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- 2024/11/16
Breedlove
ブリッジ・トラス・システムを始めとする革新的なデザインで唯一無二の個性を放つブリードラブが、 今年のNAMMショーにて大胆なシリーズ刷新を発表した。多岐にわたっていたシリーズを統合しつつ、新材の投入にも踏み切っており、大きな転換期を迎えたと言っていいだろう。ここではその新ラインナップの中核を担う3シリーズの中から1モデルずつを取り上げながら新生ブリードラブの魅力に迫ってみよう。普段よりブリードラブを愛用するシンガー/ソングライター、カイ・ペティートのデモ動画&試奏コメントを交えているので併せてお楽しみいただきたい。
今回の刷新について説明してくれたブリードラブ社オーナーのトム・ベデル氏は、刷新における変化の顕著なものとして3点をあげている。まずはそれをご紹介していこう。
ひとつ目はシリーズの統合とそれに伴う名前の改変。旧来のラインナップでは多くのシリーズが用意されていたが、今回の刷新によりそれが全5シリーズにまとまった。最上位のエキゾチック・シリーズから順を追って見てみると、それは次のようになる。
□Exotic Series──エキゾチック・シリーズ(※完全受注生産)
□Masterclass Series──マスタークラス・シリーズ
□Legacy Series──レガシー・シリーズ
□Premier Series──プレミア・シリーズ
□Oregon Series──オレゴン・シリーズ
エキゾチックは完全受注生産となっており、日本国内に流通するレギュラー・ラインナップの最上位は実質的にマスタークラスとなる。各シリーズの違いについては基本的に材の稀少性やグレーディングの違いで棲み分けられたもので、設計や工程にかかる部分ではオレゴン・シリーズを除いてはほとんど差異が見られない。後述でカイ・ペティートも語るとおりシリーズは優劣で見るよりもキャラクターの違いでとらえた方が良さそうだ。
ふたつ目は構成材とボディ・シェイプの組み合わせの刷新。これまでもユニークな発想でさまざまな組み合わせを提案してきた同社だが、ここでその蓄積を一度収斂した格好となっている。これによりブランド・カラーはより明確に打ち出された感があり、例えばマスタークラスのドレッドノートはシトカ・スプルース/コアの組み合わせが用いられているが、ここでスプルース/ローズウッドという常套を採用しないあたりが実に同社らしい。また、ベーシック・ラインナップとなるプレミアではサイド・バック材の標準仕様をローズウッドとマホガニーの2種としているのも見逃せないポイントだ(以前この価格帯はマホガニーではなくサペリが用いられていた)。
最後はデザインがシンプルになった点。ルックスの面でも斬新なアプローチが目立った同社のデザインについて、トムは“反応が二分されていた”と認めながら、それを受けて“楽器提供の仕方をシンプルにする選択をした”と語る。オーソドックスな見た目のモデルを増やして間口を広げつつ、従来のアプローチは受注生産のエキゾチックやマスタークラスなどに引き継がれていくとのことだ。なおロゴ・デザインも変更されている。
以上3点に代表される今回の刷新を総合すれば、ギター・ファンに広くアピールする工夫を凝らしつつ、サウンド面ではブランドの個性をより明確に打ち出した、というようにまとめることができる。また、この難しい作業を非常に高い完成度でこなしてみせたことからは、創業から約25年となるブリードラブ社の蓄積と技術力とがひとつ円熟に達したことを汲み取ることもできる。
さて、以下からは普段からブリードラブ・ギターを愛用するシンガー/ソングライター、カイ・ペティートの試奏レビューをお届けしよう。新ラインナップの中核である「プレミア」「レガシー」「マスタークラス」の各シリーズから1モデルずつを試奏していただいた。
カイ:「プレミア・シリーズは装飾が極力シンプルにされていて、音も見た目どおりの素直なサウンドが特徴的でした。このドレッドノートもダイレクトな鳴りで、とても"らしい”音ですね。ローがとにかくパワフルで、アメリカの雰囲気があります。ただ、その中にもブリードラブらしい上品さがあって、バランスも良いのでフィンガーピッキングにもすごく相性が良さそう。DADGADとのマッチングも良くて、スケールの大きなサウンドが作れます」。
プレミア・シリーズはブリードラブ全ラインナップ中、下から2番目に当たるベーシック・ライン。使用材には上位シリーズに比肩する質を保ちつつ、装飾関係は極力シンプルにすることで低価格化が図られているのがポイントだ。全5種のシェイプが用意され、サイド&バック材はローズウッドかマホガニーが選択できるが(シトカ・スプルース・トップは全機種共通)、本器は大型のドレッドノート・ボディにスプルース・トップ/インディアン・ローズウッド・サイド&バックを配したモデルとなる。見た目とおりの素直な出音が特徴的で、ボディ・サイズやボディ材の特性がよく活かされたサウンドが魅力だ。カイも語るとおり、いかにもドレッドノート然とした馬力の高さの中にも、ブリードラブらしい繊細なトーンも聴かれ、オールマイティな個性を備えた一器と言える。
カイ:「レガシー・シリーズはプレミアと比べるとすごくキャラ立ちしている印象で、ブリードラブらしいアグレッシブな姿勢が楽しめます。ここで弾いたLG P27EAはパーラー・サイズ。ブリードラブのパーラーは前々から気になっていたんですが、やっぱり良いですね、このサイズらしいポコポコとした感じの鳴り方で、サステインが短く隙間を埋めないので、セッションには特に良さそう。刻み系のバッキングに使っても良いし、ジャズ・ブルースやジャンゴ・ラインハルトみたいなソロ・プレイでも活躍してくれそうです」。
新ラインナップの中でミドル・ラインに当たるのがこの“レガシー・シリーズ”。本シリーズではそれぞれのボディ・シェイプと木材との組み合わせに個性が見られ、しっかりとブランド・カラーが打ち出されているのが魅力となるだろう。本器もその例には漏れず、小型のパーラー・ボディのサイド&バック材にウォルナットを使用するあたりはありそうでなかったアプローチ。パーラーらしい軽やかな響きの中でウォルナット特有の鋭い基音が良いスパイスになっていて、アンサンブルなどで使用しても埋もれないトーンが作られている。倍音は抑えられているのでシャープなストローク・プレイとも相性が良さそうだ。
カイ:「マスタークラスは事実上のフラッグシップ・ラインナップということですが、さすがに完成度が高く高級感のある音がします。中でもこのMC A22CEは特別に完成された感じで、オーディトリアムとあって抜群にバランスが良い。すべてのパラメーターに秀でているという感じなので逆にこれという大きな特色が見つけられないくらいなんですけど(笑)、その分非常に素直に木材の良さや魅力が味わえるギターだとも言えると思います。ジェイムス・テイラーのようなプレイがしたくなる雰囲気があります。余計な倍音がまったくないので、アンプ出力の音も作りやすいですね」。
マスタークラス・シリーズは、レギュラー・ラインナップの中では最上位となり、オーナーのトムが“ブリードラブ社の歴史を映す鏡”と形容するほどの入魂シリーズ。それぞれのボディ・シェイプに相応しい最上級材が独自の視点で吟味されており、他社では見られないユニークな発想が実践されている。試奏器となったMC A22CEはその中にあってスプルース/ローズウッドという定番材構成が採用されているが、いずれもグレーディングは非常に高い。オーディトリアム・ボディらしいバランスの良さが際立ち、低域から高域まで非の打ち所のない出音を持つのが魅力的。そのバランスの良さゆえにアンプ出力時の音もナチュラルで、EQなどの調整も最低限でOK。即戦力となること間違いなしの逸品だ。
カイ:「今回のラインナップ刷新ではわりとオーソドックスなルックスを持つギターも増えていて、個人的にはこれでブリードラブらしい攻めの姿勢が弱まってしまったのではないかと心配していましたが、まったくそんなことはなかったですね。むしろ前よりもしっかりとキャラクターが立っています。一応、価格帯別にシリーズがわかれていますが、本当にそれぞれの個性がしっかりあるので、シリーズ間に違いはあれど、優劣は感じなかったです。広い視点でいろいろと試してみたらきっといい出会いが持てるんじゃないでしょうか。あと、ここでは試奏していませんが、個人的にはレガシー・シリーズのジャンボ(LG J25ET)もすごく好きです。強烈な個性で、正直何を弾いたら良いのかわからない部分もあるんですが(笑)、触発されて新しいスタイルが生まれそうな可能性を感じます。興味のある人はぜひ」。
──今回製品ラインナップを刷新した理由は?
多くの人からモデル名が理解しづらいという反応が寄せられていたんだ。カタログ・ナンバー、名称、コードというのはギター・ビルダーにとっては容易に理解できるものだが、一般的にはわかりづらいらしい。だからそれをわかりやすくする必要があった。また同時に、さまざまな演奏スタイルに特化したラインナップ/モデルを作りたいという気持ちもあった。モデルごとに特性をハッキリさせて、ユーザーが目的に合わせて選べるようにしたかったんだ。
──新しいラインナップを開発するにあたって苦労した点はなんですか?
美しくてユニークな芸術作品を作るということがブリードラブの強みだ。また、独自のトーンも強みである。しかし、それと同時に幅広いジャンルのミュージシャンにアピールする楽器を作らなければいけない。この両立が大変だった。例えば過去に発売したフェニックスやパシフィック・ノースウエストのトーテムポールという特殊なインレイを持つギターは反応が二分されていて、一目惚れするミュージシャンもいれば、インレイ以外は最高だと評価するミュージシャンもいるという状態だった。ブリードラブとしてはどちらのミュージシャンにもアピールしていきたい。このことを考えた末、私たちは楽器提供の仕方をシンプルにする選択をしたんだ。レギュラー・ラインでは装飾関係からの主張は減らした。そして、自分の好みに合う特別なギターを求めるミュージシャンやコレクターには彼らの求める夢の楽器を彼ら自身にデザインしてもらうことにしたよ。
──新しいラインナップが増えたブリードラブの今後の展開はどんな風になるのでしょうか?
私の信念の核となるのは、世界の森林を今後も大切に保存し、ダメージを極力少なくしながら仕事を続けることだ。つまり、地球環境に充分に配慮した上で貴重なトーン・ウッドを使用してこそ、最高級のアコースティック・ギターが生まれると信じている。森林を保護し、その中にある経済地域を守って行くつもりだ。またブリードラブのギター・ビルダーやサウンド・エンジニアはアコースティック・ギター・サウンド界に置ける世界的なエキスパート集団として今後も精進し、伝統的な楽器製作技術を進化させ、アコースティック楽器のデザインを進化させ、ミュージシャンが求めるサウンドを届けるつもりだ。これこそがブリードラブらしい「独特で精巧なサウンド」になると信じている(翻訳:中山美樹)。
リットーミュージック刊『アコースティック・ギター・マガジン Vol.61』においても、「シリーズ刷新を経たブリードラブの新しい姿に迫る」というタイトルでブリードラブの特集をしている。カイが総評にて触れている「LG J25ET」など、ここでは掲載していないモデルも多数取り上げているのでご興味のある方はぜひ読んでみていただきたい。
定価:2,160(本体2,000円+税)
仕様:A4変型判/180ページ
発売日:2014.7.26
アコースティック・ギター・マガジンVol.61の詳細はこちらから!
価格:¥300,000 (税別)
価格:¥450,000 (税別)
価格:¥650,000 (税別)
カイ・ペティート(Kai Petite)
1982年、神奈川県出身。アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれる。2001年にバークリー音楽院に入学、帰国後少し間を置いた2009年に『Harbor Lights』でデビュー。その後はライブとアルバム・リリースを中心に活躍を続け、今年はハーモニカ奏者、倉井夏樹とのデュオ作『Kai Petite & Natsuki Kurai』(Shamrockレコーズ/SR-0001)をリリースしたばかり。ブリードラブとは数年前から縁があり、現在は刷新前VoiceシリーズのCMタイプをベースにしたカスタム・モデルと、5〜6弦をベース弦に張り替えたカスタムC25/SRHをメイン器としている。