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- 2024/11/16
〜レス・ポール生誕100周年記念実験〜
第13回は特別編! 初めて地上に出まして、“レス・ポールの音は重量によって変わるのか”をテーマに実験します。G-CLUB TOKYOさん全面協力のもと、同スペックのヒストリック・コレクション1959レス・ポールは重量の違いによって音が変わるのか?を調べてみました。
■ギターの重量にまつわる噂
エレクトリック・ギターは重くないといかん
これは、カルロス・サンタナさんの発言です。近年は軽いギターを求める人が多いように思いますが、サンタナさんは長いサステインを必要とするスタイルだから、重い方が良いんでしょうか。ギターの重量に関するプロ・ミュージシャンの発言としては、高崎晃さんが『第2回デジマート群像』の中で、中古楽器を購入する際の心得として「質量は気にした方がいいね、重いのが好きな人は重いのを狙ったらいいけど、僕は軽めの方が好きなのでストラトやったら3.4kgくらい、レス・ポールなら3.7kgくらいまでのものって決めているんだ」と述べています。具体的な数値に触れているところが興味深いですね。プロのギタリストが重量を気にするのは、長時間演奏することが多いため“弾き疲れしないギターが欲しい”という理由もあると思いますが、やはり音質やサステインなどが気になるのだと思います。だからこそ、サンタナさんのように“重い方がいい”という人もいるわけで。
では、実際に重いギターと軽いギター、音はどう違うのか? 私自身の経験で言うと、なんとなく重いギターはローがしっかり出て、軽いギターはローが削れる──という程度の認識ですが、振り返ってみれば、まったく同じ条件で弾き比べた経験はないかもしれません……。例えば、あるストラトを購入するため弾き比べたとしても、1本目と2本目はA店、3本目はB店……となると、そもそも試奏用のアンプが違うわけです。シールドだって違うし。それにA店の1本目と2本目で、ちゃんとピックアップの高さを同じにしてあったかというと、うーん、覚えていません。こんな風に、案外適当な経験からイメージを持っていたことを反省し、今回、同じ条件で重量違いのギターを弾き比べてみることにしました。
さて、どんなギターで比べようかなぁ。今までの実験はストラト関係ばかりの内容でしたし、今年はレス・ポール(プレイヤーの)生誕100周年ですから、ここはレス・ポールの弾き比べでいきたいと思います。で、同じタイプのレス・ポールを、重量違いで複数本揃えられる店というと……お茶の水のG-CLUB TOKYOさんだっ! お店に行って、店長の藤川忠宏さんにお願いしてみると0.1秒で「なるほど、面白いかもね。じゃあどうぞ」って即決? 快諾っ? そ、それじゃ、やっちゃうぞ。
■使用機材
≪実験1≫
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS/4.07kg(ギター)
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS/3.935kg(ギター)
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS/3.865kg(ギター)
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS/3.725kg(ギター)
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS/3.64kg(ギター)
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション カスタム・オーダー レス・ポール・ジャズ/3.33kg(ギター)
※一部のギターは店舗による重量表記と異なるものもありますが、これは店頭展示期間に材が乾燥するなどして起こった変化と推測されます。ここでは取材当日の実測数値を明記しています。
※すでにリンク切れになっているギターは「SOLD OUT」になります、ご了承ください。
≪実験2≫
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー 2014 VOS/3.935kg ×2台(ギター)
1本目
2本目
≪実験3≫
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS/3.865kg(ギター)
◎ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 ヘビー・エイジド/3.865kg(ギター)
≪各実験共通≫
◎マーシャルJVM410H(アンプ)
◎マーシャル 1960A(キャビネット)
◎ギブソンInstrument Cable 18' Purple(ケーブル)
◎ダダリオEXL110(弦)
◎フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
◎デジタル秤
※セッティングについて
■実験1ではオマケの“レス・ポール・ジャズ”を除き、すべてギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOSを使用し、弦高やピックアップの高さも同じ条件に調整してあります。
■試奏はすべてアンプに直結、セッティングも同じです。使用しているシールドも同じものです。
■今回の実験は、ギター本体に関わるものなので、手弾きとさせていただきました(ルーパーの使用ができません)。極力同じフレーズ、同じタッチを心掛けましたが、どうしても発生してしまった細かい違いについてはご容赦ください。
※地下実験室では毎回、ギター周りの実験は手弾きで行い、エフェクターやアンプ周りの実験にはルーパーを使用しております。
まずは「店にある一番重いレス・ポールを弾かせてください!」ということで出てきたのが、このギターです。正確には、店にある“ギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1959レス・ポール・リイシュー2014 VOS” (以下59リイシュー)の中で一番重いものということです。で、早速手にしてみましたが……全然重くないじゃん! 測ってみたら、4.07kgだって。ひえー、こんなに何十本も在庫がある中で一番重くて4.07kgか、59リイシュー、マヂ軽いです。今まで何本も59リイシューを弾いてきましたが、それは特別に軽い個体なのかと勝手に思っていました。今の59リイシューは全部軽いんですね。あー、驚いた。
実際に弾いてみると……ふむふむ、あ、59リイシューの音ですね。センター・ポジションでのハイの出方、リア・ピックアップでのクキクキとしたアタック音+独特の倍音の乗り方、フロントの甘いんだけれどハイがしっかり出ている音、これぞ59リイシューです。今回はこれを基準にして、より軽い個体を弾いていきます。それと、今回も一応、オシロスコープのデータも付けます。まぁ今回は手弾きですし、それぞれ違っていて当然ではありますが、何かの足しになれば幸いです。
2本目で、早くも4kgを切ってしまいました。1本目との重量差は135g、クリップ・チューナー3個分くらい、肉で言えば2人分の八宝菜に入っている量……くらいなんですが、わかりにくいですね。忘れて下さい。音の方は……うーん、こっちもわかりにくいでしょうか。1本目に比べて音の重心がやや高い気がするのと、こちらのギターの方がフロントの音は甘いですね。波形は100Hzの少し上の山の形が違うのと、1kHzの少し上の針のような山が飛び出ています。このような違いが、重量とどう関係しているのか、正直まだわかりません。次にいってみます。
3本目です。2本目とは70gしか違いません。肉で言うと、病院のご飯の、ちょっといい日のおかずに入っている量……くらいだと思います。ですが1本目と比べると205g違いますよ。これを肉で言えば、えーと肉では、あ、もういいですか? わかりました。
とにかく1本目も決して重いとは感じませんでしたが、この3本目あたりから持った感触が明らかに“軽い!”という感じです。弾いてみると……おお、これは明らかにトレブリーで、なぜか出力も大きいです。これまでの2本とは、かなり違う個性を持っていますね。むむむ。波形的にぱっと見て分かるのは600Hzの少し上が飛び出ていることです。この傾向は、より軽量になるともっとはっきりするのだろうか。次にいってみます。
4本目、ここで一気に140g落ちました。1本目との差は、345gです!! 3本目のブライト&パワフルという傾向がここでもっとはっきりすれば、重量との関係も見えてきそうなんですが、どうでしょう? 実際のサウンドは……あ、これもかなりブライトですね。ですが、3本目は“ギリギリ”とした高域が目立つのに加えて、これは他の部分もしっかり出ていて、バランスがとれているような……。波形の600Hzのところは、3本目ほどではありませんが、やはり出ています。でも同じくバランスがとれていた1本目に比べると、明らかに高域は出ています。軽くなってくると、高域が出るのでしょうか。ただ、波形で見ると1本目の方が高いところが出ているように見えますね。うーん……? 次の個体のサウンドをチェックして、全体的な傾向について考えてみましょう。
5本目、この日G-CLUB TOKYOさんにあった59リイシューVOSの中では、最も軽い個体です。3.6kg台って、ストラトキャスターやテレキャスターでももっと重いの、普通にありますよね。持った感じは、“うっわー、か、軽っ!!!”です。で、ここまで順ぐりと軽い個体を持ってみてわかったのは……“軽くなっているのはボディの方で、ネックが軽くなっているわけではない”ということです。ボディ・トップのメイプルは、杢目の表情は違えどどれも見事なものばかりなのでバラつきは少なそうです。そうすると、重量の差はバックのマホガニーの差なのではないか──というのが私の考えです。推測ですけど。
で、肝心の音は? この5本目もトレブリー、なんだかシングルコイルのギターのようです。で、弾いている時は特に感じませんでしたが、このギターだけ音が小さかったようで、波形ではこれだけ上限が-30dBとなっています(他は-20dB)。総じて3本目に近く、こちらは少しだけミドルにクセがあるような気もします。ただし、波形については3本目と全然似ていません。
ここまで5本弾いてみた印象は、1本目と2本目が近く、3本目と5本目も近くて、4本目はそれらの中間といったイメージです。高域の出方だけ言うと、3本目以降はすべてトレブリーだと感じました。このことから考えると、なぜかはわかりませんが“軽くなる=高域が出る”という傾向があるように思います。もしかすると、ローが減って相対的にハイが出ているように感じるのでしょうか? わずか5本ですが、同条件で弾いてみての率直な感想は、やはり重量も音質を決める“ファクターのひとつ”にはなるだろうと感じました。
※ここで勘違いしてほしくないのは、軽い=ハイが出る=良い、とは限らないということです。良いかどうかは、好みの問題ではないでしょうか? 私は重かった1本目の音が、全体のバランスが良いように思えて好きです。
ここで藤川店長が、さらに軽い個体を持ってきてくれました。これは59リイシューではないので番外編となりますが、試してみましょう。以前週刊ギブソンで紹介した“ES-レス・ポール”と外見は似ていますが、まるで別物です。あちらはES-335と同じようにラミネイト・メイプルのボディ・トップ、サイド&バックにセンター・ブロックを挟む構造ですが、本器はヒスコレをベースに、バックのマホガニーをくり抜き、トップのメイプルもヒスコレと同じものにfホールを空けただけというカスタム・オーダー品です。あくまでも参考資料として弾いてみました。
そのサウンドは、いったいどこがジャズやねすいませんっ! 先に被せて謝っておきます。まじめな話、先ほどの5本目と近い音ですね。ただし、5本目より少しふくよかと言うかパワフルですし、波形も100Hz、200Hz、700Hz等など、まぁ似ていません……。まぁ、このギターはこのギター固有の音を持っているという、当たり前の話で心苦しいのですが、なにしろ弾いてみないとわからないので、試させていただきました!
次の実験は、まったく同じ重量の59リイシューを同じセッティングで弾くと、どうなるか?という実験です。こんなことができるのも在庫が豊富な専門店さんが協力してくれたからで、本当にありがたいです。個人の力では、まず無理ですからね……。では、早速実験です。
1本目、はい、これは先ほどの重量違い実験では②で登場した個体です。59リイシューらしいバランスの取れた音ですね。重量違い実験の後半で出てきた超軽量クラスの個体に比べると、パワーは少々弱い感じです。
では、まったく同じ重さの、同じ59リイシュー(もちろん同じ2014年ですよ)の、違う個体を弾いてみます。むむむ。実験1の③ほどではないものの、実験2の1本目よりはブライトで、パワフルです。これがいわゆる個体差か。できれば出てきてほしくなかったぜ、個体差。同じ重量でこれだけ個体差があると、実験1の重量の違いによる結果も、怪しいもんだという人が出てきますよねー。いやまぁ、同感ですよ(わー、自分で言ったぞ/笑)。
ただし、実験1でも述べたように重量が音を決めるファクターの“ひとつ”であるということも、間違ってはいないと思うんです。この実験2の場合は、重量が同じなだけに、他のファクター(わかりませんけど、例えば、重量は同じでも木の乾燥具合が違うとか、ピックアップのコイルの巻き数がちょこっと違うとか?)の影響が大きく出たのではないかと思っています。波形もずいぶん違いますね……。恐るべし、個体差。
次は同じ重量のVOSとヘビー・エイジドで比較します。基本スペックは同じで、フィニッシュが違うという2本ですね。
1本目は、3.865kgのVOSです。実験1の③に出てきた、最もトレブリーで最もパワフルな個体です。こうして改めて聴いても、やはり相当パワフルですね。なんなんだ、この個体。このタイプが好きな人にとっては、いわゆる“当たり”ということになるのでしょう。
2本目、同じく3.865kgのヘビー・エイジドです。こちらの方がパワーはわずかに控えめです。ただ、良いレス・ポール特有の倍音が1本目以上にバンバン出ています。これは凄い。ビンテージ・マーシャルにつなげば、昔の音源で聴けるオリジナル・バーストのあの音になりそうです。
うーん、重量やセッティングは揃えてあるので、この違いがVOSとエイジドの違いなのか、個体差なのか、よくわかりません。波形もまったく違っていて、どこが似ているか指摘する方が難しそうです。ただ、どちらも間違いなく“良いレス・ポールの音”ではあるので、あとはもうどちらが好きか?としか言えないですね。
ここで藤川さんに、59リイシューを手に入れる際の注意点などを聞いてみましたので、オマケのインタビュー動画をご覧ください。
うーん、なるほどね、結局は好きなものを買いなさいということでいいんですよね? でも、それはそうなんですよ。だって今回弾いたレス・ポールの音色の違いは重量の差だ個体差だと言っても70点と90点という違いではなく、どれも90点以上のハイアベレージで、方向性が少し違うだけですから。最終的には、自分のアンプやペダルのセットで弾かなければわからないし、さらにバンドをやっている人であれば、自分のバンドの中で弾かないとわからないと思います。ホント、ギター選びって難し過ぎるから、直感に頼るのもひとつの方法だとは思いますよ。一緒になってから、ダメだと思うこともあれば、より一層好きになることもありますし……ね。
結論:レス・ポールの音は重量によっても変わるが、思ったよりは重要な要素ではない、かも
重量の違いによっても音は変わる、そして軽くなるに従ってどうやらトレブルが出るようだという傾向はおぼろげには見えましたが、同時に重量は音を決める数多くのファクターのひとつでしかなく、それ以外に重要なことはたくさんある──当たり前ですが、そんな結論です。また今回、改めてギターは1本1本すべて違うんだということがよくわかりました。藤川さんのインタビューにありましたが、「例え重量が同じ材でも、固いか柔らかいか、また、重心がどこにあるかで、当然振動の仕方は変わる」という発言も納得です。なるほどー、重心のことまでは考えたことなかったですわ。面倒くせえなぁ、ギター。まぁ大好きなんですけど。
明確な結果を出せなかったので申し訳ないですが(いつもいつもすいません……)、これまで同じ条件下で同じ重量の同じモデルを弾くという試みはあまり聞いたことがないので、皆様のギター・ライフのなんらかの参考になれば嬉しいですし、私もマスクから鼻を出して頑張った甲斐があるってもんです(……なんか曇るんですよ、メガネ)。
それではまた次回、地下14階(3月31日更新予定 4月1日更新予定)でお会いしましょう。
井戸沼 尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
◎井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』