AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
ソニーの「mora」を始め、「e-onkyo」、「ototoy」、「kripton」など、多くのハイレゾ音源配信サイトが立ち上がり盛り上がりをみせていますが、まだまだ国内アーティストの新譜リリースは少ないのが現状です。すでに、手軽にハイレゾ音源を再生する環境が整っていることは、このコラムでも紹介しましたが、まだ一般的に広がらないのは、ソフトウェアの充実度がCDに比べると弱いこともひとつの原因だと思います。そんな状況ですが、フレッシュな札幌出身の5人組ロック・バンドDrop’sが、7月9日に発売予定の2ndフル・アルバム『HELLO』を、CD、ハイレゾ(24bit/96kHz)、DSD(5.6MHz)での販売を行うというニュースが飛び込んできたので、今回はDrop’sのメンバーと一緒にそのハイレゾ音源を体験すべく、キング関口台スタジオに伺いました。
Drop’sは往年のロックを楽しんでいた世代には、シンプルでストレートなロック・サウンドが懐かしく思えるかもしれないですし、若い世代には彼女たちも影響を受けたというSuperflyのように、新鮮さを感じることができる音だと思います。まだ若いバンドですが、幅広い世代に訴求力のあるスタンダードで勢いの感じられるロック・サウンドがとても魅力的です。来月発売される2ndフル・アルバム『HELLO』も、とてもシンプルな構成の曲が多いですが、気持ちが高揚する楽曲で溢れていました。そんなDrop’sの楽曲は、ハイレゾやDSD音源で聴くことで、より演奏の緊張感やわずかな間合い、細かな音のニュアンスを感じとることができました。
今回は、アルバムの中から3曲を先行して、先に述べたCD、ハイレゾ、DSDの3つを聴き比べしました。ご一緒したのは、曲をメインで書くヴォーカル/ギターの中野ミホさん、ギターの荒谷朋美さんです。試聴にはWindowsのPCを使い、再生ソフトは「TEAC HR AUDIO PLAYER」でした。USB DACはDSDのネイティブ再生にも対応している「TEAC UD-501」(価格=110,000円/税抜)1台で、すべての音源を再生していました。スピーカーは、ジェネレックのラージ・モニターです。
中野さん、荒谷さんともにハイレゾ音源は未体験とのことで、今回が初めての試聴だったようです。なかなかサウンドの聴き分けというのは難しいのですが、ハッキリと音の違いが感じられたようです。CDも含めそれぞれ個性がある音で、すべてに良さを感じていたようですが、ハイレゾやDSD音源には特に可能性を感じていました。実際に聴くと各音源の音の違いはわかりやすく、特に音の繊細さにおいてはハイレゾやDSD音源が優れているということが、ハッキリと体感できました。曲調によっては、CDの音質が好まれる事もあると思いますが、ハイレゾ/DSD音源に可能性を感じる試聴になりました。
今回のコラムでは、一緒に音源を試聴したDrop’sのお二人にハイレゾ/DSD音源を体験して頂き、その魅力をお伺いしました。
──まずはお二人がどんな音楽を聴いてきたか教えて頂けますか?
中野ミホ「中学生の時に、JETを聴いたのがきっかけでロックってかっこいい!と思いました。そのあと、日本語のロックを聴いたり、60~70年代の音楽も聴くようになりました。ブルースのもつフィーリングというか、そういうものが感覚的に好きで、しっくりきたという感じです。それを生かして日本語でロックをやりたいと思いました」
──でも、ブルースをやろうと思ったわけではないですよね?
「それは、そうですね」
──荒谷さんは、どんな音楽を聴いてきましたか?
荒谷朋美「親がクラシック好きで家で流れていたので、小さい頃から自然と聴いていたのはクラシックでした。中学生になってからアコースティック・ギターを弾く人たちが好きになって、コブクロさんや斉藤和義さんとか聴いていました。高校の軽音楽部に入って、いまのDrop’sに繋がるバンドを組んでからは、中野の影響で日本の音楽をよく聴くようになりました。だからブルースを聴いて、こういう音楽をやろうと思ったわけではないんですよ。自然と最初にオリジナルをつくったときからこういう音楽傾向でした」
──7月には2ndフル・アルバム『HELLO』をリリース予定ですね。バリエーション豊かな曲が収録されていましたが、何か特別なコンセプトはありましたか?
中野「それは、なかったですね。できた曲を入れていきました」
──それでは、今日試聴する3曲について教えて下さい。まず「DRY DRIVE」ですが、これは歌詞の“エレキギターは車みたいな音”というのが、とてもしっくりときました。
中野「ありがとうございます。イメージは荒谷のギターの音です(笑)」
──車は好きなんですか?
中野「私はけっこう好きです。あんまり詳しくはないですけど。車を見るのがすごく好きです」
──荒谷さんのギターの勢いが感じられるシンプルなロックナンバーで、ドライブで聴きたい曲ですね。次にロックのダイナミズムも感じさせながら、しっとりと聴かせるメロディも印象的なミドル・テンポの「星の恋人」は?
中野「演奏はアグレッシブだけど、メロディが素直な曲が作りたくて書いた曲ですね。アルバムの中では、けっこう早くからあった曲だよね?」
荒谷「うん、そうだね」
──最後に「かもめのBaby」は、イントロがベースのみから始まって、その後に続くギター・リフがシンプルでカッコ良くて、すごく好きな曲です。
中野&荒谷「良かった〜(笑)」
荒谷「リフに悩んだ曲なんですよ」
中野「この曲は、先にこういうリズムの曲が作りたいというのがありまして、最初はもっとマイナー調な曲だったんですけど、これをもっと明るめにしてメロディを綺麗にしてもいいんじゃないかと思って書きました」
──たしかに今作からは、そういった勢いも感じられますね。すごくバンドのフレッシュさが感じられるアルバムです。今回は、そんなアルバムの中から「DRY DRIVE」、「星の恋人」、「かもめのBaby」の3曲をDSD(5.6MHz)、ハイレゾ(24bit/96kHz)、CD(16bit/44.1kHz)で聴き比べましたが、ハイレゾ音源やDSDって知っていましたか?
中野「知りませんでした(笑)」
荒谷「知りません(笑)」
──(笑)最初は、そうですよね。CDよりも、高音質で音楽を体験できるフォーマットで、いま注目されています。ちなみにお二人は、これまでどのようなメディアで、音楽を聴いてきましたか?
荒谷「私は、カセット、MD、CD、MP3だと思います」
中野「私はそれに加えてレコードも聴いています」
──アナログを聴いているんですね! それはすごいですね。
中野「私はレコードの音がすごく好きで。その生の質感が、今回聴いたハイレゾ音源やDSDで感じられるようになるといいなって思いました」
──今回、自身の曲を実際に聴き比べてみてどうでしたか?
荒谷「CDは、少し聴き慣れた感じの音がしました。でも、他の2つを聴いちゃったら、そっちの方が良かったですね」
中野「CDクオリティーは、まとまっている感じはしました」
──ハイレゾ音源は、どう聴こえましたか?
中野「ひとつひとつの音が、ハッキリと聴こえてきました」
──自分たちの演奏、つまり生音に近いと感じたのはどの音源でしたか?
荒谷「近いというかCDでも聴こえない音が聴こえたのがDSD。それが一番、シンバルの余韻だとかよく聴こえました」
中野「バスドラの音もすごい近く感じました」
荒谷「歌のエコーも、めっちゃ聴こえない?」
中野「うーん、わからない(笑)」
──正直ですね(笑)。何か発見はありましたか?
中野「音の印象的には、ハイレゾが元の音の粒を細かくしてきれいに聴こえるというイメージで、最後のDSDが音に広がりがあって、低域とかCDだと聴こえない細かい音が聴こえてくるようでした」
──どれもそれぞれに音の傾向がありますが、演奏をしている側からすると自分たちの演奏がよりダイレクトに伝わる方が嬉しいですよね。
中野「そうですね。当たり前だけど、レコーディングしている時の音とCDにした時の音は違って聴こえると思います」
──CDもエンジニアさんがすこしでも“いい音”で届けるために、工夫を凝らして作っていると思いますが、それをパソコンでMP3にしてしまうと、最初にレコーディングした時の音からは、だいぶ圧縮されてしまいます。そういうリスニングだけでなく、データで聴くにしてももっと良い音で音楽を聴けるようになるのが、ハイレゾの魅力でもあると思います。
荒谷「そうですね。ハイレゾとかDSDは、音がすごく細かく聴こえる印象で、CDの“ギュ”っとした感じで来る音も好きなんですけど、細かな音で聴きたいのならばハイレゾかDSDかな」
──どの音源も、それぞれ魅力がありますね。今回は、CD以外にも配信でハイレゾ音源(24bit/96kHz)、DSD(5.6MHz)も発売されますが、リスナーに音源の選択肢が増えるのはどう思いますか?
中野「レコードが好きなので、レコードの大きさのパッケージを作ってみたいというのはあります。やっぱり歌詞カードとか、細かい盤面とか全部を総合してミュージシャンが届けたい物だと私は思うので。でも、音質が良いのは嬉しいですし、選択肢は広い方がいいと思います」
──たしかにパッケージは魅力的ですね。では、ハイレゾ音源もしくはDSDがジャケット付きで売れるのが理想ですね。
中野&荒谷「そうですね(笑)」
──最近だと、ハイレゾ音源等をパッケージで売っている方もいますよ。
中野「そっか、ハイレゾとかってもう形がないってことか……あれ、でもMP3もそっか。アナログ人間だから付いていけてない(笑)」
荒谷「いま一般的な配信はMP3なんですか?」
──いろいろな形態が出ていますが、メジャーのアーティストはMP3のような圧縮音源での配信がまだ多いですね。今日聴いてもらったハイレゾ音源は、そういった圧縮なしのデータを、そのまま販売できるのが魅力なんですね。
中野「そっか、勉強になります」
──今日は、ハイレゾ/DSD音源の魅力を体感できましたか?
中野「はい」
荒谷「よくわかりました」
──今後は、バンドとしてチャレンジしていくことはありますか?
中野「ライヴももっとがんばって、いろんな人にこれから先もずっと聴いてもらえるバンドになりたいです」
荒谷「自分が弾いていて楽しいって思える瞬間や、その時の音をもっと共有したいと思いますし、それがライヴだけでなく音源でもできると嬉しいので、ハイレゾやDSD音源も楽しんでほしいと思います」
──最後に他のアーティストのハイレゾやDSD音源を聴いてみたいと思いましたか?
荒谷「選べるんだったら、聴いてみたいと思いました」
──今日は、ありがとうございました!
今回のDrop’sのように、若手バンドを中心にハイレゾ音源のリリースが増えれば、ますますスタンダードなリスニングのフォーマットとして、ハイレゾが認知されていくと思います。これからも、たくさんハイレゾ音源が増えれば、音楽を聴くこともより楽しくなりますね。
次回は、高音質な音楽再生が楽しめ話題のイヤフォン/ヘッドフォンを少しだけご紹介したいと思っています。ハイレゾ音源の再生時のみだけではなく、イヤフォン/ヘッドフォンにこだわれば、iPhoneなどでの音楽再生時にも高音質で音楽を聴くことができるようになります。それでは、また次回!
2009年に高校の軽音楽部で結成した5人組ロック・バンド。メンバーは、中野ミホ(vo,g)、荒谷朋美(g)、小田満美子(b)、石橋わか乃(key)、奥山レイカ(dr)。2011年、初めて作ったオリジナル曲「泥んこベイビー」でコンテストに出場し、見事グランプリを獲得し注目される。2013年、キングレコードのロックレーベル “STANDING THERE, ROCKS” よりメジャー・デビューし、初のフル・アルバム『DAWN SIGNALS』をリリース。2014年7月9日には2ndフル・アルバム『HELLO』を発売。ロック、ブルースをベースとしながら、歌の存在感もしっかりと伝わってくるナンバーが魅力的。ライヴも精力的に行っている。
【初回限定盤】CD+DVD KICS-93076 ¥2,639+税
【通常盤】CD KICS-3076 ¥2,407+税
STANDING THERE, ROCKS / KING RECORDS
※写真は初回限定盤
【ハイレゾ音源配信】mora | e-onkyo music | VICTOR STUDIO HD-music
菊池真平(きくち・しんぺい)
音楽雑誌「Player」、オーディオ誌を発行するステレオサウンド社で「Beat Sound」、「Digi Fi」の編集に携わった後に独立。現在はフリーランスで、ヴィンテージ・ギター関連書籍/ギターに関する雑誌等に、編集/ライターとして携わる。国内外のミュージシャンへのインタビュー等も多数行っている。