アコースティックエンジニアリングが手がけた“理想の音楽制作を実現する”環境
- 2024/11/25
デジマート・マガジンの連載コラムとして再スタートした『Dr.Dの機材ラビリンス』。第2回は、ボリューム・ペダルを取り上げてみた。シンプルな構造と効果ゆえの奥深さを、じっくりと味わってもらいたい。
『音量』とは何だろう、と考える事がある。
単純なパワーだったり、迫力だったり、意志だったり……とにかく「量」だと言う限り、それは明確に量れるものらしい。目には見えなくとも、人は確かにそれを大小で判断でき、必要で快適な「量」だけを摂取しその中で生活する。気に入らなければその「量」を調整する。“ボリューム”と呼ばれるコントロールがそれだ。うるさいから耳を塞ぐ、遠くに聴こえるように大声を出す、窓を閉める、黙る、夜中にサカっている猫に水をぶっかける(笑)、すべて、自分が快適に生きるために必要な音の「量」を得るための作業である。一つだけわかっている事は、どうやら、音というものは、『音量』を調整しないと使い物にならないらしいものである、ということだ。
なかんずく、音楽の世界にも『音量』はあるし、ボリュームの調整が必須である事はいまさら言うまでもなかろう。だが、ことプレイヤーとしての視点から見ると、事態はそう単純ではない。快適に聴こえるから、弾けるから、それで良いかと言えばそんなわけは無い。なぜなら、プレイヤーにとっての『音量』とは、能動的なエフェクト足り得る存在であると同時に、もっと根本的に、音楽というものに繋がっている存在だからだ。
では、『音量』を変えると、実際に『音質』は変わるのだろうか?
エフェクトという限りは、音像に積極的な変化をもたらすもの、例えばディストーションやディレイのようなものを思い浮かべる人も多いかもしれない。そこへいくと、ボリュームの役割は明らかにそれらとは異なっている。当然だ。それは「量」のみのエフェクト……つまり、「質」を維持するから“ボリューム”なのであり、『音質』を変えないからこそ『音量』というパラメータとして独立したプライオリティを確保できる存在になり得るからだ。
だが、理屈上はそうであっても、現実は違う。『音量』によって『音質』は変わる。大きな声と小さな声じゃ届く距離が違うように、必ず聞き取れる部分に差が生まれ、それが音質に影響を与える。もっとわかりやすい例で例えるならば「無音」はどうだろうか? 『音量』のみで到達できる効果の先に、音が全く無くなる……これでも『音質』には影響しないと言い切れるだろうか? そう、科学的に細かく分析せずとも、よくよく考えればこれはあたりまえのことなのだ。
“ボリューム”。それは決して『音質』を変えない仕組みではなかった。では、それは何のためにあるのか?ギタリストはこの問いに対して、ジレンマのトラフィックスで今日ものたうち回る事になる。彼らの持ち合わせる実践はいつもこうだ。「ボリューム・ペダルは音痩せする」。皆が鬼の首を取ったようにそう言う。だが、先の理論からすれば、これは全くもっておかしな話だ。チューブ・アンプ直のギターのボリュームを絞れば歪みが美しいクランチやクリーンに変わる事を知っていながら、彼らはボリューム・ペダルの音の変化は許せないらしい。ギターにだってバイパスできないポッドは入っているし、多くのギタリストが過保護にかわいがっている大好きな「原音」ちゃんもしっかりとそこを通過するのに、だ。ケースが、接触が、インピーダンスが、シールドが、距離が……色々な言い訳はさておき、この論点がすでに現実を見ていない点は、賢明な読者には説明不要だと思う。
結論として、“ボリューム”はエフェクターである、と言えるだろう。しかも、同一の出力回路内にロケートされた機構である限り、どこに置かれようと必ず『音質』を変化させるエフェクトなのだ。『音質』が変化しないと考えるのは、ギタリストのただの願望に過ぎない。ポッド一個、ジャック一つ、線材1cm……ボリュームだって、パーツを通る限り音は変化する。彼らが「原音」と呼ぶギターからの出力音が、すでにボリューム・ペダル内部と全く同じ構造のアッセンブリ・パーツをすでに通過してしまっている、その事実、それが容認できて、ボリューム・ペダルの音が許せない? それは実にナンセンスな議論だとは思わないか?
「原音」は大切だ。しかし、その変化をしっかりと受け止めて利用する事はもっと重要なのだ。ギタリストは、「原音」の『音質』を形成する要素に、必ずボリュームと言うエフェクトが組み込まれている事をしっかりと理解する必要がある。そして、ボリュームは『音質』だけでなく、『音圧』を、『歪み』を、『響き』を、そしてプレイヤーの『表現』そのものを全て引っ張っていってしまう実に強力なエフェクトであることも忘れてはならない。
“ボリューム”無くして「原音」無し。大好きなその音に一番近くに寄り添っている、そして影響を与えているエフェクターが何であるかを今一度思い返してみよう。そして、ふと気付く。まるで今までの虚構を苛むように足下でパカパカと口を開けて笑っているボリューム・ペダルの存在に。そう、こいつこそが、完璧なシグナル・プロセスに残されたただ一つの純然たるオリジナルの意志を注ぐためのデバイス……そして、プレイヤーに許された最初の『音質』、そのものだということに!
『音質』に影響を与えるエフェクト、“ボリューム”を、単一のデバイスとして独立させた機材が『ボリューム・ペダル』だ。もちろん、前述したような音の核を構成するだけでなく、もっとわかり易い「トレモロ」や「バイオリン奏法」、「スティール・ギター・リック」、「フィル」、「ミュート」といったザ・エフェクターともいうべき使い方ができる事でも知られているデバイスである。また、歪みペダルの後段に置いてマスター・ボリュームとして使用したり、センド/リターンに入れてパワーアンプのダイナミクスをコントロールしたりもできる。機構は単純だが、求められるものは多い。それもこのペダルの特徴の一つだろう。
今回は定番なものの中から、手に入り易い個性的な製品を中心にピックアップしてみた。ここではプリセット系のストンプ・ボリュームやMIDIコンなどのものは省き、あくまでも旧来のペダル型ボリューム同士の個性を比べている。現行ボリュー・ペダルの実力と、そのシンプルながらも奥深いチューニングに見る用途に応じた使い分けの妙を、是非自己のシステムにも照らしてご覧頂きたい。
国産大手BOSSのボリューム・ペダル“FV”シリーズの現行フラッグシップ・モデル。何といっても、音にこだわる多くの海外プロも使用した名機“FV100”直系の、違和感の少ないスウェル・カーブを継承していることがこのシリーズ最大の魅力。ペダルのしっかりしたトルクに追従するストレートなシフトは、生真面目すぎると揶揄されるほど実践での安定感において抜群の信頼性を発揮するだけでなく、エクスプレッション・コントロール時の数値操作でも圧倒的な高精度を期待できる。アルミ・ダイキャスト製のブランド・オリジナル成形による縦長のシルエットは足裏への密着性が良く、靴の上からでも支点が把握し易いのが更に使い勝手を向上させている。音質は、想像ほどこもりはしないが、ゲインの角はやや削られる感覚がある。よって、レクチなどの金属的な高域を持つモダンな歪みを活かしたい場合には、意図的にハイファイな音質を狙ったライン・ドライバー回路などとの併用が不可欠になる。ちなみに“FV-500L”は2系統のロー・インピーダンス入出力を同時にコントロールできるので、ステレオでも使用可能。 [この商品をデジマートで探す]
コンパクトなシルエットのBOSS製ボリューム・ペダル。“500”シリーズのようなエクスプレッション・コントロール端子を持たない代わりに、構造的に大胆なスリム化を実施。その重量はなんと400gという破格の軽量を達成する。樹脂製のシャシーはやや耐久性に欠ける点もあるが、ミニマム・ボリューム(最小音量設定)も装備しており、ボリューム・ペダルとして使うだけならば機能に遜色は無い。何といっても、エフェクト・ボードの軽量化と省スペースに貢献できるのが最大のメリットだ。ボリューム・カーブは上位機種と同等の癖の無さだが、筐体の素材のせいか微妙な低音の分散感を感じる時がある。タイトな低音にこだわるような音作りをしている場合は、手元のタッチの切れ味を損なう場合もあるので、意図的にロー・エンドのイコライジングに気を利かせると断然に使い易くなる。 [この商品をデジマートで探す]
今やボリューム・ペダル界の兄貴的存在のメーカーと言えば、このERNIE BALLを思い浮かべる人は多いのではなかろうか。分厚いアルミ合金を利用したヘビーデューティな筐体と、幅の広いトップ・ボードによる楽々としたベンドは他に類を見ない。プロのツアーでもその耐久性は折り紙付きとされ、近代のモディファイ・ブームの先駆者であるKeeleyやAnalogmanなども積極的にこの筐体をモディファイに活用したほどだ。最もスタンダードなハイ・インピーダンス仕様の#6166を初め、ロー・インピーダンス用ステレオ・タイプ#6167、アンプのチャンネルなどを切り替えられるラッチ式トゥ・タップ・スイッチを装備した#6168、さらには500KΩというハイファイ仕様かつ二台のアンプへの振り分けなどで便利なパン機能への切り替えが可能な#6165など、様々なバリエーションを持つのも特徴。トゥに行くに従って急激に音量が突出するAカーブを持つ#6165以外は、皆、全体的に立ち上がりに少しクセがあるものの極めてフラットで安定的な推移を持つ。音質は、やや、ハイ・パス気味か。ビンテージ・タイプのハムバッカーなどで使うとなんとも甘い音になりすぎる感があるので、ギターのトーンは硬めに設定しておかないと、いざボリュームを絞ってクリーンを使いたい場合にアタックの低いモコモコの音になってしまうので注意が必要だ。 [この商品をデジマートで探す]
ERNIE BALLの堅牢さは維持したまま、ペダル・ボードに組み込み易い容量に筐体をサイズ・ダウンした“JR(ジュニア)”シリーズ。現代仕様のモノ・ラインに特化することで構造をシンプルにし、ペダル本来の使い勝手のバランスを追求した全世界定番のボリューム・ペダルだ。大型の上位機種同様、踏み出しのやや急激な立ち上がり以外はフラットに推移するカーブ特性を持っているので、難しく考えなくても音のバランスは量り易いだろう。#6166などに比べると多少重心が真ん中に寄ったきらいはあるが、むしろペダルの重さに左右されずしっかりとフィールできるので、駆動余力を残した高出力設定のアンプをボリューム・ペダルで7分程度に抑えて使用する人には実に使い勝手が良い。 [この商品をデジマートで探す]
アクティブ回路を搭載したバッファード仕様で、音痩せの問題を根本的に取り払うよう設計されたボリューム・ペダル。トゥ・ダウン時には任意に最大+20dBまでのゲイン設定が可能で、リニア・ブースターに近い機能も備える。音像は硬くシャープで、ハイ側に寄った音質のバッファだが、倍音の上昇は暖かみがあり、歪みでもクリーンでも使える音になる。ただ、回路の特性上、ゲインがユニティでも多少の力感が発生してしまうため、アンプ直派には鼻につくサウンドになってしまう可能性がありそうだ。現代風なモダン・アンプの歪みと併用して割り切って使うと実力を発揮できるペダルだ。筐体の大きさは“JR”サイズ。コンパクトに設計されているため、ペダル・ボード隆盛の現代ニーズに適合する。 [この商品をデジマートで探す]
世界に名を轟かす国産ハンドメイド・エフェクト工房Shin’s Music。その代表機種であり、発表以降、プロ、アマ問わず、瞬く間に圧倒的な支持を受けることとなったボリューム・ペダル界の最高峰との呼び声も高い“Perfect Volume”シリーズ。やはり最大の特徴は、その原音を大切にするナチュラルな音質にあるだろう。劣化が無いわけではない……しかし、その変化が実にギタリストの音の好みを押さえた特性をはっきりと維持している事こそがこのペダルの真価とされている。つまり、ギター・サウンドの「美味しい部分」を失わないボリューム・ペダルなのだ。しかも、それは歪みの大小やピッキング・ニュアンスの差にもきちんと反映され、常にどんな音量設定にしても気持ちよく音が躍動する。他の製品では味わえない抜群のダイナミクスを有しており、人間の感覚的に正しいと感じるポジションから音の力点が移動しないのが実に興味深い。シンプルな構造の製品故に、国内を代表するエンジニアでもあるビルダー鈴木氏の耳とチューニングの精度の高さを否応無く実感させられる逸品である。Perfect VolumeシリーズにはBass専用のバージョンも存在するので、ベーシストの方は是非探してみると良いだろう。[この商品をデジマートで探す]
ベストセラー“Perfect Volume”の純血を引き継いだプレイヤー待望の小型バージョン。あの素晴らしい音質を保ったまま小型化された事には歓迎する声が多いのではなかろうか。専用の筐体だが、踏み応えはShin’sっぽくセンター寄りの支点で、動作も滑らかだ。カーブも全くブレがなく、真っ直ぐに音量が上下する。オリジナルに比べ筐体が小さくなったせいか多少低域が減衰するのが早くなった気がしないでもないが、それもほぼ誤差の範囲内だろう。相変わらず高域のきらびやかな感じは聞き手が気持ち良い範囲で推移するのが良い。さらに各ピックアップ出力やエフェクターのアウト側に最適化した特殊なインピーダンス・マッチングを施した楽器店連携の「Artist Special」も販売されており、使用環境に順応したチューニングのものを選ぶ事で、より高いS/N比を維持した極上のスウェルを体感できる。 [この商品をデジマートで探す]
アクティブなFETブースター回路を含んだ幅広いボリューム可変が可能な統合ニュアンス・コントロール・ペダル。感覚としては、ヴィヴィッドなサウンドを拾い上げる性能を持った極めてクリーンなプリアンプといった印象で、イコライザーこそ無いが、手元で音量を下げすぎた際に失われるエッジやアタック感をロー・ゲインのまま自然にプッシュしてくれる能力がある。こればかりはパッシブのペダルでは不可能な領域だ。その音はさすがのShin’sクオリティで、不自然な感じを一切与えないから素晴らしい。しかも、最大値では40〜50dBもの強力なブースト量に達する音量シフティングが可能で、ギターのボリュームの最大値を超える圧倒的な表現幅を提供してくれる。使い方によっては、今までのギター・サウンドが届かなかった全く新しい領域の音も余裕で再現できるほどの高次元なポテンシャルを秘めた異色ペダルだ。加えて極めてローノイズな設計なので、今使っているバッファなどに不満のある人は思い切って導入することをお勧めしたい。[この商品をデジマートで探す]
頑強な総シルバー筐体の重量級国産ボリューム・ペダル。たっぷりとした踏みしろとペダル・スプリング機能(足を離すとバネの力で任意のポイントにペダルが自動的に戻る機構)があるので、広角な表現力を活かしたプレイによく用いられる。音質は慣らした感じに抑揚が失われがちだが、歪みへの適性は高く、特に“XVP-10”はエフェクターで歪みを作る人にとってのマスター・ボリュームとしてはなかなか高品質。ちなみに“VP-10”が250kΩハイ・インピ用。“XVP10”は50KΩ以下入力専用のロー・インピーダンス・モデルで、アウト端子を利用したエクスプレッション・コントロールが可能。“XVP10”はむしろEXコンとしての性能の方が有名で、相性が難しい「0番駆動」MIDI機器への適性を持つリアルタイム・コントローラー/コマンド・ファンクションとして、プロの現場で圧倒的なシェアを勝ち得ている。 [この商品をデジマートで探す]
いつも斬新なアイデアと卓越した機能美で注目を集めるSoul Power Instruments謹製の、ありそうでなかった実力派ボリューム・ペダル。最大の特徴はワウのようにペダル先端のスイッチを押し込むとトゥルー・バイパス化される機構を搭載している事で、これは、ボリューム・ペダルが通常直列で用いられるという常識に対する盲点を突いた機能だ。これでボリューム・ペダルが不必要な場合の音質劣化の原因を物理的に排除する事ができるのは大きい。しかも、このペダルにはボリューム操作ONの時にのみ動作するバッファ・サーキットが搭載されており、その音質はとてもクリアで彩度の高い自然な音色を持っている。もともとバイパス時との音量差を補正するためのものだが、気にならない人はバッファを任意でカットする事も可能。筐体も小さいながら頑強で、総合的なレベルの高さを窺わせるペダルとして今後はさらに注目される可能性のあるペダルだ。 [この商品をデジマートで探す]
ギアや凧糸を排した光学式ボリューム・ペダル。駆動系を排した事によるシンプルな構造は、余計な故障やガリを発生させない事でも知られ、実に静粛な動作だ。慣れないうちはペダルに手応えが無さ過ぎて、シーソーのように行ったり来たりしてしまいそうなほど操作感は軽い。“Volume Plus”にはフットスイッチ付きのミニマム・ボリュームがあり、楽曲によって音幅をある程度固定したい場合には有益だ。Steve Vai仕様の“Little Alligator”は、立ち上がりのカーブが緩やかに設定されていてバイオリン奏法にはもってこい。バッファの音は皆ほぼ共通で、ややドンシャリ気味になるものの定位は良好で使い易い。軽い操作感を活かしたテクニカルな使い方で本領を発揮するペダルだ。 [この商品をデジマートで探す]
ワウで有名なJim Dunlopの、美しい流線型のフォルムを持つオリジナル・ボリューム・ペダル。「スチール・バンド・ドライブ」というベルト・タイプの駆動方式を採用し、滑らかな操作感を実現。なるほど、ギアや紐タイプでおなじみの、力を入れた瞬間にグッと詰まった感じのする踏み出しの抵抗(結果的に力を入れすぎて有効地点を行き過ぎてしまう)が、全くと言って良いほど感じられなかった。ほんのちょっとだけ今よりボリュームを下げたい……などという時には、この機構は心強い。トルクの調節も楽にできる上、筐体も豪奢で、制動に個体差がほとんど無いしっかりとした組み上げにも好感が持てる。入力は250KΩとなっているがよりハイ・インピーダンスなハムバッカー(400KΩ〜)でも十分芯のある音が得られた。また、最新の“DVP3”はエクスプレッション・コントローラーとしても機能させる事ができるが、内部スイッチを入れなければならない場合もあるので注意が必要だ。“DVP3”のリバース・スイッチ(トゥ・ダウンでボリューム最小)はかなり異質な操作感が味わえるので、既存のペダルでコントロールに違和感のある人は積極的に試してみよう。 [この商品をデジマートで探す]
がっちりしたアルミ筐体を採用しながらも重量を1kg程度に抑えた国産ボリューム・ペダル。スタンダードなハイ・インピーダンス・タイプの仕様だが、ミニマム・ボリュームやチューナー・アウトといった基本機能をしっかり押さえながらも良心的な価格設定を実現。小さくても可動範囲の広いペダルは微細なポイントを探るのに向いており、使い勝手はなかなか。ハムバッカーで使うと中低域の痩せが目立ったが、逆にシングルコイルには高度な適性があるようで、ボリュームを絞っても澄んだ倍音がきちんとアンプをプッシュするのが感じられた。強めのピッキングを身上とするストラト系プレイヤーなどには十分お勧めできるクオリティを持つ。ジャック横にロール・バーが設置されているためL字プラグが使いにくいのが難点だ。 [この商品をデジマートで探す]
コンパクト・エフェクター並の超小型筐体を採用した光学式アクティブ・ボリューム・ペダル。ハイを強調した明るいサウンドのバッファを有し、ボリュームを下げてもしっかりと歪みに芯が残るのが特徴。ユニティ・ゲインがあるのか、完全なクリーンで使うと多少ゲイン・ブーストした感じにシャギーが現れるが、ギターのTONEを使って理想の音を追い込むのはさほど難しい作業ではない。これだけ小さいと稼働範囲に問題がありそうだが、見た目以上に十分な踏みしろが確保されており、スムーズなペダリングへの支障は何も見当たらなかった。また、3段階で最大音量をセッティング可能で、ボリューム・ブースターの役割を兼任させる事もできる柔軟な仕様を誇る。“LLM-2”になり、モードに関わらずペダルをミニマムに戻せば完全消音が可能になった点も見逃せない。 [この商品をデジマートで探す]
究極のボリューム・ペダルの一つとして最近何かと話題のHilton Electronics。ポッドを排した駆動系は『音』と『動作』を完全に分離するという、誰もが思い描くその理想に非常に近い完璧なまでのボリューム操作を達成する。一度踏むとわかるが、蹴り出しから踏み終わりまで、生き物のように足の動きにシンクロする負荷がきちんとあるのがわかる。ペダルの自重を活かした滑らかで吸い付くようなその動きは、慣れれば小さな動きの中で様々な表現ができそうである。カーブはAに近いが、気持ちよくその効果を聴き取れるように特に出足のインパクトを強調するチューニングになっている点もいかにも独特なセンスを感じさせる。さらにハード面では、入力デバイスを選ばないアクティブな『インピーダンス・マッチング能』を備え、加えて固有のTONE調節が可能という、もはや一個の独立したシステム・コアとして十分な機能を持っている。クリーンにしても、ゴリゴリに歪ませても、広大なダイナミック・レンジを失わない目の詰まった濃厚なトーンを押し出してくるのは、今までのボリューム・ペダルの悩みが何だったのかとあえて問い直したくなるほどの鮮烈さだ。足の負担を和らげるようペダルの低さも追求されており、5分も使わないうちにその膝への負担の少なさを実感する事ができた。あらゆる面で完璧に見えるこのペダルだが、DC24V駆動というハイボルテージな電源が必要な点のみが唯一ネックとなっている現状がある。電源周りの取り回しの悪さを犠牲にしても音と機能を取るか……悩ましい限りだ。 [この商品をデジマートで探す]
逆転の発想から生まれた、ペダルレスなボリューム・コントローラー。本体の銅板の上に物体を近づけると音量が上がり、離すと下がる。この基本動作の上で、不規則で有機的な音量の上下を演出する事ができる。周波数が変わるわけではないのでモジュレーション効果は無く、あくまで音声量のみに干渉するエフェクトとしてちゃんと成立している。それどころか、ボリューム・カーブは実に上品に連動するようにチューニングされていて、むしろペダル以上にアカデミックな応用を利かせる事も可能だ。出力部には同社の大人気ブースター“Super Hard On”も組み込まれているので、ボリューム低下時のゲイン不足に悩む事はなくなるだろう。むしろその名のような安定したトレモロ効果を生む方が難しく、やはりこれはステージに上がった時に気分とその場のノリで使う飛び道具として割り切るべきであろう。引きずったシールドがこのエフェクターの上で暴れた場合に、歯ぎしりしたくなるようなもどかしいウェーブが飛び出すかどうかは、神のみぞ知る所だ。[この商品をデジマートで探す]
これまた一風変わった形状を持つボリューム・シフター。元はBOOMERANG社製エフェクターのリアルタイム・ベンドを目的としたMONOタイプのエクスプレッション・デバイスとして用意されたものであるが、実際にはペダルは装備されていない。ペダルの代わりに本体上部に取り付けられたローラー部を回転させることで数値的なポジションを上下させる。ただし、その振り幅は大きくなく、靴底を爪先から踵まで一度滑らせれば十分に最大差に達する程度。よって、ボリュームとして使うならば、足で操作するよりむしろアンプの上などに置いて手でフィードバック等をコントロールするのに適しているように思える。目盛りがある事を活かして、ペダル・ボードの中でマスター・ボリュームとして使うのも良いかもしれない。 [この商品をデジマートで探す]
ボード内ではなく、任意の場所にゴロリと転がして使う事を想定した異色のボリューム・ペダル。シャシー全体がゆりかごのように縦に揺れる構造の船型をしており、上部の平らな板部分を前方に踏み込んでON。爪先を跳ね上げればボリュームは下がって行く。全体が固定されていないのでペダルの向きが変わりがちなのと、接続するシールド/プラグの重さなどによって初期値の傾きにやや誤差が出るのでその点には注意が必要だ。バイパス時(バッファード)の音量を変える事ができるので、音量差が気になる時はそれで対応しよう。バッファはこれもエレハモらしいと言うか、現代風なナチュラル・トーンとは真逆の実に個性的な音質で、湿っぽい感じのハイ・ミッドとごつくてややブーミーな低音が混ざり合ったダークで底力のある出音が不思議な魅力をかもし出す。古いアメリカン・アンプの持つ6L6管の粘っこいフル・アップと絡ませて使ってみたい音色だ。カーブはB系統に近いが、中間に独特の加速感があり、これはこれで癖になる振幅をみせる。入力が超ハイ・インピーダンス仕様(1000KΩ=1MΩ)なので、ビンテージのベースでも余裕で受ける事ができる点にも注目だ。 [この商品をデジマートで探す]
同メーカーの初期ラインナップとして人気の高かった“Visual Volume”を、10周年記念バージョンとして再販。パッシブ/アクティブどちらでも動作させる事ができ、パッシブ時には電源不要という柔軟な使い勝手ができる個体。パッシブ時の音質は、減衰時に低音にやや力が無くなる以外は極めて良好で、低音量でも発色の良いサウンドが楽しめる。しかし、どちらかと言えばこのデバイスが本領を発揮するのは電源駆動時であると言えるだろう。まず、バッファのダイナミクスにより、ベースなどでは特にアタックのガサガサした感じを抑制しつつまとまった音として聴かせる事ができるようになる。さらに、サイドの10個のLEDにより稼働量を目視できる点は何より大きな利点だ。アクティブなボリューム・ペダルでもなかなかここまで見やすいインジケーターは装備されないので、使ってみてその便利さに驚くばかりだ。そして、極めつけは「ブースト機能」が使えるようになる点だ。これにより、ギターでの小音量操作で失われがちな中高域を0〜+11dBの範囲で太く押し上げるゲイン・アップが可能になり、サウンドとしての完成度を数段引き上げる事ができる。これでミニマム・ボリュームが設定できれば言う事は無いのだが……更なるバージョン・アップを待ちたい。[この商品をデジマートで探す]
国内屈指のエフェクター・モディファイ工房としてすっかり定着したweedも、立ち上げ段階からボリューム・ペダルの改造に積極的に取り組んでいたブランドの一つだ。信頼性のあるERNIE BALL #6180の頑強な筐体を利用したWVPシリーズは、ポッド、ジャック、線材という音に関わる部分をオーディオ・グレードに総交換し、シンプルで濁りの無い音色を追求した逸品。ギターの特性を良く汲み取るレンジの広さが特色で、どんな音量でもサウンドのピントがぼやける事は無い。輪郭が栄えるので軽快なサウンドに良く合い、バッキングのクリーンを適切な音量でプレイしたい人には良い選択肢となるだろう。それぞれ採用するポッドのΩは、用途をある程度限定する事でS/N比の向上にも貢献している。“WVP JR.100”はエフェクターの直後で、“WVP JR.500”は特にハムバッカーを搭載したギターやベーシストに積極的に使って欲しい。 [この商品をデジマートで探す]
神戸のTONE BLUEが運営するブランドTBCFXも、ボリューム・ペダルのモディファイに力を入れるブランドの一つだ。顧客のニーズに応じたオーダーが多いため仕様はまちまちだが、この#6180のシャシーを使ったものはやはり定番だ。基板を排し、ポイント・トゥ・ポイント配線にこだわったものが主流で、中には同社が得意とする高品質なバッファを内包したものまで存在し、何でもかんでもハイファイというよりは現実のシステムに合わせたストレートな音色と信号の強化に重点を置く傾向がある。トータルの出音の精度を向上させるために適切なモディファイを行うという理念は、ボリューム・ペダルのようなある種デリケートなエフェクターでもいかんなく発揮され、希少なパーツだろうがビンテージの線材だろうが必要とあれば躊躇無く採用する姿勢が素晴らしい。ワン・オフものを追求したいなら一度は手にしてみたいデバイスだ。 [この商品をデジマートで探す]
カスタム・エフェクトの製作とプロ用ペダル・ボード製作で実績のあるカリフォルニアのハンドメイド工房が、サウンド・システムの要として位置づけるモディファイド・ボリューム・ペダルの筐体として選んだのは定番のERNIE BALLではなく、日本のBOSS社“FV-500”シリーズ。ペダルに限らずエフェクターの多くはその「箱(ケース)」にサウンドを決定づける要素があると多くのビルダーが認識する通り、シンプルな回路を持つボリューム・ペダルだからこそ、その筐体がサウンドに与える影響は大きく、それ故にその選出はモディファイの傾向をも大きく左右する。それ故に、タイトで引き締まったサウンドを持つERNIE BALLに対して、BOSSは総じて暖かみがあり、ライブでは前に出てくるサウンドとして語られる事もしばしば。実際に触ってみると、モディファイで使用されるVertex Effects社オリジナルの線材もBOSS筐体の奥行きをもたらす響きに上手くマッチしているようで、とにかく音が太い。澱みが無さすぎて余剰にハイファイ指向な最近のボリューム・ペダルに飽きたという人には、これは絶妙なバランスのペダルかもしれない。ただし、従来搭載されていたミニマム・ボリューム・ノブも排除されてしまっているので、その機能がどうしても必要な人は選択を待った方が良さそうだ。“Mono Volume EXP Pedal”はハイ・インピ専用モデルだが、“FV-500L”を基調にしたステレオ・タイプ、ロー・インピーダンス・モデルもラインナップされている。 [この商品をデジマートで探す]
スムース・テッパー回路を用いてピークの少ないなだらかなカーブを実現する「Artist Special」には、ERNIE BALL #6180の筐体を使ったモディファイ仕様が存在する。使用者の使い勝手の問題もあるのだろうが、Shin’sのオリジナル筐体よりも定位が低く、落ち着いたサウンドになっているように感じた。結論から言えば、500KΩ入力の“Custom 504”はハムバッカーで、250KΩ入力の“Custom 254”はシングルコイルで使うのが常套だろう。しかし、あえてそこを外して、ハイファイもしくはローファイなサウンドを狙って行く事もできる。更に言えば、理屈ではなく、ギターのボリューム・ポットの出力抵抗値とピックアップの相性から導き出したサウンドに『相性』そのものをマッチさせて行くという方法もある。パーツの精度をあげることで本質的な性能をむしろ限定して行くようなハイレベルな機材は、使い手の常識にとらわれないマッチアップのセンスによってもその価値が変わるという事だけは覚えておこう。 [この商品をデジマートで探す]
ボリューム・ペダルの歴史は、実は相当に長い。かの有名なFenderも、ストラトを生んだ1954年と同じ年に、“Volume Pedal”という単体のボリューム・デバイスを発売している(1984年まで生産され、近年、一度復刻した)。
元々はペダル・スティール・ギター用のデバイスとして発展しただけあり、ボリューム・ペダルのメーカーはエレキギターができる前に、すでにいくつも存在していたほどだ。まだエフェクターと呼べるものも少なかった時代、エレキギターのプレイヤーがすでにあったボリューム・ペダルを自分の表現方法の一環として採用したのは、ごく自然の流れだったと思われる。
そんな中で、エレキギター界でもいくつもの名機と呼ばれ人気を博したボリューム・ペダルがあったことを皆さんはご存知だろうか? 音質は……と言えば、現行品のようにエレキギターの音に合わせた製品が主ではなかっただけに、パーツのチューニングも相性が悪く、今聴いたらがっかりするような音になってしまうものも多かったのは事実だ。しかし、それでもその時代のプレイヤー達はその変化する音質を楽しみながら、または、自分の好みの音を出すように改造に悪戦苦闘しながら、いつもステージで蹴っつまずく足下のデバイスに奇妙な愛着を持ったに違いない。
私も、未だにCOLORSOUNDのSWELL VOLUME(by Sola Sound)やGoodRichを大切に持っている。Sho-Budのペダルは何故かミニマムでも音が消えず、大改造のあげく中身をRockmanのものにまるまる載せ替えてしまったなんて無茶も今となっては良い思い出である。ビンテージの機材にはオリジナル製を重視する事が多い私だが、ことボリューム・ペダルに関して言えば不思議と故障している事も中身が違う事も気にならない。前の持ち主が無茶な改造をした跡などがあると、むしろ思わずニヤリと笑みがこぼれてしまう。何という不謹慎、そして不条理か……しかし、止められない。ボリューム・ペダルというエフェクターには、すでに他のエフェクターを超えた何か特別な中毒をもたらすエッセンスがあるらしい。
シンプルだが音への影響は計り知れない。そして、自ら音を発することもない。そんなエフェクターの原点とも言える挟持に何か胸を打たれるものがあったのだろう。今はそう思う事にしている。もしかしたらデジマートにもそんな名機たちの在庫が出るかもしれないので、下記に代表的な名機のリンクを少しばかり出しておこう。興味のある人は、たまにチェックしてみよう。意外な掘り出し物に出会えるかもしれない。
▽Sho Bud [VO PEDAL]
▽Fender [Volume Pedal]
▽GEORGE DENNIS [GD-100]
▽DeArmond [Model 610]
それでは、次回の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。
今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。