AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
『Dr.Dの機材ラビリンス』第6回は、Dr.Dがもっとも得意とする“ギター・アンプ”をセレクトしてみた。しかしメイド・インUKやUSAではなく、日本製のチューブ・アンプというかなりマニアックな視点。そのため個体数が少なく試奏は困難を極めたが、UK/USAアンプにはない、ユニークなトーンを持った国産チューブ・アンプの魅力を伝えるため、Dr.Dはアンプを求めて東奔西走。今回も「すべて試奏して書く」のスタイルを貫き、希少なビンテージ・モデルからハイエンド・ブティック系まで、20セットをレポートする!
かつて、ギター・アンプには、歴史と伝統に裏付けされた“縛り”があった。
『チューブ』であること。
必ずアンプを使って音を出さなければならないエレキ・ギターの世界において、『真空管』で増幅された音が、最初の“正しい音質”として批准されたことは皆も知っての通りだ。30年代〜60年代といった時期には、それでも良かった。皆がその“音質”を尊び、競い合うことで、ギター・アンプの“音質”もまた向上し、多様性を帯びて行ったからだ。だが、ルールとは必ず時代に置いて行かれるものである。それは、いつしかタブーとなり、不合理な境界として人々のニーズと対峙していくことになる……。
時は1970年代。キーボードやシンセサイザーなどの電子楽器が今まさに黄金期を迎えようとしていたその頃、エレキ後進国であった日本で、一つの変化が生まれようとしていた。折しも、エレキ・ブームの名残で最盛期を迎えていたはずの国産アンプが、TeiscoやGuyatoneを筆頭に伸び悩みを見せ始めたのだ。その大きな要因、それは「歪み」の存在であった。当時、エレキ・サウンドの傾向はハイ・ゲイン化に傾きつつあり、現存していた日本のアンプはその潮流に対して物理的にも伝統的にも非力だった事は否めない。海外からはMarshallの“1959”やMesa/Boogieの“Mark”シリーズといった圧倒的なモダン・ハイゲイン・アンプが上陸し、それに危機感を覚えた国内メーカーはノウハウも無く、せっかくFenderアンプなどから学び取ったクリーン・トーンさえも否定するような形で、中途半端なハイ・ゲイン化を押し進めたのである。結果、国産アンプの歪みはMarshallやMesa/Boogieのようにきめ細かく太い歪みを得る事ができないまま、ゲインを下げてもクリーンにならない中途半端なロー・ゲイン・アンプばかりを生み出す事になったのである。当然の様にプライドを無くした国産アンプ・ブランドは次々と倒れ、時代に見合った歪みを追い求めるプレイヤー達は高額な輸入アンプを買うしかなくなっていった。
そんな折、市場にある企業が一案を投じた。それが、Rolandであった。元々電子楽器なども取り扱うメーカーであった彼らは、すでにマイナーながら広がりをみせつつあった ‘ソリッド・ステート’という自らが技術的に優位に立てるジャンルで、『真空管』以外の異論を決して許さなかったギター・アンプの世界に切り込んだのである。
Roland“Jazz Chorus”。それは、恐ろしく歪まないアンプであった。
ハイ・ゲインという時代のスタンダードに逆行し世界的大成功をおさめたこの国産名機……それが、純然たる‘ソリッド・ステート’のアンプであったことが、ジャパン・アンプの行く末を決した。重く、品質に差があり、メンテナンスや保管が大変で、しかも慢性的に供給不足……ユーザーにとってもメーカーにとっても多くの意味でリリカルな存在であり続けた『真空管』という増幅器の存在から初めて時代を切り離したのが“JC”であった。軽く、メンテナンス・フリーで、故障も少ない。“JC”の存在は、今までチューブ・アンプのマイナスの部分に辟易していた人たちを歓喜させるのに十分であった。奇しくも、アンプ自体に余計な歪みを持たない事で、当時流行り始めていた「エフェクターによる歪みの構築」という流れにも合致した事が幸いしたのだろう。そして、ついに世界は認識する。日本のアンプと言えば“Jazz Chorus ”…‘ソリッド・ステート’のアンプである、と!
国産チューブ・アンプはその時、完全に息の根を止められた。皮肉にも同じ国産アンプの……‘ソリッド・ステート’アンプ、“JC”の手によって。それからしばらくは、日本人でさえ、チューブ・アンプは海外のものを当たり前のように使い、ソリッドなら国産の“JC”を、というような棲み分けを行う時代が続くのである。
だが。本当にそれで良かったのだろうか?
失われた日本のチューブ・トーンの中には、実は海外では生まれなかった新しい可能性の“音質”があったのではないのか、と思う事がある。この30年あまりの間に、国内のユーザーは、国産チューブ・アンプ・アレルギーのような状態に陥っていたために、日本独自の『真空管』技術やそれを伝える人員が失われてしまうのを見過ごしてきてしまったのではないだろうか。
それでも、今、ようやく国内にも再びそのトラウマを乗り越え、新しい“音質”を生み出すために、その遺産の発掘と新しい世代の音響知識を身につけたビルダーやメーカー達が名乗りを上げ出している。日本で生まれる『真空管アンプの音』を、再び生み出そうとする人たちがいる。『チューブ』に反発し、『チューブ』を否定し、『チューブ』を葬った日本……もう、そこには何も無くなった。伝統やルールさえもう、そこには無い。
その中で、また新たに『真空管アンプの音』に向き合う人々がいることを、我々は温かく見守るべきだ。未だ伝統に縛られる海外には無い、そう、『真空管』さえただの手段としてフラットになった日本人の手による創造だからこそ、生まれ行くサウンドがあるのだと信じたい。
荒野に注がれるものは、『チューブ』か‘ソリッド’か。その答えが出るのは、もう間近かもしれない。
個人的にも、再度、自身の知識をおさらいするつもりで取り組んだ今回の企画。テーマは『国産チューブ・アンプ』。ビンテージで有名なものと、近年(現役含む)の国産チューブ・アンプの中から、フル・チューブ、もしくは一部で真空管が使用されているものを中心にデジマートの在庫に従ってチョイスしてみた。とにかく、ビンテージのジャパン・アンプに関しては個人所有のものが多く、状態の良い個体を探すのにリサーチの大半の時間を取られた。関東近郊の店舗でデジマートに在庫があるもの以外は、人脈を頼りに延々とお宅訪問を繰り返して集めたレビューである(中には、スタジオに持参していただけた親切な方もいた)。項目にあげたものは、どんなに少なくとも真空管やスピーカーなど同じ条件の個体が2台以上試せた場合のものだけに限ってある。ここにあげたもの以外でも、今回のリサーチでは、音響メーカーであるVictor(Zenon)の赤パネルのやつや、Colombiaの“CGA-131”(これは稼働していなかった)、存在すら知らなかったUni-Vibeで有名なShin-ei製真空管アンプ、活動期間が短く幻のメーカーとまで言われるIdol楽器のHobbyシリーズの個体、その他、Firstman、Voice……その他近年ものではFgNの“NCAP-10G”等々、レビューに掲載こそしていないが、意外にも多くのジャパン・ブランド製真空管アンプに出会えたことは収穫だった。皆さんも、このリストを通じて、この国に息づいたギター・サウンドのルーツと、それを受け継ぐ現行品の有り様に想いを馳せていただけたら嬉しい。
※注:「*」マークがメーカー名の前につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。気になる人はこまめにチェックしてみよう!
国産ソリッド・ステート・アンプの名機“Jazz Chorus”で世界的大成功をおさめた Rolandが、後発でリリースした真空管アンプ。プリ部はソリッド・ステートなので残念ながらフル・チューブというわけではないが、フェーズ・コンバーターに12AX7タイプの3極管、パワー管に6L6GC(Bolt-100/60)もしくは7591A(Bolt-30)という出力部を持つことで、ワイドかつふくよかなレンジにより予想以上に豊潤な再生音を聴かせてくれた。採用管にRCAやSYLVANIAを使うなど、当時のRolandの品質に拘る本気度が見て取れるなかなかの高級指向と言える。音はどちらかと言えばアメリカンで、密度のあるロー・ミッドに粘りのあるサステインがついてくるが、歪みはざらついて荒っぽく、いまいち抜けが悪いのは時代相応なのだろう。複数のボリュームがあるので容易にドライブするものの、プリが石のせいか今ひとつピッキング・ニュアンスが出にくく、Rolandオリジナルのスピーカー性能も今ひとつダイレクトなレスポンスに欠ける。とはいえ、入力部に余分な増幅が無い分エフェクターの乗りはとても良く、低音もタイトで、搭載されているリバーブもすっきりとして聴き易い。そして、なによりもこの個体特有の耐久性が驚異的。実際、今回のリサーチ中に20台近くのBoltを試したが、発売から35年を経過して電気系統の致命的なトラブルで修理を受けていたケースはほとんど無かった。元々は、70年代に成功したMesa/Boogieの“Mark”シリーズを意識して作られた製品というコンセプトらしいが、歪みこそ本家には劣るものの、クリーン系で使用するならば今でも十分現役のクオリティ。歪みはエフェクターで造れば良いというユーザーには最高にお勧めのアンプだ。
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Rolandの前身(正確には梯氏がRoland設立前に立ち上げた自身の楽器製造会社)エース電子工業のブランド。よくジャンク屋で転がっている“Rocky”や“Duetto”と同じメーカーだが、こちらはヘッド・タイプ。高級オーディオ・アンプさながらの全面銀パネ、シルバーのツマミという独特の容姿だが、ほぼ同程度の仕様で“Model-601”として海外に輸出されていた経緯もあり、意外にその名は知られている。プリ部に12AX7 x 4、フェーズに6AQ8 x 1、パワー管が7591 x 2という構成で2チャンネル仕様。1chはキンキンの高音が出るタイプで、テレキャスで「チャリーン」と演りたいなら最高だろう。音像としては、前面に出る音圧があるわけではなく、どちらかと言えばタイトで適度に中折れ感もあるので、ジャズにはもってこいだ。クリーンには違いないが、サステインが襞状に積み増しされ、そこから一気に減衰する感じは今のアンプには無い不思議なグリッヂ感を纏っている。一方で2chはゲインがあり、ファットなミドルも感じられた。こちらも押し出しはあまり強くなく、全体の飽和感はあるもののアタックは貧弱で中折れ感もより鮮明だ。ただ、1ch同様、こういったサウンドは現代の伸びやかでクリアな音像を持つアンプにはない得体の知れない色気があり、ともすれば狂おしいほどのブルージーなトーンを呼び覚ます。音質の根本が“リッチ”なのではなく“上品”と言うべきなのだろう。今ではほとんど無いオイル・コンデンサー仕様も、このそっけない音質に寄与しているようだ。今では入手困難な専用のキャビ(国産アルニコのサイズ違い2発載せ)と合わせれば、さらに切ないトーンを呼び出せる。
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一時はAcetone名義の楽器(シンセサイザーなど)も作っていた、日本ハモンドのブランドJugg Box。Mesa/Boogie“Mark I”のコピーで同ブランド渾身のフル・チューブ・アンプ“ONE”や“TWO”、さらにその廉価版とされる“V1”や“V2”は、今でも歴代最高クラスの国産真空管ギター・アンプとして名高いが、いかんせん当時の国内ユーザーには高嶺の花だった。そんな中、“Stuff”シリーズはそれら高価な海外オマージュ製品とは違い、日本ハモンド独自のサウンドを打ち出し、ミドル・クラス・コンシュマー用として大ヒットした名機だ。フェーズ回路用の松下製12AX7とパワー部にRCA(初期のみ。後発ものは他の米国ブランドや国産のNECなどが搭載された)の6L6GC真空管が用いられたプリ・ソリッド式で、同世代のRolandの“Bolt”シリーズを彷彿とさせる。全体的に滑らかで広がりのある音像と、ややブーミーな低域が特徴的。プリ部の特性による違いか、前述の“Bolt”よりもドンシャリ気味で、歪みはきめが細かくロック向き。出音は底に溜まったパワーがあり、スマートでは無いにせよ主張のある音だ。イコライザーも幅広く効き、ストレス無く音作りできる点は評価できるが、マスター側のボリュームにも多少のゲインがあるので注意が必要だ。フル・チューブのものとは違ってやはりピッキングでニュアンスを出し難いが、程よいコンプ感も備えた音粒のバランスの良さは、多方面のジャンルで十分使って行ける小器用さがあった。“Stuff 60”にはスピーカーにALTEC搭載モデルも存在し(G-AL)、かなりブギー・サウンドを意識したガッツのあるトーンを呼び出せるのだが、一時期のビンテージ・スピーカー高騰の折にのきなみハンターによってスピーカーのみを抜き取られて転売されてしまった個体としても知られている。サイズ違いの“Stuff 020G”や“Micro Jugg”もあり、今でも所有者の多い国産アンプの一つ。
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ミユキ産業が母体のブランド。後のELK。60年代の代表的な国産プロ仕様アンプとして有名で、まるでオーディオのような高級な造りで組まれている。Acetoneもそうだったが、初段のプレート・フェーズを6AQ8真空管で整合させる発想はギター・アンプとしては当時の国産機特有の構造と言える。“60”はパワー管が6CA7で整流管が5AR4、“30”は6BQ5と6CA4という組み合わせで、プリ管(12AX7)の数も4と3と違うので、同じシリーズでも傾向はやや異なる。“60”の音はぱりっとしている中にも甘く中域に余裕があり、歪みのエッジこそ無いがかなりブリティッシュ・ライクな音像だ。角を削ったHiwattみたいなサウンド……は言い過ぎか。しかし、ダイナミック・レンジも広く、相当なポテンシャルを秘めたアンプだ。これが60年代の国産アンプの実力だと思うと、感動すら覚えるほどにギター・アンプとして完成している。“30”の方は“60”に比べればやや押し出しに欠けるものの、くりっとしたアタックとタイトなロー・ミッドを備え、コンプ感が強く、サステインにも膨らみがある。共に個体の歪みには期待しない方が無難だが、その適度に解放された朴訥なトーンは、今の時代には無いメランコリックなイメージを呼び起こす素晴らしい音質だ。今、このアンプが国産であれば一大ムーブメントになるかもしれない……。
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Echoが社名を変更したエルク電子(株式会社エルク)のブランド。フェンダーのコピーから始まり、未だにファンの多いVesserシリーズや、80年代以降のFender Japan製アンプの製造でも知られる。“VIKING”シリーズは、様々なマイナー・チェンジを繰り返し、後には完全なソリッド・ステートにまでなってもこのシリーズ名を受け継いだ、時代に翻弄された国産名機。“100”、“50”は初期のフル・チューブ仕様の製品で、ロゴが筆記体のものはその中でも最初期型。当初はパワー部の真空管の供給不安定により6CA7(EL34)の代わりに50HB26が使われていたものもあったようで、ソリッド化の流れは必然だったのかもしれない。プリ部に12AX7 x 4、そしてフェーズに6AQ8管が用いられている点などは、Echoの“Custom Amp”シリーズから引き継がれたものである事が推測できる。ただ、整流管が廃止されダイオード仕様になった事で、Echo時代より音がブライトになり、サステインも出るようになった感がある。鈴鳴りとは言わないまでも、高音の倍音がくっきり出て、より現代的なトーンにシフトしている印象は否めない。ハムバッカーを載せたギターで弾くとそれはさらに顕著で、いなたいトーンが決め手のブルージーなロックにはこちらの方が向いているような気もする。ただ、やはり歪みには芯が無く、圧力もきめ細かさも不足しているので、本当の意味でモダンな音色には耐えられないのが惜しい。とはいえ、Echo同様、やはりこのトーンも他では味わえない唯一のものであるとうことは言うまでもない。
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長きにわたる純国産ギター・アンプの歴史とともに歩んできた、今は亡き東京サウンドのブランド。ここに紹介するのはFLIPシリーズ前のフル・チューブ・アンプ。“1100”タイプ(1100D Reverb Custom/1100S Reverb Rockを含む)は70年代を代表する同ブランドの100Wフラッグシップ・モデルで、基本的にFender“Twin Reverb”のコピー。12AX7 x 4、12AT7 x 4に、パワー管に6L6GCをチョイス(いくつか6CA7が搭載されているものも見かけたが、詳細は不明)。コピーとはいえ、Fenderほど高音がきらびやかなわけではなく、暖かみのある音質。トランスの性能の違いだろうが、全体にピークが抑えられており、ピッキングに一瞬遅れて高音の出足に角が無くなる感じだ。アタック自体は程よく分離が良くリッチなので、ナローな音質だと理解すれば実に上質なサウンドと言える。ピーキーでない分、シングルコイルで使っても耳に痛くなく、横に広がる音質を楽しめる。120Vスイッチで米国用高電圧に切り替えても、傾向は基本的に同じ。音はややブライトになりミドルの倍音も増すが、非力感は否めない。ただ、アキュトロニクス(米国Hammondのリバーブ部門が独立したブランド)製リバーブとの相性は抜群で、Fenderの金属感のある響きとは違って、不思議な奥行きを感じる深い濃霧に包まれたような質量を感じる残響が魅力だ。“1050D Reverb Jazz”はパワー管を半分に減らした50W仕様。“1030 Reverb Combo”はGA-820直系のシンプルなコントローラーを持つアンプで、パワー管が6BQ5(EL84) x 2というロー・パワー・コンボ。こちらはドライバー回路に6AV6真空管を装備した少し特殊な音質を持つ。思った以上にピュアな音色を持っており、倍音もうるさ過ぎずちょうど良い枯れ感と透明感を持っているので、ホロウ構造のギターとカントリーなどをやるのには最適。
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アヲイ音波研究所のブランドとしてスタートし、後にブランドごと会社として独立してできたTeisco。“71C”は、プリ管に当時良くスーパーラジオなどに用いられていたミニチュア管6AV6、整流管に日立6x4、パワー管に6AR5という構成の4W仕様。なかなか味のある音質で、ロー・パワーながらしっかりとミドルに重心があり、高音は多少ガサガサするもののピッキングにもよく反応し、硬質な倍音も感じられる。低音はあまり出ないので底が抜けた印象は拭えないが、ピークの鼻先を曲げてくる切ないサステインの朽ち折れ観は、素晴らしく叙情的だ。まさに60年代という「時代」を感じる、そういうアンプだ。シリーズにはリバーブ付きの“71-R”もあり、そのチープだが味のある空間演出に、黎明期のアメリカン・アンプを強く意識した機構が見て取れる。ちなみに、輸出用ブランドBeltoneの“AP-12”は真空管も含めてほぼ同仕様。同じくOnkyoのOEMだったブランドtaktにも外観がそっくりなモデルがあるが、こちらは整流管を持たないタイプで、どちらかと言えばGibson“Kalamazoo M-1”に近い。余談ではあるが、ソリッド・ステートを含めるとTeiscoはAudition、Melody、Marco Polo、King、Northland、Searsなどの名義で様々なアンプを供給しており、海外でも日本製Teiscoアンプの知名度は高い。まさに、Guyatoneと並び、旧世代の日本を代表するアンプ・ブランドの一つと言えよう。
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東京近郊の工房で造られていた国産ビンテージ・ギター・アンプの寵児Royal。“Bandmaster”などの名機を排出したこのブランドの中でも、“Super Bunny”はそのフラッグシップとして位置づけられる100Wアンプで、ジャパン・メイドとしては群を抜いて目を引く奇抜なオレンジ色のヘッド&キャビという偉容を誇る。整流部にダイオードを配置し、プリ部に12AX7 x 3と12AT7 x 2、パワー部には6CA7を4発搭載する構成で、一見するとその外見から誰もが思い描くような英国ORANGEやMarshallのような6CA7(EL34)管のザクザクとした歪みを想像しがちだが、音の方向性はそれらとは一致しない。“Super Bunny”はその容姿に反して全体的にはクリーン主体のアンプで、単体ではほぼ歪まず、ミドルの厚みもそれほどではない。かといって、フェンダーのような低音は出にくく、ふわっとライトに香るトレブリーなアンプといった印象。EL34系のブライト目なアタックの歯切れ良さは健在だが、クリーン系で必要とされる立体感のある“コシ”はそれほど無いようだ。個性が無いかと言えばそういうわけではなく、その朴訥な余韻がクセになるちょっと珍しいタイプの音色だ。Jazzチャンネルはクリーン用で、特にその傾向が強く、音量を上げて行ってもあまり高音の倍音が派手にならずとても丸みのある音に整ってくる。ダイナミクスそのものは良いので、このクリーンはかなり実践向きだと感じた。一方、RockチャンネルはBoostをONにしてもジージーとした歪みにしかならず、モダンなサウンド適性は皆無といえる。エフェクターの乗りも今ひとつなので、クリーン主体の使い方をすれば本領が発揮できるだろう。ちなみに、ラインナップにはパワーが50Wの“Super Bunny Jr.”もある。
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稀代のアンプ・ビルダーとして知られるマイク・ソルダーノとのコラボで生まれた、待望のYAMAHAブランド謹製フル・チューブ・アンプ。巻き弦をピッキングした瞬間に訪れる、切り裂くようなフィード・バックと粒立ちの良いファット・ドライブ……まさに、ザ・モダンと言うべき音色を持つこの個体は、近代ハイ・ゲイン・サウンドの名匠と言われるソルダーノの音色そのもの。逆に言えば、ソリッドが中心とはいえ独自のアンプ開発を行ってきたYAMAHAとしての音色はほとんど感じられることはなかったが、それを置いても圧倒的な完成度を誇るモダン・アンプに仕上がっていることは疑いようの無い事実だ。クリーンとドライブの2チャンネル構成で、しっとりとした艶のある密度の高いクリーンから弾けるように軽快かつ熱のあるクランチ、更にはどこまでも伸び上がって行く彗星のようなきらびやかな圧力を備えたリードまで思いのまま。デザイナー自身のブランドSOLDANOのアンプより音は全体的にタイトで引き締まっており、むしろクリーン適性は広くさえ感じる。7つもの12AX7管(send/return含む)を備える前段が、贅沢なドライブ階層を生み出しながらも高純度のダイナミクスを有している点はさすがだ。パワー管に6L6GCという低音の良く出る粘りのあるサウンドを持つ管をチョイスしているのもよく合っている。YAMAHA名義でも全く手を抜かないソルダーノの手腕も凄いが、このアンプがモダン・ドライブの風潮に完全に乗り遅れていた国内ブランドから排出されたという異様は、後の世代になってみるまでもなく、もはや時代をいくつも飛び越したかのような怪物アンプとしてその孤高を知られる存在だ。今でもそれに匹敵するものの無い、国産ブランドでただ一つの歴史的モダン・ハイ・ゲイン・アンプと言っても過言では無いだろう。
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80年代終わりから90年代にかけて市場を賑わした国産アンプ“FAT”シリーズ。FATとは「Fender All Tube」の意で、確かにその通りプリにもパワーにも真空管が使われている。ただし、プリ部が12AX7 (それぞれ、2本、3本、3本と数は違う)で共通なのに対し、“FAT 1”はパワー管が6L6GC x 1のほぼクラスA動作、“FAT 3”が6V6GTA x 2のプッシュ・プル、同じく“FAT 5”が6L6GC x 2という、管や動作に差があるため音もまちまち。シリーズを通して全体的に良く歪む印象だが、総じてプッシング・レンジは狭く、荒く乾いた音質。ただ、高域がザリザリする事を除けば、反応も良く、高級アンプさながらの密度のあるミドルに好感が持てる。“FAT 1”は他の機種に比べて多少サステインに粘り気もあり、アタックも濁りが無くて使い易い印象だ。逆に“FAT 3”はアタック音が拡散し易く、今ひとつ平坦でパワー感に欠ける印象だった。その反面、クリーンは温かいので、ミドルの盛り上がりを利用して指弾きなどでうまくその特性を生かしたい所だ。“FAT 5”は一番コンプ感があり、低音も出ている。本家USAの“Twin Reverb”系を意識したサウンドには違いないが、高域はピーキーではなくすっきり抜けてくる感じ。これはこれでなかなか弾き心地の良いアンプだ。どれもスピーカーはEminence製のオリジナル・モデルを搭載しており、張りのある音を出す。音の特性さえわかっていれば使いどころは多く、まだまだ現役で動く個体も多数存在しているので気になる人は探してみるのも良いだろう。
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オーバー・ドライブ系エフェクターの最右翼デバイス、Ibanez“Tube Screamer”の名を冠した“チューブスクリーマー・アンプ”。あらゆるジャンルのプレイヤーから支持される最も信頼の置ける歴史的ドライブ・ユニットを内包しているというだけでなく、今、現段階において市場で気軽に手に入れられる唯一の国産既存大手の手がける現役フル・チューブ・アンプであること、その意義は大きい。いくつかのブティック・メーカーを除き、もはや死に体ともいうべき惨状にあった国産フル・チューブ・アンプ市場において、最も必要とされる音と仕様を備え、なおかつ安定的にそれを供給するラインを維持する事がいかに重要な業績かを、ここであえて語る必要は無いであろう。そして、その音が値段を遥かに超えるポテンシャルを有しているとなれば、なおさらである。アンプは12AX7プリによるハイ・ミッドに重心のあるモダンな音質を基調としており、5Wモデルでは6V6GT x 1、15Wモデルには6V6GT x 2、30Wモデルでは6L6GC x 2という組み合わせで、パワーに余裕があるため、クリーンは透明感があり引き締まった音質を備えている。音量を上げるとすぐに熱量も上がり、ざらついた高音の倍音が心地よくパワー・レンジを押し広げて行くのがわかる。そこへ、本機の真骨頂とも言うべき“Tube Screamer”モードをONにすると、一気にミドルが分厚くなり、チューブ特注のパンチと豊潤なサステインが追加される。“Tube Screamer”セクションには“TS-9”と同等のアナログ回路が専用にモディファイされて積まれているようだが、その音は実機の“TS-9”よりも、なんというか……生々しい反応性があった。エフェクターをラック用等にノック・ダウンした経験のある方ならわかると思うが、たとえ全く同じ回路を移植してもグラウンドや接点の関係で音質の精度が違ってくる事がある。“チューブスクリーマー・アンプ”の場合、それがプラスの方向に作用しているのがわかる。スピーカーも、“5TVR”ではすっきりとした音質のJensen“C8R”、“5”ではCelestion“Tube 10”、他の機種には専用スピーカー・キャビネット“TSA112C”にも搭載されているCelestion“Seventy80”が推奨されているが、特にヘッド・タイプには、BognerやCAAのCelestion“V-30”を搭載したクローズドの豆キャビを合わせてみて欲しい。その音は……まさに至福だ。
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2008年に発売されたGrecoのチューブ・アンプ。12AX7と6V6を一本ずつ装備したアンプで、意識したのがFender“Champion 600”あたりである事は察しがつくが、実際のトーンは意外に違っていた。歪ませると高域全体がギンギンに伸び上がって行く“Champion 600”に比べ、“GVA CUSTOM”はボリュームが加算されるに従ってハイ寄りに頭打ちになり、ミドル側に重心がシフトしてくる。結果、フル・アップにしてもエッジ感の少ない暖かみのあるトーンに落ち着く印象だ。低域の反応はあまり良くないが、イコライザーはしっかり効くので、ブーミーにならない程度に低域を増やしてやればかなり扱い易いトーンになるはずだ。1ボリュームなので致し方ない所だが、ブライト・スイッチ代わりに、きらびやかなモダン系オーバー・ドライブや反応の良いトレブル・ブースターを前段に咬ませると大化けしそうだ。この機種の優秀な所は、この価格帯にして8Ωのスピーカー・アウトを装備している点で、更に口径の大きなスピーカーを接続する事で、よりギター・サウンドに適した低域の豊かさを得る事ができるだろう。音質的な適合性も高く、非常にコスト・パフォーマンスに優れた製品なので、初心者でも安心して使えるチューブ・アンプとして推奨したい。
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このメーカーの事をエフェクター等でご存知の方がいたとしたら、この“Tweed Tone”の中がどんな材で満たされているかはすぐに想像がつく事だろう。これはまさに、本物のツイード・アンプのクローンだ。経年を経てポッドは摩耗し、コンデンサや抵抗といったパーツやコアな部分の配線は交換され、真空管は安易なチャイナ管やロシア管に換装、スピーカーはゆるみ、トランスも悲鳴をあげている……そんな気の毒な『本物』よりも、この“Tweed Tone”は、厳選された元気なビンテージ・パーツや最高の相性の真空管その他消耗品の選別を経て丁寧に組まれ、「今、最高の音を出す『本物』」として存在するアンプになっている。よってその供給も必要なパーツが一つでも揃わなければ造られる事は無いという、最も贅沢で、しかしこれ以上の本物は無いという、50年代に元気だったツイード・アンプの本物の音がそこにある。かーん、と遠くで硬く大きなものが弾けるような毛羽立ったクリーンが、ボリュームを増すにつれて擦り上げるように急激に高域全体に艶を増して行く。そして、ある程度の音量が上がるとそこから先は何かを無理矢理押し広げるかのようなジリジリとした歪みだけが増幅し、空間を埋める。それがやがて、フル・アップに達すると先端を研ぎすました一本の槍のごとき極太の飛沫が鼓膜をぶん殴ってくるようになる。本当に凄いアンプだ。何一つ欠けてもこんな音は出ないだろう。今回リサーチで出会った台数はたった2台だが、いずれもプリ段に12AX7と12AY7を一本ずつ、整流管に5Y3、パワー管に6V6GTが2本という組み合わせだった。スピーカーはMojotoneのアルニコ・ユニット。見事な相互効果である。
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PCIのブランドE.W.S. が造る、50年代のツイードFender“Champ”のクローン・モデル。真空管はECC84(12AX7)x 2、6V6 x 1のクラスA動作。ただし、整流部は真空管ではなくソリッド回路だ。スピーカーにはこれまたクローン“Champ”定番の、立ち上がりの早いWeber製アルニコ8インチが採用されている。最大の特徴は、やはりMasterボリュームが装備されている事で、小音量でも気軽にフルテンのサウンドが楽しめる点にある。たかが4.5W、されど4.5W……日本の住宅事情には嬉しい限りである。高音の倍音が飽和していく中で、突き抜けるピークの襞が折り重なり、融解した硝子よろしく軋みをあげる様はまさに極上のトーン。ピッキングに反応して割れるギリギリの音像で切り返すフィール……この反応こそまさにビンテージ。今は一時的に生産をストップしているが、生産再開が待たれる良質アンプだ。
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ギター・テックとして数多くのプロの現場を経験した篠原勝氏が設計したアンプ。モダンなクリーンを究極まで研ぎすますとこうなる、という見本のようなサウンド。最初に感じるのは、広大なレンジ感とレスポンスの早さ。あっさり、と言うのとも違う、パシン、と水を打つようなタイトで鮮烈な立ち上がりが、わざとらしく盛り上がったりせずただ硬質なまま抜けてくる。あまりにもフラットな手応えに驚く間もなく、音は逆にピッキングに鋭敏に反応して空間の隅々まで形を変えながらきっちり届いて行く。その音色は総じて“生き物”のよう。コンプ感もアタックの倍音も整理されてしまって豊潤とは言いがたい一方で、手元の表現力だけは恐ろしく拾いまくる。はっきり言って、これは危険なアンプだ。本来ギター・アンプの最も美味しい部分である大胆かつ曖昧な気持ち良さを奪ってまで、プレイヤーのセンシングをロケートする……ピッキングの表現に自信の無いプレイヤーならば、そのむき出しのダイレクトさに慄然とさせられる事だろう。ただ、きっちりハマれば、これほどプレイヤーの個性を引き出すアンプも他には無いはずだ。音質はくっきりとした分離の良いミドルと、やや暗めの艶っぽさと立ち上がりで一瞬香るブライトなクリスプが剛胆に交わった迫力のあるトーンだ。あえて例えるなら、6L6を積んだ昔のCAE“OD-100”で、フル・アップに近い状態でプレセンスをあげて行く途中に一瞬香る、熱が入るか入らないかギリギリのクリーン……に近いか。Celestion“Classic Lead 80”というレスポンスに優れたタイトな音質のスピーカーも、そのサウンドに貢献しているのだろう。真空管はECC83 x 3、6V6 x 4、そして整流管にGZ34 x 2というパラレル・プッシュ・プル駆動。チューブ・バイアスやマッチングの調整を自身で行える機構といい、本物の、玄人のためのアンプと言えるだろう。
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国産ビンテージ・アンプ好きなら思わずニヤリとしてしまうそのルックス。大手代理店で数々のアンプ修理を担当した実績を持つ大須賀康宏氏が運営するブランド、Effect Gearでそのアンプは造られる。パリっとした古き良きロックの響きを持ち、絶妙に枯れたトーンが中空に爪を立てるように悶えながら舞い落ちる様は、50年代、60年代のトーンそのもの。実に小気味良く、カッコいい。そして、適度に粗野で攻撃的。薄い合板をあえて使った奥行きの短いキャビネットと、アルニコに近いピュアなレスポンスのJensen“C10R”の組み合わせは絶妙で、強い飽和とざらついた歪みを叩き付けてくる12AX7 + 6V6というチューブの組み合わせも適度にワイルドさを拡散させながらもしっかりと音の芯を受け止めている。痒い所に手が届くように、ちょうど良く高音を押し上げてくれるブライト・スイッチを見ても、音作りのセンスの良さが良く伝わってくるアンプと言える。3Wのサイズでありながら高品質なアッテネーターを内蔵している点も宅録派には嬉しい仕様だ。楽しいアンプをお探しなら、是非このアンプを試して欲しい。
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mt’labやKatanasoundでおなじみの高木製作所が手がける高級アンプ。一音弾けばわかる、このDumbleテイスト。リッチで奥行きのある歪みと、まどろむように絡み付く静謐なクリーンを、小細工無しに音量のみで両立できる絶妙なチューニングはさすがの一言。整えられた倍音が幾重にも重なって音に厚みを生み、それでいて立ち上がりがもたつく印象は全くなく、実に実践向きに使い易く仕上がっている。クリーンにして、ストラトのリアで弾くと、ただ硬いだけでなく沸き立つ様な新緑のトーンで空間が満たされて行くのがわかる。そこへちょっと深くピッキングしてやるとキラキラとしたハーモニクスによる抑揚が加わり、とたんに熱を帯びたドライブが生まれる。素直に良い音と言える、高品位なトータル・サウンドを持った個体だ。チューブ・バッファを搭載したエフェクト・ループ・モデルでは、バッファ・サウンドをそのままライン・ドライバーとして使用するのもオススメだ。パワー部の6L6管をバランス良くプッシュできるので、低音は引き締まったまま音の輪郭と粘りが増してくる印象だ。こういうアンプを一台手元に置く事で、プレイ自体が進化していくような、そんな気分を味わえるアンプである。
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自身もプロの現役ミュージシャンである事を活かし、現場で培ったセンスをアンプやエフェクターというデバイス製作に注ぎ込む仕事人・秋間経夫氏。彼の造るアンプは全て受注生産品でワン・オフもの。基本的にこのブランドのアンプは、ビンテージのキャビやシャシーを利用し、秋間氏自身の作製したアンプ・サーキットを組み込むことで完成する。今回紹介するのは、氏のメイン・ラインの一つ“CHARIOT”シリーズの中でも最初期に造られたCrews Maniac Soundとのコラボ・アンプ群。シリーズで好評を得ているモード・セレクターはすでに装備されており、6BQ5(EL84) x 2、6CA(EL34) x 1というパワー管のセレクトを5つのパターンで組み替える事が可能。当然、管が一本しか使用されない場合はクラスA動作になる。12AX7 x 2のプリ部で造られた滑らかで張りのあるブライトなトーンを、出力管のチョイスでニュアンスそのものを変化させるのは実に楽しい。一番変わるのはハイ・ミッドの力感とダイナミック・レンジで、ギターとの相性を第一に考えるのがセオリーだが、あえてアクの強いサウンドに固執してみるのも面白い。キャビは可愛い黄色に塗られたCrews製で、ギター本体に使うような目の詰まった単版で加工された特徴のある仕様で、多少騒がしい感じはあるもののが、実に開放的に鳴り、音の広がりを感じさせてくれる優秀なキャビだ。バランス良く引き締まった音のEminenceバージョンも良いが、特にオススメは貴重なアルニコとTone Tubbyの組み合わせ。ブライトでありながら、信じられないほど立ち枯れたトーンと張りつめたタッチを呼び起こしてくれる、そんなサウンドがそこにはある。
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ビンテージ・サウンドの求道者として名高い、ヒストリーク・ギターズ(Historique Guitars)代表・今井康雅氏が手がけるHGアンプ・シリーズ。ツイード“Champ”を現代に蘇らせたオリジナルの“HG-AMP”(4.5W)を、氏自ら20Wにパワーアップした“HG-II”がその最新バージョンで、さらにスピーカー・ケーブルをAIW(American Insulated Wire Corporation)社製“Western Electric AWG#18”の復刻ケーブルに換装したアップ・グレード・バージョンも存在する。「ポイント・トゥ・ポイント」の完全ハンドメイド仕様で作り出されるその音像は、まさに往年の名機そのものだ。つんざくように暴れるざらついたドライブに、溢れ出る雑味の端から差すようにこぼれ落ちる倍音の輝き……良くも悪くもビンテージ・アンプの“はしっこい”蛮勇を見せつけるそのワイルドな20Wフルテンの歪みにこそ、マスター・ボリュームの効果は絶大と言えよう。アップ・グレード・バージョンなら、いくら音量を絞っても歪みが細くならない上、クリーンでも中域の立体感が違うことがはっきり感じ取れる。12AX7 x 2、6V6GT x 2という真空管構成に、本家ビンテージ“Champ”と同じパイン単板のキャビという組み合わせはやはりハズレが無い。無造作なストロークに反応する“ジャリーン!”という毛羽立つトーンに、ギタリストならば本能の赴くまま、自らの内に共鳴するパッションを対峙させてみたいと思う事だろう。
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現在は完全受注生産となった、個人製作による純国産ブティック・アンプ・ブランドBlue Soul TUBE AMP.WORKS。“Magicship Special”はビンテージ指向のミドル・ユーザー以上をターゲットにした同社のクラスAロー・パワー・コンボで、シャシー、線材、半田、ターミナル基板の材にまで拘って造られた、ハンド・ワイヤード仕様の6Wアンプだ。ECC83(12AX7)を前段及び二段目ドライブ部に、パワー管に6V6GT、整流管に5Y3GTという構成はまさに60年代以前のFender“Champ”を彷彿とさせるが、音色はこちらの方が上品で滑らか。歪み出しも“Champ”に比べると遅く、逆に飽和感のあるミドルの色彩が濃いクリーンが持ち味。いかんせんスピーカーが8インチのため、Bassコントローラーをいっぱいにしてもロー・エンドにせっかくの音色の派手さが伝わって行かないのが難点。ただし、トータル9kgでこの音を出せるコンボという事を考えると、低音の表現力を取るか悩ましい選択となる。エクステンション・アウトがあるともっと使い勝手が増えるように思えるが、そこまで望むのは贅沢なのだろう。このままでも乾いたテキサス・クリーンとは十分に相性が良いアンプなので、ジャンルを考えて使って行けば素晴らしいサウンドを約束してくれる製品である、という認識は持っておくべきだ。
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真空管アンプは楽しい。私はチューブ・アンプが大好きである。
真夏のクソ暑い部屋の中でチューブを太陽のごとく発光させながらウンウン唸りを上げたり、真冬のスタジオでちっともスタンバイ・ヒーターの熱が上がらずいつまでもぼそぼそ声で呻いているそいつを見ると、可愛くて仕方が無いのだ。このハイテク時代に、なんて不器用で、不細工で、融通が利かない奴らなんだろう……と思う反面、その不器用さこそが『真空管』の本質である事も私は知っている。
ギター・アンプで使う管などたかが知れているが、それにしても何という規格の多さ、統一性の無さだろうか。最初の規格が開発されてから100年以上経ってまだこの無法地帯……実に野蛮な世界である。互換性があると知ってはいても、初めて使う名前の管を挿す背徳感には凄まじい物がある。もし、万が一間違っていたら……と、思わず、煙を上げて燃え上がるアンプを想像してしまう。電気的にはそっくりな性質を持っていても、ピンの配列が異なる管もあったりするから油断できない。今回のリサーチ中にも、アンプのオーナーが知らずに7591管のあった所に6L6管を突っ込んでいたケースがあった。火を入れる前に気がついたからいいようなものの、そのまま使っていては大惨事になる可能性もあった。
そうそう、あと、真空管と言えば、偽物についての話題は外せない。多数の管を見てくると、どうしても出会ってしまう。ビンテージ・チューブを買う時には特に要注意だ。輸入して買った新品のプリアンプに偽物管が差し込まれていた事もあったなあ。東欧の偽物管をさらに東欧の偽物で上書きしているパターンもあった。もはや、山師の心境である。
ギター・アンプで真空管を扱うのには、基本的にメーカー、年代、種類、互換、ピン配列、電気特性(バイアス含む)、劣化、そして音の知識が必要なのだが、まあ、ほとんどの人はそのうち半分も知らずに抜き差ししてしまっている。考えてみれば、ミュージシャンのような感覚的な人間に、真空管のようなデリケートな機械をいじらすのはそもそもミスマッチなのではないかとさえ考える。だが、なぜか、そういう細かな事を気にせず勢いでやっちゃう人ほど、真空管アンプをうまく使いこなせてしまったりするから不思議だ。そんな理屈で割り切れないところも、何だか、真空管と言うものの大切な特性のような気がしてならない。
だが、長いこと真空管と向き合ってきて一つだけはっきりとわかった事がある。それは、「音」のことだ。音だけは皆に共通して、使ってみなければわからない。耳で聞くそいつだけがただ一つ、真空管の正直なエッセンスなのだろう。まあ、なんだかんだ言っても、ギター・アンプにとって、真空管はそれさえよけりゃ何でもいいって話で(おいおい)。
それでは、次回(8月27日/水曜日)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。