AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
GALLIEN-KRUEGER
ソリッドステート方式の投入や、アクティヴEQの搭載など、現在ではお馴染みの機能を先駆けて開発してきたアンプ・メーカー、ギャリエン・クルーガー。常に最新技術を編み出し続ける同社が近年、小型軽量化のヘッドアンプや、これまでにない新たな思考で出力を増幅することができるパワード・キャビネットなど、新製品を続々とリリースしている。そんな同社の最新ラインナップの魅力を、400RB-Ⅳや800RBを所有する日向秀和(ストレイテナー、Nothing’s Carved In Stone)の試奏や開発者のインタビューなどを交えながら、多角的に紹介していこう。
ソリッドステート仕様を採用したベース・アンプ・ブランドの先駆けでもあるギャリエン・クルーガー=GK。創立者のロバート・ギャリエンはスタンフォード大学を卒業後、趣味でソリッドステートのギター・アンプを製作するようになる。彼が最初に作ったギター・アンプ、226A(当時のブランド名はGMT)を楽器店で見つけたカルロス・サンタナが、1969年のウッドストック・フェスティバルで使用したのは有名な話だ。また、彼が1971年に開発したベース・アンプは世界で初めてアクティヴEQを搭載し、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズが愛用するなど、常に時代を先取りした機能を備えていた。
のちに名機と呼ばれる800RBの登場により、GKは世界的なアンプ・メーカーに成長。1982年にリリースされたこのアンプは、高域と低域を分割して出力する“バイアンプ”機能を搭載し、300W(4Ω)という大出力ながら約11kgという軽量化も実現した。また、パワーアンプの許容電流量を高め、電流のリミッティングを回避することに成功。明瞭さを失わずにスピーカーをドライブさせることで生まれる、クリアかつワイドレンジなサウンドに、レッチリのフリーからチャック・レイニーまで世界中のベーシストたちが魅了されたのだった。その後、2000年代に入るとFusion550をリリース。同社が培ったソリッドステートの回路に加え、プリアンプに真空管を3本搭載した画期的なモデルとして評価を得た。それと同時に同社が開発していたのが、近年主流の超小型アンプだった。
GKの技術が詰まった最新ラインナップのなかから、注目モデルをピックアップして紹介していこう。まずは約2.5kgの軽量筐体で最大500Wの出力を誇るGKのフラッグシップ・モデル「MB Fusion800」だ。
日向:「こんなに小さいのに真空管が入ってるのはビックリ。ローの多さが実にチューブ・アンプらしいですね。個人的にはGKのソリッド・アンプ特有の、ローを増幅させてる感じが音に出てるのも好きだったんですけど、これはそれとはまた違うロー感になったなと思います。でも、弾いたときに芯として残るミドルのコシや粘りは健在ですね。そこにチューブの太いローが加わって、新たなGKサウンドになっている気がします。ローが本当によく出るので、音作りするときはイコライザーを基本的にフラットにしておいて、ベースだけ絞っていくとミドルを支えつつ音を作れると思います。弱く弾くとデリック・ホッジのベースみたいに、ローに温かみが出るので、ロックだけじゃなくてフュージョンやR&Bにも合うかもしれないですね。あとは、アクティヴよりもパッシヴ・ベースのほうが、真空管らしい歪みを生かせると思います。」
MB Fusion800は、3本の真空管(12AX7)を搭載しながらもコンパクトに仕上げられたモデルだ。クラスDパワーアンプを組み合わせ、最大で500Wの出力を実現。大出力時も効率よく冷却できるように筐体側部にファンを設置した。コンパクトながらに入出力も充実しており、スピーカー・アウトはスピコン2系統に加えて、DIアウト、チューナー・アウト、エフェクト・センド/リターン、ヘッドフォン・アウトを装備する。また、A/Bの2種類のゲイン設定を付属のフットスイッチで切り替えられるのも、ライヴ向けの実用的な機能と言えるだろう。同社の伝統とも言える、各帯域の回路が直列で接続されたアクティヴ4バンドEQ、コントゥアー/ディープ/プレゼンスといったヴォイシング・フィルターも搭載し、多彩なサウンド・メイキングを実現する。“Tool Not Toy(=オモチャではなく道具である)”という同社のコンセプトを体現した、最先鋭のGKアンプだ。 [この商品をデジマートで探す]
日向:「200Wなのにパワフル! しかもエフェクター感覚で持ち歩けるほどの小ささで、この音の大きさはスゴイと思います。MB Fusion 800と比べると、これはさらにサウンドがローに寄って、ドンシャリな感じですね。フュージョンのようにクリーンなギターが乗る曲はドンシャリでいいかもしれないですけど、ギターがゴリゴリに前に出てくるような最近のロックでは、ミドルのコシがないと低音の芯が聴こえなくなっちゃうんですよね。だから、ボトム感を出すためにはミドルをフルに使うといいと思います。僕の場合は、ハイ・ミッドを2時の位置まで上げて、ローを9時の位置まで下げると丁度いいですね。あと、これもアクティヴよりはパッシヴのベースのほうが、音の出方が自然で合うと思います。でも、一番のメリットはやっぱりこのコンパクトさ。片手でも持ち歩けちゃう、その手軽さがいいですよね。」
Micro Bassの頭文字を取ったGKの小型アンプ・シリーズであるMB Headsシリーズは、クラスDアンプを用いることで大出力を実現。特別に設計されたアルミ素材の筐体に加えて、コントロール部分のノブに軽量プラスチックを使用するなど、軽量化にも徹底的にこだわっている。MBシリーズのラインナップは、プリアンプに真空管を搭載したMB Fusionと、ソリッドステートを採用したMBのふたつ。Fusionは138ページの800に加えて、マスター回路を2系統備えたMB Fusionの2モデルをラインナップし、MBシリーズは、プリ部にディスクリート回路を搭載したMB800、500W出力のMB500、200W出力のMB200の3機種となる。特にMB200は同シリーズ中で最も小型で、重量はなんと約900gと、エフェクター並の小型化を実現している。 [この商品をデジマートで探す]
MBEシリーズⅡは、MBヘッドアンプにマッチングすることを目指して作られたキャビネットのラインナップだ。小型で磁気の強いネオジム磁石を使用した、独自開発のネオジム・スピーカーを搭載しており(410MBE-Ⅱ/400を除く)、軽量化に大きく貢献している。さらにはツイーター・ホーンも備え、リアパネルでオン/オフの操作が可能なため、幅広いサウンド・キャラクターに対応する。
また、筐体に軽量な木材を使用しているのも特徴で、キャビティ内にブレイシングを施すことで筐体全体の堅牢さを実現し、従来の同社製キャビネットの半分以下の軽量化に成功している。入力はスピコンと1/4"の入力端子の2種類を備える。ラインナップは15インチ1発で許容入力が400W(8Ω)の115 MBE-II、12インチ×2発で許容入力が600W(4Ω)の212 MBE-II、10インチ×4発で許容入力が400W(8Ω)の410 MBE-II/400、同じく800W(8Ω)の410MBE-Ⅱ/800と、合計で4機種をラインナップしている。 [この商品をデジマートで探す]
MB110
日向:「見た目は小さいですけど、これは意外と音が出るパターンじゃないですか(笑)? ……おお、これは良い音! 音の出方が自然ですごく好きです。たぶんローがよく締まっていて、余計に出てこないからかな。ベースのコントロールも、わりとフラットに近い状態でセッティングできます。これで出力が100Wなんですか!? 狭いライヴハウスだったら、このアンプひとつでいいかもしれないくらい、音に迫力がありますね。」
MB110 + 115MBP
日向:「お、両方のスピーカーから音が出てますよ? MB110の締まったローがさらに前に出てきます。こんなに大きいウーファーなのに音がこもってないし、ウーファーで低音を出すようなイメージじゃなくて、つなげたアンプの質感をそのまま大きくしてくれるような感じがすごくいいですね。これって、どんどんキャビを足してパワーを増やせるってことですよね? それはナイスな考えかも。アンプ自体がこんなに小さくて済むなら、ローディーさんは運びやすいし、自分の車にも乗せていけちゃいますよね。」
MB Comboは、MBシリーズのヘッドアンプとキャビネットの機能を受け継いだ一体型コンボ・アンプのラインナップだ。ヘッド部にアクティヴ4バンドEQ、リミッター、ホーン・ツイーター・スイッチを搭載するほか、同社独自のG.I.V.E.(Gated Induced Valve Effect)により最適な倍音成分を強調してくれる(MB110、MB112-IIは非搭載)。また、右ページのエクステンション・キャビネット用のチェイン・アウトや、スピーカー・アウト、DIアウトなどを備え、拡張性にも優れている。軽量なネオジム・スピーカーとスリムかつ頑丈なキャビネットにより、驚異的な軽量化を実現しているのもポイントで、410タイプの同社キャビネットNEO410が約30.8kgであるのに対し、MB Comboの410モデル(MB410)は約23.1kgと、ほぼ3/4近くの重量になっている。ラインナップは500W出力タイプはスピーカーの構成違いでMB410、MB212-II、350W出力はMB210-II、200W出力もスピーカーの構成違いでMB115-II、MB-112-II、100W出力のMB110がある。 [この商品をデジマートで探す]
MBPパワード・キャビネットは、MBシリーズのヘッドアンプとコンボアンプに搭載されている、チェイン・アウト端子に対応する専用のパワード・エクステンション・キャビネットだ。通常のパッシヴ・タイプのキャビネットは、アンプ側の出力値やインピーダンスとのマッチングが不可欠だったが、同シリーズはパワード・タイプ(パワーアンプ内蔵型)のため、これらの制約を受けずに自由な出力アップが可能となっている。例えば、350W出力のコンボアンプのMB210-IIに、500W出力の410 MBPを接続すれば、MB210-IIのスピーカーと410 MBPを同時に鳴らすことで、合計で850Wの大出力システムを構築可能。またMBPシリーズにはチェイン・アウト端子が搭載されており、さらに複数のMBPキャビネットを接続することもできる。ツイーター・ホーン(ON/OFFスイッチ付き:112MBPを除く)も搭載し、410 MBPと212 MBPはMBキャビネットと同様ネオジム・スピーカーを搭載したライト・ウェイト・モデルとなる。ラインナップは500W出力は10インチ×4発の410 MBPと12インチ×2発の212 MBP、200W出力は15インチ×1発の115 MBPと、12インチ×1発に112 MBPの計4機種をラインナップしている。 [この商品をデジマートで探す]
MBPパワード・キャビネットのオススメ活用法!
チェイン出力端子を備えたGKのコンボ・アンプ(MB Combos)やヘッドアンプ(MB Heads)と接続することで、インピーダンスを気にせず出力を増やせるMBPパワード・キャビネット。左下の写真のように、チェイン入出力端子をXLRケーブル(MB HeadsはTRSフォーンプラグ&XLRケーブル“オス”のバランス・ケーブル)でつなげれば準備は完了だ。オススメの組み合わせは、MB110(コンボ・アンプ)と115MBP(パワード・キャビ)。下の図のようにふたつを組み合わせれば、100Wの自宅用コンボ・アンプが、300Wのライヴ用アンプへと変身! また、さらに500Wの212MBPを足せば、800Wのハイ・パワー・アンプにだってできるのだ。
日向:「どの機種も、とにかくローがよく出ることにビックリしました。もしかしたら、ローの出方や歪み方が昔のGKの印象とは違うかもしれないですけど、キャラがひとつ増えたと思うとすごくおもしろいし、GKはもっと広い視野をみてるのかなって感じがします。今回弾いてみたなかでは、コンボ・アンプのサウンドが一番好きでした。僕は扱いやすいアンプが好きで、アンプのキャラが濃すぎてイコライザーのコントロールをいじってもあまり音が変わらないのは苦手なんですよね。だから、一番音作りのコントロールがしやすくて、ある程度の歪み感があるMB110は、すごく好みなアンプでした。でもどの機種もコントロールがよく効きますよ。特にベースに関してはものすごく変わります。もし今回のGKのアンプと一緒にプリアンプなどを使う場合は、ローが大きくなりすぎてしまうかもしれないので、イコライザーでしっかりと調整するといいと思います。それにしても、全体的にすごくしっかりとした作りのアンプでした。小型軽量化は本当にナイスだと思います。バッグに入れて持ち歩けるし、これで音をカンペキに作りこんじゃって、ライヴハウスとかスタジオのキャビにつなげて使えば、毎回おおよその音の安定感は得られますよね。あと値段が安い! ちょっとビックリです。これから本格的に始めるバンドマンにすごく良いと思います。」
──MB Seriesという小型軽量のアンプを開発するに至った理由は?
1967年当時、大学の4年生だった私は、オーディオ・アンプの将来についての講義を受けていました。当時はまだトランジスタが実用化されて間もない頃で、ほとんどのオーディオ・アンプはまだ真空管によって稼働していたのですが、そのときの教授はオーディオ・シグナルの増幅をPulse Width Modulation (=PWM/パルス幅変調)によって行ない、アンプによって生み出したパワーをまったく損なうことなくスピーカーに届けることを説明していました。しかし、この方法では高い電圧と電流へと瞬時に切り替える装置が必要となり、当時はそのようなものはまだ存在していなかったので、理論自体はよく知られていても実現はできなかったのです。卒業後、私はたくさんのオーディオ・アンプを設計し、“軽量かつ高品質なサウンドの実現”を念頭に置いていましたが、その理論を忘れることはありませんでした。1987年にパナソニックが一連の垂直MOSFET出力トランジスタを発表し、市場に流通するにつれて、これがPWM設計に有効なのではないかと私は考えました。そうしてその装置を用いて、スイッチング可能なパワー・サプライを搭載した、軽量なPWMアンプ(=デジタル・アンプ/2100SELステレオ100Wギター・アンプ、1200SEB 200Wベース・アンプ)を設計し、約2年間にわたって作り続けました。しかし、当時はまだ技術が不充分だったため、製造からははずしてしまいました。
──小型軽量化のために、どのような工夫をしたのですか?
2007年に、アンプのスイッチング・テクノロジーは大きな変革を迎えたんです。搭載可能な小型サイズのMOSFETが入手可能となったことで、パワーアンプのスイッチングとパワー・サプライの設計はとても信頼性が高いものとなり、コスト面でも有利となりました。この技術によって、サイズの縮小化と重量の軽量化が可能になり、MB Headsなどの新たなアンプを設計することになりました。軽量でコンパクトなアンプを作るという夢は、40年の時を経て実現したのです。
──MBPパワード・キャビネットの構想はどこから生まれたんですか? ギャリエン・クルーガーの創業以来、ずっと基本的なデザイン・コンセプトとしてきたのは、“可能な限りポータブルでありながらも、どんなにラウドなプレイ・シチュエーションでもサウンドはきちんと聴きやすいものにすること”でした。2000年始めにネオジム・マグネットのテクノロジーが現実的なものとなってから、これらのマグネットを用いたスピーカーの開発に着手し、Neoシリーズ・キャビネットへと発展させました。この技術によって、高出力かつ軽量なコンボ・アンプが生まれたのです。MBシリーズのコンボは、パワーアンプからの出力を余すことなくスピーカーに届けています。ユーザーは小さな筐体から最大限のパフォーマンスを引き出すことが可能となったので、アンプの最大出力を達成させるために、キャビネットをさらに追加させる必要もありません。しかし、追加でスピーカー・キャビネットが必要となる状況も想定して、パワード・キャビネット・シリーズMBPを開発し、それらを駆動させるための“チェイン出力”コンセプトへと発展させました。
──パワード・キャビネットの仕組みにはどんな工夫があるのですか?
デジタル・アンプとスピーカーから最大限のパフォーマンスを引き出すために、我々のコンボ・アンプにはたくさんの独特な回路を組んでいます。この回路はプリアンプ・セクションに組み込まれていて、この部分だけが簡単に壊れるようなことはありません。また、パワード・キャビネットにコンボ・アンプと同じキャラクターを付与させるため、“チェイン出力”を開発してコンボ・アンプにその機能を持たせる必要がありました。コンボと同じキャラクターをMBPに持たせるのと同時に、“チェイン出力”はMBPをコンボ・アンプの一部のように機能させ、DI出力の同時使用も可能にしています。
──最後に日本のベーシストにメッセージをお願いいたします。
少しでも小さくて軽量なアンプを作るために重ねてきた設計や、製造における私の努力が、ベース・プレイヤーたちに届くことを誇りに思います。東京をはじめ、日本中のあらゆるプレイ環境で使ってもらえると嬉しいです。(翻訳:守屋智博)
リットーミュージック刊『ベース・マガジン』2014年7月号においても、「GALLIEN-KRUEGER〜小型軽量&大出力を実現したギャリエン・クルーガーの“今”」のタイトルでGKを特集している。ここでは掲載していない「MB500」ヘッド、「MB212-Ⅱ」コンボのレポートも取り上げている。もちろんすべてのモデルで日向秀和の試奏インプレッションも掲載している必見の特集だ!
定価:926円(本体857円+税)
仕様:A4変型判/164ページ
発売日:2014.6.19
価格:¥140,000 (税別)
価格:¥38,000 (税別)
価格:¥95,000 (税別)
日向秀和(ひなたひでかず)
1976年12月4日、東京都町田市出身。2002年にART-SCHOOLのベーシストとしてメジャー・デビュー。以降、ZAZEN BOYS、ストレイテナー、FULLARMOR、EOR(Entity Of Rude)、Nothing’s Carved In Stone、killing Boyなどのバンド活動を並行して行ない、独自のグルーヴとベース・アプローチで存在感を強めている。Nothing’s Carved In Stoneは8月6日に6thアルバム『Strangers In Heaven』を、ストレイテナーは6月25日にニュー・シングル『Super Magical Illusion』をリリースすることが決まっている。