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- 2024/11/16
ルーパー/ペダルサンプラー
「デジタル・サンプリング」という技術が我々ギタリストにとって身近な存在になったのは、デジタル・ディレイからであろう。その後サンプラーが生まれ、ギター専用ルーパー(フレーズ・サンプラー)へと進化していくことになる。それは、原音に忠実なエコー音を再生するだけの“エフェクター”から、今までのギター・プレイには無かった新しいプレイ・スタイル、音楽を生み出せる強力なツールへの進化・変化でもあった。そんな未知の可能性を持ったルーパーの中から、ギター用としての使用が推奨される専用機、もしくはルーパー機能をメイン機能として公言している製品を中心に16モデルを厳選し、徹底レポートしてみたい。
薄々、気がついていた。自分の弾いていない音がライブで流れるという、その現実。プレイしていないのに、音が出る。手を止めているのにフレーズが生まれる。リズムが跳ねる。
かつて多くのギタリストがそうであったように、久しくその衝撃の事実に目を向ける事ができず、今も心を千々に乱したまま時代の狭間に取り残される人がいる。それがアナログ楽器としての最後の砦とでもいわんばかりに、真面目な彼らにとって、それはあまりにも受け入れがたい現象なのである。
『サンプリング』。
音を録音し、再生する技術、または、それに伴う加工や変化の効果そのものの事を言う。だが、その技術の応用は、エレキ・ギターの世界では長らく表に出る事が無かった。理由は簡単である。「音は消えゆき、また生まれる」……刹那のトーンこそ至高であり、あの時、あの場所のステージの儚きサウンドが伝説となるギターの世界。次のピッキングが弦に触れた瞬間に、その前の音は確実に失われる。次の日にも、決して同じ音は出ない。アンプも、ギターも、マイクの位置も、PAも、そしてプレイヤーのテンションも全く同じ事など有り得ないからだ。だからこそ素晴らしい…そう教えられ、そう信じてきた。「一瞬の出音」にかける。積み重ねてきた練習とステージの空気が化学反応を起こし、刹那に、プレイヤーとして持てる限りの感性を爆発させテクニックを見せつける……それが一番カッコいい事なのだ、と。
だが、デジタル・サンプリングの音にはその過程が無い。感情も無い。音質をただ平坦に数値化した無機質なただの「音」。例えそれが何度繰り返しても劣化しないクリアなトーンだとしても、それはただのデータ。だから、そんなものに頼る輩は、ライブで大量の汗をかき、腕の筋肉をパンパンにしながら同じリフやフレーズを繰り返し弾くプレイヤーからしてみれば、ただの「手抜き」、「ずる」、「なまけもの」、「うそつき」、苦労を知らないゆとり世代の産物のようなものでしかない。ライブで、目の前で『その音』を出してこそ本物。録った音を再生するだけなら、ライブなどやらなくても良い。カラオケや、テレビのアイドルの口パクと同じじゃないか? と、彼らは声を大にして言う。
だが、本当にそうなのだろうか? 確かに、サンプリングされたデータに、ライブによる刹那の力は無い。だが、それだけだろうか? それが新しく生み出したもの……ギターのプレイに呼び起こした新しい観念やテクニックは、本当に何も無かっただろうか?
いや、ある。確実にそれはある。強力なデジタル・エンジンが生み出す『減衰しないトーン』と、正確なループにより発生する『リズム』。一人で無数のプレイを同時に操る事ができる『オーバーダブ』。ループ・フレーズを加工する事で作る『持続エフェクト』。確かに、それらをステージで効果的に運用するテクニックは、今までのギター・プレイには無かったものかもしれない。しかし、それはすでにエレクトロ・ミュージックやクラブ・シーンではいくらでもありふれた行為であり、それを即「反則」と拒絶するのは、いかにも狭い世界に閉じこもった者のエゴイズムと言わねばなるまい。アナログ・エフェクターのツマミが1mm動いただけでも元のサウンドがわからなくなるギタリスト。今まで、彼らは“正確でないもの”に関してあまりにも虚構を積み上げすぎてはいなかっただろうか? “正確でないこと”を言い訳にしすぎてきてはいないだろうか? アルバムでは整合されたアンサンブルを聴かせるのに、ライブではリズムもへったくれも無いドタバタ劇をみせる事を、ただの“ライブ感”で済ませてしまって良いわけはない。そのナアナアな精神こそ、本当の意味での「なまけもの」ではないのか? 実際には、一切の狂いの無いループ・ワークに合わせる人力のテクニックの方が難しい事だってあるんじゃないのか?
本当の意味でのギター専用ルーパー(フレーズ・サンプラー)が生まれてから、十余年の歳月が経った今、その認識を今一度整理する必要があるだろう。それは、新しい世代だからデジタルに抵抗が無い、古い世代だからアナログが好き、などという次元の低い問題とは完全に切り離して考えなければならない。
ギター用ルーパーは存在する。そして、それはすでにエフェクトとして、それを使用された音楽の一ジャンルとして認識され、浸透し、使われ、人気を博している。それは、決してギターというアナログのアイデンティティを破壊するものではなかったことの証明でもある。音を生み出すマン・パワー、未だ駆動する真空管機器、極端な歪みやモジュレーションを駆使する不規則なアナログ・エフェクト、そして、コンシュマー用に行き渡った正確なデジタル・アンビエントや記憶媒体……。
“丁度良い時代”が来たんじゃないか? アナログも、デジタルも、ライブも、サンプリングも活かしながら、全く新しいサウンドを作る、そういう時代が。今ならば、長くギターの世界の進化を阻んでいた偏った慣習を超えて、相反する正確さと曖昧さ、デジタルとライブが、お互いを高め合う夢を見ることができる。
新しい効果の中に顧みる音を忘れないループ・サウンド。繰り返されるそのサウンドを、自分の「腕」でさらに美味しく唄わせることのできる能力……そういうものがギタリストにとって必須となる未来も、そう遠くないのかもしれない。
音を半永久的に繰り返し重ねて行くことのできる『ルーパー・ペダル』。選抜にあたっては、ギター用としての使用が推奨される専用機、もしくはルーパー機能をメイン機能として公言している製品を中心に取り上げてある。よって、最近の高機能ディレイのように、搭載されている一機能としてルーパー性能を持つもの、例えばEventide“Time Factor”やLine 6“DL-4”の様な個体については、今回は紹介していない。ギター用マルチのようなものも同義である。あくまでルーパー(的効果)機能を主力とした製品の弾き比べとして見ていただきたい。見るべきポイントは、ルーパー機能そのものの性能よりも、自分のテクニックや使用エフェクターと合わせた時に起こせる効果の幅、そして、フット・コントロールとの相性だ。コントローラーを自分好みにアサインできたりするペダルはまだ少ないので、EXペダル等の組み合わせによるデフォルトの使い勝手がかなり個体の価値を左右すると見た。実際に試走する際には、同時に使いたいエフェクターを全て持参することはもちろん、録音/再生/オーバーダブ/イレース/ストップ等の踏み替え動作を入念にチェックすると良いだろう。
※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。気になる人はこまめにチェックしてみよう!
マルチ・エフェクター並みのロング筐体を備えた、RCシリーズのフラッグシップ・モデル。ライブ中の直感的操作性が何より重要なルーパー・ペダルに置いて、スペースを犠牲にしてでも各スイッチの機能をシンプルにする事はもはや必須である。特に、脚でのRec/Stop操作を余儀なくされるギター・プレイヤーにとって、暗いステージの上で、素早い二度踏みや長押しなどの操作を要求される複雑なスイッチングは、手元のプレイへの集中を妨げるだけでなく、ループでタイミングを取る楽曲のリズム・ワークに重大なリスクを引き起こす可能性がある。その点において、ルーパー専用機体に大型のスペースを与える明断は、ギター・エフェクター界に早くからルーピング技術の単機能化を押し進めてきたBOSSならではの経験則の為せる業といって良いだろう。その使い勝手はまさに簡素で、録音、再生、アンドゥ、オーバーダブなど、基本操作がいくつ重なっても複合するループ・トラックを浅い階層内でストレス無く操る事ができるように設計されている。“RC-300”は、発売当時唯一のステレオ対応ループ・ステーションとして注目を浴びた“RC-50”の進化版で、トラックごとの連動性に配慮したペダル配置に再設定された究極のループ・マシンとして完成している。完全独立3ステレオ・トラック、EXペダルの標準装備、さらに、液晶ディスプレイやトラックごとのレベル・スライダーの装備によるユーザー・インターフェイスの進化はもちろん、新たに強力な内蔵エフェクトを装備したことで、高機能な「複合ループ音源」ともいうべき新たな可能性を導き出したこの筐体こそ、まさにルーパーの本質そのものを新たな段階へと導く為に作られた最新鋭のブレイクスルー・デバイスの名に恥じない個体だ。
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ギター用ループ・ソリューションの最初の専用個体が、BOSSのツイン・ペダル・シリーズ“RC-20”である事はエフェクターに詳しい方ならばすでにご存知の事と思う。ディレイのホールド機能とは別に、ライブ上で録音・再生を行いその音源を活かしてサウンドを組み立てる……いわゆるサンプリングの技術がギター・エフェクターとして単体利用可能となったことで、新世代のギタリスト達はその恩恵をこぞって楽しみ、現在へと続く大ブームの潮流ともなった歴史がある。録音時間とメモリー・トラック数を増強した“RC-20XL”の後継機として大幅な機能強化とインターフェイスのブラッシュアップを施し登場した“RC-30”は、BOSSループ・ステーション・シリーズのミドル・クラス機としてその名に恥じぬ高性能単体機だ。その機能は上位機種“RC-300”の1チャンネル分をそのまま切り取ったような性能で、同時再生こそ2トラックに抑えられてはいるが、最大3時間の録音容量と99フレーズにも及ぶユーザー・メモリ、そして高機能なエフェクト群は現行シリーズの標準スペックとして踏襲されている。この筐体のシリーズとしては初めて完全ステレオ対応も果たし、キーボードやDJサンプラーのシンプルなシーケンス・ユニットとしても利用可能となった。上位機種ほどスペースを取られず、ツイン・ペダル特有のスムーズなペダル機能と充実した高機能を享受したいユーザーにとっては、最も実践的な選択肢となるだろう。
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BOSSループ・ステーション・シリーズのコンパクト筐体機。省スペース型とはいえ、BOSS伝統のダイキャスト・ボディにはおなじみの安心感、安定感がある。最新の“RC-3”は単独トラック録音・再生、搭載エフェクト無しという仕様ながら、ハイ・エンド機と全く同じメモリー容量やソースを選ばないステレオ対応は、ルーパーとしての基本性能のみを忠実に進化させたスタイルの象徴ともいうべき存在。当然、シリーズ全般に搭載されるリズム・ガイド機能やタップによるBPM(Bit Per Minute:タップ間のテンポ測定)調整はここでも健在で、エフェクト・ボードの中にこいつが一台あるだけでループ・イメージの精度を確実に向上させる事ができる。さらに、外部音源を録音できるAUX inやパソコンと連動させるUSB端子の装備など入出力の多様性は同サイズの筐体の中でも間違いなく上位に入る。ただ、高機能な故に、標準のフット・スイッチ1つのみでは多少操作が複雑になる事は否めない。ライブで使うならば、“FS-6”、“FS-5U”のような外部フット・スイッチを積極的に活用することで操作性の向上をはかりたい。
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プロ用スタジオ機器に定評のあるt.c.electronicのルーパーは、その哲学を遵守した音質重視のシンプル構造が売り。基本ラインナップとなる“Ditto”は、ミニ筐体に、ワン・スイッチ、ワン・ボリュームというギタリストにとって福音ともいうべき見事にシェイプされたその機能美が素晴らしい。“単体機”であるという利便性を追求した直感的な操作性はもちろん、トゥルー・バイパス&アナログ・ドライ・スルーと、高S/N比を維持した非圧縮24ビット・オーディオによる高音質設計は注目に値する。実は、ループやオーバーダブという機能は、非常にデリケートでノイズに弱いという欠点を持つ。ディレイのような根本的な音質劣化とは異なり、記憶媒体を用いる事による正確な再生故に、雑音も正確に再生されてしまうからだ。その点、“Ditto”はその再生能をいかんなく発揮するための静音処理が、まさに「ギタリストにとって妥協できない一線」を完璧に満たす逸品に仕上がっていると言って良い。ループ内の上限メモリーが5分(オーバーダブ回数は制限無し)というのも、実践的で無駄が無い。高機能版の“Ditto X2”では、“Ditto”の高音質を維持したまま、ステレオ対応、「REVERSE」、「1/2 SPEED」といったエフェクト、2スイッチ(ストップもしくはFXを選択)という機能を利用できる。さらに“Ditto X2”はデータ音源のインポート/エクスポートによるバッキング・トラック機能もサポートする。BOSSの汎用性の高い総合ルーパーとはまた別の進化で頂点を極める個体だ。ちなみに“Ditto Looper Gold”はノーマルの“Ditto”と仕様は全く同じ。5000台限定のスペシャル・カラー・エディション。
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サンプラーのメーカーとしては、国内でもYAMAHA、CASIO、KORGなどと並ぶトップ・メーカーとしての実績を誇るAKAI。その中でも人気のストンプ・サンプラー“HEAD RUSH”シリーズのアップ・グレード版として出した“E2”こそ、ギタリストにループ・サンプラーの世界を浸透させた名機と言えよう。機能としてはディレイ、テープ・エコー・シミュレーター(マルチ・ヘッド)、そしてルーパーという三種がモード分けされているのでルーパー専用機というわけではないが、それぞれ使い勝手が良く、実に無駄の無い実践的な機能配置に定評がある。まず、サンプリング・レートを最大44.1kHzに設定できる高音質、電子スイッチによる反応の良さと静音性、他のエフェクトに対し独立した音量を保持できるFIXモードの装備があげられる。そして、最も機能的に優れているのは、二つあるスイッチが「再生」と「録音」に分割されており、再生/ストップの独立モーションをいちいち経ずにオーバーダブ/イレースを操る事ができる点だ。連続オーバーダブ時には左右の踏み替えを要求される事で複雑に見えるが、一度配置を覚えると、元トラックの操作スイッチとループ・ソースを操るためのスイッチが完全に機能分割されている使い易さは別格。今でこそループの録音時間が23.8秒(44.1kHz時。29.4kHzならば35.6秒)というやや物足りない容量に見えるが、サンプラー・メーカーの老舗ならではの独自の運用性能を実現したバランスの良い造りが、多くのプロフェッショナルから支持を受ける由縁であろう。
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メモリー・スロットを装備する事で独自の拡張性とデータ移動を備えたツイン・ペダル・タイプの初代“JamMan”、その機能にステレオ対応した4スイッチ“JamMan STEREO”、そして省スペースを実現した“JamMan SOLO”……メジャーなギター用ルーパーとしてはBOSSと勢力を二分してきたそれら旧シリーズが、新世代の機能でブラッシュアップされた“JamMan XT”シリーズとなって復活。コアの機体は、コンシュマー・ペダル筐体ながら「オート・レコード」や複数の「ストップ・モード」を備え、完全ステレオ及びMicro SD対応となった“XT SOLO”と、ミニ・ペダルにシンプルなループ機能とステレオ入出力を搭載した“XT Express”。両機体とも、24bitのA/DコンバーターによるCD音質並のサンプリング・レートを備え、さらに実質的トゥルー・バイパス(アナログ・ドライ・パス)を装備するなど一見するとt.c.とBOSSの良いとこ取りといった風体だが、実はこのデバイスの本当の素晴らしさは、新しく搭載された「JamSync(ジャム・シンク)」機能にある。これは複数のXTシリーズを使ってマルチ・トラック・ループを生成したり、バンド・メンバー間で他の楽器システムとルーパーを同期させる働きがあり、平たくいえば必要なだけ同時再生可能なループ・トラック数を追加し、それらを全てのパートで共有する事ができるという画期的な機能だ。実際に試したが、その恐ろしくジャストな反応に、今まで複雑な設定とレイテンシーがデフォルトだったMIDIシンクに悩まされ続けてきたリズム同期が、全く新しい段階に入った事を痛切に思い知らされる結果となった。ずば抜けたコスト・パフォーマンスといい、現段階で最も進んだギター用ルーパーかもしれない。ちなみに、旧シリーズには強力なディレイ・エフェクトと合体した“JamMan Delay”も存在するので、気になる人は探してみるのも良いだろう。
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スタジオ・トラック製作のノウハウと、Line 6のお家芸であるモデリング能を併せ持った、多機能セッション・ルーパー。要するに、通常のノーマルなサンプリング機能と、プロ・セッション・プレイヤーの手で収録された多彩なバッキング・トラックによって、本物と演奏をしているかのようなグルーヴ感を手軽に味わえるという代物。ループに乗せるリズム隊が違うことでこうまでイマジネーションの幅に差があるのか……と、実際使って思い知らされる。熟れたジャム・トラックの質の高さはもちろんのこと、モデリング・エフェクトの多彩な効果が自分の想像の範疇を超えるループによるフレーズ・ワークを呼び起こす感覚は、チープなクリック音や機械的なドラム・トラックから発される信号と合わせることでは決して辿り着けない領域であろう。まさに、ライブでアドリブによるルーピングを使いこなす為の指南マシンといった様相を呈している個体だ。ギターだけでなくマイク入力も使用可能なため、実際にこの一台でかなりリアルかつ高度なトラック・アンサンブルを構築可能だが、それはこの機体をあくまで“ルーパー”としてリリースした同社の意図とは外れるだろう。CDクオリティな音質も、最大24分、100トラックのプリセットも、このアイテムにおいて全ては形骸でしかない。その正体は、最高音質のデモ音源を備えた『ルーパーによるフレーズ・センス養成マシン』でほぼ間違いないであろう。
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米国のアバンギャルド・エフェクト・メーカー謹製の革新的な最新鋭ルーパー。基本的には2つの別々のルーパーが一つの筐体に収まっていると考えればこの個体への理解は早い。それらを全く別々のソースでマスター・コントロールするも良し、同期させてステレオで使ったり、他のメンバーとループ・リズムをシンクロさせるのに使用することも可能だ。レベル・コントロールも完全に独立しており、チャンネルを二つ持つ事の自由度を極限まで追求した仕様となっている事がわかる。だが、本当の意味で他機種より優れているのは、あまりギタリストが本職の人間では気付きにくい部分にある。その一つがサンプリング機能の性能で、24bit/48kHzのハイレゾ・ソース音源をパソコンと直にやり取りできる他、片方のトラックをマルチプル・リズム・トラック(x1、x2、x3、x4、x6といった倍数のリズムに書き換えること)に整合させたりできることだ。さらに、MIDIクロック・シンク及びファンクション・コントロールにも対応しており、シーケンサーやクロック・モジュールなどと組み合わせてよりハイ・レベルなループ・コアとして機能させる事ができるなど、外部ユニットとの同期の知識があればさらに高度な使い方が可能だ。ルーパー・システムの拡張を目論むユーザー垂涎の機能集合体なので、高度なシステムを操るステージ・テクニシャンなどにとっては今後必須の機材になってくるかもしれない。
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アメリカはテキサス生まれの人気ルーパー“BOOMERANG”。3ch(+1ch Bonus)独立のフレーズ・サンプラーで、操作は至ってシンプル。各トラックに割り振られたソースをクロック・ディスプレイの表示に従ってアサインするだけ。Tapスイッチなどでコントロールできる奇抜なリバース・エフェクトやストップ・モードも備えるが、リアルタイムなFXコントロールは外部ペダル無しには厳しいので、本体だけでライブに臨む場合には再生トラックのコントロールのみに集中した方が無難だ。サンプリング能は比較的高性能で、20bit/48kHzのステレオ・ソースを最大4分23秒まで録音できるものの、入出力は1系統のみなのでトラックの作製を一つずつ行う必要があるのは諸メーカーの製品と同じ。ただ、こちらもMIDI対応なのでクロック・シンクを同期させられるのはシステム上大きなメリットとなる。ハイ・エンドなループ・コアとしては、入力の多様性と高音質で選ぶならPigtronix、再生トラックの多さと操作性で選ぶならBOOMERANGといった基準を元に考えると良いだろう。
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大陸産の超小型ペダルとして国内でも着実に人気をのばしているHOTONEから、驚異のルーパーが登場。エフェクター・タイプの単機能フレーズ・ルーパーとしてはおそらく世界最小だろう。手の中に隠れてしまいそうなサイズであるにも関わらず、基本機能は実践に則した仕様を堅持しているのはさすがだ。録音と出力のボリュームがそれぞれ独立しているので、ループが重なる事での音量の増減による無用なクリップ・ノイズを避ける事ができ、重宝する。手動によるスピード可変(EFFECT)も、優等生なクォンタイズ機能ばかりが目を引くルーパー・ペダル業界において、アナログ・ライクな仕様で実に面白い効果を得られる。最大15分の記憶容量、この筐体にして十分使えるレベルのロー・ノイズ設計、ロー・インピーダンス入力も合わせ、圧倒的なコスト・パフォーマンスで一大旋風を巻き起こしそうな個体だ。ルーパー初心者だけでなく、人とは違う飛び道具を探しているユーザーにも是非お勧めしたい。
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“Dynamic Looper”はVOXらしいクラシックなインターフェイスと、フロント・ユニットとして最適なモノラル・サウンドのみに特化した入出力を備えたルーパー専用個体だ。3pinマイク入力(ファンタム電源未対応)とEXペダルによるエフェクトのリアル・コントロール能をデフォルトで装備。歪みを含むギター用エフェクトを11種類、ループ用エフェクトを更に11種類、そしてストップ・モードも3種類を装備するなどハイ・エンドな仕様を誇る。一方、“Lil’ Looper”は、エフェクトの数こそ抑えられてはいるが、シンプルなインターフェイスを軽量コンパクトな筐体に納め、使い勝手に配慮したモデルとなっている。ともに2トラック・ループ、44.1kHzのサンプリング・レートを維持した高性能なルーパーであるが、目的別に見るとはっきりと適応環境に向けて差別化されたモデルである事がわかる。リサンプリング機能(ループ・エフェクトで加工した音を再度別トラックへサンプリングし直す機能)を使っても煩雑にならない直感的なフット・スイッチ配列から見ても“Dynamic Looper”が明らかにライブで使う事を前提としているに対し、ステレオ・ヘッドフォン端子を装備し、目立たないが実は入力側にもステレオ対応のジャックを装備している“Lil’ Looper”は、CD等の既存の音源やキーボードの音を取り込んで主に自宅などでループによるフレーズ・トレーニングをするのに向いている様に感じられた。ルーパーを主体にしたオール・イン・ワン・マルチをお探しならこのシリーズは実に魅力的だ。
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並々ならぬ音作りへの情熱でその製品をリリースするたびに世界中の人々を歓喜させるエフェクター界の奇人、ザッカリー・ヴェックスが作ったルーパー。もちろん彼が作るものにただ高音質、高機能な個体など無く、この製品も例に漏れずマニア垂涎の素晴らしい音質を備えている。デジタル・ルーパーの基本概念として、「デジタルなので、何度繰り返しても劣化しない」という大前提があるにも関わらず、この個体は、ループする音色をわざわざ骨が軟化したような、なんとも不安定でヘタったサウンドに変えてしまう。だが、ただ音が悪くなるだけでなく、その音質というのがまた絶妙で、角が取れ、不思議なノスタルジーをかもし出す煮えたぎったような……こればかりは言葉では説明しきれないが……とても使える音なのだ。しかも、その無軌道な音色をオーバーダブして行く事で、誰も予想のつかないサウンドが出来上がってしまう。使っていると思わず笑いがこみ上げるが、そのサウンドを体感したら、このエフェクターを二度と手放したくないと誰もが思う事だろう。ちなみに、Z.Vexは、そのLo-Fi効果に特化した専用エフェクター“Lo-Fi Junky”もリリースしている。
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新進気鋭のエフェクター・ブランドButterfly FXが贈る、摩訶不思議なモーメンタリー・タイプのフレーズ・サンプラー。踏んでいる間のサウンドがリピートされるシンプルな構成ながら、独特のモード・スイッチと専用のエクスプレッション・ペダルによって有機的に音像を加工できる。ペダル・ベンドによるピッチの可変や、かなり音をえぐってくるフィルター、過激なリピート・ファンクションの効果によってまるでリング・モジュレーターや、ビット・クラッシャーのような音まで飛び出すが、意外にも慣れてくると直感的で面白い。むしろ各ノブの意味など考えずにがちゃがちゃやって音を探したいタイプ。定位のあるループを生み出すにはコツがいるが、びっくりサウンドに特化した飛び道具と考えると悪くない。
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本来はギター・シンセに分類されるであろう、エキスパンダー・サウンドを作り出すエフェクター。サンプリング機能を使って残響をフリーズさせる事が基本。“Superego”はその高機能版で、ホールドさせた音をLATCHモードで重ねて行ったり、GLISSノブで音程に意図的な坂を造ってやったりしながら、奇想天外なサウンドを育てて行くのが楽しい。“Superego”にはさらにエフェクト効果を追加できるセンド/リターン端子がついているので、この世のものとは思えない地獄の工事現場ような効果を生み出す事も不可能ではない。ただ、エフェクト・レベルが独自に調節できるとはいえ、ディレイとの共存は音量の可変が極端になりがちなので、アンプの許容量も考え、併用には慎重さが必要という事は言っておこう。逆に“Freeze”はこのシンプル版で、メモリー機能を使って特定の箇所のサステインを無限に続くようにするだけのエフェクターだ。オーバーダブはできないので通常のルーパーのような使い勝手と言うわけにはいかないが、残響それ自体は通常のルーパーでは有り得ないような微妙な歪みとともにたわみを誘発する傾向にあり、その予想のつかないうねりにフェード信号を設定してアンビエントを演出するのは実に趣向品としてクセになる効果だということは断言しておこう。
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BOSS最新にして初のテーブル・トップ・スタイルのループ・モジュール。まず、見た目が圧倒的にモダンだ。現代的なビート・パフォーマンスの現場で、あらゆるエレクトリック・ラインや、アナログ音源からのマイク、さらにはAUX信号までを区別無くループ内に取り込むための柔軟な入力系と、ネオン・フェーダーを採用した闇の中でも美しく光るロケーターが、DJサンプラー・テイストな印象を植え付ける。3時間録音、99フレーズ・メモリーなど基本的な性能は“RC-300”に準拠しているが、5つものループ・トラック再生と、「SLICER」「VOCODER」「VOCAL DIST」などシンセさながらのグリッヂなエフェクターを装備。さらには“RC-300”では不可能だった外部MIDIクロックへの同期機能も備え、音源システム内のループ・コアとして完璧に効果を発揮できる仕様になっている点も見逃せない。ギタリストにとってはやや取っ付き難い観のあるサンプラーの世界だが、こうしたループ・トラック録音機の進化が、RCシリーズのようなギター用のループ・エフェクトも備えた単体ハードの末裔だと考えると、ちょっと毛の生えたMTRの様にも見える事だろう。高機能なループ・ステーションをちょっと机の前に持ってきた……という感覚で、家に余っているMIDIペダルなどを繋いでその最新の機能のみを堪能できるならば、レコーディングなどにおいてこれまでには無かった強力な武器となるはずだ。
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専用フットコントローラーを備えた、ハイ・エンドなマルチ・トラック・ルーパー。本体を見て察しがつく通り、まるでトラック・レコーダーにそのままミキサーの機能を持たせたような造りが凄い。“45000”は前機種“2800”のアップ・グレード機で、もはや見かけなくなったCFカードを廃しSDHC(4GBで45000秒録音可能な事から“45000”と名付けられた)対応となって生まれ変わった現代仕様。当然記憶容量も増え、使い勝手は格段に向上した。ミキサーのよう、というのは全くの比喩ではなく、実際に複数のトラック音源をステレオにミックス・ダウンする様な使い方もできてしまうから驚きだ。音質は非圧縮16bit/44.1kHz。CPU性能に依存しない専用ハードによる動作は、汎用のソフト・ルーパーの比ではない安定性を伴っており、ピッチやテンポの変換自由度の高さ、高度なリズム・クォンタイズ機能によるオーバーダブの使い易さはエフェクター・タイプのそれを遥かに凌駕する。そして、何よりこのハードそのものがまるでビンテージのNEVEやSSLの卓がそうだったように一つの「クセ」ともいうべき実に音楽的で生々しい音質を備えていることに感服させられる。この機器を通すだけでどこか音が一段階リアルな質感と光沢を帯びるような気さえするのだ。これは凄い事だ。また、フット・スイッチが専用のデバイスとして付属し、ギタリストにとってスイッチが馴染みのある形状なのもこのスタイルへのアレルギーを回避するのに役立つという一面もある。やたらと高機能化する付属エフェクトの煩雑な操作に馴染めないが、ルーパーとしての基本機能に妥協のできない……しかもギターで使うのにも適している上、ライブでもレコーディングでも周辺機器との同期がスムーズな個体、そして、何よりも音質に本物の質感を与えてくれる強力なループ・デバイスを探すならば、この“45000”の名は覚えておいて損は無い。
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今の時代、ルーパーはギタリストにとってすでに珍しいものではなくなったと言ってよい。
ギター専用機としての単機能ルーパーこそ、ようやく最近数が出そろってきた観はあるものの、以前から、ライブ・シーン等ではKORGの“KAOSS PAD”や“KAOSSILATOR PRO”のようなテーブルトップ型サンプラーにMIDIペダルをひっつけて、ライン/マイクで併用したりする光景はよく見られたものだ。今回は紹介しなかったが、ハイ・エンドな複合機の中にはTC-Heliconの“VoiceLive”シリーズのように、ボーカルなどの他パートと同時にギターを使える統合ルーパーも存在するなど、局地では独自の進化を遂げている個体も珍しくない。
そもそも、ギター用エフェクトとしても、実は昔からルーパーをエフェクトの一部として実装する習慣は存在していた。サンプラーの歴史がデジタルによる記憶媒体の誕生とともに始まったのと同じように、ギター用のループ機能も、デジタル・ディレイの発展とともに少しずつ浸透してきていた事実はBOSSの“DDシリーズ”などを見てみればよくわかる。1983年に世界初のコンパクト・デジタル・ディレイとして発表されたBOSS“DD-2”では、そういった機能のさきがけとなる「HOLD」機能をちゃんと実用用途として装備していた。その二年後にはその名も『Digital Sampler/Delay』と銘打った“DSD-2”が発売されている(ただし、このシリーズは後継機の“DSD-3”を含め1988年には生産を終了している。このシリーズも、時代を先読みしすぎるBOSSエフェクターの“早すぎたエフェクター”の一つとして語り継がれる隠れた名機たちだ)。そして、今となってはBOSSに限らずあらゆるブランドの高機能ディレイの副機能として、またはマルチ・エフェクターの定番搭載機能としてルーパーはいつの間にかギタリストの身近な機能として認知されるに至る。
しかし、その機能の真の凄さを、全てのギタリストが本当に理解しているかどうかは甚だ疑問が残る。実際に使ってみるとわかるが、ルーパーは、既存のエフェクターとはかなり異なった使用上のアプローチを必要とするペダルなのである。何というか、効果そのものがどうこうというより、むしろ自分のテクニックや音作りの延長線上にあるエフェクトなのだ。つまり、サンプリングする素材次第で、同じルーパーでも全く引き起こせる作用が異なってくる、ということをきちんと理解していなければ使いこなせないエフェクターなのである。“どんなフレーズ”を繰り返すかだけではない……自ら持ち合わせる他のエフェクターを含めた“どんな音”を“どんな長さ”で入れるかによっても、全くその効果は異なる。加えて、設置場所も、セオリーからすればディレイの後ろ、アンプ・シミュレーターの前あたりかと思われるが、ルーパー自体にハイ・インピーダンス入力対応の個体も多く、システムのどこに入れるかにもかなりセンスの問われる機材のようだ。
具体的な音や効果、変化ではなく、「機能」だけのペダル……ルーパー。どう使うか、使えば使うほどその法則性の底は見えなくなってくる。かつて、21世紀の初めに、BOSSがギター用ルーパーの専用機として“RC-20”を発表した時の謳い文句である「まったく新しい概念のエフェクト」に込められた鋭い皮肉を、今更ながら痛感せずにはいられない。ギター人生の折り返し点にあって、こんなに恐ろしいエフェクトに出会うことはそう無いであろう。その未知の可能性に脱帽である。
それでは、次回(9月17日/水曜日)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。