AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Astell&Kern / SONY / iBasso Audio / Fiio
ハイレゾ音源を聴く為の“PCオーディオ”は、なんだか難しくて面倒くさそう。もっと手軽にハイレゾ音源にチャレンジしてみたい! そんな声に(どこから聞こえたかは不明なのですが……)お応えして、今回は手軽にハイレゾ音源を楽しめる話題のハイレゾ対応ポータブル・プレーヤーをご紹介します。
iPhone 6の発売時期が話題となっていますが、ついに“ハイレゾ音源の再生”に対応する、という噂も出ていますね。これまでは、様々な工夫をすることでハイレゾ音源を聴くことができましたが、正式にiPhoneがハイレゾに対応したわけではありませんでした。また現在は、iTunes Storeでハイレゾ音源を販売していません。さらにハイレゾで主流となりつつあるファイル形式であるFLACは、標準のアプリで再生できないという壁もありました。しかし、iPhoneがハイレゾ音源に対応すると、iTunes Storeでもハイレゾ音源の配信が始まるかもしれないと言われています。もしアップル社がハイレゾ音源の配信を本格的に始めると、一気にその認知度が高まり、音楽販売のスタンダードになっていきそうですね。
そんな噂もあるiPhone 6発売前に、今回はすでにハイレゾ再生可能なポータブル・プレーヤーを紹介したいと思います。PCを使ってのハイレゾ音源再生には、USB DACを用意したり、PC側の設定が必要であったりと、少しだけ手間がかかりますが、ハイレゾ対応のポータブル・プレーヤーは、ハイレゾ音源を本体に移すだけで、手軽にハイレゾ再生を楽しむことができます。また持ち運びも簡単で場所を選ばずに高音質な音楽を聴ける点も、携帯プレーヤーの大きな魅力ですね。さらに前回のコラムでご紹介したこだわりのヘッドフォンを繋げば、より好みの音質で音楽を楽しむことができるはずです。
今回は、7月に発売になったばかりのハイレゾ対応ポータブル・プレーヤー、Astell&KernのAK100IIの実機をお借りすることができましたので、その使用レポートと話題のハイレゾ対応ポータブル・プレーヤー3機種をご紹介したいと思います。
※参考までに各機種写真下に重量を記載してあります(比較参考:Apple iPhone 5sの重量=約112g)。
その音質の高さから、ヘッドフォン/イヤフォン・マニアからも高い評価を受けているハイレゾ対応のポータブル・プレーヤーが、Astell&Kernの製品です。実売価格20万円以上もするフラッグシップ・モデルのAK240をはじめ数機種ラインナップしている中から、今回は同社のエントリー・モデルとなる、AK100IIをお借りして使用してみました。
まず始めにその仕様ですが、AK240で培ったノウハウが投入され、シーラス・ロジック社製のハイエンドDAC、“CS4398”が搭載されています。幅広いフォーマットに対応したPCM音源の再生は、最大32ビット/384kHz(ネイティブ出力は24ビット/192kHz)まで対応します。さらにDSD128(1ビット/5.6MHz)の再生(再生時は24ビット/176.4kHz変換)も可能で、現在配信されているほとんどの音源フォーマットに対応しています。また本体には、64GBのメモリが内蔵され、exFAT対応のmicroSDXCカード・スロット(最大128GBまで対応)も付いているため、合計で192GBまでの音源を持ち運ぶことができます。容量の大きなDSDファイルも、これだけの容量があれば安心ですね。
画面には高精細で見やすい3.31型のアクティブ・マトリクス式の有機ELディスプレイが使われ、暗い場所でも視認性が高いと感じました。ユーザー・インターフェースも分かりやすく、初めて起動しても使い方に迷うことはないでしょう。また、スモーキーブルーと名付けられたカラーに仕上げられた筐体は、とてもスリムで、バックに入れて持ち運んでもかさばることや重く感じることはないと思います。堅牢性も高く、イタリア製の革カバーも付属しています。
ヘッドフォン端子は、通常の3.5mmジャックのほかに、バランス出力ができるジャックが設けられています。バランス出力で接続できるヘッドフォン/イヤフォンは限られていますが、より良い音質を求める姿勢が、こういった所にも表れていると言えます。
これだけ様々な機能が付き音質にもこだわっていると、価格も税込みで10万円を超えてきますが、これ1台で様々なハイレゾ音源から、DSDまで楽しめるとなれば、お買い得と言えるかもしれません。個人的には、実際に使ってみて欲しいと感じた製品でした。
まず音質のレビューといきたいところですが、そのデザイン性の高さ、手に持った時の適度な重量感は、高級感を感じさせてくれて、所有する満足感が高いと感じました。もちろん音質や機能面も重要なのですが、ギターなどの楽器も同じで、デザインや色などが好みでないと、いくら音質が良くてもすぐに飽きてしまう事も多いですね。AK100IIは、長く飽きのこないシンプルなデザインに好感が持てます。
本体右上のボタンで電源を入れると、画面が立ち上がるのですが、すぐに起動とはいかず数秒時間がかかります。この点は、いつもSSDのPCを使っていたりすると、少し長く感じるかもしれません。私の場合は早く使ってみたい衝動もあり、そう感じたのかもしれません。画面が立ち上がると、日本語のメニューが表れるので操作に迷う心配はないと思います。タッチ・パネルを使って、好みの音源を選択するだけです。曲もアルバム単位、楽曲単位、アーティストなどから選べ、アルバムのアート・ワークも表示(もちろんジャケットのデータを入れる必要はあります)してくれます。再生する楽曲が決まったら、あとは右上のダイヤルを使って、好みの音量に調整すれば、高音質な音楽再生が手軽に楽しめます。
試聴には、数種類のイヤフォン/ヘッドフォンを使いましたが、内部のアンプも優秀で、高インピーダンスのモデルでも直挿しで、それなりに鳴らしてくれる印象を受けました。肝心の音質ですが、やや高域に特徴を感じましたが、刺さる程ではなく、アコースティック・ギターの弦の響きなどを美しく描き出してくれます。ハイレゾ音源はもちろんですが、CDからリッピングした音源でも、クリアな再生音が得られました。普段、スマートフォンで音楽を聴いている方が使えば、その音質の良さがすぐにわかるレベルだと思います。実際、ハイレゾを知らない編集者の友人に聴かせたところ、その音質の良さに衝撃を受けていました。音源は、ロックからアコースティック・ミュージック、打ち込み系の音まで一通り聴いてみましたが、どれが得意ということもなく、卒なく鳴らしてくれる印象です。個人的には、アコースティック楽器の表情を良く再生してくれると思いました。
音源データを本体に収録するには、写真のように付属のmicro USBケーブルを使ってPCと繋ぐことで、外付けのストレージと同じ要領で使うことができます。ただし、サポートされているのはWindowsが7以上、Macが10.7以上となっています。Windowsでは、自分でドライバを入れなくても認識してくれますが、Macを使っている場合は、ファイル転送のソフトをダウンロードして入れる必要があります。今回、自宅にあるサポート外のMac OS X 10.6.8で試してみましたが、ソフトのインストールができ、機器を認識しましたが、ファイルのコピーをする段階でエラーがでました。力技で何とかなりそうな気配もありましたが、基本的にはサポートされているOSを使うことをお薦めします。
お借りしてから1週間以上使っていますが、これを持っていると約1時間もかかる都内への通勤も楽しくなりました。また私の車のオーディオには、外部機器を繋げられるミニ・ジャックが付いているのですが、これをヘッドフォン端子に入れて車内で聴いたところ、スピーカーを純正品から社外品に変えた時ほどのインパクトがありました。安いカーオーディオを使っているため、より一層その差が感じられたのかもしれません。
高音質なハイレゾ対応ポータブル・プレーヤーを持っていると、毎日の生活が楽しくなりますね。中でもAK100IIは、その満足度が高い製品だと感じました。なかなか簡単には買えませんが、価格以上の充実感が得られる製品だと思いました。正直このまま返したくない……というのが本音です(笑)。
ハイレゾ対応ポータブル・プレーヤーを広く一般に普及させたのは、ソニーのウォークマンと言えるでしょう。中でもNW-ZX1は同社のフラッグシップ・モデルで、音質はもちろん、アンプ部やデザイン、操作性や連続再生時間など、細部にまで同社のこだわりが詰まったモデルです。このモデルのディスク容量は128GBと、ハイレゾ音源であってもかなりの曲数を持ち運べることも魅力と言えます。またファームウェアのアップデートで、2.8MHzのDSF/DSDIFFファイルの再生にも対応しています。DSDファイルに関しては、内部で24bit/176.4KHzのPCMデータに変換しての再生となりますが、再生できるようになったことは、既存ユーザーにとっても嬉しい事ですね。ソニーからは、このNW-ZX1よりも求めやすい、F880(16GB/32GB/64GB)シリーズも販売されています。こちらはハイレゾ対応携帯プレーヤー入門にお薦めしたい製品と言えます。
iBasso Audioは、プロ用音響機器を幅広く取り扱う、ヒビノインターサウンド(株)が輸入代理店を務める、中国の音響機器メーカーです。同社は、ハイレゾ対応ポータブル・プレーヤーだけではなく、高音質な小型のポータブル・ヘッドフォンアンプなども販売しています。このDX90jは、7月に発売されたばかりの携帯プレーヤーで、24ビット/192kHzまでのハイレゾ音源だけではなく、DSD(DSF2.8Mのみ。24bit/88.2kHzにリアルタイム変換)にも対応しています。また本体に3段階のゲイン切り替えを装備しているため、インピーダンスの高いヘッドフォン/イヤフォンの使用を考慮されている点も特徴のひとつです。本体に入れられるデータは、8GBとやや少ない容量ですが、microSDHC/microSDXC(exFAT対応)カードを使うことができます。さらに最大24ビット/192kHzのデジタル・コアキシャル出力を備えているので、外部スピーカーでハイレゾを楽しむこともできる拡張性の高さも魅力と言えるでしょう。
高音質なケーブルほか、電源など、様々な電気部品を販売するのが、秋葉原に店舗を構える小柳出電気商会(オヤイデ電気)です。ベルデンやモガミなどのケーブルも計り売りをしてくれるので、ギター・シールド等を自作する方は、よく知っているかもしれません。同社は、コストパフォーマンスに優れたポータブル・オーディオ製品を開発するFiio製品の輸入代理店も手掛けています。X5は、昨年9月に発売され話題となったFiio初となる、ハイレゾ対応ポータブル・プレーヤー X3の上位機種として今年発売されたモデルです。大きな特徴は、楽曲を本体内蔵のメモリから再生するのではなく、microSDカード(SDHC/SDXC対応/最大128GB×2)を使う点。本体底面には、カードを差し込むスロットが2つ設けられています。また本体中央に設けられたホイール部で、ほとんどの操作ができる点も、他モデルにはない機能と言えるかもしれません。対応ビットレートは、24ビット/192kHzまでで、PCMに変化されますが、DSD(2.8M)の再生にも対応しています。さらに付属のUSBケーブルでPCと接続することでUSB DACとしても機能するため、自宅でのスピーカーを使ったリスニングなどにも活かす事ができる点も魅力です。
ハイレゾ対応の携帯プレーヤーは、まだまだ発売されている機種は少なく、価格もやや高めですが、各社それぞれ細部に渡るこだわりを持って製作されています。どれも手軽に高音質な音楽を聴けるので、1台持っていると通勤や通学が楽しくなりますよ。今後iPhone 6がハイレゾ対応となれば、また新たなメーカーの参入もあると思います。そうなれば、ハイレゾ音源の魅力も一気に広まりますね。
次回は、今回紹介した携帯プレーヤーでも再生が可能な製品も多く、改めて注目が集まっているDSD音原について取り上げたいと思います。PCM音源とはまた違った魅力の感じられるDSDは、ミュージシャンの意志が生々しく伝わってくるようなサウンドが聴ける音源もあります。このサウンドを初めて体験すると、きっと驚かれると思います。それでは、また次回。
※次回「ハイレゾ入門・第7回」は9/24(水)更新予定です。
菊池真平(きくち・しんぺい)
音楽雑誌「Player」、オーディオ誌を発行するステレオサウンド社で「Beat Sound」、「Digi Fi」の編集に携わった後に独立。現在はフリーランスで、ヴィンテージ・ギター関連書籍/ギターに関する雑誌等に、編集/ライターとして携わる。国内外のミュージシャンへのインタビュー等も多数行っている。