どの弦も、パッケージがカタイんだよなぁ。で、この弦は素材に特徴があるわけではないようですが、芯線に対して巻き線を超高圧で巻きつける「スーパー・ハイテンション・ワインディング」が特徴だそうです。ふむふむ。で、実際に弾いてみたのですが、この弦はまずチューニングを安定させるのに、少々手こずりました。弦がよく伸びるんですね。で、サウンドそのものについてのバランスは良いのですが(高域の明るさ、中低域の太さ)、各弦の音量バランスがちょっと気になりました。私の弾き方、及びセッティングの問題もあるかと思いますが、3弦が引っ込んでいるように感じたのです。聴いているだけだとほとんどわからないかもしれませんが、弾き手の感覚ではそう感じました。波形で見ると、ダダリオに比べて400Hzから500Hzが出ていて(ほぼ毎回これですね。他が出ているのではなく、ダダリオのそこが出ていないのか?)、どの谷もかなり深くえぐれているのが見てわかります。個人的な感想も含めて述べましたが、パッケージが気になった方はぜひ買って試してみてください。

12. Fender 250's

素材:ニッケル

 フェンダーのニッケル弦です。傾向としては、ダダリオに近いイメージで、パワフルというよりはほどほどのバランス感を持つ、ビンテージ系という感じでしょうか。音色、バランス感、弾きやすさなど、いろいろな点で特別なものを感じなかったというのが正直なところですが、こうした一見地味に思える弦が、今回とは違った実験(どクリーン/ハイゲインでの実験、耐久性の実験、コード・ストロークに特化した実験など)では良い印象を残すこともありますので、これだけではわからないところがあるのも事実です。波形も基本的にはダダリオに近く、例によって400〜500Hzがよく出ているのが目立ちます。フェンダーのユーザーなら、愛器との相性を確かめてみるのも良いのではないでしょうか。

13. ghs BOOMERS 010

素材:ニッケル

 ghsは、昔からダダリオ、アーニーボールと並んで人気の弦です。プロ・ギタリストでも松原正樹さん、増渕謙司さん、魚頭圭さんなどが使用しているようです。とにかくパワフルというイメージを持っていましたが、実際に比べてみるとどうでしょうか。ぱらっと弾いてみると、あ、これはいいですよ! 各弦のキャラクターが、はっきり出ています。巻き弦とプレーン弦とかではなく、3弦は3弦、2弦は2弦の音がしています。で、パワー感もありますが、イメージよりはブライトな弦ですね。波形で見ると、うおっ、2.8kHzあたりがこれまでのどの波形よりも飛び出しています! 2kHzちょい上、3kHz上あたりもがっちり出ていて、やはり高域がよく出る弦と言っていいと思います。うーん、ハイが足りないギターには、今後これを張ってみようかな。

14. Gibson SEG-LP10

素材:ピュア・ニッケル

 ギブソンの弦です。レス・ポールという名の弦を、ストラトに張って良いのでしょうか? まぁ実験ですから、試しにやってみましょう。で、弾いてみると……あれ? これ、プラシーボ効果でしょうか? 何か特有のモチモチ感を感じます。そしてチョーキングした音も、明らかにアタックの後、少し遅れて音が膨らんで、それから伸びるような、管楽器のような……えーともっとはっきり言うとギブソンのギターのような感覚があります。聴くだけだとわかりにくいかもしれませんが、弾いた時にはっきりと感じましたし、収録現場も“おおっ!”とどよめき、ぜひこの弦をレス・ポールに張って試してみたいという声が上がったのは事実です。恐るべし、ギブソン。波形も400〜500Hz、900Hzから1kHz、1kHz以上などダダリオと違うっちゃ違うんですが、それを絡めてこのモチモチ感を説明することができません。とにかく、レス・ポール・ユーザーでいつも定番弦しか張っていないという人は、一度これを試してみることを強くオススメします!

15. SIT Strings S1046

素材:ニッケル

 チョーキングしているパッケージの絵、ステイ・イン・チューンを意味するSITをブランド名に持ってくるあたり、“ウチの売りはチューニングの精度だ”と全力でアピールしているようです。しかし、今回の実験は残念ながら軸足がチューニングの精度よりは音質面にあるので、そういう意味ではエリクサーあたりと同様に、申し訳ない感じがします。音質についてみてみると、うん、これはハイエンド系にくくって良さそうなパワー感がありますが、7のアーニーボールM-STEELや9のDRを弾いた時のような“うおっ!?”という感覚はないので、ハイエンド系の中では比較的落ち着いた音、ということになりそうです。波形についても、1のダダリオと比較すると、400〜500Hzのモリッとした感じ、そして1kHz以上が全体に上がっている感じが、パワフルさを表しています。

16. Blast Cult MAGIC 13

素材:ニッケル

 さあ、長かった実験もいよいよラスト、最後に変なの(?)が出てきました。缶に入った弦、ブラスト・カルトのマジック13です。カルトという言葉がつくブランド名、弦の数をわざわざ西洋では嫌われる“13”に揃えてきた点(6弦×2パック、プラス1弦の予備を1本で計13本1パックです)、そして缶の中の弦1本1本に謎のシールが貼ってある点とか(手の甲に目玉が付いている絵など)、SITとは違う、負の“わかってんだろうな?感”をビシビシ出しています。ひーん、こえーよう。何を弾いても自然にブラック・サバスになってしまうとかないだろうな、と恐る恐る弾いてみると……“これ、いいじゃん!”(マーティー・フリードマン風に)。ブライトでしっかりストラト感を表現しつつ、ビンテージ系ほど枯れてなく(というかパワー不足でなく)、ハイエンド系ほど押し付けがましくなく、かなり自然なサウンドです。ほんの少し、バランス的に3弦が弱いかなとも感じましたが、良い弦ですよ、これ。波形的には200Hzが大きくえぐれている、 400〜500Hzがモリモリ、1.5kHzから3kHzあたりがかなり盛り上がっているなどの特徴があります。最初のイメージが微妙だっただけに、かえって印象が良くなった弦です。

実験結果

結論:弦の種類によって、ギターの音は大きく変わる

 当たり前っちゃ当たり前の結論ですが、やはり弦は大事なので、しっかりと“選びたい”と強く思いました。ちなみに私は個人的に、5アーニーボール・レギュラー・スリンキー9DR MT1013ghs BOOMERS 010、そして最後のブラスト・カルトを購入してみようと思っています。皆さんはどれが良かったでしょうか? 感覚的には、安価なケーブルとハイエンド・ケーブルの違いと同じくらいの差を、弦にも感じました。ケーブルを買って試すのは結構お金がかかりますが、弦なら比較的試しやすいと思います。ぜひ、皆さんも好みの弦を見つけてください。

 他にも弾きやすさや耐久性など、弦にとって大事な要素はたくさんあるのですが、弾きやすさに関しては正直自分のギターに張ってせめて5分くらいは弾いて判断したいところですし、耐久性を試すだけの時間もありませんでした。そのため、本当の実力を発揮できなかったという弦もあるはずで、必ずしもこの実験の結果だけがすべてだとは思わないでください。

 いやー、それにしても今回は地下実験室史上、かつてないほど真面目でしたね。しかし、こんな感じの地下実験室もたまにはやっていきたいと思います。それでは次回、地下17階(7月1日更新予定)でお会いしましょう!

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

井戸沼 尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』

製品レビューREVIEW

製品ニュースPROUCTS