楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 連載
  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第13回

究極の木フェチ“萌え杢”楽器をデジマートで探すの巻

  • 文:森 芳樹(FINEWOOD)

いつもは裸というか生というか、変態木材周辺諸々を紹介する当コラム。今回は趣向を変えて、その木フェチ観点から楽器を選んでみました。いちデジマート会員目線で見た萌えキュン素材楽器の数々を紹介します。売り切れご免、リンク切れ(たら)ゴメン。

このエントリーをはてなブックマークに追加

楽器を通販で買うこと

 しかし、まぁ〜ナンですな〜(桂小枝風に)、楽器を通販で買うことが、すっかり当たり前の時代になってきました。もちろん実器の演奏動画やらSNSによる情報交流、そしてショップサイトの充実などがあってのことです。一方、売り手側である当デジマートのようなネットモールの中では、品揃え、価格、新入荷情報、保証サービスなどなどを全国のお店が競い合っています。その結果、業界の透明感が増し、通販で買うことへの抵抗感が薄れてきたという感じでしょうか。

 筆者が楽器に興味を持った頃、通販と言えばトムソン・トーマスくらいでした。今でもオークションなどで見かけますが、その度に懐かしく感慨にふけるとともに、楽器に対して無垢で純真な心を取り戻せそうになります。時代は変わって、今やフェンダーでもギブソンでも通販で買えないものはありません。何なら木材だって買えます。実際にお店を訪れて試奏したり、ショップ・スタッフさんと交渉したりといったプロセスが苦手な方も多いはず(実は私もそのくち)、ますますこの楽器通販市場の動向は見逃せません。

 今回は、これを書いている2月5日現在、デジマートに掲出されている楽器の中から机上で選びました。ビンテージも新品も中古も関係ありません。私の木フェチ心を揺さぶるか否か、それだけの偏狭な基準です。よってサウンドそのものやハードウェアの紹介などなど、つまり最も肝心な部分については一切触れておりません。楽器サイトにあるまじき、見た目だけの楽器レポート、ならびにリンクは売れたら削除の場合あり、何卒ご容赦ください。

ストラトキャスター・タイプ

① Fender Custom Shop MBS 59 Stratocaster NOS 5A-QMT / Ash Back 5A-BirdsEye Maple Neck Master Built By Yuriy Shishkov

 まずはご本家に敬意を表してフェンダー・ブランドから。これはどうみても木フェチの木フェチによる木フェチのための1本ですね。キルト・メイプルの杢行き、バースアイの粒感、アッシュ・バックも含めたボディ全体のカラーリング、思わず写真に向かって二礼二拍一礼してしまいました。キルトとバーズアイのコーディネートって結構難しいと思うのですが、何の違和感もなく融合しています。木素材によるラグジュアリー感演出はお見事としか言いようがありません。

② TONE GARAGE FWC-255ST S.S.M

 違ったアプローチでの木フェチ・ギターがあります。大阪のトーン・ガレージ製の1本。こちらはウッド・コンセプトにこだわるあまり、パーツ各部が木で製作されています。ピックガードやノブ類は言うに及ばずピックアップ・カバーやアーム先端キャップ!までもです。実はこの木パーツを製作されている現場を見せてもらったことがあるのですが、それはそれは大変な作業でマイスターの超絶技工が繰り広げられていました。完成するとあくまでパーツのひとつなのですが、その中にはブランドの木に対するこだわりと職人技が詰まっていることをお感じください。

③ FREEDOM CUSTOM GUITAR RESEARCH HYDRA 2-Point 24Fret Quilt Maple Top 傾奇者(KABUKIMONO)

 国産カスタム・ギター界の雄、フリーダムにも萌えてしまいました。「傾奇者(KABUKIMONO)」と銘打たれた1本です。独自のネック・ジョイント・システムによるトーン・コントロールの優位性はよく知られたところですが、私はそこではなくトップのキルト杢に目を奪われてしまいました。キルト1片1片の立体感というか飛び出し感がハンパないです。銘に偽りなく、AB蔵さんが見得を切って向かってくるようです。これは杢そのものの深さもさることながら、下地処理から塗装にかけて相当なテクを駆使されているのではないかと推測しました。

④ Paul Reed Smith(PRS) Wood Library Order Santana Signature 10Top Quilted Maple

 木フェチなギターと言えば、このPRSブランドも絶対に避けて通れません。厳密には「ストラトタイプ」ではありませんがご容赦を。なにせこの、“Wood Library Order”なるタイトルにも大いに惹かれます。選び抜かれたディーラーさんのみが許される禁断のストック場から素材をセレクトされたようです。キルトの中でも特定の角度で木取りすることによって生まれるエンジェル・ステップが見事に現れています。それをあえてブックマッチにすることなくワンピースで見せるあたり、さすがはライブラリー仕様です。やや杢が薄れる階段下部もしっかりセンターストリップで締められています。とどめはお約束のブラジリアン・ロースウッド指板。こういった黒々しいブラジリアンって近頃少なくなってきました。

⑤ momose 2014 MST2-FTW JINDAI/NJ (MINA) 【楽器フェア2014出展品】

 キルト杢が続きましたが、今度は和材を使った1本です。“モモセ”による2014楽器フェア・モデル。ボディに神代タモ(アッシュ)をワンピースで採用しています。ブルーグレーに枯れた神代カラーベースにびっしりフレーム入りのタモ、和材好きにはたまらない仕様です。長年、火山灰などに埋もれていた神代木は時として、朽ちることなくこのような姿で勇姿を見せてくれます。木にとっても埋もれた時には、まさか楽器フェアでスポットを浴びるとは思いもよらなかったことでしょう。ネックもサーモウッドと呼ばれる高温処理メイプル材、こちらもフレイム入りのヨダレものです。

レス・ポール・タイプ

① Gibson Custom Shop Historic Collection 1959 Les Paul Reissue 2014 Hand Pick Heavily Aged w/Antiquity s/n 941516

 まずは、ご本家バーストからの1本を選定。本当は売却済の品を選ぶつもりはなかったのですが(人様のものですからね)、この1本だけはお許し下さい。このトップ、フレームともキルトとも“ウェイビー”と呼び難い、玉石混交というか酒池肉林というか全部入りというか、何とも個性的かつゴージャスなルックスです。アンバー風に焼けたようなフィニッシュ、バックやネックの激しくエイジドされたお仕置き仕上げも木フェチにとっては望むところであります。バイヤー様、よくぞこのトップを選定したいただきました。ぜひ木フェチ同志のためにお代わりをお願いいたします。

② Gibson Custom Shop 【中古】Historic Collection Limited Run 1959 Les Paul KOA Top 〜2007年製〜【4.25kg】

 続きましてもう1本、ギブソンから。今度は同じレス・ポールと言っても全く毛色が異なるハワイアン・コア仕様。ピックアップ交換やリフレットが施され、価格もこなれた実にお買い得なUSEDです。コアはブックマッチのストレス系フレーム材ですが、左右は木表、木裏の違いからか見る角度によって杢目が大きく変化しています。エレキに使われるコア材の多くが、比較的あっさり淡白なものが多い中で、この濃厚材コアは貴重と言わざるをえません。

③ dragonfly Maroon Custom

 こちらは純国産ブランド、ドラゴンフライからの1本です。歴々のプロにも愛されるブランドですが、木素材に対するこだわりも半端ないです。その信念は、見た目や名前だけ先行の高級(高価)木にこだわるのではなく、今ある木を楽器としてどう活かすか、そこんとこヨロシク!といったことをいつだったか、社長自らが熱く語っておられました。確かに高価で名のとおった希少木すべてがトーンウッドとして優良かと言えば決してそんなことはありませんからね。この1本もメイプル・トップ、マホガニー・バックといったオーソドックスなコンビですが、非の打ち所が全くみられないシンプルかつ美しい個体に仕上がっています。プロが実践で使う理由がわかるギターに見えます。

④ FUJIGEN EXPERT FL/AT-MH/NFT

 そして国産ブランドからもう1本。フジゲンの木材厳選モデルです。素材はネック、ボディともATマホガニー。“アクア・ティンバー”と呼ばれるサルベージウッドを使用されています。この素材の特性を活かすために仕上げは極力シンプルに留めています。手に取ると裸木そのものを抱いているような感じなのかと妄想します。何しろ100年単位を水の中で過ごしてきた材ですから、着色や厚塗った塗料で覆ってしまうのは明らかに野暮ですよね。このサルベージウッドの最も優位な点は、やはり木として古い時代のものであるというところかと思います。種から育った実生大木と計画的な植林材ではその趣(木味)が異なって当たり前です。もっと、こういったエコでポテンシャルの高い素材で作った楽器が増えて欲しいです。

テレキャスター・タイプ

① Fender USA 1971 Rosewood Telecaster

 まずはビンテージのオールローズから。71年製をビンテージと呼ぶかどうかの議論はさておき、歴史的に価値の高いモデルであることは間違いありません。楽器製作にとって材料の適材適所は大変重要なポイントで、選択を誤ると残念なことになってしまいます。そんな中でこのオールローズ・テレの単材豪華主義は潔ぎよくて憧れます。60年代終わり頃と言えば、楽器製造業界ではローズウッドがブラジリアンからインディアンに取って変わった過渡期。まだまだインディアン・ローズ資源は潤沢だったのでしょう。ミッドセンチュリー家具のような杢目を持つこの個体、一度生で拝見したいです。

② Suhr(正規輸入品) The 2014 Collection DESIGN INSPIRED BY NATURE Classic-T Right-handed Burl Redwood S/N #23862

 続いてSuhrブランドの2014NAMMショーに合わせて製作されたモデルだそうです。レッドウッドのバール材をトップ&バックに、具はスワンプアッシュでボディ構成されています。このバール君、木の病巣ともキズ修復痕とも言われますが、自然の驚異によって生まれる産物であることは間違いないです。バール杢とも言われる目粒は干割れすることが多く、扱いが難しいですが状態の良いものは大変高価で取引されます。この個体のレッドウッド・バールは粒立ちや適度な杢密度、色も抜群ですね。まさにNATUREを感じさせてくれる1本です。

セミアコ/フルアコ・タイプ

① YAMAOKA ARCHTOP GUITARS Strings Art NY-3

 今回唯一の国内個人ルシアー製作もの、Yamaoka Archtop Guitarsの1本です。セミアコのようなフルアコのような両者の特徴を持つ独自性が強いオリジナル・モデルです。バイオリン・フィニッシュと銘打たれたブラウンカラーはスプルースの汎用さを一気に払拭し、まるで何世紀も遡ったビンテージ・クラシック楽器のような雰囲気をまとっています。バック、ネックも含めて単色でまとめたこのギター、素材のナチュラル感をたっぷり残した仕上がりで木フェチにはたまりませんです。弾き手を選ぶでしょうが、上手く弾ければこんなクールなギターはないかと思います。

② LINDA MANZER Jazz Cat Custom

 リンダ・マンザーのアーチトップです。まさかこの方のギターがデジマートで買えるとは思いもよりませんでした。もちろん買えるといっても実際にはそれなりのお値段ですが。スプルース・トップにメイプル・サイド&バック、エボニー指板、これだけ見ると特に際立った素材選択ではありません。しかしこのギター、写真を見ているだけにも関わらず、激しく惹かれます。素材そのものの色なのか、はたまた、木目の揺らぎに萌えるのでしょうか? 「休む」という字は、人(にんべん)と木が結びついて成り立っています。そんな金八ネタをつい思い出してしまった1本です。

エレキ・ベース

① Fodera Imperial 5 Strings Elite -NAMM 2013-

 まずはこのブランドから。フォデラ! すみません、初めて知りました。この個体はリチャード・ボナ自身が演奏に使用したものだそうです。ボナにぴったりのルックスですね。ウォルナット・バールのトップ、バーズアイ・メイプル指板、5ピースのネックも杢々しさ満載、見た目でしか紹介できないことをお許し下さい。“スタンドアローン・クオリティ”は写真からでも十分感じ取れます。

② Sugi Night Breeze 5st Natural Top

 またまた5弦ベースを選んでしまいました。Sugiブランドのバックアイバール・トップ。多弦ベースは材の贅沢度合いも大幅に高まっていますね。このバックアイ、大きい面積がとれるバール材として楽器には最適です。滲んだ万年筆インクのようなバックアイバールは、まさに芸術的な作品に仕上がっています。いつかはこのブランドの楽器を持ちたいと思ってるあなた、間違いなく木フェチです。


まとめ

 今回は木フェチが選ぶエレキテル連合を紹介しました。皆様のデジマート・ライフ充実の一助には成りえませんが、こういう見方もあるのかと、遠くから見守っていただければ幸いです。機会とご要望がありましたらアコースティック編もやってみたいのですが、アコ物になるとチョイスがますます難しくなりそうで今から楽しみです(やる気十分)。次回は3月16日(月)更新予定。

アマチュア・ウクレレ・ビルダーの祭典
「第4回 ウクレレ総選挙」開催のお知らせ!

 本コラムの著者であるFINEWOOD森氏が主催する、全国のアマチュア・ウクレレ・ビルダーの作品が集結するウクレレの祭典「ウクレレ総選挙」が今年も開催されます。来場者による人気投票の末、最も多くの票を得た方が“次期センター”、もとい“優勝”という仕組みの当イベントも回を重ねること4回、これまで何人ものプロ・ビルダーを輩出してきました。今週末からですので、ぜひご来場を!

「真冬のウクレレ、みかん@こたつ並にいいもんですよ。お時間ありましたら、ぜひ会場に足をお運びください。会場ではおなじみ木フェチカフェの他にセイレン・ブランドのウクレレ展示即売コーナーやFINEWOODによる木フェチ素材の販売(総選挙特価品多数)も行います」(森氏談)

会期:平成27年2月20(金)〜22(日)
時間:10:00〜18:00(20日は12:00〜)
会場:ギャラリーみずのそら(JR中央線・西荻窪駅下車徒歩8〜15分)
入場料:無料
問い合わせ:オフィシャルHP

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

製品レビューREVIEW

製品ニュースPROUCTS