AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
マイク
徹底的なリサーチをもとにしたレビューで好評の機材ラビリンス。今回のテーマは“エレキ・ギターの集音に適したマイク選び”である。ギター、アンプ、エフェクター、シールド、弦、ピック……ギター弾きがサウンド・メイクのために気を配る機材は多々あるが、ベストな音、イメージするサウンドで録音するためのマイクまで意識する方はまだ少ないかもしれない。しかし自分の演奏を記録するには、ライン録音でない限り必ず必要になってくる重要なアイテムであることは間違いない。DrDが厳選した19の“エレキ・ギター向きマイク”をぜひチェックしてみて欲しい。
通り抜けていく。音楽という世界を、音が形を変えながら駆け抜けて行く。
いまさらながら、その様式があまりにも流動的である事に驚かされる。音は振動であったり、時には電気であったり、数値であったり、あるいは、もっと違う何らかの素体として伝わってゆく。もっと言えば、音になる前の音、まだ自分の指先に挟まれたピックがギターの弦を弾く寸前のその予測の音ですら、それは意識下の「未来のイメージ」という音でもある。そして、その全てが完遂し、最終的に録音卓のモニター・スピーカーから出た音に対して人は「ああ、それは確かにあの時の音だ」などと簡単に言ってしまうのである。
だが、よく考えてみよう。ほんとうにそれは“あの時”の音と同じだっただろうか?
音とは、一つの場所ですら全く同じ状態である事を許されない存在だったはずだ。そして、それが多くの『関』をくぐって再び「前と同じ音のようなもの」になったからといって、果たしてそれを同じ意味の音として解釈しても良いものだろうか?
一つのものを違う形に変換しようとすれば、そこには必ず誤差が生じる。必ず何かが付加され、必要なものが失われる。それは、変化というものに与えられる、避けられない不文律だ。
伝えられた音にとって、その最も大きな『関』の一つが、マイク(マイクロフォン)である。構造としては単純そのもの……その大半は、未だ原始的な磁場を使って電気信号にそれを差し替える方式の至極シンプルなものだ。だからこそ、そこには必ず変化が生じているはずである。否、生じていなければおかしい。空気振動を電気信号に変える……そんな力業が、音に対して無害であるはずがない。その変換は、必ず音という一つの単位を破壊するのである。モニターから返る音がそっくりだろうと、オシロ・グラフが平衡であろうと、それはあくまで現象の結果であって、音という素養がもう取り返しのつかない状態になってしまっていることを補完するものではない。しかし、それをふまえた上で、伝わる音にはもっと大切な事がある。
それは、『関』を通る事によって音に付加されるものの事である。
マイクはただの機械である。だが、そこにはそれを造った人間の意志がある。「こういう音にしたい」と込められた願望がある。それが一つのパーツを選び、一カ所の回路を工夫し、より明確なチューニングとなって個体に付加される。
それは、ギターを作る時にルシアーがそれに込める想いと全く一緒のものだ。ギターの音がひとつひとつ違うように、ピックアップだって音が違う。シールドだって、スイッチだって、ポッドの一つにだって、音に「何か」を付加している。時には、「消失」を付加する事だってある。場合によっては、エフェクトなどという積極的に新しい効果を足していこうとする行程まで存在する。究極のことを言ってしまえば、同じように見える空気を伝わる音でさえ、湿度や温度、アンビエントの状況によって一瞬ですら同じ音であることなどは有り得ないということになる。そうなってくると、音が「原音のまま」などというのは実に滑稽な話だ。たまたまそう聴こえる音があるとするならば、それは一度破壊された音に対して、付加に付加を重ねて練り上げられた偶然似ているだけの産物に過ぎないのである。
そう、“付加”。音が伝わる事とは、「足される事」なのである。すなわち、音楽とは、音に新たな素養や可能性をプラスしていく現象のことを指しているのではないだろうか?「失う事」を悲しむよりも、新たに「足される事」を楽しむ。その事をマイクという『関』はきっと誰よりも正しくわかっている。だからこそ、それらは登場から百数十年を経てなお、我々と電子機械の間の『関』として存在し続けていられるのだ。
マイクがそこにあること。……それこそが、現代の正しい音楽の形であるということがよくわかる。伝わる音は足されているから元の音よりも美しい。ならばこそ、音楽という世界を尊ぶ意志のかけらが、それを聴く全ての人々により多く還元されることを祈るばかりである。
今回のテーマは『マイク』だ。どちらかと言えば、ギタリストにはあまり馴染みの無いジャンルの話かもしれないが、意外にもギターに関われば関わるほど無知ではいられないのも、『マイク』という存在にまつわる因果なのかもしれない。この度のリサーチでは、エレキ・ギター、つまりアンプでのレコーディング(特にホーム・レコーディングを意識)を主用途として、定番現行品を中心になるべく数多くのメーカーを取り上げるようにラインナップをバランスした。あくまでもデジマート内の在庫を基準にした上で、価格や仕様も多岐にわたるように構成してある。実際の楽器用スタジオ・マイクの種類はここに書ききれないほどたくさんあるので、自分にとって本当は何が正解なのかは、その音を欲しいと思う人次第と言って良い。だが、それでも、スタジオ機材に縁遠いギタリストの、マイク知識の入り口になれたら嬉しい。「知っていれば得をする」だけではない。「知らなければ損をする」のが、この『マイク』だ。本当に良い音を目指すギタリストにとって鬼門ともいうべきこの機材へのアプローチの仕方次第で、今後の音楽活動に影響が必ず出るという事だけは、ここに断言しておこう。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!
スタジオ、ホーム・レコーディングを問わず、楽器収録の現場では必ず使われるマイク界の超スタンダード。電磁誘導を利用したシンプルな構造のマイクで、電源が不要な他、湿度や音圧にも強く、過酷な環境にも耐えうることからエンジニアの信頼も厚い。プロの現場での総合的な耐久力があるということは、すなわちアマチュアにも扱いやすい機材である事を示しており、その実、ちょっとした音録りにも“SM57”さえあれば安心という心理的な効果も手伝って、楽器用として個人で所有されるマイクとしても常に業界ナンバー・ワンのシェアを誇る。指向性は、一般的なカーディオイド・タイプ。重量バランスに優れ、スティック・タイプでピンポイントな集音位置を目視しやすい事から、「Axis Off(マイクをスピーカーに対して傾けて使うこと。指向性マイクで音の遠近感を出したい場合や、コーン紙の傾斜に対して垂直に狙いをつけたい場合に用いる)」も複雑なアシスト無しで容易に設定可能な点は評価に値する。コンデンサー・マイクほど高域の解像度は無いものの、その音は常にブライトで乾いており、エッジの効いたエレキ・ギターのサウンドにもよくマッチする。歪みにも強く、アタックに応じて若干中域が凹むのも弦楽器の飽和したミドルをかき分けてタイトな芯を得やすく、近代的なアメリカン・サウンドと特に相性が良い。決して抜きん出たサウンドでは無いが、楽器録音の世界においてこれで録った音こそが「世界基準」とされるのは、“SM57”がマイクとして類い稀なバランス感覚を持っている製品であるという証しだ。これから録音マイクに触れてみようという人にもオススメの最初の一本であると同時に、複数のマイクを所持する上級者にとっても、音に迷った時に立ち返る基本の音を持つマイクが、これだ。
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先端が切り餅のように四角く成形された、通称「クジラ」。これは、バージョン・アップした二代目で「II」。オリジナルの“MD421”は、どのスタジオにも必ずと言ってよいほど置かれているマイクで、この印象的な外観に見覚えのある人も多いことだろう。エレキ・ギターの録音用としては上記の“SM57”と双璧であり、こちらの方が、「“MD421”でなければダメ」といった、より音にこだわりの強いユーザーに支持されている印象がある。長くエンジニアの間でドラム用(特にタム類が中心)として使用されてきたマイクだけに、アタックのピークに対して耐性があり、低音のスピード感も抜群。音の傾向としてはややドンシャリ気味だが、ロー・ミッドの奥行きのある存在感は格別で、まるでリボン・マイクをミックスしたかの様な立体的な音像が心地よい。「II」になりより音の重心が低く設定された事で、デジタル音源の録音やバスドラ用としても適性が広がっただけでなく、12インチ以上のギター用スピーカーでもサチュレーションの立ち上がり部分がほとんど上滑りしなくなり、より安定的に低域の倍音を稼ぐ事ができた。重低音系ユーザーなどで“SM57”の音がドライすぎると感じた人は、このマイクの胴の太い粘りを利用するのは一つの定石となっている。使用に際して注意点を上げるとすれば、専用マイク・ホルダーが滑りやすいことがまず上げられる。この形状なのでやむを得ない事だとは思うが、録音中に振動で落下することだけは絶対に阻止しなければならない。プロは必ずと言って良いほど「クジラ」をテープでぐるぐると固定したり、人によってはホルダーとマイクを接着剤で固定し完全に動かなくしてしまう強者さえいるほどだ。また、旧式の“MD421”を使う場合は、今ではあまり見ないタッチェル(Tuchel)コネクター・タイプのものもあるので注意が必要。ギタリストは、難しく考えずキャノン・タイプの“MD421-U”を選ぶと良い。ギター収録では、ハイパス・スイッチは必ずオフ(「M」側)にするのも忘れないように。
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1968年の誕生以来、時代に応じたマイナー・チェンジを繰り返しながらも、レコーディング、ライブ、放送と、あらゆる現場でその存在感を発揮し続けてきたロング・セラー。胴体部の干渉ダクトにより、背面からの戻り音を正面軸上で全く同じ周波数特性に揃えるという同社特有の“Variable-D”効果が、あまりにも有名。これにより、音源にマイクを近づけると起こる「近接効果」をキャンセルする事ができ、不用意な低音の増加による歪みやダブつきを抑え、非常にすっきりとした音像での録音が可能となる。さらに、マイク内に風よけのポップ・ガードやショック・マウント機構を内包しているため、風や振動に強く、楽器用としてはバスドラに突っ込んで使用されることが多かったが、実は、これらの特性はスピーカーに接近して録音を行うギターの収録にも適している。高域の音像は、表面こそサラサラとしていながらも一貫してリッチで情報量が多く、ギターとしては400Hzあたりのロー・ミッドが恐ろしくクリアで瑞々しいので、卓でのイコライジング操作も非常にやり易い。輪郭に切れ味のあるモダンな音色を求めようとするとやや下側に迫力が足らない気もするが、過渡期のフェンダー系……例えばツイード期の“Bassman”や、16インチ1発の“Showman”などを最高の音で録りたい時には、絶対に欠かせないマイクの一つだ。最近はコンデンサー・マイクの性能向上によりその音質は行き場を無くしつつあるが、フルアップで収録するスタジオではまだまだ現役。音質にクラシックなストレートさを求める人にとっては、他に代用品がないマイクである。……ちなみにこの製品の俗称は、その見た目通り(?)の「馬××」だったり、「象の××」だったりと、ちょっと品がない事でも有名。
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Audixは創立30周年を越える米国のマイク・ブランド。同社の一貫した音作りの基本は、その「楽器に寄り添った」音質にあると言って良い。つまり、入力された音の特性を一切壊すことなく、長所をより強調するようにチューニングされているのである。“i5”もその特性を引き継いでいるマイクで、ギター特有の高域の倍音に伴うきらびやかさをぐっと浮き上がらせてくれる。入力された瞬間に、レンジ感がギターのそれを遥かに追い越し、ついさっきまで耳に痛かったピークがどこまでも伸び上がっていく鮮やかなクリスタル・トーンに変化するのには度肝を抜かれる。単純に派手とかパワフルというのとは全く違う、非常にインテリジェンスに溢れた音の組み立て方ができるマイクだ。このマイクの後に“SM57”を聴くと、ものすごく地味に感じてしまうほどである(それは逆に、“SM57”がニュートラル特性に近い音を持っている証拠でもある)。音の抜け感や、歪みの粒立ちを強調したサウンドが欲しいなら、特にこのマイクが武器になる事を憶えておくと良い。正面から2本録りする場合など、そのうちの1本をこのマイクにしておくだけで、かなりミキシング時にはサウンドの躍動感に幅を持たせる事ができるだろう。一方、溜めておいて一気にそれを引き出す様な粘っこい音の出方は苦手で、特に石がアルニコのスピーカー・ユニットが相手の場合、ダンパーを正面から狙う様なセッティングだとパンチ力も半減してしまう傾向がある。アルニコ・スピーカーの場合はセンター・キャップを狙うくらいでちょうど良いと憶えておこう。使い方さえ間違わなければ、既存のマイクでは届かなかった全く新しい音域に踏み入る事のできる逸品だ。
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前身であるASTATIC COMMERCIALを経て80年代後半から新たなブランド名とともに再出発を果たし、その費用対効果の高いコンデンサー・マイクの名機“E100”でスタジオ・マイクの定番として業界に割って入ったCAD(Conneaut Audio Device)。“TSM411”は、同社のすっかりおなじみとなったワイドかつ優れた平衡感覚を感じさせるピュアな音像を踏襲した、使い勝手の良い楽器用ダイナミック・マイクである。高機能なショック・アイソレーションを内包したダイキャスト製の筐体は振動や衝撃に強く、また、全長も短く設計されているため、ギター用としては宅録時に使うアイソレーション・ボックス用のリプレイスメント・マイクとして最高の適性を見せる。指向性がスーパー・カーディオイドなので、ボックス内の後方反射に影響を受けにくいのも強みだ。何でもかんでも高解像度で再生してしまうタイプとは異なり、強い音は強く、弱い音は弱く、といったように音源の性質を広く捉え、音楽的な奥行きを大切にした音が欲しい時などに重宝する。総じて音像は良い意味で生々しいが、クランチ気味のアルペジオなどでは、ピークの先端でリミッターがかかったように絶妙にコンフォートしてくるのもその特徴の一つで、どんなにワイドなピッキングにも負けない、太く、腰の据わった音質を安定的に楽しむ事ができるのも良い。ハウリングにも強く、ギター用と考えれば、広々としたステージよりもむしろ様々な雑音環境に悩まされる自宅録音時にこそ重宝するバランスと言えよう。
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英国産リボン・マイクの帝王。楕円形のヘッド・ケースと、スコップの様な中央部に施されたV字の凹みがなんともレトロな印象をかもし出している。1953年の発売以降途切れる事無く生産し続けられている上、その誕生から現在まで全くと言って良いほど仕様変更していない事でも知られる、時代を超越して支持されてきた歴史的マイクロフォンである。リボン・マイクはダイナミック・マイクの一種であるが、主流であるムービング・コイル式とは異なり、アルミなどの薄いすだれ状の金属膜とリボン振動体の間に磁界による電流を発生させる事で音声を得る方式なので、コンデンサー・マイクほどではないにせよ、音源に対して垂直に集音する時の感度が抜群で、拾える周波数帯域にも高いアドバンテージを持つ。“4038”は、その性能の全てをあのBBC(イギリス放送協会)と共同開発した名機STC“PGS1”から受け継ぐ個体で、ややこもった様なミドルがいかにもブリティッシュ・トーンを思わせる、まったりとした、しかも繊細なフィールが特徴。中でも、高圧な入力に対して生み出される、やや芯のあるハイ・ミッドの硬質な倍音感を併せ持った横に広がるサウンドを、近年再評価する声も多いと聞く。低音の出方はさすがにタイトとはいかないものの、色彩自体は強く、真空管系のアウトボードとの相性はとりわけ良好だ。ただし、リボン・マイクの唯一の欠点とも言うべき、振動体に直接風が当たる「ふかれノイズ」にはやはり弱く、ギター・アンプでも、10インチ以上のスピーカーに使用する場合は、より正確な録音を行うためにウインド・スクリーンを使用しよう。
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1998年にリリースされたRoyerのフラッグシップ・マイク。21世紀のリボン・マイクの定義を改めて確立したとされる名機で、それまでのハード面での弱点である重く壊れやすいというイメージを覆す、コンパクトで耐久性に優れ、しかも圧倒的に高出力設計という特性で世界中から称賛を受けた実績を持つ。感度においても、それまでスティック型コンデンサー・マイクの絶対的大正義であったAKG“C451”(当時は製造終了)とほぼ互角な上、AKGの大本命“C414”系と比べても理論上10dBほどしか劣っていないという驚異のハイ・スペックを誇る。それでいて電源を必要としない“R-121”の取り回しの良さはマイク業界の勢力図を塗り替えたと言っても決して言い過ぎではあるまい。もともと評価の高かったリボン・マイクの滑らかでデリケートな音質を、高い機動力の下で扱える優位さは、当時のエンジニア達を驚喜させたに違いない。ワイドな周波数応答性を生むための同社の特許技術『オフセット・リボン・トランス』の仕様として内部にシールドされた軽量なトランスを内蔵しており、これが繋ぎ替え時に起こる不意のプリ側からの残留ファンタム電流の突入事故からリボンを保護しており、安全性も極めて高い。音質は驚くほどクリアで、澱みが無く、エレキ・ギターでのレスポンスを左右する80Hz〜1kHz程度のローエンドから中域全体に及ぶ帯域が完璧に近いくらいフラット。過剰なレゾナンスも物理的に遮断する構造のため、むしろそのパワー感に対して音に派手さは無く、よく引き締まったハイファイな音像を主張する個体として知られている。APIなどのディスクリート・プリをかませて、ハイレゾ音源向けの筋肉質なソースを構築するのにも向いている。ギタリストは、「100Wオーバーのアンプでも、スピーカーべた付けで録れる音の良いリボン・マイク」と憶えておこう。
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新型“sE X1”にも待望の「R」が加わったことで、ますますラインナップを厚くする同社のリボン・シリーズ。元々はプロ・スタジオで御用達の“R1”で名を知られるパッシブ・タイプが王道だったが、その定説を根本から塗り替え、時代を一歩先に進めた製品がこれだ。コンプやマイク・プリといったビンテージ・アウトボード各種名機をはじめ、数多の有名スタジオ・コンソールの設計に携わったエンジニアとして名を知られる巨匠ルパート・ニーヴ……その生きる伝説が同社との共同開発の場で打ち出したのは、リボン・マイクにもアクティブ電源を取り入れる方式であった。彼は、元々出力インピーダンスの低さから電気的変換効率の悪さが音質上の足を引っ張っていたリボン・マイクに、マッチングのとれた電流機構と完璧なグラウンドをもたらす事で、そこに新たな音質的価値観が生まれる事を知っていたのである。結果、広大なヘッドルームを獲得したことによる歪みの無い音質はもちろん、特に低域のスピード感が増したことで、ギターの様な弦楽器にとって実に理想的な音像を獲得するに至ったそのアイディアは称賛に値する。オールド・フェンダーのようなローがグワッと拡散するタイプの音像を上手く引き締め、しかも、高域のきらびやかな倍音は従来のリボン・マイクの繊細な反応がキレイに拾ってくれる。この音像はまさに至極。さらに、本来アクティブ・マイクであるならばもっとハイファイにできるにも関わらず、あえて感度を-32dBに抑えるあたりにニーヴらしいチューニングの妙が見え隠れしている。可聴帯域の周波数特性をあえて制限していく事によって、高いS/Nと反応性を広く維持したまま、不思議にやわらかく巻き込むような、アナログ的「溶け感」をちゃんと残している点も評価したい。これは、スペックには表れない、ニーヴならではの特質と言って良い。古い音を真摯に録るのにこそ最適なこの音色、高価ではあるが虎の子の『本物の一本』として、ぜひベテランのギター弾きに所有をお勧めしたい。……それにしても、ルパート・ニーヴ氏、最近はBOGNERやJHSなどギタリストにもおなじみのメーカーにも接近し個性的なコラボ製品を次々と生み出すなど、そのフットワークの軽さが業界に旋風を巻き起こしている。今後の動向に、さらに注目したい職人の一人だ。
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今年で創立10周年を迎える英国のマイクロフォン・ブランドSONTRONICS。たった数年で同社の名を世界的に押し上げたアクティブ・リボン・マイクの技術が、ついにギター・キャビネット専用の双指向性ユニット“DELTA”として結実。ギター専用と謳っているだけあって、感度がオケ用とは段違いの低電位差に留まるように設計されており、許容音圧も上積みされている。結果、リボン・マイクのスムーズでフラットな集音特性を活かすための安定した電気的特性を持ったS/Nを確保するとともに、ノイズレスで臨場感に溢れた音場感そのものをつかみ取る事ができ、マイクの適性領域やH/Aの癖をいちいち気にしながらのセッティングすらも不要とする自由度をさえも獲得した、恐るべきポテンシャルを誇る。実際に音を録って、その期待はさらなる明確な驚嘆に変わった。おそらく、かつてどんなマイクで録った音よりも人間の耳で聴く音に近い……そういう音をこのマイクは拾う事ができる。どんな高性能なマイクでもどうしても残る自然な「フィルター感」、それを込みで入力値と綱引きをするのもレコーディングでの駆け引きなのだが、このマイクを通せばそういった懸念が一切不要になるのである。これは、ギターの音を録るという観念を根本から覆しかねない、素晴らしい発明である。究極のところを言えば、ややアタックが無機質に感じられること以外は、そのノイズレス、音の厚み、臨場感、レスポンス……何をとっても、ただ、本物であるとしか言いようがない。善かれ悪しかれ、人の「理想」というものを全く排したエレキ・ギターの音像に、今、最も近づける製品かもしれない。このレベルの製品を使いこなす事で、旧世代のNEVEやSSLといったレジェンドH/Aによる入力の縛りは、少なくともレコーディングの現場ではその格差を半分以下にしてしまう可能性すら秘めていると言わざるを得ないだろう。
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コンデンサー・マイクのスタンダードとして、世界中のあらゆるスタジオで愛用される“U87”シリーズの現行バージョン。音声信号で振動するダイヤフラムの静電容量を電圧の変化として取り出す伝統的な駆動方式に、複数のポーラー・パターン・カプセルを搭載。入力に対する応答が非常に速くフラットな周波数特性を持つため、ギター収録の現場でもよく使われる。どの帯域もムラなく解像度が高く、特に巻き弦の細かいニュアンスの再生には欠く事のできない、デリケートなタッチを立体的に浮き上がらせる極めて繊細な音像を持つ。天井に音が張り付いてくる様な色調の豊かさがあり、まろやかに伸び切るサスティンの空気感も素晴らしい。現行の“U87Ai”はヘッドルームを稼ぐためカプセルにバイアス電圧を流しているが、それ故にアンプに近づけすぎると感度過多で近接効果が生まれやすいので、音量と音圧に対して適切な角度と指向性をきちんと配置してやる必要がある。サブソニックに対しては-10dBスイッチやハイパス・フィルターを駆使することも必要かもしれないが、このマイクで本当に良い音で録るためには、設置におけるマイキングのテクニックそのものが問われる事を承知しておいて欲しい。このマイクで正しくスイート・スポットを捉えたギター・アンプの音は、通常のダイナミック・マイクの比ではない圧倒的に上質なサウンドを生み出す事だろう。個人で所有するにはやや高価だが、小音量でもその効果は絶大なので、良い電源と吸音機構がきちんと働いている録音スペースを所有している方は、ホーム・レコーディング用に一本は所有しておくべきだろう。ちなみに、“U87”の初期型は特殊な22.5V電池を2本搭載することによる電池駆動も可能だった。どんなにクリーンなファンタム電源とはいえ、インピーダンス・マッチングやグラウンドからの影響を必ずしもゼロにはできないため、この音を至高とするベテラン・エンジニアもいるほどだ。何かのきっかけで初期型が手に入った場合には、是非そちらの音質も試してみて欲しい。近年、名機“U47”(1986年で生産終了したキング・オブ・マイクとも称される、Neumannのビンテージ真空管マイク)のFETバージョンを発表するなど、ますます現代的適性を注視した仕様へと舵を切りつつあるNeumannの動向に、今後も注目したい。
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“C414”シリーズの中でも最も定評のある“C414B ULS”の音質を引き継ぐ、質実剛健という表現がぴったりなAKGの現行コンデンサー・マイク“C414 XLS”。アタリの強い硬質な音像と、ぶっ飛んでくる様なプラッキーなトップの臨場感は、まさに老舗AKGのフラッグシップたる貫禄十分。全く同じダイヤフラムを背中合わせで配置する「デュアル・ダイヤフラム」方式で指向性を細部までコントロールすることにより、近接効果を最小限にする独特の構造は今も変わらない。トランスを積まず、金属のシャーシで筐体を隙間なく被う事で、コンデンサー・マイクとしては異例とも言える湿度や温度変化への耐性を備えている点も、幅広い層から支持される理由の一つだろう。ブライトな“U87”と比べるとその音質は明瞭だが落ち着いていて、いぶし銀といった印象だ。低音は良くまとまっていて、音量を絞っても細くならない強靭な芯を常に備えており、ラウドになりすぎない粛然としたトラディショナルな音質を常に底支えしている。アタックの突出したピークにも良く追随し、ギターだとアコギやホロウ・タイプの倍音の多い高域をぴしっと皺を伸ばしたように押し出してくれる。テレキャスのリアの様なキャリっとしたきらびやかな音質も、不用意に浮き上がったりせず、真っ直ぐに跳ね上がる感じを伝えてくれるのが嬉しい。ただし、音圧耐性は数値状高いものの、実際使ってみるとギター・アンプの直近の出力はやや持て余す感があるので、フルアップにする際にはスピーカーの正面は避けながらも、オン・マイク上のギリギリの距離を見切って指向性を組み立てるのがセオリー。オーバー・ロードを知らせるインジケーターがマイク本体に装備されているのもなにげに使いやすく、コンデンサー・マイクのエントリー・モデルから卒業したいユーザーにはまずこれを検討してみることを薦めたい。
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新解釈のサウンドを追い求め、スタジオ・マイク飽和時代となった現代おいてなお追随を許さぬプライオリティに執着する実力派ブランドLauten Audio。駆動方式にソリッド・ステートのFETを採用した、あくまでもチューブ・ライクで有機的トーンが魅力の“FC-375 Clarion”を紹介する。「意図的に古くしたサウンドとは全く異なる」と宣伝される通り、その音質は、全体的にまろみのあるクラシカルなアンビエントを維持しながらも、パンチのあるラウドなミドルと、まるでリボン・マイクの様な繊細な高域を併せ持つ。大型ダイヤフラム・カプセルによる出音はスムーズで、歯切れが良く、ダイレクトに沸き上がってくる音楽的な反応が心地よい。確かに、古いアナログ・サウンドの暖かみと、現代的なオープンでレスポンスの良い音像を兼ね備えたマイクであり、ハイファイ一辺倒になりがちな現代的コンデンサー・タイプの中ではむしろ異色の音質と言える。適性が高かったのは、意外にもDIEZELやMesa/Boogieなどの金属質なトップを持つハイゲイン・アンプで、プレゼンスに反応してその分奥行きが自動的に増す様な手応えが他には無い新鮮さだった。クラシックなマイクにありがちなサスティンの中細り感も一切無く、まろやかなトーンの裏には常に新しい音域を掘り起こす確かな創造性が感じられた。24bit録音時代の新たなスタンダードとなり得るチューニング・バランス……その細部まで制御された新世代のメソッドが新時代の扉を開く。
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ギター・レコーディング界では世界的大ヒットの国産名機“AT4050”。とにもかくにも「味付けのない音」が欲しい人には絶好の逸品。これを一度試すと、他社のコンデンサー・マイクは周波数帯域こそ上から下までフラットだが、キャラクターにわずかにメーカー特有の色がついているのがはっきりとわかってしまうほどだ。ただ、決して淡白なわけではなく、すっきりとした耳馴染みの良い中域と伸び上がる様な良質なサチュレーションがあり、音の存在感は常にきちんと主張している。重心が低く、強い芯のあるサウンドが録れるのも特徴で、モダンなエレキ・ギターの音をよく引き立たせてくれる。出力インピーダンスの設定が低くトランスレスなので、楽器用としては申し分の無い忠実な集音力と、歪みへの強力な耐性を維持している点も評価できる。特に、エフェクターを多用する様なプレイヤーにとっては、レコーディング時にフィードバックの干渉域を見切るのにこれほど適したマイクは他には無い。価格も、アマチュアでもなんとか手の届く範囲なので、ご自慢のダイナミック・マイクと対の一本をホーム・レコーディング用に探しているギタリストならば、これを福音と思って購入してみるのも一興だと思う。決して後悔はしないはずだ。……ただし、このマイクの唯一弱点として有名なのが、付属のサスペンション・ホルダーがサイド・アドレスにしては今ひとつヤワだという点。巷ではAKGの“C414”用のものを代用するのも通例の様なので、ホルダーの耐久性に不安を憶える諸兄はそちらも一度試してみると問題を解決できるかもしれない。
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過去二十年にわたってNeumann、AKG、TELEFUNKENなど数々のブランドで実績を積み、BlueやVioletといった新進気鋭のマイク・メーカーにも技術者として参加していた現代の名工ジュリス・ザリンズが、2007年にラトビアのリガに設立したプライベート・ブランド。製品は全て彼の個人工房でハンドメイドによって組まれ、斬新なシルエットの筐体と、独自の「バリアブル・スパッタリング・ダイヤフラム・テクニック」と呼ばれる、より音像の消え入り際の音の端を捕まえやすくする新技術によって生み出されるサウンドに、今、世界中のエンジニアから熱い視線が注がれている。“BH(BLACK HOLE)-1”はそんなJZのフラッグシップ・モデルで、まるで刀の柄の様な四角い平面的な構造に、センター部分を縦に貫通するスリット構造が一種の工芸品を思わせる、卓越した造形美を誇る。マイク自体がプリ・アンプでもあるかの様な極端に低のアウトプット・インピーダンス設定により、その音も独特。フラットとは少し違う自然な抑揚を伴った「プレーン」な音質を備え、一瞬で沸点に達したかと思えば次の瞬間には氷の冷たさを放つような、コロコロと表情を変える極めてビビッドなセンスを内包する。だが、決してタッチに関してシビアすぎる事は無く、ハイファイであるのと同時に、モヤのかかった霧の様な触感が常にまとわりついており、オープンな余韻のロケートが崩壊すると同時にその不穏な影もいつの間にか消えていく……というそれは、ビンテージ・サウンドには違いないが古今例の無い不思議な質感に仕上がっている。エレキ・ギターならば、フロント側のピックアップの音色を拾うのにとても適しており、どこまでも深く、たおやかに、闇の中で花びらを巻き上げる様な美しいトーンを演出できるだろう。数珠のようになった画期的なショック・マウントも実に良好で、ハード、音質面ともに無類の完成度の高さが伺える。ちなみに指向性をカーディオイドに固定した廉価版“BH-2”もあるので、ギターやベースの収録にしか使わないならば、そちらを選択するのも良いだろう。
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2009年創業の新鋭マイク・ブランドLEWITTが日本上陸を果たしたのは、まだ去年の事だ。現CEOのロマン・パーションがAKGでの勤務経験から学んだノウハウとマーケティング力で、「いかに高品質な製品を低価格で供給するか」を出発理念においてスタートするなり老舗メーカーを押しのけてみるみるその市場を広げていった事は記憶に新しい。プロダクトとマーケティングの拠点をオーストリアのウイーンに置き、製造は中国と香港の自社施設内で品質を徹底管理することで恐るべきコストパフォーマンスを実現するこのメーカーの売りは、何といってもAKG仕込みの仕様水準の高さにあると言えよう。中でも“LCT240”は、FETレイアウトのコンデンサー・マイク部門では、エントリー・モデルとは思えない抜きん出た高性能を誇るモデルだ。しかも、理想的なサイズを誇る2/3極薄ダイヤフラムを搭載した省スペース設計という、取り回しの良さも兼ね備えている。中域はおおむねフラットで、5kHz前後から上にピークがある。ピリっとスパイスの効いた発色の良いサウンドが、エレキ・ギターに良く合っている。ただしダイヤフラムの距離を切り詰めたのが災いしてか、音がどうしてもふわふわしてしまう傾向にあるのが唯一の欠点か。マイク自体は根本的にクラシカルなセッティングなので、低音の質感は卓側のイコライザーかコンプで持ち上げてやる方が無難だろう。それを除けばこの非常に軽快なサウンドは、ハムバッカー系全般にありがちな、倍音の尻がモコモコした立ち上がりになるエッジの効かない音質への対策としてピッタリとハマる。ただ、正面側のポーラーはカーディオイドとしては予想以上に横が狭いので、セッティングの際は距離よりも傾きに細心の注意を払いたい。他社のベーシック・モデルの半分以下という価格設定で買えるものとしては、ライバルとも言えるMXL“2003A”等の高域の出方に不満のあるユーザーにとって、今後は現実的な選択肢の一つとなってくるだろう。コンデンサー・マイク市場を大きく塗り替えかねない可能性を秘めた製品である。
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音質は良いが常にその高い価格と神経質な取り回しで購入をためらってしまうコンデンサー・マイク業界に、コンシュマー向け入門機としての決定版とも言える“2003A”がその市民権を得てすでに久しい。知る人ぞ知るこのマイクは、米国の総合楽器商社Marshall Electronics(ギター・アンプのMarshallとは関係がない)のスタンダード・マイク部門であるMXLブランドから提供される、ビンテージ・スタイルの汎用コンデンサー・マイクだ。何よりも驚くのはその価格。国内だと、実質ありふれたダイナミック・マイクを買う値段に毛の生えた程度のお金を足せば、新品が手に入ってしまう。音の第一印象は、撫でるように、なだらかな音で拾うマイク、といった感じだ。音質のバランシングには多少の力ずく感は否めないが、周波数特性はかなりフラットに整えられており、インプット・ゲインを持つUrei“1176”の様なコンプでの音作りがしやすいのも特徴の一つだ。全体的な音圧感はまずまずといったところか。ローの「奔り」が若干甘いことや、高域の色づけもクドい感じはあるものの、ギター・アンプの録音用として考えるとその性能は素晴らしく、きちんと耳に痛くないブライトな高域を良く捕まえてくれるマイクと言える。ただし、指向性が若干甘く、シンラインやホロウ系のギターだとノイズが出るので、マイクの後方に設置する遮断壁は必要だろう。ボーカル録りには若干トップが足りない事からあまり器用なマイクとは言いがたいが、ギター録音用として用途を限定することで素晴らしいパフォーマンスを発揮する個体と言える。個人的にはオープン・バックのコンボ・アンプの「裏録り」用マイクとして使った時に、コンデンサー・マイク特有のきめ細やかな音質特性により素晴らしい音像を得る事ができたのが好印象だった。色々言ってはみたものの、その音質についても価格から考えれば嘘の様な高音質なので、実際はメインでも十分使える上、一本持っておく事でホーム・レコーディングの幅がぐっと広がる、そんなマイクだ。
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プロ・オーディオ界にとって至高の真空管マイクであるNeumann“U-47”/“U-48”……その心臓部に据えられた真空管“VF14”のブランド名こそがTELEFUNKENである。その北米商標を獲得し、2001年にスタートしたTELEFUNKEN Elektroakustikが目指したのは、本物のTELEFUNKEN製真空管を搭載したレプリカ・マイクと、それに組み合わせて使うアウトプット・トランスまでも完璧に再現する事だった。その数々のレジェンド・マイクの復活を成功させた同社が、次に目指したのは“R-F-T”シリーズによる一般使用に向けた低価格化の実現と、それに伴うオリジナル・マイクの開発だった。“R-F-T AK-47 MkII”は、その挑戦を具現化したラインナップの一つで、“U-47”や“U-48”の復刻で培った回路デザインを参考に新たに起こした独自回路を元に、厳選された海外のパーツで組み上げる事で大幅なコスト・ダウンを成し遂げたカスタム・マイクだ。その最大の売りは、NOS(New Old Stock)のTELEFUNKEN製真空管“EF-732”を実装し、本物のビンテージ“U-47”に使われていたあの“BV8”トランスを忠実に再現したカスタム・アウトプット・トランスをそこに追加するという、この上なくスペシャルな仕様によって完成された事にある。「ベルベット・サウンド」と称されるその組み合わせから生まれる毛羽立つ様なデリケートなセンスとリッチなサチュレーションは、まさに実物の“U-47”を思い起こさせる様な豊潤な色香を纏っている。そして、あのビートルズの歌録りにも使用された「フィガー・エイト」と呼ばれる双指向性のステージも装備され、マニアにはたまらない使い勝手に配慮したユニークな仕様も特徴的だ。しかも、この“R-F-T AK-47 MkII”のサウンドには、実際にそういったレジェンドよりもさらに一歩その価値を進めたチューニングが施されていた。すっきりした伸びのあるミドルと、地に足の着いた低域の存在感、そして上質の絹のように優しいエアー感がそこにはあり、ただの古めかしいトーンに留まっていない。レジェンドへのリスペクトから始まり、技術、研究、そして新たなイノベーションをものにする確かな創造性をも追加し、21世紀に舞い戻った新生TELEFUNKEN。その迷いのない哲学に、ただ今は敬意を捧げるのみである。……ちなみに、上記と同じクオリティで生産され、さらに明るいトップ・エンドやタイトなローエンドといった真にモダンなトーンを実現する“AR-51”もとてもオススメなので、是非試して欲しい。
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最高クラスの評価を得るアウトボード系をはじめとしたプロ御用達の高品位なコンポーネントなど、マイクを含む真空管デバイスでも確かな実績を持つ老舗MANLEY。“REFERENCE CARDIOID MIC”は、あの世界最高峰のボーカル・マイクの一つと言われる同社“GOLD REFERENCE MIC”と同じ回路特性で組まれたマイクだ。“GRM”よりも若干厚めのゲージを持つゴールド皮膜ダイヤフラムを採用した事によりそれほどの高域の繊細な伸びは得られなくなったかわりに、楽器の周波数帯域にベスト・マッチしたリッチなトーン・バランスを獲得したのがこの“REFERENCE CARDIOID MIC”最大の強みだ。エレキ・ギターを録るとロー・ミッドあたりに圧力を感じる存在感のあるトーンが生まれ、“GRM”には無かった強いエッジ感も確実に感じる事ができた。カーディオイドが固定されたのも、動きの無いキャビネットを狙うギター・レコーディングにとっては幸いしたのだろう。最大SPLも“GRM”と変わらぬ高い水準を維持しており、ダイヤフラムが厚くなった事でかなりの近接録音にも耐えれるようになった。タイトなサウンドが欲しいユーザーにとってはこの音はやや叙情的すぎるかもしれないが、色鮮やかなロックの黄金時代を支えた音というのは、まさにこういった危ういまでにパワフルでムーディーな音色だったはずだ。真空管が12AT7(初期型は12AX7と6072だった)というギタリストでもその互換性に馴染みのある管というのも嬉しい。マッチド・ペアのオールド・ストック管をお持ちの方があれば、それを試してみるのも面白いだろう。アンプの入り口の管を替えるよりよほどレコーディングに良い環境を手に入れる事ができるかもしれない。
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日本国内でデザインされ中国の工場で作られる、マイク界の新勢力Seide(ザイドと読む)。“PC-VT2000”は、1999年に発売された同社の真空管マイク1号機の“PC-VT1”の後継機で、指向性を単一に固定(カーディオイドのみ)したことで使い勝手はやや後退したが、そのかわり、S/Nに関してはビンテージの有名メーカーのものに全く引けを取らないレベルの高さを見せてくれた。高域に癖というか、ちょっと帯域ごとに波打つばらついた波形は気になるところだが、それはそれでまた聞き苦しくない程度にこのマイクの一つの味となっているので良しとしよう。ギターの録音に利用してみると、確かに2kHzを越えたあたりからぐっと硬さが出てくるが、周波数上限は感度が頭打ちになってくるまでは届かないので、安心して使える。逆に、低域のフラット感はかなり精度が高い。確かに音の深みというか、総合的な情報量の観点から言えばあの有名なNeumann“U47”に比べれば劣るとはいえ、ブランドの由来にもなった「絹」の意を持つSeideの名に恥じない細かく目の詰まった透過度の高いサウンドを実現している点は非常に評価できる。これに、低音を少しコンプでブーストするだけでかなり上級のサウンドに生まれ変わるはずだ。どんなハイ・ゲインの歪みも受け止めるそのしなやかな音像はまさにこれにしか出せない音像とも言え、多種のH/Aとの組み合わせにより、まだまだ新しい音に進化する可能性を秘めている。しかも、ファンタム用電源付属でこの実売値。ベテランのエンジニアがまだまだ有名ブランド製品に気を惹かれている間に、こういう個性的な実力を持つデバイスを手にしておきたいものだ。
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サウンド・エンジニアは、必ず自分だけの虎の子のマイクを持っている。
音に携わる職業の、それはもはや守り神的存在と言っても良い。妄信、否、依存と皮肉る人もいるかもしれない。だが、それがエンジニアにとっての“マイ・マイク神話”なのである。もちろん、そんなものが無くてもそこにある機材で全てをまかなえるプロフェッショナルな方々もたくさんいるだろうが、これは、実のところ精神衛生上の事なのである。
かつて、とあるギタリストにインタビューした時に、その人はレコーディングに使わないお気に入りのエフェクターを大量にスタジオに持ち込んで、収録に臨むと言っていた。常に好きなものに囲まれて、それを側に感じながら仕事の気分を盛り上げていくのだそうだ。エンジニアにとって、マイクとはそういう役目のものなのである。……だから、使わないマイクを大量にブースに持ち込んで、休憩用のソファに転がしている彼らを見ても、決して冷たい目で見ないでやって欲しい。それはまさに、赤ちゃんのおしゃぶり、女の子のテディ・ベア以上に、リラックスを職人に約束する精神安定剤に他ならないからだ。
かくいう私もスタジオ勤務時代を経てきているので、お気に入りのマイクはいくつも所有している。さすがにもう、そいつ等を全ての現場へ連れ歩いたりはしないが、最近お気に入りに追加されたものに関しては、つい嬉しくて音出しの際についスタジオまで運んでしまう事も度々ある。
ここ数ヵ月気に入って使っているのは(今回はデジマートの在庫の関係で紹介はできなかったが)Earthworksというブランドの“SR30”というマイクだ。EarthworksはDBXの創業者デイヴィッド・ブラックマーによって設立されたマイク・メーカーで、検査用のペンシル・マイクなどをたくさんラインナップするちょっと変わったメーカーだ。“SR30”はアコギの集音に適しているコンデンサー・マイクで、こいつを手に入れて以来、アコギの音出しが格段に楽しくなった。また精神安定剤が一つ増えたと思いながらも、次はこいつをエレアコのエンド・ピンに突っ込んで固定してみたいという、ちょっと穏やかでない衝動を最近は抑えきれなくなりつつある。強い薬も効きすぎると毒。そういうことか。
それでは、次回4/1公開の『Dr.Dの機材ラビリンス』も、是非お楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。