AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
ヘッドフォン
ハイレゾ入門・第1回では、ハイレゾ音源を聴くための再生環境をご紹介しましたが、最終的な出音を聴くために必ず用意しなければならないのが、スピーカー、もしくはヘッドフォン/イヤフォンですね。ですが、日本の住宅事情を考えると、スピーカーを使って大音量で音を鳴らす……ということは、なかなか叶わないのも現状です。そこで今回は、近頃大きな盛り上がりを見せる、リスニング・ツールとしてより身近なヘッドフォンに焦点を当て、ハイレゾ音源を聴くのに適したヘッドフォンの選び方をご紹介しましょう。
ハイレゾ音源は、音質が良いということはこれまでのコラムでご紹介しました。しかし、いくらハイレゾ音源のような音質の良い音源を手に入れても、それを良い音で再生できる環境がなければ、その魅力を十分に堪能することはできません。例えば、ノートPCに内蔵されているスピーカーだけでは、その良さを体感することは難しいでしょう。前回のDrop'sの取材時のように、レコーディング・スタジオであれば、備え付けのラージ・モニター・スピーカーなどを大音量で鳴らし、ハイレゾ音源の魅力を楽しむことができますが、一般的な家庭環境で同じような音量を出せば、おそらく苦情が出てしまいます。ギターに置き換えれば、大型スタック・アンプを家で鳴らせないのと同じことですね。
そこで今回は、家や移動中でも簡単に高音質で音楽が聴けるギア、ヘッドフォンをご紹介したいと思います。現在ヘッドフォンは、高級スピーカー並みの値段が付いている超ハイエンド・モデルから、わずか数千円で購入できる入門モデルまで、世界各国のメーカーから多彩なモデルが販売されています。極限まで音質にこだわったヘッドフォンからデザインを重視したモデルまで、幅広いユーザーに受け入れられる製品ラインナップで、ユーザー/メーカー共に盛り上がりをみせています。その盛り上がりを象徴するように、「eイヤフォン(ヘッドフォン/イヤフォン等の専門店)」主催のイヤフォン/ヘッドフォン・メーカーが一同に集まるイベント「ポタフェス(ポータブル・オーディオ・フェスティバル)」が6月28日、29日に秋葉原で開かれ、多くの来場者で賑わっていました。さらには春と秋の2回、「フジヤエービック(AV機器やヘッドフォン等を販売)」主催の「ヘッドフォン祭」も、毎年規模を拡大するほど盛況です。そのイベントに合わせるように、各メーカーから毎年、質の高い製品が次々と登場している状況です。
これだけ多くのヘッドフォンが売られている状況ですと、新たに購入する際に迷ってしまうという方も多いと思います。今回のハイレゾ入門では、少しでも自分好みの音質で音楽が楽しめるヘッドフォンとの出会いをお手伝いできるように、ヘッドフォン選びのポイントと、タイプ別に分けたお薦めヘッドフォンを採り上げたいと思います。まずはヘッドフォン選びのポイントを紹介しましょう!
ヘッドフォンを購入する時には、予算やサウンドも大切です。それにデザインも好みに合ったものを選ぶでしょう。しかし意外と忘れがちなのが、装着した時のフィット感です。多くのヘッドフォンは、調節する機能が付いていて、購入後でもフィット感を向上させることができますが、どう調整しても頭や耳にフィットしないモデルというのも人によっては存在します。どんなにサウンドやデザインが気に入っていても、装着感の合わないヘッドフォンだと、リスニング中にずれてしまったりして、楽しく音楽を聴くことができません。ギターもそうですが、演奏性が好ましくない楽器は、徐々に弾かなくなってしまいますよね。全体のフィット感だけではなく、イヤーパッド部が耳の形状に合わず隙間などができると、ヘッドフォンの性能を十分に楽しむことができません。さらにヘッドフォンの重量も重要です。あまり重過ぎるモデルを選ぶと、移動中の長時間リスニング時などに、疲れてしまうということもあります。私の経験から、音質以上に身体に馴染むヘッドフォンを長く愛用しています。各メーカーの努力で、どのモデルもフィット感に関しては向上していますが、購入前に試せる環境があれば、実際に装着して相性を試してみて下さい。
ヘッドフォンには、その構造から大きく分けて2つのタイプがあります。それぞれにメリット/デメリットがあり、それを知ることで目的のヘッドフォンが絞られてくると思います。
まず開放型(オープン型)という構造のヘッドフォンです。これは、音を鳴らす振動板の裏側を開放している構造で、自然な広がりのある再生音が得られ、特に高音域は伸びのある表現力が得られます。また長時間のリスニングでも聴き疲れしない点も特徴です。しかし、振動板の裏側を開放しているため、外部に音が漏れてしまいます。部屋でのリスニングなどであれば問題ありませんが、電車や公共の場などでは使用を控えた方が良いでしょう。また、完全に外部の音をシャットアウトできないという特徴もあります。これに関しては、使用目的によって良し悪しがあると思います。さらに音質に関してもう1点ですが、低域は密閉型に比べるとやや弱くなります。しかしこれは、各社ハウジングやパッドの設計に工夫を凝らすことで、改善されているモデルも多くあります。開放型は、主に自宅での長時間のリスニングに向いたヘッドフォンと言えるでしょう。そのためハイエンド・モデルも多くラインナップし、今年登場し話題となったAKGのフラグシップ・モデルK812も開放型を採用しています。
次に密閉型(クーロズド型)は、振動板もハウジングの中に納めてしまい、耳を密閉する構造のため、ほぼ外部への音漏れがない点が大きなメリットです。また外部からの音も遮ることができます。しかしながら、開放型に比べサウンドが耳にダイレクトに届くため、長時間のリスニングは耳への負担が大きくなってしまいます。サウンドに関しては迫力のある低域が得られ、音の全体像も聴こえやすいですが、密閉されることで音の逃げ道が無くなり、少しこもり音が気味に感じたり、特定帯域が歪んで聴こえたりすることもあります。そこは各社がドライバーやパッドなどに工夫を凝らし対策をしていますが、それが各社の再生音の差にも繋がっています。スタジオの定番と言えるモニター・ヘッドフォンSONYのMDR-CD900STや、同じモニター・タイプのビクターのHA-MX10-Bも密閉型です。音の全体像を安定して聴ける必要があるモニター・ヘッドフォンには、密閉型が好んで使われる傾向にあります。密閉型は基本的には音が漏れにくい構造のため、外での使用にお薦めのヘッドフォンと言えます。しかし遮音性能が高いということは、外部の音も聴こえにくくなるため、自転車に乗りながら密閉型ヘッドフォンで音楽を聴くといったことは、事故に繋がる恐れもあるため避けた方が良いでしょう。
最後に、半開放型(セミオープン型)という、開放型/密閉型の中間に位置するヘッドフォンもあります。それぞれのメリットがある程度感じられますが、その分、サウンドを追い込むことが難しくなります。そのため、エントリーから中程度のモデルに採用される構造です。しかし、マイクも販売するドイツのベイヤー・ダイナミック社から2009年に発売され、根強い人気を誇るT1のような高級機種も存在しています。
開放型/密閉型は、音質にも大きく関係する部分ですが、まずは主にどういった環境で使うかを考えて選ぶと良いでしょう。
ヘッドフォンには、開放型/密閉型だけではなく、ノイズ・キャンセリング・ヘッドフォンもあります。BOSEから2001年に発売されたノイズ・キャンセリング・ヘッドフォン、「QuietComfort」が話題となり、それ以降に他社からも発売され、徐々に進化していきました。ノイズ・キャンセル・ヘッドフォンのメリットは、航空機や新幹線といった騒音のレベルが高い場所でも、外音をヘッドフォン自体の機能で打ち消すことで、外部の音が聴こえないリスニング環境を生み出せることです。その効果は、年々進化していますが、100%打ち消せるわけではありません。しかし、かなりのシチュエーションで満足のいく音楽再生ができる製品もラインナップしています。先に述べたBOSEの最新モデルQuietComfort 3も高いレベルにある製品です。ゆえに、出張などが多いビジネスマンなどには、お薦めしたいヘッドフォンです。しかし、その構造ゆえ、ハイエンド・ヘッドフォンのような音質を求める方には向きません。また、ノイズ・キャンセリングには電池(充電タイプもあり)が必要になります。
近年では、ワイヤレスのヘッドフォンも多く登場しています。通信方式で多いのは、Bluetoothを使ったヘッドフォンです。通信で音楽データをヘッドフォンに送るため、ケーブルが必要ないのが最大のメリットです。しかし、Bluetoothは現在、送信できるデータ量が少ないため、ハイレゾ再生等には不向きです。現在では独自の通信方式を用いたワイヤレス・ヘッドフォン等も出てきて音質も向上していますが、まだ音質面ではコード式の方にアドバンテージがあります。音質にこだわりたい方は、ワイヤレス・タイプではないヘッドフォンを選んだ方が良いでしょう。
イヤフォン/ヘッドフォンともによくあるトラブルとして、誤ってのケーブルの切断、長期使用による接触不良などがあります。どちらもケーブルの交換で直りますが、ケーブルがヘッドフォンに直付けしてあるヘッドフォンの場合、メーカー等に修理を依頼しないことには直せません(もちろん自分で直してしまう強者もいるでしょう)。しかし、始めからケーブルが着脱式になっているヘッドフォンもあります。その場合にはケーブルそのものを交換すれば、修理が終わってしまいます。ケーブル交換だけであれば誰でも簡単に行えますね。
さらにそういったヘッドフォンに向けて、サードパーティーから音質を変化させるケーブルが販売されていることがあります。これを“リケーブル”と呼んでいます。ギターで言えば、シールドのメーカーを変えると音が変化するのと同じですね。リケーブルすることで、より自分好みのサウンドが鳴るヘッドフォンを生み出すことも可能です。私自身もシュアのSRH940というモニター・ヘッドフォンを使っていましたが、アコースティック・リヴァイブのケーブルに変更した所、劇的に音が変化したのに驚いたことがあります。ケーブル着脱式のヘッドフォンでは、そういったことも楽しむことができます。
レコーディングなどに携わったことがあるミュージシャンや、DTMなどで曲を作る人は、モニター・タイプのヘッドフォン購入を考えている方も多いと思います。モニターと呼ばれるヘッドフォンは、音の分解能力が高く、できる限り原音を損なわずフラットに再生されるように開発されているタイプを指します。よく宣伝文句に“スタジオ”や“モニター”と付くと、プロが使っているイメージが先行してしまい、高音質なヘッドフォンのように感じてしまいます。しかし、モニター・ヘッドフォンの役割は本来、音楽を楽しく聴くための道具ではなく、音をチェックするために使用する目的で作られています。それ故、一般的なリスニングをしても、音楽が味気なかったり、音源によってはバランスが悪く聴こえたり、細かな音が聴こえ過ぎてしまい聴き疲れするといった事もあります。リスニングのみに使用するのであればモニター系ではなく、より楽しく音楽を鳴らしてくれるヘッドフォンを選んだ方が良いでしょう。しかし、音楽制作にも使いたいというのであれば、音質にこだわったモニター系ヘッドフォンを購入すればリスニングにも使えて一石二鳥です。現在は、先に登場したSONYのMDR-CD900ST以外にもバラエティに富んだ、モニター・ヘッドフォンが発売されているので、いろいろと試して購入すると良いでしょう。
様々なドラマがあった2014年ブラジル・ワールドカップですが、日本も含め多くのサッカー選手が、カラフルなヘッドフォンを着用している映像を観た方も多いと思います。彼らは、長距離の移動中や試合前などに音楽を聴いてリラックスしたり、逆に気分を高揚させたり、またはファッション・アイテムとしてもヘッドフォンを愛用しています。その中でも特に着用率が高かったのは、ハウジングに“b”のマークが入った、「beats by dr.dre」です。
ブラジル代表のネイマール選手を始め、オランダ代表のロッペン選手、日本では香川、遠藤、清武、吉田選手など、他にも世界各国の選手が愛用していましたね。そんなbeats by dr.dreは、そのデザイン性の高さに加え音質の良さも相まって、日本で現在起こっているヘッドフォン/イヤフォン・ブームの火付け役とも言えるブランドです。6月28日、29日に行われた『TOKYO GUITAR SHOW 2014』では、入り口付近に大きなブースを出展し、ツイード・アンプにインスパイアされた特別なツイード仕様のヘッドフォンを展示して話題を集めていました。
beats by dr.dreは、2008年に設立された会社で、アメリカの音楽プロデューサー、ドクター・ドレー(dr.dre)が立ち上げに参加しています。そこに高品質なケーブルを製造するモンスター・ケーブル社(現在は提携解消)が加わり、音質とデザイン性に優れたイヤフォン/ヘッドフォンを次々と発表し、世界中で爆発的に売れ続けています。ハウジングのデザインと、赤いケーブルに魅力を感じて、同ブランドのイヤフォン/ヘッドフォンを手にした方も多いでしょう。
大好きなサッカー選手やミュージシャン、俳優等が愛用しているヘッドフォンを購入するというのも、選ぶ際には大切なポイントかもしれません。
お薦めのヘッドフォンも何点かご紹介したかったのですが、ヘッドフォン選びのポイントをまとめただけで、かなりの文字数になってしまいました。次回は、引き続き求めやすくお薦めのヘッドフォンをご紹介できればと思っております。暑い夏に野外のヘッドフォンはお薦めしませんが、夜風に当たりながら涼しい室内で、ゆっくりヘッドフォンで音楽をリスニングするのも悪くないですよ。傍らに冷たいビールやジュースでも置いてあれば、気分も盛り上がりますね。それでは、暑い日が続きますが体調にはくれぐれも注意して夏を乗り切りましょう!
※次回「ハイレゾ入門 Vol.5」は8/13(水)更新予定です。
菊池真平(きくち・しんぺい)
音楽雑誌「Player」、オーディオ誌を発行するステレオサウンド社で「Beat Sound」、「Digi Fi」の編集に携わった後に独立。現在はフリーランスで、ヴィンテージ・ギター関連書籍/ギターに関する雑誌等に、編集/ライターとして携わる。国内外のミュージシャンへのインタビュー等も多数行っている。