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- 2024/11/16
Martin StandardSeries D-18/D-28/D-35/000-18/000-28
シリーズの最上位グレードならではのトーンを存分に引き出した演奏で大好評となった斎藤誠氏のスタンダード・シリーズ40番台試奏特集。“光もの”とも呼ばれるゴージャスな5機種をフィーチャーした前回から一転、今回はもっともベーシックなスタイル18、28、35をピックアップしてみた。マーティンという枠組みを超えて、アコースティック・ギターの“超定番”とも言える5本が持つトーン⋯⋯その普遍的な魅力を、斎藤誠氏の繊細かつダイナミックなプレイと対談動画でじっくりと味わっていただきたい。
戦前のラグタイムやブルースから戦後のロカビリーや様々なロック、モダンなフィンガーピッキングまで、ありとあらゆるポピュラー音楽の分野で活躍してきたマーティンのギターは、そのサウンドはもちろん、デザインにおいても標準とされる地位を確立している。中でも最も標準的なのが現行のスタンダード・シリーズ、とりわけ“超定番”と言うべきドレッドノートと000ということになる。マーティンには、定番のモデルをベースにして木材の種類などの仕様を変更した、様々な限定モデルがあり、自分だけの1本が欲しいと思う人にとっては魅力的だ。しかし、エルヴィス・プレスリーやポール・サイモン、ビートルズなどのスターたちが愛用したマーティンはどれも、それぞれの時代の標準モデルだった。何の変哲もない標準仕様の超定番モデルは、マーティン社の歴史をそのまま反映した、実に奥深いギターなのである。
近年では、MやJといった大型ボディのモデルもラインナップに加わっているが、マーティンのギターの中でも最大で最もパワフルなギターと言えば、やはりドレッドノートということになる。最初のドレッドノートはマーティン社自身のモデルではなく、1916年からマーティン製のギターを自社ブランドで販売していた、ボストンのオリバー・ディットソン社のエクストラ・ラージ・サイズのハワイアン・ギターとして登場した。マーティンが自社モデルとしてドレッドノートの販売を始めたのは、ディットソン社が買収された1931年のことである。当初は12フレット・ジョイントだったが、1934年14フレット・ジョイントに変更された。000タイプの歴史は古く、登場したのは1902年のことである。当初はガット弦用として作られていたが、1917年からスティール弦用の製造が開始され、ドレッドノートと同じく1934年に12フレット・ジョイントから14フレット・ジョイントに変更されている。
1931年に発売されたマホガニー・ボディのドレッドノートはD-1という機種名だったが、間もなくD-18に変更されて現在に至る。指板とブリッジはエボニーで、1946年にはローズウッドに変更されたが、現行のスタンダード・モデルでは2012年からエボニーに戻っている。Xブレイシングも、やはり2012年から本器のみがフォワードシフテッドのスキャロップ・タイプとなっている。ネックのグリップは、今回ご紹介する中ではD-18のみが最新のパフォーミング・アーティスト・テーパーを採用。ローズウッド・ボディのイメージが強いマーティンだが、マホガニーが持つ独特の乾いた音色を好むプレイヤーも多く、根強い人気がある。
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【Specification】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:マホガニー ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX・スキャロップト・フォワードシフテッド ●定価:390,000円(税抜き)
今回試した中でいちばん鳴るという印象だったのがこのギターでした。D-28よりも音に張りがある感じです。デモ演奏の収録では、もともとこのギターで弾くつもりじゃなかった6/8拍子のアルペジオの曲を選びましたが、鳴りの良いギターでつま弾きの1音1音をきれいに聴かせたいという意識が働いたのかもしれませんね。はっきり言って、マホガニー・ボディのギターは、ローズウッドのものに比べると使い道はちょっと狭いんです。だから、現場に1本だけ持って行くとなるとローズウッドということになるんですが、それ以外にもう1本持っていたいなあと思うのがマホガニーのギターなんですよね。
マーティンと言われて真っ先に思い浮かぶのは、日本で“ディーニッパチ”と呼ばれるこのD-28だろう。1931年の発売当初はD-2と呼ばれたこのモデルは、ハンク・ウィリアムズからジミー・ペイジ、マイケル・ヘッジスなど、それぞれの時代の最先端を担うミュージシャンたちに愛用された。装飾は当初、ダイヤモンド・インレイやヘリンボーン・バインディングといった簡素なものが施されていたが、どちらも1940年代にそれぞれスモール・ドット、ヘリンボーンなしの仕様に変更されている。ボディ材にローズウッドを使用したD-28はマホガニーのD-18と並んで、それぞれの材を代表する、“シンプル・イズ・ザ・ベスト”の手本のようなモデルである。
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【Specification】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 11/16インチ(42.9mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX ●定価:410,000円(税抜き)
僕自身は持っていませんが、借りて弾く機会がいちばん多いのがこのD-28なんです。だから、新しい発見というのは特にない代わりに、こういうスタイルならこういうふうに弾けばいいんだっていうのがわかっている感じです。聴く側にとってもたぶん、こちらが想像した通りの音になっているだろうなという安心感がありますね。今回5曲10パターンを収録した中で、このギターの試奏の時だけ弾きながら歌っていますが、歌いたいなと思ったのも、自分がよく知っていて落ち着けるサウンドだったからだと思います。あと、D-35に比べると、荒々しい感じのプレイならこのD-28の方が向いていますね。
マーティンのローズウッド材と言えばブラジリアン・ローズウッドと相場が決まっていたが、1960年代に入ってブラジル政府が原木の輸出を制限すると、大型のドレッドノートに必要な2ピース・バック用材の調達が困難となった。そこで、幅の狭い材でも製作できる3ピース・バックのモデルとして1965年に登場したのがD-35である。2ピースよりも裏板の振動の抑制が効いてサウンドがコントロールしやすいということで、通なプレイヤーの間で人気を呼んだD-35は、発売時期が日本のフォークの黎明期と重なり、指板のバインディングで見栄えが良いということもあり、吉田拓郎や遠藤賢司、吉川忠英といったこの分野の先駆者たちも愛用した。
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【Specification】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 11/16インチ(42.9mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX ●定価:435,000円(税抜き)
今回試奏した中では、綺麗できらびやかな感じがしました。000-28にも同じような印象はありましたが、D-35の方が音量もあるので、フィンガーピッキングでアルペジオを弾きたいなと思いましたね。3ピース・バックの効果でしょうか、音の抑制が効いていて暴れないし、材のグレードもあるんでしょうか、ストロークを弾いても、D-28と比べて1、2弦のシャリーンとした部分がちゃんと残ってくれます。かつてフォーク・シーンで重宝されたのがわかるような気がします。ジャン、ズク、ジャカズク、ジャン⋯⋯っていうのがやりたくなるっていうか。今回もピック弾きのデモもそういう感じでやりましたが、やっぱりD-35だとしっくりきましたね。
1902年に登場した000(トリプル・オー)タイプのギターは、1931年にドレッドノートが登場するまで、マーティンのラインナップ中、最大のボディを持つモデルだった。スタイル18のボディ材はもともとローズウッドだったが、1917年からマホガニーに変更されている。スケールはドレッドノートの25.4インチに対して24.9インチと、少し短めになっている。000-18の使用材もD-18と同様の変遷をたどっており、現行のモデルもD-18と同じく、戦前(いわゆるプリウォー)モデルの仕様を意識して、指板とブリッジにはエボニー、ペグにはオープン・タイプ、トップにはわずかに飴色がかったエージング・トナー仕上げが採用されている。
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【Specification】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:マホガニー ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:24.9インチ(632.5mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX ●定価:390,000円(税抜き)
このギターのデモにはちょっとファンキーな曲を選んだんですが、僕がいつも使っているOMとボディが同じ大きさで慣れていたというのと、000-28よりももっとガツンと行きたい、ロックな感じで行きたいという意識が強くなったというのが理由でした。そういう気持ちをちゃんと生かしてくれる、イナたいっていうか⋯⋯マホガニーの質が良いので、もっとアップグレードされている感じですが⋯⋯牧歌的な音がすると思います。マホガニーの楽器は000に限らず、この曲では使わないでおこうということがある一方で、ここで一発、個性が聴こえてほしいから使うということも多いんです。その意味では、000-28よりも個性的ですよね。
マーティンのギターで最も高く評価されている、1920年代から40年代にかけてのいわゆるゴールデン・エラ(黄金時代)に、生産量がD-28に次いで多かったのが000-28である。以来、マーティンのラインナップでD-28と人気を二分し続けている。1990年代にアコースティック・ギター、とりわけ000の人気が再燃するきっかけを作ったエリック・クラプトンも、偉大なブルースマンのビッグ・ビル・ブルーンジーが000-28を弾いている映像を観て、このモデルに憧れ、70年代に愛用していたという。テンションの柔らかいショート・スケールと密度の高いローズウッドのボディの組み合わせが、ピッキングの繊細なニュアンスを忠実に再現する。
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【Specification】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:セレクト・ハードウッド ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:24.9インチ(632.5mm)●ナット幅:1 11/16インチ(42.9mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX ●定価:450,000円(税抜き)
このギターがブルース系の曲に合うとは思っていなかったんですが、今回試奏したモデルの中ではクラプトンの楽器にいちばん近いし、前回の対談で飛び入りしたシグネチャー(000-45ECJM)にも近いんですよね。それに、僕のOMよりもテンションが柔らかいので、マホガニー・ボディじゃなくてもブルースが弾きやすい楽器なんだなと思いました。マホガニー=イナたいという勝手なイメージがあって、ブルースにもマホガニーの方が合っていると思い込んでいる部分もありますが、実際に弾くとなると印象が変わるのが面白いと思いました。ウチのバンドの柳沢二三男も000-28でいつも綺麗な音を出しているし、僕がイメージしている000の音は、18よりも28なんですよね。
対談コーナーの最後に登場した、ジョン・レノンの生誕75周年記念モデル。限定75本のアニバーサリー・モデルを基に、指板のインレイ、ヘッド・ロゴの下にプリントされたジョンの似顔絵、ボディ・バックに施されたバック・ストリップによるピース・サインの装飾と、ジョンを偲ぶアイテムを残す一方、トップ材をVTS(ビンテージ・トーン・システム)加工のシトカ・スプルース、ボディ材をイースト・インディアン・ローズウッドに変更し、ロゼッタとピックガードの装飾を通常のD-28の仕様に戻した、シンプルなデザインとなっている。楽器としては丸みのあるヘッドやノン・スキャロップのリアシフトXブレイシングなど、1957年頃のD-28の仕様を踏襲している。
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【Specification】
●トップ:シトカ・スプルース ●サイド&バック:イースト・インディアン・ローズウッド ●ネック:マホガニー ●指板:エボニー ●ブリッジ:エボニー ●スケール:25.4インチ(645.2mm)●ナット幅:1 3/4インチ(44.5mm)●トップ・ブレイシング・パターン:スタンダードX・リアワード・シフテッド ●定価:740,000円(税抜き)
今回、スタンダード・シリーズの超定番モデルを試奏しましたが、僕が小学生の時、有名人が持っているギターで初めて見たアコースティック・ギターもD-28でした。ジョン・レノンがプロモーション用の動画で弾いていたんですよ。僕自身はドレッドノートを持っていないので、このタイプのギターに関してはまだ探っている状態ですが、ふくよかな音の塊りが自分を包んでくれる感じがあって、これぞマーティンというサウンドに浸れるのが良いですね。また、今回はどれが自分に合っているのかなあと思いながら弾くという、ワクワク感がありました。以前に撮った、ドレッドノートを立って弾いている写真を見ると、けっこうカッコ良いんですよ(笑)。試奏用の曲を考えるにあたって、こういうイナたいサウンドにはこのギターだろうと、家である程度決めてきたんですが、実際に触ってみたらちょっと違いました。たとえば、マホガニーのD-18でやろうと決めていたブルース系の曲が、結局は全然違う000-28になったりしたんですよね。000-28は、音に柔らかさがあります。スタイル18では、個人的に00-18Vをけっこう長く使っていたことがありますが、000-18Vの仕様を取り入れたという000-18と共通するものを感じますね。反応が速くて、弾き手の気持ちをワイルドにさせるものがあります。D-35は有名な18と28の間に隠れた感じがありますが、フルコードを強く弾いた時の、ゴーンという低音のアタック感が個性的だったりしますね。
斎藤誠(さいとう・まこと)
1958年東京生まれ。青山学院大学在学中の1980年、西慎嗣にシングル曲「Don’t Worry Mama」を提供したのをきっかけに音楽界デビューを果たす。1983年にアルバム『LA-LA-LU』を発表し、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、サザンオールスターズのサポートギターをはじめ、数多くのトップ・アーティストの作品への楽曲提供やプロデュース活動、レコーディングも精力的に行なっている。2013年12枚目のオリジナル・フルアルバム『PARADISE SOUL』、2015年にはアルバム「Put Your Hands Together!斎藤誠の嬉し恥ずかしセルフカバー集」と「Put Your Hands Together!斎藤誠の幸せを呼ぶ洋楽カバー集」の2タイトル同時リリース。また、本人名義のライブ活動の他、マーティン・ギターの良質なアコースティック・サウンドを聴かせることを目的として開催されている“Rebirth Tour”のホスト役を長年に渡って務め、日本を代表するマーティン・ギタリストとしてもあまりにも有名。そのマーティン・サウンド、卓越したギター・プレイを堪能できる最新ライブ情報はこちらから!