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木材〜トーンウッドの知られざる世界 第4回

憧れのハワイアン・コア路

ハワイアン・コア、この材もまた、頻繁に“輸出禁止”“伐採禁止”“資源枯渇”などという修飾語とともに紹介される木です。本当にそうなのでしょうか? どうやらこれらひとつひとつのワードには、ハワイならではのご当地事情を多分に含んでいるような気がします。アロハ・スピリッツ溢れる大地、神が宿る木「ハワイアン・コア」、この森はどうにも深そうです。

ハワイアン・コア流通の実態……

 「ハワイアン・コア(Acacia koa) 」はハワイ諸島だけに分布生育する固有のマメ科アカシア属の木です。世界中には数百種類のアカシア属の木がありますが、日本でも学校などに“アカシヤ”が植わっていたりします。東南アジアの「アカシア」やオーストラリアの「タスマニアン・ブラックウッド」と称するコアの従兄弟などはすでに楽器材としても利用されていますね。

 ハワイ諸島というと主に8島を指しますが、コア材について現在ではそのほとんどをビッグアイランドことハワイ島が産出しています。他にもオアフ、マウイ、カウアイ島でも生育していますが、もはや商業規模で流通するほどの量はないようです。その他の島でも庭木程度の小規模なら生えている(いた)のではないかと推測します。筆者は人生初めてのハワイ旅行で、オアフ島から“7島めぐり”というオプション・ツアーに参加しました。ただ、実際はマウイ島とカウアイ島だけに降り、それぞれわずかな時間を滞在しただけでした。で、あとの5島は上空から見てねということで、締めて「7−5=2」の“2島めぐりとその他見るだけ旅”は確か$1=200円以上の昭和時代に$300でした。まっ、今なら1日に7島行けるとは思わないですし、行きたいとも思わないですが、当時の私はとても損した気分になりました。300÷2=$150、1島あたり約3万円……、器の小ささは過去も現在も同じです。

 コアをそれぞれ島別に比較しますと、私はほとんど差がないように思います。それよりも、それぞれの個体が持つ差の方が激しいというのが自論です。開けた土地に姿勢よく針葉樹のように生える木があれば、ジャングルの湿地のようなところで苔むした木肌をまといながら捻じれ育つ木もあります。生育していた標高、日当たり、風など環境諸条件の影響を非常に強く受けて育つハワイ諸島の木はすべてが個性的で魅力的に見えます。

カリッカリのカーリー

コアのログたち

コア・プロファイリング

 さて、それでは気になるワードたちを私なりに整理してみます(一部伝聞に基づく推測も含みますので、間違いがありましたらご指摘ください)。まずは“輸出禁止”。これは結論から言えば、日米両国の法律や条例などで輸出入が規制されているということはないようです。ではどこからそんな話が出てきたのでしょうか? ハワイ現地ではこの木をハワイから持ち出すな的動きが広まった時期があったと聞きます(今でも島人以外には売らないという人もいるようです)。神から授かった木はすべて自分たちで大切に使おうということなのでしょう。白人や日本人が山に立ち入り、荒らす事を予感し、事前に自分たちの中で伐採、流通を自主制限したというのが、この“輸出禁止”という大きな話につながったではないかと推測します。

 次に“伐採禁止”。これは日本の国有林と同じくハワイ州有地でも当然のことです。ただし、州は定期的に伐採エリアを決め入札という形で公告し、しかるべく要件を満たした業者に伐採の許可と管理を任せています。全面永久伐採禁止ではなく、資源が後世まで継続利用できるよう、小出ししながら使っていこうということですね。優良なコア材は標高1,500m以上の高地から多く産出すると言われますが、徐々にそのエリアから高度が下がっているのが現状のようです。一方、私有地においての規制は聞いたことがありません。ハワイのコア持ちさんは自分の牧場内の倒木などを資源として、製材した板を納屋で保管し、子息の進学や結婚などモノ入りな時に放出することがあるそうです。貴重な臨時現金収入として近場のコアは役立っているようです。この手の売り物がある時は、具体的にいつまでに入学金が何ドル必要だから買ってくれというリアルな取引がオークション市場などで展開されたりします。

 最後に“資源枯渇”。かなり誇張した表現ですが、これは正確に言えば、“ある程度のグレードを持つ商業的流通資源”が不足しているという意味になるかと思います。山に資源があっても、それを伐り出し麓まで下ろすことが困難な環境、これこそが“商業的資源枯渇”の最大の要因だと思います。丸太を下ろすためには、その場所まで車が通る道を敷かなければなりません(現場である程度小さくカットし下ろすやり方が主流のようです)。もしくはヘリで運ぶとしたらそれをチャーターしなければなりません。伐った後は新たな芽を育むために整地し植林する必要もあります。そこまで労力とコストをかけて市場に出したとしても、コア材の需要があるかと言えば……ウクレレやギターで使う分量など、たかがしれています。古今東西、儲からない仕事を積極的に薦める理由はなく、誰しも二の足を踏んでしまいます。「ハワイアン・コア」を取り巻く林業ビジネス自体が停滞していることが、この“資源枯渇”につながっている気がしてなりません。

 いずれのワードも“当たらずとも遠からず”というのが結論のようです。間違いなく過去に比べて生育エリアは狭くなっていますし、良材の産出も減っています。そのうち、本当に資源が枯渇し、伐採が禁止され、輸入禁止になる日がくるかもしれない要素は多分にあるわけです。我々はそんな日が来ても大丈夫なよう早めに手当しなければなりません。またかと思われるかもしれませんが、自家製コアも養育中です。もう少し大きくなれば、近所の公園(都立K金井公園あたりが有力、写真後方のグリーン地帯です)に頼んで植えてもらおうかと思っています。

自家製コアの“コア子” 今のところ真っ直ぐ育ってくれてます

ハワイアン・コア雑感

 私が普段ハワイアン・コアに接していて感じるのは、カーリーなどの杢が強く出た材は入手が大変難しいということです。逆に言えば、杢っ気の少ないプレーン系コアの入手に困ることはあまりありません。コアに限らずトーンウッドのグレードはほぼ見た目(色、目幅、杢の有無、欠点の有無など)で決まります。その格付けには明確な基準があるわけでなく、売る側の主観だけで決められます。コアのグレードはAの数で表されることが多いですが、他には単にハイ(フル)カール、ミディアム・カール、セレクト・カールなどと杢の強弱で分類する人もいます。基準を主観に任せると、同じ材でもある人がみれば最高クラスの5A、違う人がみれば平均的な3Aといったことになります。材を購入するときはその店のスタンダードを知っておかないと、届いてから、なんじゃこりゃ!?ということになります。2階級特進なんて日常茶飯事ですからね。シビアな5Aグレードになると、おそらく産出コア全体のコンマ数%以下、私などめったに拝むことができません。“5Aが出た!”と聞くと、自家用飛行機でハワイ島に駆けつけるギター・メーカー社長さんもいらっしゃるようで、世界中のコア・ハンターが血眼になって探しているんです。じゃ、5Aだから音が良く鳴るか? そんなことは絶対にありません。あくまで好みですが、ウクレレなどは逆にプレーン材の方が向いているような気もします。

 ところで、カーリーってどうしてそうなるのでしょうか? 先天的と後天的な要因があると思うのですが、私は両方とも関係していると思います。先天的というのは、生まれた時点ですでにカーリーになる遺伝子が組み込まれているということです。ハード・メイプルによく見られるバーズアイやベアクロー・スプルースなども同じくその手です。先天的カーリー木は、その若く細い枝さえもスジまみれだったりします。後天的な要因、ハワイの場合は風の影響が強いでしょうね、何しろ、日本から持ち込んだスギやヒノキもハワイで育つとコアと同じようなカーリーが出ていたりします。花輪くんのヘアースタイルのように葉枝がすべて風下に伸びた木があったり、崖から飛び降りた人が風で舞い上がってきて助かった?とか、ハワイの風の強さは尋常じゃないことがよくわかります。加えて、成長する過程で色々な外的ストレスが加わり、節々が痛むように繊維が変形し激しい杢形成に繋がるといったこともあります。育つ環境が厳しければ厳しいほど、それに耐えた木は我々にドラマティックな景色を見せてくれるわけです。

コアもの色々

 ハワイアン・コアは昔から王朝家具や建材、そしてカヌーなど生活密着材として使われてきました。有名なホテルやミュージアム、教会などにも多くのコア材が建材、内装材として使われていますよね。19世紀後半から渡った日系人の方々もコアと深く繋がりました。元来、器用な日本人は農家の下働きに甘んじることなく、コアで家具などを作り、戦前にはいくつもの造作家具屋、ショップが繁盛していたことが知られています。コアの和箪笥や水屋(食器棚)、平机など今でも日系の古いお宅にいけば残っているのではないでしょうか。

コアものコレクション

 とまあいろいろある中でもお気に入りは下の写真の、数年前入手した本立て、ブックシェルです。どこか大正ロマンなデザインに惹かれました。

お気に入りのコア製本立て

 コアの話、少しは晴れた空、そよぐ風を感じていただけましたか? 「わたしのハワイの歩き方」なんて映画も上映される今夏、コア材をめぐって、もう一度リアルな7島めぐりにトライしてみたい筆者でした。

■参考文献
『Growing Koa』Kim M.Wilkinson and Graig R.Elevitch 著
『Hawaiian Furniture and Hawaii's Cabinetmakers』Irving Jenkins 著
■協力
(有)山一商店


コアな楽器

 今回はたくさん検索かかるはずですよ。杢もさることながら、その独特なカラリと鳴るサウンドをご賞味ください。一度味わうとやめられない止まらないコアな世界へ、ようこそ。

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 次回(7月14日/月曜日)はエレ木ファンの方、お待たせしました! メイプル材の特集です。ロースト加工材や新種?などご紹介できればと思っております。では、ばいなら、ならいば。

プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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