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- 2024/11/16
TOM ANDERSON / Suhr / James Tyler
サウンド、弾きやすさ、ルックス──ギタリストがより良いギターを追い求めるのは、当然の行為だ。その行き着く先にある一つの回答が、ハイエンド・ギターと呼ばれる製品群。しかしハイエンド・ギターはその性質から流通量が限られており、一般ユーザーが各ブランドをまとめて比較する機会を持つことはかなり難しい。そこで今回、スペシャル企画として全6ブランドのハイエンド・ギターを一堂に集め、そのサウンドや特徴を2回に分けて紹介する(Part2は12月公開予定)。試奏を担当するのは超絶ギタリストとして知られるケリー・サイモン氏。ハイエンド・ギターのポテンシャルを極限まで引き出すケリー氏の試奏動画は、全ギタリスト必見だ!
●ブランド・セレクトについて
今回の試奏にあたり、セレクトしたのは次のブランドの全6機種となる。
・TOM ANDERSON / Drop Top
・Suhr / Modern
・James Tyler / Studio Elite HD
・Sadowsky / Chamberd Custom S-Style(Part2掲載)
・Don Grosh / NOS Maple Top(Part2掲載)
・Marchione / Curvetop(Part2掲載)
選定の基本条件は、ハイエンド・ブランドのニュー・モデル、またはブランドを代表するコンポーネンツ・ギターであること。その際に、あまりに違うタイプのギターでは比較に適さない(例えばセミアコ・タイプとテレキャス・タイプなどでは比較にならない)。そこでそれを防ぐために一定の縛りを設けた。それは「ストラト・シェイプであること」、「ノン・ロック式トレモロを搭載していること」、「メイプル・トップのボディであること」、「3ピックアップであること(シングル/ハムは問わないがS-S-H、H-S-Hなど)」。このようなギターの基本的な構造を統一することで、各ブランドの特色を浮き彫りにしようという狙いだ。
●試奏動画について
試奏にあたってケリー・サイモン氏は以下のような手順でギターをチェックしている。
①まず、エフェクト類は全てオフの状態で、ギターとアンプの素の音をチェック(動画:Normal Tone)
②次に、PUセレクターやコントロール類を動かし、ギターとアンプだけの状態でトーン・バリエーションをチェック(動画:PU/Tone Variation)
③最後にそのギターに適したオーバードライブを踏み、フリー・スタイルで自由に演奏(動画:With Overdrive Pedal)
また、収録したギター・サウンドはほぼEQをせず、アンビエントのルームとディレイをフレーズによって加える程度にとどめ、できる限りギターの素のトーンが伝わるよう心がけた。
そして、ケリー・サイモン氏による試奏動画に先立ち、各ブランドの理念や歴史を紹介したい。ブランドが目指すものを理解したうえで動画をチェックすることで、そのギターの持つ個性やサウンドの特徴をより正確に把握できるはずだ。
【History of TOM ANDERSON】
ハイエンド系コンポーネンツ・ギターの老舗、TOM ANDERSON。代表のトム・アンダーソン氏は自身がミュージシャンとして生計を立てていた1970年代から「美しく、リッチな音を持ち、弾きやすい“妥協のないギター”があれば……」と想像していた。その後、シェクターに入社してビルダーとしての腕を磨き、80年代に独立。現在のTOM ANDERSONは、若き日のトム・アンダーソン氏の理想を実現する場となっている。
同社のギターに使う素材は、選び抜いたものの中から木目の美しいものだけを使用。組み立てはもちろん、ピックアップの製作まで自社工場で行っている点も特徴だ。また、同社のギターのワイアリングの素晴らしさは”A Work of Art”と呼ばれる程。製作したギターを1本1本、時間をかけてテストすることでも知られており(トム・アンダーソン氏はそれが大好きなのだとか)、仕上がりの精度は数あるギター・ブランドの中でも抜きん出たものがある。同社は各種オーダーを受け付けているが、仕様に関して同社がベストだと考えるものについては絶対に譲らない頑固な側面も持ち合わせており、現在はステンレス・フレット、2点ジョイント等は絶対に譲らない同社のスペックとして定着している。H-S-Hレイアウト、ロック式トレモロ搭載等、ハード・ロック仕様のギターのイメージが強い同社だが、近年はオーソドックスなスペック、サウンド指向のギターも増えてきている。
【Kelly's Impression】
「うん、これは弾きやすいです。ナット幅は恐らく42~43mmですよね?(※1と11/16インチ、まさに42.86mm!)ハイエンド系のギターはテクニカルなギタリストを意識してか、幅広Uシェイプで極端に薄いネックのものもあるのですが、このギターはある程度のグリップの厚みと僅かな指板のRが感じられて、ストラト・プレイヤーの自分にも弾きやすかったです。
TOM ANDERSONのギターはこれまでに何本か弾いたことがあるのですが、この1本には良い意味で裏切られました。もっとスタジオ系プレイヤー寄りのデジタル機材とマッチする現代的なギターのイメージだったのですが、これは甘い感じの粘りがあって、ブルージィなサウンドを出せるギターです。“ストラト感”は確かにあるのですが、ストラトほど乾ききってもいなく、かといってレス・ポールの粘りとも違う、独特なサウンドですね。プレイも、自然とブルージィなものになりました。もちろん、アンプの選び方やセッティングの仕方ではもっとシャープな音も作ることができると思います。ぜひハイエンド・ギターは苦手だと思い込んでいるベテラン・プレイヤーに試してもらいたいギターですね。もちろん、思い込みのない若いプレイヤーにもお勧めできるギターです。」
[TOM ANDERSON / Drop Topをデジマートで探す]
Drop Topは、豪華なメイプル・トップ材の美しさを際立てつつ、コンターに合わせてトップ材を曲げることでメイプルの厚みを一定に保って(3/16インチ、4.76mm)メイプルが厚過ぎて音が固くなり過ぎるのを防ぎ、ベストなトーンを追求した1本。見た目、弾きやすさ、音の全てにこだわった、まさにハイエンドの見本のようなギターだ。中でも本器はNAMMショーで発表されて以来注目を集めていたモデルで、近年のTOM ANDERSONの指向が反映された“オーソドックス”なタイプ。モダン・ハイエンドとしての弾きやすさ、美しさと、ビンテージにも通じる粘りのあるサウンドを併せ持つ。ボディ材は豪華な極上キルト・トップ、腰のあるサウンドを生むアルダー・バックで、ラメ状のスパークルをちりばめた最新カラー”Sheer Transparent Black”が材の美しさを際立たせている。ピックアップのレイアウトはS-S-Hだが、フロントとセンターはSC1というスタック・タイプのハムバッキング構造で、若干高域を抑えてある。リアは同社のHCピックアップで、“使えるビンテージ”系のトーン。弦高は22F上で約2mmとベタベタに低くはなく、フェンダーと同じロング・スケールなので、ある程度のテンション感がある。ステンレス・フレット、2点ジョイントはTOM ANDERSONらしいところ。バジィ・フェイトン・チューニング・システムを搭載し、ピッチに関しても安心して使えるギターだ。
[TOM ANDERSON / Drop Topをデジマートで探す]
[Specifications]
●ボディ材:キルト・メイプル・トップ、アルダー・バック ●ネック材:メイプル ●指板材:ローズウッド ●ネックジョイント:デタッチャブル(ボルトオン)/2点止め ●フレット:ステンレス ●フレット数:22 ●ネックスケール:ロング ●ピックアップ:パッシブ(フロント、センター/S1、リア/HC) ●コントロール:1ボリューム、1トーン(Pull Add Bridge)、5Wayスイッチ、VAブースト/タップ・スイッチ ●弦:エリクサー.010〜.046 ●重量:3.3kg
◎ギター提供:イケベ楽器店 ギターズステーション ※試奏で使用した個体はこちらから確認できます。
◎TOM ANDERSONへの問い合わせ:JESインターナショナル
【History of Suhr】
1997年、カスタムギター工房「John Suhr Technologies」の開設以来、世界のギター・ブランドの最前線にいるSuhr。代表のジョン・サー氏は1970年代にギター・プレイヤーとして活躍し、理想のトーンを追い求める中でクラフトマンとしての腕を磨いていく。この点では、トム・アンダーソン氏と近い経歴を持っているが、現在のギター・ブランドとしての立ち位置は、TOM ANDERSONとは対照的だ。自社が推す仕様については頑固なまでに守り通すTOM ANDERSONに対し、Suhrは顧客の様々なオーダーに柔軟に対応しながら、より高品位なギター作りを目指している。
Suhrの歴史を語る上で無視できないのが、ジョン・サー氏が「John Suhr Technologies」開設以前に行った仕事だ。80年代にRudy Pensa とともにニューヨークで立ち上げた伝説の工房「Pensa Suhr」、90年代に入ってRobert Bradshawと行ったCAE社のアンプ・デザイン、そして90年代中期に在籍していたフェンダー社のカスタム・ショップでシニア・マスター・ビルダーを務めていたこと等、近代のギター作りを振り返る時、ジョン・サー氏の名前は欠かせないものとなっている。
現在のSuhrがハイエンド・ギター・シーンをリードするブランドに成長したことについては、誰も異論を挟む余地がないだろう。多くの著名なギタリストがSuhrを愛用している事実が、ハイエンド・ギター・シーンのトップ・ランナーであることを裏付けている。
【Kelly's Impression】
「これはカッタウェイの感じが絶妙で、24フレットのところまで余裕で左手が入っていきます。ここまで高いポジションだと音が詰まってしまうギターもありますが、これは24フレットまできっちり鳴りますし、サステインもあります。ピッチも非常にいいですね。
サウンドについては高域がくっきりとしていて、特にハーフトーンでは乾いた“ストラト感”が強いですね。これは恐らく、厳選された材が影響しているんでしょう。エフェクト・オフの試奏シーンでは、ヘンドリックス的なコードを崩すプレイが自然と出てきました。
ネックのシェイプは、意外と丸く厚みがあるタイプです。ネックを握り込むことで余計な音をミュートしたり、音色を太くしてロック的なサウンドを作ろうとしているので、このグリップはありがたいです。(※ヘッドの必要以上の震動を抑え込むことでサウンドを調整するフェンダー社のアクセサリー『ファットフィンガー』のような働きを、ケリー氏はグリップをしっかり握ることで行っている!!)
これは、プロが仕事で使うには最高のギターですね。良い音が簡単に出せて、弾きやすい。しかもストラトと全く同じ仕様ではプロが選ぶ意味がないですが、24フレット、ハムバッカー等、ストラトにはない魅力もあります。多くの優れたプレイヤーが使っているからこそ、そのフィードバックがギター作りに反映されているのだと思います。」
[ Suhr / Modern Quilt Maple Top Korina Backをデジマートで探す]
Suhrブランドの中でも人気の24フレット仕様モデル、Modern。本器は極上のキルト・メイプル・トップに、貴重なトーン・ウッドとして知られるコリーナ材をボディ・バック、ネックに使用した40本限定生産のリミテッド・モデルだ。
コリーナは、マホガニーに近い粘りのある中音域を持つ材だが、マホガニーよりもハイがよく出るのが特色。さらに同社のピックアップは高域のレスポンスに優れており、それと同時に直流抵抗が高くパワーがあるため、ハイが出ていても耳にきつく感じない。材、ピックアップ、そして組み込み等の全体的なバランスが相まって、“ハイがしっかりと出ていながら耳当たりがよく、中域に粘りもある”という本器のキャラクターを作っている。
24フレット、丸いUシェイプを基調としながらハイ・ポジションに行くにしたがい指板のRが10”から14”に変化する“Modern Elliptical”ネック・シェイプ、深いカッタウェイ、フィット感抜群のボディ、H-S-Hのピックアップ・レイアウト等、テクニカル系ギタリストの心をくすぐる仕様となっている。ピックアップはエスカッションを使わずボディに直付けし、フロント位置をその分ネックのギリギリまで寄せているのは、24フレット仕様によってフロント・ピックアップの位置がハーモニックス・ポイントから遠ざかるのを避けるため。細かいところまで考え抜かれた心にくい仕様だ。
トップの美しい杢目を活かすHoney Amber Burstのカラーリング、ノブに使用されたパーフェロー材など、ハイエンドらしい豪華なルックスもポイント。
[ Suhr / Modern Quilt Maple Top Korina Backをデジマートで探す]
[Specifications]
●ボディ材:キルテッド・メイプル・トップ、コリーナ・バック ●ネック材:コリーナ ●指板材:パーフェロー ●ネックジョイント:デタッチャブル(ボルトオン) ●フレット数:24 ●ネックスケール:ロング ●ピックアップ構成:H-S-H ●ピックアップ:パッシブ/JST SSV Humbucker(フロント)、JST ML Single-Coil(センター)、JST SSH+Humbucker(リア) ●コントロール:1ボリューム、1トーン、5Wayスイッチ ●ブリッジ:GOTOH510 2-Post Solid Saddles ●トレモロ:シンクロ・タイプ ●チューナー:Suhr Locking ●色:Honey Amber Burst ●重量:3.1kg ●付属品:ハードケース、保証書
◎ギター提供:イケベ楽器店 ギターズステーション ※試奏で使用した個体はこちらから確認できます。
◎Suhrへの問い合わせ:オカダ・インターナショナル
【History of James Tyler】
興味本位で自分のギターを改造しているうちに、バンド仲間からリペアや改造を依頼されるようになったことがキャリアのスタートだというジェイムス・タイラー氏。1972年にはガレージでリペア・ショップを興し、70年代後半にはLAの伝説的なビンテージ・ギター・ショップ『Norman's Rare Guitars』のリペア・レストアの責任者を務めている。1980年に自身のジェイムス・タイラー・リペア・ショップをオープンすると、その高い技術が口コミで評判を呼び、当時全盛だったLAのスタジオ・ミュージシャン達がこぞってタイラーのショップを訪れるようになる。彼らと意見を交換する中で、オリジナル・デザインのヘッドストックのアイディアを温め、1987年のロサンゼルス・ギター・ショーで、『スタジオ・エリート』がデビュー。90年代には『クラシック』モデルや『バーニング・ウォーター』を発表、インターネットの普及と歩調を合わせて、その名声は世界に広がっていった。2000年以降も『マングース』シリーズや『レトロ』シリーズ等、ハイエンド・ギターの名作を発表し、新たなファンを獲得し続けている。
現在では、ハイエンド・ギターを代表するトップ・ブランドの一つとなったJames Tylerだが、創業以来変わらないところもある。スムーズなネック・フィール、俊敏なレスポンス、広いレンジ感等のJames Tylerらしい特徴は、未だに新鮮な輝きを放っている。
【Kelly's Impression】
「これはメッチャかっこいいギターですね。このルックスで、安いはずがない(笑)。このギターはピッキングのゴースト・ノート(※空ピックした際のミュート音)がしっかり鳴るので、スティーヴィー・レイ・ヴォーン風の跳ねるグルーブも出しやすい。弾いていてとても楽なギターです。
サウンド的には見た目の印象からブルージィな音がするだろうと予想しましたが、思った以上にいろいろなサウンドが出せるギターだと感じました。ミッド・ブーストのプリアンプが効果的で、シングルコイルらしいジャリッとした音からレス・ポール並みの極太トーンまで、1本のギターとは思えないほど多彩な音が出せます。
グリップは、今日弾いた中では1番細くて薄いですね。手が小さい人にはこの方が弾きやすいでしょうし、いわゆるテクニカル系の人は“縦”にも“横”にも移動しやすいネックだと思います。ネックの太さは間違いなく音に影響する部分ですが、このギターの凄いところはこのネックで極太サウンドまで出せるところです。目が詰まった固いネックだからこそ、それが可能なのだと思います。非常に多彩なサウンドと貫禄のあるルックスが独特なギターですが、ベースとなるサウンドには“ストラト感”がしっかり感じられるのが嬉しいですね。
[ James Tyler/Studio Elite HDをデジマートで探す]
市場で常に争奪戦が繰り広げられるJames Tyler Studio Eliteのレア・スペック・モデルがこのStudio Elite HDだ。通常のStudio Eliteとは異なるトップ材、アッセンブリー、ピックアップが採用されている。
ボディは極上のスポルテッド・メイプルをトップに、粘りと腰のあるサウンドを生むアルダーをバックに用い、“リブド・ボディ加工”と呼ばれるチェンバード加工で仕上げている。厳選された木材とこの仕様が相まって、3.1kgというウエイトと豊かな鳴りを実現している。ピックアップはS-S-Hで、通常のStudio Eliteではスタック・タイプのハムバッカーが標準装備のフロント/センター位置にシングルコイルを搭載している。トップの杢目を活かすためにピックガードが省かれがちなハイエンド・ギターには珍しく、ピックアップをピックガードにマウント。このことが、ストラト・ライクなサウンドに一役買っている。ミッド・ブーストのオン/オフと合わせて、シングルらしい鈴鳴りトーンからハムをブーストした極太トーンまで、非常に幅広いサウンドを作ることが可能だ。
ネックには固いクォーターソーンのメイプルをセレクト、ネック・シェイプには細めのEXTRA THIN’59が採用され、コンパウンド・ラジアスの指板の効果もあり、プレイアビリティは抜群だ。
独特の杢目を持つスポルテッド・メイプルを、渋いタバコ・サンバーストで仕上げたセンスはさすがJames Tyler。コントロール・ノブやマルチレイヤー・バインディングが存在感を高め、風格あるルックスに仕上げられている。
[ James Tyler/Studio Elite HDをデジマートで探す]
[Specifications]
●ボディ材:トップ/スポルテッド・メイプル(ベント・トップ)、バック/アルダー ●ネック材:クォーターソーン・メイプル ●指板材:インディアン・ローズウッド ●ナット幅:41.3mm ●指板R:コンパウンド・ラジアス(9.5”-12”)●ネック・シェイプ:エクストラ・シン ●フレット数:22フレット ●ボディ構造:リブド・ボディ加工(チェンバード)●ピックアップ:S-S-H(フロント・センター/JTS5500、リア/SHARK)●コントロール:ボリューム、ミッド・ブースト、トーン、5Wayスイッチ、バイパス・ボタン(ミッド・ブースト・プリアンプのバイパス) ●チューナー:ヒップショット・ロッキング ●ブリッジ:G2RV ●フィニッシュ:タバコ・サンバースト ●重量:3.1kg
◎ギター提供:イケベ楽器店 ギターズステーション ※試奏で使用した個体はこちらから確認できます。
◎James Tylerへの問い合わせ:キタハラ楽器
今回試奏した3本、TOM ANDERSON、Suhr、James Tylerはどれも過去に弾いたことがあるブランドですが、以前に弾いた時の“現代的なギター”というイメージよりも、はるかに“ストラト感”を感じました。その“ストラト感”の中に、各ブランドのカラーがある感じですね。James Tylerのサウンドの幅広さ、Suhrの高域のキレの良さと良い音が簡単に作れるところ、最も意外だったTOM ANDERSON(モダン・ハイエンドから想像できない程の粘り)など、どれも印象的でした。
この中で、もし1本だけ持って帰っていいと言われたら、James Tylerを選びます。それは3本の中でJames Tylerが優れているという意味ではなく、自分が普段使っているストラトではカバーしきれない部分を補える音色の幅広さを持っているという意味です。
今回弾いた3本は、個体としては今日初めて触ったものばかりです。その状況であれだけ弾きまくると、普通のギターは必ず音が詰まるところや鳴らないところがあるのですが、今回弾いた3本はさすがですね。プレイアビリティに関しても全く問題がありません。この3つのブランドは、ハイエンドの中でもトラディショナルになり得る──そんな可能性を感じました。
■アンプ
ビンテージ・マーシャル(50Wの1987)を基に、ロー・ボリュームでも十分な張りと歪みが得られるように改造したアンプ。基本的にはこのアンプでクランチ程度のサウンドを作り、ピッキングのタッチによってクリーンから軽い歪みまでのサウンドを作る。さらにフリー演奏部分ではオーバードライブを踏んで、ケリー節を炸裂させていた。改造機なのであくまで参考程度となるが、当日のセッティングはプレゼンス7、ベース7、ミドル10、トレブル8、ボリュームⅠ 9、ボリュームⅡ 10。他に、リア・パネルにもコントロールが追加されていた。
■エフェクター
撮影当日に用意されたケリー・サイモン氏のペダル・ボード。フェイザーやディレイなども搭載されているが、実際に使用したのはケリー氏オリジナル・ブランド“KS Effector”の、下記3種のオーバードライブのみ。オーバードライブは同時にかけるのではなく、手にしたギターのインプレッションからチョイスし、踏み分けている。
KS−808(グリーン)/TOM ANDERSON Drop Top Quilt Maple Top Alder Backで使用
アンプの原音に忠実に、ミドルレンジを持ち上げ音にハリを出すタイプのオーバードライブ。ミッド・ローをさらにブーストしたモードを搭載し、クリアで伸びやかなサウンドだけでなく、太く甘いトーンも実現した。
KS−BLS(ブルー)/James Tyler Studio Elite HDで使用
3モード変換により積極的にハイとローを出し、ストラトでさえもレス・ポールのようなトーンが出せる、シリーズ屈指のパワフルなトーンが得られるブースター・タイプのオーバードライブ。
KS−250(イエロー)/Suhr Modernで使用
TS-808、OD-1などと並ぶ名器とされているDOD250をイメージしつつ、音抜けにさらに拘りながら低域のレンジをコントロール出来るように開発。チューブ・アンプとの相性は抜群で、シングルコイルからハムバッカーまでギターに合わせたモード選択により幅広く使用できる。
Kelly SIMONZ(ケリー・サイモン)
1970年7月1日大阪生まれ。14歳でギターを始めて、わずか3年でラウドネスのオープニング・アクトに抜擢される。高校卒業後にハリウッドの音楽学校MIに入学。在学中よりバンドやセッション・ワーク活動を積極的に展開。1998年には自主制作アルバム『Sign Of The Times』をリリース。翌年ソロ名義の『Silent Scream』でメジャー・デビューを果たす。2002年にはKelly SIMONZ's Blind Faith名義の2ndアルバム『The Rule Of Right」を発表すると同時に、フィンランドのLION MUSICとアルバム契約を交わして世界リリースが決定。その後、グレン・ヒューズとジョー・リン・ターナーによる“ヒューズ・ターナー・プロジェクト” のオープニング・アクトとしてヨーロッパ・ツアーを敢行した。2003年よりESP/MIジャパンの特別講師に就任。2009年にはリットーミュージックより『超絶ギタリスト養成ギプス』を刊行、テクニカル系ギタリストを目指すプレイヤーのバイブルとしてベスト・セラーになる。以降、最新刊『頭でイメージした音を泣きのギターで表現できる本』まで5冊の教則本を刊行している。2014年、キングレコードよりアルバム『BLIND FAITH』をリリース。同年、ギター・オリエンテッドなクリスマス・アルバム『Holy Winter』をキングレコードより発表。国内はもとより海外からも評価が高い、世界最高峰の超絶ギタリストが放つ“最もアツいクリスマス・アルバム”として注目を集めている。