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国産ハイエンド・ギターの雄「T’s Guitars」をスーパー・ギタリスト吉田次郎が弾く!
1985年設立、ギター制作の長い歴史と数多くのノウハウを持つT’s Guitars(ティーズギター)。リペア等でその技術の高さが知れ渡り、満を持して発表したのがオリジナルブランドのギターだ。その精度の高さ、音の良さ、美しさなどが近年、テクニカルなプレイヤーを中心に話題になっている。今回、国内外で超絶技巧ギタリストとして知られる吉田次郎氏にT’s Guitarsの4機種の徹底試奏を依頼してみた。その様子を動画でお届けする。
T’s Guitarsの特徴とは?
T’s Guitarsは日本の真ん中、長野県塩尻市から世界中へ良質なギターを発信している国産ブランドだ。代表でありマスタービルダーである高橋謙次氏を中心に、楽器や木工が大好きなスタッフが集まり、1本1本を大切に作っている。以前より質の高いギター作りで注目されていたブランドだが、ここにきてネット上のギター・ヒーロー達がT’s Guitarsのレベルの高さに着目したこともあり、若い世代を中心にT’s Guitars再発見というべき現象が起きている。そこで今回、同社のオリジナル・ギターの中でも看板となるArc-STD 24、Arc-Special “Crying Moon”、DST-DX、Arc-Hollowの4機種を選定し、そのサウンドを紹介することになった。
これらを、日本が世界に誇るスーパー・ギタリストの吉田次郎氏に心行くまで弾いてもらおうという企画だ。吉田氏は、日本では“アコースティックのスーパー・テクニシャン”、“超絶ジャズ・ギタリスト”という文脈で語られることが多いが、実はその仕事の8割以上がエレクトリック・ギターの仕事であり、その多くはロックやポップスなど幅広いジャンルに及んでいる。T’s Guitarsを様々な切り口から弾きこなしてくれるだろう。
国産ハイエンドの雄、T’s Guitars VS スーパー・ギタリスト吉田次郎。その様子を、早速、動画で見ていこう。
吉田次郎がT’s Guitars 4機種をサウンド・チェック!
T’s Guitarsの看板シリーズの24フレット・モデル
Arc-STD 24
T’s Guitarsの看板モデル、Arcシリーズの24フレット・モデル。3~4Aグレードのフレイム・メイプルをトップに(5Aグレードも指定可)、ホンジュラス・マホガニーをバックに配し、ボディ内部にはスモール・チェンバード構造を採用。ネックもホンジュラス・マホガニーを、指板にはエボニーと高級材が惜しげもなく使われている。ウィルキンソン・ブリッジ、ゴトーのマグナム・ロック・ペグ、ジェスカー・フレットなど、仕様面でも完璧。ピックアップはマグネットにアルニコIIを使ったオリジナルで、タップができる。
現場で使ってみたい、“整音がしっかりしている” 操作性抜群のギター!
吉田's Impressions:
「今回、初めてT’s Guitarsを弾かせていただきましたが、楽器としての操作性が群を抜いて素晴らしいですね! まず、ネック、フレットの処理、カッタウェイの処理など、抜群に弾きやすい。最初からこんなに弾きやすいギターは珍しいです。そして、クリーンの音が素晴らしい。低音がブーミー過ぎず、音のバランスが良いですね。あえてピックアップの磁力は少し抑えてある気がします。低域から高域までバランスがよく、コントロールしにくい500~800Hzの嫌な帯域が出過ぎていない。我々プロは、こういう状態を“整音がしっかりしている”と言います。これは、T’s Guitars代表の高橋氏自身がプレイヤーであり、最終チェックをご自身で1本1本しっかりしているから実現できるのでしょう。歪みをボリュームでしっかりコントロールできるし、エフェクターの乗りもいい。タップした音も中途半端ではなく、使える音ですね。これならギターを何本も持ち変えることなく、これ1本でライブができそうです。」
ステンレス・フレットを採用し、音の分離、発音に秀でたパワフルなサウンドを聞かせる
Arc-Special “Crying Moon”
Arcシリーズをベースに、音楽ユニットMintJamのa2c氏のシグネチャーとして制作されたスペシャル・モデルがこのCrying Moon。本器はセレクテッド・メイプルとホンジュラス・マホガニーによる完全ソリッド・ボディが生み出すストレートかつパワフルなサウンドが特徴だ。この特徴をさらに活かすため、チューンOタイプ・ブリッジ、ストップテールピースを採用し、さらにそれらの不要な振動を抑えるトーンプロスのスタッドを採用。ロスのないサスティーンを実現した。ステンレス・フレット、ロック式ペグ、バジー・フェイトン・チューニング・システムでピッチも完璧。ピックアップのマグネットにはアルニコVを採用し、よりパワフルなサウンドを生み出している。本器もコイルタップ可能。
何をやってもいい音!特にクリーンのレスポンスの良さは他にないですね
吉田's Impressions:
「これも素晴らしいですね。どこをどう弾いても、引っかかりが全くない。実にスムーズに演奏できます。音の分離がいいし、発音が素晴らしく良いですね。特にピッキングしなくても左手だけで音が鳴ります。それからこういうフレーズ(と言いながら、ピックとフィンガーピッキングを絡めて、弦を飛ばしながら超高速で複雑に動くフレーズを弾く)、これは、普通のギターだとここまでクリアに発音してくれないんですよ。これはステンレス・フレットの恩恵でしょう。セッティングもいいですね。12F上の弦高を1.5mm標準にしているとのことですが、サウンドと弾きやすさから考えてベストだと思います。このネック周りの仕上げなら、もっと低くすることももちろんできるでしょう。音の分離が良く、どのポジションでテンションコードを弾いても明確に聴き取れます。歪ませても音に芯がありますね。泣きのギターにも合いますよ。何をやっても良い音がするギターですが、僕はクリーンのレスポンスの良さが特に印象に残りました。」
反応の速さ、クリーン・サウンドの良さを持ったボルトオン・ジョイント・モデル
DST-DX
本器は、いわばT’s Guitarsからのストラト・タイプ・ギターへの解答だ。ギター動画好きにとってのヒーローであるGodspeed(青木征洋)氏がいち早く導入していることからもわかるとおり、テクニカルなプレイヤーも十分満足させる精度の高さは流石T’s Guitarsだ。ネックには、柾目のジャーマン・メイプルを使用。指板はローズかメイプルを選択可能だ。ボディには、贅沢なフレイム・メイプルをトップに、ホンジュラス・マホガニーをバックに配している。本器はピックアップ・セレクター・スイッチに秘密がある。5段階スイッチで、上からネック/ハム、ネック/タップ、ネック+ブリッジ/ハム、ネック+ブリッジ/タップ、ブリッジという、少し変則的なセレクトになっている。これが、実用的で使いやすい。
エフェクト乗りがよく、ポップスのバックで使いたいギター
吉田's Impressions:
「なるほど、これは今まで弾いたギターとは違い、ボルトオン・ジョイントのギターの音がしますね。いわゆるストラト的というか。ただし、ボルトオンでこれだけ豊かなサウンドが出るギターは珍しいです。T’s Guitarsの良さ、つまり反応の速さやクリーン・サウンドの良さはしっかりと継承されていますね。とにかくクリーンできちんとレスポンスしないと、どんなエフェクターをかけてもダメなんで……。このギターはエフェクト乗りも抜群です。ポップスのバックで使ってみたいギターですね。それから、このピックアップ切り替えスイッチは、“よくわかっている!”という感じです。ストラトでいうところのリアとセンターのハーフトーン、スイッチでいうと上から4番目ですね。ここできれいなハーフトーンが出ないと、ストラト・タイプを弾くプレイヤーは困ってしまうんです。このギターは、そこにフロントとブリッジをタップしてミックスしたトーンを持ってきている。これが実に使いやすいです。オールマイティに使えるギターですね。」
小ぶりなボディで芳醇なジャズ・ギター・サウンドを奏でるArcシリーズ最高峰モデル
Arc-Hollow
T’s Guitarsの看板モデル、Arcシリーズの最高峰がこのArc-Hollow。Arc-STDと同じボディ・サイズでありながら、フル・アコースティック・モデルとなっている。ボディは、スプルース・トップ、バックは贅沢にもホンジュラス・マホガニーをくり抜いた構造。小ぶりなボディで豊かなフル・アコ・サウンドを実現している。ネックはホンジュラス・マホガニーにエボニー指板を採用。甘い中にも輪郭がぼけないトーンが魅力的だ。基本的には完全受注生産のため、仕様は1本1本違う。本器の場合は、ピックアップにBenedetto B6を採用。オーダーには臨機応変に対応してくれるので、フロント1発のモデルも注文可能だ。価格もオーダー内容によって変わってくるので、問い合わせしてみてほしい。
サイズを超えたフルアコの音がする、ハンディなジャズ・ギター
吉田's Impressions:
「これは取り回しが楽ですね! 目をつぶるとサイズを超えたフルアコの音がしますよ。本格的なジャズ・サウンドを出せるハンディなギターってないんですよ。これは速いテンポのスイングを弾く時など、操作性が抜群にいいですね。今、1弦に011のセットが張ってありますが、012にしてもいいかもしれません。このネックなら、ゲージを1つ上げてもビクともしないでしょう。サウンドは、一流のシェフが丁寧に灰汁をすくって作ったスープのように豊かで上質な音ですね。これは完全にジャズ用のギターですから、ジャズ系のプレイヤーにおススメしたいのはもちろんですが、エレキでソロ・ギターをやっている人や、アコギの人にもおススメですね。それから、最近若い女性ギタリストがビッグ・バンドで演奏するのを見る機会も増えてきたのですが、ソリッド・ギターを弾いていることが多いんですよね……。ジャズ・ギター人口が減っているといわれていますが、こういう扱いやすいギターが登場することで、新しくジャズに取り組んでくれる人が増えることを期待します。それだけのポテンシャルがあるギターですよ。」
試奏を終えて:ストレス・フリーで演奏者の気持ちを自由にしてくれるギター
吉田:「今回、T’s Guitarsを4本弾いてみて、制作者である高橋氏の意思を強く感じました。ご自身がプレイヤーでもあるということですが、愛情をこめてギターを制作していることがよくわかります。共通して言えるのは、どれも操作性が抜群によく、ピッチが安定していて、楽器としての精度が非常に高いということです。ギタリストの手は非常に敏感ですから、グリップやフレットに違和感があればすぐにわかる。また、楽器の音をトータルで整えていく上では、カッタウェイを1~2ミリ多く削ってしまうと演奏性だけではなく音も変わってしまうはずです。そうしたところがよくコントロールされていると感じました。こういう操作性の高いギターを持つと、ロー・ポジションからハイ・ポジションまで全くストレスなく演奏できますから、演奏者のアイデアや気持ちを自由にしてくれます。弾いていて、非常に楽しかったですね。
どのギターも用途に合わせてプロが使用できるレベルの高い楽器でしたが、個人的にはArc-STD 24を現場で使ってみたいです。バンドの中で使うと、また聞こえ方が変わってきますから、現場でどう響くか、とても興味があります。価格に関してはいろいろな感じ方があると思いますが、僕はクオリティと比較して、とても良心的というか、心配になるくらい低く設定されていると思いました。こういうギターで練習をすると、上達も早いですから、できればぜひ手にとって弾いてみてほしいですね。」
Profile
吉田次郎(よしだ・じろう)
1958年福岡生まれ。5歳でピアノ、6歳でクラシックギターを始め15歳の時にジョン・コルトレーンを聴きジャズに興味を持つ。18歳で上京し、スタジオ・ミュージシャンとしてプロ活動を始める。その後第一線で活躍していたが1981年新宿でマイルス・デイヴィスを聴く事が転機になり、1983年渡米。翌年バークリー音楽院に入学。卒業後は同学院の講師を務めた。90年からニューヨークに居を構えて本格的な音楽活動を始める。オリバー・レイクやフィリス・ハイマンといったコアなジャズからジョー・サンプル、マイケル・フランクス、リッキー・リー・ジョーンズ、セルジオ・メンデス、フィービー・スノウといったポップ・アーティストのツアー・サポートまで幅広く活動している。
「CUT BACK」、「メイドインニューヨーク」等、自身のリーダー・アルバムも多数発表。ナイロン弦、スチール弦のアコースティックギターやエレクトリックギター等の、あらゆる種類のギターを使ってクラシックからヒップ・ホップまで様々な奏法を使ったステージは、エンターテイメント性に溢れたもので、ジャズに関心の無い人達をも惹きつけて離さない魅力を持っている。
現在も年の半分以上は海外で活動しており、日本が世界に誇るグローバルなギタリストであり、音楽家である。
◎吉田次郎オフィシャル・ウェブサイト
試奏・収録で使用した機材
撮影当日は、吉田氏所有の機材であるBOSSのマルチエフェクターGT-100からステレオでアウトプットし、Mesa/Boogie Mark-III(R ch)、Roland Cube80XL(L ch)の2台のアンプに接続。それぞれをマイクで録音した。ケーブルはモンスター・ロック、ピックはジムダンロップのJazz IIIを使用。音作りの秘訣は「引き算で考えること」。足し算でエフェクトを追加したりブーストしたりすると、耳につく嫌な周波数帯まで持ち上げてしまったり、オーバー・エフェクトになってしまいがち。それを防ぐためにも、「引き算のセッティング」を推奨していた。
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◎各製品情報・問い合わせ先:T’s Guitars