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  • “アコースティック×エレクトロニック”の進化形 ハイブリッド・ドラム最前線!

熊谷徳明 meets Hybrid Drums featuring Roland

Roland

  • 出演:熊谷徳明[TRIX] ディレクション:大槻寛(エックスデザイン) 録音・撮影:森田良紀 動画撮影:編集部 スチール撮影:八島崇 動画編集:ちばらきテレビジョン 解説原稿:西本勲 協力:ローランド

とどまることなく進化を続ける電子ドラム。“生のドラム”と違和感なく溶け込むアコースティック楽器のサウンドが搭載された音源モジュールも登場しており、パーカッション・パッドやスネア/キック/バー・トリガー・パッドなどをアコースティック・ドラムに組み込む“ハイブリッド・セッティング”が着実にその数を増やしつつある。ここでは『リズム&ドラム・マガジン2015年4月号』掲載の特集「“アコースティック×エレクトロニック”の進化形 ハイブリッド・ドラム最前線!」と連動し、ローランドのエレクトロニック・ドラム製品と初心者でも楽しめるハイブリッド・ドラムのセッティング例を紹介。TRIXの熊谷徳明氏によるデモ演奏動画も交えてその使用感について迫っていく。

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ハイブリッド・ドラム セッティング例

Setting#1 バー・トリガー・パッドを使って“音色”を加える

Trigger Module TM-2 & Bar Trigger Pad BT-1

使用機材:[音源モジュール] TM-2 、[バー・トリガー・パッド] BT-1(×4)

Setting Point
 バー・トリガー・パッドを左右に4つ配したセッティング。“パッド”というとハンド・クラップやカウベルといったパーカッション系、または“飛び道具”的なサウンドをアサインして使われるイメージが強いかもしれないが、ここでは、リハーサル・スタジオのドラム・セットでは通常用意されていないスプラッシュ・シンバルを足す使い方や、EDM系のエレクトロニック・サウンド、ツーバスを踏んでいるときにクローズド・ハイハットを鳴らす例を紹介。近年はライヴPAではヌケてこなかったクローズド・リム・ショットなどの音を“クリアに”聴かせるために使うドラマーも多い。動画では10種類の音色を紹介。

Setting#2 “3点”のエレクトロニック楽器でビートを作る

Trigger Module TM-2 & Bar Trigger Pad BT-1 & V-Pad PD-128S-BC & Kick Trigger Pedal KT-10

使用機材:[音源モジュール]TM-2、[バー・トリガー・パッド]BT-1、[スネア・パッド]PD-128S-BC、[キック・トリガー・ペダル]KT-10

Setting Point
 バー・トリガー・パッドに加え、スネア・パッドとキック・トリガー・ペダルを足したセッティング。エレクトロニック・パッドの3点でTR-909やエレクトロニック・サウンドによる基本ビートを作ることで、ガラリと楽曲の雰囲気を変えることができる。もちろんアコースティックとエレクトロニックの両方を同時に使う"ハイブリッド"なアプローチも可能だ。動画では、エレクトロニック・サウンドにマッチする楽曲に合わせてアプローチしてもらった。

Setting#3 トリガーでアコースティック・ドラムの音色を“強化する”

Trigger Module TM-2 & Kick Trigger RT-30K & Dual Trigger RT-30HR & Single Trigger RT-30H

使用機材:[音源モジュール]TM-2、[ドラム・トリガー]RT-30K(バス・ドラム用)、RT-30HR(スネア・ドラム用)、RT-30H(タム用)

Setting Point
 ドラム・トリガー=RT-30シリーズをバス・ドラム、スネア・ドラム、フロア・タムに装着したセッティング。ドラム・トリガーというと、メタル系ジャンルでバス・ドラムのアタック強化に使うイメージが強い人もいるかもしれないが、近年はロック/ポップスの現場でドラムの生音を補強するサウンド調整の目的で導入されることも多い。PAエンジニアに頼らずドラマーが鳴らしたいサウンドを演奏することができるのも利点の一つ。


“How to”Hybrid Drums 〜ハイブリッド・ドラムを体験してみよう〜

01. ハイブリッド・ドラムとは? 〜アコースティック+エレクトロニックの組み合わせ=ハイブリッド・ドラム〜

 ハイブリッドという言葉は、何かと何かを組み合わせて新しい機能や価値を生み出したものに対して使われる。ガソリンと電気の両方で動く自動車=ハイブリッド・カーはその代表例だ。

 では、ハイブリッド・ドラムは何と何を組み合わせたものだろうか。ごく簡単に言うと、アコースティック・ドラムの音と、音源モジュールのサウンドである。前者は、普通にドラムを叩いたそのままの音。後者は、ドラムを叩いた振動をドラム・トリガーで拾って音源モジュールを鳴らす方法(下図A)と、専用のパッドを叩いて鳴らす方法(B)の2つがある。音源モジュールから鳴る音は、エレクトロニック・サウンドからアコースティック・サウンドまで幅広いバリエーションがある。

 ここで気をつけたいのが、ドラムはアコースティック楽器であるのに対し、音源モジュールはエレキ・ギターやキーボードなどと同じライン接続の楽器だということ。ハイブリッド・ドラムを導入するときは、それら両方の音をバランス良くミックスすることが重要なポイントになることも覚えておこう。

02. 活用方法 〜新たなサウンドの追加と、アコースティック・ドラム音色の補強〜

 ハイブリッド・ドラムでできることは大きく2つある。ドラム・セットへの音色の追加と、アコースティック・ドラム音色の補強だ。

 サウンドの追加は、ドラム・セットにパーツを増やすのと同じ考え方だが、ハイブリッド・ドラムなら音色のバリエーションをいくつも手に入れることができる。曲の一部にピンポイントで鳴らしたい音があったり、ドラム・セットに組み込むのが難しい楽器の音を鳴らしたい場合などにはピッタリだ。ドラム・トリガーを使うとアコースティック・ドラムの音も一緒に鳴るので、音色を追加するという点で考えるとパッドを使う方がスマートだろう。

 一方、ドラム・トリガーならではのアプローチと言えるのがアコースティック音色の補強。CDやライヴで聴けるドラムの音は、マイクで拾った音に何らかの加工を施したものが多い。そこで、あらかじめ加工された音を外部音源で鳴らしてアコースティック・ドラムの音に加え、実際に叩いた音だけでは表現しづらい質感を得たり、時間をかけて作り込んだサウンドを再現するのがドラム・トリガーの目的の1つである。メタル系ドラマーがバス・ドラムに硬質なアタック音を加えるといった例が代表的だが、そうした増強だけでなく、響きや倍音成分などを足すことで、ドラム・サウンドのキャラクターを変えることもできる。

 パッドやドラム・トリガーでフレーズを鳴らす手法にも注目したい。バンドでちょっとした打ち込みのフレーズをドラマーが鳴らしたり、ドラム・ソロにリズム・ループやコード・リフ、メロディを組み込むなど、さまざまな活用法が考えられる。

03. システムの導入例 〜導入するのはとても簡単。用途に応じてシステム・アップも可能〜


ハイブリッド・ドラムを体験できるローランド製品

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Roland TM-2

 最大4つのパッドやドラム・トリガーが接続できる小型軽量の音源モジュール。電子楽器を初めて使う人でも扱いやすいシンプルな操作性が魅力。162音色を内蔵し、SDカードでサウンドの追加も可能。電池駆動にも対応。

価格:オープン・プライス(市場実勢価格:20,000円前後)

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Roland RT-30HR/RT-30H/RT-30K

 スネア、タム、バス・ドラムそれぞれに特化したドラム・トリガー。簡単に取りつけ可能で、持ち運び時に本体を保護する専用ケースが付属。スネア用のRT-30HRはヘッドとリムを別々にトリガー可能。

価格:オープン・プライス(市場実勢価格:7,500円前後)

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Roland BT-1

 スネア/タムのフープや、シンバル・スタンドのロッドなどに取りつけることができるアーチ型のパッド。省スペース性に優れたコンパクト設計で、ドラム・セットの隙間に組み込んで使うのにぴったりだ。

価格:7,600円(税別)

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Roland KT-10

 フット・ペダルから踏み替えても違和感のない自然な踏み心地を特徴とする、トリガー・パッド一体型キック・ペダル。ビーターがない構造のため、フット・ペダルの横やフロア・タムの下など、わずかなスペースにセット可能。

価格:オープン・プライス(市場実勢価格:20,000円前後)

Acoustic Drum Set

 今回使用したアコースティック・ドラムは、TRIXでも活躍している熊谷の愛器=TAMAのスタークラシック・メイプル。特注のレッドスパークル・フェードが美しい。サイズは22"×17"BD10"×7"TT12"×7.5"TT16"×13"TT。スネア・ドラムはS.L.P.シリーズのヴィンテージ・スティール(14"×5.5")。シンバルはすべてマイネルで、奏者左手側より、13"Mシリーズ・ミディアム・ハイハット、16"バイザンス・シン・クラッシュ、19"ライド(プロトタイプ)、18"バイザンス・ヴィンテージ・シリーズ・トラッシュ・クラッシュ。

Interview 〜“最前線”のエレクトロニック楽器はとてつもなく進化している〜

今回熊谷さんに試してもらったハイブリッド・ドラムは、エレクトロニック・パッドを組み込んだもの、ドラム・トリガーを装着したものとありましたが、それぞれどんなことを感じましたか?
やっぱりアコースティック・ドラムではどうしても再現できないサウンドを加えたり、自分のイメージしている音へより近づけることができるので、叩いているとただ音色が変わるだけではなくて、ノリも変わってくるんですよね。それはもちろん、アコースティック・ドラム本来の音で叩くことが悪いとかではなくて、例えば重厚でエネルギッシュな音をトリガーすると、(トリガーが)“ON”になった途端、ビートがすごく重くなるんです。音色から触発されて自分のタイムが如実に変わってくる。これはドラマーとして非常に大きいことです。楽曲にサウンドが合っていないと自分の感情が入りづらいということがよくあります。

音楽に呼ばれる音があるから使うと。
そう、それが重要なのです。音色で自分の引き出しにはなかったフレーズが出てくることもありますし、より音楽に合った音で演奏できるからストレスもなく心地良いですね。

エレクトロニック・パッドの叩いた感触はいかがでした? やはりタッチも変わるのかと……
レスポンスが良く、クイックに音が鳴ってくれるので特にストレスは感じませんでしたね。

ドラム・トリガーは、音色追加だけでなく、生音の音の補強という使い方が面白かったです。
ドラム・トリガーは音色追加音の補強、どちらにも使える利点がありますよね。これまではメタル・バンドがアタックの強化で使うイメージが強かったですが、音の立ち上がりや鳴りの悪いタイコに対してのプラス・アルファの要素が得られるので、あらゆる可能性や使い方が考えられると思います。今回試したRT-30シリーズやTM-2を使ってみて、強く感じることですね。

確かに最前線のドラム・トリガーやエレクトロニック・パッドをがっちりと追いかけている人はまだまだ少ないのかもしれないですね。
そうなんですよ。昔……まだ出たばかりのドラム・トリガーってすごく誤作動が多かったんです。(トリガーを)シェルや打面ヘッドに装着させても、うまくいかないことが多くて。ヘッドが極端にミュートされてしまったり、消化不良みたいなことは多々あったと思います。それに対して近年のトリガーは、プレス・ロールさえしっかりと拾ってくれますからね(笑)。そのくらいセンシティヴに反応するんですよ。TRIXのライヴで初めてローランドのドラム・トリガーを使ったのですけど、そのときはウソ!?”と思うくらいに良かったです。飛躍的な進歩を感じると共にその可能性にワクワクしましたよ。特に8”10”のタムが良かったですね。(タムは)音の調整に一番時間がかるんですよ。会場の環境に一番左右されるタイコなので安定した音が出しづらいんです。ふくよかさは何とかキープできても、アタックは会場の環境次第ではなかなかうまくいかない。そんなときにトリガーでアタックを補強するとバンド・サウンドに埋もれずばっちりとヌケてくるし、音作りの時間短縮にもなって。これはものすごくうれしいことなのです。使う方向性がわかっていればものすごく実用性があると思います。

コンパクトなので持ち運びに苦労することはないでしょうし、それこそドラム・トリガーをリハーサル・スタジオに持っていくだけでも、音の世界観はかなり変わるのではないでしょうか?
そうですね。バスドラのドンとスネアのパンがくっきり定まるだけでも喜びに直結すると思います(笑)。あとはアコースティックのレスポンスにどれだけ近づけるかってところが重要だと思うのですけど、今はとてつもなく近づいていますよ。そりゃロールもしたくなります(笑)。

今回試してみて、こんなふうに使ってみたくなったなどありましたら教えてください。
今までは完全に飛び道具として使っていて、生では出せない音を駆使して10分くらいのドラム・ソロをやったのですが、今回音の補強はインパクトがあって、もっとそっちの方向にも使ってみたくなりましたね。音色追加音の補強どちらにも使っていくのが理想かな。

ここで紹介するのはシンプルなセッティングなのでハイブリッド・ドラムを経験したことのない方にもかなり入りやすいのではないでしょうか?
非常に使いやすいですし、価格帯がリーズナブルなのも良いんですよね。予算5万でもかなり揃えられますし。というか、こんなセンシティヴなものがそんな価格で手に入ることが信じられない(笑)。でも今回いろいろ試したことは僕もあまり知らなかったですし、プロ・ドラマーにすらまだ広く認知されていない世界をぜひ体感してほしいですね。


こんなハイブリッド・ドラムも!

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TAMA×ROLAND

VK46CBRH-MGD/WSP Silverstar "Cocktail-JAM" Hybrid Kit

価格:104,000円(税別) ※限定50セット(MGD/WSP各25セット)

 Silverstarのシェルを用いたタマのカクテル・ドラムに、トリガー2個とTM-2をセットにした製品。省スペースで、手軽にハイブリッド・サウンドを体験できる。

メーカー特設サイトへはこちらから!


リズム&ドラム・マガジン2015年4月号で詳細をチェック! 

 本記事はリットーミュージック刊『リズム&ドラム・マガジン2015年4月号』の特集「“アコースティック×エレクトロニック”の進化形ハイブリッド・ドラム最前線!」の中でより詳しく紹介されています。ここでは掲載されていない機材やセッティング・パターン、さらに山木秀夫、真矢などトップ・アーティストのコメントを交えた解説も掲載されているので是非チェックしてみて下さい。

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製品情報

プロフィール

熊谷徳明
くまがいのりあき:1970年生まれ。90年にバークリー音楽大学に入学。92年の帰国後、日本を代表するフュージョン・バンド、CASIOPEAに加入、6枚のCDを発表。その後“JAKARTA JAK JAZZ’94”、“NORTH SEA JAZZ FESTIVAL”への出演や、日本人初となる韓国単独ライヴを行うなど、海外でもそのドラミングの評価は高い。2004年にTRIXを結成し、リーダーとして大半の曲を作曲。

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