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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第16回

解放の“A”級〜シングルエンド・クラスAアンプ〜

シングルエンド・クラスAアンプ

  • 文:今井靖

ギターの音作りにアンプが重要なファクターとなっている事は、連載第9回「回廊のレスポンス〜新旧パワー・アンプ事情」でもレポートしたとおりだ。“アンプ・マスター” Dr.Dが今回チョイスしたのは、パワー管が1本で構成される「シングルエンド・クラスAアンプ」。ギター・アンプとしても最も原始的かつシンプルな構造を持ち、小出力ながら初心者から上級者まで使える優れたサウンドを持っている事をぜひ知っておいて欲しい。

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プロローグ

 真空管アンプの話をすると、いつも同じ論争に巻き込まれる。

「Matchlessが『クラスA』動作っていうけど、本当かなあ?」
「VOXは『クラスA』アンプだっていうし、そうなんじゃない?」
「バカ、プッシュプルの『クラスA』アンプなんてあるわけないだろ? ああいうのはみんな『クラスAB』って聞いたけど?」
「『クラスA』アンプってちっちゃい自宅アンプだけでしょ?」
「いや、40Wぐらいの『クラスA』アンプもあるっていうぜ?」
「『クラスA』アンプってバイアス調整がいらないって聞いたんだけど……」
「『ピュア・クラスA』って何だよ!? ただの『クラスA』となんか違うの?」

 正直、キリがない。こんな質問にはすぐに答える事ができるし、全てにおいて曖昧な噂話的論法をしらみつぶしにしながら、正しいデータに照らしてその解を導く知識を誰にでもわかるように授ける事さえ難しくはない。実際に、こういった事について懇切丁寧に解説してくれているホームページも山ほどあるので、スマホで検索すれば、飲み屋でくだをまいている間にも自分で勉強する事も可能なはずだ(ホームページ等の情報自体の真偽についてはまた別の話ではあるが)。

 しかし、彼らはそれをしない。知ろうとするそぶりすらない。まるで好きなアイドルや女優の話をするように、『クラスA』という言葉に何だかよくわからない憧れにも似たシンパシーを共有しながら、酒の肴にしてしまうだけである。そして、また次の日に同じ質問をしてくる。最初はそんな彼らとのやりとりが自分には理解不能だったし、非生産的なループだと感じて辟易したものだ。わからない事があれば勉強する。調べれば済む。当たり前の事だ。だが、彼らはそれをしない。できるのにやらない。それは、端から見れば実に不合理極まりない生き方なのだが、長年この業界にいて、いつしか、このアンプ論争を解説するよりよほど難解な行動原理に対して、それを受け入れてしまっている自分がいる事に気が付いたのである。その変化は、彼らの無限とも思えるループの果てに誰かが呟いたその言葉を聞いた瞬間から訪れた確信に起因していた。

 「アンプの『クラス』とか、はっきり言って、どうでもよくねーか?」

 一人がそういった時に、不思議と溜飲が下がったような解放感とともに、すべてが消化された気がした。そして、そこにいる全員が誰に言われるでもなく頷いていた。そう、私のようなそういった概要の知識を商売道具にしている人間と違い、彼らにとって、アンプの『クラス』理論など最初からどうでもよかったのである。何故そうなったのか……。決まっている。彼らが皆、“ミュージシャン”だったからだ。理屈よりも音。そうやって生きている彼らにとって、そのアンプがAだろうがBだろうが(Dr.)Zだろうが何だろうと関係がないのだ。気に入った音なら使う。フィールが合わなければ使わない。それだけの事だったのだ。ミュージシャンという生き物のほとんどは、そうやって自分の口から出る疑問に音以外の解法を必要としないのだ。小難しい理屈で脳みそを回転させるより、汗だくになって同じ曲を100回も反復する方が性に合っている人達だ。音でしか物事を判断できない人種。否、音でしか判断したくない人達の事を、我々はミュージシャンと呼ぶ。

 それを知り、どこかホッとした自分がいた。音で食っている人間が、本当に根っからの濃密なリアル・ミュージシャン……ここで言うなれば“ピュア・クラスAミュージシャン”だった事の感動といったらなかった。だから、その敬意と尊崇を込めて、上のような質問にぶつかった時に、私は彼らが余計な事を考えなくて良いように、真空管アンプへの理解を早めるための、とてもわかりやすい一つの入り口だけを供物として差し出す事にしている。

 「パワー管が1本しかないギター・アンプ(シングルエンド・アンプ)は、まず『クラスA』だと思って良い」。それだけだ。あとは、彼らがそれとそれ以外を勝手に弾き比べて、『クラスA』の滑らかな出音と、自分を追い越していくような熱を帯びたあの追い立てるようなレスポンスを気に入るかどうかだけである。そしてそれをヒントに、やがて新しい音に出会った時に、また似た音や違った音を探すきっかけにしていくのだろう。そこに善し悪しなどない。気に入ったものこそが彼らの正義なのだ。目に見えてわかる真空管の本数でシングルエンド『クラスA』かどうか意識するこの基礎中の基礎とも言うべき識別方法は、ミュージシャンという人種にとって非常にわかりやすいようで、概ね好評を得ている。今後、シングルエンド以外の『クラスA』アンプがある事を彼らが知る事があったとしても、その基本は揺るがないし、彼らの音の判断をするために立ち返る場所として必要な情報に変わっていく事になるだろう。

 アンプも、ミュージシャンもシンプルが良い。終わり良ければ全て良し、ならぬ、「出口良ければ全て良し」のシングルエンドな魂こそ、音に関わる全ての真理であって欲しいと思う今日この頃である。

商品の選定・紹介にあたって

 今回は、最近その市場もアツいミニ・アンプにも関係の深いシングルエンド・クラスAアンプについて特集する。「重い」「デカい」「壊れやすい」の三重苦として、例え音が良くても真空管アンプの導入になかなか踏み切れなかった人ほど注目して欲しい企画である。ギター・アンプとしても最も原始的かつシンプルな構造を持つこれらのアンプは、理解が深まれば深まるほど使いやすくなり、また、小出力でも十分に応用の効く初心者から上級者まで使える優れた音質を隠し持っている事を知っておいて欲しいのである。今回のリサーチでは、近年に発売されたシングルエンド・アンプを中心に、わかりやすく仕様や音質に特徴のある機種を選抜してみた。アンプ・サウンドにも用途やジャンルの多様化が求められる昨今において、ガラパゴス的に生き残った半世紀も前のシングルエンドに何故か市場の注目が集まっている。ビンテージとは関係なくその『音』とその仕様を必須として生き残ってきた本物のクラスAサウンドについて、真に理解を深める足がかりとしてくれたら嬉しい。

※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫がなくなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!

コンボ&ヘッド・タイプ


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01 Fender [EC Vibro Champ]

 常にギター・アンプ界のスタンダードであり続けるFender産アンプ群の中で、シングルエンド・アンプの代表格と言えば“Champ/Champion”シリーズを思い描く人も多いだろう。それほどに、往年のギター・プレイヤーの生活に密着し、あらゆる現場で酷使され、そして、稀代のアンプ職人であったレオ・フェンダー自身によって繰り返し手を入れられたそのサウンドこそ、ギター・アンプとして最も熟成された機種の一つとして論ぜられる気風も今日では珍しくない。その証拠に、まだストラトもテレキャスもなかった1948年に“Champ”シリーズの原型である“Champion 800”が登場し、第一期生産が終了する1982年まで、その個体はFenderアンプの中でも唯一スタイルを変えないシングルエンドのコンポーネントとして孤高を保ち続けた存在でもあったからだ(そこまでの生産ラインナップ上で、Fenderのスタンダードな機種でシングルエンド構造を持つものは、61年までの“Princeton”アンプのみ)。オリジナル“Vibro Champ”は、第一期生産の後期に当たる64年〜82年まで作られていた機種で、初期モノはかろうじてプリCBSのブラック・フェイス期にかかっており、基本の“Champ”とは別に早々にシルバー・フェイス化された経緯がある。最大の特徴は、やはりビルト・イン機構のトレモロを装備した事であろう。この時期のものはほぼフォトセル式の立ち上がりの速い音色であったため、それより前の時代のあの鈍い独特のうねりをともなったフェーズ・トレモロやプッシュプル・パワー・チューブによるバイアス・トレモロの愛好者には、当時のものはやや物足りなかったのかもしれない。そんな中、あくまで“Champ”音質を至上としながらも、トレモロの質に拘ったミュージシャンの一人がかのエリック・クラプトンだ。“EC Vibro Champ”は、そんな彼のトレモロにおけるジレンマを埋め、さらに、“Champ”自体の機構も本来“Vibro Champ”が存在しない自身がフェイバリットとする50年代のツイード期の構造を兼ね備えたモデルで、まさに二つの乖離した時代を結びつける、世界中の“Champ”愛好家達の夢が詰まった贅沢な仕様で再現されたFenderアンプ史の集大成とも言えるアンプなのである。フィンガー・ジョイントのパイン材で組まれたキャビネットはカンカンと硬い高域の跳ね返りを見せ、5F1回路の乾いたツブ立ちの良い音色の余韻に、滑らかなサステインが抜けの良いフィールを残す。そこに、本来、シングルエンドでは機構的にあり得ないはずの、このモデル専用に作られた、巻き込むような渦を持つねっとりとした擬似バイアス・トレモロがからみ、一瞬、収縮と静寂をもたらした波が砕けて弾けるような実に奥深いゆらぎを生むのはまさに至極。かのXDシリーズでも、ソリッド機構の現代機でも追いきれなかった本物のクラシック・シングルエンド・レジェンド“Champ”の真髄を伝承しつつ、その最盛期を知り尽くした人々の手によって融合を果たした最高の現行“Champ”がこれだ。
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02 Fender [RAMPARTE]

 長い歴史を持つFenderアンプだが、黎明期の40年代の段階から基本ラインナップにはABプッシュプル方式を主軸として生産し続けていた事は周知の通りだ。中でも、1984年にオリジナル“Champ”の第一期生産が終了した後は、目立ったシングルエンドのロング・セラー・シリーズはなくなり、単発のリイシューものか、限定生産のモデルでしかFender製のシングルエンド・アンプは見られないようになっていった。だが、近年になってR&D(Research and Development)部門から新たに提唱された新シリーズ“PAWN SHOP”が展開されると、その中に、非常に挑戦的な外観を持つ全く新しい解釈のFenderシングルエンド・アンプがラインナップされているのに気がつく。それが“RAMPARTE”だ。「質屋」を意味するこの“PAWN SHOP”シリーズのコンセプトは、まるでジャンク屋の片隅に埋もれていたようなノスタルジックな外観とともに、全く新しい発想のアンプを構築する事だという。なるほど、言われてみれば、アンプにおける今までのFenderのデザインは、確かに無骨というか実務的なスタイルに終始していたところがある。“PAWN SHOP”シリーズがこれまでに展開した、まるでビンテージのGretschなどを思わせるユニークな形状のキャビネットや、古いトランジスタ・ラジオ型のエンクロージャー、そして、ダンエレのような鮮やかなカラーリングの外観から、もし質実剛健なFenderトーンを聴けたら……という野望はさぞや実現し甲斐があった事だろう。“RAMPARTE”はそんな発想のもとに作られた、唐草をあしらった細かな斑紋をたたえたシックなファブリック・カバーの外観が美しい本物のシングルエンド・アンプだ。一見しただけではそのクラシック・オーディオ機器の風格を漂わせる優雅なデザインからFenderのギター・アンプだとは誰も思うまい。しかし、一旦音を出せば、6L6のパワー管の粘りと12インチ・スピーカーのもたらすマッチョな低域が、鈍い光を放つ分厚いテクスチャーを容赦なく溢れさせるのがはっきりと感じられる。チャンネルはインプットごとに独立した2ch方式で、コントロールは各チャンネルにボリュームが一つのみ。それぞれゲインの差こそあれ、ピッキングした瞬間に伝わる一旦突き抜けるようにエッジの先端が潰れその後覆いかぶさるように熱い倍音が追っかけてくる感じは、まさにシングルエンドならではの出音だ。チューブが6L6という事やスピーカーのサイズからしても、80年代の終わりから90年代の頭にかけて発売されていた“Champ 12”の機構に近いか。“Champ”の軽やかな音色とはまた一風違った太い音色のFenderシングルエンド・サウンドとして新たな選択肢を広めてくれそうだ。現代Fenderのオリジナル・アンプとして、確実にその名を背負うに値する実力を秘めたアンプという事だけは断言できる。

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03 Gibson [GA-5]

 50年代半ばからカラマズー工場で作られたGibsonのスチューデント・モデル“GA-5”。初期の54年から56年の最初の3年間のTVフロント・モデルは同社のギター“Les Paul Jr.”とセットで売られていたため、「レス・ポール・ジュニア・アンプ」と呼ばれたりもする。この初期のモデルは、Fenderがツイード期に入ってからの“Champ”に採用されていた5C1サーキットに回路が酷似しており、6SJ7プリ管に、6V6パワー管が1本、整流管に5Y3といういかにもな仕様ながら、スピーカーにJensenの10インチ・スピーカーを載せる事でかろうじて差別化を図っていたと言われるモデルである。だが、確かに、その頃の“GA-5”はFender“Champ”よりもややダーク目で枯れ感も強く、アタックに対してやや間延びして音の盛り上がる感触が独特のニュアンスを生んでいるとして、不思議にレス・ポールのような丸い音にマッチしていた事実は否めないから不思議だ。やがて、57年に入ってからの“GA-5”は、コリーナ製の“Skylark”ラップ・スティール・ギターとペアで売られる事となり、フロントも年代ごとにワイド・パネル仕様になっていくとともに、スピーカーも8インチにチェンジし、プリ管も多くのナンバーで12AX7に換装されていくという経緯を辿る(こちらは「スカイラーク・アンプ」と称される)。結局、60年代には灰色や茶色などのトーレックスを纏ったシルバー・フェイスのモデルにチェンジするが、これもまたFenderの5E1回路のコピー・モデルと揶揄されるなど、なかなか正統派として認知されなかった悲運のモデルとも言えよう。現在手に入るものの多くは2000年代に入ってからの再生産もので、「プレキシ・グラス」「トーレックス」「ハードウッド」の三種類が存在する。中でも「ハードウッド」は国内では滅多に市場に出ないレアもの。三種類ともそれぞれキャビネットの性質で音色が若干違うのが特色で、スケルトンの「プレキシ・グラス」はあまり音を吸わないカチカチとしたパーカッシブな音色、「トーレックス」は適度な厚みを備えたバランスの良い音色、「ハードウッド」はハイ・ミッドに多少の癖はありながら低域がよく抜けてくる音色、というように分類できる。ただし、これらは「レス・ポール・ジュニア・アンプ」と名乗ってはいるものの、8インチのGoldtoneセラミック・スピーカーと、出力管にEL84という仕様なので、決して往年の初期型のリイシューではなく、あくまでも現代に適した仕様から編み出されたノスタルジックなギブソン・トーンの復刻を目指して作られたものという理解のもとに使用したい。オリジナルの“GA-5”は再生産もののような扱いやすい音色ではなく、もっと重心が下にあり、強いピッキングによって歪みを引き出すようにアタック・センスがデリケートな音色なので、弾き比べるとイメージはかなり違う。どうしてもオリジナルを試したい人は、コンデンサーがへたっている可能性が高いので、セオリー通り、50年代の音色に近づけたいならスプラグのBUMBLEBEE、60年代ならばサンガモ製に換装するのが良い。また、ブラックキャット、コーネルダブラーなどでも独特の良い粘りが得られる事も憶えておこう。
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04 VOX [AC4/AC4HW1]

 人気のHand Wiredシリーズに、VOXシングルエンド・アンプの大本命“AC4”が登場。VOXと言えばやはり世界的知名度のあるプッシュプル(クラスA相当)駆動の“AC30”等が本命なのだろうが、実は、メンテナンス・フリーなシングルエンドの練習機としての“AC4”は、“AC30”や“AC15”の陰に隠れてはいたものの、その音色において新たな需要を開拓していたとしても不思議はないほど、完成された素養を持つ機種であった。その歴史は古く、1958年にTVフロントを持つ“AC2”の名で登場し、1962年にそれが“AC4”と改名された時には、有名なEF86プリとEZ80整流管、そしてEL84シングルエンド・パワーという独特の構成に収まっていた。さらにECC83真空管を用いたビルトイン・トレモロとElicの8インチ・アルニコ・スピーカーを持っており、その泡立つように軽やかな歯切れの良いアタックと、滑らかで色の濃い余韻を持つ独特の響きはその時代からしても素晴らしい個性だった。五極管のEF86もピッキングの頭にだけ乗るダイレクトな歪みと不思議な低音域のちょっと引っ込んだ鈍さを両立しており、“AC30”ほどの太いブースト域とサステインを必要としないならば、十分にVOXらしい個性を持ったアンプだったと言えよう。それをハンド・ワイヤリングにより現代風に再現した“AC4HW1”は、トレモロこそ省かれたものの、その代わり12インチのCelestion“G12M”Greenbackを搭載した事により、あの“AC30”を思い起こさせるような、きらびやかなトップ・ブーストを内包したかなり攻撃力の高いブリティッシュ・トーンへと磨き上げられている。より厚みのあるサステインが必要とされる昨今では、やはりVOXの強力な色彩のミドルを残したまま歪みに負けないロックな低域の存在感がある方が扱いやすいため、このスピーカーのチョイスは納得だ。整流管がソリッドステートへ、そしてプリ段も汎用性の高い12AX7になった事により、シングルエンドだとどうしても目立ってしまう余計なサグも軽減され、透き通った音質になっているのも好感が持てる。同“AC4”シリーズには、同じく12インチの汎用タイプ“AC4C1”や、10インチTVフロントの“AC4TV”、さらに6.5インチ・スピーカーで6kgしか重量のない“AC4TV mini”など現行品においても豊富なラインナップが用意されているので、英国クラスAアンプの牽引者VOXの、本物のクラスAシングルエンド・トーンを体感したい人には是非このシリーズを試す事をお勧めしたい。
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05 ORANGE [AD5]

 英国老舗アンプの最右翼ORANGEの、珍しいシングルエンド・アンプ。真空管搭載のミニ・クラス・ヘッドとして有名なTerrorシリーズですらパワー部はソリッドステートかABプッシュプルであった同社の出力仕様に対し楔を打ち込んだ、新たな解釈として話題を集めた異色の個体でもある。オリジナルは2000年代初頭にリリースされ、数年後に再販。ディスコンになった今でもシングルエンド・マニアの中でも評価の高い逸品で、市場でも品薄が続く名品とされている。パワー管はEL84×1本という仕様なので出力は5Wしかないが、とにかく音がでかい。実際に鳴らしてみると、気持ち良くORANGEらしい弾けるようなハイ・ミッドが噛み付いてくる。ピッキングにまとわりつく水っぽい雑味が従来のORANGEアンプよりも強調されていて、シングルエンドらしい、いきなりピークが襲ってくるような濃い色彩の前のめりなアタックに引っ張られて、なかなか色っぽい歪みを作るのが印象的だった。さらにORANGE特有の、あのごついエンクロージャーが効いており、コトコトというウッディーな余韻がいつものジューシーなミドルの立ち上がりを粒立ち良く仕上げてくれる感じはやはり独特に感じた。スピーカーもCelestionの10インチ“G10N-40”を積んでいるので、低域にも曇った様子は一切なく、フルアップの歪みの中でも実にパワフルな分離を見せてくれた。コントロールは、1ボリューム、1トーンというシンプルなスタイルなので、やはりアンプのボリュームは最大でギター側の音量で歪み量を変えながら演奏するのがセオリーだろう。外部スピーカー出力を使ってあえてインシュレーターの効いた現代風なキャビで鳴らせば、トップがささくれたようなシングルエンド特有の真空管の脈動をしっかりと強調する事ができるだろう。小細工のない、正真正銘のブリティッシュ・トーンを有したサウンドを得られる良質なシングルエンド・アンプとして、万人にお勧めできる逸品だ。
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06 Ampeg [GVT5]

 主にベース・アンプのメーカーとして成功を収めたアメリカのアンプ・ブランドAmpeg。ハイパワーな出力を創出するバキューム・チューブで知られる“SVT”シリーズや、世界に先駆けたリバーブ搭載型アンプで知られる「リバーブ・ロケット」など独自の技術を多く持つ事で知られる同社だが、ギター・アンプの製造でも、自社、OEM共に長年の実績がある事はあまり知られていない。60年代の“JET”や70年代の“V-4”などという名機に心酔したストーンズ世代には懐かしい、特に“V-4”等の高級オーディオ機器を思わせる銀パネの外観を引き継ぐのがこの“GVT”シリーズだ。中でもCelestionの10インチ一発のコンボ“GVT5-110”と、ヘッド・タイプの“GVT5H”は正真正銘のシングルエンド機構を持つクラスAアンプで、出力は小さいながら、ノスタルジックなあの荒々しいロック黎明期のクワッとしたサウンドを備えている。その音を例えて言うならば、モコッと飽和し、スコンと落ちるとでも言おうか……力技で弦をかきむしり、ピックアップを削るようにして音を繋げてゆくパワー・プレイがよく栄える音色である。もちろん昔ほどの音階を濁すほどの「籠り」こそないものの、アタックには歪みが乗りにくく、一呼吸してから沸き上がるドライブもザラリとして全くピークが揃ってこない。それでいて、音の中心にはどこか冷めたようなコンプ感にも近い不穏な圧力があり、中途半端なピッキングではその中心をかき混ぜる事ができない。だが、そのもどかしくも鮮烈な音こそ、実に生々しいギター・アンプ本来の音色と言えるだろう。このシングルエンド“GVT5”こそ、初段の歪みに頼らない、本来の6V6GT管のまどろむような飽和をダイレクトに感じられる数少ない現代アンプなのかもしれない。2014年に“GVT”シリーズはディスコンになってしまっているので、気になる人は早めに在庫を手に入れよう。
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07 Fuchs [Lucky-7(Lucky Seven)]

 高級ハンドメイド・アンプでおなじみのFuchsが贈る、ブランド唯一のシングルエンド。出口がEL34一発という仕様から、お得意のDumble系ブティック・サウンドかと思いきや、意外にも素直で扱いやすい伸びのある出音にまず驚かされた。Fenderのように枯れた音色ではなく、ピッキングに応じてほどよく張ったエッジにガッツのあるコンプ感が乗ってくる。ゲインを上げるとザクザクとした乾いた歪みを惜しげもなく出してくるのもそうだが、近代のMarshallほど飽和感がギュンギュン来るわけでもなく、とにかく難しく考える必要のないシンプルな押し出しが嬉しいアンプだ。シングルエンドの特徴をそのまま生かした一種、上擦ったアタックが、EL34の弾けるようなミドルにそのまま溶けて豊かなニュアンスを生むあたり、さすがのチューニングと言える。このアンプでよく言われているのは、デジタル・リバーブを搭載する前の前期型か、それともリバーブ・スペースを有する後期型か、という差分についてだ。のきなみ評価の高いのは前期型の方で、こちらはなんと60年代までの古いアンプでよく使われていた「紙ホビン」式の出力トランスを採用しているとのこと。これは均一かつ隙間ない手巻き線により磁気に対してコイルが必ず垂直に交わる事からロスが少なく、特に中域から広域にかけてのサチュレーションの出方に影響を与える事からギター・アンプとしても理想型とされている構造の一つで、近年のコストダウンの中で失われつつある究極のトランス製法の一つとして珍重されている。シングルエンドならではの究極にシンプルな発声機構の上にそれを惜しげもなく配置するあたり、やはり、このメーカーの積み上げてきたアンプ研究のノウハウが実践しようとする高い理想と熱意には驚嘆を覚えずにはいられない。このこだわりを体験したい人は、もはや市場でも残り少なくなっている前期型の獲得を急ぐべし。あと、これはあまりアナウンスされてはいないが、“Lucky-7”はヘッド、コンボともに、EL34だけでなく6L6や6V6といった管に差し替える事もできる(要バイアス設定)ので、音のバリエーションを後に追加する事ができるフレキシビリティへの配慮も、その魅力の一つになっている事を伝えておこう。
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08 Dr.Z [MINI Z]

 今や、シンプルで音の良いアンプの定番として万人が認める、米国オハイオ州に拠点を置くアンプ・ブランドDr.Z。その真骨頂とも言うべきシングルエンド、ワン・ボリューム・アンプの代表格として“MINI Z”が世界中で認知されるようになってからすでに久しい。そのオリジナルは、ギター・アンプとしては本当に単純な構造で、外因的なトーン・スタック・パートを物理的に排除し、さらに構造のシンプルなシングルエンド出力を用いる事によって、究極に短い回路構成によるダイレクト・レスポンスの理想をそのまま追求したという、極めて原始的な構造を持つ個体だ。回路が少ないという事は真空管の個性もよく出るという事で、プリの12AX7のワイドで粒立ちの良い歪みと、EL84のミドルの強いブライトなトーンが素直に前に出てくる印象だ。初期モデルのコンボはWeberの8インチ“C8RS”という最初期のFender“Champ”を中途半端に意識したかのような仕様で、音質が素直なだけにやや低音が足りない先折れ感ばかりが目立つ感じだったが、現行のアッテネーター装備のモデルではEminenceの10インチ“RAMROD”を組み込んでいるので低音の厚みがちょうど良く、歪みはロー・ミッドの飽和も十分な上、クリーンでは実に滑らかに質感を残すようになった。この素朴でストレートなトーンにアルニコ・スピーカーを選択したい人にはヘッド・タイプもあるので、Fender“Champ”とはまたひと味違ったシングルエンド・アンプが欲しい人にはきっと福音となるモデルだろう。ちなみに、同社ラインナップには、一部のVOXのように五極管のEL84をペントードとトライオードで動作差分を使い分ける事のできる人気のMAZシリーズの最小モデル“MAZ-8”もシングルエンド仕様なので、Dr.Z好きならばこちらのチェックもお忘れなく。
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09 Bad Cat [Cougar 5]

 Matchlessにおいて、VOXなどに代表されるネガティブ・フィードバックのないクラスA相当の陰極バイアスによるプッシュプル機構を再現してみせた奇才のアンプ・デザイナー、マーク・サンプソンが、発起人であるジェームス・へイドリックと組んで立ち上げた高級真空管ギター・アンプ・メーカーBad Cat。“Couger”シリーズは、生産拠点を海外(主に中国)に移す事によって低価格でもUSA品質に負けないクオリティの製品を提供する事を目的に作られたライン。低価格部門とはいえ、さすがは現代のブティック系アンプの金字塔と言われるBad Cat製、コンプ感の少ないフラットな出音に、シルクのように滑らかな余韻がまとわりつく複雑な倍音構成と高速なレスポンスは健在。“Couger 5”はその中でも最小の5W構成で、出力部がEL84管1本のみというシングルエンド構造を持つコンボ・アンプだが、パワフルなモダン・アンプでよく使われる12インチCelestion“Vintage 30”をオープン・バックで軽々と鳴らし切ってしまう豊潤なオーソリティ・ドライブを持ち合わせる機種でもある。真空管の消耗はもの凄く早そうだが、それにしても、ダークで熱い音に隅々まで血が通っているのがよくわかる、とても良質なアンプだ。機能的にもよく考えられており、このクラスのアンプとしては珍しくセンド/リターン端子を備えているのも素晴らしい。ただ練習用として使用するだけでなく、レコーディングでお気に入りの高級プリアンプからリターン端子に割り込めば、真にクラスAシングルエンドがもたらすクロスオーバー歪みの全くないスマートなパワー部のプッシュを音像に追加する事も可能となる。シングルエンド・アンプの新しい現代的適性を見いだすのに、最もバランスのとれた利用価値の高いアンプと言えるだろう。
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10 Cornell [Romany/ Romany Plus]

 Sound CityやHiwatt、VOX等の一線級アンプ・ブランドで経験を積み、“Fuzz face”でおなじみのダラス・オービターからCBS時代のフェンダー・アンプを経て大成した下積みの巨人デニス・コーネル。いまや英国人アンプ・デザイナーの大御所として数えられるようになった彼自らが手がける、クランチからオーバードライブまでを楽々とこなす6L6シングルエンドの10Wモデルがこの“Romany”である。滑らかでコシのあるトーンはもちろんながら、空間系のエフェクトを特によく受け止めるピークの揃った明るい立ち上がりは、実にユニークな個性とともに、このアンプのジャンル適応力の高さを印象づける。特徴としては、トーン回路をバイパスできる「EQオン/オフ」機能を有しており、ピックアップをはじめとしたギター側のハード的特色がよく出るような音作りにとても向いている事が上げられる。また、6L6たった1本で10Wもの出力を出すのはよほど管の動作点を高めに追い込んでいる証拠なので、その事からも、このアンプがいかに耐久性よりも音質重視でチューニングされているかがわかる。ノーマル“Romany”はJensenの“CH10/70”という10インチ・セラミック・ユニットを採用しており、ややサステインは抑え目ながら、まるでアルニコと錯覚しそうになるほど音の中心からフワっと香るような香ばしい歪み方をするそのニュアンスが、シングルエンドの突っ込みがちな前のめりトーンとよく合っている。室内練習用に、アッテネーターは最小で0.05Wという4段階を装備。“Plus”は12インチ・スピーカーとリバーブを装備した事で、より分厚く朗々としたクリーンを楽しむ事ができる。さすがはエリック・クラプトンが自宅練習に用いたと言われるアンプだけの事はある素晴らしいバランスだ。ちなみに、同社のシングルエンド・ラインナップにはEL84管を用いた“Plexi Seven”もあるので、もっとブリティッシュ・ライクな方面で管の違いを実感したい人はこちらもお勧めしたい。
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11 Laney [L5T-112]

 70年代にトニー・アイオミの使用した“LA100BL”をはじめ、彼のシグネチャー“TI100”などでも有名な、創業約半世紀を誇る英国の老舗アンプ・メーカーLaney。何かとハイゲインな印象の強い同ブランドだが、この“L5T”を含むLIONHEARTシリーズは、クラシック・サウンドの再現に特化した昨今注目される同社の人気ラインだ。その“L5T”なのだが、まず、2ch構成なのは良いとしても、初めて見た人は「50Wアンプか?」と思うほどに、やたらと筐体が大きいという印象を受けるに違いない。裏を見ると出力部にEL84が1本だけとは到底信じられないほど十分な空間を擁したエンクロージャーの中心に、12インチCelestion“G12H” Heritageスピーカーが一発あるだけ。Heritageはグリーン・バックほど中域の主張が強くないので、骨太の低音と輪郭のあるストレートな高域がオープン・バックと相まって、なかなか情緒のある音構成だ。キャビの内部空間が広くとられている分、多少出音の角が削れる印象がないではないが、アンビエントによる戻り倍音がダブつく印象もなく、どの帯域も非常にナチュラルだ。筐体の大きさは、やはりタンクの大きなAccutronics製スプリング・リバーブによるところが大きい。まったりと、そして揺らぐようなフルサイズのリバーブはやはりもの凄い存在感で、この音があって初めて“G12H”スピーカーもその本来の仕事をし始めるように感じられた。これほどの構成にも関わらず、さらにセンド/リターン機構も内蔵しており、コーラスなどと一緒に鳴らしてやると、シングルエンド特有の継ぎ目なく連続して吹きこぼれるような切ないゆらぎをたっぷりと味わえる。そこまでして、この大きな箱にも意味があるのだとようやく納得できる構成なのだ。このリバーブとともにディレイやコーラスの表現力に奥行きのある深いアンビエント演出をもたらすその空間構造を欲するプレイヤーにとっては、その大きさもそれほど大きな問題にはならないであろう。省スペース、コンパクト化を競う時代にあって、もはや決して今からではその思考に到達できるはずもない、老舗アンプ・メーカーだけが持つ空間哲学の一旦を垣間みるのに十分なクオリティを備えたアンプなのである。
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12 Carr [Raleigh]

 ノースカロライナの工房で日々凄腕の職人達がしのぎを削り、最高級オーディオ顔負けの部品と技術を惜しみなく投入する事で完成するCarrのアンプ。真空管を使うあらゆる駆動形式を限りなくクラスAに近づける事から始まるその手法は、まさにブティック・アンプ業界における一つの到達点と言って良い。“Raleigh”はそんな彼らの原点とも言えるシンプルなシングルエンド構造を持つアンプで、出力管はEL84の3W構成。モードは二つで、ボリュームとトーンの上に、オーバードライブ・モードではマスターが追加される形になる。この機種の最大の特徴は、やはりEminenceの10インチ“Lil Buddy”スピーカーを採用している点に尽きるだろう。これは、今や一般的になりつつある「ヘンプ・コーン(麻の繊維で編まれたコーン)」のスピーカーで、厚みのあるマットな鳴りは一度クセになったらやめられない高貴なサウンドを持っている事で知られる。現代の高域ばかりを強調するスピーカーが隆盛な中では一見抜けの悪いトーンにも思えるかもしれないが、少し弾いているとその力強く押し返すようなサウンドと、どこまでも透明で清々しい余韻に聴き惚れるはずだ(実際、欧米ではキンキンするばかりのTwin Reverbなどの高音を抑えて美味くバランスするのにヘンプ・コーンのスピーカーを用いる事はもはや定石となっている)。これが“Raleigh”のクラスA回路が持つ雑味のないレスポンスと合わさる事で、砂を掬い上げるようなサラサラとした倍音に新たに生まれる褐色のレスポンスこそ、素直に酔いしれるべきこのアンプのキモであるに違いない。それを理解した上でならば、本当の意味で、ギターの音色を全くスポイルせず届けるための機構がこのスタイリッシュなキャビネットの中に無駄なく内包されているのがよくわかろうというものだ。ヘンプ・コーンはエイジングにこそ時間がかかるが、やがて熟れてくると紙製のものとは比べ物にならない涼やかな高域を放つとも言われている。アンプ共々、ゆっくり育て、慈しむ事で長く愛用できる、これはそんな大人な楽しみを持ったアンプなのかもしれない。Carrには、他にも出力管にEL34を基調とした8Wの“Marcury”もシングルエンド・アンプとしてラインナップされている。トーン・アプローチとアッテネーター、リバーブの有無が違うだけで、トランスや回路も共通する部分が多く、メーカー・オプションではヘンプ・コーンを選択する事もできるので管に拘るならこちらを選択する手もある事を知っておこう。
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13 STAR AMPLIFIERS [NOVA-110](*)

 Matchless創業者のマーク・サンプソンが、50年代のワイアリングを再現する事を目的に立ち上げた個人ブランドSTAR AMPLIFIERS。“NOVA-110”は6V6管のシングルエンド・アンプで、ポイント・トゥ・ポイントによるオール・ハンド・ワイヤード仕様、さらにはアルニコのJensen Blue Bell“P10R”をデフォルトで搭載するなど、なかなか贅沢なスペックを持つプロ志向な高級ミニ・アンプだ。頑強に組まれたキャビネットの性質なのか、このサイズのわりにはかなり面で鳴るアンプで、出音の上から下までこもった部分がほとんどない優秀な鮮明さが際立つ。Bad Catほどラウドではないが、クラスA特有の喘ぐようなサチュレーションを上手くピッキングに乗せやすく感じたのがまずは好印象だった。さらに、熱を持ったようにピークが収縮する感じを、決して上擦ったタッチにはならない絶妙な低域の押し上げに心地良く溶かしてくるチューニングの妙は、さすがサンプソンの手腕と言うべきだろう。クランチもことのほかキラキラしているが、やはり歪むか歪まないかのギリギリの線で溢れてくる豊かな表情のナチュラル・ドライブを、カントリーっぽくなだらかに奏でてやるのがこのアンプの一番自然な使い方であるように感じた。一方、ゲイン幅の上限はかなり広くとられており、インプットをオーバードライブの方に入れてやれば、ブルースのリードも十分にこなせるほどの豊かなドライブを、ほとんど音量を下げる事なく呼び出せるのもまた別の意味でツボをついていると言える。ライブで使うにはもっと泥臭いミッドの厚みがあっても良さそうだが、レコーディングや自宅で弾くにはこんなに気持ち良い出音のアンプはなかなかないだろう。個人的には、Matchlessと同じくシングルコイルで使って、このメロウで温かな音色を飼いならすのが基本のように感じた。何も追加する事なく極上の音質をベッド・ルームに置いておきたい人には、良い選択になるだろう。……一つ注意点があるとすれば、背面の「Phone」ジャックが、ヘッドフォンを挿してもスピーカーからの出音はミュートされないという点だ。そういう報告がいくつかある事は知っていたが、実際に触った個体も同じ現象だったのでこれは仕様と見ておいた方が無難だろう。このジャックは、音作りをする時の、ただのプリ段のモニター用と割り切って使う事をお勧めする。
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14 VHT [Special 6]

 すでに社名をFRYETTEに変更して久しいパワー・アンプ界の寵児、旧VHT社。高度な技術を擁するクラスABの独立型ハイパワー・チューブ・ユニットで全世界から評価されるその製品群の中に、燦然と輝くシングルエンド・クラスA構造のコンボ・アンプがラインナップされていた事を皆さんはご存知だろうか? その名は“Special 6”。古くからシングルエンドに用いられてきた6V6管を備えたシンプルな出力段を備えながら、とてつもなく贅沢な機能で今でもマニアの間では語りぐさになっている異色のアンプである。まず特筆すべき点は、その歪み。とにかく単体でよく歪む。それは、シングルエンドにありがちな音量任せな連動ブーストなどではなく、しっかりとプリ管とパワー管をそれぞれ独立して飽和させた整然としたモダンな歪みで、バリバリと無意味にピークが突出してしまう事もなく、リフでもソロでも実に制御しやすい粒立ちの揃った上質なハイゲインなのだ。実際、その高密度なドライブ段を司る“Ultra”チャンネルの出音構成は100Wクラスのアンプを思わせるどこか懐の深い落ち着きを持っており、ロー・エンドを歪ませずに持ち上げてくれる秀逸な“Depth”コントロールなどとともに、歪みを生かしたサウンド・メイクに有効に作用するようにしっかりとノブ構成が割り振られているのがよくわかる。そうした柔軟な音色操作の上に、使用環境のアンビエントに応じたスピーカーの低域感度をコントロールできる3ポジションのテクスチャー・トグルや、エフェクト・ループ、さらに二つもの外部スピーカー・アウトと独立したライン・アウト、そして完全にこの個体を他のシンプルなシングルエンドと引き離す外部フット・スイッチ・ジャックまで装備しているから驚きだ。これほど本格的なステージ用の拡張性能を有したシングルエンド・マシンは他に類がない。クリーンで使えば、これまた透過度の高いクリスタル・クリーンを持っており、エフェクターの乗りも抜群だ。世界でただ一つの、大規模システムの中でコア・デバイスとして機能する事を想定されたシングルエンド・アンプがこれだ。
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15 Akima&Neos [Chariot 5]

 現役のステージ・ミュージシャンであり、国内屈指のカスタム・アンプ・デザイナーでもある秋間経夫氏が追求する「ライブでこそ生きる音」を具現化するために立ち上げられたアンプ/エフェクト・ブランドAkima&Neos。その仕様はまさにハンドメイドの極致と称される通り、1台1台、機能やエンクロージャー構成、外装デザインの異なるものばかりで、決められたルーティーンからではそれらは決して生まれる事はない。例えば、打ち捨てられたビンテージのキャビネットを修繕して、そこから自らのラインナップに則した既存の機種の音に近づける為の部品を集めるという、秋間氏個人の現場でのノウハウから得た経験と自分の耳だけを頼りにその目的の音を「アンプ」という形に納めるという工法だけが、その生成を可能にしているのである。“Chariot 5”は、同ブランド・アンプの中核を占める、往年のVOXトーンを再現した“Chariot”シリーズと同じプリ段を持つEL84シングルエンド構造のロー・パワー・モデルだ。スピーカーには6インチの国産アルニコ・スピーカーを載せているため、VOXトーンの再生にはローが不足しそうに感じるが、そこはこのブランドお得意の“MODE”コントロールによってその矛盾を見事に解消している。多くのモデルに搭載される個体の操作性を一段階向上させてくれる同社オリジナルの特殊コントロール……“MODE”は、ある時は真空管の入れ替えだったり、ある時はトーン・スタックのバイパスだったりと、機種や個体によってその効果は様々だが、必ず音作りに役立つツボを押さえた目から鱗のサウンド・アプローチを提供してくれる優れもの。“Chariot 5”の場合はスピーカーの低音部分の表現力を4段階のロータリー・スイッチで切り替える事で、まるで12インチのスピーカーをフルで鳴らした時の壁のような音質から、EQで特定の帯域を持ち上げたゴワゴワとした低音の唸りまで実にバラエティに富んだロー・エンドのパフォーマンスを提供してくれる機構となっている。この機能により、6インチ一発のスピーカーでも、シングルエンドの奔放なレンジ構成を余す事なくギターのトーンで活用しながら、この機種の持つ元来のクリーミーで密度の濃い音をより高い次元で生かす事ができるようになるのである。発想の柔軟さにより生まれた機構が、アンプ本来の使い方に新たなヒントを与え、音そのものをも進化させてゆく。そんな、インスピレーションを刺激する唯一無二の個体が持つ真価の更に先を見い出してみたいと音に触れた全ての人々に思わせる、これはそういったアンプなのだ。
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16 Ibanez [TSA5/TSA5TVR]

 ギターからエフェクター、アンプまで幅広く手がける総合メーカーIbanezのフルチューブ・アンプ“TSA”シリーズ。そのコア・デザインの中でも最小クラスの出力を持つ “TSA5”こそ、6L6GTシングルエンド構造にCelestion製10インチ・スピーカーを搭載したコンボ・モデルの旧機種で、国内外で確かな実績を上げた近年の国産アンプの名機である。現行では5Wシングルエンド構造のものはTVフロントの“TSA5TVR”のみとなり、Jensenの8インチ・スピーカー一発に、Accutronics社製のスプリング・リバーブを装備するという仕様になったものの、真空管構成とそこに求められるアンプ・コンセプトはかねてより一貫している。それは、搭載された「チューブスクリーマー回路」を経由していかに上質なオーバードライブ・トーンを生み出せるか、という一点に集約される。“Tube Screamer”……それは、王道歪みエフェクターの最右翼として、その登場より「TS系」と称される無数のオマージュをサードパーティーから生み出すとともに、今日でも世界中で使用されている世界基準の国産ドライブ/ブースターの事であるのは誰もがご存知の通りだ。その回路をそのままアンプの歪み段にビルト・インしたこのアンプは、もはやそのエフェクター・セクション込みでの音作りが前提の様にも思えるが、実はそこにはやや先走った誤解がある。なぜなら、このアンプに載せられた「チューブスクリーマー回路」は、名前や操作感こそ同じながら、実物のエフェクターとは少し趣の違うサウンドを有していたからである。もし、あなたが、エフェクト・ペダルをラック・シャシーなどにノック・ダウンした経験のある人ならば、その意味をすでに理解していただけている事だろう。グラウンドによるものか、それとも経由する接触パーツやポッドの違いによるものかははっきりとはわからないが、とにかく、あのエフェクターの小さな筐体に納められている時より、アンプ本体に移されたその回路は実に「生々しい音」を発する傾向にある。ここでもそれは例外ではなく、「チューブスクリーマー回路」は、あのTS系本来のモッコリとしたミッド・ブーストに留まらず、そこには華奢で傷つきやすい表皮をさらした、熱く燃えるようなロー・ミッドに渡る煮えたぎった新たな極上のドライブ段を確かにさらけ出していたからである。そのむき出しの引っ張り上げるような新たなドライブ・ブーストに対して、本来、シングルエンドであれば10W近くまで耐えられるキャパを有した6L6GT管に、あえてその半分の力しか出させないようにする事で不自然なまでに人工的な静粛さが際立つようにチューニングされたこのアンプの一見無機質にも思える“素の音”がよく合っていた。世界でただ一つの、予期せぬ化学反応にさらされた新解釈の「チューブスクリーマー回路」のために、土台となるための“受け皿”に終始するシングルエンド・ディレクション、それがこの“TSA5”シリーズの真の姿なのかもしれない。
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17 Bugera [V5]

 格安オーディオ機器でおなじみのBEHRINGERが持つ独立アンプ部門Bugera。“V5”は、出力段にEL86を装備した本格的なシングルエンド・チューブ・アンプでありながら、その恐ろしいまでのコストパフォーマンスが逆に災いしてか、最初はキワモノとしてしか人々に認識される事はなかった。だが、やがて、次第にその十分すぎる音質や仕様が評価され、すでに発売から5年以上経過した今も売れ続けるヒット商品となったという経緯がある。音はやや引っ込み気味でピークが暴れる感触があるものの、アタックの輪郭は明瞭で、何よりもシングルエンドらしい素直なアタック・レンジの広さに好感が持てた。真空管が飽和した時の継ぎ目のないビロードを思わせる滑らかさこそないもの、それはあくまで“V5”の数倍もの価格のブティック・アンプと比べた場合の話。帯域によらない反応の良さといい、しっかりと芯のある出音は実用として十分使用に耐えうるレベルのサウンドを有していると評価できる。ただ、デフォルトで搭載されているオリジナルの8インチ・スピーカーは、低音は出るのだが今ひとつミドルの盛り上がりに欠ける。よく調べてみるとこれはギターではあまり使われないウーファー・タイプが原型となっているようなので、オーナーならば思い切ってWeberやJensenあたりにチェンジし、ついでにスピーカー・ケーブルも替えてやれば本格的に音抜けを改善できそうだ。しかし、それを除いても、破格の安さにしてこの使い勝手に配慮した多機能ぶりには驚かされる。リバーブ、ヘッドフォン端子、アッテネーターを全て装備し、ないのはセンド/リターンくらいのものである。見た目だってなかなか高級感があると言って良い。さらに本国には、有名エンジニアのチューンしたカスタム・スピーカーを載せた特別仕様“V5 INFINIUM”もラインナップされており、ちょっと気のきいた趣向で楽しみたい上級者ならば、わざわざスピーカーを自前で交換しなくとも最初からそちらを選択する事もできる。入門アンプとしても十分なスペックと汎用性のある音質を備えた機種なので、ギターを始めたばかりの中学生や高校生ばかりでなく、シングルエンド本来のシンプルで単純な使い勝手に触れたい人全てにお勧めできる素晴らしいアンプだという事だけは言っておこう。

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デスクトップ・タイプ


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18 Custom Audio Japan(CAJ) [Tube Top]

 CAEのボブ・ブラッドショウのノウハウを受け継ぎ、国内のプロフェッショナルな現場のニーズにかねてより応え続けてきたイクイップメント・ブランドであるCAJが、ホーム・レコーディングにも対応した完璧なデスクトップ・アンプを作り話題を呼んだのも記憶に新しい。見ての通りのEL34管を備えたシングルエンド・アンプなのだが、これを普通のヘッドのように使う事はその性能の1/10も引き出せていない行為だという事を、まず頭に入れておこう。つまり、ギターをそのままインプットに入れて歪ませたりクリーンで使うためにこのアンプは存在してはいないのである。実際にやってみるとわかるが、歪みはかろうじてクランチに届く程度しか出ず、しかもその歪みはドライブというにはあまりにもお粗末なバラけたピークばかりが目立ち、期待するようなパワーも音圧も呼び出す事はできない。一方、クリーンでも何だかミドルがスカスカで締まりがなく、解像度が高い分、余計にささくれたアタックの粗さばかりが目立ってしまう。では、このアンプは一体何のためにあるのか……。それは、特にレコーディング環境における、誰もが一度は抱く大いなる不満に関係している。例えばプレイヤーが所有する素晴らしいビンテージ・エレキ・ギターの音色を最大限引き出してやるのに、今までは大げさなシステムを介した多チャンネルのハイゲイン・アンプや高級なブティック・アンプをマイクで拾うしか方法がなかった。それは、スピーカーによる空気感もそうだが、何よりもパワー管を通した出力部で起こる独特の飽和やサチュレーションのニュアンスをシミュレーターでは上手く表現しきれなかった事に原因の一つがある。あの、本物のチューブ・アンプでピッキングした時に、弦に触れる指に直接跳ね返ってくるようなダイレクト感、さらに空気を震わせる倍音のうねりと、悲鳴のように高域を蝕むインテンシティの鳴動を、ライン信号に追加できれば……そう考えた人々は多かったに違いない。つまり、CAJ“Tube Top”の役割とは、プリアンプ等でしっかり音作りをしたサウンドに、本物のチューブ・アンプを駆動した時と変わらないパワー部のレスポンスを人工的に付加してやる事に他ならない。“Tube Top”の3バンド・イコライザーもゲイン・ステージも、ギターそのものが持つ生のサウンドをダイレクトに受けられるようには初めからできていないのである。独立したトーン・スタックを通過した完成されたエレキ・ギターの音に、本物の真空管からしか生まれない徹底してアナログな『熱』と『臨場感』をもたらすもの、と言えば良いだろうか。このアンプは、ただのダミー・ロードを備えたヘッドフォンのアンプなどでは決してない。リアルなパワー管の駆動だけが生む完璧なチューブ・ロケートを、デスクトップという箱庭の中で達成し完結させるために生まれた、「レコーディングのための、最も理想的なリアル真空管によるパワー・セクション」なのである。
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複合/切替タイプ


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19 Mesa/Boogie [Express5:25+/5:50+]

 常に革新的なコントロールと機能性を追求し、ギターにおけるチューブ・サウンドの活用領域を自ら拡大していく事を使命とする米国を代表するアンプ・ブランドMesa/Boogie。その中でも、特に異色の機能を有するのが今回紹介する“Express”シリーズである。その最大の特徴は、パワー・アンプの構成を演奏中に切り替える事ができるようになるという同社特有の「Multi-Watt」と呼ばれる機能に由来する。それは本来固定であるはずの高出力なパワー管を含む全ての真空管セクションを、必要な時に必要な容量(W数)で駆動させたり、信号が流れる管を選択したりできる機能の事だ。例えば“Rectifier”シリーズでは、整流管をダイオードとチューブで各チャンネルごとに選択できたり、その上位機種の“Roadking”では、種類の違う管の組み合わせや本数をかなりのところまで自在に組み合わせ、その全ての情報をチャンネルに完璧にアサインしたりできる機能がそれにあたる。この「Multi-Watt」では、チューブの物理的使用本数の増減や特性の入れ替えが行われるので、出力に関わる音量や、歪みのニュアンス自体に、まるでアンプそのものをチェンジしたかのような劇的な変化をもたらす事ができるのである。そして“Express”シリーズでは、なんと、ハイパワー時にプッシュプル駆動していたパワー管を、そのままロー・パワーにセッティングしたチャンネル(“5:25+”ではEL84の5W、“5:50+”では6L6(デフォルト)の5W)では、シングルエンド動作させる事が可能なのである。クラスAとクラスABがチェンネルごとに選択できるだけでもその技術の高さがうかがえるのに、さらにリアルなシングルエンド駆動までサポートし、フット・スイッチでそれらを気軽に入れ替える事ができるなど、まるで夢のような機能である。両モデルとも、更に中間のワッテージを選択すればクラスA(相当)のプッシュプル駆動もサポートするなど、三段階ある「Multi-Watt」機構の中では、全て違った駆動方式を選ぶ事ができるというフレキシブルさなのである。“Express”シリーズを持つオーナーは、それだけで出力系統の全く違う3つのアンプを所持しているに等しいという事になる。この駆動方式をも入れ替える“Express”タイプの「Multi-Watt」機構は、すでにあのテキサス・グルーヴの大正義“Lone Star”シリーズのスペシャル・バージョンである新型“Lone Star Special”へも受け継がれ、ますますMesa/Boogieの中核を担う機能として発展する兆しを見せている。今後、この機能が更なる新機種に搭載されてくれば、アンプ業界に本格的にパワー管革命の嵐が吹くかもしれない。……ちなみに、“Express5:25+”や“Lone Star Special”は現行品では珍しくラック・マウント・タイプを正規ラインナップしているので、レコーディング・スタジオ常設のシングルエンド・アンプを探していた人にはきっと重宝することだろう。
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20 Bad Cat [Bob Cat 100]

 シングルエンド・アンプの常識を打ち破る、100Wもの出力を持つモンスター・アンプ“Bob Cat 100(Bob Cat 5-100)”。搭載されている出力管は6V6が1本のみなのでシングルエンド構造には違いないのだが、もちろん現実的にはそのチューブ構成のみから100Wもの出力を引き出す事はできない。そこで考え出されたのが、静粛なクラスD回路によるデジタル増幅要素を信号ラインに追加する事で適性容量のワッテージのみを人工的に加算する、Bad Catの「Unleash」テクノロジーだ。要はデジタル・アッテネーターの逆の機能と考えれば良いが、事はそう単純ではない。「Unleash」機能を切ればこのアンプはただの5W出力のシングルエンド・アンプである。パイン材を用いたキャビネットが軽妙に鳴る、ちょっとダーク目でふわっとした心地良いはためきを見せるピークと横に広がるようななだらかで鮮やかなトーンがそこにはある。目的としてはこの音色を“そのまま”100Wまで引き上げる事ができれば良いのだが、そのためには当然最終段であるスピーカーの性能がキモになってくる。果たして5Wと100Wという全く違う電気信号を受けて同じニュアンスの音を出すスピーカーなど存在するのだろうか? そして、それを受け止めるキャビネットとのバランスや内部の反射構造への影響は? 当然そうなってくると音声信号自体もただ後段でボリューム操作をすれば良いというものではなくなるはずだ。スピーカー内で変化する音を想定して、そこから出る最後の音でつじつまが合うようにプリ段を含めて音色の調整が必須となってくる事は予想がつく。アンプのインプットからスピーカーの出口までのトータルな音の流れを新たにプロデュースし直し、どんな細かいフィールの増減も抑え、同じハードを用いてただ音の量だけを増す……そんな気の遠くなるようなバランシングを体系化し、コンボ・アンプという限られた空間の中でそれを再現する技術が「Unleash」であるのならば、このあまりに音質変化のない100Wプッシュ・アップの憎々しいまでにクールな移行にも納得がいく。実際にクラスAシングルエンドから、クラスA/D出力である「Unleash」をオンにしたその瞬間に得た最初のインプレッションは、まさに音量だけが違うそれらが「全く同じ音」だという感慨のみであった。職人の耳とアンプの進化が辿り着いた、それは本当の奇跡の技術なのかもしれない。

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エピローグ

  皆さん、真空管を交換していますか?

 今回はまたまた『シングルエンド・アンプ』などというニッチな括りでやってしまったのだが、実はそのスタイルのアンプには、他の駆動方式のアンプとは一線を画すとても大きな優位点がある事をご存知だろうか?

 通常のプッシュプル・アンプなどで、メンテナンス上の最も敷居の高い壁「バイアス調整」。真空管アンプ使いがまず最初にぶつかる壁だ。アンプというものは、その主流となっているものの多くは、パワー管をプレイヤーが自由に交換する事を推奨してはいない。だが、このシングルエンド・アンプに限ってはその縛りがないのである。実際のシングルエンド・アンプのオーナーであっても、この事実を意外に知らなかったりするから驚きだ。そう、出力管を一つしか持たないシングルエンド・アンプは、なんと、一部の例外を除いてほぼ同規格上であれば自由にパワー管を交換できるのだ。通常、メインで使っている大型アンプにほぼ毎年のように真空管交換+バイアス調整という儀式を行わなければならなかったはずのチューブ・アンプ・オーナーにとって、このメリットは、それにかかる費用や配送リスクを抜きにしても諸手を挙げて歓迎したい特徴のはずだ。なぜなら、パワー管の規格やメーカーによる音色の違いはもちろん、互換球やビンテージ管への差し替えが、サウンド・メイクにおいて圧倒的にその可能性を広げてくれる事は間違いないからだ。そういう意味だけでもシングルエンド・アンプを手元に置くメリットは確かに大きい。

 しかし、そこには逆に、真空管の性能で音に差が生まれるため、いつも同じ音質でプレイする事が難しくなるというリスクもあるにはある。音質というものは本当に微妙なもので、例え同規格の続きシリアルの管でも、実際に繋いでみると音が決定的に違ったりするものだ。真空管の交換は、どんな管だろうと、その音質への変化をある程度覚悟の上で行う必要があるという事だ。シングルエンドで完璧に他の真空管を今のものと同じ状態に調節する方法もあるにはあるが、それにはかなり専門的な知識と機材がいる。そういった準備のない人々の予防策としては、通常はマッチド・ペアのものを交互に使ってみたり、Groove Tubesなどバイアスの揃った管を使用したりするくらいしか方法がないのも現実なのである。

 真空管交換……それは、特にシングルエンド・アンプに関して言うならば、最高の状態にエイジングされた理想の音を出す管に出会うための作業という意味を持つ。おびただしいトライ&エラーの果てに遂に出会ったその1本をあえて練習などでは使わず、ここぞというライブやレコーディングでのみ使用するというやり方は、もはやセオリーという範疇を飛び越え、息をするがごとく当然の行為としてアンプ・オーナーの習慣の一部にさえなりつつある。そして、パワー管をも選別する事を許されたシングルエンド・アンプのヘビー・ユーザーであればあるほど、この傾向は当然のように強くなる。彼らはやがて、アンプを使いこなすのと同等以上に、真空管を「育て」、「保存する」作業に邁進するようになることだろう。そして、今日もまたいつ使うとも知れない必殺のストックが増えるのを眺めて、彼らはほくそ笑むのである。そして──私も気付けば例に漏れずその一人となっていたという話。うーむ、恐ろしい。

 それでは、次回6/3公開の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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