音質を損なわずにダウン・サイジングする──低音の鳴りを重視するベース・アンプの世界では不可能と思われたことを、卓越した技術とアイデアで実現したフィル・ジョーンズ・ベース。“プロ用小型アンプ”という新ジャンルを創り出したと言われる注目のブランドだ。今回、有形ランペイジの低域を担う実力派ベース・プレイヤーの二家本亮介氏が、話題のフィル・ジョーンズ・ベースの実力を検証する。
ブランドの創業者であるフィル・ジョーンズ氏は、ジェームス・ジェマーソンに憧れて13歳でベースを始め、大学で電気を専攻した後に改めてウェルシュ音楽大学に入学し、コントラバスを学ぶ。その学費はクラブやスタジオでの演奏で捻出したという程のベース・プレイヤーだ。卒業後は世界的なオーディオメーカーを渡り歩き、「初恋に戻った」と念願のベース・アンプ制作に着手。それがこのフィル・ジョーンズ・ベースだ。
プレイヤーとエンジニアという両方の視点から作られたフィル・ジョーンズ・ベース。そこには小型化・軽量化のための独自のノウハウと、プロのべーシストを満足させるだけのクオリティが詰まっている。
今回、二家本氏はサドウスキー(アクティヴ)、フェンダー・ジャズ・ベース’63年製(パッシヴ)、ウッド・ベース(C4、Bass Buddyではゴダン製フレットレス・ベースも使用)で同ブランドの小型ラインを中心に5機種のサウンドをチェック。また試奏動画では、各アンプのサウンドを比較しやすいように、同じフレーズを使って試奏してもらった。それでは早速、そのサウンドをチェックしていこう。
さらなる小型化を追求し、新たに開発した4インチ・スピーカーを採用した、コンパクトなシリーズの最新モデル。オーディオの世界では古くから知られたパッシヴ・ラジエーターを搭載し、スピーカーの振動面積が小さくなったことによる低音不足を補っているのが最大の特長だ。これはヴォイス・コイルを持たない一種のスピーカーで、ほかのスピーカーが放出する低音成分に共鳴する。本機では、キャビネットのリアパネルを覆い尽くす長方形のパッシヴ・ラジエーターの効果に加え、70ワットという余裕のある出力と相まって、サイズからは想像できないほどに豊かで広がりのある低音を得ることができる。外部音源をつなぐことができるAUXインやヘッドフォン端子、ライン出力など、自宅練習などに便利な機能はきちんと押さえたうえで、超小型のBass Cubよりひと回り小さく、重さも2/3というサイズを実現しているのが何よりの魅力だ。
「サイズからは想像できないグッド・トーン!」
二家本:ベーシストには“喰わず嫌い”な感覚があって、“大きなスピーカーのアンプでなければ低音は出ない、だから手を出さない”傾向があると思うんです。正直、僕もそうだったのですが、今回このアンプを弾いて驚きました。目をつぶって聴いていると、この2倍も3倍も大きなアンプのように感じます。サイズからは想像もできない音ですね。
自宅でベースを弾く場合、あまり大きなアンプは使えません。でも音質は妥協したくない。そんな方に、お勧めのアンプです。見た目も可愛いですし、楽器の音がストレートに出ますので、自宅に置いておいて気持ち良く練習できそうです。
【Specifications】
■出力:70ワット(RMS)■スピーカー:4インチ PJBカスタム・スピーカー×2、パッシブ・ラジエーター ■拡張端子:AUXイン、ヘッドフォン・アウト、ライン・アウト ■サイズ:280(W)×160(H)×200(D)mm ■重量:3.9kg ■カラー:ホワイト、ブラック、レッド ■価格:オープンプライス(市場実勢価格:39,900円)
PJB最大の特長と言えるのが、5インチの小口径スピーカー。それがぎりぎり2発収まるサイズのキャビネットに、デジタル方式を採用した出力100ワットのアンプを内蔵したのがBass Cubだ。超小型でありながら独立したふたつのチャンネルを持ち、しかも片方にはマイクなどのキャノン・プラグも接続できるコンボ入力端子を装備。2種類の楽器を使い分ける用途はもちろん、アップライトやアコースティック・ベースで、マイクとピックアップを併用するシステムにも対応する。AUXインも備えているので、伴奏トラックを用いたソロ・パフォーマンスで使うのも良いだろう。ほかにもXLRバランスのDI出力やヘッドフォン端子など、求められる機能をしっかりと網羅している。
「使える2チャンネルの多用途アンプ」
二家本:この機種は今回のラインナップの中では比較的丸い音ですね。他機種は基本フラットなイコライジングですが、本機は少しだけハイを上げてみました。出力的にはDouble Fourより余裕があるので、ジャズ系のライブ等で使えると思います。
非常に便利なのが、独立した2チャンネルで、片方がキャノン・プラグを使えるところ。例えばジャズ・バーなどの小規模な会場でベース、ギター、ボーカルのトリオで演奏するような場合、「ボーカル、どこに繋ぐ?」ということが意外とよくあるんですよ。そんな時にこれに繋げばバッチリです。そういうところも、プレイヤーのことを「わかって作っている」感じですね。
【Specifications】
■出力:100ワット(RMS)■スピーカー:5インチ PJBネオパワー・タイプA×2 ■拡張端子:AUXイン、ヘッドフォン・アウト、XLRアウト、チューナーアウト、ライン・アウト ■サイズ:306(W)×197(H)×275(D)mm ■重量:6.0kg ■カラー:ブラック、レッド ■価格:69,999円
例えば10インチ×1発のコンボ・アンプであれば、どんなに小さく設計しても、フロント・パネルはスピーカーの口径よりもひと回り大きな正方形となる。加えて低音の再生に必要な容量を得るために奥行きを確保すると、全体としては立方体に近い形になるのが必然だ。一方でこのBriefcaseは、5インチの小口径スピーカーを縦に2発並べ、横幅を劇的に削ることで、可搬性や収納性を向上させた特異なデザインを持つ。100ワットの出力を確保しながらバッテリー駆動が可能になっている点も画期的で、同社の小型アンプとしては最古参でありながら、いまだに突出した個性を発揮しているロング・セラーだ。プリアンプ部は5バンドのグラフィックEQとコンプレッサーを持ち、本格的なサウンド作りにも対応する。
「小型サイズで、驚きの艶やかサウンドをアウトプット」
二家本:同じ100ワットでも、Bass Cubとはサウンドの傾向が違いますね。アンプの設計以上にこのアンプに搭載されているピラニア・スピーカーの影響が出ているのだと思います。非常に艶やかで音抜けも良く、素晴らしいスピーカーですね。
本機に搭載されているグラフィック・イコライザーが良くて、例えば630Hzを少し上げるだけでベース・ラインの輪郭がくっきりする。ベーシストにとってのおいしいポイントをよくわかっている感じです。これは、爆音でなければポップス等のライブでもいけそうです。サイズでナメられるかもしれないけど、音を出せば全員“えっ!?”ってなるでしょうね(笑)。
【Specifications】
■出力:100ワット(RMS)■スピーカー:5インチ カスタム・ピラニア・ラウドスピーカー×2 ■拡張端子:ヘッドフォン・アウト、プリアンプ・アウト、XLRアウト、スピーカー・アウト×2 ■サイズ:165(W)×368(H)×400(D)mm ■重量:14.0kg ■カラー:ブラック、レッド ■価格:110,250円
C4は5インチのピラニア・スピーカーを4発搭載した、PJBのラインナップ中でもっともコンパクトなスピーカー・キャビネット。それでいて最大400ワットという余裕の耐入力を持つのが特徴で、サイズ感を越えた低音とハイファイなトーンを出力する。Bass BuddyはBriefcaseのプリアンプ部をそのまま抜き出したような製品で、コンパクトな筐体に5バンドのEQやコンプレッサー、バランスおよびアンバランスのライン出力に加えて、出力10ワットのパワーアンプを内蔵。電源は専用の18Vアダプター、または9Vのバッテリー2本となり、広いダイナミック・レンジを確保している。レコーディングやライヴ用のプリアンプ付きDI、練習用の高音質ヘッドフォン・アンプとして使うのが順当だが、パワーアンプの機能は手持ちのキャビネットを鳴らして個人練習するときなどにも便利だ。
「ウッド・ベースにも使える無着色のサウンド」
二家本:C4もピラニア・スピーカーなんですね。4発入っているので音に余裕がありますし、やっぱりとても艶やかなサウンドで、このスピーカー、好きです(笑)。D-600 ヘッドとの組み合わせなら、ポップスやロック系にも対応できると思います。
ウッド・ベースを繋いでみても、大まかな印象はエレキの場合と同じですね。非常にクリーンで、楽器の音に変な着色をしないという。低音がムダに出過ぎずに、かつ必要十分なところも好印象です。ウッド・ベースの場合、音が埋もれがちなので、ファットなチューブ・アンプだとクリアに聴こえてこない場合があるんです。このアンプとキャビネットだと音が曇らずに輪郭もはっきりしているので、ありがたいですね。
▲C4と、D-600 ヘッドの組み合わせ。サウンドもサイズもベストマッチだ。
【Specifications】
■許容入力:400W ■スピーカー:5インチ カスタム・ピラニア・ラウドスピーカー×4 ■寸法:360(W)× 340(H)× 320(D)mm ■重量:11.9kg ■価格:58,800円
「レコーディングやライブのDIに最適」
二家本:これはサイズが小さいので、持ち歩きに便利ですね。他の機種にも付いていたツボを押さえた使えるグライコも付いているので、レコーディングやライブの時のプリアンプ付きDIとして使うには最高ですね。基本的にはフラットな出音ですが、よくあるDIの味気なさは感じません。動画もこの機種だけはラインで録っていますので、その辺りを確認してもらえると思います。
ヘッドフォンアンプとして使っても良さそうです。ボケない、歪まない、クリーンな音で、タッチが良く出ますがアラも出ます。どのアンプもそうですが、これも演奏面でごまかしがききませんから、練習用にも良いと思います。
【Specifications】
■出力:10W(AC アダプター使用時)■入出力端子:インプット、ステレオAUXイン、ヘッドフォン・アウト、ライン・アウト、スピーカー・アウト、XLRアウト ■寸法:135(W)× 45(H)× 155(D)mm ■重量:1.0kg ■価格:49,350円
二家本:どのアンプにも共通して感じたのは、すごくフラットな音質で、ヘンな着色をしない、楽器の音をそのまま出してくれるアンプだなということ。だから、出来るだけ良い楽器で弾いて欲しいですね。今回、サドウスキーとのマッチングが良かったと思います。オーディオ的、というとネガティブな印象を持つ人もいるかもしれませんが、チューブ・アンプとは違う方向性で、これはこれで凄く良かった。僕は良いものは良いという考え方なので、素直に楽しめましたね。
操作性がシンプルなのも良かったです。選択肢が多すぎると逆に使いづらいことも多いんです。これは、“わかっている人”が作った感じがすごく伝わってきます。
見た目がこれだけ小さいので、「低音が頼りないんじゃ……」と思う人もいるかもしれないですが、できればぜひ試奏してみて欲しいですね。特に、ピラニア搭載機種は、おススメです!
PROFILE:
二家本亮介(にかもとりょうすけ)
1986年1月16日生まれ、山口県岩国市出身。リュ・シウォンや高橋みなみ、豊崎愛生、DIMENSIONなどのライヴ・サポートで活躍。レコーディングでは榊原ゆい、中川翔子、BREAKERSなどの作品にも携わる。ボカロPのsasakure.UKを中心に結成された有形ランペイジでは、DTM楽曲を生演奏で再構築する独自のコンセプトで活動。発売中の1stアルバム『有形世界リコンストラクション』でも、太くキレのある低音を響かせる。
◎http://ukrampage.com/