独自のサウンドとプレイアビリティ、そして作りの良さによって、国産のソリッド・ベースとして確固たる地位を築いたヤマハのBBシリーズ。1970年代に登場して以来、2010年の最新型発表まで時代性に合わせてさまざまなバリエーション・モデルが開発されてきた歴史を持つ。今回は、2012年3月に30本限定で発売された亀田誠治監修のシグネイチャーモデル(現在は生産完了)とBBシリーズのラインナップ、そしてBBの歴史を紐解きつつ、”進化する定番機”の全貌に迫ってみたい。
近年の東京事変のツアーにおいて、“本妻”ベースに替わり、新たな相棒として観客の前にお目見えしたのが、ヤマハのシグネイチャー・モデル、BB2024SKである。ここではその詳細を見てみよう。
▲2010年3月26日の川口総合文化センターリリア公演で初めて姿を現して以来、2年の歳月をかけて出来上がった待望の亀田誠治シグネチャーモデル。
2010年3月26日、4th アルバム『スポーツ』がリリースされたあとのツアー“東京事変 live tour 2010 ウルトラC”の初日となる川口総合文化センターリリア公演でのこと。リハーサル直前まで調整を続けていたヤマハBB2024カメダエディションが、初めて観客に姿を現わした。このベースは、それまで亀田が“本妻”として愛用してきた66年製フェンダー・ジャズ・ベースに替わり、会場のすみずみまでその低音を伝えた。
そもそも、アルバム『スポーツ』に収録されている楽曲は、ライヴで再現するにはフィジカル面で負担を強いるプレイを要求されるうえ、腱鞘炎をわずらってしまった亀田は、より軽くて弾きやすいベースを求めていた。そこで白羽の矢を立てたのが、高校生の頃より愛用しているBBシリーズだったのだ。数年前にヤマハの開発担当チームと接触して以来、その仕事ぶりに信頼を置いていたのも大きかった。とはいえ、開発に至るまでには、製作者と亀田との間に幾度ものやりとりがあった。まず、“楽器の鳴り”を重視する亀田は、新しい楽器を試すとき、アンプに通す前に楽器自体の鳴りを確認するという。その鳴りを追求した結果、何本か製作された同じモデルのプロトタイプから別のネックとボディを組み合わせ、木材の個体差によるマッチングを追求。さらに、元となるBB2024のピックアップは、亀田にとって出力が大きく、長年愛用しているロジャー・メイヤーVOODOO BASSを通したときの歪みが強すぎた。そのため、ピックアップ自体の出力を少し抑えるチューニングが施されることとなる。それらは“プラグを差さない状態でしっかりとしたサステインと音程が聴こえて、体に響く音がほしい。素材が良いものに良いピックアップを載せれば、絶対に良いベースになる”という亀田の持論と、“スタンダードで良質なものを作れば、それは数十年後にヴィンテージとなる”という考え方によるものでもあった。
その後、完成した本器はレコーディングやライヴで活躍。東京事変のラスト・ツアー“東京事変 Live Tour 2012 Domestique Bon Voyage”においても、メイン器として、亀田の勇姿の一部分となる。そして本器はこの春、BB2024SKとして限定30本で市販された。現在はすでに販売を終了してしまっているが、技術の粋を尽くして生まれた逸品だけに、より広くベーシストに親しまれるよう、いつの日にか別の形でリリースされることに期待したい。
■PICK UP! 『YAMAHA アーティスト・インタビュー:Seiji Kameda〜BBを語る』
シグネイチャー・モデル制作のきっかけや、亀田のBBシリーズに対する思いを語った、スペシャルインタビュー。
▲"次世代のヴィンテージを作る”という亀田誠治監修のもと制作されたシグネチャーモデル、BB2024SK。
[SPECIFICATIONS]
■ボディ:アルダー(3ピース、A.R.E.)■ネック:メイプル、マホガニー(5ピース)■指板:ローズウッド■ブリッジ:ビンテージプラス(ブラスサドル、スチールプレート)■ピックアップ:オリジナル・スプリット・シングルコイル、バータイプ・シングルコイル(アルニコ)■コントロール:ヴォリューム、トーン、ピックアップ切り替えトグル・スイッチ■付属品:ハードケース、オリジナル・クロス、オリジナル・ピック
▲BB2024のブリッジは、円柱状サドルの一部分を斜めに削り、弦の接地面を減らす工夫が施されている。亀田はそれを180度回転させて、弦が乗る部分を通常のベースと同じ状態にしている。
▲ライヴ中でもヴォリュームやトーンを微妙に調節する亀田は、目盛りの位置を正確に知りたいという。そのため、ヴォリュームとトーンにはポインター(金属製の印)が装備されている。
▲弦は裏通しとなるが、弦振動の効率を考慮し、ボディ裏の底部を斜めにカットしてブリッジ・サドルからボールエンドまでに45度の角度をつけた、“ストリング・スルー・ボディ”を採用。
ここでは亀田のシグネイチャー・モデルBB2024SKの基礎となった、現行のBB2024を紹介しよう。現在市販されているモデルは連綿と続くBBシリーズの歴史を継承する最新形で、オリジナルのデザインを踏襲しながらボルトオン・ネックを採用している。またボディを接合するときに、ほかの木材を挟み込んで振動伝達のロスを抑えたスプライン・ジョイントや、A.R.E.(アコースティック・レゾナンス・エンハンスメント)という、木材加工に関する同社独自の技術を投入。さらに完成後に振動を与えて、弾き込んだ楽器のような鳴りを生み出すI.R.A(イニシャル・レスポンス・アクセラレーション)といった技術が生かされている。サドルからボールエンドまでに45°の角度をつけた、ストリング・スルー・ボディの設計はBB2024SKと共通だ。本器の開発で蓄積したノウハウにより、BB2024SKが生まれたのだ。亀田だけでなく、数々のアーティストが使用している最新型のBB。ぜひそのサウンドを体感してみてほしい。
▲すでに市販されているヤマハBB2024(¥336,000)。5弦モデルのBB2025(¥367,500)やピックガード付きのBB2024X(4弦モデル:¥346,500)/BB2025X(5弦モデル:¥378,000)もラインナップ。
現在はシグネイチャー・モデルを使用するが、BBシリーズとの出会いは亀田のベース人生の始まりまでさかのぼる。亀田が所有するBBを見てみよう。
亀田が16歳の頃、高校の入学祝いとお年玉をかき集めて購入した、初めてのBBシリーズ。ジョイントはスルーネックで、ネック材はメイプル&マホガニーの5ピース。ピックアップはヤマハのオリジナルだ。20歳の頃、“本妻”である66年製のフェンダー・ジャズ・ベースを買ったあとにフレットを抜き、さらにネックを削ることで、ナット幅をジャズ・ベースに近いサイズにシェイプアップしている。
1991年、亀田が27歳の頃に入手したというBB-5000。こちらはピックアップをバルトリーニのPJタイプに変更している。さらにアクティヴ回路に改造しているため、3バンドEQが増設された。ほかのコントロールはヴォリューム、バランサーとなる。ピックアップのエスカッションもオリジナルとは異なったものが取り付けられている。現在はフレッテッドだが、フレットレスに改造されていたこともあるという。
こちらは、5〜6年前、つまり42歳の頃に購入したというヤマハのBB-2000。特に改造などは施されていないが、オリジナルのブリッジを見ると、細やかな装飾が施されており、作りの丁寧さが見て取れる。本器は東京事変のツアーにおいて、バックステージでのウォームアップ用として活用された。これらの3本はいずれもスルーネックで、その点が最新モデルであるBB2024SKとは異なる。
次のページでは、ヤマハBBの最新モデルであり、亀田シグネイチャーの基礎となった『BB2024』の全貌を深く掘り下げてみたい。
profile : 亀田誠治
‘64年、アメリカ、ニューヨーク生まれ。辰年。’89年、アレンジャー、プロデューサー、ベースプレイヤーとして活動を始める。椎名林檎、平井堅、スピッツをはじめ、Do As Infinity、SOPHIA、YUKI、スガ シカオ、Chara、アンジェラ・アキ、秦 基博、エレファントカシマシ、JUJU、チャットモンチー、雅-MIYAVI-、フジファブリック、植村花菜、FUZZY CONTROL、NICO Touches the Walls、のあのわ、WEAVER、杏、ハナエ、OverTheDogsなどのプロデュース&アレンジを手がけている。2004年夏から椎名林檎らと東京事変を結成。
■公式HP:http://www.ganso-makotoya.com/
■公式Twitter:http://twitter.com/#!/seiji_kameda