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- 2024/11/16
誰が言ったか知らないが、都内某所にマニアックなサウンド・チェックを夜な夜な繰り返す地下工房があるという……。それが噂の“デジマート地下実験室”。第1回の“9V電池の違いでエフェクターの音は変わるのか?”は想像以上に音の違いが露わになり、たくさんの反響をいただきました。ありがとうございました。第2回の実験は、“ストラトのネジの締め具合で音が変わるのか?”。さあ今回は、どんな結果になるでしょうか?
ストラトのネジの締め具合で音が変わるのか
■ストラトのネジにまつわる噂
◎ネック・ジョイントの締め具合で音が変わる!
そもそもこの実験を思い立ったのは、ギター・マガジン2014年4月号“フェンダー・ストラトキャスター生誕40周年総力特集”を読んでいた時のことです。「11人の名手が語る オレ流ストラトの鳴らし方」というコーナーで、ある大物ギタリストが「ジョイント・プレートのネジの締め具合って、音をものすごく左右するんですよ」と仰っています。その方はコンデンサーの名前をバンド名にしてしまうくらい、サウンドやその調整に愛情を持っていますから、これが嘘なわけがありません。
ただし、ネジの締め具合と音の関係が、動画を通して皆さんにうまく伝わるのかということと、その前に違いがわかるのか? 私に?という点が問題です。
正直、ネック・ジョイント部分だけでは心もとなかったものですから、ストラトのネジというネジを、すべて締める/緩めるという方向で、音を比較してみました。例えば、「ピックガードのネジなんか、関係ないっしょ」という意見もあるかもわかりませんが、ピックアップは、ボディ直付けとピックガードに吊るすのとでは音が変わると言います。ということは、ピックガード自体の振動も音になんらかの関係があるのでは?と見て、他のネジと合わせて“締める/緩める”で音が変わるかを試してみました。
■使用機材
◎フェンダー・カスタムショップ・ストラトキャスター
◎フェンダー'68デラックス・リバーブ(セッティングはフラット)
◎VEMURAM Jan Ray(オーバードライブ)
◎Van Den Hul/Providence/Belden(ケーブル)
◎D'Addario EXL110(弦)
◎フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
※ギターのセッティングについて
各部のネジを緩めることで、弦とピックアップの距離が変わってしまってはサウンド実験になりません(それによって音が変わるため)。一通りネジを調整したら、最後にピックアップ高を調整し、一定の距離を保って音をチェックしています(当然ながら、ピックアップの高さ調整ネジだけは、締める/緩めるといったことを行っていません)。
※その他のセッティングについて
ギターのセッティングの変化がそのまま音に表れるように、アンプやエフェクターの設定は変えていません。
※使用エフェクターについて
実験に用いたオーバードライブは、VEMURAM のJan Rayです。本器を採用した理由は、手持ちのODペダル数種の中では素直な音質で、タッチに敏感なので、原音のちょっとの違いを明確にしてくれるのでは?という期待からです。
今回の実験内容は、1本の動画にまとめてあります。あまり長くありませんので、最後まで見て、音を比較してみて下さい。
00:25〜 ネジ増し締め
まず最初は、すべてのネジを増し締めした状態のサウンドです。ブリッジはフローティングしていません。アンプにつながずにギターを弾くと、ヘッドからボディまでストレスなく振動している感じです。音は、高域が澄んで、低域が締まっています。次にアンプにつなげてみましょう。やはり音の印象は同じです。明瞭な高域と、タイトな低域が出ています。音の解像度が高い感じです。ハイエンド系のギターは、デタッチャブル・ジョイントであっても、ネック・ポケットにネックを入れ込むだけでネジ止めせずとも容易には外れないと聞いたことがあります。それくらいタイトなネック・ポケットであり、加工精度が高いわけですが、ネック・ジョイント部のネジをしっかり締めることで、全体的にハッキリ・クッキリした音を生み出しました。この“全部締めの音”が基準になりますから、覚えておいてください。
01:19〜 ネジ緩め/フローティングなし1
次に、ネジを緩めます。まずはネック・ジョイントから。このストラトは4点止めで、先に触れたギタリストの方が仰るには“4点のどこをどの程度緩めるか/締めるかでシビアな調整ができる”そうですが、今回は豪快に全部緩めてしまいます。さらに、ヘッドのストリング・ガイド・スペーサー、ペグを留めているネジ、ピックガードを留めているネジ、ブリッジを留めている6個のネジを、すべて緩めます(ただし、ボディ裏のトレモロ・スプリング調整ネジだけは、この段階では緩めません)。最後に弦高をチェックして、ネジはすべてユルユル/フローティングなしというギターの出来上がりです。では音を出してみましょう。
02:00〜 ネジ緩め/フローティングなし2
まずは生で弾いてみます。おおっ、早速違いますよ。鳴り方が全然違います。ネジを緩めることで、ボディやネックの振動の仕方が変わっているはずですから、それがサウンドにも影響するのは自然なことなのかもしれません。弾いている本人は、ネックに触れる左手、ボディに当たる右ひじ、腹、太ももなどでも振動を感じていますので、聴覚だけで判断せざるを得ない皆さんより、違いを大きく感じています。
次いで、アンプにつないでみましょう。もちろん、アンプやエフェクターのセッティングは先程と同じです。やはり、違いますね。感覚的には、全締めがソリッド・ギターだとすれば、全緩めはセミアコという感じです。高域の明瞭さと低域の削れ方に違いが感じられますし、全締めは反応が早くアタッキーで、ゆるゆるは適度なコンプ感があります。結構、違うもんですね。
02:53〜 ネジ緩め/フローティングあり
最後に、トレモロ・スプリング調整ネジを緩め、ブリッジをフローティングさせます。弦高が変わるのでピックアップ高を調整し、全ユル/フローティングありのギターとなりました。早速、弾いてみましょう。あーなるほど。これも違いますね。全締め→全緩めの方向の、さらに延長線上にきた感じです。
アンプに通しても、印象は同じです。音の解像度が落ちて、コンプ感、リバーブ感が増しました。世の中にはハイエンド・ギターが好きな方もいればビザール・ギターが好きな方もいるので、どちらが良い・悪いということはないと思います。
ただ、ピッチの安定感がないというか、簡単に言うと、弾きにくい……。どうやら私、やり過ぎましたね。いろいろと緩め過ぎなんでしょう。やはり、何事もバランスが大切だと思い知らされました……。
結論:ストラトの音は、ネジの締め方で変わる。
ちょっとしたことですが、結構変わるもんだなぁというのが今回の感想です。キツキツに締めた場合はテレキャスターを連想させるようなストレートな鳴りで、個人的にはせっかくストラトを弾くのであれば、どこかをほんの少し緩めたくらいがよりストラトらしいかも……などと思いました。
宅録で時間がたっぷりあり、シビアに音を作り込みたいという場合には、全体のバランスを見ながら愛器のネジを締めたり緩めたりしてみると楽しいと思います。その場合、同居人に変な目で見られないよう、部屋のドアを閉めておくといいでしょう。それではまた次回、今度はより深い地下3階でお会いしましょう。
【注意】本コーナーで取り上げているストラトキャスターのネジ調整を実践する際は,個人の責任の範囲内において,細心の注意を払って行なって下さい。作業中にギター、及びパーツになんらかのトラブルが生じた場合,井戸沼氏,及び編集部は責任を負いませんことをご承知おき下さい。
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。