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- 2024/11/16
カスタムIEM
ヘッドフォン/イヤフォン好きやミュージシャンにはもちろん、トップ・アスリート……特に昨今では羽生結弦(フィギュア・スケート)の愛用でも話題となったカスタム・インナーイヤーモニター(以後、カスタムIEM)。気にはなっていたけど、値段も敷居も高そう……そう思っている人は少なくないだろう。しかし、最近では専門ショップやリーズナブルな製品も出始めていて、以前よりもグッと身近な存在になってきた。ここでは主要メーカーのカスタムIEMを取り上げ、3ピース・ロック・バンド、AIR SWELLで活躍するドラマー、Yudaiによるオーダー・レポートなどから、その魅力に迫ってみよう。
ライブや雑誌の誌面でボーカルやドラマーの耳元に頻繁に見かけるカスタムIEM。ひとことで言えば、音質や装着感を好みに合わせて作るオーダーメイドのイヤフォンである。もともとはテレビやラジオの生放送の中で、リアルタイムな情報伝達の手段としてイヤフォンやヘッドフォンをモニターとしてインカム的に使っていたのがはじまりとのこと。音楽の世界では、大きなホールや野外イベントなどライブ会場の拡大により、これまでの定番だったフット・タイプのモニター・スピーカーでは、正確な音のモニタリングがしづらくなっていた。また音楽そのものの形態の変化(シーケンスやPCと一緒に演奏するようなアーティストが増えた)からイヤモニの需要が高まっていった。
現在のようなカスタムIEMは1990年代頃からお目見えするようになった。通常のイヤフォンとの最大の相違点は、使用者から採取した耳型を使って筐体(イヤーチップを含む)を作成するという点だ。通常のヘッドフォンやイヤフォンでは、ステージ上のアーティストの動きや汗などで耳からズレてしまったり、長時間のライブにおいて頭部への重量的負担が大きかった。耳型にピッタリとフィットしたカスタムIEMを望む声は年々高まっていた経緯がある。当初は「できるだけ目立たないようにしたい」というアーティスト側の意向もあり、肌色などが多かったようだが、現在ではステージ衣装の一部として派手なデコレーションを施したものや、バンドのロゴを入れるなど、アーティストのアイデンティティを表現するアイテムとしての一面も持つようになっている。
カスタムIEMは一般にはプロが使う、まだまだ雲の上のアイテムという認識が強かったが、iPhoneやポータブル・オーディオの普及で音楽が身近になり、多くの人がイヤフォン、ヘッドフォンに興味を持つようになると、一部の耳の肥えた音楽リスナーはもちろんのこと、これまで市販の製品をイヤモニとして使っていたミュージシャンの中にも、カスタムIEMを求める声が高まってきた。そんな流れを受け、ヘッドフォン、イヤフォンの専門店であるeイヤホンでは、昨年夏にカスタムIEMの専門店をオープン、イベントなどで積極的に啓蒙を進めるなどして、より多くの人がカスタムIEMに興味を持つ機会を増やしている。eイヤホン・PA事業本部の岡田さん曰く「専門店を作ることで、初心者からプロユースまで値段や用途を含め、幅広い層へカスタムIEMを、きちんと伝えられるようにしたかった」とのこと。実際、吉田山田、the telephones、清をはじめ、多くのアーティストがeイヤホン経由でカスタムIEMを制作している。
一概にカスタムIEMといっても、たくさんのブランドや機種があり、選ぶのに困ってしまうだろう。ここではほんの一例だが、カスタムIEMのブランドを紹介してみたい。
世界中をツアーするミュージシャンに数多くカスタムIEMを提供しているブランド。細部の明瞭な高域、生々しくも正確な中域、躍動感溢れる低域と、それぞれの音域の絶妙なバランスが特徴。 [ウルティメイト・イヤーズをデジマートで探す]
最新の音響技術と50年以上にわたる職人による耳用カスタム製作の経験を融合させたハイエンドなシリーズ。アメリカはもちろん、日本でも多くのプロ・ミュージシャンやアスリートに愛用されている。 [ウェストンをデジマートで探す]
ブームになる以前からカスタムIEMに取り組んできたメイド・イン・ジャパンのブランド。ミュージシャンやエンジニアなど、数多くの音のプロフェッショナルに鍛えられた製品を送り出している。もともと補聴器の取り扱いをしていただけにフィット感は間違いなしだ。 [フィットイヤーをデジマートで探す]
こちらもメイド・イン・ジャパンにこだわるブランド。モバイル・リスニングルームという発想のもとに、ひとりひとりの耳に合わせたカスタム・オーダー・メイドが基本。外出先でも家のリスニングルームにいるような最高の音を届けるのがモットー。 [カナルワークスをデジマートで探す]
ここでは実際にカスタムIEMを作ったミュージシャンに話を聞いてみよう。3月25日にニューアルバム『My CYLINDERs』をリリースしたロック・バンド“AIR SWELL”。3ピースとは思えないヘヴィなサウンドに、同期モノとライブ感溢れる演奏を融合した、要注目のバンドだ。そのドラマー“Yudai”が、eイヤホンでWestone製のカスタムIEMを作ったとのこと。早速、カスタムIEMの音質、装着感、そしてどのように演奏が変化したのかを伺った。
──WestoneでカスタムIEMを作ったとのことですが?
はい。いままでは市販の耳掛けタイプのカナル・イヤフォンを使っていたんだけど、演奏中に耳から外れてしまうのと、あまり遮音性もよくなくて、ついクリックの音を大きくしてしまったりと、いろいろ不満もあったんです。
──不満というと?
ライブではモニター(イヤフォン)の音量を上げたいタイプなんです。だけどキックやベースの低音の「ドゥフッ」っていう部分の音を聴きたくて音量を上げると、音が潰れてしまうというか、ライブ感がなくなってしまうので、それが嫌で仕方なくライブの途中でも片耳だけ、イヤフォンを外したりしていたんです。
──カスタムIEMを作ることになって、具体的に、こういものが欲しいというのはありました?
ドラムの音圧をちゃんと感じられるものが欲しかった。ベースも輪郭が潰れないようなね。事前に作ったことのあるドラマーの話も聞いていて、“ライブ中に耳から落ちないから安心感がある”、“しっかりとモニターできるので演奏のニュアンスも出せる”とかね。その反面、自分のプレイのダメなところも、露骨にわかってしまうという話も聞いていて……。
──なるほど。
カスタムIEMのベースとなるモデル選びにはかなりこだわりました。でもWestoneで作れば、すごいものができる! と予感させるものはありましたね。全部の音がきれいに分離して聴きやすいし、これなら演奏しやすいって。eイヤホンのスタッフの話ではレコーディングにも充分に使えるとのことだったので、出来上がるのを楽しみにしていました。
──WestoneのES60をベースにしたとのことですが決め手は?
ギターなどの中域と、全体の高域成分がしっかり聴けるという基準で選びました。けっこうクラッシュとか、シンバルをガシャガシャ刻むタイプなので。
──実際にカスタムIEMを手に入れてどうでしたか?
めっちゃカッコいいなーって。それに、こんな耳にフィットするなんて驚きです。(別のイヤフォンを使っていたときのように)汗が入ってくることもないし、もちろん耳の中に汗はかくんですけど、その程度ではぜんぜん外れる気配もない。実はいきなりライブの本番で使ったんですよ。でもまったく違和感なくて、「これはいい!」って。カスタムIEMって付けるのに手間取るという話も聞いていたんですが、それも、スッと装着できて、ぜんぜん取れないし。すごい良いですね。音がキレイに聴こえるし、音圧もあるし、ストレスを感じないので力を抜いて叩けるんです。
──力を抜いて叩けるとは?
以前のモニター環境だと、やっぱり自分のドラムの音が気持ちよく聴こえてこないんです。そうなると音を聴くことに意識がいってしまって、知らないうちに身体に力が入ってしまっていたんです。これは他のカスタムIEMを作ったドラマーも言っていたけど、カスタムIEMのいちばんのポイントはリラックスして叩けるってこと。以前はかなり力んで叩いていて、ライブのモニター環境によっては数曲で腕がパンパンになったりしていたんだけど、カスタムIEMにしてからは、それがなくなったんです。でも気をつけないと、キレイに聴こえて、音圧もあるので、意識しないと普段より軽く叩いてしまうんですよ(笑)。キックもそうだし。速いフレーズや細かいフレーズなんかは本当に聴き取りやすくてプレイしやすくなりました。もうもとのイヤフォンには戻れないですね。
Yudaiの話にもあるように、
Yudai
3月25日にアルバム『My CYLINDERs』をリリースした3ピース・ロックバンド“AIR SWELL”のドラマー。力強いサウンドと繊細なメロディを併せ持つ、同バンドの基幹となるリズムをリードしている。