ジャズ・ギターにお薦めのシールド・ケーブル4選
- 2024/12/04
以前のマホガニー特集は予想以上の反響を呼び、しばしマホガニー・ラッシュな日常を送らせていただきました。その人気はオマージュ(パクリとも言ふ)ブログを書く輩まで現れるほどで、地味な存在ながら楽器界三大銘木の奥の深さを思い知った次第です。さあ、さらなる森の奥深くを目指し、マホを巡る旅を続けます。
マホガニーにも色々ありますが、今回取り上げるのはキューバン(スパニッシュ)マホガニーないしはホンジュラス・マホガニーだけです。それ以外にもチョメチョメ・マホガニーと称する材はたくさんありますが、あくまで当方の大好物は西インド諸島から中南米、フロリダの先端で採れた種だけです。家具や楽器だけでなく、飛行機、船などの建造にまで使われてきた唯一無二の赤い木宝石、レッドダイヤモンズについて話すとキリがありません。よく知られたとおり、これらのマホガニーはもはや入手が大変難しい素材です。ホンジュラス・マホはわずかに残された国内流通在庫と、わずかながら新たに輸入される認証材のみ。キューバン・マホは南洋の植林材を除いて資源さえないといったありさまです。なければ他の材でということも選択の一つですが、うなぎと一緒でないと言われると食べたく、欲しくなってしまうのは木フェチの性です。
そんな中、実践されている方もいらっしゃるかと思いますが、私もよくやるのは、スクラップ寸前の古家具や建材からリクレイム(本来の使用目的そのままで再利用、リサイクルするのではなく、全く他用途に使う意)し、新たな命を吹き込もうというものです。メーカーや個人製作家の中にもこの方法でギター材を得られている方は多いようです。昼間も暗いジャングルの立木で数百年、家具として100〜200年、そして楽器として新たな命を吹き込まれようとしているマホちゃん。その数奇な運命は波乱万丈特番が組まれたとしても事足りません。さまざまな用途に使用されてきたマホガニー材、特に家具としてはダイニング・テーブル、ライティング・デスク、ワードローブ、チェスト、ベッド・フレーム、そして建材としてはドアや腰板まで範囲は非常に広いです。
ただし、リクレイムすることを前提として考えた場合、これらの家具がすべて目的に適したものとは限りません。そもそも家具にはソリッド(無垢)と、ベニア/プライウッドと呼ばれる合板があり、後者の場合は全く使い物になりません。なにせ表面の数ミリにマホガニーが貼られただけなのですから。気をつけないと、それら合板には材として特に美しい色、杢を持った部分が使われていますので、それに目を奪われると大変なことになります。とはいえ、見分け方は簡単で裏側をのぞいて、同じ木目(杢目)かどうかを確認すればいいだけですし、見えない場合でも傷で下地(白木が多い)が出ていたり、張り合わせの端部分がめくれ上がっていたりするのですぐにわかると思います。それでもわからなければ店員さんに聞いてみましょう。合板の家具を無垢と偽って販売したら充分返品理由になるかと思います(保証はしませんが)。
ソリッドかベニアか見分けたところで、次に気になるのはやはり木(杢)目そのものです。アコギの材料として考えるなら、できるだけ真っ直ぐな木目を持った柾目で、なおかつ目幅の詰んだ正統派を要求されることが多いです。そういった部分を得ようとすると、必然的に大きい表面積を必要とします。となるとテーブルの類が一番向いていることになります。エレキ材の場合は存在感のある板目やクロッチ(二股の付根)などもOKです。
次に、薄板にした時にどれだけ(何枚)採れるかということを考えなければなりません。つまり板の厚みです。運が良ければテーブル・トップは20〜25mm前後の厚みがあります。それより厚ければ見た目も野暮ったく、重くてテーブルとして使いづらくなるので、大体このくらいの厚みがお約束なのでしょう。テーブル・トップ以外ではドアもオススメです。ただしドアの場合、いくつかのピースを組み合わせて作られていますので、ギターのバック材のような面積はありません。ウクレレなどの小さい楽器にはチョードいいサイズです。厚いものでは50mm近いものもあります。本当に無垢材なら重さにして約40kg以上あるものもありますのですぐに見分けられます。
おっと、その前にマホガニーの種類(キューバンか否か)をどう特定するかといった問題もありました。製材したままの板であればある程度の見分けがつきますが、家具として塗装や装飾が施されてしまうと判断に迷うものも多くなります。そんな時は、販売時に示されている年代を参考にするのも一つです。あいにく家具には製造年月日が刻印されているわけではないので、専門店であっても年代表示はあくまで目安となりますが、かなり重要な目安になります。ちなみに私が見てきた中で、1900年代以降と記されたものは、ほぼアフリカン・マホ、稀にホンジュラス・マホといった感じです。キューバン・マホが最も使われていたのは、やはり“The Golden Age of Mahogany”と呼ばれる1725〜1825年です。この時代は家具様式でいうところのジョージアン時期にあたります。これ以降になると、マホガニー家具自体が少なくなり、オークやパインなどの廉価材が多く使われるようになります。マホガニー好きのためには産地を変えて代替マホで対応するようになるわけです。もしキューバン・マホガニーだと思って買ったのに、製材したら違ったとしてもがっかりしないでください。そんなマホガニーであっても、数十年〜100年以上前のビンテージ材なのです。今の材とはそのポテンシャルが全く異なるはずですから。
苦労して手に入れたマホガニー・テーブル、ここからは楽器材に生まれ変わるためにバラしていきます。解体の時、最も気をつけなければならないのは、釘、ネジなどの金物を決して木の中に残さないことです。万が一残してしまうと製材時に刃物を痛めてしまいます。ネジ山が潰れてしまっている場合など、無理して回そうとするとその力で板自体を割ってしまうこともありますのでくれぐれも注意してください。
テーブルの場合、いくつかのピースに分かれます。幅の広いものから寸法合わせ程度のものまでありますが、それらは互いにダボ等を用いて接着されています。長年の使用で開いた接着面を補強するために裏から金具で止めてあることも多いです。表から見ると何もないテーブル・トップですが、裏面は脚や引き出し、ヒンジなどなどさまざまなパーツを止めるための穴があります。表まで貫通していないものの、その部分はほぼ使えないと思ったほうがいいです。このあたりがバージン材と違って歩留まりの悪さにつながります。
キレイにバラされ、パーツごとにマーキングしたら、次は実際に製材します。とはいえ、堅木を正確に薄くできる道具とスキルを持った人はそう多くありません。私も何社かに外注しております。ただし、頼む相手を間違うと半分以上が木屑になってしまいます。キューバン・マホガニーの場合、道管や細胞内にシリカなどの成分が多く含まれており刃物を痛めやすく、見ただけで勘弁してくれという方も多くいます。断る方は、それだけの経験のある方とみて、逆に頼み込んでしまいます。
私の場合は製材後にプレナー(電動カンナ)をかけてもらいます。ノコ刃のギザギザ痕そのままでは商売になりませんし、サンダーでは光沢が出ないのでキレイにみえません。夜のお店の顔見せ写真同様、可能な限り素材の良さを引き立たせるのにある程度の出費はいたしかたありません。
すっぴんになったマホガニー。色は特有の赤黒さ、木肌は滑らかで代替マホのざらざら感とは無縁の触り心地です。特筆すべきはその比重。正確に計測したわけでありませんが、少なくともローズ並はあるものが多いです。ココボロやホンジュラスほどではありませんが、ブラジリアン・クラスに近い感覚です。重ければいいってものではありませんが、他のマホガニー楽器とは全く異なるサウンドを得られる可能性があることは間違いありませんね。
ビンテージ・キューバン・マホガニーに魅せられたギター・ビルダーやターナー(挽物師)、アーティストのごく一部の方をご紹介します。
この方の肩書きを思いつくまま列記すると、“ミュージシャン/コンポーザー/ボード・ビルダー/ウインドサーフィン・インストラクター/タレント・プロデューサー/ギター・ビルダー、そして玉杢入り(筋金ではなく)の木フェチ”ということになるでしょうか。才能あり過ぎです。NOBU氏とマホガニーの出会いは20年以上前だそうですが、その時から常にマホガニーのクオリティ自体に疑問を持っていたと言います。調べるにつれ、どうやら今流通しているものは本物のマホガニーではないということに気づきます。やがて訪れた真正キューバン・マホガニーとの出会い。そのマホガニーもやはり家具のリクレイム材でした。現在数枚の板材を所有されていますが、氏の頭の中にはすでにそのマホを使ったギターのコンセプトが固まりつつあるようです。
「ボディやネックにとどまらず、指板などのパーツにも使いたい。材のタップトーンや質量感が、これまで見てきた代替マホ類と違う次元の素材であるがゆえ、極端な狙いを持ったアプローチが可能。でもきっちり着地させますよ!”とNOBU氏。ギターとしての完成は先のことになりますが、“太くて野蛮”な音がしそうとのこと。ボード・ビルダーとして培われた高いシェイビング、塗装の技術、ミュージシャンとしてのプレイアビリティ追求、そして古材キューバン・マホのポテンシャルが組み合わさった時……古都鎌倉から新たな世界遺産が生まれそうです。
山崎氏は多分日本で最も多くキューバン・マホガニー楽器(ウクレレ&ギター)を作っています。そもそも私が初めて買ってきたマホ・テーブルのバラしを手伝ってくれた方ですので……。キューバン・マホガニーのどこがいいのか尋ねたら、古いものが好きなので……といった肩透かしの返答。シャビーな楽器を作らせたらもはや敵なしの存在です。
この方の手にかかると本来なら行き場のない端材でも、さまざまな極上ウッド・アイテムに生まれ変わります。ペン、万年筆は言うに及ばず、スケール、名刺ケースや爪楊枝入れまで。キューバン・マホガニーの最後の最後まで使い切ってくださる神です。
ハワイを愛する山本氏ですが、このカリビアン素材は特別な存在のようです。深い愛情と癒しの願いを込めてハンドメイドされる彼の作品は、身につけるだけで目に見えない力と勇気を与えてくれます。
アンティーク家具から楽器材へ。そんな浪漫溢れるテーマの今回はいかがでしたでしょうか? キューバン・マホガニーを纏った楽器の多くは、悠々たる時の流れを経て現在の姿に結ばれたのかもしれませんね。ぜひ音色の彼方に思いを馳せてみてください。次回の当コラムは11月17日(月)の更新を予定しています、お楽しみに。
森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。