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  • デジマート地下実験室〜地下7階

ヘッドに重しを付けるとギターの音は変わるか?

〜ヘッド重量増し増し実験〜

  • 文:井戸沼尚也(室長)

今回の実験は、“ヘッドに重しを付けるとギターの音は変わるのか?”です。ヘッドにクリップ・チューナーや他の重りを付けることで、サウンドが変わるのかを調べてみました。

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【実験テーマ】ヘッドの重さでギターの音は変わるか?

■ヘッドの重さにまつわる噂
◎リッチー・ブラックモアはヘッドに重りを付けてサステインを稼いでいた

 元ディープ・パープル、レインボーのギタリストとして有名なリッチー・ブラックモアは、愛用のストラトキャスターのヘッドに重りを付けて、サステインを稼いでいたそうです。重りによってサステインをコントロールする考え方は、基本的には“アリ”のようで、フェンダー社からも「ファットフィンガー」という専用の重りが発売されています。理屈的にも、必要以上に大きく振動してしまうヘッドやネックには重量を加えて抑制することでサステインが増すというのは、よくわかります。

 ただこれ、非常に難しいんですよ……。実は私も「ファットフィンガー」、買いました。まず、きちんと調整されたギターに新しい弦を張って、力み過ぎずに弾けば、“そのギターにとっての自然なサステイン”が得られると思います。その状態のギターのヘッドを重くしてサステインが明確に良くなるかというと、うーん、あまり差が感じられないというのが私の感想です。調整がよくないギターは、ここでは論外です。で、調整された状態でも自然なサステインがしない、あるいは明らかにデッド・ポイントがあるというギターは、構造そのものに問題があるか、いわゆる“外れ”のギターではないかと思います。その場合、ヘッドを重くしても、“プン”という音詰まりが“プゥン”になるくらいで、“プ〜ン”とはなりません。弾き方やエフェクターで多少カバーできる場合もありますが、ストレスも溜まりますので、私の経験上では楽器を買い替えてしまった方が早いです。

 ここでくれぐれも誤解のないようにお願いしますが、「ファットフィンガー」やフェンダー社やリッチー・ブラックモアにおかしいと文句を言っているわけではありません! なかなか難しいという話で、私の使い方に問題があったのかもしれませんし、それとは別に「ファットフィンガー」には使う意味があると思います。それは、トーンの調整です。ヘッドに重りを付けることで、音が変わるんです。

 ……ん? あれ? 私今、結論みたいなことを言ってしまいましたか? すみません、ここで終わるわけにはいかないので、恐縮ですが一度なかったことにしてください。えー、まぁ、動画でヘッドの重さと音の違いについて明確にする機会もそう多くないと思いますし、ここはひとつ、何もかも忘れて実験してみましょう。

【実験環境】

■使用機材
フェンダー・カスタムショップ・ストラトキャスター(ギター)
マーシャルJVM210H(アンプ・ヘッド)
マーシャル1960A(キャビネット)
ヴァンデンハル(ケーブル)
ダダリオEXL110(弦)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
各社チューナー(クリップ式チューナー)
フェンダー・ファットフィンガー(アクセサリー)
◎鉛ブロック(アクセサリー……?)
◎クランプ(アクセサリー……?)

※セッティングについて
・ヘッドの重さ以外の条件(ギターやアンプのセッティングなど)は同じにしてあります。
・音色の違いが出ないよう、ギターのフレーズは似たようなものをとは思いましたが、ヘッドの重さは演奏性や演奏内容に直接関係してくるため、全く同じというわけにはいきませんでしたので、ご了承ください。


実験1 クリップ・チューナー1個(+50g)

【実験ノート】

 まずはヘッドに何もつけずに、素のストラトキャスターをマーシャルに直結した音です。ピックアップ・セレクターは、センターとリアのハーフ・ポジションを選んでいます。自宅での下実験で、音色の変化がわかりやすいのがここだったというのが理由です。まぁ、ストラトの音、ですよね。ハーフ・トーンのコロコロ感と、マーシャルのギチギチ感がせめぎ合う音です。今回はこれを基準としていきます。

 さて、クリップ・チューナーをひとつ付けてみます。ピーターソンの『ストロボ・クリップ』という製品で、1個50gです。クリップ・チューナーとしては重めで、私が普段使っているもうひとつのクリップ・チューナー(コルグの『ピッチホーク-G』)に比べると、手にとってはっきりと「重い」と感じます。 

 これを付けて弾いてみると……これもストラトの音ですね。ただし、聴いている皆さんには素の状態とあまり変わらない感じに聞こえるかもしれません。ですが、弾く側としてはこの段階で“ローが引き締まり、ハイが少し出た”と感じています。こうして動画を見ると僅かにピッキングも強くなってしまっているように見えますが、“音に元気が出たので演奏にも元気が出てしまった”か、“撮影が少し進み、縮こまっていたのがほぐれた”のどちらか、あるいは両方だと思います。どちらにしても意図したものではありませんので、ご容赦ください。では、次にいってみましょう。


実験2 フェンダー・ファットフィンガー(+100g)

【実験ノート】

 ここで専用のアクセサリー「ファットフィンガー」の登場です。重量はちょうど100g、先程のチューナーの倍の重さです。100gの差というのは、ギターの重さを気にして購入する人には決して小さくはない数値です。例えば3900gと4000gのレス・ポールは、手にした感じも違いますよね。その重さが、ヘッドの1点にかかってくることを、イメージしてみてください。

 サウンドをチェックしてみると、先程より明確に“引き締まったロー、明確になったハイ”がわかるかと思います。ファットフィンガーを外してみると、なんだか音がしょぼしょぼしていますね。これが、100g追加した場合の音です。では、もう少し足したら、どうなるのでしょうか? 次にいってみたいと思います。


実験3 クリップ・チューナー4個(+150g)

【実験ノート】

 次は、クリップ・チューナーを多数付けて、もう少し重量を増やしてみることにします。1個1個測りながら、重さを確かめて……4個で150gです。なんだか惣菜屋で唐揚げを買っているかのような錯覚に陥ります。

 全部付けると……ヘッドが、せ、せまい。チューナー同士の場所のとり合いです。敷地に入ってきた隣の家の木の枝、映画館で私の肘かけに肘を置く隣の客、バランス悪く切られたケーキ、そして世界中で絶えない紛争……私としては大小様々な領土問題を憂いつつチューナーを付けていったわけですが、動画で観る限り、いつものバカ実験です。

 手にした感じは、まるで別のギターです。重量感、そして何より座っていても感じるバランスの悪さ。音の方は、予想通り100gの延長上、つまり、よりローが引き締まり、よりハイが明瞭になっています。ローが引き締まったといっても、音量的には上がっているように思います。全体にレンジが広がり、より現代的でマッチョな感じ。モダン・ハイエンド系といった感じです。

 試しにチューナーを外してみると、あれー、なんだかおじいちゃんな音です。チューナーはチューニングするための道具ですが、数が集まるとサウンド調整にも使えるということですね。では、さらに、ヘッドを重くして試してみましょう!


実験4 クリップ・チューナー7個+カポタスト2個(+280g)

【実験ノート】

 もう何がなんだかになってきました。ケーキだ、肘かけだではなく、タコ部屋、あるいは朝の満員電車です。チューナー同士が感じるストレスも相当でしょう。お前の濡れた傘が俺の足に当たってんだよ等と怒鳴り出すチューナーがいても全く不思議ではありません。その場合、周りのチューナーは黙って怒鳴り声のピッチを計測するんでしょうか……。

 すみません、今回、試奏フレーズが短いので妄想にふけっている間に終わってしまいましたが、前の実験3よりさらにレンジが広がり、パワフルで、引き締まったローと明瞭なハイが際立ち、その代りハーフ・トーンらしいコロコロ感は弱まっています。リア単体の音だと言われれば、「ふーん」と言って聞き流してしまうかもしれません。

 ここで実験1の動画と聴き比べると、もはや別のギターくらいに違うサウンドですね。それから音とは関係ありませんが、飛び出したカポが角みたいでカッコいいです! それでは、次にいってみたいと思います。もうヘッドに何かを付ける空きスペースはないのですが、それを克服するためにデジマート編集部が用意したスペシャルなアクセサリー(?)を装着してみます。


実験5 鉛ブロック+クランプ(+670g)

【実験ノート】

 最後は鉛のブロック、重さはなんと670gです! プロ・ゴルファーの中島常幸氏は複数のゴルフ・クラブを手にした時に貼りつけられた1円玉1枚(1g)の違いを見抜くそうですが、670gですよ、670! わかるとかわからないではなくて、なんと言うか、670gって重いんだなぁ……ふふ、ふふふ。なんだかめちゃくちゃ過ぎて、頭がおかしくなってきました。

 座ってギターを持っていても手を離すとすぐにゴンっとヘッドが落ちるので、右肘か左手でしっかりと支え、またそのことを常に意識しておかなければならないため、演奏しようという気持ちになりません。ああ、家に帰りたい……。しかし、私にはこのバランスの悪いギターを弾いてその音を皆さんにお伝えするという使命がありますので、気持ちを切り替えてやってみました。改めて動画を観てみると、切り替え後の私は必要以上に淡々としており、かえって狼狽ぶりが伺えます。

 音の方はもう、聴いてもらったとおりですね(若干、投げやり)。実験4の、さらに延長線上にあります。ヘッドを重くすればするほど、音ははっきり・くっきりしていくことがよーくわかりました。それよりも、弾き終わってブロックを外してもらった時のフワフワ感!! 筋トレで腕に負荷をかけた続けた後、負荷を外すと腕が“浮き上がる”ような感覚になったこと、ありませんか? 本当に、そんな感じだったんです。「わー、ネックが空に向かって浮かんでいくよー!」……周りから見たらなんだか危ない人のようですが、私はただ、ヘッドに重りを付けたギターを弾いただけです。670gの鉛ブロック、恐るべしです。


実験結果

結論:ヘッドの重さで、音は変わる

 結論は、最初にちょろっと漏らしてしまった通りです。ペグ交換をしたことがある人にとっては「当たり前」という感じかもしれませんが、はっきりと音が変わることが動画に残せたことは良かったのではないかと思います。そしてこんなに、順を追ってきちんと音が変わっていくのは、この地下実験室シリーズでは珍しいことです。

 ヘッドの重さが増すとある意味でモダンな音になっていくという事実は、ビンテージ・ストラトのスモール・ヘッドから70年代のラージ・ヘッドへ、そして80年代のフロイド・ローズのロック式ナットが付いた仕様へと移り変わっていった時のサウンドの変化と合致して、興味深いものがあります(もちろん、ヘッドの重さだけの話ではありませんが、ひとつの要素としてという話です)。

 それから、冒頭のリッチー・ブラックモアの話については、推測ですが、デッド・ポイントの解消やサステインの強化というより、フィードバック・ポイントを調整していたのではないかという気がします。マーシャルの爆音で弾いている時に、何気なくヘッドに触ったら、変なフィードバックが収まった。それで、そこに何かを貼ったのがきっかけということは、ないでしょうか? それとも、スキャロップ加工されたネックは、ヘッドの重さの調整で直る程度の軽微なデッド・ポイントが発生するとか? うーん、すみません、やっぱりわかりません。リッチーについては物凄く詳しい方がたくさんいるはずですので、教えていただければ嬉しいです。

 いやー、それにしても実験って本当に楽しいですね。それでは次回、地下8階でお会いしましょう。

【注意】
本コーナーで取り上げた形でヘッドへ重しを取り付ける際には、個人の責任において、細心の注意を払って行ってください。クランプなどで重しを固定した場合、ヘッド側が凹むなど傷付く恐れがあります。万が一の事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承ください。


※次回「デジマート地下実験室・地下8階」は9/29(月)更新予定です。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』

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