AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Canal Works / カスタムIEM
カスタムIEMをオーダーするとき、採取したインプレッション(耳型)を使って、いったいどのようにイヤモニが出来上がるのか? 実際にその工程を見る機会が少ないので、興味が湧きますね。そこで今回は、カスタムIEMの製造現場を見てみたい! ということで高い技術力を誇る国産イヤモニ・メーカー、Canal Works(カナルワークス)本社にたっくんが取材を敢行! 前編では、インプレッションからシェル(本体)を作るまでの工程を追ってみましょう。
Canal Works(カナルワークス)は埼玉県に本社を構える、カスタムIEMブランドです。Pioneerの設計部門出身の林一博氏によって2010年に設立され、高い技術力を活かした製品ラインナップが特徴です。設立以来特に注目を集めたのが、『CW-L05QD』(現在ブラッシュアップ版のCW-L05QD2が発売中)という4基のフルレンジBAドライバーを、ネットワークを用いずに並列に置いたモデルや、『CW-L51aPSTS』では『パーソナル・サウンド・チューニング・システム(PSTS)』という、抵抗を交換して自分好みにチューニングできる機構を取り入れた製品も。技術畑出身ならではの個性的な製品が魅力のブランドです。
今回、取材を快く受けていただいたCanal Works代表の林さんに作業場内を案内していただきました。Canal Works設立当初は、ご自宅の一角でイヤモニを製作、また製作の一部を補聴器の製作会社に委託していたそうですが、品質をより高めるためにすべて内製でイヤモニを作る事にし、現在の事務所を構えたそうです。Canal Worksの事務所は、医療関係の企業が多く入るビルの3Fにあります。入口を入ると応接室があり、その奥にCanal Worksの心臓部とも言える作業場があります。
作業場には、林さんが自作した機材が多数あります。多くのイヤモニ・メーカーでは既製品の機材を使用していますが、Canal Worksでは自身で定めたより高い性能を求め、既製品をカスタマイズしたり、一から機材を作っているとの事です。特にイヤモニの製造工程で出る粉塵や削りカスは、品質の低下に直接繋がるので、より性能の高い集塵機や集塵BOXが欠かせません。自作された集塵機によって、作業場には削りカスや粉塵が一切ありませんでした。
さっそくイヤモニ製作の工程を見せていただきます。Canal Worksでは、「何も足さない。何も削らない」という考えのもと、インプレッション(耳型)の形そのままにイヤモニを製作するため、まずはインプレッションの不要な部分を切り取ります。料理でいうところの下処理にあたる作業ですね。処理が終わったらシリコンが染み込まない様に、インプレッションにワックス・コーティングを施します。インプレッションの正確さによって、仕上がりのフィット感に大きな影響が出るので、イヤモニ用の耳型採取経験が豊富なお店で採取するのがオススメです。
カフケースにインプレッションを逆にして置き、そこにシリコンを流し込みます。このシリコンは時間が経つと固まるので、固まる前に誰の耳型か判る様に、管理番号と名前の書かれたプレートを入れます。1時間ほど置きシリコンが完全に固まったところでインプレッションを取り出します。こうして、インプレッションの形になった雌型が出来上がります。この雌型はお客様の耳と同じ形なので、フィット感を調べる際に使用するそうです。
取り出したインプレッションの凹凸をなだらかにし、イヤモニ本体の原型になる様加工します。この加工が終わると、仕上がりと同じ形状になります。このインプレッションで再び雌型を作りますが、先程のシリコンとは違う液体を流し込みます。こちらも時間が経つと硬化するので、硬化した雌型を元にイヤモニを作成していきます。Canal Worksでは、耳型確認のための雌型と、本体製作に使用する雌型の2つを作成するわけです。
続いてオーダー通りのシェルを作るために、固まるとシェルになる液体を、雌型に流し込み紫外線を照射して固めます。オーダー・カラーによって紫外線を照射する時間が変わるそうです。液体がシリコンに接している外側から照射し、照射した時間によって硬化するシェルの厚みが変わります。雌型のシリコンが透明なので、均一に紫外線が当たり、均一の厚みのシェルが出来上がるそうです。硬化していない内側の液体を捨て、もう一度紫外線を照射してシェルを完全に固めます。
今回のCanal Works工場見学はここまで。次回後編ではイヤホンの心臓部とも言えるドライバーの組み込みの様子をご紹介します!
岡田卓也(おかだ・たくや)
イヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」PR本部 本部長。帰省時にイヤホンが断線し、たまたま購入したSHURE E2cでイヤホンにハマる。これまでに試聴したイヤホン・ヘッドホンの数は数千機種に及ぶ。日本人で初めて(おそらく)beats本社やUltimateEarsのラボ見学をしたことが自慢。