AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
最初に買った楽器がそのまま「一生モノ」になった人は非常に幸運な人で、多くの人は楽器を買っては売り、また買って……ということを繰り返して自分に最も合った楽器に出会っていくものである。「楽器探し」と聞くと、楽器購入に際する選び方ばかりが注目されがちだが、たった1回で理想の1器に出会える可能性が低い以上は、いかに経済的ロスを少なくして所持楽器を循環させていくかということもしっかりと考えなくてはならないだろう。そう、「楽器探し」では「売ること」も大切な一工程なのである。ここではそんな楽器売却についてのノウハウを数回に分けてお送りしていってみたい。今回は、その基礎知識を俯瞰してみよう。
楽器を売る方法にはいろいろな種類がある。気軽なものでは街のフリーマーケットへの出品もあるし、友人間での売買もある。昨今はネット・オークションも盛んだし、リサイクル・ショップへ持っていくという選択肢もあるだろう。このあたりは各々の目的に合わせて利用してもらえればと思う。しかし、ここでまず誤解を恐れずに言わせてもらえれば、楽器の売り場所として最も安心かつ身入りが安定するのは「楽器店」であることを断らせて頂きたい。
よく「楽器店も利益を出さないといけないから、市場の売値よりも楽器を安く買い取る。それであればネット・オークションなどでそのまま市場価格通りで売った方が身入りが大きい」といった意見を聞く。これはこれで的を得ているように聞こえるが、よくよく考えてみるとそうでもないことがわかる。
試しにあなたが「買う立場」にいることをイメージしてみてほしい。楽器店とネット・オークション両方に目当てのギターが同じ価格で出品されていたとする。この場合、手を伸ばしやすいのは断然、楽器店の方ではないだろうか。かたやプロの業者(楽器店)がその個体をしっかりと検品した上で入荷したもの、もう片方は顔の見えない個人が所持していたものが売りに出されている。もちろん、ネット・オークションでもプロ、あるいはプロ並みの造詣を持つ人がしっかり対処した上で出品をしているケースもあるのだが、そうでないパターンのほうが大勢だ。こうした状況の中では、より安心感のある楽器店での購入に分があり、それゆえにネット・オークションの出品では、それがよほど稀少価値のある個体でもない限り、一般的な市場価格よりも低く設定しないとうまくさばけない。どれくらい安くしないといけないかというと、これも場合によるが、楽器店へ支払うはずのマージンを引いた分というのがひとつの目安になっているのが実状だ。ここに加えて運送の手間やトラブルがあった場合のリスクなどを考えれば、やはり楽器店での売却が安心できるし、身入りも安定すると考えられるのだ。
こうしたわけで、以下からは楽器店での売却を推奨しつつ、その売却方法の種類について説明していく。まずは楽器店での売却の種類について。これは大きく分けて次の3種類がある。
1は、文字通り楽器店に楽器を買い取ってもらうことを指す。上でも述べたように市場価格よりは安い値付けがされるが、すぐにお金が入るというメリットは大きい。
2は、その楽器店で新しい楽器を購入するという前提のもと、現在所持している楽器を高値でその店に引き取ってもらう取引方法。在庫を減らさずに商品を動かせるという点で、楽器店にとって一番嬉しい取引方法とも言われており、通常の買い取りよりも高い値付けをしてもらえることが多い。所持している楽器と楽器店の在庫傾向にもよるが、もし次の購入機種が決定しているのであればまず検討したい方法だ。
3は、楽器店の販売スペースを「借りて」楽器を売る方法。人の目に触れやすく、ある程度の検品は楽器店の方でしてくれる。価格は自分で設定できるが、その中から販売スペース賃料として、楽器店にマージンを支払わなければならない(マージンは平均で売値の2割)。ユーザーにとっては人気の取引方法だが、楽器店の方にはあまりメリットがないと言われており、昨今では全面的に廃止している店もあるし、断られることも多くなっている。そのため上では3種と記したが、実際には「買い取り」と「下取り」の2種が主流になっている。
売却方法が決まれば、次は実際に売る店をどこにするのか?だ。インターネットの発展によりひと昔前のような店ごとの値付けの差は狭まっているが、それでも売る店はよくよく吟味した方が良い。もし下取りを希望するのであれば、そのお店が現在所持している楽器の引き取りに応じてくれるのか確認する必要があるし、買い取りにしたところで、例えば王道を重点的に押さえているお店に珍品を持っていくと難色を示される可能性がある。
また忘れてはならないのが、いわゆる「高額買取キャンペーン」。この種のキャンペーンは、楽器店が在庫強化のために行うもので、特定ブランド、あるいは特定モデルにおいてだけ、買取金額を普段よりも割増にするというものである。こうした催しは「定番」と言われるモデルをターゲットに行われることが多く、あまりマニアックな機種では行われること自体少ないが、一応下調べをしておくに越したことはないだろう。
売るお店の検討がついたら、今度はそのお店に連絡してみる段階。ここでは一度、楽器の売却がどのような流れで成立していくかをおさらいしたい。まず、楽器の売却には大きく以下3つの段階がある。
1は、その楽器の状態がどのようなものであるかをお店側が吟味すること。同じブランドの同じモデルであっても、状態が悪ければ価格に開きが出るし、もしその個体が稀少価値のあるビンテージ・ギターなら、パーツのオリジナル性もチェックされる。もしリペア歴などがあれば、この時にお店側に伝えてあげると親切だろう。
なお査定出しは現在、以下のふたとおりの方法が主流になっている。
aは店舗に直接ギターを持ち込んで、その場で査定をしてもらうこと。昔から楽器を売ると言えばこの方法をとるのが一般的で、楽器店の店員さんと直接話ができるので話が早い。ただ、持ち込み査定は近隣に楽器店がない人にとってはかなり骨の折れることだし、また時間を確保するのが難しい人が多いという難点もあった。そこで、最近はさまざまな楽器店がbの「ネットを介した無料査定サービス」を開始している。このサービスはウェブ上でブランド名やモデル名、それに年式を入力すると大体の買い取り相場を教えてくれるといったサービスから、お店によっては送料無料での郵送査定に対応してくれるところまである。手間も時間もお金もかからない、非常に便利なサービスなどでぜひ活用してみてほしい。
2、査定が済むとお店側からその楽器の購入希望額が言い渡される(愛着ある楽器の価値が客観的な金額に換言されるとちょっと淋しい気持ちになったりする)。その金額に納得がいけば取引成立、そうでない場合は価格交渉になっていくわけだが、昨今は楽器店も阿漕な商売をしていてはすぐに悪評が立ってしまうため、国内での悪質な買い叩きはほとんどないと安心して良いだろう。売る側としては事前に市場価格をチェックしておいて、そこから例えば買い取りであれば7〜8割の値がつけば万々歳、6割前後で及第点といった認識でいれば良いが、これはあくまで目安。状態が悪ければもっと低い値付けでも妥協しなければならないし、逆に状態が良ければそこをアピールしてより高い値付けを交渉してみても良い。どうしても納得がいかない場合は他のお店で査定をお願いし直してみるというのもアリだ。
3、こうした作業を経て価格面の折り合いがつけば、いよいよ取引成立である。必要書類にサインをした上で、後日代金が受け取れる。
楽器店での楽器売却の大きな流れとして、ここまでは基本的なことをさらってきたが、次に「どうすればより高値で売ることができるのか」を考えていきたい。ここではギターを題材に話を進めていく。
……と言いつつ、まずは心苦しい弁解をさせていただきたい。できればここで魔法のような裏技を紹介したいところなのだが、そんなあっと驚くような方法は現代にはまず存在しない。昔のように良くも悪くも各店舗がガラパゴス化していた時代ならまだしも、インターネットの興隆により情報が共有されやすくなった現在では、どこのお店も一般の市場価格を必ずチェックしており、それを基準に状態の良し悪しで値付けを増減させているからである。これを踏まえつつ、ギターを高値で売る第一の方法としてここで紹介したいのは、「ギターを良い状態に保つ」ことである。
高額なビンテージ・ギターを例にとってみると、それがもし同じ年式の同じモデルであっても、状態の如何によっては100万円近い価格差が生まれることがあるのは、デジマートで少し検索してみてもおわかりのとおり。ビンテージ・ギターのようにパーツのオリジナル性がその価値を左右する場合は特に顕著だが、状態は別にパーツのオリジナル性だけで判断されるわけではない。演奏性の良し悪し、ピッチの正確性、ノイズはないか、などなどで価格に差が生まれてくる。こうした諸問題をクリアした個体は楽器店の側からすると非常に入荷しやすいギターだ。通常であれば少なからぬセッティング、あるいはリペア処理を施して店頭に陳列するのが中古ギターであるが、状態の良いギターであればその経費をかけずに済ませられる。経費がかからない分、買い値を少し高くしてでも入荷したいと考えるわけだ。
ギターを良い状態に保つこと、それは売却時に有利に働くのみならず、あなたのギター・ライフも充実させてくれる。演奏性の良いギターを弾くことはいつだって気持ちの良いことだし、それで練習を積めば上達の早くなることは多くのプロが語るところだ。また、良いギターが楽器市場に流通していけば、日本の音楽の活性化に繋がると言っても過言ではない。誰もが得になることなので、これはぜひ皆さんにも実践していただきたい。
さて、ここからは日常のギター保管について特に注意したいことを説明していってみよう。
チューニングされたギターの弦は多大な張力を帯びている。アコースティック・ギターでは常時約60kgもの力がかかっていると言われているが、この状態を長く持続させているとネックが反ってくる危険性がある。毎日演奏する場合はそれほど神経質に考えなくても良いが、1〜2週間は触わらないという時は少しゆるめた状態にしておいた方が安心だ。特に梅雨時など湿気の多い期間は、水分で木材が柔らかくなり状態が変わりやすくなるので注意しよう。また、逆にゆるめ過ぎには逆反りの危険が伴うことも忘れてはいけない。ゆるめる時は全体に2〜3音下げる程度のゆるめ具合にしておきたいし、エレキの場合ではゆるめる必要すらないというリペアマンも多い。
頑丈なポリエステル塗装のギターでは注意に及ばないが、ラッカー、シェラックといった繊細な塗装が施されたギターは拭き過ぎに注意したい。これらの塗装は音響的に優れた効果がある反面、汗で変色したり、柔らかくなったりと繊細な一面もあるため、汚れた場合は拭く必要があるが、この時に強い力でゴシゴシ拭いてしまうと塗装が薄くなったり、剥がれてしまうことがある。同様にペグも、あまり執拗にやるとメッキが剥がれてしまうことがあるので注意。拭く時はさっと汚れを落とす程度で十分なので、あまり神経質にならないようにしよう。
現在はギターのケア用品も充実しており、さまざまな種類があるが、使い方によっては状態悪化を招くものもあるので用法/用途はよくチェックしたい。例えばギターのクリーニング材として有名な「レモンオイル」。柑橘系のオイルは台所洗剤に使われるほど優れた洗浄能力があるが、これがギターに仇となることがある。指板など塗装が施されていない部位に使用する分には問題ないが(と言っても塗り過ぎには注意したいが)、ボディなど塗装が施された部位に使用すると塗装ごと拭き取ってしまうことがある。また、ワックス類にも注意が必要だ。石油系、シリコン系の化学成分が配合される製品は塗装を台なしにすることがある。同様にクロスにもシリコンを含むシリコン・クロスなるものが市販されている。これでラッカー塗装のギターを拭くと、ラッカーの上にシリコンの皮膜ができてしまうので絶対に使わないように。
乾燥は木材の水気を奪うため、ギターが硬直してちょっとした衝撃でヒビや割れを招く。湿度が40%以下になるようであれば、加湿をした方が安全。高湿については先にも書いた通り、木材が逆に柔らかくなってしまいネックが反りやすくなる。雨期などは弦テンションを弱めるようにしておきたい。
寒暖の変化については、特に寒→暖時に起こる結露が怖い。エアコンなどの空調環境に注意を払い、ギターに急激な温度変化を与えないようにしよう。
ビンテージ楽器では特にそうだが、パーツはやはりオリジナルであった方が市場で高く評価される。しかし、使用に難のあるものを使い続けるのも本末転倒なので、あまりひどい時は交換することをオススメしたい。それで、もしやむにやまれずにパーツを交換する時は、交換前のパーツを保存しておくようにしよう。「使えないパーツをとっておいても……」と思われるかもしれないが、とかくオリジナル仕様を有り難くする現在の市場では、パーツが変わっているけど「いつでも元に戻せる」ことが、プラス評価に繋がる場合があるからだ。
なお、パーツ交換をする時の注意点として、できるだけ新しい穴を空けない処置をリペアマンにお願いすることを忘れずに。パーツの種類によっては不可能な場合もあるのだが、その際は必ずリペアマンと最善の方法を探っていくようにしてほしい。
さて、上記の日頃のケアを行なっていればギターは大抵良い状態を保てているかと思われるが、それを実際に売る前には最後の見繕いをしてあげよう。やはり汚いよりはキレイな方が印象は良いし、ここはお世話になったギターへの感謝も込めて、今一度しっかりキレイにしてあげたい。また、余裕のある人にオススメしたいのは最後のリペア/セッティング出しである。売るとわかっているギターにお金をかけるのはどうかと思うだろうが、状態が良くなる分取り戻せることも多い。また、お金のことはともかく、この最後のリペア/セッティング出しにはそのギターを本当に売っていいものかどうかの最終確認ができるというメリットもある。知らず知らずに状態が悪くなり、それが原因で売却に踏み切った個体だとすれば、また良い状態で触わることで「もう少し楽しんでみよう」と思える可能性もある。少し面倒かもしれないが、もし売却に少しでも迷いのある個体ならぜひ試してみていただきたい。
今回はギター売却に関する基本的概要を駆け足で俯瞰してみた。次回はここに紹介した「買取」の流れをより詳しく紹介したい。
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