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- 2024/11/16
RainSong
レインソングは、ギター全面にグラファイトを用いた個性的なブランドだ。グラファイトは天候や環境の変化に強いため、1年を通して安定したサウンド・キャラクターを誇るのと、素材のイメージ以上に自然で豊かな鳴りを持つのが大きな特徴。今回は、同ブランドの代表的なモデル3本を動画チェック&紹介していきたい。
──航空学を応用した斬新な設計
ボディ、ネック、指板、ブリッジのすべてにグラファイトを用いた個性的、かつ現代的な外観を持つギターだが、昨日や今日出来たブランドではない。もともと1990年代に航空学のエンジニアであるジョン・デッカー博士が開発したギターで、当時はハワイ州ラハイナで生産され、現在はワシントン州ウッディンビルに拠点を移している。このギターが開発されたハワイ州ラハイナは非常に雨が少ない地域で、現地の言葉で“ラー・ハイナー”は“灼熱の太陽”を意味する。こうした地域だからこそ、木製のギターでは特に珍しくないネック反り、ボディ・クラック等のトラブルから開放されたギターが必要だったのだろう。あるいは、雨が少ない土地だからこそ、突然の雨にもコンディションを崩さないギターが必要だったのかもしれない。その地で開発されたグラファイト製のギターには“RainSong”という美しい名が付けられ、以来、注目を集めている。
レインソングの注目すべきポイントは、まずはグラファイトで出来ているという点。木製のギターに比べると圧倒的に環境の変化に強く、例えば雨の日の野外のコンサートでも美しい音を鳴らすことができる。ネック反り等のトラブルも極めて少なく、レインソング・ギターにもトラスロッドは入っているが、これは反りを修正するためではなく(そもそも反りにくい)、プレイヤーの好みのアクションを実現するためのもの。より積極的な意図で入れられているのだ。非常に強度の高いグラファイトをボディにも採用しているため、本来アコースティック・ギターのトップ板裏に貼られるブレイシング(力木)を持たない。ボディを補強する必要がほとんどなく、サウンドホール周辺が少し厚くなっている程度だ。このことが、サウンドにも大きく影響している。
トップ材の補強をそもそもの目的としたブレイシングは、その貼り方によってサウンドに大きな影響を及ぼすことは周知の事実だ。ブレイシングを貼ることでボディ・トップの振動は確実に抑えられる、しかし貼らなければトップ材は弦の張力に負けてしまう──そのジレンマの間でギター・メーカーは苦心し、ボディの大きさや素材に合わせたブレイシング・パターンやブレイシング材そのものの削り方等を開発して、一定の強度を保ちながらサウンドをコントロールしている。しかし、レインソングのギターにはブレイシング自体がないため、ボディの鳴りを抑制することなく、豊かなサウンドを響かせることができる。
──現行ラインナップについて
レインソングでは現在、計7つのシリーズをラインナップしている。グラファイト・ギターという斬新なアプローチを世に問うた同社の原点「クラシック・シリーズ」から、スタジオ使用に特化させた音作りの「スタジオ・シリーズ」、グラスファイバーとカーボンを融合させた「ハイブリッド・シリーズ」、取り回しの良さとサウンドとを両立させ、アウトドアへの携帯などでも重宝する「コンサート・シリーズ」、トップに幾何学的な模様が入る「ブラック・アイス・シリーズ」、それに12フレット・ジョイント、ショート・スケールの「ショーティ・シリーズ」やパーラー・サイズの「パーラー・シリーズ」などもある。
ここでは上記のシリーズのうち、クラシック・シリーズとハイブリッド・シリーズから3本を選りすぐってみた。どれもレインソングを象徴するサウンドなので、ぜひ以下の動画からチェックしてみてほしい。
まずはクラシック・シリーズ/ドレッドノート・サイズのDR1000 N2。弾いてみた第一印象は、“普通に使える、鳴りの良いギター”ということ。“普通に”というのは、“グラファイト=金属的なサウンド”という先入観がもたらすものだが、そういった観点からも、なんら違和感がない。
実際に弾いてみると、確かに高域はブライトに鳴るが、中域~低域もしっかりと鳴るため“高域だけが鳴っている”という感覚はまったくない。全帯域が素直に鳴る、反応の良いギターだ。サステインも非常に良好で、気になるデッドポイントなども見つからなかった。演奏性も上々である。ネック・グリップが極端に太かったり三角だったりせず、手に馴染むグリップで、非常に軽いタッチで演奏できる。やはりドレッドノート・スタイルのパワフルな鳴りを活かしたリズム・ギターによく合う印象。動画では1分5秒あたりからのストロークのイメージだ。非常に素直な反応を示すギターなので、例えばもっと高域を落として中低域が欲しい場合はピックをセルロイド等に変えるだけでサウンドが大きく変わる(実際にいろいろと試し、動画ではべっ甲で演奏)。音の立ち上がりが速く明確なので、ストロークだけでなく、リード・プレイにも十分使えるだろう。
【Specifications】
■サウンドボード:RainSong's Projection Tuned Layering技術によるオール・グラファイト製、ブレイシングなし、アヴァロンのサウンドホール装飾 ■ネック:グラファイト N2 ネックとコンポジット指板をRainSong's Performance Shape Casting技術で一体成型、トラスロッド入り、真珠貝のポジションマーク ■ペグ:ゴトー ■フィニッシュ:UV プロテクト、ハイ・グロス、クリアウレタン ■ボディ・サイズ:16 インチ ■スケール:25.4 インチ ■PUシステム:Fishman Prefix+T ■その他:タスク・ナット&サドル、アヴァロン・インレイのブリッジピン、専用ケース付属
本器はクラシック・シリーズに属する、カッタウェイを持つOMサイズ。ボディ厚はやや薄めのコンパクトなタイプだ。今回試奏した3機種の中では、最もコンパクトなボディのモデルである。サウンドの基本傾向は、DR1000 N2にも近い明るいトーンが真っ直ぐに飛んでいくようなイメージだが、ボディ・サイズとカッタウェイの影響で、低域の迫力は抑え目で、中低域あたりが前に出るイメージ。小振りのアコースティック・ギターならではの、ポコポコと鳴る感じだ。音量感はDR1000 N2に比べると心もち抑え目。しかし、このサイズにしては十分な音量が鳴り響く。音のレスポンスの良さ、サステインの良さはDR1000 N2同様で、非常に心地よい。
ネック周りの弾き心地はDR1000 N2とほぼ同様で、非常に良好である。ボディが小さいため取り回しも大変良く、弾き疲れをしないのも嬉しいポイント。フィンガーピッカーや、比較的リードを多くとるプレイヤーにオススメしたいギターだ。
【Specifications】
■サウンドボード:RainSong's Projection Tuned Layering技術によるオール・グラファイト製、ブレイシングなし、アヴァロンのサウンドホール装飾 ■ネック:グラファイト N2 ネックとコンポジット指板をRainSong's Performance Shape Casting技術で一体成型、トラスロッド入り、真珠貝のポジションマーク ■ペグ:ゴトー ■フィニッシュ:UV プロテクト、ハイ・グロス、クリアウレタン ■ボディ・サイズ:15.25 インチ ■スケール:25.4 インチ ■PUシステム:Fishman Prefix+T ■その他:タスク・ナット&サドル、アヴァロン・インレイのブリッジピン、専用ケース付属
本器もカッタウェイのある、いわゆるOMサイズながら深胴タイプ。エンドピン部分のボディの厚みはDR1000 N2と同じ5インチだ。サウンドの基本的な傾向は、DR1000 N2やOM1000 N2と同様で、明るく張りのあるトーン。反応も非常に速い。この感じがグラファイトならではのサウンド傾向で、レインソングのトーン・キャラクターなのだろう。ボディ・サイズの影響で、音量感や低音の深みはこれまでの2本の中間に位置する感じ。コンパクトだが十分な音量で鳴り、“ポコポコとしたニュアンス”もOM1000 N2より少ない。演奏性や取り回しの良さは他の機種と同様に抜群で、コンテンポラリーな演奏をバリバリと弾くのに向いている印象を受けた。もちろん、オーソドックスなストロークやフィンガー・ピッキングにも、問題なく応えてくれるだろう。ピッチやサステインも、他の機種と同様に非常に良い。サイズ感とサウンドのバランスがとれた、とても扱いやすいギターである。
【Specifications】
■サウンドボード:RainSong’s Projection Tuned Layering技術によるカーボンとグラスファイバーのハイブ
想像していた以上に“自然なサウンドを持つギター”というのが第一印象。どれも弾き心地は非常に良く、サウンドの基本的な傾向も近いので、用途やサイズに起因するサウンドの違いを好みで選んでいけば良いだろう。基本的には非常に素直な反応を示すギターなので、木製のギターよりも、ピックや弦の違いによるサウンドの差が大きそうだ。つまり、それらの選び方でサウンドを好みの方向にチューニングしやすいと言える。ピック等は“使いやすさ”優先で選ぶ人も多いと思うが、もしレインソングを試奏する機会があれば、複数の素材のピックで試すことをぜひオススメしたい。
このサウンドや弾き心地を、寒く乾燥した冬場でもじめじめして暑い梅雨時でも影響を受けず発揮できるのは素晴らしい。ツアーが多いプロのプレイヤーにとっても、非常に心強い味方となるだろう。“共に年齢を重ねていく人生の相棒”というよりは、“過酷な状況でも質の高いサウンドと弾き心地を約束してくれる、職人のための道具”という感じだろうか。実は、求めているのはこちらだった、という人も少なからずいるだろう。できれば、自分の手と耳で確かめてみてほしい。