アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
Fender USA / ギター・アンプ
エレクトリック・ギターという楽器を定義づけ、大きく発展させてきた一大メーカー、フェンダー社。同時にギター・サウンドの最終的な担い手であるギター・アンプのスタンダードを生み出したメーカーであることも忘れてはならない。マーシャルを始め、多くのギター・アンプの手本となった“BASSMAN”、スチューデント・モデルでありながらプロ・ギタリストをも魅了するトーンを持った小型アンプ“CHAMP”、現代的コンボ・アンプのひな形とも言える“TWIN”、“DELUXE”シリーズ……長い歴史の中で開発されてきた名機たちは、ギター・アンプの基本型として世界中で愛用され続けている。今回はそんな歴史あるフェンダー・アンプの中から“リイシュー製品”に注目してみた。現行品または近年まで生産されてきたものの中から、比較的手に入れやすいビンテージのリイシュー、もしくはリイシュー・パートを備えた限りなく再生要素の高いモデルの選抜である。オリジナルとリイシュー、その音質をより厳密に聴き分けるために、Dr.Dは状態の良い“本物”のビンテージ・アンプを探し、試奏するところからこのラビリンスをスタートさせた。取り上げる楽器・機材は“すべて試奏して書く”のポリシーは今回も健在。厳選19モデルのレポートをじっくりと味わってほしい。
使いにくい。
それが、儀式のように訪れる定番の印象だ。ビンテージのギター・アンプをいじっていると毎度のように思うのだが、何故こいつ等はコントロールが筐体のトップ(上面)に付いているのだろう? と、首を傾げる事が多々ある。
逆に、現代のアンプは実に使いやすい。
それは、ほとんどの場合ノブやスイッチが、立っていても座っていても手を伸ばしやすい位置に備わっているからに他ならない。少なくとも、今、自分がどんなセッティングで弾いているのかを弾いている場所から目視する事はできる。だが、そんな簡単な事がビンテージ・アンプではできないのだ。手が届くどころか、もし座っていようものなら、いちいちアンプを回りこんでコントロールの場所まで行かなければならない。ちょっと音を出しては立ち、ちょっと音を出しては立ち……面倒くさいったらない。しかも、ノブの数字やコントロールの表示は全てこちらに背を向けており、覗き込んだだけではまともに目盛りを読むことさえできない。
そうなっている理由には、もちろん心当たりがある。ツマミが後ろ向きなのは、ギターの主役的適性の移行に伴う時代の移り変わりが原因なのだ。平たく言えば、昔はアンプの前にギタリストが立つ事が無かったせいだ。ギターの役目はバック・バンドの一員であることが主であり、それは、本人の主張がアンサンブルの音を越えて前に出る事など有り得なかったからである。現代はその逆で、ギタリストはフロントマンとなり、曲間に観客に尻を向けてアンプのセッティングをいじっても文句を言われない。その変遷に文句を言うわけではないが、どうしてもつじつまの合わない事もある。
それは、リイシュー……つまり、古いアンプの復刻版ですらその仕様が直っていないという点についてだ。ほとんどのメーカーには、それを現代風に改めようと言う気すら無いようだ。さらに、それにも増して、ギタリストはそいつを望んでいない。せっかくピカピカのリイシュー・アンプを買っても、皆嬉しそうにせっせと“裏側”を向いたノブを回しにいく。
それを見て、はっきりとわかる。ギタリストは皆少なからずロマンチストだ、と。
彼らは「雰囲気」というものの奴隷なのである。ギターだろうがアンプだろうが、たとえ、それがスペック通りの機能を発揮していたとしても、それだけでは決して納得しない。自分の気分が乗ってこないと、自分が出した音に対して満足に評価もできない。そんな厄介な生き物が、ギタリストなのだ。彼らはきっと、立ち上がった衝撃でスタンドが倒れてそのスタンドがキレイなツイードのトーレックスを破っても、猫がアンプの上に乗っかって一晩かけてセットしたツマミを全部真っ直ぐにしても、狭いライブハウスで背後の暗幕に埋もれながらでなければボリュームの操作さえままならないとしても……きっとそのアンプを選ぶのだろう。
美しく貼られたツイードのカバーの向こうに、真っ白なチキン・ノブの向こうに、鈍く発光する真空管の唸りの向こうに、最高の音がある。利便性や合理性を飛び越えて、そこから出てくる音に殉じればいい。少なくとも彼らはそう信じて疑わない。彼らは知ってしまったのである。望んだ音が、イメージを増幅させる容姿を宿した箱から飛び出してフレーズと混ざり合う時の快感を。しようのない生き物である。どうしようもない。しかし、彼らは幸せ者だ。
時代を超えて彼らを高ぶらせる、その写真でしか見た事のない容姿を持った『本物』を、音とともに形として再びこの世に生み出す技術や英知が今もまだ残っていることの凄みときたらどうだ。“音”や“ルックス”とともに、“不便”でも繋がれる。そして、それを誇りに思える。だからこそ、まだ生まれていなかった時代の偉大な音でさえ、薄暮の憂いをものともせず、ただ純粋に凄いと感じる事ができる。
そう考えたとき、自分はどうか? アンプの奥まったノブに手を伸ばす。やはり、使いにくい。でも……。楽しい。そう思えたなら、あとは復刻したものだけが現世に伝える『本物』の喜びに浸るだけだ。
そして、我々は自分がまぎれもなくギタリストである事に気付くのである。
今回は歴史あるフェンダー・アンプの中からリイシュー製品に注目する。現行品かもしくは近年供給が途絶えた物の中から、比較的手に入れやすいもので、ビンテージのリイシュー、もしくはリイシュー・パートを備えた限りなく再生要素の高いモデルを選抜してみた。さらに、オリジナルとは全く異なるチャンネル構成を持つV-MODシリーズ(’68シリーズなど)やアーティストのシグネチャーも基本的に除外する。こういった古いアンプに馴染みの無い読者にとっては、無数にあるフェンダー・アンプのラインナップを整理するのにも必ず役に立つはずだ。堅苦しく考えず、ちょっとした読み物のつもりでビンテージの雰囲気に触れてみてはいかがだろうか。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。気になる人はこまめにチェックしてみよう!
史上最高のギター・アンプは何かと問われた時、必ず話題に上る59年型“BASSMAN”アンプ。ツイード期の晩年を飾ったこの名機は、当初ベース用として開発されたアンプの新たなる可能性をレオ・フェンダー自らが見いだし、世のニーズに対応するようにその仕様を変えることによって生まれた。まだ、ステージでは大音量の歪みサウンドが往々にして歓迎されなかった時代に、真にソリッド・ギターのタイトな音色をスポイルせず、そのダイナミクスとストレートでパワフルな音色を伝えるのに相応しいこのアンプの登場は、ロック時代の夜明けを告げたと言って良い。小音量での豊かな小麦色のトーン、そして、音量をアップするほどに波のように空間を震わせるワイドなピークを備えたドライブ。音の立ち上がりが艶かしく、その立体的な奥行きを感じさせる低域のフィードバックは実に繊細で、あの時代にあって多彩な表現力を有した万能アンプであった事を伺わせる。このリイシューでは整流管に5AR4(GZ34)一本というスタイル(“BASSMAN”は、初期の55年式『5E6-A』では整流管は5U4GA管が二本搭載されるという独特のスタイルを持っていた。それが、57年の中頃から整流管が一本の回路に変更される。これが歴代“BASSMAN”の中でも最高峰ともいわれる『5F6』系回路のはじまりである)が採用されている事から、人気の高い『5F6-A』版をモデルにしている事が想像できる(この回路の初期数カ月は、Type83整流管を使用していた。これが『5F6』。その後を引き継いだ『5F6-A』から整流管が5AR4になった)。ただし、パワー管はオリジナル59年式の5881管x2ではなく高耐圧な6L6管x2に変更され、プリ段も12AX7に統一されている(オリジナルのプリ段には12AU7管が採用されていた)ことから、音色こそ同系統ながらリイシューの方が若干歪み段の彩度が低く、音の重心もわずかに低音側に移った気がしないでもない。しかし、これは耐久性と管の供給の問題を現代のニーズに最大限適応させたフェンダー社側の配慮であると考えるべきである。少なくとも、この個体が、時代を超えた究極のフェンダー・トーンを味わうのに何の遜色も無い超ハイ・クオリティな復刻モデルであることは、疑いの余地のない事実である。
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4発入りナロー・パネル時代の洗練された形状を、その風格のあるツイード・スタイルで復刻したビンテージ・シリーズ“’59 BASSMAN LTD”に対し、こちらはFSR(ファクトリー・スペシャル・ラン)として生産された‘Blondeman’。さすがに特別仕様なだけあって、美しいオックス・ブラッドのグリルと、眩しいブロンド・テクスチャーによるカバーが目を引く逸品だ。ピギー・バック世代を彷彿とさせる外装カラーリングの4発“BASSMAN”……歴史上のラインナップには存在しないはずのこの取り合わせは、フェンダー社が復刻版でよく使う遊び心満載の「もしも」的スタイルを実践しており、実にマニア心をくすぐる容姿を提供してくれる。内部回路はLTD同様『5F6-A』をベースにしているが、スピーカーに伝統的な“P10R”ではなく特別仕様の“P10R-F”(これは元々、近代フェンダー・アンプの最高峰モデルの一つとされている“VIBROKING”用に開発されたもの)を採用したことでいっそう低音の色彩を強調するサウンドを持つようになり、レスポンスもわずかではあるが向上している。よくアンプ・マニアの間で議論される“BASSMAN”の究極たる由縁の出音を形成する要因について、回路とスピーカー、そしてトーン・スタックの全てが上手く噛み合ったことによる複合的成果とする声が大きい事はご存知の方もいる事だろう。つまり“BASSMAN”のサウンドは、何か一つの特殊なパーツやチューニングによって作られるものではなく、そのバランスされた総合力が生む傑出したトーンにあると言えるのである。最高峰ともいわれた『5F6-A』“BASSMAN”が、59年から60年の間にニーズに合わせてスピーカーを同じJensenの“P10Q”ヘと変更して好感を得たように、5881ではなく6L6パワー管(余談ではあるが、実は“BASSMAN”は初期のツイン = デュアル・レクチファイヤー = 整流管)時代に6L6仕様でリリースされていた経歴がある)を持つ“’59 BASSMAN”にとってはこの迫力あるロー・エンドを受け止めるのに最適なチョイスだと断言できる。このアンプにとって歴史上その最上のパートナーである事を1度として譲ったことのないストラトとのコンビで、よりトラディショナルな音像を追求できるモデルとして文句無しにオススメだ。国内20台限定。
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フェンダーの提唱する新たなビンテージ・リイシュー・ライン“’57”シリーズ中でもひときわ目を引くツイード外装を施された“’57 BANDMASTER”。ピギー・バック時代以降のヘッド形状のものをよく見かける“BANDMASTER”だが、その歴史はワイド・パネルの『5C7』&15インチ・スピーカーx1という53年製にまで遡る事ができる。その中でも人気の高い“第三期”と言われる55年〜60年の初頭にかけて製造されたナロー・パネル中期の57年モデルを元にしたカスタム・シリーズ(ビンテージ・シリーズのようなビンテージ・パーツにまで拘った厳密なリイシューとは異なり、実践的ハンド・ワイヤードによるパフォーマンスに重点を置いた復刻モデル・ライン)によるリイシューがこれだ。『5E7』サーキット&10インチ・スピーカーx3のエクストラ・アウト付き26W出力、そして初期型の特徴とも言うべき“Mic”入力端子を備えた最後のモデルという時代のはざまに生まれたこのスタイルの“BANDMASTER”にスポットが当たる意義は大きい。また、特徴的な「BTV」コントロール(左からBass、Treble、Volumeの並び。普通はその逆)もしっかり再現されており、マニア心をくすぐる容姿となっている。その音は、飽和感とアタックによる伸びが強く、しなやかなサステインはふわりとした残り香とともにすっきりと枯れる。57年製モデルという特殊な事情(“’57 DELUXE”の項目を参照)からくる、ざらっとしたピークの折り返しもうまく流暢な音質の中に封入されている。歪み出しはやや早めで、その折り重なるようなトーンがフロントに載せられたロー・パワーのシングルコイルで再生されるならば、カントリーやブルースには最高のトーンとなるだろう。ちなみにこの“’57 BANDMASTER”に採用されているスピーカーも“’59 BASSMAN “Blondeman’”で採用されたのと同じJensen“P10R-F”なので、低音の抜けが最高である。
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フェンダー・アンプを愛する全ての人々の憧れの的、ナロー・パネル時代の“TWIN”がカスタム・シリーズとして復刻。しかも、この“’57 TWIN-AMP”は55年初頭〜57年中期にかけての『5E8-A』サーキットを組み込んだモデルで、シリーズ中でもかなり特殊な真空管構成である事でも知られている。『5E8-A』はツイード期以前の中出力なモデルに稀に採用されていた二つの整流管を組み込んだモデルで、前述のオリジナル“BASSMAN”の最初期型『5E6-A』に採用されていたものと同じ、整流管が5U4G(またはGa)x2(ツイン = デュアル・レクチファイヤーは、当時業務用の大型アンプやオーディオ用には採用されていたが、ギター・アンプとしては例がなかった)、そしてパワー管が6L6G(“BASSMAN”は6L6)という構成は時代的に完全に一致する。57年以降で採用していくことになる5AR4(GZ34)整流管以前のレオ・フェンダー自身の試行錯誤(迷走とも言う)と、そこから生まれたその時代にしかない特殊なサウンドに付加価値を見いだす者は多い。角がバリッとした音が特徴的なツイード期の“TWIN”の中でも、やや歪みにくい部類に入るだろう。きらびやかな奇数倍音のどこまでも伸び上がる高域と、横に広がる低域のうつろな歪みは健在だが、タッチは意外にもふわっと弾力があり、中域に硬い芯がある。アタックに関してもそれほど直情的ではなく、クリアなレスポンスの後に一瞬の間を取ってから歪み始めるようなレスポンスを持っている。なるほど、他のどのタイプの“TWIN”アンプとも違う不思議な光沢と静謐感のある出音は、実に玄人好みなガラパゴス的優位点と言えよう。ただし、エリック・クラプトンやキース・リチャーズが探し求めた57年製“TWIN”が果たしてこれであったかは、“’57 BANDMASTER”の所でも少し触れた例の57年製特有の特殊事情(“’57 DELUXE”参照)とは微妙に時代が重ならない事から、真偽のほどは定かではない。とはいえ、『5E8-A』と12インチ・アルニコ・スピーカーx2という仕様から得られる音があらゆるフェンダー・トーンの中でも未だもって“新鮮”であることは断言できる。
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「フェンダー・クリーン」と言われたとき、多くの人がまず思い浮かべるのがこの“TWIN REVERB”の目の詰まった艶やかな響きに違いない。それまでの“TWIN”の目指していたサウンドとは大きく異なり、いかに大音量でのクリーンなサウンドを実現するかという観点で構造上の大転換がはかられたモデルである(63年頃までのホワイト・トーレックス時代の“TWIN”とは基本的な構造が違うので分けて別のシリーズとして考える説も隆盛ではあるが、パワー管出力の連続性などから鑑み、ここではDELUXEやSUPER、PROなどと同じく同一線上の進化系列として整理する)。その証拠に、“TWIN REVERB”は、高品質なスプリング・リバーブの搭載、ミドル・コントロールの採用、スピーカーは50年代から一貫していたJensen“C12N”だけでなくOxford“12T6”などの使用にも踏み切り、さらにレクチファイヤーもソリッド・ステートへ変更するなど、登場時から際立った独立性を備えたモデルとして異質な存在感を放っていた。後にはマスター・ボリュームやブースト機構も備え、最大135Wにもパワー・アップしたあげく、外装だけをブラック・フェイス期のものに戻したり、ポール・リベラが2ch仕様にした“TWIN REVERB II”を発表したりと、製造ラインにもユーザーにも混乱を招いたモデルとしても知られている。この“’65 TWIN REVERB”は、初期のブラック・フェイス時代(63年〜67年頃)のサウンドを限りなく再現したモデルで、90年代、2000年代に相次いで限定復刻され(全ての65年型リイシュー・ラインのはしり)、そのコンセプトを現在のビンテージ・シリーズに受け継いでいる(ただし、初期のサーキット『AB763』はプリント基板による再現となった。スピーカーは“C12N”をシミュレートした“C12K”が2発)。圧倒的な奥行きを聴かせるビッグ・トーンは健在で、自然にしゃくり上げた後に落ち葉が舞い散るような“いなたい”減衰を伴ったマットなクリーンが真っ直ぐに飛び出てくる。ギラギラしたシルバー・フェイス期のような鳴りではなく、ビンテージ・フェンダーが持つ切ない色香を纏った不滅の心地よさをクリーン・トーンに求めるならば、この機種は現代におけるマストな選択肢の一つとなるだろう。
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“TWIN REVERB”リイシューの系譜における新解釈、’65 TWIN “CUSTOM 15”。この機種の最大の特徴は、ブラック・フェイス期の復刻モデルでもある“’65 TWIN REVERB”とほぼ同じ回路構成を持ちながら、元来2発のスピーカーを搭載するはずの“TWIN”シリーズに、あえて15インチの大型スピーカーを一つだけ載せるというスタイルにある。60年代の“VIBROVERB”や“VIBRASONIC”に採用されていた名機JBL“D130-F”のクローンでもあるEminence製カスタム・セラミック・スピーカーが放つサウンドは、音の塊を叩き付けてくるような元来の“TWIN”のサウンドに対して、大地を滑るようにするりと平に広がりながら美しいキラキラとした余韻を残すのが印象的だ。どんなに激しいコード・プレイでも音粒はしっかりと分離しており、一種の「距離感」を感じる事のできるワイドなレンジ感と底に溜まったどっしりとしたレスポンスの対比は病み付きになる気持ち良さだ。こういったサウンドはディレイ系のストンプやバイブのようなエフェクトとは特に相性がよく、縦方向に立体的な空間演出が欲しい人には格好の選択肢となるだろう。ジャズやカントリーにはもちろん、モダン・アンプの突き抜けすぎるシビアなトーンとの対比に、この客席全体に広がるおおらかなサウンドを切り替えて使うことはプレイヤーの新たな想像力を呼び覚ますはずだ。
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スチューデント(初心者)モデルとして開発されながら、あらゆる偉大なミュージシャンの手によって愛され、かつ酷使されたアンプはこれを置いて他に例が無いであろう。そして、また、当然のようにレオ・フェンダーもこのシリーズの設計に軟弱な要素を一切持ち込む事は無かった。「フェンダーの神髄を体感するのに、わざわざ高いアンプを買う必要は無い。チャンプには全てが詰まっている」と言われるほど、その小さな筐体とシンプルなコントロールに織り込まれた孤高の歴史がいかに多くのプレイヤーを勇気づけたか知るほどに、この完璧なリイシューの価値がいかほどかを知る事ができるだろう。“’57 CHAMP”はナロー・パネルとしては二世代目に当たる『5F1』回路をハンド・ワイヤリングで再現したモデルで、真空管構成も12AX7x1、6V6x1、さらに整流管にも当時と同じ5Y3管を搭載し、スピーカー・ユニットもWeber製の特製8インチ・アルニコを搭載するなど、隙のない仕様を誇る。当然、コントロールはパワー・スイッチとたった一つのボリューム、そして二つのインプットのみ。音量の少ないうちはキラキラと波打つ水面をイメージさせる透き通ったゆらめきがピッキングに応じて優しい波紋を広げ、ボリュームを上げていくとだんだんと切ないドライブが沸点を押し上げていく。フル(ボリュームは12)にすれば、吹きこぼれたドライブにツイード・カバーゆえの高域の丸まりが覆いかぶさり、甘くささくれた独特のピークを生み出す。この時代特有の薄いパイン材によるキャビネットも当時のままのフィンガー・ジョイントで再現されており、音の芯にぱきぱきとした独特の乾いた共振を生む感じも実に素晴らしい。ツイード期の頂点をまさに極めんとしていた時代の奔放な開放感を味わいたいのなら、これ以上の個体は無い。“’57”シリーズは2011年にその大半が生産終了となったことで、市場に残る個体はわずかなので、愛好家達の間では見かけたら必ず手に入れたいアイテムの一つとなっている。
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2006年のV-MODシリーズの後、最後の“CHAMPION 600”シリーズとして、スペシャル・カラーの“Little Blondie”がFSRとして登場。TVフロントの正規リイシューとして登場し、2006年度版ではあのオリジナルと同じツートンの合皮を再現。そして、FSR版では「オール・ブロンド」の特別外装(オリジナルにはこの外装は無い)仕様として再度の復活を果たした。内部の構造的にはスピーカーが4Ωから8Ωに変更されたことで多少音質がナローになった事以外は、大きな変更は見られない。こうして紹介しておいてなんだが、このモデルに限り、復刻という意味においてはその再現度はここで紹介する他のモデルより低いと言わざるを得ない。元々がV-MODシリーズ(名機のジャストな復刻ではなく、旧オリジナルを元に新たな機能と解釈を加えた現代モデル)なのでやむを得ない所なのだが、やはり両モデルともスピーカーのマグネットがセラミック(フェライト)なので、オリジナルのアルニコとの差はやはり出てしまう。そして、真空管のドライブ段が6SJ7から12AX7に変更になったのはやむを得ないにしても、整流管が5Y3からダイオードに変更になっている点も大きい。そもそも、オリジナルのシャシーは銅メッキの板金でできているので、材質そのものの差異も大きい。結果、本来のモコモコした中に金属的な響きを有した独特の鳴りは息をひそめ、ちょっと抜けの悪い(モコモコ感はそれなりにある)高音に普通の倍音のあるサステインを足した程度の音にとどまってしまっている。40年代特有のサグ……というか温かな「雑味」の様なものも、残念ながら当モデルからはほとんど感じ取れなかった。ただ、この機種の名誉のために言っておくが、これはFSRとはいえカスタム・シリーズやビンテージ・シリーズのような忠実な復刻を目指したものではなく、あくまで現代にそのスタイルを呼び起こすために使い勝手良くモディファイされたモデルだという事を理解して使うべきなのだろう。そう考えればチューブ・アンプで2万円強の実売価格は大変優れていると言える。ちなみに、Weberからはこのシリーズにも最適なリプレイスメント用の6インチ・サイズ、アルニコ・スピーカーも安価で発売されているので、載せ替えてみるとかなりの違いが体感できるはずだ。
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混迷のCBS期に重なるブラック・フェイス時代の遺産ともいうべき、中出力のリバーブ・モデル群の中核を担った“SUPER REVERB”。同時期に改変された“PRO REVERB”や“VIBROVERB”、“VIBROLUX”は全て、5AR4(GZ34)整流管や固定バイアス方式、ロングテール・フェーズ・インバーターなど、真空管まわりを含めた回路に共通点が多かったのが特徴だ。その中でも“SUPER REVERB”は唯一ビブラート・チャンネルに“Middle”ノブを装備していた事で独特のパフォーマンスを発揮する事ができ、大容量の“TWIN”や“SHOWMAN”が必要ない(特に歪みを欲する)ユーザーにとって新たな選択肢を与える結果となった事実は有名だ。更に、このモデルのスピーカー構成がブラウン時代の“SUPER”の10インチx2から倍の10インチx4になっている事から、直系の祖先はむしろブラウン時代の10インチx4“CONCERT”かツイード期の10インチx4“BASSMAN”だという説がもっぱら有力とされる。こうして他の三機種とは明らかに毛色の違う出自を持つ“SUPER REVERB”がビンテージ・シリーズで復刻された意義は大きいと言わざるを得ない。さすがに4発のアルニコは、面で鳴るだけでなく、わざとらしいサステインも無くキレイに粒が出るので、“BASSMAN”ほど低音を重視した歪みが要らないプレイヤーにはまさにうってつけだ。単体だとゲインが意外にあり、この時期の製品としてはギラっとした部分を多く感じるかもしれないが、それ故にリバーブとの相性は最高で、海外ではこの組み合わせによるドライブに熱狂的な固定ファンがいるほど。ツイード期から連なるファンダメンタルな音質を直に受け継ぎながら、特異なポジションで新生したこのサウンドは、歪みでもクリーンでも唯一無二のバランスを備えている機種と言って良い。
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“DELUXE”や“PRINCETON”と並んでウッディー時代の最初の3モデルの一つにもその名を連ねる伝統の“PRO”(PROFESSIONAL)アンプ。“SUPER REVERB”の項目でも述べた通り、ブラック・フェイス期に大改変を行ったアンプの一つで、それまでの大きな特徴の一つでもあった大口径(15インチ)スピーカー1発という仕様から、その期を境に12インチx2という構成になり、それまでの圧倒的な個性が失われてしまった悲運のアンプの一つでもある。あの大口径スピーカーから発されるどっしりと絹に包まれるような分厚い低音と、本来のスイートなこの40W系アンプに独特の粘り腰を与える唯一無二のサウンドはスピーカー改変以降すっかり影を潜め、70年代半ば(1974、75年あたり)より後の70Wモデルでは整流管がソリッド・ステートに変更されるなど、“TWIN REVERB”と似たような経緯を辿ることになる。そしてさらに、2000年代初頭のリイシューでは、なぜか12インチ・スピーカーが一つに変更されている。元々の1発スピーカーの形を模したようだが、12インチ(セラミック)、しかも50Wという中途半端な規格で、オリジナルの15インチ(アルニコ)の音質を求めるのはやはり無理があるというものだ。コンポーネント的にも整流管がソリッド・ステートに変わった後の回路を参考にしているので物足りない印象は拭えない。“PRO”系アンプのリイシューはこれが2003年にディスコンになって以来、作られていないので、より再現率の高いシリーズとして15インチ・モデルが復活するのを待ちたい。
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フェンダー・アンプの歴史における最大の功労者“DELUXE”。1946年の3インプットの“Model 26”(ウッディー・デラックス)こそ、現代まで続くフェンダーの屋台骨“DELUXE”シリーズの礎となったモデルであり、レオ・フェンダーがK&Fを解体した後、最初にラインナップした三つのモデルの一つであった。その後、TVフロントの“DELUXE”で大成功を納めたフェンダーが、あの優雅な外装のワイド・パネル“DELUXE”を経て50年代後半に辿り着いた『5E3』回路のナロー・パネルを復刻したモデルこそ、この“’57 DELUXE”である。その音について触れる前に、一つ皆さんも疑問に思っている事は無いだろうか? そう、一般的にオリジナル・フェンダー・アンプの中でもツイード世代の円熟期は59年頃とされている。事実、“BASSMAN”や、この“DELUXE”に至ってもそれは揺るがない事実だろう。だが、何故この復刻が59年ではなく57年なのか? それは、あまり知られていない事だが、フェーズ・インバーターに「スプリット・ロード」と呼ばれる位相回路を、フェンダー社が当時のラインの全てのプッシュプル・アンプに割り当てた事に由来する。ここでの詳しい説明は避けるが、要は、これにより偶数次倍音(オクターブ上の音が良く出る。つまり高音が減退しにくくなる)が多い高域に特化したドライブ性能が約束され、位相反転による出力の低下を押さえる事ができるのである。フェンダーは57年から59年の途中までこの高級オーディオなどで使われていた回路(初期のオレンジや、アンペグなどもよく用いていた)を採用しており、“DELUXE”も例外ではなかった。これが、59年ではなく『’57』という年号の持つ意味の一つである事は間違いなく、この時期の音質に特別な思い入れのあるミュージシャンが数多くいたとしても否定はできない。実際、この“’57 DELUXE”の音質は、“DELUXE”本来の透明な歪みの後ろに切迫したような熱とひっそりと漂う冷たい影を同居させたようなあのバランスの良い音質よりも、さらに高域にスカっと抜けるような爽快感をもたらしているような印象を受ける。そして、逆に低音はタイトになってJensen“P12Q”のアルニコ12インチ・スピーカーのややつんのめるようなレスポンスが、強く弾くとまるでクローズド・キャビのようなコツンコツンとした鳴りに変化してくる。いずれもフル・アップに近い大音量の場合にのみ顕著になってくる変化だが、これが上記のインバーター理論の結果なのか、それともリイシューによるパーツ改変の恩恵なのかは推し量るすべは無い。ただ、“DELUXE”に限らずこの『’57』シリーズには、従来の普通に音が良いとされるビンテージ製品以上の何か別の存在感のある音が隠されているように感じてならないのである。それは、読者自らこれらの製品を手に入れた後に時間をかけてゆっくり探ってみて欲しい。コンボは2011年に惜しまれつつ生産終了したが、現在は同じカスタム・シリーズのヘッド・タイプとして復活している。
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こちらのコンボ・タイプは、“’65 TWIN REVERB”と同じようなタイミングで復刻されたビンテージ・シリーズ。ブラック・フェイス期のスペックを比べてみると“TWIN”から“TWIN REVERB”への時のような急激な改変はされず、基本構成はブラウン時代の“DELUXE”から踏襲され、回路もあくまで“DELUXE”と同じ『AA763』もしくは『AB763』へと真空管構成もシンクロする形で引き継がれていった。つまり、“DELUXE REVERB”は、“TWIN REVERB”のそれとは違い、既存のモデルにただ高品位なリバーブ・ユニットを載せただけのような滞りないモデル移行を果たした製品であると言える。これによって、66年に既存の“DELUXE”の生産は一旦幕を下ろすが、その操作感が完全に“DELUXE REVERB”に引き継がれていた事から、プレイで違和感を憶えたユーザーは少なかったに違いない。まさにフェンダーの伝統を継ぐ名機の由縁だ。“’65 DELUXE REVERB”は“DELUXE”アンプの終焉時に重なる過渡期に制作されたものをモデルとしており、12AT7管によるフェーズ・インバーター回路や、5Y3レクチファイヤーから替わった5AR4(GZ34)という仕様もしっかり反映している(ただし、こちらも“TWIN REVERB”と同様にプリント基板で復刻されている)。また、オリジナルは当時流行り始めたばかりのセラミック磁石のスピーカーJensen“C12Q”を採用していたのに対し、同じセラミックの“C12K”をあえて選んでいるあたりはプリント基板などでわずかに変化してしまったコンポーネントに対しての修正としてむしろ好意的にとらえるべきだろう。“C12Q”よりも若干低音がタイトながら、適度なローファイ感がありドライブよりもむしろクリーンに特製がよく出る“C12K”の方が、ロー・パワーな“DELUXE”系にはぴったりな気がする。存在感のある分厚いクリーンを、シングルのリアで爆発させたいプレイヤーにはピッタリの音質だ。いずれにしても弾き手のイメージを最大限に映し出す素晴らしい音色である事は間違いない。また、近年、FSRにてヘッド・タイプもリリースされ、モダンな現代風4発キャビとの組み合わせで生まれる新たな音域を堪能できるなど、益々デラリバ信奉者にとっては僥倖が続く。それにしても、過渡期のフェンダー・ヘッド・アンプ五芒星(私が勝手に言っている)とも言うべき『SHOWMAN』『BASSMAN』『BANDMASTER』『TREMOLUX』『VIBROSONIC』等を差し置いて、本来製造された事の無い“DELUXE”系のヘッドを先にリリースしてしまうあたり、この会社のこの先の野望が透けて見えるようで末恐ろしくもある。
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FSRからは、全世界待望のアルニコ・スピーカー搭載のデラリバが限定出荷されている。セラミックの伸びのあるサステインも良いが、やはり「フェンダーには絶対にアルニコ!」という人にとっては待ちに待った仕様なのでは無いだろうか。スピーカーにはWeberデザイン=Eminenceビルトの12インチ・アルニコ・スピーカーが搭載される。これはクラプトンのシグネチャー、ECシリーズ“TWINOLUX”に採用されているのとほぼ同等の仕様なので、その音の性質は推して知るべしである。実際に弾いてみると、柔らかな膨らみの中にしっかりと光沢があり、コンプレッションの少ない乾いた音質が実に心地よい。輝くブロンドのトーレックスの印象そのままに、ごまかしの無い明瞭なトーンで観客を魅了したいならこれは絶対に外せない。
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こちらは色違いのスペシャル・ラン仕様、ワインレッドの“Bordeaux Blues”とブラウンフェイスの“Fudge Brownie”。ともにオリジナル65年型“DELUXE REVERB”と同じJensen“C12Q”スピーカーを搭載し、当時の仕様により近づけたモデルとなっている。死海の底のごとき静寂を纏った透明感のある音質で、均一なサステインが糸を引くように良く伸びる優秀なこのスピーカーを、65年当時、自らが社を去る前に選択してくれたレオ・フェンダーに感謝の言葉以外思い浮かばない。さらに、このスピーカーはむしろある程度入力を大きくした方がその特性を発揮しやすく、さらさらとした砂のようなデラリバの歪みに上手く厚みを与えてくれる。22Wの音量マックスで演りたい人には、絶対にオススメだ。それぞれ国内限定30台。
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遡ればウッディー時代の最初の三つの一つにあるほど、長くフェンダーの歴史とともに歩んできた名機“PRINCETON”。そして、フェンダー・アンプの歴史上、唯一シングル・エンド・クラスAからプッシュプル・スタイルへと駆動形態を移行したアンプでもある。初めは8インチx1のスピーカーを搭載したわずか6Wの「プリンストン(スチューデント)」モデルとしてデビューした。その後8インチ・スピーカーの座をさらにその下の初心者モデル“CHAMPION 800”(“CHAMP”シリーズの元祖)に譲り渡し、自らは10インチ・スピーカーのスタイルを堅持していた初代“DELUXE”(“Model 26”)の地位を譲り受ける形で10インチ・モデルの土壌を作ったのである(“DELUXE”は後に12インチ・モデルが定番となり、最初に12インチを持っていた“PROFESSIONAL”(“PRO”)が15インチへ……というように、ところてん式に押し出されるように初期のモデルたちのテリトリーが決定していった)。そして時代はツイード期に入り、“DELUXE”の項で語ったような『’57』仕様によるスプリット・ロードによるドライブ段が採用されるようになった際、このモデルにのみある一つの例外が起こった。それは59年を過ぎても、“PRINCETON”だけが次期フェーズ回路(リークムラード式:59年以降のほぼ全てのフェンダー・アンプに採用され、現在まで使われている)を導入されず、スプリット・ロード式が継続して使用され続けたのである。少なくともこの“PRINCETON REVERB”が登場するブラック・フェイス期まではその回路が継続された事から、この仕様が“PRICETON”から“PRINCETON REVERB”にも引き継がれたであろう事が予想される。少なくともこのシリーズだけは、『’57』の音色をしばらく保ち続けたという点で明らかな特異性を見いだす事ができる。そして、先にも述べたように、“PRINCETON REVERB”が誕生する64年よりも前の61年に、“PRINCETON”は大改革の末、パワー管1本のクラスAアンプから、パワー管を2本載せるプッシュプル・アンプへとその姿を変えたのである(故にこのモデルに限っては、オリジナル・ビンテージとの境をこの61年で区切る説すらある)。“PRINCETON REVERB”はと言えば、真空管構成もそのまま(5AR4(GZ34)整流管はシルバー・フェイス期になると5U4GBに変更された)に、わずかなコントロールの配置換え(“PRINCETON”定番の“Tone”が無くなり、EQが“Treble”と“Bass”に分割された)とリバーブの追加だけで“PRINCETON”のトーンをほぼそのまま受け継いだ。リイシュー・モデルである“’65 PRINCETON REVERB”もオリジナルゆずりの10インチ・セラミック・スピーカーJensen“C10R”(オリジナルではOxford“10J4”もあった)を採用し、メリハリの利いた軽快なトーンを聴かせてくれる。一つ注意すべきは、オリジナルが12Wなのに対して、リイシューは15Wとわずかながらにパワー・アップしている点だ。特に違和感はないが、音量を上げた時、低音の前に出る量感がリイシューの方が若干大きいようなので音作りの際には注意をしたい。
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ビンテージ・シリーズの“’65 PRINCETON REVERB”の特別モデルで、スピーカーにJensen“P10Q”というアルニコ・ユニットを採用したちょっと贅沢なモデル“Fudge Brownie”。高域の美味しい部分が保たれたまま音が上手く圧力を出してくる、そんなスピーカーだ。“PRINCETON”本来のかっちりとした鳴りを支える帯域を上手くプッシュしてくれるので、実にピッキングでの抑揚が付けやすい。オリジナルの“C10R”ではドライブを上げすぎると耳が痛い感じがあるが、このユニットはそれを上手く中和してくれるので、安心してフルまでボリュームを上げる事ができる。ちょっとややこしいのは、このモデルが通常製品とは異なりオリジナルと同じ12Wに出力を戻されている点だ。小音量ではあまり関係がないが、つまみが“7”を越えてくるとサステインの密度やロー・エンドの立体感に差が生まれるので注意しよう。FSR製30台限定品。
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こちらは歴代“BASSMAN”などに採用されてきたのと同じJensen“P10R”アルニコ・スピーカーを搭載したモデル。高域が強く出るので歪みだと若干毛羽立った音色に聴こえるが、クリーン系だと素晴らしい鈴鳴り感がある。個人的にも、氷がゆらゆらと燃えるようなこのクールでピーキーなクリーンは大好物だ。しかも、低音には独特の粘っこい弾力があるのがまた良い。やはりこのユニットにはストラトが最高のパートナーになるだろう。熱く鮮やかに乱舞するハイ上がりなラウド・トーンから、ナメたピッキングで呼び出す膝を着くような枯れたビンテージ・サウンドまで思いのままだ。一方で、フルに近いドライブ・サウンドではこのピーキーな高域を上手く包み込むレス・ポールの丸い音がぴったりくる。どんな場所へも持っていきたくなる、そんな生命力に溢れたサウンドに出会いたいならばこの組み合わせを試す価値は充分にあるだろう。FSR製50台限定。
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ブラウン時代からブラック・フェイス期へ……過渡期の波に翻弄された悲運のアンプの一つがこの“VIBROVERB”だ。このアンプは『6G○』系サーキットを持つ同時代の兄弟分である“TREMOLUX”、“VIBROLUX”などと非常に似た回路を持つが故に、63年、64年のたった二年間弱でラインから消え去る事になった。リイシューはこの63年版の『6G16』サーキット(新生版はプリント基板)を元に復刻(64年度モデルは『AA736』という“DELUXE”や“TWIN REVERB”系に近いサーキットを持っていた)したモデルにもかかわらず、プリ段、フェーズ、リバーブでそれぞれ使用されていた計4つの管がかなり大胆に入れ替えられていたり、GZ34レクチファイヤーもソリッド・ステートになっていたりと、信号回路に大幅に手が入れられていた。しかも、オリジナルでは40Wあった出力は35Wに抑えられ、15インチx1という初期の“PRO”を思わせるあの大胆な仕様も、現代風に10インチx2という無難なものにされていた。ここまで原形をとどめないものをリイシューと呼ぶべきかはさておき、そのサウンドは出してびっくり、完全に本物のブラウン・トーレックス世代の音だった。ただ、オリジナルに似ているかと言えば、はっきり言って似てはいない。オリジナルはこんなにピンと張ったサウンドではなく、もっとおおらかでゴロゴロと唸るような特有のサウンドを持っていたからだ。だが、万人向けの使いやすさという点ではリイシューがレスポンスやレンジ感から言っても軍配が上がるだろう。歴史的トーンに忠実な方が良いか、それとも新しい解釈に心を惹かれるか……それはまさに、新しい時代のフェンダー人に、天国からレオがその判断を問いかけているかのようである。ちなみに、ハンド・ワイヤードなリイシューで注目を集めるカスタム・シリーズにも1995年に“CUSTOM VIBROLUX REVERB”と“CUSTOM VIBRASONIC”という一見まるで復刻版かと見まがうようなモデルがあったが、こちらはフェンダー自体がカタログで言及したように、あくまで「存在したかもしれない」アンプなのであって、紛らわしいが決してリイシューでは無い。間違えないように。
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番外編的に、近代物ですでにリイシューされている傑作アンプのシリーズがあるので、簡単に紹介しておこう。“BLUES DELUXE”はソリッド・ステートのレクチファイヤーと、プリ段に12AX7x3、パワー段に6L6x2を備えた40Wアンプで、“BLUES DEVILLE”はそれと全く同じ真空管構成の60Wアンプとなっている。違っているのはスピーカーの構成で、それぞれ容量の違うタイプの揃ったEminence製スペシャル・デザインを搭載している。“BLUES DELUXE”が12インチx1、“BLUES DEVILLE”が10インチx4。さしずめ“P○”系スピーカーを搭載したオリジナルの“DELUXE”と4発“BASSMAN”に置き換えられたりもするが、出音の印象はそれらよりも遥かに近い。ふくよかでコンプ感が強く、高域は滑らかで良く抜けてくる。現代っぽくミドルに張りがあり、低音は逆にビンテージ・ライクにもったりした印象だ。オリジナルは93年発売。リッチー・フリーグラーがこれらのアンプの生産を取りやめてホット・ロッド・シリーズに傾倒したのは有名な話。ホット・ロッドほど歪まないが、長く『新しい時代のビンテージ・トーン』を欲していたユーザーから絶大な支持を集め、未だに多くの根強いファンを持つ。CBS期以降に開発されたオリジナル・モデルで正式にリイシューされたのは、後にも先にもこの二機種のみである。あえて時代を飛び越えて、90年代のアンプの復刻に踏み切った背景に、現代フェンダーが抱えるぬぐい切れない悪夢への葛藤が垣間見えるのは気のせいだろうか。だが、その音は本物。今後のフェンダー・アンプの指針と、それを担う確かな技術を提唱した歴史的リイシュー・モデルたちだ。
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フェンダーには、「まず、アンプがあった」という言葉がある。そう、レオ・フェンダーは生粋のアンプ職人なのだ。テレキャスやストラトが生まれるもっと前からアンプを作っていた人物なのである。
今回は、超メジャー・ネタ、フェンダー・アンプの、しかもリイシューものだけを扱うという企画にチャレンジしてみた。いかがだっただろうか? 80年代以降続く復刻ブームは、より本格的なタイムマシン的レストアの域に到達しようとしていると言って良い。その音質をより厳密に聴き分けるために、リイシュー製品そのものよりも、むしろその元の年代の状態の良い『本物』のビンテージ・アンプを探すのに骨が折れた事は言うまでもない。この商売をしていてアンプの個人所有者に多少の人脈があるとはいえ、快く協力していただいた皆様には感謝の言葉も無い。
話は変わるが、ビンテージ・フェンダー・アンプの中に貼られた真空管チャートのコード(『5F6』とか『6G7』など)で大まかな時代と回路のバージョン、そしてモデル名を推測できる事をご存知だろうか? 最初の数字は年代(19X0年単位。6ならば60年代という事)、次が回路のバージョン、最後の数字がモデルを表す数字だ。モデル名は、1.CHAMP、2.PRINCETON、3.DELUXE、4.SUPER、5.PRO、6.BASSMAN、7.BANDMASTER、8.TWIN、9.TREMOLUX、10.HARVARD、11.VIBROLUX、12.CONCERT、13.VIBRASONIC、14.SHOWMAN、15.REVERB(単体)、16.VIBROVERB、となる。
こうして見ると、まだまだ復刻していないモデルがたくさんあるのがわかる。また、この傾向から、歴史のある機種ほどリイシューのニーズが高いという事も伺い知る事ができる。そこへ来ると、46年のウッディー・プロフェッショナルも、90年代の50周年時に50台リイシューが存在すると聞くが、それも、もはや都市伝説並みの希少さと言うべきだろう。再生産できる技術や情報、そしてその本物を知る人が生きている間になるべく多くの価値の高いリイシューの登場が待たれる。総じて、復刻されるにはそれなりのワケがある、と言うわけだ。
それでは、次回、年明け1/7(水)の『Dr.Dの機材ラビリンス』をお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。