AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
ESP
自分だけのオリジナル・ギターが欲しい、そんな時、まずこのメーカーのことを思い浮かべる方は多いはずです。その名は“イー・エス・ピー”。1975年に創業した同社のカスタム・オーダー・システムは、多くの内外プロ・ミュージシャンに高く評価され、日本の楽器製作技術の高さを知らしめるとともに、バンド・サウンド、そしてビジュアル的な面にも大きな影響を与え続けてきました。そんな同社も今年で創立40周年。熱いスピリットを軸に高い品質を長年維持するのに、多くの木材が使われてきたのは間違いありません。その木材マテリアルについて、どのようなスタンスでセレクト、調達、シーズニング、そして実際に使用されてきたのか? 今回は楽器メーカーとして最も重要かつシークレット傾向の強い部分を♪見・せ・て~と言わんばかりに工場を隅から隅まで潜入取材させていただきました。メディア初公開部分も含めてとくとご覧下さい。
都心から埼玉県入間郡に工場を移転され早7年、3年前には近隣に第二工場も構えられ、まさに生産拠点と呼ぶにふさわしい設備を構えられています。この工場の生産プロセスに携わるスタッフの多くが自社が運営するギター製作専門学校OBによって支えられている点も見逃せません。
まずは主にカタログ掲載されるレギュラー・モデルの木工部分を担当する第二工場からおじゃまします。ここには、すぐに製作突入できるシーズニング完了済みのストック材が豊富に保管されています。ホンジュラス・マホガニーのボディ材、ネック用角材、アッシュやアルダーなど定番ボディ材が完璧に空調管理され、保管されています。多くのメーカーが血眼になって探すワンピースのマホガニー材もここでは当たり前のように生産の順番を待っています。工場を案内してくださった原田均専務曰く「マホガニーのボディ材についてはワンピースの方が多いと思います」。そういえば、2014年版ジェネラル・カタログ(全210ページ)のボディ素材紹介コーナーでも“マホガニー等、大きめの木はワンピースが基本です”としっかり記載されていました。どうやらこちらの基本がまったくできていなかったようです。棚の片隅には、色々なサイズ不揃いの材が積み重ねられたスペースがありました。これら切り落としや半端部分もちゃんと保管され、すべて装飾材やパーツとして活かされるわけです。
第二工場内は1Fが木工、2Fは塗装工程が中心となっています。大型機械も導入されていますが、基本はすべて人によるオペレーションです。ゆったりとしたスペースで黙々と製作に没頭する若きビルダーさん達、それぞれが高い技術と情熱を持ってESPecial(特別な)楽器を産み出していきます。
ここで専務からご提案が。「少し離れた別棟にも少し素材ストックがありますが見ていきますか? メディア向けにお見せするのは初めてだと思います」「おっ、お願いします!」
外観はどこにでもある普通の倉庫建屋、しかしその中は大変なことになっていました。まず、驚いたのはその物量です。それもカスタム・ギター向けの稀少トーンウッドばかり。このところめっきり見なくなったなぁと思っていた材はすべてここに集まっていたのでした。キルト・メイプル、カーリー・メイプル、カーリー・コア、エボニー指板等々、そのクオリティの高さには驚きを禁じえません。それぞれの材種の中でもマスターやプレミアムと称される、誰もが探し求める逸材が所狭しと保管されています。メイプル類の調達では海外関連会社の存在役割も大きく、他社に比べて高いアドバンテージがあることは明らかでした。また、指板材のストックが半端でないことを尋ねると、「サプライヤーさんがパレット単位(数百枚?)でないと売ってくれないんです」との返答。これだけ黒々しい真黒(まぐろ)、パレットで買っておかれて大正解でしたよ、今から買ってもこのクオリティでこれだけの数量を揃えられることはまずないでしょう。余るようでしたら譲ってくださいとの禁句をぐっと飲み込み、激しいおあずけ状態を堪能する筆者でした。
いよいよ第一工場、いわばESPの本丸です。ここではESPrit(機知)に富んだカスタム・オーダー品の製作を中心に、営業本部、パーツ管理部門、輸出部門まですべての機能が揃っています。第二工場とマル秘シーズニング武器庫でやや胸焼けするくらいのお宝材を拝観しましたが、まだまだ甘かったようです。
ここ第一工場にも加工を今や遅しと待ち構えるシーズニング完了材が積まれていました。さすがはカスタム・オーダー向け素材だけあって、さらにそのクオリティの高さが際立っています。目の詰んだワンピースのマホガニー・ボディ材、ラミネート・ネック材はごく当然のように、そしてバーズアイ・メイプルや、タモの極上杢材など木フェチ垂涎のワンオフ・カスタム用の逸材達も出番を待っています。
こちらはカスタム部門の製作工程。ショップ・オーダー品はもとよりユーザー・カスタム・オーダー品など1本1本異なる仕様の楽器が、限られたスタッフにより丹念に製作されます。もちろん多くのプロ・ミュージシャン・モデルもこの工程から産み出されていきます。
そしてカメラはついにここまで潜入しました。新東京工場の中でも特別な一室、そうアルフィー高見沢さんのギター“のみ”を製作する特別室。まさにESPの延髄部門です。室内ではあの唯一無二の世界観を持つ新作が、彫刻・グラフィックペイントご担当の湯澤博之氏によって構築されようとしていました。
改めて、今すぐにオーダー可能な代表的ストック素材各種を紹介しましょう。もちろん、これ以外にもワンオフ素材(1台分しかないけど的な……)が色々とあることを私は知っています。どしどしESPショップでリクエストしてみてください。ご希望の材が無ければ私が探してESPさんに納めますので……。
ここからは今すぐデジマートで買える木フェチESP楽器の数々をご紹介します。約半年はかかるオーダー製作を待てない方、限られた予算でハイクオリティな楽器を探している方、そして木フェチ・ビジュアル系のユー、必見です。掲載後に売却等によるリンク切れも予想されますが、なにとぞご容赦を。
モダン&クラシックなホロー構造フレットレス・ベースです。スプルース・トップ、マホガニー・サイド、メイプル・バック、そして13Pの多層にラミネートされたネック。ESPが持つ木工技術と音楽感性の集大成ともいうべき木フェチ楽器です。まさに40周年を記念するにふさわしいショー・モデルと言えまショー。
ショー・モデルが続きます。トップを飾るメイプルとウォルナットの絶妙なバランス、そしてフィンガーボードにまで続くインレイ細工。加えてバックのシルバーハート(アニグレ)の強烈杢。積層ラミネートされた木フェチ・エキス凝縮ネック。このギターには楽器というカテゴリーを超越した銘木工芸品の世界を見ることができます。
こちらはナチュラル・カラーのフレイム・メイプル・トップとバーナー加工したアッシュ・バックを持つ加賀百万石ショップ・オリジナル品です。ナチュラル仕上げとゴールド・パーツが美し過ぎます。人の良さが垣間見える新品特価でお届けします。
古都ショップからはシックなカスタム・オーダーメイド品を。トップのフレイムメイプル、バックのウォルナット&アルダーともに深く雅なカラーにまとめられています。そしてネックはウェンジのソリッド・タイプ、ホンジュラス・ローズの指板。世界各地からの観光客並みに多種多様な適材を適所に配置した1本です。近年モノUSEDとしては破格の価格設定も実におおきにです。
ショー・モデルにも増してレアなレフティ6弦ベース。しっかりとメインテナンスが施された1本です。玉杢調のメイプル、ブビンガ、パドゥクを9プライ(!)したボディに同材を用いたネック仕様というカスタム・オーダーならではの材セレクトです。
再びショー・モデルからのご紹介です。って簡単に言いますが、展示会で脚光と注目と羨望の眼差しを浴びた1本がネットですぐに買える環境って凄いですよね。トップには稀少中の稀少フレイム・ビルマ・パドゥクが、バックには育ちの良さそうなストレート・グレイン・ハワイアン・コアがワンピースで使用されています。同系色でまとめることによって抜群の一体感を醸し出しています。
続きましてバックアイバールの6弦ベースを。ちょうど取材時に北米から同材のブロックが大量に入荷していました。このバックアイ、バール瘤の粒々感もさることながら、ブルーインクをこぼしたような特有の色味が木フェチ同志の心を捉えて放しません。多弦ベースの定番材、小宇宙感が広がる逸材です。
同社ならではのプレミアム・キルト・メイプルです。杢目にふさわしい野趣あふれるカラーリングがキルトの一片、一片を激しく浮き出させています。このあたりの塗装技術の高さはさすがです。見た目の華やかさだけでなく、リボン杢が美しいマホガニー・ボディ、質の高さが伺える柾目ネックなど、押さえるべくは確実に押さえられています。
もう1本激しいキルト・メイプルを! こちらは表情豊かな杢に加えて、紫がかったグレイッシュ・カラーがお見事です。ビジュアル系ミュージシャンにも圧倒的な人気を誇る、同社のカスタム・カラー仕様は見逃せません。
続いてアンバー・カラーにまとめられたフレイム・メイプル・モデルを1本。アーチド加工が施されたトップはもはや芸術的な仕上がり具合です。ナチュラル・バインディングもサイドを引き締めています。
オーダーメイドによるレス・ポール・タイプです。キルト調のメイプルとワイルドな杢目を持つワンピース・マホガニー・バックはありそうでない1本かと思います。この手のトラッド・モデルにもしっかりとESPの個性が垣間見えます。
これは珍しい1本です。トップにハワイアン・コアを使ったやはりオーダー品のUSEDです。メイプルに比べるとトップ材としてどうしてもマニアック感が否めないコア材ですが、色、杢ともにバリエーション豊かで、これからの要注目トップ素材であることは間違いありません。筆者はシーズニング倉庫内に2インチ厚のフリッチ板がうず高く保管されているのをしっかり目撃しております。ぜひショップでコアを催促してみましょう。
遠目にはハムバッカーのストラトとしか見えませんが、じっくり拝見するとボディ材はタモでしょうか。深くワイルドな稜線杢目にサンバースト・フィニッシュがマッチし、相乗効果でググッと材の存在感を際立たせています。オーダー品ならではのプレミアム素材選択でしょう。
ワンピースのホンジュラス・マホガニーをマット・フィニッシュで仕上げ、木の鳴りをそのまま残した1本です。まるで最高級地鶏を遠赤効果の高い炭火でじっくり焼き上げ、岩塩だけでいただくといったシンプルの極みギターです。
こちらはトップがレーザーでタトゥ様に彫り込まれています。なかなか勇気のいる加工だと思いますが、しっかり高級感のある仕上がりになっています。新品で買うと高価な超有名アーティスト・モデルですが、USEDゆえリーズナブルな価格でのご提供です!
CharプロデュースによるBambooInn、同社としては数少ないエレアコ・モデルです。マホガニーのくり抜きボディとコーディネートされたラミネート・メイプル(トップ材はシダーがベースになっています)は美しいフレイムを描いています。ヘッド裏には壁掛け用の穴あき金具まである、いたれりつくせり仕様です。
最後に番外編、木フェチ仕様というわけではありませんが、この1本もすぐ買えます。記事上段でも紹介しましたTHE ALFEE 高見沢俊彦モデルです。ドラえもんギターからヤッターワン、モンハン、そしてこの究極デコラティブ・モデル。ESPの懐の深さには目を離すことができません。
最後になりましたが、今回の潜入取材をご案内いただいた原田専務をご紹介します。長年、一流ミュージシャンの方々と深いお付き合いをされているのは楽器のスゴさもさることながら、誠実なお人柄ゆえのことだと感じました。今回は、超多忙年にも関わらず、貴重なお時間をいただき、惜しげもなく工場の隅から隅までご案内いただきありがとうございました。
ESP社の木材マテリアル・ストックの凄さ、伝わりましたでしょうか? ともすると完成した楽器の華やかさのみに目を奪われがちですが、実はその原材料自体にも大きなこだわりがあることを思い知りました。楽器紹介では、新品オーダー時に比べるとかなりリーズナブルなUSED楽器もピックアップしています。中にはこれから新規オーダーできなさそうなモデルもあります。夏の夜、冷房の効いた部屋で熱いESPressoでも飲みながら、デジマートでぜひポチってください。
次号は夏休み記念大型取材、“木フェチ馬鹿、丸太を見に行く”企画を予定しております。8月31日(月)更新予定。どうぞお楽しみに。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。