AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
この連載のしょっぱなに取り上げたブラジリアン・ローズウッド(別称:ハカランダ)。その流通最新情報とともに、今、入手でき得るティピカル・ブラジリアンな楽器を再びデジマート内からピックアップしました。マガジン読者の皆様がブラジリアンな日々を送れることを願ってお届けします。
それはいつ頃からだったでしょうか、この木について妙な話を聞くことがありました。その内容とはブラジル国内では今もブラジリアン・ローズウッドの伐採が行われており、普通に国内マーケットで流通しているといったものです。条約による貿易制限は資源枯渇というより価格調整が目的といった噂もありましたし、そもそも生育面積からすれば、そう簡単に資源が伐り尽くされたとも思えません。加えて植林も進められていると聞いていましたので可能性は大です。
そんな話を確証づける出来事がつい最近ありました。アメリカ国内の某楽器ショーに、ブラジリアン・ローズウッドのサプライヤーが出展していたのです(情報をいただいたT社長非常感謝)。その出展社スタッフ(下の写真も提供してくれました)曰く「実際の生育場所までたどり着くのは大変だけど許可を得て伐採・販売している」。現実的にアメリカ国内に持ち込み、販売しているということは、至極真っ当なビジネスなのでしょう。ブラジリアン・ローズウッドと言えば、ワシントン条約の附属書Ⅰ、つまり大熊猫さんと同じ扱いのはずですから、そうそう簡単に伐採も移動も販売もできないと思っていたのですが、ビジネス・レベルでの捉え方はやや違ったようです。日本にも輸出できるのか否か、継続的にアプローチする価値はありそうです。
今冬某日、某ギター工房社長よりブラジリアンが出てきたけど一緒に買わない?的なお誘いがあり、二つ返事で乗っかりました。ブツは写真のとおり小さくカットされた板のみでしたが、モノの良さに惹かれ割当て分すべて頂戴することにしました。なんでも家具製造会社がリペア用材として長年保管していたものだそう、どうりで杢目は孔雀の筋肉、雲間から差し込むフラッシュ状態です。こんな材が出てくることは、この先まず見込めません。ラスト・ブラジリアンをしばし堪能させていただきます。
今回も、デジマートで今すぐ買える楽器たちを選抜してみました(3月5日現在)。選ぶポイントはもちろん萌え杢、萌え色、萌えスジ等、見ているだけでも有難いことが条件です。今回も売り切れ・リンク切れご免なためお早めにどうぞ。
まずはブラジリアンなネック達をご紹介!とはいってもさすがに数が少ないです、というか1ブランドに集約されてしまうような……(見逃していたらごめんなさい)。そうPRSです。「エレキギター」→「ハカランダネック」と検索するとここん家のしか出てきませんでした。まさにこの分野、他の追随を許さない勢いです。
①Paul Reed Smith(PRS)/Private Stock Santana II ~Tiger Eye Burst~ PS #4527 【現地オーダーモデル】【ハカランダネック&指板】
前回の萌え杢特集でピックアップしても良かったような、超ド派手フロントパネルな1本です。その分、ネックはビターチョコな柾目でシックにまとめられています。フィンガーボードにはさらに3割濃い目の同材をチョイス。今買えるMAXブラジリアンな1本です。
②Paul Reed Smith(PRS)/{BUG} Singlecut Brazilian -Emerald Green- '00年米国250本限定品 極上ハカネック!
ネックはビターを通り越してブラックな佇まい、エメラルド・グリーンのトップに恐ろしくマッチしています。2001年製とのことで、当時のPRS社のストックの豊かさを象徴しているかのようです。いかにも滑りが良さそうなネック、まさしく極上の感触でしょう。
③Paul Reed Smith(PRS) {BUG} Dragon 2000 "The Millennium Dragon" Amber - Brazilian Rosewood Neck!!
こちらはDragon2000・アンバーフィニッシュ。お値段¥
ネックに比べるとポジションマークやらフレットワイヤーやら弦の存在に隠れて、やや遠慮気味な立ち位置ですが、見てる人は見てます。触れば、弾けば、違いがわかります。弾いた後の手の匂いを二度嗅ぎする方、あなたは一人じゃありません。
①g7 Special/g7-JB Type2 "Faded Candy Apple Red"
渋谷g7ギターズのジャズベース・タイプ。新品にしてこの枯れた赤具合がたまりません。気のせいか指板はほのかに赤茶系の混ざった、もろビンテージ・ルック。木目の詰み具合、しっとりとした油分加減は写真の中から濃厚なローズアロマが漂ってきそうです。まさにコーディネートはこーでぃねーとな1本です。
②Crews Maniac Sound / K&T/Led 1959 HB with FRICTION ZB/WW no,008 【Led伝説遂に最終入荷!HBラストストック】
ビンテージ・バースト・マニアさんお待たせしました。この価格帯でこの材、ピックアップのセレクト、カラーリング、フィニッシュの絶妙さはお見事としか言いようがありません。黒々しいハカランダ指板。言わなければエボニーと勘違いしてしまいます。国内では“ブラック・ハカランダ”とも呼ばれるこのタイプ、主にオールドグロウス木(老齢樹)の芯に近い部分からしか得られないため本当に貴重なのです。出逢えば即買いなのは言うまでもありません。
③Fender USA/1965 STRATOCASTER OLYMPIC WHITE
筆者と同い年なストラト君。当たり前のように指板はハカランダです。この時代はローズと言えばそれが当たり前だったのでしょうね。白系ボディに黒ハカは恐ろしく映えます。あまりにも自然で、材の押し付けがましさがまったくないギター、これこそオリンピック王者です。
ここからはハコモノです。サイド&バック用途を中心に多様なブラジリアンをチョイスしてみました。面積が大きい分、その存在感は神々しいほどです。
ハカランダなアコギというと、まずこのモデルを思い浮かべるほどのロングセラー&ベストセラー・モデルです。コストパフォーマンス比を考慮したラミネート仕様ですが、もとになる原板が個性的でいかにも“ハカランダ”な木目を誇っています。それでいてバックは手間のかかる3P構造、サウンドホールから覗く面もしっかりハカランダなところが泣かせます。ラミネートに用いる突き板自体も、この先供給量は限られており、“いつまでもあると思うな親とYW800G”といった感じでしょうか。木目が選べるうちにポチっとやっちまいたい1本です。
このモデルについては何も申し上げることがありません。強いて言葉を発するなら(サザエさんの声で)「なんということでしょう、見事なハカランダがサイドとバックに使われています」。かなり明るめというかゴールドがかったカラーはこの時代特有のものと言えます。板ではなく丸太で材を調達していたマーティン社ですから、ドレッドノート・サイズでもフルワイドで正柾目(通称:ドM)を使うのが当たり前だったのでしょうね。しっかりとリペア、調整されている点でもこの個体見逃せません。
③Yokoyama Guitars/NN-GTB<ジャーマンスプルース×タイムレスブラジリアンローズウッド×小川インレイクラフト>
こちらは“タイムレス”と呼ばれているサルベージ・ウッドが使われています。希少な素材ゆえプライスレスとはいきませんが、それでも有難い価格設定となっています。このサルベージ・ウッドには大きく分けて2種類あります。ひとつは乾燥やアク抜きの養生目的で水(河や湖など)に浸けておいたところなんらかの理由で沈んでしまったもの(わざと沈める事もあり)、そしてもう一つは筏や船などで移動中に想定外な状況が発生し沈木してしまったものです。いずれもその後長い年月が経過し、やがて心ある有志の手によって引き上げられることになったという事の次第です。地上で放置されれば間違いなく土に戻ってしまうのでしょうが、水中ではいい感じで熟成されていくのですから実に不思議です。今この時代に楽器として味わえる喜び、自然に感謝です。
④M.Shiozaki/OOO-5 Premium Jacaranda (OOO-45)
巨匠・塩崎雅亮の45モデルです。45グレードにふさわしい黒々としたブラック・ハカランダが使用されています。オリジナルの45を複数本まとめてご覧になった状況を、以前お聞きしたことがあるのですが、サイド&バックはすべて共木(兄弟)だったそうです。やはり丸太から伐り出して使っていたということですね。そんなビンテージの甘いも酸い知り尽くした氏が製作されるギター、もはや独自の世界観に達しておられることは間違いありません(っておまえが言うな)。
⑤Marchione Guitars/ Old Growth Sitka Spruce/Jacaranda
“マルキオーネ初のフラットトップ鉄弦”、このキャプションだけでおっ立ってしまいました。もちろん、サイド&バックはなんとも言えぬ枯れた木味のハカランダが使われています。このデザインに鉄弦というのはなかなか勇気がいるかと思うのですが、動画を見ていただければ200m平泳ぎした後と同じ恍惚感が味わえることうけあいです。
この雰囲気のハカランダ、筆者の大好物です。淡いローズ・カラー、柾目に加えて、ポイント的にスパイダーウェブ調の杢目がキレイに出ています。この手の材は板を割いてブックマッチする前、ページを開いた瞬間に昇天体験が味わえます。楽器とは関係ありませんが、撮影も見事ですね。フラッシュなしで光量が足らないと平坦で杢が浮かび上がらないのですが、しっかり特徴を捉えています。楽器店の皆様、写真のテクニックは大事かと思います(っておまえが言うな)。バックの生地色もいいですね、実に参考になります。
⑦ホセ・ゴンザレス・ロペス/Jose Gonzalez Lopez/松・ハカランダ
こちらは新作の“松ハカ子”。しかしハカ素材は上のエドガー・メンヒ半世紀以上前の作品にまったく見劣りしません。そもそもクラシック楽器の製作者は素材を調達される際に、必ず「次世代のために」とおっしゃいます。この素材もそんな先人から受け継がれたものではないかと……。センターシーム部のスパイダーウェブ、近頃滅多に見ることのできなくなりました。
⑧Shimo/Tenor Cutaway "Comet 5" Koa/Jacaranda
コメットさ〜ん、と叫んだ幼い記憶を呼び起こしてくれる1本です。志茂(崇弘)さんの製作される楽器、“唯一無二”という形容はこの方のために存在すると思えほどアーティスティック感に溢れています。フォルム、素材選択、サウンドいずれをとってもスキが一切なく、おされな仕上がりです。この個体に使われているハカランダ材は柾目のオレンジストリーク調。木フェチにとってはネックのキルト・マホガニーとともに見逃せません。
⑨Yokoyama Ukulele/All Brazilian Rosewood<Concert Longneck>
本日2回目の登場、横山(正)さん。ギターに比べて素材選択の自由度が高いウクレレですが、トップもバックもワンピースのブラジリアン・ローズウッドとはなんとも贅沢仕様です。加えてフィンガーボードもブリッジもです。ローズ種の中では比較的比重の低いブラジリアンですから、オール仕様にしても充分ナイロン弦を響かせています。
デジマートでは楽器だけでなく、木パーツも自宅にいながら買うことができます。既製品では物足らない方、自身で製作される方、とくとご覧下さい。
①UNKNOWN/Fret Board "Vintage Brazilian Rose Wood"
メーカー不明ですが50年代ギブソンのような佇まいを持つフィンガーボードです。
②Fender USA/Precision Bass Neck '64
こちらはフェンダーの純正ネックwithハカランダ指板。
③NO BRAND/Brazilian Rosewood for Finger Board ハカランダ指板材・ギター用
指板のブランク材。ルシアー、リペアマンさん要注目です。
④FINEWOOD/ブラジリアンローズウッド・ベース指板材#BB-13
不肖筆者が運営しますウッド・ショップからはベース指板ブランク材です。
まとめ
次号は再びキューバン・マホガニー材を緊急特集予定。200年のシーズニング期間を経てLEDスポットライトを浴びることになったマホガニー材と超老舗楽器店の愛の物語です。幻じゃなくなりつつあるキューバン・マホをめぐる最新情報とともに4月20日(月)更新予定。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。