AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
MESA/BOOGIE
あのポール・マッカートニーも長年愛用するメサ・ブギー・アンプの最新ラインナップを徹底解剖! プロ・ミュージシャンによる試奏動画と詳細なインプレッションを中心に、昨年発売されたオール・チューブの2機種を含む全4モデルの詳細な機能解説、開発者インタビューなど、あらゆる角度からメサ・ブギーの魅力に迫ってみたい。
三部構成のパート1は、プロ・ミュージシャンによる試奏動画とインプレッションをお届けしよう。試奏者は、伝説的サザン・ロック・バンド“The Savoy Truffle”に在籍し、現在はさまざまなセッション/レコーディングにも参加するベテラン・プレイヤーの小笠原義弘と、実力派の若手バンド“HaKU”で活躍する三好春奈のふたりが登場。かつて音楽学校で講師と生徒の関係だったこともあり、現在でも師弟関係が続いてる息の合ったコンビでもある。まずは小笠原&三好の豪華なスペシャル・ベース・セッションからスタート。小笠原はBass Prodigy Four:88、三好はBass Strategy Eight:88をチョイス。どちらも昨年発売された最新のオール・チューブ・アンプだ。続いて小笠原によるM-Pulse WalkAbout、三好のM9 Carbine試奏と続く。各モデルのサウンドと徹底インプレッションをご堪能あれ!
──それでは各モデルの印象をうかがっていきたいと思います。まずはフルチューブで最も高出力のストラテジーですが、三好さんはこれが一番気に入ったそうですね?
三好:そうですね。今使っているアンプ(メサ・ブギーのM-Pulse Big Block750)よりもクリアでパワフルな感じがありました。バランスが良くてパワーもあって、安心して弾けますね。
小笠原:思ってたよりもふくよかさがすごくあったよね。もっとザラっとしててブァーッとした音色だと思ってたんだけど、弾力性もちゃんとある良い音がしてたと思う。高域もバランス感が良いしね。
──ボイス・コントロールで中域を変化させることができるのも特徴です。
三好:この機能はおもしろかったです。使いやすいですね。キャラクターの変更もバチっとできるし、イメージが変わってしまうことなく、思ったとおりにキャラが変化してくれるような気がしました。
小笠原:これがついてると初めから方向性を決めやすいし、音作りがしやすいんじゃないかな。コントロールがこれくらいシンプルだといいですよね。僕は普通の人よりも低音を上げるみたいで今回もトレブルが2とかなんだけど(笑)、これだけローを上げてもまったく問題ないです。ローの音が独特ですね。ややシルキーといいますか。あと、ピッキングの音と実音の出方も良かった。低音が出るスピードがとても速いのでピッキングと低音が同時に出てくる感じでしたし、それが速いフレーズにもついてきてくれたので、気持ちよく思いきり演奏できました。少々強いピッキングでも音のタイムラグもないし、バランスも抜群です。いわゆる野太い音にワイルドなピッキング音という感じですね。
三好:インプット・セレクトはブライトにしたけど、カリカリな音にはならなかったですね。
小笠原: フルチューブにしてはかなり扱いやすかったと思うな。
三好:うんうん、私もそう思いました。
──グラフィック・イコライザー(以下グライコ)についてはどんなメリットがありそうですか?
三好:私は今回これを使わなくても良い音がすんなり決められました。基本のセッティングを決めてから、微調整に使うのがいいのかもしれません。
小笠原:僕は普段からあまりグライコを使わないんですけど、おそらく多弦ベースを弾く人なんかにはありがたいんじゃないかと思いますよ。
──では続いてプロディジーにいってみましょう。こちらはストラテジーの兄弟機種で、サウンドの方向性はそのままサイズダウンしたモデルです。
小笠原:まさに兄弟的な感じだよね。でも案外こっちのほうが音をまとめやすいのかもしれない。
三好:確かにストラテジーよりちょっとスッキリしているイメージがありますね。アンプで思いどおりの音を作ってもバンドに入るとイマイチなことがあったりするんですけど、これは作った音がバンドでそのまま抜けて聴こえそうです。
小笠原:キャラクターはストラテジーと完全に一緒と言ってもいいくらいだよね。特徴を挙げるなら、低音がかなりまとまりやすいというかコントロールしやすかった気がする。
三好:これもあんまりEQをいじらなくても良い音が出ましたよ。
小笠原:ピッキングの強弱にもキレイについてきてくれて、レスポンスが高いという感じ。“何を弾いても同じ”という風にはならないから表現がしやすいです。自分の音がちらばって聴こえないし、弾きやすいよね。
──フルチューブの2モデルはジャンル的には何が合いそうですか?
小笠原:なんでもいけると思いますけど、大音量で派手な音を出すのが似合うんじゃないかな。歌モノよりもロック系に合うんだろうなと思いますね。
──セミ・パラメトリック・イコライザー(以下パライコ)搭載のMパルス・ウォークアバウトの感触は?
小笠原:弾力性のある音がしてて、これも良かったね。
三好:意外に甘い音色でした。
小笠原:パライコがついているのはありがたいですよ。僕は200Hz(中音域)という数値が好きで、いつもこの帯域を強調するように音を作っているんです。これが付いていると小さい音でも大きい音でも安定するから、小箱でも大会場でも使えそう。僕らが思っているメサ・ブギーのイメージとは若干違った、甘い音が出ますね。ルックスとは裏腹というかさ。
三好:それでいてすごくパワーもあります。
小笠原:三好さんの音を聴いてても、ハイやミッドが嫌な感じではなかったね。
三好:最初は音が甘いから物足りないかなと思ったんですけど、ちゃんと狙ったところを上げればバシっとパワーが出せました。
小笠原:これもオールラウンドにいけると思いますよ。フルチューブとかのデカいモデルに比べるとメサ的なキャラクターはそこまで強くないから、逆に歌モノとかスタジオ仕事にも合いそうですね。操作性が簡単でビギナーでも扱いやすそうだし、コンパクトなデザインだから、ライヴハウスなどの機材として常設するのもありだと思います。
三好:会場によって音が全然違うっていうときも、パライコがついていればすぐに修正が効きそうな感じですよね。
──M9はグライコとコンプレッサーを搭載しているのが特徴です。
小笠原:これは僕好みですね。野獣度が高い感じで(笑)。初めからコンプが自動でかかっちゃてるようなアンプがたまにあって、それはそれなりの良さがあるんですけど、そうじゃなく弾いた感じがそのまま出てくるっていうのがメサの一番好きな部分なんですよ。ピッキングがキレイに出てくるっていう話はどのモデルでも共通してるけど、これはまさにそれの王道的な感じです。思いっきりピッキングしても小さくピッキングしても見事に反映されますね。コンプが付いているからスラップ系とかにもいいんじゃないですか。
三好:5台(※)のなかでは一番潔い音がしました。スコーンという感じが良いです。いろんな音がたくさん鳴っているバンドにも合いやすそう。コンプが付いてるから使い勝手もいいでしょうし、フルチューブの2台よりはちょっとリッチな部分があって、すっきりしてますね。(※『ベース・マガジン』の特集ではM6 カービンも試奏・CD収録している)
小笠原:やっぱりメサ独特の硬質なロー・ミッドの感じはあるよね。
──レコーディングお疲れさまでした。まず第一印象はいかがでしたか?
小笠原:どれも伝統的なメサ・ブギーの音色を持ってましたね。ドライでパワフルで、低音のイカつさがすごい。もちろん各機種で音はかなり違うんですけど、M6はかなりイカつかったですね。あとはストラテジーが良かったかな。
三好:私も改めてメサ・ブギーらしさというものを確認したというか、低域の強い押し出しとレスポンスの速い感じが“らしさ”なんだなと思いました。ストラテジーが一番パワフルで、全帯域がどーんと波みたいに押し寄せてくるのが気持ちよかったのと、M6の高域がすごくキレイに響くのが印象に残っています。
──師弟関係であるおふたりですが、お互いの演奏を聴いてどうでしたか?
小笠原:三好さんが弾いているのを見たり聴かせてもらって、ベース・プレイはもちろん、音楽に打ち込んでいる姿勢がとても良いなと感じました。まだまだ年齢は若いけど、これからの日本の音楽を引っ張っていってくれたらなと思います。あと、彼女の一番の良いところは、音やタッチがキレイっていうことなんですよね。音量もずっと安定してるでしょ? ああいう風に弾けるプレイヤーって意外と少ないんですよ。
三好:ありがとうございます。私は学校の授業で小笠原さんに2年間教えていただいてたんですけど、先生の音をアンプで聴く機会っていうのがあんまりなかったんです。学校ではラインで聴くことが多かったので。今日あらためて見させていただいたらすごく迫力のあるプレイで、聴きながら“あ、私っておとなしいんだ”って思いました(笑)。勉強させてもらいました。
小笠原:ははは(笑)。僕はやっぱり1970年代のロック、ファンクから影響を受けたので、それらを強く意識したプレイをしているつもりなんですが、彼女は僕が全然知らないことをやってますよね。彼女が録音しているとき、最初はベースだけを聴いてたんで“一体何をやってるんだ?”と思ったんですけど、その後ドラムと一緒に聴いたら“なるほどな”と。おもしろいし、すごくモダンなんですよね。
──それは音使いやリズムということですか?
小笠原:そうですね。音程とか音の使い方も僕とは違うところがあって、すごいなと。勉強してるんだなと思いました。初めて会ったときに“あ〜彼女はプロ・ベーシストになって注目されていくんだろうな”となんとなく感じたんですよ。それに、かなりハートが強い娘だなとも思いました。そんなところが音やプレイに出てますもんね! 今日も演奏するにつれ、どんどん音数が増えていっていましたし。
──今回はおふたりとも違うリズム・トラックにのせて録音していただきましたが、試奏フレーズについて教えていただけますか?
三好:私はだいたい家でなんとなく弾いているときがあれくらいのテンポなんです。フレーズはリズム・トラックを事前に聴いて大枠を考えつつ、あとはアドリブで弾きました。
小笠原:僕はなるべく1970年代のロックの感じを意識して弾いてみました。やっぱりヘヴィに弾こうと思ってましたね。メサはうしろからゴーンと“うおら〜!”って感じで音が出てくるというか、そういうイメージがあるし、それがほかのアンプにないところです。
──メサ・ブギーを使い始め、現在もメインで使用しているそうですが、おふたりが思うメサ・ブギーの魅力とは?
三好:私はもう4年くらい使ってます。広がりがすごくあってエフェクターの音もキレイに鳴るし、低域のズーンというところも気持ち良くかつ速く出てくれるので、弾いてて心地が良いんですよ。
小笠原:僕はまずポール・マッカートニーが使っていたっていう理由から使い始めたんです。BASS 400+というモデルですね。あと“メサ・ブギー”っていう名前の響きと、思いきった野太い音がロックにバッチリ合うなと思ったんでね。それで使う機会があったので鳴らしてみたら、思ったとおりだった。自分でイメージしている音を声で表現するとしたら、そんな声にかなり近い音を作ることができるアンプなんだと改めて思いました。アンプとしてのキャラクターは相当強力な部類に入ると思いますが(笑)、ワイルドさだけではなく、そのレスポンスの高さから奏でられる音は、かなり繊細さもあるというのもメサの特徴ですね。
三好:男らしい人に合いそうなイメージがあります。
小笠原:そうだね。こういう大型アンプって弾いたことがない人は“とんでもない音が出ちゃうんじゃないか?”ってビビっちゃうんですけど、一度弾いてみたら印象が変わると思いますよ。思っているほど、暴力的なワイルドさではないわけですが、もれなく押し出しの強い音がついてきます! 三好さんの録音を聴いててもスピーカーが動いている感じがありありと伝わってきたから、レコーディングにもバッチリだよね。どれも音が良かったよ。
三好:私も小笠原さんが弾いているのを聴きながら“めっちゃ良い音だな〜”って思ってました。
──初の師弟対談はどうでしたか?
小笠原:よく“出演者として夏フェスなんかで会えたらいいね”って話したりしてて、そんなことを励みにお互い音楽活動を頑張っていけたらいいなと思ってるんですけど、今回のようなことがあると、何と言っていいかわからないくらい嬉しいですよね。三好さんはすごくハートが強いからやってこれてるんだろうし、そういうところはすごいと思う。ずっと変わらないまま、やってくれたらいいなと思います。もう父親のような気持ちですね(笑)。
三好:今回のお話をいただいたときはめちゃくちゃ嬉しかったです。いつかこういうことができたらいいなと思ってたので、夢がひとつ叶いました。あとはもう小笠原さんの演奏が目の前で聴けて大満足です。
試奏動画&インプレッションに続いて、各モデルの仕様・スペックの詳細を見ていこう。 メサ・ブギーの伝統的なアンプ作りの技術と、 最先端のテクノロジーが惜しみなく投入された4つのモデルを紹介してみたい。
465W/250W/125Wで出力切替が可能なオール・チューブ・アンプ・ヘッド。真空管は、プリ部には12AX7が3本、パワー部にはKT88が8本使用されているが、これまでパワー部にMOS-FETを採用してきた同社としては、原点回帰かつ新機軸でもあるアンプだ。その表われが、8本のKT88を意味するモデル名と言える。コントロール面で目を引くのは、同社の看板ギター・アンプ、マーク・シリーズでもおなじみのグライコで、本機には33Hzから8KHzまでの9バンドを搭載。さらに、もっと手軽に音作りができるようVOICEというプリセット・トーン・セレクターも装備されている。このVOICEでは①スラップ向きのミッド・カット+ロー・ブースト、②ロー・ブースト、③バイパス、④指弾きやピック弾きのアタック重視のミッド・カット、⑤超ドンシャリが選択可能だ。また、SOLOという独立のブースト・ヴォリュームも設けられており、これらのオン/オフは別売のフットスイッチで任意に切り替えられる。同社の柱である真空管アンプにこだわりつつ、現代的な多様性も追い求めたアンプだ。細かいところでは、3バンドEQもBASSとTREBLEはブースト&カットが可能なアクティヴ型、MIDはカットのみのパッシヴ型となっているほか、3タイプが選べるインプット・セレクターは、NORMALがややローファイ指向となっているのがおもしろいアイディアだ。
【REAR PANEL】
❶Ext Switching:外部スイッチを接続できる4つのフォーン・ジャック。一般的なシールドに対応し、それぞれのオン/オフ操作が可能。 ❷Footswitch:別売りの専用フットスイッチを接続する、8-pinのDINタイプ(メス)端子。 ❸Speaker Output:フォーン・タイプのスピーカー・アウトプット・ジャック。4Ω×2、8Ω×1、2Ω×2という構成で幅広いキャビネットに対応。ケーブルがジャックに接続されていないときはオート・ミュート回路が作動する。 ❹D.I.Out&Others:DIアウトプット用の3ピンのオス型XLRジャック。右のミニ・スイッチの“D.I.LIFT”は回路をシャーシグラウンドから切り離し、コンソール接続時のノイズを防ぐ。“GROUND”はサーキットグラウンドとシャーシグラウンドをつなげる設定だ。 ❺Effects Send/Return&Others:エフェクト・ループ用のセンド/リターン端子。中央の“LOOP EXT SWITCH”は、楽器用ケーブルでマスタースイッチャーやフットスイッチを接続してループ機能のオン/オフ操作が可能。 ❻Slave&Slave Level&Others:スレイブ回路用のアウトプット・ジャック。ここから別のパワー・アンプやベース・アンプへとつなぐ。ジャック上部にある“SLAVE LEVEL”で出力レベルを調節できる。スレイブ・ジャックの下にはチューナー接続用のアウトプット・ジャックがある。
コンセプトとしてはストラテジーと同じで、いわば弟モデルと言える本機。こちらはパワー管がモデル名どおりKT88×4本となっており、250Wと125Wで出力切替が可能だ。本機はEQ関係が整理されており、ストラテジーにあったグライコはなし。ただ、バイパス(基本の3バンドEQ)も含め計5つのプリセット・トーンを選択できるVOICEは本機にも搭載されており、音作りに不足はないはずだ。もちろん、マスター・ヴォリュームとは別にブースト・ヴォリュームを設定できるSOLOも搭載。これらを別売のフットスイッチで切り替えることもでき、音楽ジャンルや奏法を制限せず活躍してくれるだろう。ストラテジーで触れられなかった共通の機能としては、DIレベル・コントロールと、そのプリ/ポスト・セレクターがあり、ライン音を適切な音量で、またトーン作用の有無も選択してPAに送ることが可能だ。
【REAR PANEL】
❶Ext Switching:外部スイッチ用のフォーン・ジャック。一般的なシールドに対応する。 ❷Effects Send/Return:エフェクト用のセンド/リターン・ジャック。 ❸Tuner&Slave:チューナー接続用のジャック(左)とスレイブ回路用ジャック。 ❹Speaker Output:4Ω×2、8Ω×1という構成のスピーカー・アウトプット・ジャック。ストラテジーと同じく、オート・ミュート回路が搭載されている。 ❺Footswitch:専用フットスイッチのジャック。8-pinのDINタイプ(メス)端子。 ❻D.I.Out:DIアウトプット用の3ピンのオス型XLRジャック。
大出力かつセミパラメトリックEQやコンプレッサーなど充実した機能も搭載し、プロユースのモデルとして話題を呼んだM-Pulseシリーズ。そのエッセンスを、“放浪”のモデル名どおり可搬性を重視した小型ボディに詰め込んだのが本機だ。プリ部は12AX7真空管を2本、パワー部はMOS-FETというハイブリッド・アンプで、約6kgという重量ながら300W出力を実現している。コントロールのポイントは、30〜300Hz、200〜2KHz、1.2K〜12KHzを担当する3つのセミパラメトリックEQで、各々±15dBでのブースト&カットが可能。難しそうな印象だが、コツさえつかめばピンポイントの音抜けや音の回り防止などに役立ってくれる機能だ。また、基本の3バンドEQは、他モデルと同様ベースとトレブルがアクティヴ型でミドルがパッシヴ型だが、本機のミドルはブーストのみという機能になっている。
【Input Active/Passive】“ACTIVE”と“PASSIVE”の2つが選べるインプット・セレクト。“ACTIVE”はあらかじめPAD機能が働いている。【Parametric Equalizer】本機の最大の特徴である3バンド・パラメトリック・イコライザー。下段の3つのツマミ(左:30〜300Hz、中央:200Hz〜2KHz、右:1.2KHz〜12KHz)は変化させたい帯域を指定するもので、上段の3つはそれぞれの下段にあるツマミで指定した帯域を、+/−15dBの幅で増減させることができる。幅広い音作りが可能だ。【D.I. Level】リアパネルのDIアウトプット出力の音量を決めるツマミ。
【REAR PANEL】
❶DI Output & Ground Lift:DIアウトプット用の3ピンのオス型XLRジャック。左には“Ground Lift”のミニ・スイッチがある。 ❷Fx on/Bypass:センド/リターンに接続したエフェクターなどの、オン/バイパスを切り替えるスイッチ。 ❸Effects Send/Return:エフェクト用のセンド/リターン・ジャック。 ❹Speaker Output:8Ω×2のスピーカー・アウトプット・ジャック。
600W出力を誇る、Carbineシリーズのハイエンド・モデル。コントロール関係は、基本の3バンドEQ(BASSにはDEEPスイッチ付き)に加えて、33Hzから8KHzまでをカバーする9バンド・グライコ(±12dB)を搭載している点が特徴だ。また、スレッショルドとレシオを任意に調整できるコンプレッサーも装備。もちろん他モデルと同様のVOICEも搭載しており、幅広く活躍してくれる1台だ。
1960年代にスタートしたメサ・ブギーの歴史が、ベース・アンプから始まったということは意外と知られていないだろう。ここではメサ・ブギー社の創始者であり設計者でもあるランドール・スミス氏に、ベース・アンプの開発当時の苦労や最新モデルのコンセプトなどを語ってもらった。
──メサ・ブギーの歴史はベース・アンプから始まったそうですね?
確かに、初めて作ったアンプはMesa 450です。真空管の6L6を4本搭載したスネーク・スキン柄のヘッドで、依頼主はベーシストのパトリック・バークでした。当時の僕は文無しで食うにも困る状態だったんですが、彼が評判を聞きつけて、わざわざ山奥の隠れ家まで捜しに来てくれたんですよ。彼が100ドル札を3枚、僕のシャツのポケットに押し込みながら、アンプ製作を依頼してくれました。忘れもしません。それだけあれば、ひと夏過ごせますからね!
──ギター・アンプの世界ではメサ・ブギーはハイゲイン系、あるいはサンタナの愛器というイメージですが、ベース・アンプとしてはどんなものを目指しているのでしょうか?
1960年代末期から1970年代初期にかけて、アンプにギター用とベース用の違いはそれほどなかったんです。少なくともフェンダー社ではそうでしたし、もともと当社はフェンダーの工房として始まったんです。例えばショウマン。あれはギター・アンプでしたが、アンペグSVTが出るまでベース・アンプとしても最高品質だとされていました。ただアンペグSVTは、多くのプレイヤーにとって大きすぎたし重すぎました。また、フェンダーのベースマンは、ショウマンが15インチのスピーカーを搭載していたのに対して12インチだったし、パワーも半分でした。ツイード4×10のベースマンなんて、ギター・アンプとしては最高でしたが、ベース・アンプとしてはひどいものでしたよ! どうやらフェンダーは、自社の“カントリー・ミュージック向け”のアンプが、ロックンロールという新しいスタイルの音楽に使われていたと気づいていなかったのか、出遅れていたようですね! 最初のMesa 450は、僕がベース用に最適化したフェンダーの電気回路を組み合わせて作ったものです。
──近頃はギター・アンプとベース・アンプとで大きな違いが生まれてきましたね。
そのとおり。第一に、ベース・アンプには僕がギター・プレイヤー用に開発して今はスタンダードになっている“ハイゲイン”が必要ありません。第二に、音楽が進化して会場もスタジアムなど巨大な場所を使うようになった今、ビッグでパワフルなベース・アンプの需要が高まりました。ちなみに、僕が初めて観たときのローリング・ストーンズは、全員がアンペグのSVTでプレイしていたんです。ギターもですよ? 確かに音量はありましたが、心地よい音とは言えませんでしたね。そもそも周波数ごとのレスポンスが、ギター用とベース用とではかなり違います。一方で当社のベース・アンプでは、アクティヴ・コントロールとパッシヴ・コントロールを組み合わせて使っています。ストラテジーにもプロディジーにも、ベースとトレブルのアクティヴ・コントロールに加えて、ミッドのパッシヴコントロールがあり、さらにボイス・スイッチがもたらすアクティヴEQが組み合わさって、有名なベース・トーンの数々を簡単に得られるわけです。そうした音色を、プレイヤーに手早く簡単に見つけてもらえるようにすることこそが、我々の目標でした。
──ストラテジーとプロディジーの開発コンセプトは?
ストラテジーに関してはもともとのコンセプトが、ヨーロッパの安全基準が変わったときに生産を中止した当社自慢のBass 400+を、アップグレードしたものを作ることでした。最初は400+同様に、パワーチューブ6L6を12本にしようと考えていましたが、やがてそのコンセプトが変わったんです。あの偉大なSVTの欠点に、僕が挑戦したくなりましてね。あの怪物のようなSVTの半分のサイズでパワーは同じというチューブ・アンプを作ろうと思い立ったんです。最終的には、SVTが300Wであるのに対して、ストラテジーは450Wという高出力を手に入れることに成功しました。パワーチューブ6550を6本という代わりに、KT-88を8本使ったからです。6550の最大定格が600Vである一方で、KT-88は800Vだから可能だったんですよ。ストラテジーはチューブを700V近くで駆動しているので、KT-88ならば余裕がありますが、6550に替えでもしたら大変です! そして、さらに小さいバージョンを求めて行き着いたのがコンパクトなプロディジーでした。KT-88が4本で、あの壮大なSVTに近いくらいパワフルですよ!
──両機の特徴を教えてください。
チューブ・アンプはソリッドステート・アンプに比べると、よりダイナミックなぶん、より豊かな表現が可能になると昔から僕は信じているんです。結果的に“感じ”が良くなるため、プレイしていて気持ちが盛り上がるんですよね。それに我々が求めるサウンドは、どうも空間的に広がっていくように感じるんです。三次元的だとでもいうのかな。一方でトランジスタ・アンプのサウンドは、もっと二次元的で立体感に欠ける気がします。おまけに真空管は素晴らしい温かさを自然と醸し出すじゃないですか? あらゆるオーディオ機器に向く最適な道具だと僕は思いますね。
──開発で最も苦労したことは何ですか?
両方とも忍耐との戦いでしたよ。なにしろ、開発に2年以上も費やしたんですから。プレイヤーによってお気に入りのサウンドはさまざまですし、その要求に応えるだけの多様性が欲しかったと同時に、できるだけシンプルなものにしたかったんです。特に難しかったのが、ハムやノイズの除去ですね。ハイゲインのギター・アンプを作るよりも難しかったですよ!
──ストラテジーとプロディジーはこれまでのシリーズとどう違うのでしょう?
当初はCarbineシリーズのプリアンプを、Bass 400+のチューブ・パワー・セクションに使う予定だったんです。実際に何人かのプレイヤーに試してもらったところ、評判が良かったものですから。ところが、結局この案は採用されませんでしたが。ストラテジーもプロディジーも、フロント・エンドはCarbineのに大体似ているんですが、非常に多くの変更点があるんです。それに、Carbineのプリアンプは、400+のチューブ・プリアンプの影響を強く受けています。大きなチューブ・パワーとの相性を良くするには、あらゆる部分の細部に至るまで、大がかりな改良が必要だったんです。
──新しい製品の開発はどのように行なわれるのでしょうか?
ひらめきと興奮から始めて、そこから完璧さを求めてときには盲目的にさまよったりしますね。とにかくひたすら自分たちの直感を信じつつ、大勢のプレイヤーから意見を吸収しています。そしてなおかつ大事なのが、アンプを“外”で使わせること。バンドのなかで、いろいろな会場で試してみて、初めて万全なものと言えましょう。ギター・アンプよりもベース・アンプにおいては特にそうです。確かに、当社のトーン・ラウンジ(試奏場)で試せば、サウンドやフィーリングの感触は大体つかめますが、ベースの場合は単独でサウンドが良くても、バンドと合わせるとそうでもないことがあるんです。だから両方の状況で試す必要がありますね
──最後にあなたの理想のベース・アンプとは?
ははは! ストラテジーとプロディジーに決まってるじゃないですか! そうじゃなかったら、今ごろそれを目指して開発してますよ!
リットーミュージック刊『ベース・マガジン』2014年8月号においても、「メサ・ブギー最新レポート〜リッチな重低音をCDで聴く!」のタイトルでGKを特集している。なんと言っても小笠原、三好の試奏音源を収録した付属CDが聴きどころ。同じアンプを使ってひとり1トラックずつレコーディングを行なっており、ひとつのモデルに対して2トラックの、異なるアプローチを楽しむことができる(動画とは異なるテイクなのもオイシイ!)。また、ここでは掲載していない「M6 Carbine」も音源収録しているのも聴き逃せないポイント。詳細な製品解説も必読の特集だ!
定価:1,234円(本体1,143円+税)
仕様:A4変型判/160ページ
発売日:2014.7.19
価格:オープン
価格:オープン
価格:オープン
価格:オープン
小笠原義弘(おがさはら・よしひろ)
多数のバンドを渡り歩き、1996年に伝説的サザン・ロック・バンド、The Savoy Truffleに加入。2002年にはフランスのサザン・ロック専門誌BAND OF DIXIEで行なった読者人気投票にてベスト・ベース・プレイヤー部門1位に輝いた。The Savoy Truffleの活動休止後は、さまざまなレコーディング/ライヴに参加。7月からはTrio the collagens、David Ralston Band、YAMAZEN&Z-Ryders、SHRIMPHEADSなどでツアーを行なう。最新作は、ShrimpheadsのライヴDVD『we are traveling』、Trio the CollagensのライヴDVD 『Rough&Dangerous! Live in Sendai』など。
三好春奈(みよし・はるな)
2007年に大阪で結成された4ピース・バンド、HaKUのベース担当。高い演奏力と激しいライヴ・パフォーマンスで人気を博す、実力派の若手プレイヤーである。2012年にアルバム『Simulated reality』でメジャー・デビューを果たし、オルタナ、ダンス、エレクトロニカ、ラウド・ロックなどを飲み込んだ独自のサウンドで快進撃を続けている。また、三好は音楽専門学校時代、今回共演した小笠原義弘に師事しており、演奏はもちろん、使用ベースやアンプなども影響が見てとれる。HaKUの最新作は今年4月にリリースされた『シンバイオシス』。