AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
国土の多くを緑に囲まれた島国=日本には、古来より木を生業とする民が多く存在していました。今回はその中でもこよなく木を愛する我が同胞、木フェチ業者についてレポートしましょう。海の向こうでは、あのパンダ級素材をも発掘、度肝を抜かれた小さな旅でした。
すっかり、熱帯地方と化してしまったこの国の夏もリーダーの完走とともに終焉を迎え、珍樹ハンティングに最適な季節となりました。そんな折、いつもお世話になっている大阪の取引先より、「四国におもろいとこあるねんけど行かへんか?」とのお誘いあり、二つ返事で行きまひょ!ということで今回の冒険は始まりました。
9月某日、新宿からの夜行高速バスに乗るべく、乗り場についたのが22時過ぎ、発車までは少し時間があります。待合室はあいにく満員、しかたなく外で待つこと20分、蚊に何カ所も刺されてしまいました。今や渋谷、新宿の蚊は物騒なので避けたいところだったのですが、しょうがなくそのまま西に移動することに……。
今回の旅に誘ってくれたのは大阪は江坂の「工房みたに」三谷四郎社長。先代は数寄屋造りの棟梁さん、ご自身も長年、棟梁として多くの建築、施工に携わってこられました。そんな木のプロが営む銘木ショップを紹介します。場所は、地下鉄御堂筋線江坂駅から徒歩10分、交通至便な一等地に大きな工房を構えておられます。1F工房はパワーツールから細かい作業に対応した道具まで、ありとあらゆるものが揃っていました。
純然たる銘木屋さんというよりは、加工もできるまさに“工房”です。お得意材はケヤキ、トチ、カエデなどの国産材から、ウォルナット、カリン、メイプルなど輸入材だそうです。ギター向けとしてはホンジュラス・マホガニー材を扱っておられます。ネックやボディ用の小分けサイズからフリッチ状態での販売も可能だそうです。他にもジリコテ、グラナディーロ、マカッサル・エボニー、ブビンガ等々、以前取り上げたポスト・ブラジリアンくん達が所狭しと並んでいます。販売している材はそのまま希望のサイズへの加工もOKだそうです(料金別途)。サンデービルダーさんだけでなく、プロの方の要望にも対応できるストック、加工精度がご自慢だけあって顧客には様々なその道のプロが集われています。
三谷さんの新着材を見るのは戻ってからということで、早速四国を目指しカラ荷台の2トン車は飛び跳ねるように名神高速に乗ります。大阪から四国というと昔ならフェリーだったのでしょうが、今や立派な橋のおかげで神戸市内を経て、淡路島を縦断し目的地徳島を目指します。海を2回渡ることになるのですが、まるで陸続きのような感覚です。
徳島は唐木、南洋材など外材の一大集積地であったことはよく知られたところですが、近年その様相が大きく変わってきました。つまり、それらの材を輸入する本来の需要目的、数量が大幅に減ってきたのです。従来の用途とは建築、家具、床柱、内装、仏壇などでした。他産地の安価な素材が増えたり、和室が減るなど住宅環境の変化が大きな原因だといわれます。木材ビジネスは丸太から製品としての板材を売るまで大変長いスパンを要する商材です。よって、過去大量に輸入された良材がまだまだ残されているのが実情のようです。
デッドストックをドカンと買い叩いて市場で転売する方もいるのでしょうが、私の場合は持主の記憶から忘れ去られ埃にまみれた珍樹を発掘し、再び世に出したい、ただそれだけです(それで潤えば言うことありませんが……)。
まずは突き板屋さん。“突き板”というのはいわゆる化粧板、あまりポジティブな呼び方ではありませんが、いわゆる張りぼての表面です。どうして“突き”板と呼ぶのかというと、木を伐るのではなく字通りと“突く”のであります。突き板製造には、ロータリー・カットと呼ぶ、桂剥きのように木を回転しながら突いて(剥いて)行く方法と、長板を大きなカンナでスライスするように突く方法の2種類があります。突き板の場合、ノコギリで製材する時のような切り粉でロスが出ません。加えて紙のような厚みなので1本の木から多くの表面積を得ることができます。極限まで薄い“薄突き”は0.25mm前後、“厚突き”と呼ばれる分厚いもので0.6mm前後です。ただし、薄ければ表面積は多くとれるかわりに、製作時に少しサンディングをミスるだけでも地板が出てきたりします。取引は平米単位ですので薄く突ければ枚数(=表面積)が稼げますが、木によっては杢の奥行や色合いが落ちたり、加工にスキルが必要となってくるわけです。
突き板の最大のメリットは、優れた杢の雰囲気が比較的安価で味わえるのと、無垢材と違って地板にMDFや積層合板を使用するので狂いが少ないというところです。また、木製品でなくてもその表面に突き板を貼れば、即木工品(なんちゃって)に早変わりもできます。突き板には総じて杢の良い材が選択されます。杢の良い木を“突き板グレード”なんて呼ぶこともあるくらいです。今や、この天然木突き板を使用した合板でさえ高級品であり、見かけることは少なくなりました。その変わり、木目を印刷したプリント合板は街中、家中に溢れています。最近ではワームホールやノコ刃痕まで再現した精巧な“木”があるので驚きます。
前置きが長くなりましたが、今回突き板屋さんを訪れたのは“突き尻”と呼ばれる突き板をスライスした後に出る残り板を探すためでした。ところが、その突き尻の山の手前で足がとまり手だけ動きました。合板に挟まれた何か突き板のサンプルの様なものを開けてみたのです。なんとそれは……。
ご覧の通り、ブラジリアン・ローズウッドの突き板でした。社長さんと職人さんに確認すると、「昔、コレ1回貼ったことがあったなぁ」と感慨深くポツリ。としたら現物は残っていませんか? 「20年前、この場所に引越した時に持ってきたのは覚えているので、この中のどこかにあるよ、今度時間のある時に探しておくね」とのこと。今回はこのサンプルのみで一旦撤収しましたが、職人さんが指で示した残りの枚数厚はおおよそ15cm、平均的な厚みならば350枚はありそう。1枚はおおよそ3mありますので相当な表面積が得られます。ただし値段が恐いですが……。あいにく突き尻自体は、私の第一希望メイプル系はありませんでしたが、グラナディーロ、パオロッサ、ジリコテなどお持ち帰り。
この後、エボニー屋さんに突入。角材、板材など産地(インドネシア他)ですでに製材されたものが多くあります。無造作に積み上げられた中にお宝がありそうですが、いかんせん保管状態がジャンキーです。どうにも見る気がしないので、ここはスルー。そしてその後、現在休業中の業者さんとコンタクトするも都合が合わず次回に持ち越し。今回は時間の関係もあり、これだけしか見れませんでしたが、継続的に訪れたい木フェチのパワースポットであることは間違いなさそうです。
前回、廃業エレキ材を見に行った際に訪れた名古屋のショップもご紹介しましょう。北洋木材工業さん、その名のとおり北海道に本社がある会社なのですが、その名古屋営業所です。ここからは写真で振り返っていきましょう。
珍樹を巡る冒険、少しはお楽しみいただけたでしょうか? こうして色々な場所をめぐり、色々な方とお会いすると、いかに木を愛している人が多いかがよくわかります。二泊一日(夜行バス泊⇒仕事⇒夜行バス泊)の弾丸工程でしたが、大変☆5つな旅でした。ブラジリアンの突き板が早く見つかることを願って、ごきげんよう、さようなら。
追記
新宿で蚊に刺されたあと、大阪でも、徳島でも蚊に刺されてしまいました。大丈夫だと思いますが、もし何かありましたら私が媒介?した恐れがあります(こうやってブレイクしていくんでしょうね)。皆さん、くれぐれもお気をつけください。
次回は10月20日(月)を予定。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。