AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
オクターバー&オクターブ・ファズ
歪み系のオーバードライブ、ディストーション、空間系のコーラス、フランジャー、ディレイ、リバーブ……そんなくくりに収まりきらないエフェクターがある。それが“オクターバー”、“オクターブ・ファズ”だ。原音に1オクターブ下、2オクターブ下の音を加えるオクターバー、オクターブ上の歪み音を加えるオクターブ・ファズ……そう聞けばくみしやすいデバイスと感じるかもしれないが、実際に使ってみると思った通りの音が出ない。言う事をきかない。何かを間違えるとすぐに破綻する……デリケートな、かつ暴れ馬のようなキャラクターで弾き手を威嚇してくる。にもかかわらず、気がつけば惹き付けられ、いつしか手放しがたい音になる。そんな魔力を持ったエフェクトをDr.Dは徹底リサーチ。厳選27機種の“音のエレベーター”の魅力に、ぜひ触れてみて欲しい。
エフェクターの哲学は、極々シンプルだ。
好きだから使う。好きじゃないから使わない。エレキ・ギターの世界において、ギター本体やアンプほど必須とされないものの気軽さと寛容がそこにはある。だからこそ、エフェクターは多彩で、自由で、わがままで、マニアックでいられる。それはいつでも脱ぎ捨てられ、気が向いたら着直せる服のような存在でなければならない。
だが、そんなエフェクターの世界にも、一切その法則に属さない存在が有ることを皆さんはご存知だろうか? それが、“使っているうちに好きになる”エフェクター、である。そのうちの一つが、『オクターバー』というエフェクトであることを、このデバイスに触れたことのある人ならばきっと否定しはしないであろう。
『オクターバー』がどういうエフェクターかという前に、いかんせん普通の人はそいつに出会わない。中には、そんなエフェクターがあるなんて聞いたことも無い、という人すらいることだろう。楽器店にも、そんなに大々的に売っていた記憶も無い。しかも、名前を聞いただけでは全くその音の想像がつかない。『オクターバー』というくらいだからオクターブ音に関連するエフェクターなのだろうが、それがギター・サウンドにとってどんな意味が有るというのだろうか? そもそも、誰がそれを欲しがっているというのか?
名前を聞いただけでは何もわからない……それこそが、ほとんどの人にとっての『オクターバー』の最初の感想に違いない。だが、エフェクターは好きじゃないと使わないはずだ、と最初に述べた。ということは『オクターバー』に触れる機会など永遠に無いのでは……と思われるかも知れないが、それは大きな誤解である。そこに生まれる抗えない力学について、もう皆さんは経験済みのはずである。わからないから“使わない”のではなく、わからないから“使ってみる”、それこそがエフェクターの、そして機材という存在の抗いがたいディープな重力なのである。そして、人はまんまと『オクターバー』を試してみることになるのである。
念願の試奏をしてみた『オクターバー』についての最初の感想は、ほぼ、「なんじゃこりゃ!?」で間違いない。思った通りの音が出ない。言う事をきかない。かと思えば、デリケート過ぎて、何かを間違えるとすぐに破綻する。その何かがそもそも不明。あらゆる音作りで培った知識や感性が全く役に立たない。しかも、想像以上に歪む……!
誰からもアドバイスを受けなければ、初日はそんなものだろう。音質を知識や経験でねじ伏せられないもどかしさ、そして、こんな意味不明なエフェクターを作った人間を呪いながら床につく。だが、数日もしないうちに、またあの理不尽な難題に取り組みたくなる。気がついたら再び試奏だ。まるで麻薬のように、その荒れ狂うロワー・サウンドと鳴動するダーティな歪みがいつの間にか心地よくなってきたらもう危ない。ピッチ・シフターやハーモナイザーとはまるで違うダイレクトなトラッキングとデチューンに似た効果の不確定な位相のズレ、その中でズブい歪みの中を縫うようにして現れる一瞬の光沢が己の中に眠るノスタルジックな琴線に触れる瞬間がもう目の前に迫っているのだ。オルガン・トーン? あの有名なオクターブ・ファズって、オクターバーと基本原理が近い? アッパー・サウンドを生む高調波発生回路の倍音って……?
そんな時である。若者はジミ・ヘンドリックスのトーンに触れてしまう。それがトドメだ。あれほど文句を言っていたのに、あれほど気に食わなかったのに、そして、今まで必要だと思ったことが一度も無かったのにもかかわらず……気がつけば、『オクターバー』はしっかりとペダル・ボードの一角を陣取ってしまう。こんなエフェクター、他には無い。あんなにわからなかったのに、気がつけば惹き付けられ、いつしかそれは手放しがたい音になる。
『オクターバー』。
理屈も哲学も通用しないこんな楽しいエフェクターと一緒なら、底なし沼の下までも降りて行ける。屋上の塔よりも高く昇れる。試していないなら、今こそ手に取るべきだ。それを手にした瞬間から、音のエレベーターが運ぶ爆走は、見たこともない甘美な雲海の向こうへとあなたのサウンドを連れ去ってしまうはずだから。
音像の厚みやニュアンスに機械的にバリエーションを持たせてくれるエフェクター『オクターバー』。広義でのオクターブ・エフェクト全般という意味も込めて、アッパー・オクターブ機構を持つ名機ファズ、さらにはデジタルによって幾重ものトラックをサポートするマルチなオクターバー単体機も含めたことで、リイシューや復刻ものを合わせるとそのリサーチ数は膨大な数に達してしまった。よって、今回は泣く泣く1メーカーにつき1機種のみの代表掲載とし、なるべく多くのブランドを網羅するように努めた次第だ。あとは、いつもの通り、リサーチした中からデジマートの在庫に準じた掲載となっている。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。気になる人はこまめにチェックしてみよう!
今や世界的エフェクター・ブランドとなったMXR。その「最初の4つ(legend 4)」として1973年に発売された初期ラインナップの一角を占める伝説のオクターバー“Blue Box”(M-103)。発売当時は目立たない存在ではあったものの、その沸き上がるような渋い重量感とザリザリしたエッジの立った歪みの中に、あのMXR特有の硬質な分離感がしっかりと成形されていることで玄人好みの人気を呼び、ジミー・ペイジをはじめとした多くのギタリストのリード・トーンを色付けした。性能としてはスタンダードなアナログ・オクターバーで、1/4サイクルによる2オクターブ下の音を出す。反応は良く、前段の歪みも潰れすぎないためきっちりと低音に毛羽立った質感がバランス良く残り、慣れてくればピッキングのみで歪みの角もコントロールできる。パワフルさよりも、歪みがもたらす純然たるギターらしい表現力を決して損なわないようにチューニングされた、インテリジェンスが持ち味のオクターバーと言える。同社にはカスタム・ショップ製のアッパー・スイッチ付き“la machine”ファズや、同じくアッパー系の“SF01 Slash Octave Fuzz”などもその高い完成度により人気だが、やはりMXRのオクターバーと言えば、世代が変わるたびに再販し続ける“Blue Box”のオルタナ・サウンドに勝るものは無い。ちなみに、有名な‘Bud’ケース、スプリクト・ロゴのMXR「最初の4つ」の残り三つは、“Phase 90”、“Dyna Comp”、“Distortion+”。いずれもエフェクター史に名を残す超名品ばかりだ。このラインナップにオクターバーを加えてくるあたり、当初からMXRというメーカーのセンスと視野の広さが抜きん出ていたことを物語る資料としてもこの“Blue Box”の存在が欠かせないことを、ここに記しておこう。
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国産BOSSの名物エフェクターの一つ“OC”シリーズ。初代オクターバー“OC-2”は黎明期の1982年から20年以上ものロングセラーを誇った人気機種。最大の特徴はそのアナログならではのレスポンスで、ナチュラルかつ滑らかな反応性と、しっかりとピッキングに追随する色彩の強いアタックが当時から他のメーカーの機種を圧倒していた。出音にも特徴があり、通常は強力なフィルターを通ることから原音が不細工に潰れてしまうイメージがあるオクターバーだが、BOSSの“OC”シリーズは分周器による波形削除をせず、本来切り捨てる波形を折り返して使用することによりニュアンスや倍音をフルに出力させるという独自の方式を採用したことで、ほとんど原音を損なわない効果を得ることに成功している。その結果、古いオクターブ・ファズなどでありがちな、ブツブツと音が途切れたりアタックの継ぎ目もわからないくらいに音が潰れたりすることも無く、非常に素直かつクリアな音を実現した。原音が損なわれないので結果的に後段のフィルターも少なくて済み、それが音質のみならず反応性の良さにも貢献したと言える。1オクターブ下、2オクターブ下、そして原音の三つの音を自在にミックスできる使い勝手も良く、オクターバーだけはBOSSのものでなければ我慢ができないと断言するプロも多い。マニアの間では最初機の“Octaver”表記のものが人気があるようだが、中身はその後の“Octave”記載の個体と全く同じ。2003年以降ラインナップを引き継いだ“OC-3”は、“OC-2”の能力にプラスして、それまでほとんど前例のなかった和音入力を可能にした「ポリフォニック・オクターブ機能」を持つ個体。デジタル基板になったことで音質はよりクリアになり、ポリフォニック・モード(1オクターブ下のみ)でも圧倒的にスマートな反応が人気で、すでに多くのモディファイもののベースに採用されるなど、業界のスタンダード機としての地位を確立し続けている。
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ビートルズ御用達の英国ファズ“TONE BENDER”の製造元の一つでもあるSOLA SOUND。そのブランドの一つであるCOLOR SOUNDが手がけたオクターブ・ファズの名機。トライアングル・ノブの“TONE BENDER”と同世代の1973年頃から市場に卸された個体で、かなり極端なフリップ・フロップ回路により野性味溢れる毛羽立った低音が魅力。レトロなオクターバーらしく、前段の歪み増幅も容赦がなく、ハムバッカーのリアだとむしろ持て余してしまうくらいのパワーがあるが、目の粗いタイプのシングルを積んだギターならば、ロー・フレットから溢れ出るジグジグした唸りが単音に強力な暴れっぷりを付加してくれるだろう。“SENSITIVITY”はトーンのような使い方のできるコントロールで、歪みのキャラクターを選別するのと同時に、フィルターがカットする帯域をシームレスに可変できるという、なかなか気の利いた機構だ。自分の指が決め音に持ってくる音域にベース音が底を打つようにセッティングしておくと、かなりセンセーショナルなソロが打てるはずだ。名手ジェフ・ベックが、入力段やフィルターに手を入れた初期の“OCTAVIDER”を使用していたことでも知られる。
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老舗ブランドが手がける、毛色の違う叙情サウンドを得意とするオクターバー群。なかでも“Black Rose”はかなり独特のコントロールを持っており、12段にも及ぶトラッキング制御ができる“THORNS”の特色を掴むことがそのサウンドの決め手となる。これにより、現代風に整った安定の音色だけでなく、ピックのスクラッチ・ノイズ等によりまるで誤作動を起こしたような奇抜な倍音を発生させたりする原始的でラウドな反応性をもつオクターバーの特徴を呼び起こしたりもできる。ライブでの意図しないサウンドの暴れっぷりを楽しむには最高の機種だ。逆に、“REACTION OCTAVER”の方は王道のオクターバーとしての使いやすさを追求した機種で、コントロールはハイ/ロー2種類のフィルターと原音ブレンドのみ。直感的なコントロールでエフェクトの効果をきっちり設定できる上、音質的な破綻も最小限に抑えられている。両機種共にオクターブ下の音のみを追加する昔ながらのスタイルで、トゥルー・バイパス仕様。オクターバーの目的と効果をはっきりと理解したユーザーが使うことで最大限の効果を発揮する機体だ。
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今は亡き東京サウンドのブランドGuyatone製、Mighty Microライン・シリーズのレトロ・オクターバー。ちゃんとアナログらしく、入力レベルが安定していないと音切れを起こすし、ロー・フレットではズブズブした形の無い低音のまどろみを響かせ、8フレ以上になってくると明確なアッパー系ほどではないにせよ破鐘のような金属音が混じる。しかし、実は音質的にはかなり繊細で、原音がクリーンだとかなり忠実なクリーンで応答してくるという特徴を持っている。貧弱な入力を補うために、思い切ってアクティブ・ピックアップを使ったりコンプを前段に置いたりすれば、非常に安定したオブリ・ソロも可能だ。弦のたわみにもうまく反応しており、ポリフォニック・タイプでないにも関わらずアルペジオでも余計な干渉から来る歪みを生まず、使いやすい。全体的にまとまっていて丸みのある単音の音粒が欲しいなら、今でも十分使いどころの多いアナログ・オクターバーだと言えよう。
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ダンエレと言えばスティーブ・リディンガーの息のかかったアッパー系“DJ-13”(French Toast Octave Distortion)が気になる人もいるはずだが、ここはあえて同社独特の音色を持つスタンダード・オクターバー“DJ-12”(Chilli Dog)および“DJ-22”(BLACK LICORICE)に注目したい。“DJ-12”は軽量コンパクトな強化プラスティック筐体を持つミニ・シリーズの一機種で、その名の通り舌がビリビリ痺れるようなスパイシーな低音の唸りを追加できる。発声は2オクターブ下、1オクターブ下、原音と三つだが、ギター側のボリュームをマックスにしても不規則な周波で乱れ飛ぶ悪魔じみた音色は容易に整理されない。現代的なキレイな音のオクターバーになれてしまった人には使いにくいかもしれないが、元来オクターバーとはこうしたものだということを改めて認識させてくれる。上級者はその不規則さを逆手に取り、固有のざっくりとした歪みを活かし、隠し味程度に薄くオクターブ効果を加えてリードに独特の緊迫感を得るのがセオリーのようだ。“DJ-22”は1オクターブ下にしか対応していないものの、整ったプッシュ感のあるきめ細かい歪みをメインにしたモダンなオクターブ・ドライブを構築できる。こちらは一見お行儀良く見えるが、入力の増減にビビッドに追随してくるので、帯域を限定したブースターなどで味付けてやると予想もしないカオスな音色を吐き出したりもする。どちらも、単体としてはチープな音色の中に、もう一工夫することで圧倒的な個性を追加できる余地を残しているあたりがいかにもダンエレらしいエフェクターである。
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常に新感覚な視点で、エフェクターにおける矛盾点を正面から打ち破る優れた製品を作り続ける米国はオレゴン州に拠点を置くブランドCatalinbread。“Perseus”は、アッパー系オクターバー“Ottava Magus II”や、“Octapussy”“Heliotrope”といった数々の難解なオクタ・シンセ的複合モジュレーション・ペダルにも定評のある同社の中においても、最もスタンダードにして、最高レベルにまで洗練された究極のオクターバーと言っても過言でない素晴らしい完成度を誇るペダルだ。とにかく、使いやすいの一言。音色制御の難しいレトロ・スタイルのシンプルなオクターバーにおいて、音切れや定位の乱れにこれほど無縁な機種はほぼ見た事がない。あらゆるポジションで音の出方が思うままに素直に出ることの喜びを、この機種をして初めて思い知らされた観がある。糸を引くように流れるロング・トーン、フレットを渡る高速なパッセージにも淀みなく追従する正確な発声、ジャストなレスポンス……それらが全て徹底した工夫とチューニングの産物であることに同社のビルダーによる真摯な気概を感じることができる。加えて“CUT”ノブで低音の歪み量のみを自在にコントロールできるなど、音質的に完成されているだけでなく、実践的な使用にも十分に耐えうるコントロールも持つ。追加する音程は、1オクターブもしくは2オクターブ下を選べるスタイルで、歪みはファズ寄りなディストーションと言った感じの輪郭を残しつつもシャギーなトーン。今後のアナログ・オクターバーの指針となるべき名機だ。
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安価ながら、基本を押さえた造りで定評のあるARION製オクターバー。樹脂ボディの貧弱さは昔から変わらないが、実売価格でBOSSの1/3ということを考えればこの音色は驚異。1、2オクターブ下のサウンドと原音を混ぜた3オクターブ・ユニゾンは単音で弾いても生々しい音圧を響かせるが、あえて対応していない和音を入力することで崩壊するグリッヂ・トーンを使うのもかなり楽しそうだ。歪みは全体的に丸く、分厚いゴムのボールの中で鈴が鳴るようなもどかしい低音の咆哮が独特の存在感を生んでいる。12フレット以下ならば安定的とまでは言えないまでもきちんとローが鳴るし、入力段の歪みが強ければタイトなプレイでもそれほど反応は鈍く感じないことだろう。ただし、バイパス時にもややオクターブ音が漏れてしまう仕様については、今回数台試した個体も全てそうだったので、バッファを含めたスルー回路の改良を今後のメーカー努力に期待したい。オクターバーとしての音色は歪みの音質も含めて使いどころがある製品なので、拘って使うならばループに入れて楽しむことをお勧めしたい。
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伝説の名機「ゼロワン」シリーズの中でもレアな逸品として有名な個体。アナログ・シンセのような独特の野太く乾いた能面サウンドに、当時にしては珍しい自動追従型のコンパレーターを利用した鋭い反応性を持ち合わせ、往年のファンから熱い支持を受けた。さらに、通常の倍のトレモロ周波から下の音を取り出す独特のエフェクト音は、さほど強力なハイカットを搭載していないにもかかわらず音粒が鮮明で、本体の歪みよりもむしろアンプでのニュアンスに左右される特異な発声を持ち合わせていた。このデリケートな音の出方を考えれば、奇抜にも見える位相反転(ポラリティ)スイッチの搭載も頷ける仕様と言える。ファズよりも、オーバードライブ系のふくよかで光沢のある歪みを引き立たせるオクターバーとして、現代でも他に並ぶものの無い固有の音色を持つとされる歴史的名機だ。ちなみに、同時期のKORGには、YAMAHA“OC-01”のOEMとされる“OCT-1”が存在していたことは良く知られており、当時の国内において、オクターバーの一大ブームがあったことが忍ばれ、微笑ましい。その二台には、バッテリー・ボックスの違い(ネジ止めか否か)以外にはほとんど差はない。
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まさにアッパー・オクターブ・ファズの原点とも言うべき“Octavia/Octavio”。その生みの親であるロジャー・メイヤー本人製造による直系のサウンドを引き継ぐのがこれらのモデルだ。その後、数々のオマージュの中で謳われてきた『ジミ・ヘッドリックスの“Purple Haze”のような……』とされるサウンドのほとんどを、ロジャー本人が、「今、そのように市場で言われているものの大部分は、自分が“Purple Haze”のレコーディングでジミに提供したものとは全く別物の、後発の個体のコピー」と言及したように、実際の1967年のレコーディングの際にジミのサウンドを形作ったOctaviaプロト1号機について、やはり彼以上にその“本物”のトーンを知る人物は存在し得ない。しかし、本人も認めているように、現行のロケット・モデルや、Voodooケースのモデルにはそのオリジナルと全く同じ仕様は採用されていない。単なる追憶の中にとどまらない職人ロジャーが、現代に則した最も正しい形に進化させたという現行の“Octavia”について「ジミが生きていれば間違いなく気に入ると確信している」と述べたことで、正しく追憶の中のジミの音に今も彼の精神が寄り添っていることがうかがえる。あの研ぎすまされた破裂のトーンを生んだのは、薄命の天才ギタリストと、老いてなおそのトーンを進化させることのできる“資格”を持った純粋なる創造者の合作であったと知るべきであろう。現行のモデルは、オリジナルのようなフェライト・トランスのジリジリする高域特性がなくとも実に伸びやかなアッパー・サウンドを放ち、12フレットあたりでは最高に安定したピークを備えている。よくアッパー・サウンドの定番とされるささくれた音質とはほど遠く、大地が盛り上がるようなダイナミックな隆起と天空からぶっ飛んでくる稲妻のような極太の歪みが印象的だ。やはり、ストラトなどのフロントでトーンを絞り目にした方が本来の音色は扱いやすいが、ハムバッカー個体でもアタックを削られた不思議な錯綜のサウンドを奏でてくれるので、アンプや空間系の組み合わせも考慮しながら新しい効果を探すのにむしろ積極的に使っていきたい個体だ。
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ロジャー・メイヤーのウェッジ・シェイプ“Octavia”……NPN、PNPシリコン+アイアン・オーディオ・トランスの1969年版モデルの中で、キース・レルフに提供された24V個体を基にしたと言われる伝説の名機。SRVも愛用したそのサウンドを、CHICAGO IRONが完全復刻。木製箱と、限定版にはTycobraheの刻印が入ったことで、完全復活をより印象づけた。まさに、現代的アッパー・サウンドの象徴的な音色で、入力が足りないとぶつぶつ途切れるし、ロー・ポジションでは下の音を、ハイ・フレットで弾くとぎゅんぎゅんと突き上げるようなアッパー音を放出する。ゲルマ・ドライブ+フェライトというRoger Mayer製初期“Octavia”の音とは特に高域特性について明確に異なるものの、より低い駆動電源でも効率よく安定的にぎらついたトーンを放出するこのサウンドが、世間的にオリジナルと誤解を受けたことも頷ける素晴らしく味わい深いトーンである。ドライブは鋭角過ぎず芯があり、光沢のあるアッパー・サウンドを放出する寸前の独特の緊迫感は同世代の他の製品からも抜きん出ている。その暴れる感じと頭打ちになるタイミングが絶妙に現代風にバランスされているのが最大の特徴で、セオリーさえ頭に入っていれば、ただ気持ちよくこの剛胆なサウンドを楽しむことができるだろう。ちなみに“Machine Gun”などでジミが使用したトーンは、このサウンドの後にロジャーがニューヨークで改良した数世代後発のモデルになる。よって、ジャストとはいかないが、やはりファンならばマーシャルのクランチと合わせてあの甘いトーンの片鱗を味わって欲しい。
また、オリジナルの70年代Tycobrahe社製の”Octavia”は、生産個体も極めて少なく現在では手に入れるのが非常に難しいマニア垂涎のレア・アイテムの一つとなっているが、デジマートには過去に何度か状態の良いものも出品されている。気になる人は、思いついた時に下記をチェックしてみると良いだろう。※オリジナル Tycobrahe [Octavia]
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後のダンエレ社長スティーブ・リディンガーが19歳の時に作ったブランド。その中でも、時代を先取りしすぎたエフェクターと言われた“Tone Machine”は、ブランドが存続した70年代前半にわずかな個体しか作られなかったにもかかわらず、起毛素材の外観と、ギンギンに突き上げるアッパー・トーンでユーザーのハートをがっちりと掴み、21世紀になった今でも多くのプロをはじめとした愛好者を獲得し続けている。そして、そのサウンドは、ディスコンとなってから30年を経て、マーク・シモンセン(CEO)、ブライアン・バック(営業)、ケン・アイル(技術者)という三人のファンによってオリジナルのままに完全復刻された。“Tone Machine”は元々同社の“FUZZ & WA & VOLUME”という複合ペダルからファズ・パートだけを抜き取ったもので、ミドルが凹んだノーマルのファズもスイッチで選択できる機構を備えていた。アッパー・トーンは「強烈」という表現以外が当てはまらないくらい割り切ったサウンドで、ゲルマ・トランジスタ特有の脳に突き刺さるようなささくれたピークと熱を帯びた硬質なミドルが相まって、極太の刃物をのど元に突きつけるような異様に切迫した音質が得られる。更に、歌うようなハーモニクスが音質全体の奥行きを創出し、実に背徳的な色彩が余韻となって広がるのがこの個体の最大の特徴だ。再生産品はオリジナルのような瀑走する音質を保ちながら、レンジも広く、音量も控えめで、使いやすさに着目した仕上がりになっている。オリジナル当時にはIbanezを初め多くのOEM機を生んだことでも知られ、それら拡散した回路情報が、現代のサウンド・オマージュ界に独立したアッパー・ファズ・ムーブメントを巻き起こすに至ったことは言うまでもない。
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オリジナルFender“Blender”は1968年〜1977年まで生産されていたが、近年トゥルー・バイパス化され復刻された伝統的アッパー・オクターブ・ファズの名機でもある。発売当初はただのピーキーなファズという認識であったが、それは、基本的に原音をクリーンで使用しないと本領を発揮しづらいこの個体特有のクセによるものだ。ブーミー過ぎない低音にざらついた乾いた音質が乗っかるタイプで、かなりミドルから高域にかけて伸び上がってくる。そこにあまり激しくドライブしたアンプを噛ませると歪みが相殺したように引っ込んでしまうことから、せっかくの美味しいアッパー・トーンが封殺されてしまうことがあった。アッパー・ファズとして認知されにくかったのはそういった特徴のせいでもあろう。やがて80年代に入り、アンプをクリーンにしてエフェクターで歪みを作ることが多くなって、そのアッパー・サウンドに改めて注目が集まったというわけだ。理屈さえわかっていれば、“Tone Boost”スイッチを入れなくとも充分に目の粗いファズを伴ったビリビリするアッパー・トーンが満喫できるが、特に旧世代のHiwattなど、高出力なクリーンが得意なチューブ・アンプとは倍音の出方において抜群の相性をみせるので、機会があれば試してみて欲しい。
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数々の都市伝説を生んだウェッジ・ボックス・タイプ“Octavia”の復刻機。シアトルのEMPミュージアム展示のものは、実際にジミが“Purple Haze”や“Fire”などで使用したものとは違うことはすでにロジャー・メイヤーにより証言されており(展示物はレコーディングよりも20ヶ月以上後のもの)、オリジナル“Evo 1”とは回路もトランスも全く異なるモデルということだ。また、1967年末に作られたウェッジ・ケース初期型ともノブが違うため、Jim Dunlopのこのモデルは1969年版“Octavia”……つまりTycobraheに近い世代のモデルのサウンドを元に復刻したモデルと言うべきだろう。オリジナルは24Vオペレーションだが、これは現代的に9V駆動が可能。特徴的なのはやはりこの独特のチーズ・シルエットを持ついわゆるウェッジ・ボックスで、回路はTycobraheに近いと知りつつもそのサウンドはやはりロック黎明期の沸き立つような熱を感じさせて止まない。ドスの利いた低音のうねり、そしてハイポジのアタックに気怠く追いついてくる太い歪みと、ピンと張りつめたテグスのように原音に絡む高域の響き。そして、弾き終わりに少しノイジーな感じを残すのも実に良い。これだけ完成度の高い60年代のトーンがかくも簡単に手に入る時代……まさに至福だ。
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現ROLANDの前身エース電子工業が展開していたブランド、ACE TONE製の純国産ファズの名機。3部作である“FUZZ MASTER”シリーズの次男で、最も独特な野太くざらざらした音質で人気を博した。特徴的な”TONE SELECTOR”フット・スイッチにより、
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ニューヨークのMMP(後のUni-cord)社の委託で日本の新映電気が作っていた古典ファズ。UnivoxとはShin-eiが海外向け製品に付けたブランド名の一つ。“SUPER FUZZ”は、内部のオクターブ・バランス・トリマ(ゲイン)によりアッパー音を創出できるペダルで、とにかく底力のあるバリバリとした轟音が魅力の個体。軽くリフを弾いただけで胃の底がくすぐったくなるくらい空気が振動する。そして、あらゆる帯域が絶妙に乾いている。また、ロー・フレットで弾いてもはっきりとわかるくらいアッパー・サウンドがせり出しているのがわかる。それにも関わらず、ピックを寝かせば簡単に輪郭が潰れてくれ、その一連の音がそのワイルドな発声のまま何の加工もされず放置される印象だ。こんなパワフルなファズは他には無い。古くさいと言えば古くさい、しかし、現代的な使いどころは無限に感じられ、ファズ本来のサイケデリックな心地よさも忘れない、素晴らしい性能のジャパニーズ・ファズだ。オマージュとして、Prescription Electronicsの“OUTBOX”やWattson Electronicsの“FUZZ”など、グランジ系御用達の超実力派モデルが今もその系譜を受け継いでいる。
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1990年代に高級ブティック・エフェクターの真価を世に知らしめたマイク・フラーとFulltoneの功績は、現代ギタリストにはもはや言わずもがなであろう。“Ultimate Octave”は、分離感のある歪みの中でより多彩なコントロール域を確保した“Tone Machine”系アッパー・サウンドを持つ逸品。“BC108”シリコン・トランジスタの採用により本家よりも低音がタイトになり、その分きらびやかな倍音と音の立ち上がりの色気のようなものを備えるようになったが、やはりあの毛羽立った音質はしっかりと残されている。ドライブの輪郭と音粒の質量を成形し直すFat/Brightスイッチは、さすがにビンテージ・ファズを知り尽くすマイクの“Tone Machine”に足りない立体的なニュアンスを加えて更に1歩先に行くための実に的を射たコントロールと言える。さらに、Octave-Upフット・スイッチを別にしたことにより、より局地的な使い勝手も向上させた隙のない仕様となっている。一方、“OF-2”はTycobrahe“Octavia”の回路をコピーしたモデル。“Octavia”サウンドの探究者として知られるマイクのこだわりが詰まったモデルで、彼の製品化第一号モデルのマイナー・チェンジ・バージョン(通常ファズとオクターブ・サウンドを分けるミニ・スイッチを新たに装備)としてもその存在は意義深い。本家Tycobraheに合わせたレンジ感にも関わらず、アッパー・サウンドの出せる帯域は確実に広がっており、音切れもほとんど無く実に使いやすい。ぐっと噛み締めるような軋みと、その上に折り重なる粘りのあるアッパー・トーンはまさに本家を彷彿とさせる。両機種とも、当然のようにFulltoneの代名詞でもあるLEDとトゥルー・バイパスを装備する。
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米国の実力派ハンドメイド・エフェクター・ブランドとして知られるTORTUGAによる、Tycobrahe系アッパー・モジュール。反応性に優れ、音質は本家よりもややハイ寄りでブライトな印象。入力に左右されない追従性能は素晴らしく、あまりポジションを意識しなくても簡単にアッパー・サウンドを呼び出せるのはとても楽しい。常に高域全体に甲高い倍音が回っている印象で、リング・モジュレーターのような金属質なサウンドを簡単に呼び出すことができるだけでなく、ピックアップの特性次第では分厚い金切りサウンドも思いのままだ。ほんのわずかではあるが、大音量にすると特有の心地よいコンプ感のようなものが出力に応じて見え隠れするあたり、このブランドならではの何とも言えないハイセンスな完成度を感じさせる。オクターブ機能をフット・スイッチでON/OFFできたりとツボを押さえた造りなので、このアイテムを使うことで、よほど実直なビンテージ信奉家でない限り、すぐに思った通りのアッパー・サウンドに辿り着くことができるだろう。
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EFFECTOR13の創始者であり、数々のユーモアと挑戦をその製品に注ぎ込んできた天才ビルダー、デビ・エヴァ女史。近年、同社のOEM生産元であり友人でもあったDwarfcraft Devicesにブランドの所有権、経営権を譲り、一線から退くことを決めた彼女が、まだ現役時代に手がけていた得意なアッパー・ファズがこれらだ。旧“GODZILLA”はブースト可能な二種類の強力な歪みを内蔵したエクストリーム・アッパー・ファズとして名を知られたが、リニューアルされ、より立体的なコントローラーを搭載した新世代ファズに生まれ変わっている。全帯域が一斉に天に向かってひしり上げる狂気のようなその咆哮は、一定のポイントまで来ると一気に雪崩をうって倒壊し、ただのノイズに変わる。それは例の国産怪獣の鳴き声以上の凶悪さだ。しかも、周期の長い波形が予期せぬタイミングで翻ったりするので、実に生物ライクな喘ぎにも似たうねりだけでなく、音楽的に非常にメロウな脈動すら創出するから驚きだ。しかも低音域でのプレイは、これまたダーク・ファズの定番と言っても良いほど、匂い立つほどに下品な音を放出する。あらゆる意味で女史の豪腕が光る逸品と言える。“GZ”はその簡易版。
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“Octave Multiplexer”などスタンダードなタイプのアナログ・オクターバーもラインナップするエレハモだが、やはり、紹介すべきはこの圧倒的に独自の世界を行く異端の音色を装備した“POG”シリーズしかないであろう。“POG”とは「Polyphonic Octave Generator」の略。つまり、和音に対応したオクターバーという意味だ。確かに、コードで入力してもしっかりと分離した和音がオクターブ単位で生成されて行くのがわかる。反応はアナログライクな機械的ジャストさではなく、遅れて鳴った音が加速して追いついてくるバネ系の感じに近いが、実際に歪みを合わせたプレイの中で使ってみると全く気にならないレベルだった。感覚的にはシンセ・ペダルや、ピッチ・シフター/ハーモナイザーに近い駆動にも感じる。音質はやはりエレハモ製、原音やフィルターのことを論じる前に、すでに繋いだ段階で出音が“エレハモ・サウンド”にちゃんと変換されている。じんわりとダークな錦糸に絡めとられるような深淵のまどろみと、いぶした金属のような剛胆な芯が同居する……そんな音とでも言おうか。“Micro POG”が呼び出す1オクターブ上と1オクターブ下の音を合わせれば、その静謐な音質と相まって、ほとんど歪みを生まないまま、まるでギターの弦がそのまま増えたかのように正確な分音を可能にする。“POG2”に至っては、独立した三つのフィルターとさらに2オクターブ上下を追加したハーモニーを組み合わせて、その音を本物のオルガンのようにもアッパー・ファズのようにも、または未知の破滅的ノイズ・エフェクトにすら自在に加工可能で、それをプリセットできたりもするのだ。それはもはや単なるオクターバーというよりは、実に直感的な機構を備えたハーモニック・エンジン……否、単体で完全に成立するマルチ・オシレーターのような意味合いさえ帯びていると言えよう。ここに装備されているもの以外にギターの実践上で必要な機能と言えば、もはやエクスプレッション・コントロールくらいのものだ。万能オクターバーとしては、圧倒的に規格外。まさに怪物の貫禄だ。
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“Disnortion”は、アナログながら、一つのアッパー・オクターブ・サウンドから「歪み」と「オクターバー」を完全な独立機能として認識し、分離またはミックスできるという画期的なエフェクターだ。ピッチ系ベースのデジタル制御でもない限り、歪み要素とオクターブ機能は切っても切れない関係に有ることは誰もが承知する所で、古くはオクターバーと言えば前段の入力段でフリップ・フロップ回路の損失分を補填するためにどうしても歪みを発生させてしまう機構が必須であった。そうでなければ、前段歪みを独立させてそれを単体のファズなどとしてベース・ゲインとした上で、オクターバーをかぶせる程度にしか各機能の色分けはできていなかったに違いない。それを機能というカテゴリーで単体のエフェクトにおいてアナログのまま独立させることができたのは画期的という他は無い。問題のオクターバーは、基本的に“Octavia”風の往年サウンドで、弾く場所によってビット・クラッシャーからリング・モジュレーターにも変化するタイプ。しかし、完全にファズを切った状態でも独立動作し、その音はクリア且つ静謐。全く歪まないわけではないが、それはハーモニックな干渉と言った感じのナチュラルなゲイン・アップでしかない。滑らかで途切れなくサスティンを生み、しかも、特にミドルを強調することがなくとも音の芯が潰れたりすることはない。そこに、6つのキャラクターを持つファズと、ファットで押し出しの強い上質マッチョ系なディストーションを組み合わせながら、オクターブに加える歪みを自在に足し算でイメージできるのは、実に新鮮だ。まさに、今まで有りそうでなかった発想から生まれた逆説的統合型歪みモジュールと言えよう。フル・アナログな歪みに拘るオクターバー使いに一度は試して欲しい個体だ。
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京都発の優等生な純国産ファズ。この“Fuzz Breaker”シリーズは、Univox系の天を引き裂かんばかりの暴れっぷりこそ皆無だが、そういった使い方さえしなければこんなに扱いやすいファズは無い。モコモコとしたダーティな歪みから、美味しい倍音が溢れるトレブリーなドライブまで、初心者でも悩むこと無くどこかで聞いたような‘あの音’を即座に見つけることができるだろう。おまけに、どんな設定でも低音たっぷり。“FB-3”“FB-4”に追加されたオクターブ・ファズ・モードでは1オクターブ上を追加でき、アッパー・トーンになっても元のファズのイメージを潰してしまうことが無い上に、アッパー音に同調するボリューム・ブーストも手に余るほどパワフルに飽和してくれる。あまりに優等生過ぎて、“Octavia”などで全く思った音が出せなかった経験のある人からすれば、拍子抜けしてしまうほど至れり尽くせりの利便性能と言えよう。滑らかなモダン・トーンのコントロールにその優位点が加わったことで、この機材は、今後、ファズを単なる単色の音調というイメージから、機材全ての高音質のバランス上に成立する「システムの音色」へとレベル・アップさせる橋渡しの役割を果たしていくのかもしれない。
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ハイ・クオリティ・スタジオ・デバイスの世界的拠点の一つであるのデンマークに本部を置き、国内外共にその徹底した高音質で高い評価を受けるエフェクター・ブランドT-rex。「tri-tone GENERATOR」と銘打たれた“OVTAVIUS”は、プロ御用達の高速反応性を有する、ブースト付きピュア・オクターバーだ。原音、1オクターブ上、1オクターブ下の三つの音を創出し、それを好きな頻度でブレンドできる。ものすごく原音に忠実で、余計な歪みを生まないことからも、ボードのトップにおいてクリーンで使用するのに最適だ。ブースターは単体でも使用できるワイド・レンジなタイプなので、オクターバーと合わせてワウをプッシュしたり、アルペジオに抑揚を付けたりするのにも使える。“QUINT”は、“OVTAVIUS”のオクターバー機能にさらに5度上の音を追加できる異次元のサウンドを持つ全く新しいエフェクト。まるでクリーンなシンセを聴くように揺らぎの無いハーモニーを放出する中で、オクターバー特有の鈍くこそばゆい周波の歪みが低音を中心に舐めるように這い回る感じが聴く人の聴覚を総毛立たせる。使用環境を選ばないクリアなアッパー系はあまり無いので、この存在は貴重。
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“Venomous Snake”=「毒蛇」と呼ばれるこの個体は、Tycobraheの“Octavia”のサウンドをベースに、それをより過激に仕上げたサウンドを持つ。サウンドの胆は本家には無い“混合”(MIX)ノブで、イメージ的には歪みを伴わないオクターブ域のブレンド比率をコントロールするものと考えて良い。“音量”はVolume、“逆毛”はBoostとなり、三つのノブはファズの割合を軸に密接に連携しながら音作りをすることになる。本家よりもノブが増えた分複雑だが、それだけにアッパー出力のポジションを変化させたり、低域を増強したりというイコライジングの効果も得られ、自由度は高い。あと一歩、“Octavia ”のトーンを自分流に近づけたいなら、これは素晴らしい選択肢になる。もう一つの“Volcanic Eruption”=「噴火」は、これも有名なアッパー・オクターバーであるShin-ei(Univox)の“SUPER-FUZZ”のオマージュ。“均衡”(音量)がValance、“膨張”(ゲイン)はExpander、真ん中の“音色”スイッチはそのままToneという、こちらはオリジナルと同等のコントロール。バリバリと耳をつんざくその轟音は、突き抜けていながらも、確かに、崩壊寸前でバランスされた人為的なチューニングの中で上手くその特色を引き出すことに成功している。オマージュと言いつつ、独自のクオリティによってそれに確実に上乗せする音質に仕上げられたこの二機種のファズは、「本質」を進化させることで生まれた、本当の意味での新世代のファズに違いない。
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VOODOO LAB謹製のTycobrahe“Octavia”レプリカ。ゲルマ駆動且つトランス使用のモデルを原型としているだけあって、ワイルドでブーミーなローとジリジリとしたアッパー・サウンドが堪能できる。しかも実にロー・ノイズでまとまりのあるサウンドに仕上がっている。コントロールこそ旧世代のままだが、Boostで引き上げられるファズの量に自然にミドルが乗っかって行く感じは、数々のTycobraheコピーの中でもかなり絶妙なチューニングの部類に入るだろう。アッパー系で取り上げてみたものの、この機種では特に歪みを強めにしてロー・ポジションを利用した時のぐしゃっと潰れたビロードの滑らかさを是非味わって欲しいものだ。特に大音量のアッパー・ファズには、切り裂くようなその象徴とされるトーン以外にも、雲海のように広がるまどろみの鉛色サウンドが素晴らしい副産物として有るからこそ、多くの使い手たちが探究し、苦悩し、そこから多くの新しいリフ・テクニックを生み出すに至ったという歴史が有る。ノスタルジーを豪放な低音で感じてみたいという少し斜め上なアッパー使いに特にお勧めしたい逸品だ。
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すでに製造は終了したが、あらゆるカテゴリーから外れた暴風サウンドを放つ国産アッパー・ファズの名機として、一部に熱狂的な信者を抱えるクルーズの“TACO”。暴虐なイメージの噂しか聞かないものの、触ってみると意外にもコントローラーは的確に効き、サステインも太く長い。しかし、実際にギターで弾いてみると単音以外の音はかなりスエージに手間取る印象だ。結論として、これは、ピックアップのパワーと折り合いを付けながら、破綻しない寸前のピークに現れる最もオイシイ音域をピッキングのみでバランスするタイプのドライブ・ユニットようだ。ファズと言いつつ、かなり飼いならすには手間がかかりそうなのはもちろん、いちいち音質の境目に独特のフェイジングもあり、うっかりすると低音を揃えている最中に高域がペラペラになって消えそうになってしまう。だが、基本に戻って、シングルのフロントでトーンを絞った状態から立ち上げてみると、わずかに“Octavia”っぽい色彩を放つトラッキングから音色の変わり目が見えてきて、一気に使いやすくなった。綱渡りのように波の頂点をずっと維持しながらピッキングするのには神経を使うが、常にローエンドはどっしりと安定していて存在感が有り、コシのあるアタックから紡ぎ出される歪み初めの音色は掛け値無しにカッコいい。もちろん、何も考えずぶっ飛びサウンドを楽しむのも良いが、個人的なオススメは近代的なハイ上がりなワウと組み合わせること。ワウのフィルターが展開するタイミングとファズがアッパーに変化していくタイミングを合わせるだけで、脳髄を痺れさす甘い歪みを伴ったピーキーなカーブが描き出される。慣れてくれば手放さなくなる人が続出するのも頷ける、かなり奥の深いサウンドを持つ“TACO”……一刻も早い再販が待たれる逸品だ。
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ビンテージ・ドライブの復刻に定評のあるカリフォルニアの新鋭ブランド“Wren and Cuff”による、60年代国産アッパー・ファズの名機ACE TONE“FM-2”の復刻機。上品なファズしか知らない現代っ子は泣いて逃げ出すであろう、壊れたブザーのごときあの60年代「ジャパニーズ・バッシャー・トーン」はここでも健在。オリジナルと同じく5つものトランジスタを通過して生み出される複雑な歪みは、原音が相当にクリーンでないとその実態を見せない。ビンテージのジャパニーズ・ファズと付き合うには、まずアンプでも何でも自分の歪みを一旦保留しておいて、目的のファズのみのシンプルな音質に浸ってみることが重要となる。“FM-2”系の場合にはトーンを絞り目に、そしてギター側のボリュームも7以下で良い。6フレット前後でサブ・オクターブが減衰してフェイズが入れ替わるタイミングで、少しずつボリュームを上げていき、ピークが割れてしまわないうちにミッド・レンジのニュアンスを操る内部のオクターブ(Tone)・トリムも定位置からずらしながら一番美味しいアッパー・サウンドが出るフレット位置を探す作業をこなして行こう。そういった地道な作業の果てに、やがてこの“ACE OCTAVE FUZZ”にもその本領ともいうべき音質が顔を出すはずだ。金属的な光沢は皆無で、滑らかな布張りの向こうからびっしりと剣山のように敷き詰められた木製の針で皮膜を突き破ってくるようなそのざんばらな音色……これがまさに“FM-2”の音だ。これには、確かにその響きが有る。
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今回は久々の歪みもの、しかも好物のアッパー・ファズも含んでいたので、楽しむあまり、リサーチを張り切りすぎた。全部で60機種近くは試したか。しかし、そのうちの1/3近くを自前の機材で補えたことがもはや驚異という他は無い。所有の“FM-2”などはほぼ20年ぶりに火を入れたことになる。もっぱら最近は悪食がたたって、ベース系のオクターブ・ファズで遊ぶことが多く、KATANASOUNDの“重低音”やBlack Catの“Bass Octave Fuzz”(旧モデル)、珍しい所ではD*A*Mの“Ezekiel 25:17”なんかも引っ張り出している有様で、全くとどまる所を知らない道楽っぷりだ。元々エフェクターが好きなこともあり、今回試した中にも、自分が持ってない機材でもModtone“MT-DD”のアナログ・シンセのような響きとか、Behringerの“SO-400”や“UO-300”といった安価でも独自のグリッヂ感を持った機種や、オクターブ系では筐体の小さくなったMI AUDIO“Pollyanna Octave”、アルゼンチンのSabbadius“Oct-Up Fuzz Tone”、MOOLONの“Lotus Octah”なんかもとても好感が持てた。スペースの都合や在庫の関係で掲載は見送ったが、いつか何かの形でそういったややマイナーな機種のレポートも発表したいものである。
そうそう、話は変わるが、この『Dr.Dの機材ラビリンス』もデジマート・マガジンに移ってから今回で丁度10回目の節目を数えることとなった。メルマガの連載から数えると、何ともう51回目に突入した計算になる。よくもまあテーマがかぶらずにこんな趣味のような連載を2年以上も休み無く続けていけているものである。自分でも感心するやらあきれるやら……。それでも、こうした場所を提供してくださっているデジマートさんやリットーミュージックさん、そして長く応援してくださる皆さんの声があってこういった企画は成り立っていると感慨もひとしおである。そういった全ての方々に感謝しつつ、まだまだネタが尽きる気配もないこの連載を、力の続く限り書かせていただければ幸いに思う。機材の迷宮は奥深く、果てしない。その先に何が待っているかわからないが、もっと多くの人に機材と関わっていく楽しさを伝えていけたら、と思う次第である。
それでは、次回(12月3日/水曜日)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。