ジャズ・ギターにお薦めのシールド・ケーブル4選
- 2024/12/04
真正マホガニーであり、世界三大銘木の地位を欲しいままにしてきたキューバン・マホガニー。しかしながら、前世紀初頭にはその商業資源はほぼ枯渇しており、よって楽器としての音色はいかほどのモノなのか、長年想像の範囲でしか語られていませんでした(語られてもいなかったか?)。それが今日では、アンティーク家具から材をリクレイムする手法もごく一部で実行され、さらには近年、積極的に植林されてきたプランテーション木などもそろそろ食べ頃になってきました。今回はキューバン・マホガニーをとりまく最新事情レポートと合わせて、マホの森へみたびご案内します。
長い間、“幻の”と形容され続けてきたキューバン・マホガニー材(本連載第2回、第9回も再チェック!)ですが、ここ数年、徐々にその供給量が増えてきました。とはいえ、他のマホガニー類に比べればまだまだ微々たるものであることは言うまでもありません。その資源ソースは、アンティーク家具をバラしたもの、デッドストックとしてどこかに長年ストックされていたもの、そして各地で近年伐採されたものなど実にさまざまな出自を持っています。今回は、バージン材として今、入手可能性のあるキューバン・マホガニー(広い意味でスモールリーフ・マホガニー類)の一部を産地別にご紹介します。
第二次世界大戦以降、南洋パラオ島で植林されてきたものです。ここ十数年ほどでしょうか、成長した木の伐採が始まり、家具や楽器用材として北米市場を中心に供給されています。色が淡く、比重が低いのが特徴です。
写真の材は樹経などから判断して樹齢数十年といったところでしょうか。マホガニー類は比較的成長が早いので(環境の整ったプランテーションなら尚更)、短期間でゼニになると言われます。この国では防風林用として持ち込まれた種ないし苗が広まり育てられたのではないかと推測します。色は薄いのですが、木目は南フロリダ産あたりのそれに近い雰囲気を持っています。
ハワイは外来樹種の宝庫(この木なんの木のモンキーポッドは最大規模)ですが、マホガニー材も前世紀から植樹されていたようです。ハワイ産の特徴はコアやマンゴーに見られるような細かいカーリー杢が出やすいことです。後天的カーリー要因として強風の影響は間違いなくありそうです。材の色は薄いですが、滑らかな木肌感はしっかり血筋を受け継いでいます。余談ですが、ハワイ固有種のAcacia koa(=ハワイアン・コア)は戦前頃まで“ハワイアン・マホガニー”とも呼ばれていました。そう呼んだ方がとおりが良かったのでしょう。今後は、堂々とハワイアン・マホガニーとしてこの材が流通するのではないかと思います。
色は明るく比重も低いのですが、しっかりとした堅さを感じます。ややうねるような木目にキューバン・マホガニーの遺伝子を感じます。
ウヰスキーのつまみのようですが、これがキューバン・マホガニーの種です。“スモールリーフ”マホガニーとして販売されています。自宅で何度か発芽トライしましたがダメでした。うまく芽が出て木に育ってくれれば何十年後かには地産地消も夢ではないのですが、未だ道遠しです。
これらの新興材を往年の本場産と比較するのはフェアじゃありません。両者には百年単位の時代差があり、しかも数千キロ離れた土地、異なる生育環境で育ったわけですから、同じモノと考える方が不自然ですからね。あえて同一視せずに、個体それぞれの特性、資質を判断し、それに適した使用方法を考えるのが得策かと思います。私の立ち位置としては、これら新興材が「ニュー・キューバン・マホガニー」などと呼ばれないうちに、何かナウい商業流通名をつけてやることぐらいでしょうか。キューバン(9番)に対抗して、ジュウキューバン(19番)とか、仮性キューバンとか……。やっぱダメです、私が考えるとこの程度です。どなたか素敵な名前をつけてやってください。
ここからは、最近完成したあるキューバン・マホガニー・ギターの話です。その主役は今年で創業190年を迎える国内最古楽器店。そこには国境、時代を超えた歴史的感動秘話(?)がありました。その店とは、大阪の三木楽器。世に表明している中では最古の歴史を持つこの店が「河内屋佐助商店」として産声をあげたのは江戸後期1825年になります。当初は書籍業として商いを起こされ、後に楽器商へと変遷されます。心斎橋本店以外にも梅田、アメリカ村店など大阪の一等地に店舗があるだけでなく、音楽関連事業を含めた一大ミュージック・カンパニーとしてごっつ儲けておられます。筆者の遠い記憶の中では、心斎橋本店で、日曜の午後、エレクトーンのデモ演奏がアーケード商店街によく響いていました。お姉さんの足下で気持ちよさそうに踏まれているペダルをうらやましく感じたことを昨日のことのように思い出します。
1825年と言えば、欧州ではマホガニー・ゴールデン・エイジのほぼ終焉期。そんな江戸徳川時代に、このギターにまつわる物語はすでに始まっていたようです。それは偶然、突然、それ〜とも必然の流れを感じるごちそうさん的な展開を歩みました。以下、小芝居にてかいつまんでご紹介しますと……。
【登場人物】
浪速の国・「河内屋佐助商店」大番頭 I
筑後の国・「明日鳥明日工房」首領 K
「良木屋」こと筆者 M
〜時は、風薫る平成二十六年皐月、場所は錦糸町・江戸手工弦楽器祭会場に於いて。
K:おぅ、良木屋、元気そうじゃねえか!
M:へぇ、おかげさまで何とか生きながらえておりやす。ちょうど今、K旦那だけにお見せしたい極上舶来物が入ってきやした。
K:またまたおぬしの口八丁か、まぁええ、直ぐ持って来い、見てやる。
M:へぇ、こちらでごいす、元はなんでも二百年以上前の英吉利テーブルで、その板を四枚におろしてみやした。
K:おぅ、赤黒いええ色しちょる、堅くて重いのもわしの好みじゃ、で全部でいくらじゃ?
M:◎▼◇万円になりやす。家具一丁捌いてこれしかとれませんでしたよってに……。
K:そうか、試してみたいところだが、考えもんの値段じゃのう。
〜ちょうどその時、二人の前を通りがかったのがI氏。
I:何を二人で悪巧みしとるんじゃ、わしにも魂胆を聞かせろ!
K:いやいや、I旦那、決してそんな悪巧みではございません。貴店にお納めする楽器素材の相談をしておったところです。
I:そうか、それは失敬。で、良いブツは入っておるのか。
K:はぁ、この良木屋曰く、二百年前の元テーブル舶来材とやらを薦めてきました。
I:なにぃ、二百年とぬかしおったか! うちは来年で店を出してから百九十年を迎える、うちの店の原点懐古のためにあるような材じゃないか! 作ってみなはれ、うちの歴史とその材にふさわしい楽器を!!!
……ということで即一本締め、歴史感動ギター・プロジェクトは始まりました(ほぼ実話)。この楽器のボディ・サイド&バック材のもとになったのは、実況にもあったとおり、18世紀後半〜19世紀初頭製作と思しき英国アンティーク・テーブルのトップ板。テーブル自体は大変立派なサイズなのですが、その裏側にはパーツ穴やリペア痕、加えて楽器材に適さない木目も含まれており、それらを避けるとギター材はサイド&バックとしてわずか2セットしか取ることができませんでした。
4枚(2セット分)におろされたテーブル・トップは、早速九州は久留米のアストリアス工房に運ばれます。同工房はクラシック・ギター工房「名工(メイコー)」として1960年代からその名を馳せていましたが、現在ではご存知のとおり、アコースティック・ギターやウクレレまで最高品質レベルの楽器を多め(大量ではなく)に製造されています。今回、この材のポテンシャルを最大限に引き出すべく、K首領をトップとする開発スペシャル・チームを結成、それぞれの工程を専門熟練テクニシャン達の手に委ねることにより、家具からギターへの華麗なる変貌を遂げることができました。
ボディ・トップはジャーマン・スプルース、ネックはアフリカン・マホガニー、指板&ブリッジはエボニーといったオーセンティック路線最強布陣で臨みました。深い赤みを帯びたキューバン・マホガニーの木目は流れるようにうねり、その木肌は緻密で繊細、驚くほど滑らかです。このような材を見ると、マホガニーが“世界三大銘木”と呼ばれている理由がお分かりいただけるかと思います。
音は下の動画でお確かめくださいまし。
本器は三木楽器創業190周年を記念して5月2日(土)、3日(日)に開催される「創業祭」にてお披露目されます。詳しくは下記までお問い合わせください(感謝セール後にデジマートに登録されるはず)。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。