Positive Grid Spark LIVE meets Toshiki Soejima & Naho Kimama
- 2024/12/13
木との出会いはいつでも一期一会。通り過ぎたあとに振り返っても、その姿はもはや存在しません。汎用材ならまだしも、木フェチ同志が探しているものは皆同じ。つまり出会った時に自分のものにしておかなければ、また今度というのはありえないのです。限りある天然資源、そして同じものは二つとないその神々しい杢、縞、色。今回は、今私の前に現れたら即決で必ず欲しい材をいくつか紹介させていただきます。
欲しいと思ってもなかなか入手しづらいレア、希少、珍樹と呼ばれる材にはいくつかタイプがあります。まず、かつては豊富な資源があったにもかかわらず、乱伐やその後の環境の変化等によりほぼ絶滅してしまったもの。二つ目には資源こそあるものの、その永続性が危惧されるあまり流通規制の対象になっているもの。そして三つ目には、生育範囲が限られており、資源自体がもともと少ないものです。これらは当然、絶対供給量が限られており、市場に出てきたとしても高価なものになりがちですが、高価なだけで、お金さえ出せばまだまだ買えるものはレア材とは呼びたくありません。お金を出しても手に入らないものこそ本質的なレア材のような気がします。
話は逸れますが、楽器材として入手しづらくとも、日常生活の中ではよく見かける材も存在します。北海道やロシアなどに生育する赤エゾ松です。この日本が誇るレッド・スプルース、楽器材としてはピアノやギターの響板材として非常に高い評価を得ていることはご存知のとおりです。しかし残念ながら市場にはほとんど出てこない現実があります。ところが、コンビニ弁当の割り箸や爪楊枝はこの材(間伐材ですが)だったりします。100円均一ショップの100膳入り割り箸パックに「原材料:赤蝦夷松」と記されていて大変驚いたこともありました。他にも工事現場の足場材に使われるなど、懐の深さも持っています。もちろん、このような現象はサイズや品質の関係で用途が分かれるだけなのですが、どうしても違和感というか空虚感を感じてしまいます。これは極端な例ですが、実際に消費されるフィールドの違いによっても、かたやお宝材、そなた汎用材などという扱い格差も存在するのではないかと思います。
この種はマホガニー族のプロフィールを紹介する時にキューバン・マホガニーやホンジュラス・マホガニーと並んで必ず出てくる名前です。しかし他の2種に比べて、いつ頃、何に使われて、現在資源があるのかないのか、そして、そもそもどのようなお姿なのか、一般的な情報がほとんどありません。私が知る限り、唯一、平井伸二著『木の事典・第四集19巻』かなえ書房刊の中にこう記されていました。
「第3種メキシコマホガニー(Swietenia humilis ZUCCARINI・スィーテニア・フミリス)、英名はMexican mahoganyで、メキシコからコスタリカまでの太平洋側に分布し木材としては重要でない」
ジ ュ ウ ヨ ウ デ ナ イ ・・・・。昭和の東大名誉教授にかかると、無残、無慈悲に一言で斬られています。実は私もこの材を手にしたことはかつて一度だけ、それも長さ600mm程度のプランク材でした。比較する同定見本がないので、それが本物かどうかさえ今でもわかりません。元所有者であるコレクターさんの言葉を信用するしかないのが実情でした。かすかな記憶をたどると、裸材現物はオールド・マホガニーらしく赤いのですが、とても軽いのです。そしてマホガニー特有の導管ポアやリボン様の杢はなく、ノッペリとしていて、まるでこりゃ針葉樹だなと思いました。スライスして何台分かのウクレレ・トップ材となりましたが、出来上がった楽器を見ても、それはやはり赤い針葉樹でした。でもサウンドにはしっかりマホガニーの甘さが乗っていました。もし今度逢えるなら、これでアコースティック・ギター作って欲しいですね。サイド&バックは重厚なキューバン、サウンドボードには軽量のメキシカンなんていかがでしょうか。私にとっては、木材としてとても重要なメキシカン・マホガニー、“今でも逢いたい度マックス”な存在です。
別名チリ杉、その名のとおり南米チリなどに生育する木です。スギと呼ばれていますが、ウエスタン・レッド・シダーなどと同じでスギではなくヒノキの仲間のようです。この材も、他の多くのレア材同様、しっかりとワシントン条約で規制されています。ある程度大きなサイズは非常に入手しづらく、加えて、現存する材はほとんどが板目製材されています。個人的にチリといえば安いのに結構イケるワインか、団体職員に貢がせるだけ貢がせ、帰国後に豪邸を建てた悪女を思い出しますが、アルゼンチンとの違いが今ひとつわかりません。このチリ杉、その特徴は赤い木肌と板目に現れる細かく複雑な杢目、懐かしいような精油の香りなどでしょうか。私がかつて入手したものは屋久杉を赤くしたような雰囲気でした。実際に屋久杉の代替材として和室腰板などに使われた時代もあったようです。目の詰んだ柾目があれば、もっと欲しい材です。
この材については以前、ポスト・ブラジリアン特集の際、国産材代表として登場してもらいました。とはいえこの木、楽器に使えるようなサイズは全く流通していません。それでも、私にとっては“ぜひ楽器にしてみたい材”第1位に推さざるを得ない存在です。和楽器琵琶の胴材には桑が使われるなどと聞くと、ぜひエレキ・ボディなどに試してみたいところです。伊豆諸島には御蔵島産の島桑、八丈島産の八丈桑もあります。これらの桑材と比較して、この小笠原桑は図抜けて色黒で重厚な質感です。土壌のタンニン成分が反応してそのような色になるらしいのですが、現物を見ると同じ桑類とは思えない深みがあります。「なんでも鑑定団」に出てきたワンピース天板の座卓が数百万したのも納得でした。島にはこの材で作ったインテリア、アクセサリー作品を展示されているペンションもあるようです。何しろ世界遺産の島ですので山中での不審行動は禁物ですが、ぜひ一度訪れたいものです。
この材はつい最近まで普通に流通していた材です。ご存知、いわゆる本真黒(ほんまぐろ)エボニーなのですが、その黒さは、硯で擦れば書き初めができるのではないかと思わせるほどの腹黒でした。数年前の某社への某事件以降、この種はすっかり市場から消えてしまいました。ヨーロッパなどではまだまだ流通在庫があるようなのですが、特に国際間の取引は極力避けているように感じます。近い将来、執拗に色黒にこだわると真黒エボニーという選択肢がなくなってしまうかもしれません。少しくらいブチになっててもいいじゃないですか!どこかの国のお土産雑貨は靴墨でカバー?しているじゃないですか!と建前では思っても、やっぱりあの黒さは絶対に忘れることができないのが悩ましいところですね。ところで、マダガスカル島はアフリカ大陸の東出島のような位置にありますが、実は白亜紀後期に今のインド半島から別れた島らしいと聞きました。そう言われてみれば、西アフリカのそれよりセイロン(スリランカ)あたりのエボニーに似ている感じがしないでもありません。ひょっとするとマダガスカル・ローズもインド・ローズの亜流なのかもしれません(実際、他の動植物でも類似が多くみられるそうです)。
この名前、初めて聞く方がほとんどかと思います。私もつい先日まで知りませんでした、とある方から捜索願いがくるまでは。与えられた情報は「グアム島にあって硬くて重くて水に沈む木らしい」ということだけでした。調べる前は恐らく産地からしてテリハボク(照葉木)の一種ではないかと推測しました。テリハボクは潮害や風に強く防風林などとして南洋に広く植林分布しており、日本でもホームセンターなどで観葉植物としてよく売られています。マダガスカル原産で、ハワイではカマニ、小笠原ではタマナ、沖縄ではヤラウと呼ばれている木のことです。しかし、ネットでイフィルの現物写真を見つけて比較したのですが、どうみてもテリハボクとは雰囲気が違います。前述の小笠原桑にも匹敵するような妖怪人間ベム顔色なのです。それにハワイのカマニは水に沈むほど重くなかったような……。調べ進むと、どうやらグアムの天然記念物?に指定されている木であることがわかりました。戦前には高級建材として重用されたそうですが、今ではもちろん伐採禁止のようです。そんなもん、絶対に材で輸出入できるわけないですよね。ということで、調達まではとても行きつけなかったのですが、グアムに行く機会があればぜひ逢ってみたい木であること間違いありません。現地では彫像やアクセサリー細工用に使っているようですので、資源もないわけではなさそうです。どなたかグアムによく行かれる方がいらっしゃいましたら、お土産によろしく材No.1です。
オーストラリアの南側に位置するタスマニア島。この島は上質ウールの世界的生産地であり、珍獣の生息地としても知られ、そして固有ともいうべき珍樹資源を多く有する島でもあります。その中でもこのヒューオン・パインは成長が異常に遅いのが特徴で、一説によると100年で12cmしか成長しないとか。パインという呼び名ですが、いわゆる松の類ではなく槇(マキ)の仲間のようです。ご多分にもれず、太古から原生していた木資源を移住者が建材や船舶材として浪費した結果、減少の一途をたどり、何年も前から保護対象になっています。よって市場に供給されるのは、わずかに残された倒木、沈木、流木ないしは土埋木だけです。この材の特徴は、その成長の遅さゆえ年輪目幅の異常な狭さ、長命樹に共通する油分の多さ、そして板目製材した時に現れる不思議ちゃん杢いろいろ。楽器材としては地元アコギ製作家を中心にサウンドボードとして早くから採用されていますが、世界的な知名度はまだまだです。私としては前回入手してからずいぶん日が経ってしまったので、“も〜1回 もう1回”ってな感じでミスチル風におかわりしたい材です。
文字通りヨーロッパから西アジアにかけて分布するウォルナットです。産地によってイングリッシュ、フレンチ、イタリアン、ペルシャ等の苗字がつきますが、これはその中でも杢のゴージャスさで群を抜くターキッシュ(トルコ)・ウォルナットです。家具業界では1660年〜1720年あたりを“ウォルナットの時代”と呼び、後年にわたって三大銘木の名を欲しいままにしていたのですが、それはこのヨーロピアン種のことでしょう。もちろん、今でも入手可能な材ですが、楽器に使えるようなグレード、サイズはなかなかお目にかかれません。真正キューバン・マホガニー同様、家具からのリクレイムが一番の近道かもしれません。
今回は消えゆく素材、未知の素材を特集してしまったゆえ、デジマート検索では何も出てきません。近い将来、それらの素材を使った楽器が検索にあがるような環境になってくれればいいのになぁと強く願いつつ、今回はFINEWOODというショップのページでもご覧下さい。
次号は2月16日(月)更新予定、ネタ資源もやや枯渇気味ですが……。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。