AQUBE MUSIC PRODUCTS
- 2024/11/16
Kemper Profiling Amplifier
そのリリースより3年を経て市場・環境ともに成熟を見る、究極の新世代ギター・アンプ「Kemper」。ギタリストに、エンジニアに、音楽プロデューサーに衝撃をもたらした本機は、今、音楽制作の最前線でどのように受け入れられ、何を生み、何を育もうとしているのか? ここでは、2014年初頭に逝去された音楽プロデューサー、佐久間正英氏を通してKemperと出会ったTAKUYA(ex.JUDY AND MARY)が、稀少なダンブル・アンプを含む自らのアンプ、そして佐久間氏愛用のアンプを“プロファイリング”したプロジェクトをドキュメントする。TAKUYAはKemperに何を求めたのか? その最新ラインナップ、使用法、魅力などと併せて紹介したい。
“Kemper”はアンプである。だが、それがどんな音か?と訊かれて、答えられる人はいない。なぜなら、自身のサウンドというものを一切持たないアンプ……それが“Kemper”だからだ。その無垢な赤子のようにまっさらな“Kemper”をどう使うのか、そして、どう育てていくのか。その自由度があまりにも高いことから、誰もが“Kemper”のことを難しい機材のように考えてしまいがちだ。しかし、それはただの認識不足でしかない。なかんずく、“Kemper”独自の機能“プロファイリング”について正しい理解と行程を実践することで、そのすべての憂慮を払拭することができることこそ、今、ここに自明とされるべきであろう。
これは、今後“Kemper”に関わるあらゆるユーザーの道標となるべく、理想型ともいうべき“プロファイリング”によるノウハウの構築に挑んだ、真にプロフェッショナルな現場の貴重な記録である。
近代化を推し進めるギター・アンプ事業の一大拠点にして、最も先鋭的サウンド職人が集う国ドイツが生んだ、驚異のデジタル・ソリューション“Kemper”。今回、その“プロファイリング”における行程を実践する人物こそ、プロ・ギタリストでありながら数々の音楽プロデュース活動の傍ら後輩の育成にも力を注ぐ実力派サウンド・クリエイターTAKUYA氏である。その彼をして、ギターのピッキングから機材のことまで、自らのありとあらゆる思想に影響を与えたサウンド理論の師と称する、故・佐久間正英氏が、存命の折りに“Kemper”の取材を通じてTAKUYA氏にこの機材を紹介していたことは、まさに僥倖であった。
二人は、史上にギター・アンプというものが登場して以来ついてまわる悩み……運搬によるリスクや労務、真空管等消耗品による音質の劣化、経年による本体そのものの故障や損失、または、環境の変化によりいちいち変わる録音のクオリティ……そういったものに煩わされない“唯一の音質”、それを手に入れ、使うための、全く新しい技術と発想が“Kemper”にあるとの確信を深め、お互いがいつか自身で所有する貴重なアンプの数々を持ち寄り、最高のスタジオ環境とプロフェッショナルな録音技術をもって世界で最も完璧な“プロファイリング”をしようと心に決めたと言う。残念ながらその瞬間は永遠に訪れないものとなってしまったが、師の哲学を引き継ぐTAKUYA氏が陣頭指揮を執り、この度、佐久間氏ゆかりの方々から故人所有の貴重なアンプ類を一同に集結させることができた。果たされなかった師の想いを遂げるため……そして、“Kemper”という次世代前衛機材の本当の実力を読み解くためのTAKUYA氏の挑戦が、ここに結実する。
アンプの持つあらゆる特性をそのままデータ化する作業、“プロファイリング”。それは、単純な音声サンプリングやモデリングのような“それらしい音”を探る行為とは全く異なり、現在のアンプの状態そのものを完全に一つの音質パッケージとして“Kemper”に写し取る作業のことである。
だがそこには、行程が精密であるが故に、サウンド・デザインに関連したデリケートかつシビアなテクニックが要求されるポイントがいくつも存在している。“プロファイリング”は単純なアンプそのものの“音”だけでなく、周辺の環境を含めた“その時の音質”を忠実に読み取ることができるのが最大の利点だが、それ故に、アンプ本体以外の部分にも影響されやすいという特性を持っている。具体的に言うと、スピーカーやキャビネットの性質、マイクとマイク位置、H.A(マイク・プリアンプ)、卓……さらに細かく言えば、ケーブル1本やスタジオのアンビエント、その日の気温などにまで細かい配慮が必要で、そのデバイスや備品そのもののクオリティ、使用方法がそのまま音質に反映されてしまうのである。さらに最終調整の“リファイン”という行程において、
“Kemper”をよく知るTAKUYA氏が目指したのは、当日、サウンドのプロが推奨する最も理想的な環境、機材、そしてそれらを扱うのに十分な力量を持ったスタッフをそこに集結させ、思い描く限り最上の音質環境を得られる中で“プロファイリング”を行うことであった。それは、完全にプロフェッショナルなレコーディングにも匹敵する実に贅沢なマテリアルの集結であるとともに、TAKUYA氏自身も「何一つ間違ったことはしていないと思う」と太鼓判を押すほど、“プロファイリング”にとって最高の様式行程を実践してみせる結果となった。
手順としてはまず、TAKUYA氏所有のDUMBLE“Overdrive Special”(写真参照)と、故・佐久間氏のFender“Bassman”(写真参照)を比較、対象用サンプルとして“プロファイリング”実験を開始するところから始まった。録音環境は、対象アンプを約10メートル四方の空間を設ける録音スタジオ内中央やや奥目に前方を広くとる形で設置し、アンプの土台にはラックに収納されたままのスピーカー・キャビネットを使用。マイクは、常に計二本の同時録りとした。実際に使用されたのは、楽器録音では定番のSHUREの指向性マイク“SM57”と、sE ELECTRONICSのパッシブ・タイプのリボン・マイク“R1”。“SM57”はコーンふちを狙うようにほぼ正面から、“R1”はバスレフ及びスタジオ・アンビエントもとらえられるようにグリルからやや離した位置に垂直に設置。コントロール・ルームのH.AにはTAKUYA氏秘蔵のNEVE“1067”及びAPI“3124”をそれぞれ2chずつ立ち上げ、パターンによりどちらか一機種のみを選択して収録することにした。そのマイク・ラインをサミング・ミキサーAPI“8200”でミックス(比率はほぼ5:5で、やや“SM57”が強め。しかし、アンプによる微調整は適宜行われているのでその限りではない)し、Pro Toolsを介して“Kemper”とモニターに返している。そのセッティングで、アンプの音量及びEQ等の微調整や特殊パターンをいくつか設定し、テストの“プロファイリング”を開始。“Kemper”との音量バランスが整った段階で本各的な“プロファイリング”作業の運びとなった。
“プロファイリング”されたデータ(リグと呼ぶ)は、TAKUYA氏自らの手により丁寧にギター・パターンを注入されることで完璧な“リファイン”済み音質として次々に保存されていく。搬入やモニター側の設置作業を除いた当日の行程は、DUMBLEとBassmanを録り終えるまでで約6時間。TAKUYA氏は全く集中力を切らさないタフネスのまま、用意したすべてのアンプ(写真参照)を次々と連続“プロファイリング”していった。最初はヘッド類から……キャビやマイクはDUMBLE時のセッティングを流用し、その後、コンボ・アンプへと移行。コンボではいちいちマイク位置の決め直しを行う必要があったが、それにも一切の手抜きをすることなくひたすら“プロファイリング”は繰り返され、その作業は深夜にまで及んだ。この作業によって自らのアンプを“現状の姿”でパッケージすることができたのはもちろん、故・佐久間氏が愛用してきたアンプは、次なる世代へとそのバトン(音)を渡したのである。
パワード/ノン・パワード、カラーが選べるランチ・ボックス・タイプ
アナログとデジタルを繋ぐ画期的なリンク機構で話題となったドイツの新鋭シンセサイザー・メーカーACCESS社で設計を担当していたクリストフ・ケンパー氏が世に放った、驚異の新世代ギター・アンプ。“プロファイリング”と呼ばれる特殊なサンプリング・ワークにより、アンプを含めたアナログな外部環境そのものをデジタル・データとしてパッケージ化することができる。Kemperに取り込める対象機種は、パワー・セクションに真空管を搭載したいわゆる「チューブ・アンプ」と呼ばれる機種すべて。Kemperから出される特殊な信号を対象のアンプで再生し、それを再びKemperに戻してやることで、Kemperはそのアンプ実機と全く変わらないレスポンス、サチュレーション、音質を再現できるようになる。
しかも、同じアンプでも、ヘッド(アンプ全体)、EQ、キャビネットのパターンをそれぞれ個別に分けて取り込むこともでき、そのデータは他で録ったプロファイリング・データ(リグ)と合わせることで、実際にヘッドを違うキャビに載せ替えるような手軽さで現実では達成しにくい未知のコンビネーションをKemper内部のみで完結させることも可能。このHEADシリーズはランチ・ボックス・タイプの汎用型で、キャビネットの上などに乗せやすい前面を広くとった奥行きの短かさと、プレイヤーが立ったまま操作しやすいようにフロント下部がスラントしている形状が特徴。ラインナップには、600W/8Ω(300W/16Ω)のデジタル・パワー・アンプを搭載し、トータルでモニターやリアルなギター・キャビネットでの再生音をディレクションできる“POWERHEAD”と、プリアンプ的に使える“HEAD”の二種類が用意されている。ちなみに、“HEAD”にはフェイスが白のモデルもあるので、部屋の環境やキャビの色との組み合わせを考慮すると、無骨な印象を抑え、スタイリッシュに利用できるだろう。
【Specifications】
■外形寸法:378(W) x 173(D) x 217(H) mm ■重量:6.50kg(POWERHEAD)/5.32kg(HEAD) ■アナログ入力:1/4" TSアンバランス入力、ダイナミックレンジ >108dB ■オルタネート入力:GNDリフト付 1/4" TRSバランス入力、ダイナミックレンジ >105dB ■リターン入力:GNDリフト付 XLRまたは1/4" バランス入力、ダイナミックレンジ >105dB ■アナログ出力:マスター(L,R) GNDリフト付 XLRバランスまたは 1/4" TSアンバランス、モニター出力 GNDリフト付 1/4" TSアンバランス、ダイレクト・アウト/センド出力 GNDリフト付 1/4" TSアンバランス、ヘッドフォン出力 1/4" TRSステレオ、330Ω ■パワーアンプ:600W(@8Ω)/300W(@16Ω) POWERHEADのみ ■コントロール部:1/4"TRSモノ/ステレオスイッチまたはエクスプレッションペダル、MIDI IN/OUT/THRU、USB2.0端子(A, B)、1RL45(LAN)コネクター ■デジタル入出力:S/PDIF In/Out 44.1kHz(24bit) ■消費電力:POWERHEAD 100-125V/最大10A、HEAD 100-240V/最大0.5A
パワード/ノン・パワードが選べる3Uラック・タイプ
こちらはKemperの機能をそのまま3Uのラック・シャシーに格納した、システム・モデル。スタジオの設置機材と親和性のある19インチ幅の省スペース設計ながら、HEADタイプと全く変わらない操作性を維持している点が魅力。各ボタン幅、ノブの大きさ、コントロール同士の距離感、そして正面の液晶パネルの大きさまでが同じであるだけでなく、一見煩雑そうに見えても一度使えば直感的に操作できる配列になっているKemper特有のコンソール・ポジションは、あらゆる環境で理想とされる使いやすさを誰もが共有できるデザインだ。
その最たるものがフロント・パネル上に設置されたUSB端子で、これはHEADシリーズには無かった仕様である。KemperはUSBメモリーで保存したデータを持ち出したりできるだけでなく、パソコンを介してのアップデートやユーザー・フォーラムへのアクセスをサポートしているので、この配置は背面に手を入れづらいRACKタイプでは非常にありがたい。もともと、Kemperは大規模システムを想定した連携に配慮されて設計されており、背面のほとんどの入出力端子には物理グラウンド・ボタンが設置されていたり、MIDIだけでなくLAN端子やダイレクト・スイッチ・コネクタが配置されている点など、拡張性も申し分無い。本体自体にも高度なプリ/ポスト・エフェクトを内蔵するが、更に高度なプロ用アウトボードとの融和のためにもこのRACKシリーズの存在意義は大きい。こちらもHEADタイプ同様、単独でスピーカーを駆動できるパワー・アンプ内蔵の“POWERRACK”とプリアンプ的な“RACK”(こちらは“HEAD”とは異なり、色はブラックのみ)の2種類が市場に出ている。
【Specifications】
■外形寸法:483(W) x 220(D) x 139(H) mm ■重量:6.18kg(POWERRACK)/5.00kg(RACK) ■アナログ入力:1/4" TSアンバランス入力、ダイナミックレンジ >108dB ■オルタネート入力:GNDリフト付 1/4" TRSバランス入力、ダイナミックレンジ >105dB ■リターン入力:GNDリフト付 XLRまたは1/4" バランス入力、ダイナミックレンジ >105dB ■アナログ出力:マスター(L,R) GNDリフト付 XLRバランスまたは 1/4" TSアンバランス、モニター出力 GNDリフト付 1/4" TSアンバランス、ダイレクト・アウト/センド出力 GNDリフト付 1/4" TSアンバランス、ヘッドフォン出力 1/4" TRSステレオ、330Ω ■パワーアンプ:600W(@8Ω)/300W(@16Ω) POWERRACKのみ ■コントロール部:1/4"TRSモノ/ステレオスイッチまたはエクスプレッションペダル、MIDI IN/OUT/THRU、USB2.0端子(A, B)、1RL45(LAN)コネクター ■デジタル入出力:S/PDIF In/Out 44.1kHz(24bit) ■消費電力:POWERRACK 100-125V/最大10A、RACK 100-240V/最大0.5A
TAKUYA's Amps
TAKUYA氏所有のアンプ&スピーカー・キャビネット群。最前列は凄まじいオーラを醸し出す60年以上前のGretsch“Dual Twin”。二列目左から、Marshall“1912”エクステンション・キャビネット。その右側には、Matchless“DC-30”が二台並べられている。ワインレッドの方は最初期プラハン仕様の貴重な筐体。最後列の左上段に眼を移すと、TAKUYA氏お気に入りの、パープルのMarshallヘッド。これはMarshallのカラー・モデルとしては初期の物で、凄まじい音量を誇るメタル・パネル仕様、トレモロ搭載タイプ“T1959”だ。その下が、昔から所有していたというRoland“JC-160”。右へ移って、キャビとお揃いの黄色いラック・ケースに格納されたDumble“OverDrive Special”。下が今回の収録でもヘッド用としてメインで活躍したCAJのカスタム・キャビネット(バスレフ有り)。後方中右は上から、ロー・ゲイン機種中心のTAKUYA氏のラインナップの中では異色の存在感を放つモダン・ハイゲインなDiezel“VH-4”。その下に、弾数の少ないRocketのヘッド&キャビ(4発のうち1発をビンテージのGREENBACKへ換装済み)。後段最右翼がDivided By 13のパンダ・カラー“FTR 37”のスタック・セットとなっている。
※製作年代がわかるもののみ表記してあります。
米国カリフォルニアで主にプロ・ミュージシャンによる受注生産で作られていた超高級アンプで、その現存数の少なさによる希少性から、究極のブティック・アンプとも呼ばれるDumble。TAKUYA氏が所有するこの80年代初期の“OverDrive Special”は、本人も本格的なレコーディングでしか使わない秘蔵の逸品。ブラウン・スウェードのフロント・グリルが目を引くクールな外観が印象的な機体だ。後に多くのオマージュが製造されるも到達したものはいないと言われるその伝説のトーン……コンプ感が少なく分離の良いドライブ、澄み切ったブライトなアタック、そして高速な出音は健在で、オーナー自身の手による正確なピッキングから紡ぎ出されるサウンドはまさに至極。“プロファイリング”にはノーマルのインプットを使用。プリ管に7025(12AX7のローノイズ管) x 3、パワー管には6L6GC x 2という50W出力固定の筐体となっている。
SAKUMA's Amps
故・佐久間氏所有のアンプ。一番左のFender“Princeton”と中段上のFender“Bassman”ヘッドは、共に1963年製という正真正銘のプリCBS期の貴重なビンテージ物。“Princeton”は新しく見えるが、これはトーレックスを張り替えてあるため。中段下はMarshallブロック・ロゴ時代(60年代前半)の“JTM-45”レプリカで、その名もBlockhead“'63 JTM-45 Split-Front”という希少なアンプ。右段上は、今では生産されていない幻のCallahamアンプ(EL34仕様モデル)、しかもロゴが赤字という超レアな逸品。その下が、60年代の高級国産アンプの代表格ともいうべきEcho“Custom Amp60”。最下段が、ジム・マーシャルのフェイバリット・アンプだったという50W“1987”の直系機、Marshall“1987 MK II”のラージ・ヘッド・タイプ。
※製作年代がわかるもののみ表記してあります。
説明不要の歴史的名機、Fender“Bassman”アンプ。60年代初頭にはMarshallという偉大なメーカーを生む土壌となり、その後、Mesa/Boogie“Mark I”のブースト回路にもその機構が採用されるなど、数々のアンプ・シーンの源流ともなる役割を果たした。この個体はツイード期とブラックフェイス期のはざまに位置する1963年に製造されたヘッドで、本来“ピギー・バック”と呼ばれる中がセパレートになった独特のキャビネットとセットで販売されていた物だが、今回はキャビネットでの差異を無くす意味もありDumbleと同じCAJキャビにより音出しをしている。トーン回路を前段に置くことによる、いわゆる現代的な意味合いでの「フェンダー・クリーン」としての初期の音質を備えており、ロー・ゲインながら、密度のある高音が手元の反応に合わせて伸び上がり、きらきらとした余韻を残す極上のフィールがたまらない。こちらも“プロファイリング”にはノーマル・インプットを採用。出力は50Wで、真空管は、整流管がGZ34 x 1、プリ管が12AX7x 4、パワー管が5881(6L6GC) x 2という構成。
“プロファイリング”及び、“リファイン”には、メインのギターとして90年代後半に製造されたSG Crafts社のストラト“Journeyman”(写真左)をチョイス。こちらのピックアップはLindy Fralin“Real 54改”で、きめ細やかでよく抜ける音質が特徴。TAKUYA氏は、基本的にリアを中心にアンプのセッティングを詰め、“プロファイリング”“リファイン”中も極力ギター側のピックアップはリア側に固定したまま試奏を繰り返すスタイルで音採りを敢行。“リファイン”済みの音質が完全に元のアンプと一致した後にのみ、試験的にピックアップ・セレクトを変えてみたり、ハムバッカーでのテスト用に別途用意していた2000年代初頭製のGibson“Flying V”(ピックアップはGibson“57 Classic”/写真右)に持ち替えたりしながら入念に音の補正を繰り返した。
“Kemper”という、未だ把握しきれない領域を残した機材とプロフェッショナルな視点で向き合う一日を過ごしたTAKUYA氏。歴史的アンプの数々による“プロファイリング”を経る中で、彼は、その機能性に大いに手応えを感じただけでなく、今回のようなトップ・レベルの環境でしか検証し得なかった実用面での様々な情報の収集にも余念がなかったようだ。現場を通じ、ギタリストとして、または音楽プロデューサーとして、この新世代のアンプ“Kemper”から何を感じとったのか?
──“Kemper”を実際にじっくり触ってみて、どうでした?
TAKUYA まず、この機械は“時代に合っているな”って思いました。今は低予算化の流れもあり、レコーディングでも、あまり生でやらない、スタジオを使わない、という時代です。そうなると必然的に大きいアンプを何台も家に置いておくようなミュージシャンも少なくなって、そういうバンドをプロデュースするときには僕もキャラの違うアンプを現場に持っていってあげるわけですよ。で、そういったアンプの、運搬だ、マイキングだ、……特に、色々電圧とか違う海外で、いつも使っている機材と同じのを使うというのも大変な話で、そういった行程をいちいち正確にやるのがいかにリスクの高いことかは僕も何年も何年もやってきてよく知っています。……なので、“Kemper”が出てきたことによって、特にそういった部分で(のリスク回避について)大きく進化したのを感じました。
──なるほど。まず、サウンドをデザインする音楽プロデューサーとして驚かされる部分が多かったということですね?
TAKUYA そうかもしれないですね。“音質”に関してもそうです。“プロファイリング”を行うことで、スタジオの「環境」……使っているスピーカー・キャビネットやH.Aもそうですけど、空気感というか、そういうものまでものすごくシビアに検証してくれるんです。最高の状態で“プロファイリング”すれば、そういう「環境」そのものを外へ気軽に持ち出して再現できる。そこが良いなって。ですから、有名スタジオなんかが、売りとしてそのスタジオ環境でのアンプの“プロファイリング”だけで商売ができるような気さえしますよ。実際にやれば、そのリグが欲しい人や使ってみたい人がたくさんいるんじゃないかな、僕を含めて。
──そうすると、“プロファイリング”に対するハードルが上がってしまいませんか?
TAKUYA うん。“録るための知識”が必要なことは確かですね。やってみてわかったんですが、“プロファイリング”は、例えばPro Toolsに取り込む場合と同じく、いろんな微調整の仕方……レベルとか、ハイ・サンプルにするのかどうするのか……特に、どうやって入力させるとちゃんと良い音で録れるのかというところに神経を使わないといけないのは間違いないんですよ。ただ、プロ並みの環境や録音機材、技術で“プロファイリング”した音が、そのまま誰もが必要とする音になるかというと、それはまた別の話だとも思う。もちろん、レコーディングの経験や知識のある人が真面目にやってくれるのが理想だとは思うんですけど、これは社会と一緒でね。イケメンばかり揃っていてもなんかイケメンに見えなくなってくるというか……。例えば、僕のアンプはわりとスカッと抜けるタイプが多いんですけど、やっぱりそれらには出せない、もっとナマった“ダメな音”が欲しい時もある。なので、世界中でいろんな人がいろんなシチュエーションで録って欲しいな、と思います。その上で、今WEBに上がっているものも含めて、不必要な音は自然に淘汰されていくんじゃないでしょうか。
──TAKUYAさんは、具体的に、アンプとしての“Kemper”をどのように評価しますか?
TAKUYA 単純に、音ということで言えばなんの問題も無いですね。僕がアンプに求めるのは“いかに出音が早いのか”。あとは、歪むとかよりも“大勢のアンサンブルの中で抜けるか”というのが第一条件なんです。そういう意味でも、今日録ったものは、実機と弾き比べてみても違いがわからないくらい同じでしたね。かなり優秀なアンプの部類ではないでしょうか。ただ、今の所はあくまでレコーディング・スタジオで、CD音源を作ることを目的とするような“良い音”とされているやり方で試した結果なので、それをライブで使ってみたら、もしかしたら“プロファイリング”も含めて、ライブの場合はもうちょっとこうした方が良いかも、と思えるやり方が見つかるかもしれない。そこは、一度やってみて、また思った所を数年後に今日のような日を作って試せたらなあ、とは思います。
──高音質な“モデリング”によるアンプなどの音質と比べてどうですか?
TAKUYA モデリングにはモデリングの良さがあるのは当然なんだけど、そこには、プログラムを組んだ人の想像というか個人の主観というか……“期待値”のようなものが絶対入っていると思う。それに比べて“Kemper”の音っていうのは、とてもジャストのアンプの“状態”そのものを切り取っている感じだから、ものすごくデリケートな部分もあるけれど、“プライベートな音”という意味では完全に勝っていると思う。“プロファイリング”からきちんとやっていれば、実機で弾くのと同様の“いつものあの音”がちゃんと出せる、そういう効果がいつどこででも期待できるのが強みだろうね。
──そのまま……というのは、“音”がというよりはアンプそのものの現在の“コンディション”のことでもありますからね。
TAKUYA はい。アンプだったりビンテージの機材だったりは、古いものだと50年も経過した機械なので、年々、真空管だなんだがどんどん劣化していくっていう現実がありますから。そういうのをこれで一度は真空パックできるというのはとても大きいですよ。スゴイ機械がとうとう出てしまったなぁ、って素直に思います。
──今回、こうやって一日“Kemper”の音録りに挑戦してみて気づいたこと、または、使用にあたって知っておいた方が良い点などがあれば教えていただけますか?
TAKUYA まず、“プロファイリング”におけるEQ特性を知っておくと良いでしょう。録ろうとするアンプのセッティングがどうであれ、“Kemper”はEQをすべて「5」と読む……という所がミソになります。具体的に言うと、アンプによってはもうこれ以上ベースが上がらない「10」の状態で“プロファイリング”を実行したとしても、“Kemper”ではまだ上がるので、ちょっとわがままが効くというかね。
──ということは、“Kemper”を使えば、リグを再生する際には元のアンプよりもポテンシャルを高くできるということでしょうか?
TAKUYA 実際にはそうなりますね。ツマミの位置によっては、本物のアンプでは届かない理想値までEQを深くコントロールできるようになるので。逆に言うと、それを予測して“プロファイリング”をすることで、新たな音域を開拓できる可能性もあるわけです。ここまでコントロールができるとなると、現場での自由度も高くなるので、先ほどの話ではないですが、現場(ライブ)でも実用性が十分期待できるのではないかと思えるほどです。
──それは、これから“Kemper”を使おうと思っている人たちにとってはとても有益な情報ですね。他に注意すべきポイントはありますか?
TAKUYA あとは、“リファイン”についてですね。これは“プロファイリング”したアンプのデータに、“どこから歪み始めるのか”という反応を実際にプレイしながら整合させていく……いわば補正のような機能なんですけど、これはきちんとやる必要があります。詳しくは動画の方で紹介していますが、ほぼこれ(How to Profiling動画)がギターの全種類の音の鳴らし方なんですよね。もし、あまりクセの強い弾き方で“リファイン”をしてしまうと、そのリグは、録った本人以外では良い音が出せないということにもなりかねないので注意が必要です。偏った弾き方だと“Kemper”にとっては“説明不足”になってしまうということなんでしょう。必要な“リファイン”技術は本当に基本的な奏法だけなんですが、なかなか右手まで完璧にイケてる人っていないので、是非皆さんには(ゆっくり弾く感じで良いので)頑張って欲しいですね。
──今回の“Kemper”検証は、有意義でしたか?
TAKUYA すごく実りのある作業でしたね。まだ、今日ほど真面目に“Kemper”に音を取り込もうとした人は世界にもあまりいないかもしれないんですけど、「これぐらいやるとちゃんと録れますよ」っていうのが動画で公開されることの意味は大きいんじゃないかな。
──実際、“プロファイリング”してみたリグについて感想を頂けますか?
TAKUYA 僕の音の基本は、きちんと反映できていると思う。それは出したい音を簡潔にしてそこに集中したパワーを得る、“全部欲しがらない”という音です。同じ力でも一点に集中させることで破壊力を得られるような音の出し方……自分のアンプでできるそういうスイート・スポットだけを得るような感覚を、きちんと“Kemper”で再現できたことが良かった。……レコーディングの技術や機材に関してもそうだけど、結果的にこういう考えをもたらしてくれた佐久間さんの影響をここでもちゃんと感じることができますね。
──最後に、TAKUYAさん的に“Kemper”をひと言で表すと?
TAKUYA アンプとしての“正統な進化”ですね。しかも、二歩ぐらい先に行っている。……長い付き合いになるといいな、そう思っていますよ。
【日本語ユーザー・フォーラム・スタートのお知らせ】※2014年10月10日追記
ユーザーの要望に応えるべく日本語によるユーザー・フォーラムが開設されました。ユーザー間での情報交換や自身のファイル等の書き込みが可能。また、KEMPER日本人スタッフが管理しているため、質問にも丁寧に回答される。「Kemperって難しそう……」と敬遠されていた方にとっては強い味方となるはずだ。
※フォーラムへの参加はユーザー登録が必要となります。
■ケンパー・ユーザー・フォーラム(日本語用)
■Kemper Profiling Amplifierの問い合わせはコルグまで。
価格:オープン
TAKUYA
1971年、京都府出身。ギタリスト/ソングライター/プロデューサー。1993年9月にJUDY AND MARYのギタリストとしてデビュー。「クラシック」「くじら12号」「イロトリドリノセカイ」など多くのヒット曲の作曲・作詞を手がける。1997年9月にROBOTSでソロ・デビュー。アーティスト活動の傍ら、多くのアーティストへの楽曲提供等、プロデュース活動も精力的に展開する。TAKUYA and the Cloud Collectorsの新作も近々リリース予定。