AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
秋も深まってきたこの時期にぜひ行っておきたいのが、愛器のメンテナンス。しかし、自己流メンテナンスではかえって状態を悪くしてしまうことも。そこで今回、ギブソン・ジャパンの福嶋優太氏を講師に招き、ギブソン・ギターの正しいメンテナンス術をレクチャーいただきました。これぞ、自宅でできるレス・ポール調整の決定版です!
メンテナンスが不十分なギターでは、ピッチが合わない、サステインが短い、弾き難い等の弊害が起きてしまいます。せっかくギブソンを手に入れても、メンテナンスが悪ければそのポテンシャルを発揮できないばかりか、練習が上達に結びつかないかもしれません。以下の手順に沿って正しいメンテナンスを施し、ギター本来の魅力を楽しんでください。
Step1 弦をはずす
◎ギターを安定した場所に置く(ヘッドに負担がかからないよう注意)。
◎音を出して確認しながら、チューニングを緩めていく(間違えて逆方向にペグを回すことを避けるため)。
◎ワイヤー・カッター等の工具で弦をカット。
◎テイルピースが落ちないよう、早めに押さえておく。
◎ヘッドの表面は傷つきやすいので、ペグから弦をはずす際には慎重に。
◎切った弦で怪我をしないよう、丸めておく。
Step2 指板クリーニング
◎ネックやピックアップをマスキングして保護する。
◎フレットと指板を極細のスティールウールで軽く擦る。
◎クロスに指板用のレモン・オイル等を塗布。塗り過ぎに注意。
◎乾いたクロスで空拭きして、終了 。
※普段は拭きづらい部分(ヘッドのペグ周り、ボディのピックアップの間やブリッジ周り等)も乾いたクロスで拭いておく。
Step3 弦を張る
◎弦を袋から出し、伸ばして捻じれ等がないか確認する。
◎弦を通す際に、弦がきちんとブリッジの駒溝を通っているかを確認。
◎弦を巻くポイントを決める。例えば6弦の場合、5弦のポストの手前あたりを一度折り曲げ、6弦のペグに通す。その後、曲げた部分が6弦のポストに当たるように設定。弦の先端部分を時計回りに戻し、手前の弦の“下”を通してから引き上げる(弦を巻きつけて、ロックするイメージ)。
◎折り曲げる目安となるペグがない3&4弦の場合は、ヘッドのトップ位置を目安とする。
◎ペグを回して弦を張る。
◎弦を張る際にはテンションをかけながら張っていく。
◎余った弦は、怪我のないように早めにカット(できるだけ短く)。
Step4 チューニング
◎チューナーを使って、チューニング。
◎弦がたわんでいる部分はないか確認。
◎新しい弦は伸ばしながら張ることで、チューニングが安定する。
Step5 ネック調整
◎この段階で、ネックの状態をチェックする。
◎6弦1フレット(左手)と、同16フレット(右手小指)を押さえて、7フレットを右手人差指でタッピング(奏法のタッピングと異なり、押さえたままの状態を保つ)。そのまま、6弦5フレット部分を目視。
◎5フレット部分の弦(下部)とフレット(上部)の間がわずかに空いていれば、ネックの状態は良い(隙間の基準は0.17mm〜0.2mm、名刺1枚分程度)。
◎この隙間が大きい(0.2mm以上)場合は“順反り”、隙間が全くなく、弦がフレットに接地している場合は“逆反り”の状態となる。どちらもトラスロッドの調整が必要。
◎順反りの場合、トラスロッドを時計回りに回す(逆反りの場合は、反時計回り)。トラスロッドは、約1/8回転ずつ回す。
◎ネックの状態を見る&トラスロッドを約1/8回転させる──これを繰り返す。必ずネックの状態を確認しながら作業を進めること。
◎6弦だけでなく、1弦も同様に1フレット(左手)と16フレット(右手小指)を押さえて、7フレットをタッピングし(右手人差指)、5フレット部分の隙間を見て状態を確認する。
◎ロッドが固く回しにくい場合は、トラスロッド・ナットを取りはずし、トラスロッドの溝をグリスアップ(少量で効くので、直接スプレーはしないこと)。ロッド・ナットを取り付け、ロッドを締め込み、目視、及びタッピングした状態の目視で状態を再確認。状態に応じてロッドを調整する。
Step6 ナットの調整
◎ネックの調整を終えてトラスロッド・カバーを付け、チューニングをした状態でナットを確認する。
◎3フレットを押さえて1フレット部分を目視(各弦で行う)。弦の下部とフレットとの間にまったく隙間がなければ、リペア・ショップに相談されたい。
◎この隙間が大きければ、ナットが高過ぎるので、溝を慎重に少しずつ削っていく。※これはネックの状態が適切であることが前提。
Step7 弦高調整
◎弦高を調整する前に、状態をチェック。12フレット上の、弦とフレットの間隔を測定する(目安は、6弦=2mm〜2.3㎜、1弦=1.2mm〜1.5㎜)。
◎弦高が適正でない場合、ブリッジを調整して、再び状態をチェック。
◎上記の目安の範囲になれば、チューニングをして、もう一度状態をチェック。これで問題がなければOK(あとは好みやプレイ・スタイルによって、適正範囲内で微調整する)。
Step8 オクターブ調整
◎まず、各弦の開放の音でチューニングを確認した後、同じ弦の12フレットを押さえた実音と12フレットに軽く触れて弾くハーモニックス音を比べる。
◎実音が高い場合(ハーモニックス音が低い場合)は、ブリッジ・サドルをテイルピース側に移動させ、低い場合(ハーモニックス音が高い場合)はネック側に移動させる。
Step9 ピックアップの高さ調整
◎ヒストリック・コレクション、トゥルー・ヒストリックなどのエクストラ・ハイ・エスカッションが付いているものはエスカッションとピックアップ・カバーが面一になるように調整し、リア・エスカッションが低いモデルは最終フレットの1弦側、6弦側を押えて、ポールピースと弦の隙間が1.6㎜になるように調整するのが基本(ピックアップが弦に近過ぎる場合は弦がピックアップのマグネットにより引き寄せられ、トーンやイントネーション、サステインに悪影響を及ぼす。単純にピックアップを高く設定するとパワーが増したように感じるため、初心者や深い歪みを好むプレイヤーはピックアップを高くしてしまいがち。好みにもよるが、上記のようなデメリットもあるので注意が必要だ)。
◎ヒストリック・シリーズのレス・ポールの場合、適正に調整されたピックアップの高さはエスカッションの高さと面一(段差がなくフラットな状態)になる。
◎音を出して、最終チェック。リアの音量とフロントの音量がほぼ同じになることが望ましい(ミックス時のバランスもチェック)。
Step10 最終チェック
◎最後にネジの緩みなどをチェック、緩いところは増し締めをする。その他、全体を目視し、サウンドをチェックして、問題がなければメンテナンス終了。
以上、正しいメンテナンス法でした。チューニングやオクターブ調整等、個々の作業内容は知っていても、正しい手順は知らなかったという人が少なくないのではないでしょうか? チューニングをしてからネックの調整をする、ネックの調整をしてからナットの調整をする、それらが終わってからオクターブ調整をするという一連の手順に意味がありますので、これを機に正しいメンテナンス法をマスターしてください。正しいメンテナンスを実行したのに弾き難い、チューニングがおかしい等の問題が生じた場合、重大なトラブルの可能性も考えられます。ここで紹介したのは、あくまでも基本的なメンテナンスですから、“おかしい”と感じたら、専門のリペア・ショップに相談することをオススメします。
ギターは完成後も、状態が変化していきます。例えばネックは時間経過とともに硬化していく傾向にあり、それはトーンにも影響します(完成後間もない製品と、完成から時間が経過したギターのサウンドの違いの要因の一つになっています)。状態が安定するまでの間は、弦のテンション、温度、湿度等の環境変化でネックが動くため、まめなネックの状態のチェックと調整が必要となります。ギターの状態を把握し、異変が起きた場合には素早く察知するためにも、日々ギターに触れ、日常的なメンテナンスを施すことが非常に重要です。弾き終わった後に、乾いたクロスで弦やネックの裏、ボディ等を空拭きするだけでも違います。汗や汚れをふき取りながら演奏中とは違う視点でギターを眺めることで、状態の変化に気づくことがあります。何より、きれいなギターを演奏するのは気持ちがいいですし、磨くことで愛着も出ますから、日々の簡単なメンテナンスはお勧めです。
※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは10月17日(金)を予定。