1988年、Robert Godin氏の手によりカナダで誕生したゴダンギターズ。以来、「リアルなアコースティックサウンド」、「ライブに強い構造と機能」、「他の楽器からの持ち替えでも違和感がない演奏性」で、世界中のアーティストから愛され続けている。今回、スタジオワークやライブセッション、また講師としても活躍するギタリストの梶原順氏に試奏を依頼。ゴダンギターズを代表するナイロン弦の8機種を弾き比べてもらった。
今から約25年前、発表と同時に世界中でセンセーションを巻き起こしたゴダンギターズ。既存のエレアコが抱えていた課題を克服した、新しいギターが誕生した瞬間だった。通常エレアコをライブで使用する時に良くあるのが、アタックの音しか聞こえてこない状態。これはプロのコンサートでも散見される。一般的なピエゾピックアップ搭載のエレアコの宿命であり、EQや音量を上げるとフィードバックする為、ピック等のアタック音しか聞こえてこないのだ。
フィードバックを抑え、アコースティックらしいリアルなサウンドを出力する──この両極の課題を解消するために、ゴダンはギター制作を根本から見直し、オリジナル設計の「ダブルチェンバーボディ構造」を開発。さらにピックアップとのマッチングを徹底して繰り返し、現在のゴダンギターズの基礎を作った。
今回、梶原順氏に試奏してもらうのはゴダンの今の姿を表すナイロン弦の8機種。梶原氏は持参のSCHERTLER UNICOの小型PAをアンプとして使用し、EBS DynaVerbでリバーブを薄くかけている。動画ではこのサウンドと、ラインの音をミックスしている。
それでは、言葉では言い表せないゴダンのナチュラルサウンドを、ぜひ動画でチェックしてみて欲しい。
梶原順がオリジナル曲『For Godin Guitars』をソロ・セッションで披露!
このページの最後では、梶原氏がこの企画のために作曲してくれた『For Godin Guitars』のソロ・セッション動画を公開中だ。2本の異なるゴダンギターでバッキングとソロを別々に録音、最後に映像編集で重ね合わせる方法で完成したこの曲、音の違いを確かめつつ、楽しんでもらいたい。
「ライブで使う」ことに徹底的にこだわったコンセプトのギター。鳴りとフィードバック対策を共存させたパテントを取得しているダブルチェンバーボディ構造を採用し、外観からは想像できないリアルなアコースティックサウンドをプロデュースする。
梶原:実は20年程前、まだゴダンが日本に入ってきてすぐの頃に1本手に入れて使っていたのだけれど、その頃のモノに比べて格段にボディの鳴りがいいですね。アンプにつながなくても、十分ナイロン弦のサウンドを楽しめます。
アンプにつないだ音は、さすがゴダン。アンプやリバーブのセッティングはシンプルなままで、実にリアルなナイロン弦のサウンドをアウトプットしてくれます。タッチに対するレスポンスの良さも素晴らしいし、ピッチの良さやサスティンの長さはリアルなガットギター以上。大音量のバンドの中でも、音が埋もれることなく使えるんじゃないかな。
【Specifications】
■トップ:ソリッド・スプルース ■ボディ:マホガニー ■ネック:マホガニー ■指板:エボニー、16" R付 ■スケール:25 1/2"、648mm、22フレット ■ナット幅:47.6mm ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:カスタムRMCピエゾ ■コントロール:プログラム・アップ&ダウン、ミッド・セレクター(700-1200Hz)、ピエゾ・ボリューム、トレブル(6k)、ミドル、ベース(100Hz)、シンセ・ボリューム ■カラー:ナチュラル ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(ナチュラル/市場実勢価格:231,000円、レフティ/市場実勢価格:254,100円)
普段クラシックギターを弾いている人がライブで違和感なく弾けるよう設計されたギター。標準的なクラシックギターと同じナット幅、12フレットでジョイントされたネックなど、クラシック、フラメンコ系のプレイヤーにお勧めの一台だ。
梶原:これは、よりアコースティックらしいギターですね。先ほどのMultiac Nylon SAは良い意味で低域が整理されていたのに対し、こちらは、より低域がふくよかです。バンドの中でも使えるけれど、ライブでソロギターを弾く時に、このギターの良さが活かせそうです。
一般的に、ナイロン弦のギターは「丸くて優しい音」というイメージだと思いますが、本当は優しいだけではなく強さもある音がします。例えば、パーカッシブに弾けばアタックがしっかりと鳴って力強いリズムが出せるのです。その意味で、これは本当にいいギターですね。
【Specifications】
■トップ:ソリッド・セダー ■ボディ:マホガニー ■ネック:マホガニー ■指板:エボニー、16" R付 ■スケール:650mm、19フレット ■ナット幅:50.8mm ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:カスタムRMCピエゾ ■コントロール:プログラム・アップ&ダウン、ミッド・セレクター(700-1200Hz)、ピエゾ・ボリューム、トレブル(6k)、ミドル、ベース(100Hz)、シンセ・ボリューム ■カラー:ナチュラル ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(市場実勢価格:231,000円)
ライブ使用時の1番の問題であるハウリングを徹底的に無くし、よりエレキに近い感覚でプレイできるよう設計されたギター。ナット幅も43.5mmと一般的なスティール弦のギターとほぼ同寸で、エレキからの持ち替えもスムーズ。
梶原:なるほど。これは生で弾いた時のボディの鳴りは、はっきりと意図的に抑えてありますね。“弦の部分だけをきれいに鳴らして、それを拾う”という考えのようで、アンプに通した音も、これまでのギターよりはソリッドな感じがします。その分、ハーモニックスなんかはきれいに出ます。
よりアコースティックなギターと比べてどちらが良い・悪いではなく、発想が違うギターという感じですね。これはこれでアリですよ。エレキからの持ち替えも違和感がないし、Multiac Nylon SA以上に大音量のバンドでの使用がお勧めです。
【Specifications】
■トップ:ソリッド・セダー ■ボディ:シルバー・リーフ・メイプル/ポプラ ■ネック:マホガニー ■指板:エボニー、16" R付 ■スケール:25 1/2"、648mm、22フレット ■ナット幅:43.5mm ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:カスタムRMCピエゾ ■コントロール:プログラム・アップ&ダウン、ミッド・セレクター(700-1200Hz)、ピエゾ・ボリューム、トレブル(6k)、ミドル、ベース(100Hz)、シンセ・ボリューム ■カラー:ナチュラル、ブラック ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(ナチュラル/市場実勢価格:155,400円、ブラック/市場実勢価格:165,900円)
ゴダンクオリティのナイロン弦サウンドを、よりリーズナブルな価格で実現したニューモデル。ボディはゴダン独特のフィードバックに強いダブルチェンバー構造を採用。ピックアップはアンダーサドルとコンタクトの2ピックアップをブレンドできる。
梶原:これ、廉価版なんですか?実によく出来ていますね。まずゴダンの特徴である自然なサウンド、弾きやすさ、ピッチの良さ、サスティンの長さなどはすべて他のモデルと同等のクオリティを保っています。他のモデルに比べると、サウンドの“乾き方”が違うというか、周波数の帯域で言うと10Kから12Kあたりかな、高域が少し強い気がします。指で弾く時にはそれが気持ちいいのですが、ピックで弾く時にアタックが気になる人もいるかもしれない。でもその場合、ピックアップのブレンド具合でサウンドを調整することが出来るので、問題ないですね。とにかくこの値段でこの完成度は素晴らしいです。
【Specifications】
■トップ:ソリッド・セダー ■ボディ:シルバー・リーフ・メイプル ■ネック:マホガニー ■指板:ローズウッド、16" R付 ■スケール:25.5"、648mm ■ナット幅:1 7/8"(47.6mm) ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:ブレンダブル・カスタム・デュアルソース・エレクトロニクス/アンダー・サドル・トランスデューサー&アコースティック・サドル・トランスデューサー ■カラー:ナチュラル ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(ナチュラル/市場実勢価格:134,400円、レフティ/147,840円)
ハウリングなしに、最高のマイク集音と同等のサウンドを作るというコンセプトのギター。実際のスタジオで、一流マイクで集音したリアルな空気感をシミュレートしたSound Image Blend機能を搭載。ギター本体はMultiac Nylon SAと同じなので、弾きやすさは折り紙つきだ。
梶原:実際にマイキングしてスタジオの鳴りまでシミュレートしたサウンドがプリセットされていて、ピエゾの音とブレンドできるんですね。……サウンド面では、もしかしたら一般的にイメージする“良いナイロン弦ギターの音”を求める人には、このギターが最高かもしれません。なにしろエアー感まで忠実に再現されていて、レコーディング後の音源で聞けるギターの音そのものがするのですから。
プレイヤー視点でいうと、自分が実際に弾いている場と違うエアー感が感じられるのが、なんだかとても不思議で、“未体験ゾーンのギター”という感じです。非常に新鮮ですね。サウンドはとにかく最高なので、良いサウンドをライブで鳴らしたい人にお勧めします。
【Specifications】
■トップ:ソリッド・スプルース ■ボディ:チャンバード・マホガニー ■ネック:マホガニー ■指板:エボニー、16" R付 ■スケール:25.5" (648mm) ■ナット幅:1 7/8"(47.6mm) ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:カスタムFishmanエレクトロニクス、アンダー・サドル・トランスデューサー・ブレンダブル・サウンド・イメージング・マイク(独立4マイクセッティング)■カラー:ナチュラル ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(市場実勢価格:241,500円)
アラブ文化圏で古くから使われているボールバックボディのナイロン弦民族楽器「ウード」にゴダン社長が感銘を受け、ギターと同じスケールとチューニングで弾けるように開発したモデル。11弦のフレットレスという、変わった仕様の楽器だ。
梶原:これは、6弦だけが単弦で、5弦から1弦までが複弦なんですね。かなり熟練を要する楽器で、初めて手にして試奏するには難しい楽器です。
今回はレギュラーチューニングで弾いていますが、オープンチューニングにして、ディレイをかけて弾くと雰囲気が出そうですね。音色を聞かせる感じです。僕が弾くと、なぜか琴や琵琶などの和楽器のフィーリングになりました。
物凄く“色の強い”楽器なので、何かの曲で印象的なフレーズをこのA-11でなぞってやると、そのメロディーがぐっと引き立つと思います。メロディー楽器として面白い存在ですね。
【Specifications】
■トップ:ソリッド・スプルース ■サイド/バック:シルバー・リーフ・メイプル(センター)、ポプラ(サイド) ■ネック:メイプル ■指板:エボニー(406R) ■スケール:25 1/2"、648mm ■ナット幅:44.5mm ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:L.R.Baggsリボン・トランスデューサー ■コントロール:マスター、トレブル(10k)、ミドル(640Hz)、ベース(200Hz) ■カラー:ナチュラル ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(市場実勢価格:168,000円)
A-11が民族楽器「ウード」をギター寄りにしたものだとすれば、このMulti Oudは「ウード」そのものをエレクトリック化したような楽器。スケール、ナット幅など全てがギターとは違い、標準的なチューニングも複数あるようで、“正解のない”自由な楽器と見た方がよい。
梶原:これも難しい楽器ですが、少し慣れてくると僕の場合はA-11より扱いやすい感じがします。ここまで違うと演奏する時の発想が“ギターマインド”から離れて自由になるからでしょうね。ここでは、ドロップDで弾いています。
ショートスケールでフレットレス、おまけにA-11にはフレットのガイドラインがネックの端に引いてあったのがこれにはないので、フィンガリングする指を拡げる感覚がつかめるまで慣れが必要ですが、意外と早く慣れますね。インパクトのある見た目の割に、扱いやすい楽器です。これは、凄く面白いですよ!
【Specifications】
■トップ:ツー・チャンバード・マホガニー ■サイド/バック:シルバー・リーフ・メイプル(センター)、ポプラ(サイド) ■ネック:マホガニー ■指板:エボニー、24"(609.6 mm) radius ■ヘッド:カスタム・マシーン ■スケール:23.03"(585mm) ■ナット幅:1.6"(40.64mm) ■ブリッジ:エボニー ■ピックアップ:カスタム・ボイスド・エレクトロニクス/ブリッジ・マイク・オプション ■コントロール:マスター・ボリューム、トレブル(10k)、ミドル(640Hz)、ベース(200Hz) ■カラー:ナチュラル・ハイ・グロス ■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(市場実勢価格:246,750円)
数年前から開発に取り掛かっていたものの、なかなか完成しなかったというウクレレのエレクトリックバージョン。通常のウクレレよりややウェイトがあり、ストラップをかけて使用すると一層弾きやすい。
梶原:物凄くチューニングのいいウクレレですね!サスティンも凄い。コードを刻むのはもちろん、メロディー楽器としても非常に魅力的です。
サウンドは、EQを真ん中にしたままでやわらかく心地よい音色がすぐに作れます。可愛くて、色気もあって、よい楽器ですね。
ウクレレをエレクトリック化していったというより、エレクトリックのナイロン弦ギターからウクレレにアプローチしていった感じがします。やはりメロディーを弾きたくなりますね。これ、僕は大好きです。買っちゃおうかな(笑)
【Specifications】
■トップ:セダー単板(ナチュラル)、スプルース単板(サンバースト) ■ボディ:マホガニー、ダブルチェンバー構造 ■指板:ローズウッド、246. R付、19フレット ■ネック:マホガニー、ボルトオン、アジャストロッド内蔵 ■ブリッジ:ローズウッド ■ピックアップ:RMCピエゾPU ■3年保証付(正規輸入新品に限る)■付属品:ギグバッグ ■価格:オープンプライス(ナチュラル/市場実勢価格:126,000円、サンバースト/市場実勢価格:136,500円)
梶原:ナイロン弦のギターは、常にピッチの不安定さと戦ってきたと思うんです。それが進化する過程で、ピッチは確かに狂いにくいけど音色がイマイチというギターもあった。ゴダンはピッチ、音色、演奏性全てのクオリティが高い、ナイロン弦のエレクトリック・アコースティックの最終形だと思うんです。それが廉価版のMultiac Nylon Encoreにも感じられたのは凄いですね。
それと、A-11やMulti Oudのような楽器を作るメーカーとしての姿勢にも感心しました。最終形とも思える完成度の高いギターを作っておきながら、攻めの姿勢を忘れていないんですね。
個人的に気にいったギターは、Multi Ukeはギターではないので除いて(笑)、2本目に弾いたMultiac Grand Concertですね。これは自分の活動で使ってみたいと思いました。誰かのバックで演奏するなら1本目のMultiac Nylon SA。大音量のポップスで使ってみたいです。
梶原氏は試奏の最後に、ナイロン弦のギターに合いそうな曲ということで、この試奏依頼を受けた後に作曲してくれたオリジナル曲『For Godin Guitars』を披露してくれた。『ボサノバの雰囲気の曲で、楽しさが伝われば』というこの曲を、今回はあらかじめラップトップに用意したトラックをモニターしながら、Multiac Grand Concertでバッキング・トラックを録音、さらにDuet Nylon Ambianceでソロを録音し、映像編集時に重ねる方法で収録した。2本の音色の違いを確かめつつ、じっくりと聴いていただきたい。
PROFILE:
梶原順(かじわら・じゅん)
1961年8月25日生まれ。中学2年の時にガットギターを手にする。その後はロックにはじまり、ジャンル問わず多くの音楽を体験、多様なギタースタイルの素地を作った。1981年、プロとしてのキャリアをスタート。山本達彦や角松敏生などのライブをサポートする傍ら、本田雅人 (Saxophone)、石川雅春 (Drums) らとWITNESSを結成、アルバムもリリース。1990年には渡辺貞夫のグループに参加、さらにスタジオ・セッションも活発化させる。一方で、J&B、JとB、Bluer、SOURCEといったバンド活動も行い、それぞれ作品をリリース。
2007年には満を持してソロ・アルバムに着手、アコースティック/エレクトリックとテーマ分けした『EVER』、翌年にはやわらかなサウンド・スケープを見せる2nd『You Make Me Smile』を放ち、そして2010年、唄うように奏でた3rd『Lovesong Book』を発表。
またスタジオワーク、セッションライブ、昭和音楽大学講師として後輩の育成、オンライン・ギター・レッスンの監修など、現在も精力的に活動中。近年では2011年11月に三線奏者ゲレン大嶋とのユニットcoco←musikaのアルバムをリリース。2012年1月に初の書籍『1年後、目指すギタリストになれる練習法 〜 一生、音楽と向き合っていくために~』を出版。2013年1月にフュージョン界No.1女性ギタリスト“安達久美”とJ&K名義で『J&K』をリリース。
◎梶原順 オフィシャル・ウェブサイト:http://www.junkajiwara.com/