「買取」とは、その名の通り手持ちの楽器を楽器店に買い取ってもらうこと。楽器売却における最もメジャーな取引方法だ。ここではそんな買取について、現在多くの楽器店で用意されている3種類のサービス「店頭買取」「宅配買取」「出張買取」をひとつずつ紹介していこう。本項では楽器店に直接楽器を持ち込み、査定＆買取をする「店頭買取」について見ていく。
店頭買取は楽器を直接お店に持ち込んで査定に出す買取サービス。ひと昔前まで楽器買取と言えばこの方法しかなく、現在でも最も多く利用されているサービスだろう。実際に足を使う点では宅配や出張買取と比べて手間がかかるものの、店頭買取は「すぐにお金が手に入る」という話の早さでは他の買取サービスより抜きんでているのが特徴。例えば欲しい楽器が市場に出てきたので急ぎでお金を工面したい、そんなシチュエーションでは店頭買取がオススメで、大抵の場合は持って行ってその場で現金を受け取ることができる。
また、店頭ではさまざまな特典がつくことが多いというメリットもある。お店によっては店頭買取限定でクーポン券を配布するところもあれば、下取を前提とした特典サービスを行なっているところも多い。楽器店の店員さんと直接顔を合わせて話をするので、いろいろな相談がしやすいというのも他のサービスにはない長所だ。
そんな店頭買取について、実際の流れをレポートしていこう。今回取材ご協力いただいたイシバシ楽器渋谷店の査定スタッフ、大橋さんへのインタビューも掲載しているので併せて参考にしていただきたい。
今回の買取希望楽器。マルティネスのエレガットをメインとボスのエフェクター2機種も持ち込んだ。
店頭買取では基本的にアポなしでOK。思い立ったら楽器を持ってお店へ行くだけで査定に対応してくれる。しかし、お店によっては引き取ってほしい楽器を取り扱い対象としていないケースもあるので、心配な場合は1本電話を入れておくと良いかもしれない。今回はイシバシ楽器渋谷店にて買取をお願いした。
まずはお店の買取カウンターへ楽器を持ち込む。
今回、取材にご協力いただいたイシバシ楽器渋谷店スタッフの大橋さん。
買取カウンターにて査定希望の楽器を提出し、預かり証に署名をする。あとはスタッフが査定を行なってくれるので、こちらは適宜時間をつぶせば良い。お店に陳列している楽器を見たり試奏しても良いし、店外へ出ても査定終了時にお店が電話をくれるので安心だ。
3弦ペグが曲がっていることをあらかじめお伝えした。お店で直せる場合は問題ないが、直せない場合は値が下がることもあるという。
楽器を提出したらひとまずは預かり証にサインを入れる。
査定中は店内に陳列されている楽器を見ても良し、外へ出ても査定が終わり次第連絡がもらえる。
ネックの状態を注意深く観察する大橋さん。
エフェクターは中身に異常がないかもチェックされる。
品番から生産国など詳細にチェック。
査定は依頼点数にもよるが、通常は30分ほどで終わるだろう。査定が終わるとお店から呼び出され、再度カウンターへ出向くと買取価格が伝えられる。ここで納得がいけばそのまま取引成立。希望価格に届かない場合、交渉してみるのも良いだろう。ちなみに今回の場合、やはりペグの曲がっている点などがネックとなり、価格アップには至らなかった。しかしながら「買い替えキャンペーン」の利用を提案いただいた。「買い替え」とは要するに「下取」だが、イシバシ楽器では楽器売買に不慣れな人にも伝わるように「買い替え」という言葉を使っているとのこと。訪問時はキャンペーン中で、もし店内にある他の楽器を購入するという前提のもとであれば、買取価格を10%上げてくれるというサービスになっていた。筆者はここ最近、ワイゼンボーン・タイプかスクエア・ネックのドブロを探していたが、先の査定中に店内を見回したものの残念ながらこの手の楽器はなかったので、利用はしなかった。もともと当初の値に不満があったわけでもないので、買取の領収書にサインをして、取引成立とさせていただいた。お店にもよるものの、多くの楽器店では店頭買取で取引が成立した場合、その場で現金がもらえる。探していた楽器が市場に出て、急ぎでお金を工面したい、そんな時は有用な買取サービスなのである。
査定結果を受けて、試しにギターの値段がもう少し高くならないか交渉をしてみた。
……が、ペグの問題もあり当初の値より上げるのは難しいとのこと。代わりに下取のキャンペーンをご紹介いただく。
結局、下取はせずに当初の価格で買い取っていただくことにした。身分証明書を提示し領収書にサインをすれば取引成立。
代金はその日、その場で受け取ることができる。これは店頭買取ならではのメリットだ。
──イシバシ楽器渋谷店では月にどれくらいの楽器を買取しているんですか？
楽器・機材合わせておおよそ1,000くらいになります。一番多いのがエフェクターで弦楽器をお持ちになる方も非常に多いです。
──楽器を手放すという方々の中で一番多い理由はどんなものでしょう？
使わなくなったからというのが一番多いですけど、うちに来られるお客様では下取を目的にされている方もたくさんいらっしゃいます。当店はイシバシ系列のフラッグシップ・ショップになりますから在庫も多いです。ですから、目当ての楽器を見つけられて、現在お持ちの楽器をその購入費用に当てるというパターンですね。
──下取希望の場合でも査定の予約などは必要ないですか？
新たに購入したい楽器をキープしておく必要はあるかもしれませんが、査定自体は買取でも下取でも予約は必要ありません。楽器をお持ち込みいただければその場で査定を開始致します。
──大橋さんは買取スタッフとして日々楽器の査定をされていると思いますが、楽器の価値を見極めるのに重点的に見るポイントはどこですか？
最も見るのは「演奏上に支障がないか」です。音が出るか出ないかはもちろん、ギターなどの場合ではネックの反りがないか、ガリは出ないかもチェックさせていただきます。実用面で問題のないものかというのは一番大切なポイントですから。ただし、当社では熟練した専属のリペア・スタッフが多く在籍するリペア・センターがございます。お客様にお売りいただいた楽器にメインテナンスを施し、ベストなコンディションで新しいお客様へ販売できるようにしております。ですので、多少のネックの反りやガリがあったとしても「直る」と判断できる症状に関しては極力、査定金額に影響を及ぼさないようにしております。あとは傷の有無も一応チェックしますが、傷は使っていれば当然ついてしまうものなので、あまり神経質には見ませんが（笑）。
──これから楽器を売ろうという読者のために、高い値をつけるための裏ワザのようなものはありませんか？
裏ワザとは言えませんが、たまにギターやベースをお持ちいただく時に弦をはずした状態でお持ちになられる方がいらっしゃるのですが、僕たち査定する側からしますと、ギターやベースは弦を張った状態でないとネックの状態が確認できないんです。ですから、弦は汚れていても錆びていても構いませんから、張った状態のままお持ちいただいた方が良いですね。あとは楽器をキレイな状態にして持って来られるとやはり査定のポイントも高くなります。それとエフェクター類は箱や説明書が残っているとそれだけで値が少し上がりますし、その他の楽器でもケースの有無はひとつのポイントになります。ケースは捨ててしまう方もいらっしゃいますけど、とっておいた方が良いですね。
──中には買い取れない楽器というのもあると思います。そうした場合はどのような対応をなされていますか？
基本的にはご了解が得られればお引き取りをさせていただいております。楽器として機能しなくなった品でも、そこで使われているパーツを探されているお客様もいらっしゃいますので、そういう方々にリユースしていただくようにしています。商品によってはお引き取りできない場合もありますので、お店にお持ち込みいただく前にお気軽にお電話にてご相談いただくのがベターです。
──引き取れない物というのは、例えばどんなものですか？
あまりに大きなジャンク品は扱えませんのでお断りしています。あとはオーディオ・インターフェースなども壊れてしまったものはお断りさせていただくことが多いです。ただ、当店としましてもせっかくお持ちいただいたのにそのまま持ち帰っていただくというのはあまりしたくありませんので、可能な限り引き取らせていただくように努力はしています。
──イシバシ楽器ではさまざまな買取サービスを行なっていますが、その中で店頭買取の魅力はどんなところにありますか？
自分のタイミングで持って来られるところでしょうか。宅配でも出張でもアポイントが必要ですけど、店頭ではそれがまったく必要ありませんので、そういう部分は手軽だと思います。その日のうちにお金が手に入る素早さも重宝される方が多いですね。あとは、やはり直接スタッフと顔を合わせながらのやりとりとなりますので、今までお使いになられてきた楽器への「想い」をお話しされる方もいらっしゃいますし、査定金額の交渉をされる方もいらっしゃいます。我々スタッフとしてもお客様とのコミュニケーションを大切にして気持ち良く楽器をお売りいただけるように努力しております。買い替えを活用しやすいのも良いところだと言えるでしょう。買い替えの場合は査定金額も優遇させていただいてます！！
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