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- 2024/11/16
エレクトリック・ギター/テレキャスター・タイプ
世界初の量産型ソリッド・ギターであり、ストラトキャスター、レス・ポールと並ぶエレクトリック・ギターのスタンダードであるテレキャスター。本家Fender USA製の素晴らしさは言うまでもないことだが、ここではあえて国産のテレキャスター・タイプに注目してみたい。材、ピックアップ、アッセンブリー、ハードウェア・パーツ、ボディ&ネックの緻密な成形……スタンダードをさらに進化させるべく、さまざまなアイディアが投入され、メイド・イン・ジャパンならではの高い工作精度で組み上げられた個性派テレキャスター・タイプに、今こそ注目してみたい。
物事には、必ず始まりがある。
エレキギター史にとって、記念すべきその始まりが何だったのかを簡潔にするのは難しいが、それでも人々が思い描くいくつかの始まりとおぼしき区切りの時を思い浮かべる事はできる。
Fender“エスクワイア(Esquire)”……それは、確かな始まりだった。世界初の量産型ソリッド・ギターの誕生という輝かしい歴史の1ページが1950年7月のNAMM SHOWに刻まれたことは、今や誰もが知る通りの事実だ。レス・ポールも、ストラトキャスターもない時代である。弦楽器というセオリーにチャンバー(空洞)構造が不可欠とされていた中にあって、鈍器さながらの重たい木の塊がどんな音を奏でるのか人々は興味津々だった。真っ黒なボディ・カラーと一基のリア・ピックアップ。シンプルなそれが奏でた世にもきらびやかな硝子をはじく音にも似たな高貴な響きもまた、誰にとっても初めての体験であったに違いない。そして、その始まりには先があった。同年秋、ピックアップをリアとフロントに搭載した上位機種“ブロードキャスター(Broadcaster)”が誕生し、その仕様が(名無しのノーキャスター/Nocaster時代を経て)ほぼそのまま1952年に命名された“テレキャスター(Telecaster)”へと受け継がれていったのである。
“テレキャスター”の本当の始まりは、そこだとする意見もあるかもしれない。しかし、考えてみれば、その後に起こった激動の中で見定められる改変の嵐を知る今の我々には、名前程度の変遷にいちいち驚いてなどいられないはずだ。“テレキャスター”の名前など、その後いくらでも変わっている。そして、何よりも音質そのものに関わる部分にもそうした変更は次々と無慈悲に訪れていたのだから。
だとしたら、その都度、“テレキャスター”は終わったのか?
そして、その後に生まれた新たな“テレキャスター”の名を冠したラインは、また、全く新しいギターの歴史の始まりだったのだろうか? 誰もがその答えを出しあぐねている間に、エリート、スタンダード、カスタム、デラックス、シンライン、そして様々なカラーをいただくバリエーション・モデル等、“テレキャスター”の名を冠したギターは迷走にも似た混沌の果てに、1984年(正確に言うならば、単なる“テレキャスター”は、1983年)、ついに悪名高い「CBS Fender」との決別に伴って一旦その全てのラインの生産を打ち切る事になる。
“テレキャスター”が死んだ。多くの人々はその時そう思ったはずである。終わったんだ、と。始まりがあれば、終わりがあるのはその通りである。しかし、人々は気付く。本家であるFender社がその後現代に至るまで “テレキャスター”とだけ冠されるセンター・モデルを作らなかったとしても、今、自分のまわりに新たに生まれてくる“あのサウンド”が決して夢ではない事に。
確かに、苦悩に満ちた混迷の製造期は終わった。だが、“テレキャスター”は終わらない。“テレキャスター”はそこにある。実物として残っている。あの多くの派生モデルたちもちゃんとある。だから、それは確かにあの時には始まっていたし、未だに、終わってはいないのだ。そして、もっと大きな規模で“テレキャスター”を欲する人々が、その欲求のまま独自の新しい“テレキャスター”を次々と歴史の中に作り始めてしまっているではないか。
始まったものは、何一つ終わってはいなかった。全ての残された個体達が、我々の頭の中に残された“あの音”達が、そして、新しいアイデアで心を一杯にしているビルダー達が、その終焉を許さなかったからだ。
“テレキャスター”……それは、人々に愛された歴史上の楽器全てがそうであったように、それらもまた、終わってはいなかった。始まって、始まって、始まり続け、受け継がれていく。そして、今、また、海を隔てたこの最果ての地でも、新しい“テレキャスター”は次々と始まっている。そんなただ中に我々はいるのだ。
物事には、必ず始まりがある、と誰かが言う。では、今まさに、誕生から65年を経てなお始まり続けているそれを、何と呼ぶべきなのか? 答えは決まっている。長年の敬意と愛着を込めて、こう呼ぶべきだ。
「伝説」、と。
今回は、ソリッド・ギターの元祖ともいうべき“テレキャスター”スタイルを継承する国内製品の中から、コンポーネント・ブランドを中心に、特徴的な仕様を持つアイテムを選択しリサーチした。現行品が中心とはいえ、やはり歴史の長いギターを調査する時には、古い“本物”の感触を知っておく必要があったので、リサーチの前にビンテージ・ショップに何度か足を運んでちゃんと冷や汗をかいてきているということだけは明記しておこう。例によって、掲載アイテムの選抜はデジマートの在庫に準拠している。また、極端に製造本数の少ないレア製品の個人所有者様や在庫店舗のオーナー様には、今回も大変お世話になった。 過去を向くのか、それとも未来に生きるのか。まだまだ本物のビンテージを手がけた職人達が目を光らせる中で、この東の果ての島国に根付いた新世代のルシアー達が、その個性そのままにアイデアと技術をつぎ込んで形にしていく。その厳しくも美しい、職人達の静かなる挑戦をこの記事を通して皆さんにも感じていただけたら幸いである。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!
国産古参工房フジゲンのラッカー・テレとして人気の“NTL200”をベースに、ネック材に希少な「タイムレス・ティンバー・メイプル(米国五大湖の湖底に沈んでいた古木を乾燥させたもの)」を採用したスペシャル・アイテム。一見、扱いにくそうな材に見えるが、実際にネックとして採用された個体を手に取ってみると、意外なほど軽く、滑らかな手触りを持っている。目視できるクオーターソーン(柾目)の年輪も、細かく美しい。こういった強度のある希少木材の管理におけるシーズニングの確かさは、さすがは老舗のフジゲン、見事と言う他は無い。この材、まずアンプを通さず「チャリーン」と鳴らしただけで、ネックを支える手にしっかりと目の詰まった振動が伝わるのがわかるほどはっきりと音を蓄える性質がある。特に、テレキャスで失われがちな強いミドルの象徴でもあるたわみを伴った「うねり」のような押上げがそこからは感じられる。それは、アンプに繋ぐとよりはっきりとするのだが、ボディだけでなく楽器全体から音が出ていることに起因する明らかな音量そのものの違いによるものだ。サステインはそれほどでもないが、とにかくアタックの色彩がよく出て、広角なサウンドを放つのが印象的だった。採用されたブラス・サドルには、どうやらギラギラしたアタックを抑え、スムーズで底に溜まった静謐な響きを引き出す効果があるようだ。ピックアップはSeymour Duncanのビンテージ・タイプ“’59 SH-1n”と“’54 STL-1”を採用し、枯れたテイストながらパワーがあり、ミドルが強めに出るこの個体によく合っている。1ボリューム・アンプで歪ませても、かなり懐の深いサウンドを得る事ができた。テレキャス・スタイルでは採用の少ないコンパウンド・ラディアス指板を搭載した事で、かなりモダンなプレイに対応できるのも嬉しい。遠目にはわかりにくいが、手に取って初めてわかる実務本意の良質なテレキャスターを探している人にはぴったりの品質と言える。
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特徴的な趣向を織り込まれた、名手リッチー・コッツェンのシグネチャー・モデル。まず、持ってみて感じたのは、重さのバランス感覚が通常のテレ・タイプとはやや異なっている点だ。ネック全体が真下に引っ張られるような印象で、ライト・ウエイトなテレキャスターにありがちな、身体の上で“跳ねる”感じが一切無い。どっしりとして力強く、ヘッドを倒せば自然にネックが手に吸い付くように手応えを感じる事ができ、ボディを立てると、自然とギターが左手の負荷を外しながら垂直方向にピタリと固定される。宣伝されている通りの極太のネックからそういう印象を受けるのかと思いきや、これはボディ上部にあるコンターとの組み合わせによる絶妙な重心操作の賜物のようだ。おかげで、ネックの厚みはまるで気にならないほどに、指が自然に指板を掴む。これはなかなか新鮮な感覚だ。本家よりややRの緩いメイプル指板に、スーパー・ジャンボ・フレットは、この自然な重力により吸い付くような手馴染み感を更に助長してくれる。ネックを支える親指の関節にしっかりと重心が乗るので、力を入れずとも運指がスムーズにいき、レガートやスウィープよりもむしろフル・ピッキングの欲求に駆られる、そんなギターだ。ピックアップには、フロントにハウリの少ない事で知られるDiMarzio“Twang King”、リアには同じくDiMarzioの“CHOPPER T”という当人おなじみの組み合わせを採用。通常のテレキャスターではややピーキーになりがちな特にリア側の太さとパワーを追加し、高域の抑えの利いた滑らかな出音は、アッシュ・ボディの底に抜ける響きとよく合っている。トーン・ノブの代わりに、ピックアップ・セレクターをセンターにした時に動作するモード・スイッチ(フロント+リアのミックスか、直列ハムかを選択)が搭載されており、これについては、音像選択の幅も広い反面、右手の表現力が無いとなかなか音に抑揚が生まれにくい割り切った仕様とも言える。本当の意味での「テクニック」を触発するギターとはこういう個体の事を差すのだろう。
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万人向けの仕様を排し、ハンドメイド&一点突破の局地的オーダーを完遂する事で知られる恵比寿のカスタムショップPsychederhythm。“Solid-T Custom”は、シンラインの外観を持ちながら、実はfホールはダミーの完全ソリッド・ボディという、いきなり斜め上の仕様が特徴のカスタム・モデルだ。贅沢なローズウッドのトップ、チェッカー・バインディング、流麗なシルエットのブラック・ピックガードにホワイト・ノブ……一見しただけでも相当にインパクトのあるルックスだが、その音がまた実に個性的。ぱりっとしたアタックと包み込むように滑らかな残響が尾を引く、なんともエキゾチックな音質だ。かといって、アコギのように豊満にならず、あくまでも硬い芯の上に糸を引く様な瑞々しい色彩だけを強調してくる。アンプを少し歪ませてやるとその特徴は更に顕著で、一気に蓄えた花びらを舞い散らせるように、ギターの前面から複雑な倍音で形成された短いサステインが幾重にも層を成して音の粒をうず高く積み上げていくのがわかる。さらに、本来のテレキャス的なギンギンと面で鳴る感じではなく、強い音は後から追いついてくるように立体的な鳴りがとにかく印象的だった。どこで弾いても分離がよく、本来このギターの持つ非常に情報量の多い音色を、トップ材が上手くふるいにかけて聴きやすくしている、そんな印象のギターだ。薄く丁寧に施されたラッカー塗装も、このボディ材によく合っている。ピックアップには、同社がスウェーデンの工房に特注しているLungrenの“Telecaster 7.5”のセットを採用。これがまた色気のある響きを持っており、絶妙な乾き具合がボディの重厚な鳴りと相まって実に厚みのある音色を引き出してくる。真にオール・ジャンルに弾けて一生重宝するギターは少ないが、これはそういった意味においても最後まで手元に残しておくにふさわしい愛器となる事間違い無しの1本であろう。
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東京は荒川区の下町に工房を構える、国内随一の実力派ハイエンド工房Freedom Custom Guitar Research。そのオリジナル・ラインの中でも、総重量3kgに満たない際立った軽量を生む洗練されたホロウ構造を持つ“Pepper”は、テレキャスター・シンラインのようなコンパクトなシルエットを持ちながらも、そのボディ・サイズからは想像もつかない圧倒的にふくよかなアコースティック・サウンドが持ち味のシリーズだ。“Red”“Brown”“Black”“Green”とボディ・ディテールに特徴のある4種のパターンに区分けされる“Pepper”ラインの中から、今回は“Black Pepper”を紹介する。テレ・スタイルにして、マホガニー・ネック&マホガニー・ボディという材のチョイスもさることながら、この“Black Pepper”最大の特徴であるスリットの入った特殊C/S(チェンバー・センター)ブロックの採用こそ、その独特のサウンドを生み出す胆となっている。ピッキングすると、ホロウ構造により拡散する複雑な高音の倍音の中に、真っ直ぐ飛んでくる力強いパンチがついてくるのが感じられる。それが、ボディ・トップをきっちりと震わせ、立ち上がりの速い音色を生んでいるのがわかる。一度に波のように押し寄せる高域の交差をうまくマホガニーのコシのある鳴りが受け止めて、干渉する波形をより太い帯域へと整理し直しているかのようだ。音量も大きく、甘くなりすぎないフィールを持ち、高い反応性を備えたこのギターの恐るべきポテンシャル……その仕組みを体系化したこのメーカーの手腕に、音を出しながらただただ圧倒されるばかりだった。せっかくのエアー感を最大限発揮できるように、フロント・ピックアップにはラウド且つ不必要なエッジを抑えた静粛なハムバッカーがしっかり選択され、70年代半ばの本家“Telecaster Custom”ばりのルックスを彷彿とさせる。真にオールド・ライクな「トワンギー」なトーンは望むべくもないが、これだけのホロウ構造なのにこのハウりにくさは、“ES-335”などでアンプとの相性で悩むユーザーから見れば、かなりのアドバンテージがあるだろう。ラッカー・フィニッシュはアップ・チャージとなるが、このサウンドを活かすにはやはり欠かせない仕様なので、選択時にはラッカー塗装されたものをお勧めしたい。
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ディバイザー最高峰のテレキャス“MTL-STD”を製作するmomoseブランドの新たなる挑戦。サーモウッド加工されたネックを採用した“TW”シリーズなど、新しい技術を差別する事無く貪欲に取り入れ続け、あくなき音質の向上を追求する職人・百瀬恭夫氏が2014年の末に発表したこのギターの塗装は、なんと「漆(うるし)」であった。日本でも笛や鼓といった楽器で古来より親しみのあるこの塗装技術を、重量のある、しかもハードな現場での使用が考えられるギターの世界に持ち込んだ発想は敬服に値する。実際の効果はどうかと言うと……まず、手に持った感覚としては、見た目の重厚感ほどの重みは感じない。当然、楽器なので漆器のような重ね塗りではなく極力薄い塗装を心がけているようだが、独特の上品な光沢があり、表皮はかなり硬い印象を受けた。生で鳴らしてみると、ほとんど振動しない材質のようで、ボディの音が拡散するのを適度に押さえ込む性質があるように感じた。逆に解釈すれば出音が引き締まり、自然にエッジが立つので、ソリッド・ギターとは相性の良い、上質なポリ塗装といった雰囲気だ。だが、面白いのはアンプに繋いだ時で、音量が大きくなればなるほど、ポリとは違う低域のワイドな広がりを実感できたことだ。低域が稼げているにも関わらず、下から押し上げるボディの鳴りはタイトなままで、決してスカスカにならず、どのポジションで弾いても質量を感じる事のできるごつい響きが伝わってきた。ボディがアルダーというのもこの塗装に相性が良いようで、その材のままでは物足りないロー・エンドの立ち上がりを補強するように、漆の、音量が上がるにつれて重心が低域にシフトする感じを上手く利用することで、全体をバランスの良い穏やかなサウンドに仕上げている印象だ。それでも、テレキャスそのもののきらびやかな倍音は一切失われる事無く、それが、屋外の舞台で背後の闇に吸い込まれるように溶け込むような深遠な和の響きに迫っているかは別として、弾いていて素直に気持ち良いと思える抜けの良いサウンドだった。経年で塗装にどんな変化が現れるかは未知数だが、見た目以上に実践的な音質を備えたアイテムに完成されており、他の材との組み合わせを期待したくなるこの仕様の今後に注目したい。ちなみに、今回発表された漆塗装には、“石目”だけでなく、木目を活かせる“拭き”もあるので、気になる人はチェックしてみよう。
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K&Tからの完全手巻きスペシャル・ピックアップの供給を受けるCrewsの製品中でも、各モデル専用のNFS(not for sale)を搭載するライン。まず、特筆すべきは、手に取っただけではっきりと伝わる、このビンテージ感。ネック側がわずかに重く、指板のRに従って親指の付け根に自然に負荷がかかってくるこの手馴染み感覚の再現はさすがの一言に尽きる。音は更にビンテージそのもので、素晴らしい歯切れの良さと色彩の強い高域の倍音の弾ける感覚はものすごい。それでも、ただひたすらに突き抜けるだけのハイ上がりな音像ではなく、ほんの少し耳障りなピークの先端を削った様なややジューシーなミドルを隠し持っており、一音一音にしっかりとニュアンスの乗ってくる大人な響きがある。アッシュが定番のビンテージ・テレそのものではなく、アルダー・ボディのくっきりとしたミドルを活かした絶妙に鮮やかな出音は、むしろ細かい歪みやコンプの効いた音色に対応しなければならないモダンな仕様と言えない事もない。そういった意図を汲んでか、K&Tのスペシャル・ピックアップもさすがで、広いレンジを保ちながらもトレブリー過ぎず、みっしりと目の詰まったアタックの力強さのみを引き出した後、余計な余韻も無く穏やかに立ち枯れていく……といった、真に外連味のない反応に終始している。一見素っ気なく見えるかもしれないが、これこそソリッド・ギターの本質を活かしたとても音楽的な響きなのだ。ブライトな中域の伸びを助長する3ピースのブラス・サドルとの相性もバッチリ。マグネットが、50年代仕様のモデルはN極トップ、60年代仕様のものにはS極トップというこのマニアックな違いも弾き比べてみる価値が高い。より、ゴリゴリのワイルド・スタイルが好きならば“TL50’s”、マイルドで深みのあるトーンが好みなら“TL60’s”をまず試す事をお勧めしたい。
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近年、その質の高さで多くのギター・フリーク達から注目を集める、ミュージックランドKEYのハイクオリティなストア・オリジナル。製作は、長野のTsubasa Guitar Workshopの田中千秋氏のマスター・ビルドによる。その真骨頂はやはり“Tellings 52”の野太いトーンに集約されていると言えよう。テレキャスターという楽器が、現代のイメージである高域がよく抜けるチャキッとした音色として定着したのはごく最近の事だ。テレほど時代とともにその音質の変遷をみた楽器も少なくないと言われるほど、その音は時を遡るほどに変化していく。その原点とも言える52年製テレキャスターの真相はと言えば、それほどピーキーなわけでもなく、ナローで低域のかすれた(これは当時のPAの精度との兼ね合いもあるが)落ち着いたトーンとされている。よく噂されるネックの太さもそれほど極端に太かったわけではなかったようだ。薄い塗装と軽量のアッシュがかもし出すスパイシーなミドルを当時の非力なピックアップが受けきれず、むしろネックの響きがそのままアンプの鳴りにダイレクトに伝わるように感じられた事からそのような錯覚を生んだというのが正しい認識とされる。その音は金属質なトーンではなく、かなりウッディで、ロー・ミッドに奥行きがあリ、鋭角なアタックがボディのサステインに干渉してすぐに朽ちてしまうという特徴も持っていた。そんなサウンドを根本から理解し、音だけでなく非常に緻密なエイジングによってそのルックスまでも再現しているのが、このTellingsだ。上位のオーダー・モデル“V.I.P LINE”では50年代のグリップ(ボートネック、BIG Vなど)仕様を細かく指定できるオプションもあるので、拘る人はこれを利用して理想のモデルを再現することも可能だ。“Tellings 52”のピックアップはLindy Fralinの“Broadcaster”がデフォルトだが、“Tellings 60”や“Tellings 62”といったローズ指板のモデルには“The Telecaster”も選べる。さらにアップ・チャージでK&Tのビンテージ・タイプへの変更もできるので、状態の良いクラシック・アンプを持っている人は、このオプションを選択肢に入れるのも良いだろう。
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国産コンポーネントの雄PGM直系のブランドMoonが誇る、オリジナル・モデル“REGGE MASTER”。これをテレキャスターの一種と呼んで良いのかは異論もある事だろう。マホガニー・ボディにハード・メイプルのネック、上部ウイングのトグル・スイッチ、P-90/ソープバー・タイプのピックアップというチョイスはレス・ポール・ジュニアやスペシャルを彷彿とさせるルックスだが、ヘッドやボディのシルエットから来る取り回し、電気系統など構造上の機能性はテレキャスに近い。その、対極ともいうべき大メジャーの特徴を融合させながら、独自の音質を追求し、三十年余も支持を獲得し続けてきたこのスタイルを正義と言わず何だというのか。全体的に丸みのある音色だが、カッティング時の「キャリン」と鳴る硝子を擦る様な透明な響きが残る感触はしっかりとテレキャスのテイストを受け継いでいる。リズム・パートや、刻みの美学を追究したいプレイヤーにとっては、低域をタイトに聴かせながらどんなに激しいピッキングでも分散しない硬質なハイ・ミッド成分は喉から手が出るほど欲しい音のはずだ。アンサンブル上でもよく抜けてくるクリスピー且つワイドな音色にこのベタなルックス……一度弾いたら手放せなくなること請け合いのこの純国産異端児に、古き良き時代の国産ビザール・ギターの名器たちの息吹を感じるのは決して気のせいではないだろう。ちなみに、ピックアップがリアのみの“RM-228”には、ボリューム・ポットPULLで音量を70%カットする機構がつく。これはリードも併用したいプレイヤーには役に立つ機能なのでここに追記しておく。
これは余談だが、Moonのテレキャスと言えば、あのスティーヴ・ルカサーの深紅ストラトとともに贈られた81年モデル(イングリッシュ・アイズのレコーディングで使用された)の逸話は有名である。実際にルークに贈られたものがSCHECTER(USA)製ではなくMoon製である事はすでに証明済みであるが、現行で国内生産されたSCHECTER(JAPAN)製のレッド・テレキャスがあるのはご存知だろうか? 本家よりは明るい色だが、造型自体はよく研究されており、単なる皮肉としてもなかなか豪儀なジョークだと言わねばなるまい。これがSCHECTERの意地なのかはさておき、これもなかなかオリジナルに迫るのではないかという良好な完成度のギターなので、現行のMoon製レッド・テレが無い今、気になる人はこちらもデジマートに在庫がある可能性があるのでチェックしてみると面白いだろう。
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PGMを率いる乳井和彦氏のプライベート・ブランド。“KN-TE”は、巨匠自らが選別した材のみを使って、丁寧に組み上げられるスペシャルなテレキャスター・ライン。非常に上質な1Pアッシュ・ボディと、1Pメイプル・ネックの組み合わせはただならぬ重厚なオーラを放ち、そのサウンドもまた完璧なビンテージ・トーンを創出する。ごんごんとUシェイプ・ネックを這い上がる分厚い振動と、巻き弦を強く拾うアッシュの反応に呼応して、繊細な輝きを内包した砂塵のトーンがこぼれ落ちる。実に「剥き身」なサウンドで、きちんと耳に聴こえる成分だけが美味しい帯域で重なり合い、音に厚みを増していくのがわかる。非常に原始的だがごまかしようのないストレートなこういったトーンは、現代ではなかなかビルダーの「欲」が邪魔をして生み出せないものだ。まさに圧巻と言って良い。その音色を生み出している要因の一つに、レトロな外観の中で唯一異彩を放つフロントのLOOLAR製“Gold Foil”(フローティング・マウント・タイプ)の存在があるのは間違いあるまい。この不思議な形状のピックアップは、ビザール世代のTEISCO製ギターに搭載されていたものを規範にデザインを起こしたもので、軽快且つナチュラルなタッチは実に鮮やかなクリーン・トーンを創出する。サステインもわざとらしくなく、ともすれば耳に痛いオールド・テレの高域を上手く整頓し、歯切れの良いサウンドに蘇らせる効果のあるピックアップと言った印象を聴く者に与える、傑出した音色を持つデバイスだ。さらに、リアには同じくLOLLARの“Spesial T”が選択され、その緊迫感のある中域に支えられたパワフルなサウンドは、深くピッキングすればまるでハムバッカーのように膨らみのあるドライブを生む。しかも、セレクターがセンターならば、その両方の特性を合わせた底を打つ様なダイナミックなロー・ミッドと、弾ける様な瑞々しい高域が同居した迫力のサウンドを創出できる。それがしっかりとテレキャス本来の突き抜ける様なアイス・サウンドに溶け主張するのを見る時、国産コンポーネント・ギターの巨匠による飽くなき挑戦が未だ現役である事を思い知らされるのである。
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重低音ユーザー必見、攻撃力抜群のアクティブ・テレキャスター。ESP USAにて海外向けに企画されたモデルを、国内のESP旗下の工房で生産する新ブランドE-II。全く新しい発想に基づいて作られるこのギターは、すでに海外では大規模展開されており、本家カスタムESPと廉価版のLTDの間を埋める上位ラインナップとして、メタル系ユーザーを中心に認知されて久しい。モダン・サウンドを徹底して追求するESPが生産するだけあり、“TE-7”も見た目はテレキャスながら、7弦構成にEMG、スルーネック、そしてダウン・チューニングも楽々というお得意の仕様を誇る実にパワフルなモデルだ。テレキャスは元々裏通しなのでノーマルでもテンションが高い部類に属しており、実はこの手の仕様への適性は高い。ブリッジの選択さえ誤らなければ「スルーネック構造」に向いていると言っても過言ではない構造上のアドバンテージがあることをよく理解した上で開発されており、実際に抱えてみるとテレ・スタイルのボディにスルーネックとヒールレス・カットが予想以上にしっくりとハマっている。むしろ、こちらの方が楽器としての一体感が増している感じさえするから不思議だ。本来のテレキャスではなかなか得られないロング・サステインが軽々と得られる上、アクティブ・サウンドならではのしっかりと輪郭を残したクリスタル・クリーンは、その恩恵をもろに受けていると言えるだろう。当然、歪みにも強く、下手なアーチトップ・タイプのものよりも高域のコンプ感が少なく、エッジの立ったサウンドが作りやすい印象だ。ToneprosのTOM(チューン“オー”マティック)ブリッジもミュートしやすく、抜群の相性を見せている。さすがにノーマルのテレに比べ重量的なハンデは致し方ないところだが、それを除けば、テレキャスとアクティブ/スルーネック機構の融合は、新世代の規範となる可能性を切り開く奇跡の出会いと言えるだろう。
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木材を加圧水蒸気下で高温処理することによって、抜群の寸法安定性と耐久性、そして音信伝達性能を向上させるサーモウッド加工。21世紀に入ってから北欧で生まれたこの技法をいち早くソリッド・ギターの材として取り入れた事で知られる兵庫県尼崎のプロフェッショナル工房Sago。湿気の高い日本においては特にネックのコンディション管理が最重要課題である事に着目し、反りや折れなどを起こしにくい材質的に安定したサーモウッド・ネックを全製品に採用する事で、高価で希少な古木に頼らずともハイクオリティな品質とサウンドを持つ楽器を日々作り続けているメーカーである。“Classic Style T”もまた、王道のテレキャスター・スタイルにサーモウッド・ネックを組み込んだロケーションを基本に組み上げられる同社のカスタム・ラインだ。元来、クラシック・スタイルになるほどボディ本体よりもネック自体の鳴りに音質が左右されがちなテレキャスターにおいて、ビンテージ・ライクな非常に乾いたサウンドを持つサーモウッド・メイプル・ネックとの相性は実に良好だ。ボディのコンコンするミドルがネックを回ってふくよかな低域を伴うのを、これほど肌で感じられる個体は少ない。グリップはCシェイプなのでテレキャスとしてはやや薄く感じるものの、ミドルが強めに出るアルダー・ボディの特性を上手くハイ上がりに還元できるバランスとして、このチョイスは悪くない。精度の高いJescarフレットによる鮮やかな音の出方や、あえてぎらつく様な野性味を残した獰猛なサウンドを得意とするBare Knuckleのピックアップも、ここまでネックがしっかりと鳴る事を想定していなければなかなか組み合わせるのが難しい相性と言える。名前こそ“Classic”だが、ビンテージ・テレの音をしっかりと現代風にピントを合わせてきた挑戦的なこのサウンドは、伝統にとらわれない一つ上の表現力を求めるモダンなユーザーにこそ相応しいように思えてならない。
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アメリカはテキサス州の手巻きピックアップ・メーカーとしてスタートしたVanzandt。そのピックアップに最適なギターを90年代に日本国内の工房で製作し始めたことでギター・メーカーとして認知され、今やその知名度は国産コンポーネント・ブランドとして不動の地位を得るに至っている。やはりその音質を支えるのは、この50年代のブラック・ピックガード期を模した“TLV”シリーズでも採用されている、オリジナルの“Vintage N&B”ピックアップによる功績が大きい。鋭角な光沢を放つテレ独特の音像を維持しつつ、ピッキングもそうだが、特に指板上の運指のニュアンスをダイレクトに拾ってくるこの感触が実に斬新。ともすればヒステリックになりがちな高域が、そんなハイ・レンジなサウンドの中でしっかりと収まっており、荒々しくもコシの強いサウンドに生まれ変わるのがはっきりとわかる。コンデンサーや配線にも並々ならぬこだわりが見え隠れしており、単なるハイクオリティなビンテージ・モデルというよりも、それをベースに新たなサウンドを構築しようとしている意図が明確に伝わってくるモデルだ。おそらく、目指しているのは、音楽的な表現力を本家より数段高めた、よりメロディアス且つビビッドなタッチ・センスを持つ個体なのだろう。そう考えると、ナットやブリッジのチョイスから、フェンダーよりも心持ちフラットに仕立てられた210R指板や、極薄ニトロセルロース・ラッカー・フィニッシュの具合までが全て希望のサウンドに近づけるために意図されているように思えてくる。下手なレリック加工などしなくても、BSB(Butter Scotch Blonde)カラーの貫禄に負けない得体の知れない迫力が、このギターには確かにある。
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ストラトとテレキャスを足した様な“Artelesll”などで一躍注目を集めた新興の国産ブランドZeusから、ハイエンドな仕様を施したテレ・タイプのプロト個体が登場。上品なメタリック・グリーンのトップ&バックで、バウンドを施したブラックのサイドを挟む独特のカラーリングが目を引く。素で鳴らしてみた時、材や組み込みに何か特徴があるのか、ソリッドなテレ・タイプのギターにはあまり見られない「ボディが良く鳴るタイプ」という印象を受けた。ピックアップにJoe Barden社の最も実績のある“T-Style”(故ダニー・ガットンのテレキャスのブリッジ用に開発されたピックアップ)のセットを組み込んでいるのが最大の特徴で、それは、ただのビンテージ・スタイルとは一線を画す特徴的な音色を放つ。“T-Style”自体はビンテージ・テイストの強い乾いた高域が特徴のピックアップだが、シングル・サイズに納められた4芯のダブル・スタッガード・ブレードの効果によりきちんとハム・キャンセルが働いており、アンプで鳴らすと、ノイズレスで、しかも耳障りなエッジを排除したファットな音色が引き立つ構造になっている。フロントとリアの音量差もかなり少なく、実践での利便性を忘れない仕様が好印象なピックアップだ。フルサイズのハムバッカーほどのパワーは無いが、エッジの立ったアタックをしっかりと聴かせてくれる上、このギターのよく響くミドルの濃い胴鳴りと相まって、ダークでパンチの効いた荒々しい押し出しを好むユーザーにはかなりハマる音色になっているはずだ。その重心の低めな分厚いトーンは、ビンテージ・ツイード・アンプなどで鳴らすと、本家が異様にギラギラと耳障りに感じるほど、はっきりとした違いがある。その中域に明瞭なコアを持つ熱いトーンは、カントリーやブルースよりもむしろロックの方に適応性が高いかもしれない。ちなみに、“TL60s”シリーズには、ピックアップにLollar“Alnico 3”を搭載したモデルもあるので、この分厚いミドルを活かしたまま枯れたトーンが欲しい人にはそちらの選択肢もある事を付け加えておこう。
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フェンダー・カスタム・ショップの初代総責任者で、凄腕のデザイナーとしても知られる巨匠ジョン・ペイジ。人脈を活かした高名なビルダーの手による各パーツを集めて作られる本人製作のスペシャルメイドは年20本にも満たないことから、そのパーツとノウハウを受け継いで日本国内工房で製作される“JP-K”シリーズを手がけるのが、このブランドだ。目の玉のとび出るほど高価なオリジナルの音を手に届く値段で楽しめるというコストパフォーマンス以上に、その完成されたサウンドが到達する音色の素晴らしさを実際に手に取って感じて欲しい。まるで、アコギの様な敏感さを誇る美しい鳴りと、堂々とした倍音を宿した強いアタック。ピックアップのレイアウトこそフロント・ハムのテレキャスにそっくりだが、そこから創出されるサウンドはまるで別物と言って良い。本家のテレキャス・サウンドを沸騰した熱湯だとすれば、こちらは60℃程度の玉露の濃さである。倍音の構造もサステインの量も全く異なっている。とろりとした響きの中にきりっと冷めた感度の良い硬質な輝きを常に備え、ピッキングするたびに、それがむせ返るほど香り高いクリーンな皮膜を突き破って一気に発芽する様は、すでにギターとして一種の究極サウンドに達していると言っても過言ではないだろう。ハイファイなモダン・アンプでは逆に頭を抑えられた様な窮屈なサウンドになりかねないので、できる事ならワイドなレンジを持つクラスAアンプで伸びやかに鳴らしてやりたい。ソリッド・ギターの祖国が培ってきたアイデアと歴史が、日本の精度の高い加工技術に出会って完成したこのトーン、今後は更に希少性が増すに違いない。今回はテレキャスという括りで紹介してみたものの、実際手に取ってみてあえて一番近いイメージの個体がそれというだけで、その音質、構造的に見れば、この個体はもはや決して個性的というレベルの範疇には留まらない完全なオリジナリティを備える逸品だと言える。あらゆる意味で、ジョン・ペイジの目指した“生きたトーン”を再現するのに相応しい製品である事だけはここに申し述べておこう。
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椎野秀聴氏によって70年代に立ち上げられた純国産ブランドH.S.Anderson。80年代にブランドを一時たたむまでの間、その中でも最も名を馳せたのがこの“MAD CAT”ではないだろうか。当時、製造を担当していたモリダイラ旗下のモーリス工場が、HOHNER USA社からの依頼により海外向けに「HOHNER」ブランドとして出荷した“MAD CAT”がプリンスの映画で使用され、一気に人気が爆発したことでも知られる。“MAD CAT”自体は2009年以降に幾度か限定で再販され、今なおその人気の高さが伺える古き良き国産名器の代表モデルの一つだ。日本版パンケーキ・ボディとも言うべきアッシュをメイプルで挟み込む独特の構造に、センターを彩るウォルナットの褐色のライン、べっ甲のピックガードなど、そこかしこに高級国産ギターの名残とも言える特徴的なルックスを色濃く残しており、当時から日本の職人の加工技術が極上であった事をさりげなく物語っている。テレキャス・ライクなハイ上がりで鮮やかなサウンドが持ち味で、マットなミドルとぶちぶちとしたロー・エンドに過ぎ去った時代の息吹を感じる。復刻版のピックアップには、Bill Lawrence USA製の“T-I/T-II”を採用。それらはシングルながら丸みのあるエッジを放出するセットで、ビンテージ・ライクというよりはややレンジ感のあるモダンな音色が混じった何とも言えないノスタルジックなサウンドに終始しており、音色の扱いやすさも上々だ。トラディショナルな下地の上に、あと一歩踏み込んだお茶目かつ高級感のある個性が欲しい人には特にお勧めできる。今でも何の不自由もなく最前線でバリバリ使っていける歴史的国産モデルである。
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埼玉は川口市のベテラン工房ラムトリックカンパニー社のブランドSonic。マスター・ビルダーの竹田豊氏を筆頭に、数々のメンテナンスや修理で培われた職人達のノウハウを基に製作されるプレイアビリティに優れたギターやパーツは、プロからも厚い信頼を寄せられている事でも有名。指板やフレット等のパーツの一つ一つ、ネック・ジョイント、内部配線の一本一本に至るまで、不自然な力が全く加わっていないSonicのギター。無理にねじる事もゆがめる事もなく、糸を垂らすようにすっきりと自然に組み合わさっている感じが、いつもながら見事という他はない。抱えたときのバランスの良さ、吸い付くようなグリップがもたらす手馴染み感は、材ではなく職人の腕の賜物だという証拠と言えそうだ。そうして組まれたギターは、どのポジションで弾いても均一の音色と、あくまでもストレートな鳴りを持っているものだ。このカスタム・オーダーのテレキャス“TEL”シリーズにも、そのエッセンスはしっかりと受け継がれている。音色は、まさに「自然」也、だ。オプションに関しては、セミ・オーダーからフル・オーダーまでかなり幅広い要望を受け付けてもらえるが、人気ブランドなだけに納期に関しては推して知るべしである。稀に店舗オーダー品が流通する事もあるので、想い通りの仕様でなくてもSonicのギターを試奏できるチャンスは逃さないようにしたい。“TEL”でオススメの仕様としてはやはり、Sonicオリジナルの“STD Classic-Plus TELE”ピックアップのしなやかで歯切れの良いサウンドを一度は試すべきだろう。特に、Sonicのお家芸とも言うべき、2つのピックアップをシリーズ接続して太い音を得る「ターボ・スイッチ」は、テレキャスターならば音色の幅を広げるためにも是非搭載したいところだ。一方、バイパス的な意味合いを持つ有名なフルアップ・ボリューム/トーンはビンテージ・ライクなサウンドには今ひとつ合いにくい場合があるので、サーキットの特性やピックアップの性質を良く見極めた上でオーダーしたい。
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兵庫県伊丹市に工房を構えるレノサウンドのオリジナル・ブランドMonogram。エキゾチックなトップ材を使用し、そのほとんどがスポット生産(数量限定)で作られる事で知られる、絶賛売り出し中の純国産メーカーだ。飛び抜けたコストパフォーマンスを誇るが、内実は思った以上にハイクオリティで驚かされた。“MGT-TH SP”は、シンラインにハムバッカーという意外にありそうでなかった仕様のギターだ。スポルテッド・メイプルのトップもなかなかの重厚感をかもし出していて、衝撃的なルックスだ。ピックアップはオリジナルのものを搭載しているが、これも類に漏れず高品質。本来、シンラインにはパワーがありすぎてハイゲインなアンプだとすぐにハウってしまう原因になりがちなハムバッカーを、飽和しやすい倍音部分だけをすっきりとさせた抜けの良い音色に制御している点などは、よくギター本体とのバランスを考えた上での設計と言う他はない。音質自体は旧来のシンラインよりやや固めの音で、ロー・フレットに行くと低域がダブつくものの、十分パワフルでレンジ感があり、投げ出すような荒っぽさが顔を出すところなどは最近のハイファイなギターにやや飽食気味だった耳にはむしろ好感が持てたほどだ。ただし、強力な100Wクラスのハイゲイン・アンプで鳴らしたい場合や、もっと雑味のないクリーンが欲しいならば、ピックアップに関してはリプレイスが必要だろう。プリミティブな素養を突き詰めたいのなら、石がアルニコのジャズ用のモデルが合いそうでもあるし、逆に、思い切ってSeymour Duncanの“Blackouts”などにしてしまうのも適度なコンプも同時に得られて音像が安定するかもしれない。パーツ一つでまだまだ奥行きのある音像を発掘できそうな、良質な低価格ギターのお手本となり得る素晴らしいポテンシャルを秘めたアイテムだ。
老舗のOEMメーカーである寺田楽器出身のビルダー・福原紀文氏によって2001年に創設されたブランドで、寺田楽器のオリジナル・ブランドであるVGに携わっていただけあり、アコギやウクレレ製作でも定評がある。工房は、愛知県は弥富市。“TTL-001”は、一見クラシックなテレ・スタイルのギターに、オリジナルのアイディアを詰め込んだかなりモダンに振り切った仕様が目を引く。ネック・スケールが25インチ丁度というちょっと珍しい長さだが、手に持ってみると全く違和感は感じないどころか、300Rというフラット目な指板に楽に指が回り込む気さえする絶妙なグリップ感を提供してくれる。ネック・ジョイント部はウェッジ・ジョイントを採用しており、しっかりと噛み合った材は確実にボディの鳴りをネック側へ伝える他、接合点のボルトも3点止めで充分になり、その恩恵により大胆なヒール・カットも可能となった。タップ可能なブレード・タイプのシングル・サイズ・ハムバッカーも同ブランドのオリジナルで、高域にレンジ感のあるまとまったトーンを出力するパワフルな音色が持ち味だが、ピッキングの強弱やボリュームの追随性も高く、総じて、極めて正統派なオーセンティック・サウンドの延長線上にあるトーンを持っているという優れものだ。きらびやかながらも、色味の濃いタイトな低域と量感のあるミドルを持つこのピックアップだが、さらに4ウェイのセレクターにより、複合音質を生成できるから便利この上ない。各種単発と、最近流行りのシリーズ接続だけでなく、二つのピックアップが両方とも並行に駆動する「パラレル」モードを持っているので、どちらか一方のピックアップでブーストする様な感覚ではなく、純粋に双方の特性をミックスした音色が欲しい場合には特に重宝する。この「パラレル」の音はかなり帯域を広くカバーするゴージャスな響きを持つ干渉型のサウンドなので、ビンテージ・ライクな高域特性のあるものより、フルレンジ系の近代的なスピーカーの方がより美しく音像を再生できることを憶えておこう。弾き手のストレスのひとつひとつを解消するように丁寧に仕上げられたこのプレイ・バランスに、現代的ギター・メーカーの最も真摯なプライドを見る。
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世にも珍しい「竹」のボディを持つテレキャス・タイプ……その名も“Bamboo Caster”。それを作るのは、名古屋のハンドメイド工房Sonido。老舗ブランドでありながら、ランダムな生産ペースで知る人ぞ知る凄腕メーカーとしてマニアの間では認知される都市伝説的工房だ。近年では燻煙したスモーク材を用いたベースやギターで再び市場に返り咲いている。その中でもひときわ目を引くのがこの“Bamboo Caster”であり、わずかに煤竹色に染まった縞目にその苦心の跡がしのばれる。スルーネック構造だからか、手に取った感じはかなりずっしりとした手応えがあるものの、燻してあるためかトップ材はよく乾いており、材としての強度には問題はなさそうであった。竹の部分を叩いてみると、かなりゴツゴツと低い音で鳴る。だが、それに反して音の抜け方は思った以上にブライトで澱みがないように感じた。広角に発声しすぎてサステインをやや持て余すほど素直に音が広がるが、ピークの頂点は意外なほど短く、減衰は急激に訪れる。ただ、一般で言う枯れたトーンとは違い、やや中域の鈍い部分を除いては非常に滑らかで、独特のコンプレッションも感じられる立体的なトーンだった。ただ、音量によるブーストや、同じ帯域を繰り返すディレイの様なエフェクトにことのほか耐性がなく、高域も低域もすぐに割れてしまうのでかなりデリケートな音操作が肝要となる印象だった。逆にワウの半止めや歪みそのもののプッシュだとかなり粘りのある音質を引き出す事ができ、リア側のピックアップでもかなりミドルの尖った力強いサウンドに追い込む事ができた。このギターの音作りには、ミドルの質感を全体音量とのバランスでどこまで引き出してやれるかという、通常のテレキャスとは全く異なったアプローチが必要なようだ。制御系のエフェクトを使う手もあるが、せっかく派手な情報量をもったその明るい音色が失われるのはあまりにももったいないのでオススメはできない。反応性は悪くないので、やはり、右手の強弱次第で、この材が持つピークがグワッと持ち上がる瞬間のドラスティックな音の「かぶせ」ポイントを見切って何度もそのタイミングを身体に叩き込むのが一番の近道だろう。昨今のお上品なアイテムにはない、久々に自分を人間リミッターと化すほどにギターに最適化させなければならないこのわがままな音色はどうだ。実にワクワクさせられるじゃないか。
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今回は、ギタリストならおなじみの名器、“テレキャスター”について少し近しいところから扉を開いてみた。国産品の弾き比べという少し斜め上からの視点だったが、テレキャス・タイプという歴史あるギターの現状を身近に感じるための企画としてはこういう入り口もある、という一つの例として見ていただけたら幸いである。また、こういった記事を読んだ後に、本家Fender USAが現行のテレキャスター末裔ラインでどんな方向性を提示しようとしているのかを見定めてみるのも面白いだろう。
話は変わるが、リサーチ中はNAMMショー開催期間であった。いつもこの時期は雑用が多く、なかなかアナハイムくんだりまで出かけていられないのだが、あの会場の雰囲気が実に懐かしい。ひとしきり酔っぱらいどものイベントが終われば、今度はラスベガスまでひとっ飛び。質入れされたかわいそうな楽器たちを救出にいくのも楽しい。NAMMからの黄金ルートだ。
なのに、今年も引っ越したばかりの新しい事務所で機材の山を片付けながら、悶々と過ごす事になりそうだ。次に仕事が明けた時にその反動で購買意欲に歯止めがかからないんじゃないかと今からヒヤヒヤしている。まあ、仕事が終わらないやつは、NAMMのかわりに、おとなしくデジマートを見てろってことだね(笑)。
それでは、次回3/4(水)の『Dr.Dの機材ラビリンス』をお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。