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- 2024/11/25
Gibson Custom Shop / 1968 Les Paul Custom VOS Antique Ebony
2015年最初の週刊ギブソンは、鮎川誠(シーナ&ロケッツ)の最新演奏&インタビュー動画をお届けします! 昨年10月、1968年製レス・ポール・カスタムを徹底的に再現した入魂のリイシュー・モデル、1968 Les Paul Custom VOS Antique Ebonyが誕生。ギブソン・ジャパンではそのモデルを日本で最もレス・ポール・カスタムが似合う男、鮎川誠氏に進呈するという。昨年末、ギブソン・ショールームで行われた進呈時の様子と鮎川氏のインタビューを、週刊ギブソンが独占でお伝えします!
1954年に登場したカスタムは、レス・ポール・シリーズの例に漏れず、61年にSGシェイプに変更されて63年に市場から姿を消すが、68年に復活を果たす。そのリバイバル・モデルの初期ロットを徹底分析し、新たに製作されたのが本器だ。1968年型の特徴は、従来のカスタムはトップを含めたボディ全体が1Pマホガニーだったのに対して2Pメイプル・トップ/1Pマホガニー・バックを採用したこと、ハムバッキング3基だったピックアップが2基になったことなどが挙げられる。そうした仕様的変革もしっかり踏襲したうえで、カスタム伝統の豪奢なスプリット・ダイヤモンド・インレイやブロック・ポジション・マーク、7層のボディ・バインディング、ワッフル・バックと呼ばれるペグなど、唯一無二の魅力を微細に再現した注目の逸品である。
──ギブソン・カスタムから1968年型レス・ポール・カスタムのリイシューが登場しましたが、ほぼ同時期の1969年製を愛用している鮎川さんとしては感想はいかがですか?
うん、僕の夢のギターやったんよね。ずっと今でもそうですけど、1960年代にギブソンのレス・ポールがグッと僕の心をつかんでね。ロックが好きになって、ストーンズやらビートルズやらキンクスやらザ・フーやら聴きよって、ちょっとしてからブルース・ブームが起こってさ。それまではフェンダーとかギブソンちゅう名前は知っとったけれど、型番はわからんやったんですね。特にギブソンに関しては、なんも呼び方がわからんで。「サティスファクション」のシングル盤(1965年)にキース・リチャーズがビグスビーの付いたサンバーストを持ってる写真があって、“これだこれだ!”ちゅう感じで始まって。レス・ポールとか呼ぶようになったのは、マイク・ブルームフィールドの『スーパー・セッション』とかジェフ・ベックの『トゥルース』(いずれも1968年)とか出てきた頃かな。だから僕はもう50年ぐらいずっとレス・ポールを好きで。
──なるほど。
レス・ポールは1960年代(1961年〜)にこの形が一回なくなって、SGって呼ばれた時代(1963年〜)があって、それが1968年に復活して、僕が使っているのは1969年。当時は何年製とかわからなかったけど、シリアル番号を見てもらって“1969年製か、ロック(69)で語呂がいいな”とかわかってきてね。……レス・ポールちゅうのはロックを引っ張ってきたぐらいの勢いがあるんですよ。ギブソンがそういうレス・ポールを大事にして、オリジナル(の1968年製カスタム)を材質まで細かくチェックして作ったっていうのは、レス・ポールも幸せ者だし、それを僕にくれるちゅうのはとても光栄なことです。こうやってもう一回生まれて、誕生おめでとうっちゅう感じ。ロックは何回でも生まれ変わるけんね。1968年とか1969年のギターは探してもなかなか見つからんやったりするけれども、これをみんなが触ってくれたらいい。僕も今触りよるけどさ、初めて福岡で友人から“レス・ポールの黒、買うたちやから”とか連絡が来て、見せろ言うて触った時(メインの1969年製との出会いのこと)と本当に同じ感じがします。
──今おっしゃったように絶版になったあとに復活した1968年型というのが今回のリイシューのポイントですが、1950年代のものとイメージも違いますよね?
よくわからんけれども、ギターは道具ですからね。思い切りガンガン弾かないかんし、傷がつくとかってびくびくして弾いてもバンドとロックできんから。僕のギターは全然びくともせんのよ。倒れたこともあるし、汗も拭かずにびしょびしょのままケースに入れて持って帰ったり、すごく乱暴な使い方もするけれども、本当にタフだし切れ味がいいし。特にレス・ポールは斧みたいに強くて、力を入れれば切れるし。昔、PAがちゃんとしてなかった時代はアンプにつないだ音のデカさが勝負で、レス・ポールはストラトよりも1.5倍ぐらい大きな音がして、そういうのも頼もしいよね。(ボリュームを)2〜3ぐらいにしてミドル・ポジションで弾くとキレイな音が出るけれども、そのまま8ぐらいまでは自然に音が大きくなって、9〜10ぐらいでブワーン!って上がるんですよ。このリイシューはそのメリハリもうまく再現してて、僕の使ってるやつと同じ。
──特にカスタムならではの細く低いフレットが好みのようですが、リイシューには現在スタンダードなワイド・フレットがついています。感触はどうですか?
僕のはフレットレス・ワンダーで、最初はペタンとしていて本当に驚いたんです。これで弾けるのかと思って。弾きにくいという人もいるけど、僕はほとんどコードを弾いて、あとはガチャガチャとノイズを出しよるだけで、自分が弾いてない音がどっかから出てきたりするのも面白いし、出たとこ勝負でやってるから。握って音が出ればそれでいい。でも、このリイシューのフレットも素晴らしいし、キレイに鳴るよね。
──ゴールドトップやサンバーストではなく、黒のレス・ポール・カスタムにこだわるのはなぜでしょう?
いやいや、ただもう出会ったのが黒いレス・ポールやったからね。ジミー・ペイジとかも大好きだからサンバーストもいいけど、デュアン・オールマンとか偉大な名人たちが弾くギターみたいやし。黒はなんちゅうか、大騒ぎするロックはこんなほうがいい感じやないのかな。サンバーストは傷つけたら怒られそうでしょ、美しすぎて。僕は縁あって黒に出会って、こんな感じに2本の弦をいっぺんに弾くと(と言ってロックンロールの定番リフを弾く)すごくキレが良くて馬力があって、ちょっと甘くて、ちょっと硬くて。あと、チョーキングした音がいつまでもフィードバックで残る感じは他のギターでは物足らん。
──では、1969年製の1本をずっと弾き続けてきた理由は?
このギターはシーナ&ロケッツを始めた時(1978年)に譲ってもらったんですね。やっぱり僕はシーナのバッキングを弾きたいちゅうか、自分たちが作った音楽を自分たちで演奏して、シーナがこう歌ったらこう弾こうとか、シーナをうしろから煽ったり、すっと歌道を作ったり、シーナがガッと行ったらギターも一緒に行く……もう声の一部やし、自分のサウンドなんですよ。違うギターでいいやとか思って別のを持っていくこともあるけれども、違う音楽になってしまう。僕の1969年製は、マーシャルと組めば自分たちの音をいつでもどんな条件でも出してくれる。いざ勝負ちゅう時や大騒ぎする時は“お前が頼りだぜ!”って、ずっとそう。
──今後、リイシュー・モデルを使う場面はありそうですか?
バンドと一緒に弾いたらすぐわかるんですよ。シーナと一緒に歌のバックをしてみらんとね。試し弾きした時に気がついたけど、僕のギターのほうが線が細くて、トーンが硬く感じた。リイシューのほうが太いちゅうか、ひょっとしたらこっちのほうがスゴイかもしらん。このフルリッチなサウンドがいいのか、バンドで一緒にするなら僕のギターのほうがいいのか、どっちがいいのかはわからんけどね。そこんとこは今からライブで使ってみないとわからんから、とりあえず次のライブに連れて行く。
──バンドと合うかどうかが決め手なんですね?
うん。どう弾こうって確固たることを思ってるギタリストはいろいろあるかもしらんけども、僕やらバンドはその日の気分で大きい音を出して大騒ぎするだけだから、それほどデリケートさは求めんのよ。僕たちはライブで6弦が切れとっても、換えるべき時じゃないと思ったらそのままアンコールまでやったりする。そっちのほうが大事なこともあるんですよ。待たせて弦を張り替えたり、別のギターを持ってきたりするよりも、今いいとこまで来とる、その中断できんとこがカッコよかったりするから。たまには1本2本なくてもさ、ドラムもいるし、ベースもいるし、みんないるから。いくつかフレーズが弾けてシーナが歌えれば、それで最後まで行くほうが大切な時もある。
──では、今回のモデルについて総評をお願いします。
ギブソンがロックの歴史を作ってきた……そういうプライドちゅうか、信頼できる証ちゅうか、こうやって大切にしてくれてるのはファンとしてもすごく嬉しい。特に1968〜69年頃の“ロックはバンドでやるんだぜ!”っていう時代の激しさを引き受けてくれるのがレス・ポールなんよ。“俺はうまいだろ?”みたいのだったら何でもいいけど、みんなの気分をグンと上げる役目はもう、レス・ポールが引き受けとるんよ。ツェッペリンもそうやけど、ロバート・プラントを掻き立てるのはジミー・ペイジのレス・ポールやった。実戦型でステージで鳴らせて、ショールームや歴史の中に飾られとるんじゃなくて、ストリートやらライブハウスやら、音が誕生する場所でこのギターはきっと生きると思うね。今からまた陽気で激しいロックが生まれるよ。
──最後に、これからレス・ポール・カスタムを弾き始めるギタリストに向けて、このギターとつき合っていくコツを教えてください。
ギター・マガジンでウィルコ・ジョンソンのインタビュー(2015年1月号)を読んで、僕がどうしてウィルコに夢中なのか知ったら、テレキャスターか黒のレス・ポールか選ばないかんごとなるね(笑)。ウィルコはきっちりしとるし名人やけども、レス・ポールは誰でも弾いてすぐハイになれる。デカい音が出るし、ちょっとルーズでもロックできるぜっちゅう感じがある。それとローリング・ストーンズをガイドにしてブルースとロックを楽しんでくれれば、あとはこのレス・ポールが引き受けてくれるちゅう感じかな。
使用アンプ:マーシャルJVM205H(ヘッド)+1960A(キャビネット)
使用シールド:ギブソン18' Purple Gibson Instrument Cable
※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは1月16日(金)を予定。
価格:¥698,000 (税別)
鮎川 誠
1948年、福岡県生まれ。シーナ&ロケッツで活躍するギタリスト。伝説のバンド、サンハウスを始めて間もない1970年頃にレス・ポール・カスタムと邂逅。現在に至るまでの愛器1969年製を自ら入手したのは1978年、シーナ&ロケッツを始動する前後のこと。以来、エボニー・フィニッシュのレス・ポール・カスタムを胸に、日本のロックを作り上げてきた。シーナ&ロケッツの最新アルバムは、2014年7月リリース、結成35周年を記念してオリジナル・メンバーで一発録りされた『ROKKET RIDE』。また、ソロ・ワークスをまとめたCD+DVDのボックス『AYUKAWA SIZE』も発売中!